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片翼のブランカ:インデックス

◆片翼のブランカ◆

愛らしい天然キャラ、ココちゃんの冒険ファンタジー♪


ココは、クラスのみんなとちゃんとお話しするし、誰とでも遊ぶけど、ラクはちょっと特別だった。一緒にいると、ココも同じになった気がして、楽しい。
瞳の色がみんなと違うことも、片方しか翼がないことも、小さくてみんなより成長が少し遅いことも、そんなこと、気にしなくていい気がした。


第一章大人になったら   
第ニ章エノーリア1  
第ニ章エノーリア2    
第ニ章エノーリア3   
第ニ章エノーリア4         
第三章アースノリア     
第四章 転生 
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片翼のブランカ その1

<<らんららオリジナル小説二作目です。ココちゃんの冒険ファンタジーです。応援、お願いします!>>


第一章 大人になったら

一.

エノーリアの風は静かで、ほとんど音を立てずに教室に流れる。
一番後ろの、隅の席で、ココは心地よくて、うとうとしていた。
エノーリアの中層大陸の大都市、リアノスより北に五キロほど離れている。この神秘の森に囲まれた、白い石でできた建物に、ココたちはいた。
建物の白い石に、春の日差しは柔らかくあたり、半分開け放たれたガラスの窓から反射する光が、時折ゆらゆらとココの額をなでる。
ココは、お魚の夢を見ていた。
とぷんと、青い水にもぐる。冷たくて気持ちいい。手や体をすり抜ける水流が、時折小さなあぶくを作り、頬をくすぐる。
ココの銀の鬣が水に広がり、少し上を見るとそれがまるでとてもきれいな海草のように揺らめき、水面の青い模様にとろけている。
どきどきしながら、少しくらい深みに下りていく。
そこは何もかもが青い。濃厚な水はどろりと、ココの服を締め付け始めた。
どきどきが、大きくなる。
早く、帰らなきゃ。
目がうまく開かない。
どきどき。
どうしたらいいんだろう、ちっとも水面が見えない。さっきまで、あんなに明るく、きれいに揺れていたのに。
どきどきに、押しつぶされそうになる。
ひやりと、冷たい何かが額をなでる。
「きゃあ!」
ココは悲鳴を上げた。

笑い声が聞こえる。
恐る恐る目を開けて、見る。
目の前にネムネ先生が立っていた。
「ココ?また、寝てたの?」
クラスのみんなが笑う。ココは、大きな目を一生懸命こすりながら言った。
「・・先生、ココ、どきどきがいっぱいで。」
「何の夢?」
問いかける先生の後ろで、前の席のラクが、振り向いてくすくす笑っていた。
「お魚。」
「はい、お魚の夢、見たことある子はいる?」
ネムネ先生は、不意に体を起こして、教室を見回す。
腰に当てた手はぽっちゃりとしていて、ちょうどココの目の前の大きなお尻も動きに合わせて揺れる。
ココはぼんやりとそれを眺めながら、胸に手を当てて、どきどきが収まるのを待った。
なんて説明したらいいのか分からない、どきどきして、苦しくなる。
ココは、お魚にはなれない。
きっとそうなんだ。だから、お魚の夢が嫌なんだ。
気づくと、クラスの半分が手を上げていた。
みんな、お魚の夢を見る。平気なのかな。
「先生、トタは白い砂の下の赤い大きな貝を見つけたよ。」
小柄な、舌足らずの口調のトタが、黒い大きな瞳を輝かせながら言った。
「そうなの、えらいわねトタ。」
先生が、トタの横に行き、そのふくふくした手でトタの銀色の鬣をなでた。気持ちよさそうにトタは笑う。
トタは、この六歳のクラスで一番小柄だ。次に小さいのがココ。
ココはなんとなく、トタには負けたくなかった。
ちょっとくやしい。
肘を机について、手のひらで頬を包むと、机のちっちゃな落書きを見つめて、ちぇっと小さくつぶやく。
ココの前髪をつつく手がある。
見上げると、前の席のラクだ。
ラクはちょっといたずらっぽく笑うと、言った。
「ラクも、どきどきするよ。同じだよ。」
ココは嬉しくなる。
首をかしげて、にっこり笑った。それは、ココの癖だ。
翼が片っぽしかないから、ココはいつも首をかしげるときに、翼のない左肩のほうに傾ける。ココが大きくなるにしたがって、翼も大きくなるから、だんだん、バランスがとりにくくなっていた。
時々、背中が痛んだりする。
ラクは、クラスで一番大きな子だ。同じ六年前に生まれたのに、何で違うのだろう。
でも、ココはラクと話すのが楽しかったから、ラクが誰よりもお勉強ができて、先生にたくさん褒められることも嫌じゃなかった。
ココが、翼のことでクラスの子に馬鹿にされたときも、ラクだけはかばってくれた。
「ココ、今夜泉に行こうよ。」
ラクが小さな声で言った。
「あ、そうか。今日は満月だ。」
「うん。見てみたいよね。」
ココはうなずいた。
ネムネ先生が、教室の一番前に立って、こちらを振り向いたので、ラクはさっと、前に向き直った。
ラクのきれいな二つの翼が、ちょっとまぶしかった。
ココは、クラスのみんなとちゃんとお話しするし、誰とでも遊ぶけど、ラクはちょっと特別だった。一緒にいると、ココも同じになった気がして、楽しい。
瞳の色がみんなと違うことも、片方しか翼がないことも、小さくてみんなより成長が少し遅いことも、そんなこと、気にしなくていい気がした。
また、ふわりと気持ちのよい風が入る。
ココは金色の瞳を細めて、深く春の空気を吸った。
改めて、教室を見回した。
全部で二十六人いる。
みんなの銀色の髪と鬣がふわふわと揺れていて、みんなの白い翼が重なって見えて、ちょっと満足な気分になる。ココを抜かしてだから、二十五人分の真っ白な翼。この景色はココだけが見てる。
一番後ろの席にしてもらったのも、だれにも、ココの翼を見られなくてすむからだ。
そういって、先生にお願いしたとき、先生は少し不思議な顔をした。
「ココ、気にすることないのよ。あなたはあなた。みんな、大人になるためにここにいるのだから、あなたが片翼でも、あなたが思うほど気にはしないわ。」
その言葉に、ココはもっと落ち込んだ。
ココは、先生には言っていなかったけど、自分だけ大人になれない気がしていた。
だから、一番遅れている気がする。
昨日会った、一個年下の子が、自分は鳥になるの、と嬉しそうに話していた。
「いつ決めたの?どうやって決めたの?」
そうたずねたココに、変な顔をして見せた。
「だって、生まれたときにそう思ったもの。」
ココはまた、どきどきした。
ココは、そんなこと何にも思わずに、生まれてきてしまった。
間違っちゃった。
「ココ、また、考え込んでるの?」
銀の前髪をくしゃくしゃなでて、ラクが笑っていた。
「うん。」
「ココはすぐに考えちゃうのね。」
「うん。だって、考えると、どきどきして、そうするともっと考えちゃって、もっとどきどきして。」
「臆病な子ね。」
ラクの隣に、先生が立っていた。
「先生、ココはきっと、そういう風に生まれてるんだと思うの。ラクは、ココが大人になって何になるのか知りたいな。」
ラクがはっきりとそう話すと、先生はにっこりする。
「ラクは鳥になるんでしょ?だから、きっとクラスで一番遅いから、ココが何になったかは教えてあげられるわよ。」
「きっとよ、先生。」
「さあさあ、お昼ご飯でしょ。おなか、すいてないの?」
「行こう、ココ。」
ラクに手を引かれて、ココは席を立った。
そういえば、おなかがすいていた。

 「片翼のブランカ」続きはこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-53.html




theme : オリジナルファンタジー小説
genre : 小説・文学

片翼のブランカ その2

<<ココの冒険、ぜひ応援してくださいね!>>


鳥になる子は、大人になるのが遅い。
お魚の子はもっとずっと早い。
二つ足の獣になる子、四足の子。
木や花になる子は、生まれて一年で大人になるって聞いた。
ココたちは、大人になる準備のために、お勉強している。
ココがクラスのみんなの顔を覚えたときには、もう今の二十六人だった。
でも、先生の話だと、同じ年に生まれたブランカは全部で三十八人いたのだって。
草とか花とかの子が、すぐに大人になっていなくなったので、三年目には今の二十六人だったんだって。

そう話しながら、ココとラクはそっと夜道を歩いてた。
ラクが翼をパタパタさせて、夜の冷たい空気を思い切り吸い込んだ。
「ココは変な子。クラスの子が何人でも関係ないのに。」
ラクは伸ばした手を名残惜しそうに戻しながら、笑った。翼を広げてぱたぱた、ぱたぱた。
その動作を楽しんでいる。

「ラクはね、大きな鳥になるの。足がふっくらしていて、大きな翼で。高い高いところを飛ぶの。先生がね、ラクが知りたいと思ったことを、全部教えてあげるわよって。ラクは鳥のことたくさん教えてもらうんだ。」
ココはちょっとうつむいて、足元の月明かりが作る真っ黒な影を見つめた。ちょっと口を尖らせる。
「ラクは、決まってるから、だから、鳥のお勉強してるんだ。ココはまだ、決まってないんだ。」
ラクはうつむくココに、両手を伸ばして、にっこり笑った。
「ココ、なんになるんだろ。ラクは他の子はどうでもいいけど、ココが何になるのかとっても気になるの。先生がココに何を教えてあげたらいいかわからないって言ってた。」
「ココは、何を覚えたらいいのか、先生に教えてほしい。ココは、みんなが何になるのかとっても気になる。どうして、何でそう決めたのか。とっても気になる。」

ラクの手をとりながら、ココの金色の瞳が月明かりにちらりと光る。
二人は、暗い森の中を、月明かりを頼りに進んでいた。
手をつないで、てくてく歩く。
「ココは金の目、ラクは黒の目え。」
ラクが変な歌を歌いだした。

「ココは小さく、ラクはおっきい。」
ココも返す。
つないだ手を、大きく振りながら、ココはどんどん嬉しくなっていく。
「ココは銀の、ラクも銀の、銀のたてがみぃー。」
声を合わせて、歩調も速くなって、いつの間にか二人で駆け足。おなかが痛いほど笑って。
「あ、しいっ!」
急にラクが止まって、ココは転びそうになる。
翼でばたばたバランスをとって、転ばずに座り込んだ。

目の前の、茂みの向こうに、ぼんやりと光る、大きな泉が見えた。
「ブランカの泉だ。」
そっと、ラクが言って、座ったままのココを振り返る。
おいでおいでと、手招きするので、ココも立ち上がって、ラクの横に立った。
まだ、泉までは遠くて、間にある草が、黒く立ちはだかって、あんまり見えない。

銀色の水面が、草の間からちらちら光る。
もうちょっと、前へ。もう一歩。
背伸びしながら、爪先立ちで。

ココは、どきどきしてきた。
後ちょっとで、泉が見える。
ブランカが生まれる泉。満月の夜に、そこからココもラクも生まれた。
先生に黙って、ラクと約束した。見たいねって。

どうしよう、どきどきする。
胸に手を当てて、ラクの手をつなごうと、横に手を伸ばす。

それは空を切って、あれ、と横を見たときには、ココは自分が変な風に転びかかっていることに気づいた。
長い爪の足元に、冷たい水。
地面はなくて、草の根元はもう、泉だったのだ。
足元はずぶずぶと沈み、慌てたココは目の前の草をつかもうとした。
それは頼りなく、くしゃと折れた。
ココは、泉に落ちた。

「ココ!」
草に絡まって、ばたばたしているココを助けようと、ラクが精一杯翼をはためかせ体を支えながら、ココのほうに手を伸ばす。
まだ小さな翼は、二人の体を支えられない。

「きゃあ!」
「助けて!」
水を飲んで、けふけふとむせながら、ココは視界の隅に月がギラリとするのを見た。

真っ暗な、水。絡む草。
動けなくなって、息もできなくて、ココはぎゅっと目を閉じた。
閉じたままのまぶたを、ちかちかとつつくように、明るい光が見えた。
ココは目を開いた。

泉の水はとても澄んでいて、底から湧き出る水がもこもこと黒い砂を盛り上げている。
そこから、銀の小さなあぶくがフワフワと出てくる。それは水面に向かってどんどん大きくなっていく。銀色の大きな風船みたいになったそれに、小さな白いものが入っている。
それはちょっぴりもごもごと動く。
満月の金色の光が揺れる水面まで上っていって、ふわんとあぶくははじける。
「ん、なぁ!」
変な、か弱い声が響く。

それはぶくぶくという音にまぎれて、消えていく。
ぶくぶくは、ココの吐く、あぶくの音だった。

「あら、まあ。今年は変な子が生まれたわね。」
ネムネ先生の声がした。
「ココ。」
ラクの声がした。

ココは、小さく目を開けた。
ぬれた鬣が、頬に張り付いて、気持ち悪い。
「だめでしょ。ココ、ラク。」

ネムネ先生は、ココの額を優しくなでて笑っていた。
「おぼれるなんて、本当にブランカなの?」
ネムネ先生の後ろに立っていた、一個年下の子達のクラスを教えているモンノ先生が笑った。
「あら、ココはいい子なのよ。ちょっと臆病だけど、他のどのブランカより、お友達のことをよく知っているのよ。」
ネムネ先生は、茶色の髪をいつもどおりきっちり結って、黒いふちのめがねの奥で、小さな瞳で微笑んだ。ネムネ先生は、とても、優しい。

「でも、片翼じゃね。」
そう言ったモンノ先生に、ネムネ先生は穏やかに言った。
「この子はきっと、特別な大人になるわ。私たち守人が想像もつかないような、ね。」

起き上がって、地面に座り込んでいるココのぬれて重くなった翼を、そっと拭いてくれた。
嬉しかった。ココはオトモダチのことをよく知ってる。ほめられているんだ。

「あ、ラク、見た?」
ココはラクを見上げる。
「うん。きれいだった!」
にっこり笑ってラクもしゃがむ。
二人は両手で握手して、笑い出した。
「ふふ。面白かったね。」
「うん。あぶくがフワンって!」
「そう、フワンって。」
「ラクはオトモダチ。」
「オトモダチ?」
ココはうなずいた。
「だって、先生が言ってたよ。オトモダチって、そういうことだね。ココ、みんなのこといっぱい知ってるもの。」
嬉しそうに、誇らしげに先生を見上げて確認する。
ネムネ先生が眉をひそめた。
「あら、まずいことを。」
モンノ先生がポツリと言った。

「なあに?オトモダチ?」
ラクはよく分からないみたいだ。
ラクが分からなくて、ココがわかる。嬉しい。
「ココと、ラクがオトモダチ。」
ココはゆっくりラクに話す。
「ラクとココも、オトモダチぃ!」
ラクが節をつける。
「オトモダチ、ったらオトモダチー。」
ココも歌う。
「さあさ、二人とも、お部屋に戻るのよ。」
ネムネ先生が後ろから二人の肩を叩く。
「はあい!」
ラクがお行儀のいい返事をした。
「お部屋、お部屋。」
ココの言葉に、ラクも答える。
「お布団、お布団!」
「フワフワ、フワフワ!」
「ココ、お布団はフカフカだよ。」
「えー、フワフワだよ。」
そんな二人を見つめながら、ネムネ先生はゆっくりと後ろからついて歩く。
満月の光に、二人のブランカの三つの翼がきらきらと煌く。

「ねえ、ネムネ。お友達は、まずかったんじゃない?」
モンノ先生がそっと言った。
「私たちは、ブランカがたずねることだけ答えればいいのよ。知りたいことだけを教えるように。そういう契約じゃない。」
「モンノ、私、ココが何を知りたいのか、分かった気がするわ。」
ネムネ先生は、短めの腕を組んだ。その小さな青い瞳は、前を歩く二人を見ている。

「ココは、何になりたいのか分からない子だから、あの子自身も何を教えてもらえばいいのかが分からないのよ。
でも、今のでなんとなく、分かったの。
ココは、ブランカには珍しく、周りのブランカのこととか、私たち守人のこととか。いろいろ、知りたいのよ。
お友達って言う言葉を、すぐに理解したわ。
あの子はそういう素質なのよ。
あの子が、知りたいと思うことを、教えてあげなきゃいけないと思うの。」
「大丈夫なの?ブランカは無垢でなきゃいけないのよ?人間のようなことを教えてしまったら、どうなるのかしら。」
「教えても、あの子はきっと、無垢なままでいると思うわ。」
まだ、不満そうに立ち止まったモンノ先生をおいて、ネムネ先生は大きなお尻を揺らしながら、どんどん歩いていった。


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 「片翼のブランカ」続きはこちら
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片翼のブランカ その3

<<気がつけば、ただ楽しかった幼い日々なんて、終わっていた。戻りたくても、戻れない。・・・ココちゃんのお話、第3回。>>


その日の朝、ココは教室に座ったみんなを見つめて、いつもどおり、二十五個の翼を確認
しようとした。
でも、その日は、一つ足りなくなっていた。

「おはようございます。」
ネムネ先生が、元気な挨拶とともに教室に入ってくる。
みなが、口々におはようを返す。
ココは、じっとしていられなくて、一番前まで、走っていった。
「先生、先生、今日、タトがいないよ。」
金色の大きな瞳でそう訴えるココを、ネムネ先生は笑って受け止めた。
「よく、気がついたわね、ココ。タトは、昨日、大人になりました。」
わあっと、みんなが声を上げた。
うらやましいのだ。
「タトは、お魚になったのよ。」
嬉しそうな先生と、ニコニコするみんなの顔を見て、ココは、黙って、自分の席に戻った。
タトは、このクラスで一番小さかった。なのに、一番に大人になった。
あんまり嬉しくない気分で、ココは机に顔を伏せた。
いつものように、みんなの質問と、それぞれの勉強を個別に見ながら、先生が後ろのほう
に歩いてくる。
それでも、ココはなんだか顔を上げたくなかった。
銀色の髪を優しくなでられて、ココは顔を上げた。
先生だった。
「ココ。どうしたの?どこか、痛いの?」
ココは首を横に振った。
「先生、タトは、素敵なお魚になったの?」
いつもの首をかしげる仕草。
「ええ、そうよ。とてもきれいなお魚にね。」
ネムネ先生のまあるい頬が、にこりと笑う。
「ココ、なんだか。」
息が詰まる気がした。
どういったらいいのだろう。
なんて、先生に説明したらいいのだろう。
「さびしい。」
先生の声に、ココは顔を上げた。
「減っちゃったの。タトに会えないの。」
「そうよ、だから、ココは嬉しくないのでしょう?それを、寂しいというのよ。」
「さびしい。」
「ええ。オトモダチと会えなくなった。ちょっと、このあたりが、ちくちくする。でしょ?」
ココは胸を指し示す先生に、うなずいて見せた。
「それは、さびしいという感情なの。」
伝えたいことが、とてもうまく伝わって、先生が分かってくれて、ココは目を何度もぱち
ぱちした。
「泣かなくてもいいでしょ?ココ。」
「ココ、さびしい。」
泣き出したココを、ネムネ先生は抱きしめた。
ラクが、後ろを見て黒い瞳をまん丸に見開いていた。
ネムネは驚いていた。
ブランカ。無垢子と呼ばれるこの生き物たちは、われ等守人に育てられ、必要な知識を得
て大人になる。大人とは、それこそ、このエノーリアやアースノリアの二つの世界の生き
物すべてのことを言っていた。大人になって、ブランカは鳥や魚、動物、昆虫。さまざま
なものに転生する。転生=大人になるまでの期間は、何になるかで違っていた。生物の進
化の順に単細胞生物が最も早く、ついで無脊椎動物。脊椎動物。魚、爬虫類、両生類。鳥、
四足動物。高度な生き物になればなるほど、それに達するまでの期間が長くなる。
タトは、始めから魚になると決めていた。
だから、みんなより、少し早かった。
けれど、どんな生き物になるブランカでも、誰かが大人になることでさびしいと感じた子
はいなかった。まして、涙を流すなんて。
改めて、ココを見つめる。
小柄で、臆病で。片翼の出来損ないと守人には言われている。本人も、いまだに何になる
のかを分からないでいる。それでも、こんなに、感情を持っているブランカは初めてだっ
た。
その小さな体を抱きしめながら、ネムネは不思議な感動を覚えていた。
教師としての、契約に反するのかもしれない。それでも、ココが何を感じているのかを、
ちゃんと本人が分かるように、教えてあげようと思った。知りたいといったことには、す
べて答えてあげようと覚悟していた。

 「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-53.html

片翼のブランカその3

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片翼のブランカ その4

<<大人になるって、怖いこと?ココにも、その意味が分かるときが、いつか来るのかな>>

第二章  エノーリア


ひそひそとした話し声で、ココは目が覚めた。
白い天井。
窓のガラス模様が、夕方の日に照らされて、白い壁に斜めに延びる。天井まで届こうとしているみたいだ。
壁に掛けられた風景画が、大きな青い、海を描いている。
ココの眠っていたベッドの脇には、白い布が張られた衝立が立っていて、ひそひそ声の主は見えなかった。
その声は、なにを言っているのかほとんど分からなかったけれど、ココは自分の名が呼ばれた気がして、そちらに顔を向けた。
「・・神殿の紫席のルーノ様が、お迎えに。」
「ココを大人にするのかしら。」
ぞくっと寒気がして、ココは息を潜めた。
大人になる。
ラクの金色に光って消えるさまを、思い出した。
怖かった。
ココ、大人になりたくない。
心から、そう思った。
ココ、まだ、何になるか決められない。それはきっと、ココは大人になっちゃだめってことなんだ。だから、ココは大人にはならないの。
そっと、毛布に顔をもぐらせて、震えていた。
ココ、大人にならない。
お迎えもいらない。ココ、ずっと、このまま。
みんなと学校でお勉強・・。
ふと、気づいた。

もう、ネムネ先生も、ラクもいない。
どきどきしてきた。
ココ、そばにいたい人がいない。一人ぼっち。
さびしい。
どうしよう。さびしい。
まだ、涙があふれてきた。
怖いよ、怖い。


どれくらい時間が過ぎただろう。
ココが、目を覚ましたときには、お部屋は暗くなっていた。
もう夜なの。
そっと、起き上がると、くしゃくしゃになってしまった銀の鬣を、もう一度きれいに結いなおした。やっぱりこれは、お気に入り。
ベッドの上に腰掛けて、いつもどおり、翼の羽をきれいに繕う。白い羽を、一つ一つ、絡まないように整える。一個しかないから、ココは誰よりも時間をかけて、その作業をする。
誰よりも綺麗だと思っている。
それが自慢。
翼のできに満足すると、立ち上がって、本当の自分のお部屋に戻ろうと思った。
廊下に出ると、そこは教室の並びで、同じ丸い中庭を囲んでいた。
ふいに、昼間の出来事を思い出した。
ラクは、いないんだ。もう、先生も、いない。
また、怖くなった。
大人になりたくない。
その時、空に浮かぶまん丸な月を、誰かが横切った。
何だろう。
ふわりと風を感じた。
一瞬目を閉じて、こすって開くと、丸い中庭の芝生のところに、大きな黒い翼の二本の角のついた鹿に似た生き物が、カツカツと、前足で足踏みした。大きい。その背の高さはココの背より高い。
白い体はつやつやした毛並みで、黒いくりくりした瞳が、ココを見ていた。その顔を見るのに、ココは精一杯頭を上に向けた。ひっくり返りそう。
「きれい。」
ココは思わず微笑んだ。
こんなきれいな生き物、初めて見た。
「お前が、ココか。」
え、と見上げる。鹿がしゃべった?
じっと鹿の顔を見たが、何か用って感じで首をひねるだけだ。
「上だ。その背丈では見えぬか。」
ざっと音がして、ココの目の前に、黒い服の金色の髪の守人が降り立った。
金の長い髪は、一つに結ばれて、右の肩にかかっている。
白い顔、薄い緑のきらんとした瞳。
「きれい。」
そのきれいな額に、不思議な紫色の細かい模様が描かれている。それの真ん中に、きらきら光る石がついていた。
「我が名はルーノ。神殿から参った。お前を、迎えにな。」
「あの、ココは、大人にはなりません。」
ルーノと名乗った守人は、フンとかすかに笑った。
「そう決めました。」
「大人にならずに、何になるのだ?」
「・・えっと。」
どうしよう、何か言ったほうが言いのかな。でも、分かんない。何に?
あ、そうだ。
「わかった、ココ、守人になる!」
「ばか者!」
びっくりした。はじめてそんな怖い言葉を聴いた気がした。
すくんだココに、ルーノの腕がのびる。
肩をつかまれそうになって、つい、後ろに下がる。
怖い。
「なんのつもりだ。」
「えっと。」
もう一歩下がる。
ルーノが一歩前に出る。
ココは二歩下がった。
「逆らうなど許されんぞ。」
次の一歩では、ルーノの腕から逃れられなかった。
「きゃあ、嫌だ!」
暴れようとして翼をばたつかせる。
それが頬に当たって、ルーノは怒りを増した。
「この、出来損ないが!」
乱暴に翼を押さえようとする。
「いやだよ、痛いよ!」
ココが叫ぶと、不意にルーノは手を引いた。
じっと、ココの様子を見ている。
なんだろ。
ココは、背を向けて走り出そうとした。
「逃がすか!」
今度は腕をつかまれた。
「やだやだやだやだ!」
強引に引き寄せられそうになって、ココは叫んだ。
「痛い!」
また、ルーノは手を放した。
口をへの字に曲げて、鋭くにらみつけている。
ココが、痛いって言えば、何もできないんだ。
そう気づいて、ココは走り出した。
「あ、こら、まて!」
「痛い!」
「ばか、触ってないだろうが!」
走り続けて、ココは後ろにいるだろう守人に叫んだ。
「ココ、大人にならない、そう決めた!」
渡り廊下を横切って、外庭に飛び出した。
その先は、神秘の森。
よく遊びに行くから、ココは知っている場所だ。
片翼の、小さなブランカが走り去るのを、ルーノは見つめた。
「畜生!契約さえなければ、泣こうがわめこうが、ひっ捕まえるのに!忌々しい!」
ブランカを傷つけることは、契約に反する。
ネムネの二の舞になってはいけない。

「ふん。まあいい。どうせ、ブランカだ。そう、遠くには行けまい。それより、長旅で疲れたぞ!いい加減出てきて、もてなせ!」
そう声を荒げた。
渡り廊下の柱の影から、モリノを始めとする教師が、そっと姿を現した。その中の、やせた老人が、白いひげを揺らして言った。
「遠いところよくおいで下さいました。」
「ふん。校長。少しくらい協力してくれてもいいのではないか?大体、お前たちがろくな育て方をしないから、あんな出来損ないが生まれるのだ!」
「申し訳ございません。」
「教師のお前たちもだぞ、契約に反するようなことをすれば、ネムネのようになるのだ。
分かっているな。」
ルーノのよく通る声は、教師たちを怯えさせた。
「あの、ルーノさま、お怒りはごもっともですが、どうか、お収めください。あなた様ほどの方のお声となると、我らにはとても強い鞭のようなもので。」
「フン。」
褒められて少し機嫌が直ったのか、ルーノは歩き出した。この学校の貴賓室に向かう。
「しかし、あれは、何を教わったのか。」
ぶつぶつと、言いながら、忌々しい生意気なブランカを思い出していた。


ココは、森の中を鼻歌交じりで歩いていた。
森の中はたくさんの生き物がいて面白い。
それは自然と、ココの気持ちを楽しくさせた。
もう、ラクもネムネ先生もいない。ココは、教室には戻らないんだ。
さびしい思いと、不安な気持ちにちょっぴり涙がこぼれたけれど、ココは目の前を横切ったコウモリに驚いて、目をぱちぱちさせて。
「コウモリだ、コウモリだ。びっくりした!」
少し元気になる。
どこまでも続く森を、ただひたすら歩き続けていた。
ブランカに、将来の不安などない。
食べ物を心配したこともない。
疲れたら眠って、起きたら歩こう。
ただそれだけで、ココは歩いていた。
ブランカの泉のあたりまで来ると、ココは少し休憩する。
泉の水を飲んで、元気になった。
日が昇り始めていた。
空はどんどん明るくなる。ここ、エノーリアの空は白い。ここは上層の空とは違うのだと、ネムネ先生に教わった。
ココたちが住むエノーリアは、上層と、中層、下層に分かれている。上層には青い空と雲があって、雨が降ったりする。中層は、ココのいるこの場所のことだ。町があって、守人がいる。下層には、海がある。下層は、怖いところだそうで、あんまりいい守人がいない
って言っていた。
空。
ラクは、鳥になったのかな。
空に、いるのかな。
ぼんやりと、朝のもやに浮かび上がる木々の姿を眺めながら、ココは考えた。
ラクに、会いたい。
空に、上層に行こう!



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片翼のブランカ その5

<<新しい世界へ。気負うことなく、いつの間にか。それが、成長するってことかもしれません。>>

ココは、ネムネ先生の言っていた、上層への入り口を思い出していた。
それはちょうど、この今ココがもたれかかっている、生命の木が、そうなのだ。この生命の木は、三つの層をつないでいる。
大きな大きな木なんだ。

ココは、背後に立つ、黒くつやつやした、暖かい木の肌をなでた。
大きな木の幹で、ココにとってはまるで壁のようだ。
その幹に沿って、ぐるっと回ってみることにした。
とても大きな木だから、幹の先は見えない。
どんな葉がついているかも、ココの場所からでは遠すぎて、見えない。
大きな大きな、生命の木。
このエノーリアを支える大切な木。
右手を木の肌に当てて、テクテクテクテク、歩き続けた。
木の周りの景色は、どんどん変わっていく。
始めは神秘の森の、大きな木の幹が重なり合う、うっそうとした景色だった。進むにつれ、木はまばらになり、空もどんどん明るくなっていった。
足元も、気付けは、森の下草や、柔らかい苔のじゅうたんではなく、ころころした、石ばかりになってきた。
どれくらい、歩き続けたのだろう。
ぐるぐるぐるぐる。
ココは思った。
 上層へ、空へ。
ラクがいる広くてきれいな空に行くんだ。
ラクは大人になって、どんな気持ちでいるんだろう!やっぱり幸せ?
鳥になって、沢山の沼地を転々と渡って、世界のあちこちを旅するんだと、ラクはいつか言っていた。
「お空へ行きたい!」
ココは声に出して言った。
その瞬間、明るい光が、ココを照らした。
まぶしくて、目をつぶる。
それでも、右手に触れる生命の木は離さない。
ふわっと風を感じた。いつもと違う。風の匂いが違う。
とてもぴりぴりとした乾いた風。その風がなでると、むき出しの腕がぞくっとする。
目をそっと開ける。
そこは、青い空と、灰色の砂漠。背後の生命の木を除いて、植物や建物その他一切の姿がない。
どこまでも続く、砂漠。
空は青く澄んで、強い日差しに、ココは顔を覆った。

「お空、だ。」
遠く青いそれは、どこまでも続いていて、かなたに広がる地平線までつながっている。ぐるぐると空を見上げたまま、ココは回る。
「うは。」
目が回って、寝転ぶ。砂漠のうえ。どこを見ても空。
面白くなって、笑い出した。
くすくすくす。
「広いなー。」
目を細める。明るいきらきらした太陽が、ちょっとまぶしくて。

しばらく黙って、空を見ていた。
何もいない。
静かな本当に静かなところ。

鳥は、いない。
ラクもいない。

「ココ、ひとりぼっち。」
また少し悲しくなった。
砂漠の砂が、ココの頬をすり抜けて、ふわと飛んだ。それが顔にかかって、くすぐったかった。
目をぱちぱちさせただけで、ココは起き上がりはしなかった。
ココ、知りたいことも、行きたい場所も、会いたい人もなくなっちゃった。

じりじりと、ただ太陽の日差しが、照りつけていた。
ココは、目を閉じた。
閉じたまま、このまま消えてしまえばいいと、少し思った。
「ココはひっとりぃ、ラクは鳥ぃ・・」
歌っても、だれも、答えない。

ポツ。
「?」
頬に何かが当たった。
「だあれ?」
目を閉じたまま、ココはつぶやいた。
なんだか、もう、動きたくなかった。
また、ポツリ。額をつつく。
「いやん。」
仕方なく目を開けた。
ポツ。
「きゃ!」
目に何か飛び込んだ。
慌てて、起き上がる。
ココの体にたくさんの水の粒が、落ちてきていた。
「・・雨?空から水が落ちてくる。雨だ!」
初めて見た。中層に雨は降らない。上層に降った雨が、生命の木に集まって、その水がブ
ランカの泉を作るってネムネ先生は言っていた。だから、上層には水が残らない。上層は
乾いた土地しかないんだって。
見渡すと、砂漠は遠くかすんで、雨の白いベールが幾重にも張り巡らされているようだ。
砂漠に落ちる雨は、何の音もしない。
ただ、自分にあたる雨粒の音だけを、ココは聞いていた。

不意に、どこかで低く重い音がした。
ごろごろ。
「あれ、なんだろ。」
空を覆っている灰色の雲。それが、ピンクに光った。
「うきゃ!?」
音はそちらからのようだ。

ごごご。
音は大きくなってくる。
また、ぴかっと光った。
「怖い怖い。」
ココは立ち上がろうとした。
髪も、鬣も、服も翼も。
雨にぬれて、ずっしりと重くなって、ココはバランスを崩す。片翼は、石の塊のように重
くなって、ココは横に転んだまま、ばたばたとしてみた。
それでも、動けない。
「・・困った。」

また、ぴかっと光った。
「キャー!」
「おい、お前、逃げないのか!」
どこかから声がした。
ココの前に、昨日の夜見た、大きな蹄の動物が立った。
「ココ、起きられない。」
必死でそちらを見ようとする。
目の前に、鉄色の髪の守人が、覗き込んだ。
「なんだ?お前。」
「助けて。」
「・・!ブランカ、か?」
その人は驚いたように、ココの翼を見る。
「なあに、それ、拾ってくの?だったら早くしないと、雷が来るわよ!」
もう一人、声がした。女の人だ。
「おい、これ、ブランカだ!」
「何、こんなとこにいるわけないでしょ、寝ぼけないでよ。女の子と見ればすぐ寄ってい
くんだから!」
「カータ、まじで、こいつ、ほら、羽がある。」
「あらま、本当!」
ココを見下ろす二人は、暴れて砂まみれの小さなブランカをじっと見つめた。
カータと呼ばれた女性は、明るいクリーム色の髪を頭の上できれいに束ねて、きりりとし
た表情が、ココの知るどの守人よりも、きれいだった。
「うんしょ、・・えと。」
灰色の砂を、体中につけて、ココは何とか重い翼を軸にして、起き上がろうとする。
「なあに、このブランカ。」
「翼が一つしかねえな。」
「・・出来損ない、ってこと?」
また、ぴかりと空が光った。
「きゃあ!」
ココは、驚いて、また、転ぶ。
「どうする。」
鉄色の守人が、カータを見つめた。
二人とも、砂にひざをついて、ココの様子を眺めていた。
「ブランカを見殺しにしたら、やっぱり契約違反かしら。」
「こいつが勝手に寝転んでるんだぜ。それでも、もし、死んじまったら俺たちのせいかよ。」
「あんたが、見つけるから悪いんでしょ?」
「俺のせいじゃないだろ!」
「本当にいつもいつも女と見れば、何でもいいんだから!自業自得でしょ?」
「なに言ってやがる!」
ココは、言い争う二人の守人をじっと見上げていた。
「怖い。」
そんな風に、守人が怒鳴りあうのを、初めて見た。
「怖いよ。」
泣き出した。
ココの知っている、守人は、先生たちだ。
みんないつもニコニコしていた。
怒ったりもするけど、こんな風に怖くなかった。
「やだ、やめてよ、怖いよ。」
ココの声に、二人は黙った。
「・・なに、泣いてるよ、この子。」
「・・ち、しょうがねえ、連れてくか。このままじゃ、また雷が落ちるぞ。水は十分取っ
たんだ。」
「まあ、ブランカは貴重だからね、なんかの役に立つかもね。」

ココは、抱き上げられた。
「お、やっぱ、翼のせいか、結構重いぞ。」
「びしょぬれだからね。風邪引くんじゃないの。」
「それも、俺たちの責任か?」
「拾ったあんたが悪い。」
「あの、ココ、動けないの。」
二人に話しかけたココに、鉄色の守人は、驚いた顔をした。
ココを抱えたまま、その男は翼の生えた大きな鹿に、またがった。
「行くぜ。」
その声に、鹿はゆっくりと飛び上がる。
ココは、守人の服をしっかりつかんで、震えていた。
とても、風が冷たくて、雨もひどく顔を叩いて、ココは目をつぶった。

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片翼のブランカ その6


気付くと、なんだか暖かいところに、ココは眠っていた。
頬の下に、柔らかい暖かいものがある。
嬉しくなって、ココは頬ずりした。
「やあね、くすぐったいわよ。」
カータと呼ばれた女の人だった。ひざの上に、ココは頬を乗せていた。
「あんた、翼、どうしちゃったの?片方しかないじゃない。怪我したの?」
彼女は、ココの大切な翼を、丁寧に拭いてくれていた。
すぐそばに、暖炉がある。
暖かい。
ココは金色の目を細めた。
幸せ。
「眠いの?」
「ココ、ね。生まれたときから、一個しか持ってないの。だから、ココはいつまでも大人
になれないし、出来損ないなの。」
「・・ふうん。」
カータは手を止めた。
「ココね、大人になるの嫌なの。ココ、何になるか分からないし。ココね、もう、会いた
い人もいないし、行きたいとこもないし。大人にもならないし。教室も抜け出したの。」
「・・悪いブランカだ。」
横のほうで、男の人の声がした。
「ココ、悪いの?」
「・・そうじゃないわよ。」
カータがくすと笑った。ココの下の柔らかなひざも揺れた。
「大人になれないから悪いわけじゃないでしょ。シェインも、ブランカは素直なんだから、
からかっちゃだめよ。」
「知らんね、そんなこと。」
「ほら、きれいになった。」
翼も、髪も、鬣も、きれいにさっぱりして、ココは嬉しくなった。
起き上がる。身が軽い。
「ありがとう。」
にっこり笑うココを、じっとカータは見つめた。その蒼い瞳は澄んで、きらきらしていた。
ココも見つめ返す。
「カータ、って、きれいね。」
そっと、その頬に手を伸ばす。
「あら、可愛い!」
ココは抱きしめられた。
ふくよかなカータの体が、ココにネムネ先生を思い出させる。
ちょっと、きゅんとなる。先生は、どうなっちゃったんだろう。もう、会えない。
「見て、この子の瞳、金色だわ。ちょっと、他のブランカと違うのよ。」
「片翼だしな。」
「その言い方、かわいそうでしょ。」
「お前みたいに、ペット扱いするほうが可哀想ってんだ。」
「ぺっと?」
ココは、そっと、カータから離れて、男の人のほうを見た。
黒い服の、大きな襟で顔を半分隠している。
柔らかい羊の毛のクッションにもたれて、煙の出る細い棒をくわえている。その煙は変な
においがした。
ココは、興味深そうに、そっと近寄る。
「あの、だれ?」
くすくすと、カータの笑う声がする。
「お前こそ誰だよ。」
男はにらみつけた。
「ココは、ココなの。えと、十年のクラスで、一番小さいブランカなの。」
「胸張っていうことか。」
「えと。」
「俺は、シェイン。あいつはカータ。俺たちはな、このエノーリアで一番の盗賊さ。」
「とうぞく?すごいね。一番なの!」
「ああ、すごいんだ。」
シェインはご機嫌で、ココの頭をなでて、横に座らせた。
「シェイン、煙のにおいするね。」
「ああ。煙草か?」
「うん。フワフワするにおい。」
「変な奴。」
「あの、とうぞくって何?」
二人は一瞬、顔を見合わせた。
「まあ、ブランカだからな。しょうがないか。」
ココは、カータの差し出したチーズの乗ったパンをくわえて、シェインの顔を覗き込んだ。
「とうぞくってなあに?」
「悪い奴らから、大切なものを取り返す仕事のことだ。」
「・・ふうん。悪いやつって、えと、ルーノみたいな人?」
二人はココの言葉に顔を見合わせる。
「ルーノって、神官のことか?」
「しんかんって知らないけど、ルーノ怖い人だったよ。怒鳴るの。だからココ、逃げてき
た。」
ちょっと得意げに話をするブランカに、カータは笑った。
「えらいじゃない。」
「うん、ココが痛いって言うと、ルーノは怒るけど何もしないの。だから、逃げたの。」
「・・まあ、そりゃそうだ。」
くすくす、シェインが笑う。
二人が嬉しそうに笑うので、ココも嬉しくなってきた。
「ココ、ルーノは、いや、俺たちもそうだが、守人はみんな、お前を傷つけたりできない
んだ。お前が痛いって泣くと、俺たちは死んでしまう。」
ココは首をかしげた。
「なんで?」
「契約があるんだ。守人にはね。」
そこでシェインはもう一度煙草をすった。
「ブランカは、知りたいことしか知らないって言うけど。ココはいろいろ聞くのね。」
「ねえ、けいやくってなに?」
ココはカータに抱きついて甘える。
「甘えんぼね。」
もう一度ぎゅっと抱きしめてくれるカータに、ココは嬉しくなる。そういうの初めてだっ
た。
「契約にはな、いくつかあるんだ。第一の契約は太古から守人が存在するために神と結ん
だ。守人にとって最も重要な三つの契約。言葉と契約は全てを律し、永遠にその力に縛ら
れること。ブランカを守り育て、決して傷つけないこと。生きとし生けるもの全てを、守
ること。守人の名の由来はここからきている。」
「言葉、と契約?」
「そうだ。お前はブランカだから分からないかもしれないが。守人は、言葉に力がある。
言葉の強さは人によって違う。強いものほど高い地位になる。だから、神官は一声で他の
守人を操ることすらできるんだ。そして、その力の上下関係を無視して逆らうことは第二
の契約で禁じられているわけだ。」
「第二の契約はね、ココ。守人が守人の社会の秩序のために決めた契約。守人は生まれた
ときに名をもらうけれど、教会で名をもらうときにね、第一と第二の契約に同意すること
になる。つまりどんな守人も、第一と第二の契約には逆らえないってわけ。」
「逆らうと?」
ココは今度はシェインのほうにもたれかかる。
意地悪な笑みを浮かべて、男は低い声で言った。
『死。』
「し?」
「やめてよ、シェイン、今心臓が止まりそうになったわ!」
本気で、カータは震えていた。
「なあに?」
「ほんとにブランカは平気なんだな。言葉に影響されるのは守人だけか。」
「ひっどいわね。ねえ、ココ。怒ってやって。シェインの言葉は神官と同じくらい強いん
だから、恐ろしい言葉に力をこめたら相手は死んじゃうわよ!」
背中を押されて、ココは首をかしげる。
「あの、ココ、怒るってどうやるか、分からないよ。」
ぷっ!
シェインが吹き出した。
「そりゃいい。」
「ココ、怒るってのはね、こうするの。」
パシッと、カータの手が、シェインの頬を打った。
「きゃ!」
ココはびっくりして、左右の守人を交互に見つめた。
「何すんだよ!」
「うるさいわね!人に向かって『死』なんていうもんじゃないわよ!ココがもし平気じゃ
なかったらどうするの!ココが死んじゃったら、私たちだって契約違反なのよ!死ぬんだ
から!」
「死ななかったんだからいいだろ!いちいち、うるせーな!」
「うるさいとは何よ!」
立ち上がったカータに押されて、ココが大事に抱えていた、おいしいチーズの乗ったパン
が転がった。
「ああ!」
「え?」
カータが下を見る。
パンはチーズを下にしてべたりと、床に張り付いていた。
「ひどいよ!ココのが!ココのが!」
半分泣きそうな顔をして、ココが訴える。
「ぷ、ココ、それが怒るって事だぜ。」
ココは、そっとパンを拾う。粘ついたチーズは、パンの表面をはがして床に残った。
「うえ。」
泣き出した。
「ごめんね、ごめん。泣かないでよ。」
「さっさと食べないからだぜ、どうせ、もう冷めて美味しくなかったさ。」
「分かったから、ほら、新しいのあげるから。」
荷物からまた、パンを出そうとするカータに、シェインが言う。
「おい、食料無駄にするなよ!」
「ほんとにけちなんだから、いいわよ、私が次に食べる分をあげるわよ!それでいいでしょ!」
「おう、ついでにダイエットでもしろ!」
ぺし、とシェインを叩いたのは、ココだった。
「お、なんだお前。」
「・・。」
睨みつける金色の大きな目が、そのうち涙で潤み始めた。
「やるか?」
シェインは面白がって、ココの銀色の髪をつんつんとつついた。
「うー。」
小さくうなって、ココは生まれて初めて、誰かにつかみかかるということをした。
あっさり抱き上げられ、足をばたばたして終わった。
「お前、小さいな。ブランカってこんなもんかな。」
「十歳って言ってたわよね。いろいろなんじゃないの?いいじゃない、守人の十歳よりは
ちょっと小さいけど。」
ココは、床におろされた。ココが立って見上げると、ちょうど、シェインの足の長さと同じくらいだ。
カータは、シェインより少し小さいので、ココの頭の先が丁度、きれいなおへそくらいになる。
選んで、ココはカータに抱きつく。
「お、なんだそりゃ。」
「あらま。嫌われたわね、シェイン。」
「ふん。もしかしてココ、お前男か?」
 シェインはにやりと笑う。
「おとこ?」
「やあね、ブランカにはないって聞いたわよ、それ。」
「分からないだろ、来いよ、ココ。」
「いやだ。」
ココの体を確認しようと、シェインが捕まえる。
「やあね、何喜んでるの。止めなさいよ。いやらしいんだから。」
「とか、いいながら、お前黙ってみてるじゃねえか。」
「まあね、気にならないって言ったらうそになるわね。」
カータが目を細めた。暖炉で焼いているチーズをひっくり返す。
「ココ、ね、何にもしないから。ほら、大人しくしてたらパンあげるわよ。チーズがとろ
けて美味しそうでしょ?」
ココは、チーズのにおいをかいで、上目遣いのままうなずいた。
「お前のほうが、どっちかっていうとひどいな。」
「・・。」
「やっぱり、ないのね。性別。」
「・・人形見てるみたいだ。」
「やだ、人形のそこ、見るの?」
カータがクスと笑う。
「ばかやろ!例えだろ例え!」
寝転んだまま、首をかしげながら、でも、ココは幸せな気分で、美味しいパンとチーズを
ほおばる。今度は早く食べてしまおう。落としちゃう前に。
「美味しい!」
まだ、何か言い争う二人を眺めながら、ココは幸せな気分でいっぱいだった。
もうさびしくない。
新しいことたくさん教えてもらった。
ラクみたいな特別な子は、いないと思った。
でも、カータも、シェインも、特別。
ブランカとも、先生たちとも違う。
嬉しくなった。

「あら、見て、翼抱えて寝てる。」
くすくすとカータが笑った。
「子供だな。」
「大切なのよきっと。一つしかないから。」
「さびしいんだろ。」
「・・そういう感情、あるのかな。」
「泣いていたし、あるんじゃねえの?」
ココは二人が伝え聞く、ブランカとは違っていた。
姿は翼と瞳を除いて、まさしくそれなのだが。
子供の顔、白い肌、銀の髪が背の途中まで伸び、それは鬣(たてがみ)だという。白い翼、
足首から先だけが、大型の猫科と同じ爪を持った足をしている。そこには真っ白い毛皮が
ある。
不思議な、生き物。
足と翼を見なければ、守人と同じ人間なのだが。

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片翼のブランカ その7

<<新しい出会いは、人を成長させますよね。ココの冒険7話目です。>>

香ばしい、いいにおいにくすぐられて、ココは目が覚める。
大切に抱きかかえている翼の上に、もう一枚、フワフワした白い毛布が掛けられていた。
ごろんと横を見ると、鉄色の髪をくしゃくしゃにして、シェインが眠っていた。
大きな口をあけて。
上を向いて。
伸ばした手が、不意に動いてココの上に乗る。
「うきゃ。」
びっくりして飛び起きて、その声でシェインも目を開けた。
「うるせえ。お前、殴られたいか?」
眠そうな目は、とても三角に見える。
「シェイン?」
「シェイン!」
慌てて隣のお部屋からカータが駆け込んできた。
首を傾げて、床に座り込んでいるココを、背後からカータが抱き寄せた。
「馬鹿なこと言わないでよ、ブランカ殴ってどうすんの。」
「ああ。そうだ。お前とは違った。」
べし。
「あたしなら殴ってもいいっていうの?」
「そういいながらお前、殴ってんじゃねえか!暴力女!」
「うるさいわね、朝食あげないわよ!あ、こげちゃう!シェイン、ココの顔洗ってやって
よ!」
ぶつぶつ何か言いながら、シェインが立ち上がって、ココの手を引いて部屋を出た。
なぐるって、そういうこと。ココはひとりでふんふんとうなずいた。
「ココを苛めないでよ!」
「はいはい。」
大きくあくびをする。
ココも同じようにあくびをする。
目が合って、ココは嬉しくなる。
「ほら、顔洗えよ。」
ココは、石で作られた水の入ったそこで、ばしゃばしゃと、顔を洗った。
「お前、水大切にしろ。この下層で、こんなまともな水使えるの、ここだけなんだ。」
「まともな水。ここ下層なの?」
改めて、ココは周りを見回した。

ココたちが立っている場所は、黒々した岩でできた洞窟の中だった。
岩をきれいに切り出して、きれいな柱が何本も立っている。広い。その先に、明るい外が
あった。その向こうに谷。さらに遠く、白い霧にうっすら浮かぶ遠い向こうの山。
「ここはな、俺たちの隠れ家。大切な我が家だ。大変だったんだぜ、この岩山の洞窟をこ
こまで快適にするのは。ほら、来て見ろ。」
シェインは少し自慢げに、ココの手を引いて、洞窟の外に向かった。
洞窟の天井を支える柱を何本も通り過ぎる間に、昨日見た、大きな翼のある鹿がいた。
大人しく座って、シェインが来るとクウと、鼻を鳴らした。
「おはよ、ラタ。」
「らた?」
「ああ、俺の空角だ。可愛いだろう。」
「そらつの?」
シェインは目を細めて、その空角の首をなでる。嬉しそうに空角がすりよる。
うらやましくなる。
「お前、本当に何も知らないな。空角は、この世界で最もよく利用される乗り物なんだ。
よくなつくし、美しい。大人三人までは運べるんだ。」
「ふうん。」
ココがラタに近寄る。
ラタは大きなくりくりした瞳をぱちくりした。
不意に、ラタが額を下げて角を突き出した。
「きゃ、?」
「おい、近寄るな。お前、嫌われてるんだ。」
「どうして?」
「嫉妬してんだよ。ラタは俺と契約いている。だから、俺のそばにいるお前が嫌いなんだ。」
「ふうん。カータも嫌い?」
「ああ。あいつを絶対乗せない。」
「カータは何に乗るの?」
「あの女は、風牙。」
シェインがあごで示した方角に、白い大きなトラがいた。それにも立派な翼がある。
「ふうが。」
「そう。名前はそのままフウガだ。カータの趣味でな。あれは俺のことを嫌ってる。」
「ココも嫌われてるの?」
「そうだ。こういう守人に尽くす生き物は守獣(しゅじゅう)といってな。守人と所有の
契約を結んでる。だから、あいつらは契約を結んだ相手の言うことしか聞かない。」
「所有の、契約。」
「ああ、死ぬまでそばにいることを意味している。それは、守人同士も同じだ。」
「?シェインと、カータも?」
そこでシェインが、少し顔を赤くした。
「ばか、あいつがそんな大人しい女かよ。あれを所有するなんて、神殿の神官だってでき
やしないさ。」
「シェイン、赤い。」
「うるさい。」
シェインに促され、ココは洞窟の外に出た。
薄暗い空。遠く低く、怖い音がしていた。
風が強い。
ココは身震いした。
遠い向こうの山、下を見ようとしてもかすんで見えない谷。
草花の一つもなく、谷を渡る風だろうか、ボーボーといやな音を立てる。
「怖いか。」
面白そうに男が笑う。
鉄色の前髪をかきあげる。
ココは、シェインの服につかまって、じっと見上げた。
鉄色の長い髪が風になびく。
大きな体。日に焼けて、少しひげのちらつくあご。
男が下を見た。目が合う。
「なんだ?」
「うんと、何ていうのかな。怖い、じゃなくて、大きいじゃなくて、立派じゃなくて、え
えと。」
「お前、喧嘩売ってるのか?」
シェインがしゃがんで、ココの視線に顔を持ってきた。
「あ、強そう、とか。」
「ああ、強いぞ俺は。」
「えと、その。」
「どうせなら、かっこいいとか、男前とかさ、」
「きれい!」
「だから、お前、それは褒めてないんだよ。」
「きれいったら、きれい!」
なんとなく、嬉しそうなシェインに、ココは調子に乗る。
ニコニコ笑って、シェインに抱きつく。
目の前の守人は、あきれたように、首にすがりつくブランカをそのまま抱き上げて、暖か
い暖炉のある部屋へ、戻っていった。

なんで、こんなの、拾っちまったカナ。
パタパタ嬉しそうにする片翼を、視界の端に見ながら、シェインは考えていた。
ブランカは、言葉の力に影響されない。
契約に関しては、分からないが。言葉の力に関係ないってことは。
言葉の力『言霊』で封印されているあちこちの、遺跡を破れるってことじゃねえか?
遺跡にあるお宝を、いただけるってことだ。
そうだ。

ヒュー。
小さく口笛を吹く。
「なあに?」
「いや、なんでもない。」
さっきから肩に担ぎ上げられて、逆に嬉しそうにはしゃいでいるブランカに、シェインは
にっこりと笑いかけた。
こいつは、使える。
「さあ、朝飯だ。」
「わあい!ごはん、ごはんっ!」

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片翼のブランカ その8

<<ブランカってなに?それは、ね。ココの冒険、第8話です。>>

干した肉を薄く切って、昨日と同じちょっと固いパンに乗せて、卵と一緒にこんがりと焼
かれている。
「はい、ココには特別。」
鋳物の重い皿に、ココの分のパン。
そこだけチーズが乗っていた。
「ちーずっ!ちーちーちーず!」
「変な歌。」
カータが笑う。
「ねえ、ココ。ブランカが大人になるときってどんな感じなの?」
胡坐をかいて、ココの横に座るシェインが、パンをちぎりながら笑った。
「カータ、ブランカが知るわけないぜ。」
「ココね、ココね、知ってるの。」
「ほう。」
「あのね、動かなくなるの。ラクがそうだった。」
ラクは、倒れていて、眠っているのと違って、冷たくて、息もしてなくて。
あの光景を、思い出す。
ココは、泣き出した。
「あ?」
シェインがうるさそうに睨む。
「どうしたの?ココ。」
ココは、それでもそっと、大切なパンを皿に置くと、涙を拭いた。
「ラクね、ココのお友達だったの。特別なお友達だった。大人になって鳥なるって言ってた。あのね、ラクは、大人になったの。冷たくなって、もう目も開かなくなって。それで、黒い黒いやさしい守人が出てきて、ラクの口に丸いのを入れたの。」
鼻をすする。カータがそっと、布を差し出した。
「そしたらね、ラクね、金色の泡になって、消えちゃった。」
「特別な、友達ねぇ。」
フンと鼻で息をしながら、シェインが傍らの小さなブランカを見つめた。
「泣かないのよ。悲しかったのね。」
「悲しい・・・さびしい。」
「よしよし。」
カータが抱きしめて、慰める。
「丸いのって、たぶん、転生のクリスタルだな。」
「知ってるの?」
「馬鹿にするなよ。」
「はいはい、そんなにえらそうに言うなら神官やってればよかったのに。」
「うるせぇ。あんなとこ、いられるか。ブランカを転生させるのは、神官の仕事なのさ。
ココがあった、ルーノもそうだ。あいつは紫席だからな、よほど、力がなきゃ、ココの転生はできないってことか?」
「でも、ココは大人にならないんでしょ?」
「いずれ、なるさ。」
「ならないもん!」
ココが睨んだ。
「それに、ココ。何になるか分からない!
そんなブランカいないの!
ブランカはみんな、みんな生まれたときに、知ってるの。
何になるか。でも、ココだけ、ココだけわからない
の!」
「おう、たくさんしゃべったな。」
馬鹿にしたように笑う。
「ココ、一人だけみんなと違って、いやだったの。
さびしかったの。ラクは、ココがさびしくても寂しくないって。
寂しいの、悲しいの、ココだけだったの。
ネムネ先生はココが何を知りたいのか分からないって言ってて、
でも、だから、ココは、エノーリアのこととか、
上層のお空のこととか、守人のこととか、神殿とか、
いろいろ、たくさん教えてもらったの!」
「すごいじゃないか。」
「そんなブランカもいるのね。」
一生懸命はなしたのに、二人が首をひねるだけなので、ココは疲れて止めた。
頬を、ぷくっと膨らめて、パンに背を向けた。
「あれ?」
「すねた。」
「変なブランカだな。本当に守人みたいに感情がある。」
「パン、食べないの?」
言いながらもカータはつまもうとする。
「食べられちまうぞ。」
膝を抱えて小さくなっているココの頭をなでる。
「・・ココ、大人にならない。・・怖い。」
ココは震えていた。
「そうか、お前、ラクが死ぬとこ見たんだもんな。怖かったか。」
「・・・。」
震えている。
「死ぬって、そういうことを言うんだ。けど、ラクは金色の粒になって消えただろ?
エノーリアにはいないけどな、ラクはアースノリアで、立派な鳥になったんだ。」
「え、なあに?ブランカって死んで大人になるの?」
すっかりココのパンをほおばって、カータは飲み物を手に取っていた。
「それに近い状態なんだ。神官が転生させなきゃ、守人の死と変わりはないさ。」
「・・だから、怖いのね。」
「普通ブランカはそんなこと感じない。
目の前で他のブランカが大人になっても、気にもしない。
自分が、ただなりたいものになるために、そのために知識を得るんだ。
感情なんか必要ないからな。」
「アースノリアで鳥になったり、羊になったり、魚になったりするんでしょ?」
ココは二人に背を向けたまま、じっとシェインの話を聞いているようだ。
「そうだ。そこで、新しい鳥や、新しい魚になる。」
「新しい?」
「ああ。アースノリアの転生の輪に、新しい種として加わるのさ。
転生の輪はそれによって、活性化される。
アースノリアのすべての生き物に影響を与える。
そういう種になるんだ。ブランカは。」
「ごめん、よくわかんない。」
カータがあきらめたように、残ったジュースを飲み干す。
「ま、そうそう知られている話でもないし、知ってたって知らなくたって、同じだ。」
「ココ?」
「お前が食っちまったから、すねてるぞ。」
「あら、逆よ。すねてるから、食べちゃったの。私のせいじゃないわよ。」
「ココ?」
小さなブランカは、抱えた膝に、頭を乗せたまま、じっとしていた。
「おい、様子、変じゃねえか?」
シェインが、ココの顔を上げさせた。
「コ・・。」
「・・寝てねえか?」
「・・ねえ、顔赤くない?」
「おい、熱あるぞこいつ!」
「やばいわよ、契約が!」
「おい、薬あるか、薬!」
慌てふためく二人の会話を、遠くに聞きながら、ココは不思議と気持ちよく眠っている気がしていた。
新しい種。アースノリア。・・たくさんの新しい、こと。
知ることの喜びが、ふつふつと、ココの頭を暖めている気がした。
だから、こんなに苦しいんだ。たくさんたくさん、知ったから。いっぱいになってきているんだ。
楽しくて、嬉しくて、でも怖くて。
ココは胸がいっぱいで。
考えきれなくなってて。
だから、だから・・・・。

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片翼のブランカ その9


荒い波が、黒々とした岩肌をたたく。
下層には転々とした岩山と、その下を結ぶ海。
ただ、荒れ狂う、苦い色をした海。
その波が白く砕ける断崖に、一頭の空角がいた。背に、鉄色の髪の守人を乗せている。
常にどんよりした薄暗い空。絶え間なく吹き付ける風。
「もう少し、ほら、あそこだ、ラタ」
シェインが、断崖の小さなくぼみに咲く花を取ろうとしていた。
その花は薄い桃色をして、小さな三つの花弁が丸く膨らんでいる。その小さな丸の中にたまる蜜が、今のシェインの目的だった。
「ほら、もう少し近寄れないか?」
強い風の中、ラタは岩肌に蹄をつける。大きな翼はかえってこの風に邪魔なように見える。
「文句言うなよ、あいつの、熱下げないと、俺たちがやばい」
シェインは、ラタの背から、ぐいと手を伸ばす。
「どう?」
断崖の上から、カータの声が響いた。
「あと少しだ!」
めいいっぱい手を伸ばして、くぼみの花を取ろうとする。しかし、その蜜をこぼしてはいけない。慎重にやらなくては。そうそう、見つかる花でもないのだ。
「お」
シェインは下半身をラタに預けたまま、断崖のくぼみに手を着いた。
あと少し。右手で、そっと花の軸を捕らえる。
左手にもった、小さなかわの袋を当てがう。
花を摘むことは許されない。
守人は生きとし生けるもの全てを守る。
その命を奪ってはいけない。
生きるための食料とする以外は。
薄桃色の三つの花弁が丸くたわんで、包んでいるその蜜を、そっと、皮の袋に落とす。
金色に透明で、美しい。透明な薄い皮に包まれて、とろんとして、柔らかく、丸くまとまる。
「ああ。売ればいい値なんだが」
そっと、花を元に戻す。
右手を離す。
「クウ・ウ」
ラタがうなった。
「どうした、ラタ・・!」
ざばっと、届くはずのない波が、シェインの背にかかる。
「なんだ!?」
皮袋と、岩を左手でつかみながら、振り返った。
目の前に、大きな海竜。
波かと思ったそれは、海竜の牙から滴っていた。
どんよりと深い緑の藻を顔に貼り付け、ギラリと光る黄色の目が、シェインを捕らえる。
その目はラタの頭ほどの大きさがある。
「ラタ、逃げろ、これを、カータに!」
袋をラタの口にくわえさせ、同時に、足でラタを蹴って突き放す。岩にかろうじて張り付いているシェインに、海竜が牙をむく。
ラタは、一旦岸壁から離れたものの、シェインを守ろうと、飛び込んでくる。
「ばか。」
シェインは手を緩めた。
ずるずると落ちていく。
海竜は大きな首をぐいと曲げて、それを追っていく。
「!!」
ラタは袋をしっかりくわえたまま、シェインを追おうと真っ逆さまに急降下する。
はるか下で、白い波がうなりをあげるそこに向かって、シェインは落ちていく。
「ふん」

にやりと笑って、男は腰の剣を抜くと、がつ、と、岸壁に突き当てる。
それは硬い岩にあたって、はじけて折れる。
「ち」
シェインは懐から小さな球を取り出した。透明なそれの中に白いふわりとしたきりのようなものが少し動いた。
『風』
シェインの小さな言葉とともに、それはふわと白く光り、強い空気の塊となって落下するシェインの体を下から止める。
光に海竜は一瞬、動きを止める。
シェインが宙に止まったのも一瞬。
再び落下を始める寸前に、ラタが飛び込んで、支えた。
手綱をつかみ、ラタにぶら下がりながら、シェインは叫んだ。
「ラタ、袋落とすな!俺が落ちてもそれだけは落とすな」
海竜が今度はラタを食べようと、長い首をもたげて待ち受ける。ばらばらと、その鋭い牙から海水が滴る。
それをシェインがけりつける。

「クウ!」
泣いたラタの口から袋が落ちる。
「ばか!」
それを、かろうじて左手でつかみ、シェインは手綱をからませた右手だけでつながれて、宙にぶら下がる。
そこを、海竜の牙がかすめる。両手の利かないシェインは身をよじって、避ける。
それでも海竜の硬いうろこに、腕や背、足が傷ついた。
ラタは慌てて飛び離れようとする。
「シェイン!」
上から、カータの声。
同時に小さな矢が、海竜の額をかする。
「ばか、殺すなよ!」
「ばかはどっちよ!」
海竜は白い風牙に気をとられた。
その隙にラタは高みに飛び上がった。
フウガとラタ、並んで飛びながら、黒々とした断崖の上に登っていく。
海竜の牙も、そこまでは届かない。
彼らは、海から出ることはできない。
ラタは、右手一つを手綱に絡ませてぶら下がったままのシェインが傷つかないよう、どう降りたものか空中で少し躊躇する。
その体を、先に下りたカータが駆け寄って、支えた。
それを確認してから、ラタは地に下りた。
ラタは数歩足踏みして、地に落ち着くと、大切なご主人に寄り添うカータに、鼻を鳴らす。

「ばかね、海竜相手に、一太刀浴びせるくらいは許されるのに」
「ふん。守人としての誇りでね。生き物に、刃は向けない」
傷ついたシェインの腕を、布で縛りながら、カータはふと微笑んだ。
「ほんとに、馬鹿ね。これだから、育ちのいいお坊ちゃまは」
カータの瞳がうっすら涙ぐむ。
「ああ、悪かったな」
「よかった、無事で」
抱きしめるカータに、シェインは目を細めた。
「お前、チーズのにおいがする」
「馬鹿」
「口の減らない女だ」

気付けば、救ったはずの男が、カータを抱き寄せている。
いつの間にか、体制は逆転していた。
硬い岩肌に背を押し付けて、カータは男を見上げていた。
そのシェインの手は、カータの後頭部をかばって岩との間にある。
カータの体重がかかれば、傷つくだろうに。
「シェイン、だめよ」
カータの頬に、シェインの長い鉄色の髪が触れる。
くすぐったい。
シェインの大きな手が、カータの頬にかかったクリーム色の髪をそっとはらう。
その瞳は黒く深く。見つめると吸い込まれそうで。
小さくカータは息をついた。
この胸の鼓動が、聞こえてしまっているように感じた。目を閉じる。
「…シェイン」
「契約、結ぶか?」
耳元にそっとささやく、シェインの強い言葉に、じんと体が反応する。
ああ、勝てない、この人の言葉には。
カータの頬が赤く染まった。

不意に、カータの顔に影がかかる。
「…ラタ、邪魔するな」
シェインが、そちらを見ないで、怒る。
「クウ」
「あの」
「お前もか、ココ!邪魔するな馬鹿!」
気付けば、二人の横で、小さなブランカが座り込んでいる。
頬に両手を当てて、なんだか赤くなって。
「あの」
「もういい、ばか。大人しく待ってろって言ったのに」
大きなため息とともに、シェインは立ち上がり、同時にカータを抱き起こした。

「あの」
「ココ、お前なんで約束守れないんだよ」
「あの、えと、声が聞こえたから」
照れたように微笑む無邪気なブランカに、一瞬殴りかかりそうになって、シェインは我慢する。
「何の声?」
カータは、すでにココの頭をなでて、熱を確認している。
女は、変わり身が早い。
ちぇっ、と小さく息をついて、シェインは改めて、傍らの、皮袋を手に取った。
「あのね、あのね、ラクが泣いたの」
「鳴いたの?」
「うん。助けてって」
「・・お前、それで自分が助けられるとでも思ったのか?」
イラついたシェインの声に、ココはにっこり笑った。
「うん。だって、声きこえたもん」
シェインはかろうじて、岩を殴る直前で止めた。さすがにそれは、痛い。

「・・ココ、熱は大丈夫なの?」
「うん?」
いつの間にか、ラタが、ココの頬に擦り寄っていた。
「・・なんだ、ラタ。そいつが気に入ったのか?」
眉をひそめて、睨みつける主人に、ラタは分かっているのかなんなのか、嬉しそうに鼻を鳴らした。ブランカは特別なのか。
「ほら、お前、これ飲め」
小さな皮袋を持って、ココの手のひらに金色の蜜を転がした。

「うは、きれい」
「見てなくていいから、落とす前になめちまえ!」
「はあーい」
嬉しそうに返事をして、ココはそれをもったいぶりながら、ちびちびとなめた。
「おいし」
「熱は?」
ブランカの肩に手を置いているカータに、シェインがたずねる。
「ええ、まだ少し。でも、これでよくなるわきっと」
カータの視線が、ココに向けられたままなのは、照れているのかもしれない。
「・・カータ、いずれ、契約するからな」
真顔でそう言うと、シェインは立ち上がった。

しびれるように痛む腕を左手でさすり、乱れてくしゃくしゃの頭をうるさそうに振った。
カータは、頬を赤くしたまま、背を向ける男を見つめていた。

その顔を、ココは、首をかしげて、見上げている。
顔中を蜜だらけにして。
「ココ、なあに、あちこち泥だらけじゃない」
「ごめんなさい」
「え?なんで謝るの」
「ココ、本当は、寂しかったの」
「声が聞こえたなんて、うそ?」
「うそ?」
「そうよ、それはうそというの。だめよ」
「・・ごめんなさい」
微笑んで、抱きしめてくれるカータが、とてもきれいに見えた。

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片翼のブランカ 10

<<ココちゃんの冒険第10話です!>>

下層の荒々しい岩山が小さく見える。ラタは力強く、軽々飛んでいる。
翼が上下するたびに、ぐんぐん高度をまして、早くなっていく。
冷たい空気に、ココは目をぱちぱちさせる。
「冷たきゃ目つぶってろよ!」
ココの体を翼ごと抱きしめて、シェインが笑う。
「見ろよ」
だって今、目をつぶれって言ったのに。
ちょっと、ぷんとして、ココはもう一度目を開いた。

「うわ」
岩山はなくなって。見えるのは遠く遠く遠く、どこまでも青い海。
果てしなく、海が続いていた。
空は灰色で、暗くて。ただ、水平線のあたりだけがぼんやりとうすい黄色に光っている。
冷たい風に、目を細めながら、ココはどきどきしていた。
初めて見る。上層の砂漠もきれいだったけど、ここもきれい。
ココの下で、ラタがなんか言った。
「ん?」
振り返っても、もう岩山は見えない。
「下層はな。ココ。言葉に特別な力のない守人が住んでいるんだ」
「岩山に?」
「いや、あそこは隠れ家だって言っただろ。ほら、あそこ。薄く、みえるだろ」
シェインの指差す方向に、白いペタンとした感じのものが、遠い海に浮かんで見えた。
近づいていくと、それが島だと分かった。
「ラタもおなかすいたって」
「なに?」
「えとね、ラタもお腹すいたの。ココも」
「お前、もうちょっと感動してくれてもいいんじゃねえか?」
「かんどう?」
「いいよ、いいよ。どうせお前は成長期なんだ。食い物のほうがいいよな」
「うん」
分からないけど、食べ物美味しいの。
「買出しだけだからな。余計なことするなよ」
「ん」
「お前、目立つんだからな」
「ん」
「だから、翼動かすなって!」
嬉しくて、わくわくして、ココはつい、パタパタしたくなる。
「だって」
「下の街で翼出したら、二度と連れて行かないからな」
「はあい」
教室でしたように、右手をピンと伸ばして、お返事。
「…」
ラタが笑った。
「ふふふ」
ココも笑う。
「恥ずかしい奴」
シェインは不機嫌。

街は白い四角い建物が、ずうっと並んでいた。
どれも同じ形に見える。
島の真ん中に向かって、始めは1階しかなかったのが、2階建て、3階建てと、段々に背
の高いものになっている。
「ここはな。あの一番大きい建物にいる領主が治めてるんだ」
「りょうしゅ?」
「そうさ。こういう島は、後いくつかあるが、どれも領主がいる。でなきゃ、治安が守られないからな。領主には、力があって、皆逆らえない」
「ふうん」
「いい領主もいれば、悪い領主もいる。けど、基本的に、守人は人を殺すような真似はできないからな。そう、悪いこともできないわけだ。まあ、領主のお気に入りをああやって、自分の近くに住まわせる程度のことは、どこでもあるわけだ」
「・・?大きい建物がそうなの?」
「ああ」
「・・ココ、あれ食べる」
「ああ?」
先ほどから、あちこち見回していたココが、果物売りの屋台に目をつけた。
その通りは市場。
たくさんの人が行き来して、ココたちはラタに乗ったまま、少し高い位置から見下ろしていた。
「ラタもそれがいいって」
「お前、さっきから、ラタラタ、って、うるさいぞ。ラタは果物なんか食わねえ」
果物屋の前で、不意にラタが止まった。
「なんだ?おい、ラタ」
背のご主人を振り返って、ラタが鼻を鳴らす。
「おい、まさか、食べるってんじゃ…」
「ココ、あれがいい!」
一口くらいの大きさに切られた、さまざまな果物が盛られている、甘そうな皿を指差す。
「しかたねえな」
すと、とシェインが空角から降りる。かっこいい。ココは思う。
自分もと、飛び降りようとするココを抱きとめて、おろしてくれた。
「ココ、次は自分で降りる!」
「ばか」
大人の身長ほどの、ラタの背から、ココがまともに降りられるわけはなかった。
頭からすっぽりと、白いローブで覆われて、まるで白綿ネズミみたいとカータが笑った、そんな格好で、ココは石畳の通りを走る。
「おい、ばか」
目的の店に一目散だ。
「へい。いらっしゃい」
「ココ、これ」
「はいよ。お連れさんは?」
「俺はいらん」
「ラタは、そっち」
「勝手に買うな!」
「えと。じゃあ、ココの止めて、ラタのだけにする」
たいして考えもせずに、ココはラタのほしいと言った緑色の果物を買った。
大切そうにささげ持って、ココはおとなしく通りの隅に座っているラタのところに駆けていく。
「ラタ、これ」
ラタの目の前においても、ラタは食べない。
「あれ、嫌い?」
果物の横に、ココもしゃがみこむ。両手で頬杖を付いて、じっとラタと果物を見比べる。
「ラタ?」
ココは、そっと一つつまむ。
ラタが鼻を鳴らす。
「怒ってる?」
「…」
ラタは黒い丸い瞳で、じっとココを見詰めていた。
「おい、食べていいぞ」
何か別の買い物を済ませたシェインが背後にたった。
『許す。』
シェインの一言で、うれしそうにラタが果物にかぶりつく。
「あ」
全部食べちゃった。あっという間だった。
ココはちょっと恨めしそうに、ラタをにらんだ。
「なんだよ、お前が、いらないって言ったんだろ。」
ココをひっぱり起こして立たせると、シェインが笑った。
「…だって」
お腹すいた。
ラタが首をもたげて、ココの頬をなめた。
「…うふ」
ラタの顔はココの二倍ほどある。ラタが頬をすりよせると、ココは押されて転ぶ。
「いやん、ラタ」
ココはそれでもうれしそうだ。
ラタがさらにココにすりよろうとする。
「おい、間違って踏むなよ」
ラタにフードの先をくわえられて、引き寄せられて、頬をなめられる。
「うひゃ、いやん、ラタ」
はしゃぐココを眺めながら、煙草を取り出す。
「おい、用なら早く言えよ」
行きかう人ごみの中、一人立ち止まっていた男が、恭しく膝を付いた。
「シェイン様。デデム候が、ぜひお越しをと」
「うるさい。俺は盗賊に身を落としたんだ。候にしてやれることなどないと伝えておけ」
シェインは背後の男を振り向きもせずに低く言った。
その声は、さして大きな声でもなかったが、背後の男は縮こまった。
一瞬、通りを行きかう人々が、立ち止まった。
静まる。
「ココ、行くぞ」
「あは?」
いつの間にかフードが取れて、銀色の髪、白い顔が見えていた。
ラタがゆっくり立ち上がる。
「シェイン様!」
男を無視して、シェインは買った荷物をラタに載せる。一人で乗り込もうと、ココはばたばたとラタにすがり付いていた。
ラタが、ココのローブを加えて、引っ張り上げようとする。
「うんと、えと。」
あと少しで、ココの手がラタの翼の根元に届く。あと少し。
「おい、無茶するな」
シェインが気付いて、ココに手を伸ばそうとした時、ずるりと大き目のローブが抜けて、ココが地面に落ちた。
「…」
「ばか」
横たわったまま、顔を手で覆って、ココは足をじたじたする。
「痛いよ、うえ、痛い」
泣き出しそうなココを、片手で拾い上げて、シェインが飛び乗る。
振り向けば、通りの誰もが彼らを見詰めていた。
「ココ、二度とここにはこれねえぞ」
「痛いよ」
ココはただ、しがみついている。
「シェイン様、それは、まさか」
「なんだ、うるさいぞ」
再び、男はよろよろと後ろに下がる。
「怪我を、なされたのでは…」
座り込みながら男が言う。
「…そうか?ココ」
「…」
ココは、しがみついたまま何も言わない。ぎゅっと目をつぶって、じっとしている。
「おい?」
「シェイン様、どうか、お手当を。あの、お急ぎになられたほうが」
忌々しそうに、男を見下ろして、シェインはため息を一つついた。
「仕方ねえな」
しゅんと頭を下ろしている、ラタの首を軽くなでた。
「お前は悪くない。ラタ、大丈夫。落ち着け」
シェインがそうささやくように言うと、弱々しげに震えていた空角は、鼻息を一つ吐いて、軽く頭を振った。
「よし、お前も乗れ」
足元の男を引っ張り上げた。
ざわざわと、遠巻きに彼らを見詰める人々の輪を、上から眺めながら、シェインは領主の館に向かう。
「シェイン様、空角は、大丈夫ですか?ブランカを、その、傷つけてしまっては」
「大丈夫さ。矛盾があるからな」
「矛盾?」
「契約の、矛盾さ」
にやりと笑う。
「あの?」
「矛盾を突けば契約は、無効になる。いいか、守人は第一の契約でブランカを傷つけることは出来ない。ラタも俺の契約に縛られている。だからラタもブランカを傷つけられない。
同じだ。
だが、同時に、俺は生きものを傷つけない。
それは、俺の契約にラタが縛られることで、ブランカを傷つけたラタが報復を受けることと矛盾する。だから、ラタさえしっかりしていれば、大丈夫なのさ。
まあ、普通は契約の重さに耐えられずに、死ぬ。契約とはな、とても強い、暗示のようなものなんだ。それをかけるのが、神官の役目だ。いやな役目だよな」
「はあ」
男は首をかしげる。
それでも、普通は空角の飼い主も同時に報復を受ける。
シェインほどとなれば、その契約の重さすら、跳ね返すのだろうか。
「あなた様は、その、なぜ神官をお辞めになったのですか?」
「ふん。ろくなもんじゃないからさ。契約なんて矛盾だらけだ」
「はあ」
男は黙った。
力を持って生まれたのに、それを使おうとしない。なぜなのだろうか。
守人として生まれたからには、皆、力を望む。力があるものが最上。逆らうことは許されない。エノーリアはそういう世界だ。力がないものは、そのようにしか生きられない。
この人のように、選ぶ権利すらない。
ただ、この下層で、貧しい暮らしを続け、いつか死んでいく。
あえて、下層を選んで住む。その意図は分からなかった。

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片翼のブランカ 11

<<今、どうして自分がそこにいるのか。そうしているのか。理由を言うことより、きっと、それに満足していることのほうが難しい。…ココちゃんの冒険第11話です!>>

「ココちゃん」
ココはうっすら目を開けた。聞きなれない声。
目の前に、なんだか白いまあるいものが、笑っている。
ちょっと、強い、お花の香りがする。
「ココちゃん」
変な、男の人の声。ココは顔をしかめた。
「シェイン・・」
「おう、起きたか」
その声を聞いて、ココは飛び起きた。
「シェイン!」
横に立つ鉄色の髪の男に抱きつく。
「なんだ、元気じゃねえか」
「可愛いのう」
白い丸いふっくらした顔の守人が、ニコニコした。多分。小さい細い目と、小さい鼻と、小さい口で、あまり表情が分からない。
白っぽい茶色い髪をくりくりさせて、一つに縛っている。
その丸い手が、ココの頭をなでた。
「初めて本物を見ますよ。いや、これがブランカ」
「ああ。上層で拾ってな」
「どこも痛くないかな?ココちゃん」
甘えたような口調が、ちょっと気持ち悪く感じる。
「あのね、ココね、ここがいたいの」
「おう、そうかそうか。肩を打ったのだな。どれ、どれ」
ココの服を脱がそうとする。
「いやん」
「おい、いじめるなよ」
「可愛いのう」
ココはなんだか、どきどきして、怖くなって、シェインにしがみついた。白い丸い守人は、なんだか気持ち悪い。いやいや。
「ほら、肩見せろって」
「い、やん!」
シェインまで同じことする!ぺしぺしとシェインをたたいた。
「大丈夫そうだな」
「そのようで」
ばたばたしているブランカを、軽々抱き上げて、シェインは、室内を横切って、窓辺に連れて行った。
「ココ。見てみろ。きれいだ」
「?」
窓から見える白い街の風景と、その先の青い海を見詰めて、ココは落ち着いた。
「島の領主の館だ」
「デデムと申します」
恭しくお辞儀をするまあるい白い守人に、ちらりとココは視線を向ける。シェインの肩越しからだと、下に見える。
「ほら、礼を言え、ココ。お前が大げさに泣くから、休ませてくれたんだぞ」
「れい?」
「ありがとうのことだ」
ココはにっこりした。それなら知ってる。
「ありがとう!」
「いえいえ、守人として、ブランカを守るのは当然です」
「お腹すいた!」
シェインが笑った。
「お前、覚えると何でも好きなこと言い出すな」
「お腹、すいた、すいた、すいた!」
「どうぞ、ご用意させますので」
「デデム、甘やかすな」
シェインの言葉に、領主は目を丸くした。
「シェイン様、ブランカなんです、神聖な、大切な。甘えるとかそういう存在ではないのでは?」
「ばか、こいつは出来損ないだ。それに、とても、ブランカとは思えんね。人間くさいだろ?」
「私めには、やはり特別に見えますが」
「まあ、いい。俺も腹が減った」
「はい。どうぞ」
にこにこして、デデムはうなずいた。
「仕事の話は、後にしろよ」
その丸い背に、シェインがつぶやくと、領主は振り向いた。
「ありがとうございます」
恭しい態度の下で、小さい目は抜け目なく笑っていた。



「やけにご機嫌ね、ココ」
カータが出迎える。
黒々した岩山の隠れ家は、薄暗い夕闇に包まれ始めていた。
どどどと、響く波の音にも、今のココは平気だった。
だって、たくさんたくさん、素敵なものもらっちゃった。
うれしくてうれしくて、ココはカータに飛びついて、ぎゅっとする。
「お帰り」
ココのパタパタする羽の向こうにシェインの少し疲れた顔を見て、カータは微笑んだ。
「どうしたの」
「ああ、デデムに捕まってよ。ココは、すっかり猫っ可愛がりされて、舞い上がってる」
「それでね」
もらったいろいろなものの包みをカータに見てもらおうと、ココはさっきから、しきりにカータの髪を引っ張っていた。
「はいはい。分かったから」
カータはココを下ろす。
「本当に、守人の子供と変らないわね」
「お前も、ココのお母さんみたいだぜ」
「失礼なこというんじゃないわよ、私まだ子供作ったことないんだからね」
「あってたまるか」
ぼそりと、シェインがつぶやく。
「何か言った?」
「いや。別に」
相変わらず、綺麗な顔して派手な勢いの女に、シェインは笑う。
厄介な頼まれごとも、何とかなるか、と、胸にしまいこんだ。

ココは、もらった綺麗な色のガラスの玉をいくつも並べて、遊んでいる。
甘いものも、ぱりぱりしたお菓子も、たくさん食べて、すっかりお腹もいっぱいだ。
「クリスタルの偽物?」
「ああ、露店でだましに使うやつらしい」
「そっくりね。よく出来てる」
くすくすシェインが笑う。
買出しに行ったおかげで、その日の食事は、少し豪勢だ。
いつものパンとハム。新鮮な野菜と、ジュース、シェインは白い葡萄の酒を飲む。
「お前が、いつか、だまされて買ったやつと同じだ」
「そ、それは。なによ、まだ覚えてたの!?」
「あの時のお前の顔。ココにも見せてやりたいぜ」
「お宝だと思ったの!もう、シェインが喜ぶと思って、なによ、もう、笑わないでよ!!」
肩を震わせて笑う男に、カータは顔を真っ赤にして怒る。
「ばーか。大体、クリスタルほしいなんて、おかしいだろ、使えもしないくせに」
「言いすぎよ」
「ほんとのことさ」
少しほろ酔いのシェインは、カータが本気でむっとしていることに気付かない。
「自分が力があるからって、自慢しすぎよ。嫌な奴」
ぷいとそっぽを向いて、シェインの隣から、ココのそばへ、飲みかけのジュースを持ったまま移動する。
「なんだよ。…」
不機嫌に眉を寄せると、シェインはテーブルに肘をついた。
「ちぇっ」
その、黒い瞳がココと楽しげに話すカータを見つめていた。
カータは、下層の生まれ。
その美しい姿と、威勢のいい性格が面白い。そう思って、そばにいる。
カータが、どう思っているかは知らない。
年に一度の洗礼祭のときに、たまたま、出会った。
もう、何年前になるのか。
まだ、俺も幼いところがあった。丁度、神官として朱席をもらった頃か。十七、くらいだったか。
神殿を抜け出し、追っ手を振り切って、今こうしていられることが、たまに不思議になる。
「…いや、俺は自由になったんだ」
官位を剥奪され、神殿への出入りを禁じられ。それでも、自由が欲しかった。
そばに、いたかった。

「シェイン、泣いてる」
顔を上げると、ココが自分の飲み物を抱えて、覗き込んでいた。
「ばかか」
「ココ、バカじゃない。ブランカだもん」
ぷんと口を尖らせる。また、それが、かわいらしい。
「お、教えてもらったのか、やけに反抗的だな」
向こうでカータが、顔をしかめて見せる。
「せっかくの美人が、台無しだぞ、本当に」
そう、小さく言って、優しく笑う。
残った葡萄の酒を、一気にあおって、シェインは立ち上がった。

「もう寝る。明日、出かけてくる。お前ら、好きにしてろ」
「まあた、女買いに行くの?」
むっとして怒るカータの頭を軽くぽんぽんとたたいて、シェインは笑った。
「欲しけりゃお前も買ったらどうだ」
「私が女買ってどうすんのよ、ばか!」
「…おやすみ」
シェインは、一人、寝室に入っていった。



翌朝、目が覚めたときには、シェインはいなかった。
ココはしきりに、カータに尋ねる。
「シェイン、どこ?」
「おでかけよ。遊びにいくのよ。昨日みたいに買い出しに行った次の日にね。きっと、買出しのついでに何かいい話でも拾ってくるのよ」
カータは、風牙の毛並みをブラシで整えてあげながら、ちょっと不機嫌に言った。
長いクリーム色の髪を、ぎゅっと、頭の上で縛って、いつもとちょっと違う。
「カータも、どこか行くの?」
「ええ、私だってね、いつもこんなとこに一人じゃ、つまらないのよ」
「ココ、いるよ」
「そうね。ココも、行く?」
「どこに?ねえ、どこ?」
「・・シェインには、だめだって言われているんだけどね。中層の、リアノスよ。大きな町なの。
可愛い服とか、綺麗な宝石とか売ってるの。下層民でも、売ってくれるとこがあるのよ。
お金はないけど、ほら、いろいろ売れば、ね。特に、ココ。クリスタルなんかは、いい値段なのよ」

カータは、ココの大切なガラス球が、たくさん入った器を見つめて、いたずらっぽく微笑んだ。
「本当に、よく出来てる。私だって、ね、そういう使い方ならできるんだから」
力の弱い下層民では、クリスタルを変異させることが出来ない。
出来なければ、それはただのガラス球と同じ。カータはココのガラス球のうち、いくつかを手に取った。

 「片翼のブランカ」続きはこちら
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片翼のブランカ 12

<<カータは、ココの大切なガラス球が、たくさん入った器を見つめて、いたずらっぽく微笑んだ。
「本当に、よく出来てる。私だって、ね、そういう使い方ならできるんだから」
力の弱い下層民では、クリスタルを変異させることが出来ない。
出来なければ、それはただのガラス球と同じ。カータはココのガラス球のうち、いくつかを手に取った。
ココちゃんの冒険ファンタジー第13話です!>>




中層へは、カータのフウガに乗せてもらった。
最初はちょっと、怖かった。だって、フウガは大きな牙がある。足にも、爪を隠しているんだって、カータが笑った。
どきどきした。何に、使うのかな。それ。
でも、ラタと違って、背が低いし、降りるときにうまく体を下げてくれるので、ココは一人でも下りることができた。
それは、嬉しい。
ココは、薄いけどちょっと重い、白い毛皮のコートをまとって、翼をその背中の切り目から出している。そこにカータは派手なピンクのリボンをつけた。
それはまるで、コートにつけられているかのように、一体化して見えた。
「ほら、かわいいじゃない!平気よ、ちゃんとコートの飾りに見えるもの。ほんとに、シェインはセンスないんだから。」
そう言って、ココの髪と鬣をきれいに編みこんでくれた。
「かわいい!」
ココも、その髪は気に入った。
コートは少し暑くて、いやだったけど。
そういうと、カータが怖い目で睨んだので、あきらめた。
「ねえねえ、ここどこ?人いっぱい。」
無邪気に手をつないで問いかけるブランカに、カータは話す。

リアノスは、エノーリアの首都といっていい存在なのよ。
街は神殿を中心に、円形をして広がり、その東西南北に広い通りが走っている。
それぞれに、区分けされ、東南には神官や聖職者が。南西には商人が。西北には労働者。北東には技術者や学者が。それぞれに好みの形の街を作っているの。
中心の神殿、フロマルクス(すべての中心という意味だとか)には、一番えらい神官がいるの。リアータ神王と呼ばれるその人が、すべての神殿と神官を治めている。
白席の神官よ。でも今は、ご高齢のためにほとんど姿を見せないのよ。
その次に偉いのが、紫席。ほら、ココがであった、ルーノ神官がそうなの。
続いて朱席、青席、黄席。そこまでは、一人しかなれないの。で、その下に緑席。緑席になれる神官は地方の数だけいる。
そこまで話して、カータはココがぜんぜん話を聞いていないことに気付く。
きょろきょろと、周りの人や景色、町並みに目を奪われている。
「ココ。」
「なあに?」
「今、私が何を説明したか、言ってごらん。」
ココは目を丸くした。
「えと、・・パン屋さん!」
「・・ココ。」
大きくため息をついて、睨むカータから、ちょっと離れたくなったのか、ココはつないだ手を離す。
「ココ、だめよ!」
ぎゅっと手をつかまれて、ココは、ちょっと悲しくなった。
ずっとずっと、手をつないでいる。
シェインのときはそんなことしなかった。ココ、好きなとこにてくてく歩けた。
口を尖らせてすねるブランカより、カータは目的の店に急ぐことに集中していた。
本来、中層は、下層民が来てはいけない場所だ。子供の頃に才能を見出されて、神官学校などに入る場合を除いて、下層の守人が、中層に入ることは、許されない。
神兵に、見つかったら危険だ。神兵は、下層民を見分ける力がある。
早足で、歩くカータ。目立つので、フウガは森においてきている。
「カータ、ココ疲れたの、休む。」
ココが歩くのを止めた。
「ココ」
ずるずると引きずられつつ、ココはすねたままだ。
「もう、連れてくるんじゃなかった。仕方ないわね」
ぐいと引っ張って、抱き上げると、カータはココの顔に、目を近づけて、めっと睨んだ。
「・・ぷ」
ココが、面白がって笑う。
「何よ」
「面白い、顔」
くすくす。
「あー、もう、私子供なんて要らないわ!」
ココが首をかしげる。
「いらない?ってなに?」
「必要ないってこと。そばにいなくてもいいこと。一緒にいるのがいやって事」
質問ばかりするココに、集中できないでいたカータは、早口にそれだけ言って、口を閉じると、歩く足を速めた。
「ココの、こと?」
「そうよ」
きゅんとして、ココは黙った。
ココは、そっと、カータの顔を見上げて、それから柔らかいおっぱいに頬を預けた。
カータはどんどん歩いていた。
振動が、鼓動が、どくどくと聞こえる。
ココは不思議な気分になっていた。
悲しいような、寂しいような。でも、それを話してはいけない気がした。
あの時も、そう、怒られた。
シェインがまあるい蜜を取りに行ってくれたときも、待ってるって約束したけど、一人ぼっちで。怖くなって、寂しくて、二人を探した。
だって、波と風の音がごうごうなってたの。
約束破って、怒られた。うそを言ってはだめと、怒られた。うその意味は、よく分からなかったけど、きっとカータは嫌だったんだ。寂しいときは、黙って、じっと、しているのがいいのかな。
もう一度、カータの顔を見上げた。その視線は、遠く前を見ている。
「カータ、笑って」
その声は、雑踏にまぎれて届かなかった。

「ここよ」
カータは技術者や学者のいる町の、奥まった狭い路地の先の店に入っていった。
学者や技術者は、下層にある珍しい植物や石、クリスタルなどを、安く手に入れようとこういう店を利用する。店には、下層民がひそかにそれらを売りつける。
いかにも、胡散臭い、すすけた感じの店だ。
埃の積もった重い木の扉を押し開いて、カータが入っていく。
入るとすぐに、古びた木の棚が並んでいて、ガラスで覆われたその下に、不思議な形の木の実とか、ぎらぎら光る石の塊とか、変なものが入っていた。
カウンターのそばまで来る。
「こんにちは」
カータが店の人だろう、でっぷりとした、小柄な守人に声をかけた。
「いらっしゃい」
「あの、これを買ってほしくて」
カータは肩にかけていた、皮の袋から、とげネズミの毛皮を引っ張り出した。
それは、ココが怖がって驚いたのを、シェインがすぐに捕まえたのだ。
とげに毒があるって言っていた。
「おや、珍しいね。とげネズミか」
「ええ。苦労したんだから、五十はくだらないって、言われたんだけど」
カータは笑って、皮の袋をしまおうとする。始めから金額を提示するのは、物慣れていない証拠。店主は最低七十はする、とげネズミの皮を、たたいて三十にすることを決めた。
その時、店主は女の持つ皮の袋にちらりと光る、丸いものを見逃さなかった。
「他にもなんか持ってきたのかい?」
「いいえ。今日はそれだけ。頼まれたの」
ニコニコ笑う、少し頭の弱そうな下層民の女。
そういう印象を、カータは与えた。
ココは、それを黙って、見つめていた。
「そうだねえ、こいつはほら、ここのとこが痛んでるだろ。あと、尻尾が変色している。古いね」
そんなはずはなかった。
「そうかしら」
首をかしげてカータが笑っていた。
ココは精一杯背伸びして、カウンターの上に顔を出している。
ココは、なんだか苦しい気がして、でも、だまっていようと、我慢した。
「そうだねえ、よくて三十ってとこかな。他にもなんかあったらあわせて、そうだな。五十にしてやってもいい」
「他にもって」
カータが首をかしげる。
「いくつかあるんじゃないかね?」
「えーと。これ、でも、売っていいのかな」
カータは、皮の袋を覗き込んで、中からガラス球を二つ、持ち上げかけて、またしまった。
「ほら、それだよ。見たところ、たいしたもんじゃないけどね」
「でも、勝手に売ったら、怒られるわ。ネズミが五十だって言われてるのに、これも売ってしまって、それでも五十じゃ、あたし怒られちゃう」
ニコニコしたまま、カータは言った。
「ふん。それもそうだね。じゃあ、七十でどうだ」
「・・だって、こっちのが高いんだって、だから、あたしが売っちゃいけないんだって言われたのよ」
「うーん。どれ、見せてごらん」
店主がぶよぶよした手を差し出した。
カータは、皮の袋を一旦後ろに隠した。
「・・あたしが馬鹿だからって、とっちゃうつもりでしょ」
「見るだけだよ」
「じゃあ、手、引っ込めて」
店の主人は、大げさにため息をついて見せた。
「じゃあ、ほら。手は出さない」
「うん。これと、これ」
カータは、袋から取り出したガラス球を、手の平に乗せて、店主の見えるところに差し出した。
「ほお」
「え、なあに。やっぱり高いのだったでしょ?高級なガラス球だって、聞いたもの」
「え、いや、まあ」
「クリスタルに似てるけど、私たちじゃ、本物か分からないし。だって、ほら、クリスタルって、神官様とか、偉い人が使うんでしょ?」
「ああ、そうだね。偉い人が、言葉を力に変えるためにつかうんだ」
「これ、本物?」
カータが問う。
店主は計算する。
かなり、クリスタルに近い。もしかしたら偽物かもしれないが、本物なら、炎のクリスタルと光のクリスタル。どちらも千はくだらない。たとえ、偽者だったとしても、ネズミと合わせて、百で手に入れれば、まあ、損はないだろう。
偽物でも、いい出来なら五百で売れる。
「どうかねえ。ほら、ちょっと貸してごらん」
「ココの」
誰かが小さく言った。
「なんだい?」
カウンターに顔を出していた小さな子供が、口を尖らせて、言った。
「ココのだもん」
カータは慌てた。
「だめよ。これは」
「嫌だ。ココが、もらったのに」
「・・でも、おじさん、欲しいんだな。だめかい?」
店主が、ココの相手をしだした。
まったく、もう。カータはちらりとココをにらんだ。
「じゃあ、お嬢ちゃん、この店の中で好きなもの、二個あげるよ。それと引き換えでどうかな」
店主はニコニコと笑顔を作って見せた。
「それは、困るわ」
「いいじゃないですか。じゃあ、ネズミは、言い値より高く、そうだね、七十で引き取りましょう。そのクリ、いやガラス球はお嬢ちゃんのだってことだし、お嬢ちゃんに決めてもらいますよ。どうです?」
「だめよ、ネズミ、じゃあ、百で。そしたら、この子に交換のもの好きに決めさせるわ」
「ふん。まあ、いいでしょう」
店主はぷよとしたあごに手を当てる。
その意地悪そうな目を細めて、店の中のものを珍しそうに見るココを見つめていた。

「ココ、決めたの?」
ココは、迷った。
変なものばかりで、面白そうなものばかりで、どれにしたらいいのか分からない。
そのうち、ココが交換する丸いガラス球と似ている、でもちょっとひびの入った石の玉を見つけた。
ガラス球の仲間になりそうだ。
白い、透明じゃない石だけど、形とか大きさが似てる。
もう一つ、青いのもある。両方あると、なんだか嬉しい。
きっと、ガラス球と一緒の仲間だ。
ココはそう思った。
背後では、カウンターでカータがネズミの代金を受け取っていた。
ココは、そっと、その石を持ってみた。
じわりと冷たくて、でも、一瞬、ちかりと何かが光った気がした。
どきどきする。
これにした。
「ココね、これとこれにする!」
店主は、笑った。
「それでいいのかい?ほら、白いほうはひびが入っているだろう?」
「でもいいの、これとこれ、両方あるのがいいの。白いのと、青いの」
「ココ、もっと高そうなものにしなさいよ」
カータが睨んだけど、ココは言い張る。
「だって、これがいいんだもん!」
店主の様子を見て、カータは安物をつかまされていると、思った。
満足げな店主に別れを告げ、これまた満足げに嬉しそうなココを抱きかかえて、カータは店を出た。
しばらく歩いて、立ち止まると、ココの手から、石を二つ、とった。
「カータ?」
「ちょっとみせて。なあに、石じゃない。色はきれいだけど…」
「いいの。きれいだもん。ぴかぴかひかるもん」
ココはカータの手から、それを取り返す。
「そうですか。よかったわねえ」
意地悪な言い方に、ココは顔をしかめた。
「何よ」
睨み返すカータ。
「だいたいね、ココ。あたしに任せておけば、あなたのお洋服だって、私のだって、買えたのよ!チーズだって、果物だって。たくさん買えたのに」
いつの間にか泣いているブランカに気付いて、カータはちくりと罪悪感を感じた。
「子供相手じゃ、仕方ないわね」
カータは、とりあえず、ネズミが百になっただけでもよしとしようと、自分を慰めて、いつも行く服屋に向かった。
「ほら、おいで。ココ」
泣きじゃくったまま、首を横に振るブランカに、カータは苛立つ。
「好きにしなさい。ついて来ないとどうなっても知らないから!」
ずんずん歩いて、しばらく歩いて、ちらりと振り返った。
ココは、さっきの場所に、座り込んで泣いていた。
「まったく、もう」
仕方なく引き返そうとしたときだった。
どんと、通りかかった背の高い守人にぶつかった。
「あ、ごめんな…」
気付いた。
神兵だった。黒い衣装。短い白い髪の後ろの一束だけを伸ばして、結っている。額には黒い刺青。腰に剣。
「お前、下層民だな」
迫力ある声に、慌てて逃げ出した。
『待て!』
強い言葉。
人ごみをかき分けながら、カータはシェインが教えてくれた、耳をふさぎながら逃げろ、それを実践していた。
絶対に、逃げ切れるからな。そう笑う、シェインの顔を思い出す。
とにかく走って、走った。
街の外れまで、あと少しでフウガのいる森というところまで、逃げた。
木の陰に回りこみ、そこで座り込んだ。
息が、苦しい。
夢中で走った。
体が震える。
恐ろしかった。
でも、シェインの言ったとおり、言葉につかまることなく、逃げ切れた。
はあ、大きくため息をついて、不意に思い出した。
「ココ!」
そっと、街のほうを眺める。
まだ、足が震えている。
ココを、探しに行く勇気はなかった。
座り込んだ。
「どうしよう。…でも、でも」
ココは、偶然、拾っただけだ。
たまたま、シェインが、拾った。
可愛かったけど、でも、ブランカだ。手に負えない。
もともと、ブランカは守人が教える学校にいる。
そこにいるのが一番いいのだ。
・・ココは、逃げてきたといった。
会いたい人も、行きたいところもなくなったから、逃げたと。
泣いて、いるかな。

どうしよう。

ざわ、と町のほうから大きな音がした。
悲鳴のような、怒号のような。
見ていると、何か白いものが宙に舞った。
見る見るうちに大きくなってくる。近づいていた。

「フウガ!」
その口に、白い小さい子供、ココをくわえていた。
命じていないのに、フウガが、助けに行くなんて!
ざ、っと目の前に降り立ったフウガは、くわえていたココを放すと、甘えるように、褒めてほしいと擦り寄った。
「あ、ありがと、フウガ。でも、どうして?」
ぐるぐると、喉を鳴らして、フウガは嬉しそうだ。
ココを抱き起こす。泣き疲れて眠っているのだろうか。
二つの石をしっかり握り締めたまま、自分の翼を抱きしめている。
この、仕草が可愛いのだ。
クス、と笑いながら、カータは涙を拭いた。
「久しぶりに、泣いたわね」
息を一つついて、ココを抱き上げ、フウガにまたがった。
「帰りましょう」

「その、ブランカは、置いて行ってもらいたい」
穏やかな口調だった。
びくりと振り向くと、薄暗い森から、背の高い、黒い衣装の、短い黒髪の守人が現れた。傍らに、黒い風牙が寄り添う。
男の額には、優雅な曲線を描く刺青と、緑の石。
緑席の神官だ。
「…いやよ」
飛び立とうとするフウガが、不意に力が抜けたように座り込んだ。
神官が、何か小声で「言葉」を発したようだ。
「フウガ!」
カータの声に、ココが目覚める。
「カータ?」
カータが、抱きしめる腕は、苦しいほど力が入っている。
「久しぶりだね、ココ」
ココは、ゆっくり歩いて近づく守人を見つめた。
「あ、ラクをてんせいさせた、守人!」
「覚えているとはねぇ。転生なんて言葉も教えてもらったのか」
にっこりと、穏やかに笑う。
カータは先ほどから、ぞくぞくとしてとまらない震えに、声を出せずにいた。
神官の、一言一言が、びりびりと痛みを感じるほど、恐ろしい。
「あっち行って!ココ、大人にならないの!」
ココが、石を一個ずつ握り締めたまま、怒った。
「おや、珍しいものを。ココ、おいで」
「いや!」
黒い服、黒い髪の神官がどんどん近寄ってくるのに、カータは何も言わない、何もしない。
フウガも、座り込んだまま、動かない。
どきどきする。
「ねえ、行こうよ!カータ」
背後から抱きしめたままのカータを、振り返る。
「ごめ、ん。私の、力じゃ、逃げられない」
カータの手が震えていることに気付いて、ココは神官をにらみつけた。
「カータを、えと、えと」この憤りを、どう表現していいのか分からない。ココはどきどきが大きくなって、目をぱちぱちした。
「くす」
笑って、男はココの目の前に立っていた。
手を伸ばす。
「痛い!」
ココはぎゅっと目をつぶった。
神官の動きが止まった。
「変なことを覚えたものだ。私は何も、していないだろう?」
あきれた顔で、うっすら笑いながら、神官は、ココの肩に触れる。
「いや!」
ココはカータに抱きしめられたままで動けずに、ただ自由になる両手に持った、白い石の球を投げつけた。
それは、神官の肩に当たって、ふわりと音もなく砕けた。
ぼんやりと、霧のようなものに変わって、広がった。
なくなっちゃった。
「ココ」
神官は、表情を変えた。
怒ったようだ。その手が、伸びる。
「いや!」
一瞬迷って、青い方を見つめる。
なくなっちゃう?
ココは神官の怖い顔と、石とを見比べる。神官の手が、ココの肩に乗る。
「ココ、ごめんね」
小さく、カータの声を背中に感じた。
ココはぎゅっと目をつぶって、思い切り青いそれを投げつけた。
それは、神官の白い頬に当たるとくにゃりと壊れて、中から大量の水があふれた。
「・・なに?」
ココはそれに驚いた。
神官はびしょぬれになっていた。
「海竜の卵だ。先のは死んでいた。今のは、生きていた。ばかものが!」
その怒号に、カータが耳をふさいだ。
「きゃあ、怖い!」ココも耳をふさぐ。
「ブランカが、命を粗末にするとは!」
荒っぽく肩をつかまれて、ココは叫んだ。
「痛いよ!」
慌てて、神官は、ココを放した。
その様子を、耳をふさいで見つめたカータは、思い出した。
シェインの言葉を。
耳をふさいで逃げろ、大丈夫。どんなときでも、逃げ切れるさ。
そう、笑って言った。
「フウガ、逃げるのよ!」
カータの鋭い声に、フウガは一つ身震いして立ち上がった。
神官は飛びのく。
「ココ、落ちないでね!」
カータは耳をふさいだまま叫ぶ。
飛び立つ風牙。
『待て!』
神官の声に、一瞬、びくりとする。
「フウガ、がんばれ!」
ココがフウガの頭をなでる。
その無邪気な様子に、カータは言い聞かせる。
大丈夫、逃げられる。大丈夫。
「ココ!」
はるか下から、神官の声が追いかけてくる。
「いやだもーん!」
ココが笑って、手を振っている。
ああ、この子は、本当に平気なんだ。言葉に、縛られない。
フウガは、高く舞い上がると、生命の木に向かう。
その、壁のような幹を左に見て、飛び続ける。
中層の森の風景は流れるように変わり、暗い穴の中に入っていくような、少し目の回る感覚の後に、不意に空にでる。
そこはすでに、下層なのだ。
この不思議な木の仕組みは誰も知らない。
傍らには、変らずに生命の木の幹。黒々と暖かく、壁のように続いている。
見上げても、中層が見えるわけではない。
遠く遠く、どこまでも生命の木の幹が、ただ伸びている。

頼りなく飛ぶフウガと、疲れた様子のカータに、ココは首をかしげる。
「帰ろう。かえろ、ね。美味しいごはん」
カータは、ため息をついた。
「お腹、すいたのね」
「うん。パン食べるパン!」
「そうね、パン屋さん、寄れなかったね」
「ぱん、ぱん、ぱーん!」
ニコニコと笑うブランカに、カータはひどくだるい腕を回した。
ぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね、ココ。私、ぜんぜん、だめね」
「だめ?」
「そう。だめなのよ。私は。何の力もない。ココに、守られるなんて。だめね」
「まもる?えらい?」
「ええ、ココえらかったわ」
ココは嬉しくなった。褒められた。
「ココ、まもる。守るの」
「私は、いつも、守られてばかり。・・シェインにも、いつも」
「・・?」
「シェインはね、強いのよ。とても、こんなところに居る人じゃなかった。本当なら、ルーノなんかじゃなくて、あの人が、神殿の高い席に座っていて。皆から敬われる、そうなるはずだったのに」
「シェインも神官?」首をかしげる。
「昔はね、そうだったの。私の、私なんかのために、辞めちゃったの」
そこで、カータが涙を拭いたことに、ココは気付いた。
「かなしいの?」
「悔しいの」
「くやしい・・?」
「私はただの下層民なのよ。なのに、大切にされちゃって、守られて。何も、シェインのためにしてあげられないのが、悔しいのよ」
「じゃあ、ココが守る」
「…意味、分かってる?」
「んと。カータのごはん、美味しいから。美味しいとうれしいから、カータは大切。シェインは強いし、かっこいいし、おとこまえだから、えと」
「なにを言ってるの?」
「・・ふふ。わかんない」
照れたように笑うココを、カータは抱きしめる。
下層の湿った風が、ココの銀の髪をフワフワと躍らせていた。
「大切、大切」
ココは、なんだかその言葉が気に入った。
その言葉は、口にすると優しい気分になる。

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片翼のブランカ 13

リノリアから北にいくつか都市を越えた町。
そこに、シェインはいた。
荒れた、辺境の町。家々はどれも古びた焼いた土のレンガでできている。
小さく、ごちゃごちゃと、ひしめいている。
人の姿はまれで、これが中層かと、シェインはつばを吐く。
傍らに、ラタが歩く。
「神殿が、ちゃんとしないからだ。白席老が、ご健在ならこんな風には、ならないものを」
リアータ神王。
かなり、悪いと聞いた。
だから、ルーノなんかが幅を利かせる。
まあ、知ったこっちゃない。俺は、下層民なんだ。

目指す場所は、すぐ先に見えていた。
辺境の町にしては、やけに立派な。
下層から運んだのだろう、黒いつやのある石で作られたその神殿は、精緻な彫刻を施した柱を何本も回りに据え、その円形の門の向こうに、主殿が見える。
シェインは、ラタの首をなでる。
「行こうか」
またがると、ふわりと高く飛ぶ。
神殿の門の上まで来ると、懐からクリスタルを一つ。
『闇』
ふわりと黒い霧に変ったその空間に、ラタとともに入っていく。
シェインとラタの姿が霧の向こうに消える。
後には、ただ、白い空。

神殿の結界を潜り抜けたシェインは、神殿の屋根の突き出た尖塔に立っていた。
ラタは、シェインの足元くらいにある屋根にたたずむ。
「まったく、デデムもろくなこと依頼しないな」

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片翼のブランカ 14

<<「力さえあればなんでもできてしまう。そんな世界、おかしいだろう…」ココの冒険第14話です!!>>

ラタはいつになく不機嫌なシェインを乗せて、下層に向かっていた。
中層から下層に入った直後の風景は、いつもシェインが喜ぶ。
「ラタ、きれいだな」
そういって、いつもラタの首をなでてくれる。
その日は、違った。
シェインは、考え込んでいた。

第二の契約。
そんなもの、ありはしないのだ。言葉の力で植えつけられた、強い暗示。
その証拠に矛盾だらけだ。
デデムが俺を裏切った。それを、力あるものに逆らったと自覚すれば、奴は死ぬ。
自覚なければ死なない。
馬鹿らしい。自覚を促す気にもならん。
ルーノも、自らが俺より弱いと知った時に初めて、恐れを感じる。契約の縛りを受ける。
おかしいだろう、それは。
「第一の契約、本来はそれのみがあった。それだけは、シェイン、お前でも解けない暗示だ。」と白席老は言っていた。
幼い頃から、それは納得できなかった。
「おかしいよ、矛盾だらけだ!老だって、ないって分かってて、第二の契約を、守人の赤ちゃんに植え付けるの?」そういう俺の口を、老は人差し指一つでふさいで見せた。
そうして、笑った。
そんな矛盾に生きるからこそ、守人は生きながらえるのだと。
いまだに、その言葉の真意はよく分からない。
もう、彼に会うこともないだろう。

矛盾に生きる守人。
その矛盾が秩序を支えている。
社会を守る。
あいまいで、不確かなこと。
だれも、不思議に思わないのか。それは、仕方ないことと、あきらめているのか。
不当に、力によってすべてを抑える、神官と言う存在。
俺には、神官は続けられなかった。


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片翼のブランカ 15

<<「守りきれるだろうか…」ココの冒険、第15話です!>>

前髪が、誰かにつかみ上げられて、カータは目を覚ました。
目の前にいるのは、紫席の神官だ。
あの、黒い髪の緑席の神官ではない。
では、ここはどこ?
ルーノの視線と、あった。
「シェインの趣味は分からんな」
「失礼ね。…これが、神官のやること?盗賊だってもうちょっと丁寧に扱うわよ」
「口の減らない女だ。下層民は守人の恥だ。動物以下だ」
にやりと笑うルーノを、カータは横たわったまま、にらんだ。
神官に、その気がないのだろう、今は恐ろしさが感じられない。
震えずにすんでいる。
ルーノは、ふんと鼻で笑って、カータに背を向けた。
室内をすばやく見回した。

高い豪奢な天蓋のついた、寝所。背に当たる布団の柔らかさが、それが神殿内であることを思わせた。下層にはこんなものはない。
そして、中層でも、こんな天井の高い建物は、滅多にない。
大きな、神殿だ。
紫席のルーノがいるのだから、フロマルクスなのかもしれない。
初めて、見た。
白い壁。大理石のそれは、部屋の角に当たる部分に天上から床まで、美しい彫像が彫られている。ブランカをあらわしたのだろうか、翼の有る子供の像が、何人も、天井に向かって飛び立つようなしぐさで描かれている。
床には黒大理石と、赤、緑。石を薄く削ってタイル状にし、組み合わされたモザイクが、美しい模様を作り出している。
毛皮の敷物が、寝所の足元にあるのがちらりと見える。
ルーノは、窓際に立って、外を見ている。
夜なのだろうか、暗い窓の外に向かって、彼の表情は見えない。
カータはそっと、起き上がった。
自分の、皮の服に、なんと似合わない、部屋だろう。
彼も、シェインもこういう部屋で生活していたのかな。とても、遠い世界だ。
ゆらゆらゆれるランプの明かりと、天井から下げられた圧迫感を感じるほどの金のシャンデリアに灯された炎が、カータの足元に醜い影を作っていた。
「まだ、所有されていなかったとはな」
「!」

気付くと、目の前に、ルーノが立っていた。

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片翼のブランカ 16

<<説明できない感情で涙があふれる。嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか…けれど、その感情の力がどれほど大切なことか、ココちゃんには、まだ、…分からないだろうなぁ。ココの冒険第16話です>>

「うは、大きい!」
石造りの城壁を潜り抜けながら、その門を見上げる。
地上二十メートルほどの高さの扉は、最上部までぎっしりと青銅の鋳物で植物を表した文様がはめられ、その重量感は目がくらむほどだ。
真上を見上げて、間が回りそうになって、笑う。
うれしそうなココ。
中庭にいた、幾人かの神官が、足をとめて、ココたちを眺めている。
神官見習いだろう、幼い子供が、丈の長い朱色のローブを身につけて、列になって歩いていた。
ココの乗るラタを指差して、何か言っていた。
わくわくする。ココは足をじたばたしだした。
「ココ、降りる!」
「だめだ。約束しただろ」
シェインは、ココをずっとラタに乗せておくつもりだ。
そうすれば、シェインの一言でラタはココを上空に逃がすことが出来る。だれも、その状態のラタに手は出せない。もし、ココが落ちるようなことになれば、契約に反するからだ。
手段として、結局、ブランカを守る守人の第一の契約を頼らなくてはならない。
それは、仕方がない。

門からまっすぐ、美しい芝生の中庭を抜け、大聖堂に入る。
扉は開け放たれ、入ってすぐ、礼拝堂がある。円形をしたその中央奥に、聖壇がある。聖壇の左右に、奥へと続く扉があった。聖壇の正面に、黒髪の緑席の神官が立っていた。
ココは、ラタの上から、にらみつけた。
「怖い神官」

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片翼のブランカ 17話

<<所有の契約で自由を失ったカータ。ココを渡せと迫る神官。どうする!シェイン…ココちゃんの冒険、第17話です!!>>


「始末?何をおっしゃっているのですか!ブランカを守ること、命を守ることが我ら守人の存在意義ではなかったのですか!」
シェインの言葉に、神王はうつむいて、小さく首を振った。

「ココだけは、大人にするわけには行かない」
「老、できることではありません!おやめください!」
くすくすと、神官の笑う声がシェインの気分を逆なでした。
「ルーノ」
睨みつける男に、神官はにやりと笑って見せた。

「守人は、やれない。確かにな。だが、獣なら、可能なのだ。多少の犠牲は伴うが。なあ、女」
振り返ると、カータの背後から、フウガがゆっくり立ち上がった。
カータは、震えている。うつむいて、視線を床に落としたまま。
「その女は、私には逆らえない。そして、その風牙も、その女に逆らえない。逆らえば、死」
カータが震えて、自らを抱きしめた。

「カータ?」
ココが、心配そうに、見つめている。先ほどから降りようと、ばたばたしていたが、ラタが翼でそれを防いでいた。

「どちらにしろ、風牙はブランカを傷つければ死。風牙を所有するその女も、意志が弱ければ死ぬ」
「ルーノ、お前が命じたのなら、それは、お前が三つの命を奪おうとしているのと同じだ」
シェインが立ち上がった。
「いくら、お前でも、第一の契約には、逆らえないはずだ」
くくくと、ルーノは笑った。

「ココを殺すことは、多くの命を助けること。その矛盾により、私は契約に反するものではない。女、風牙に、命じるのだ。あの、出来損ないのブランカを、殺せと」
シェインが剣を抜きかける。
その視線は憎しみに近い。
確かにルーノほどの力があれば、矛盾により死を免れる。だが、下層民のカータには、避けようのないこと。ルーノに逆らっても死、ココを傷つけても死。どちらにしろ、カータを犠牲にするつもりなのだ。
どうやれば、救えるのか…

カータは目をつぶった。
「フウガ」
カータの小さい声に、フウガは頭を上げた。
ぶるっと身震いを一つして、ぐんと体を低くしならせ、ラタに飛び掛った。

「!ラタ、逃げろ!」
シェインが剣を抜きながらかけ戻って、横からフウガに切りつけた。
「!」
カータが手で顔を覆う。


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片翼のブランカ 18

「ほら、ね」
小さな声が、聞こえて、ココは顔を上げた。
「本当」
守人、かな。小さな女の子と、枯れ草色の髪の女の人。丁度、ネムネ先生と同じくらいの年齢みたい。
「あの、ここどこ?」
ココの声に、二人は、一瞬歩みを止め、後ろに下がりかけた。
「あの、ココ、ラタが心配なの」
ココは一つだけの翼を抱きかかえたまま、首をかしげて見つめる。
「本物、かしら」
「すごい!きれい!」
女の子が、そっと近寄ってきた。
今度は、ココが驚いて、少し後ろに下がる。
「大丈夫?」と女の子。
「なあに?」ココはたずねる。
女の子は、ニコニコ笑って、ココの手をとった。
「雪の中に落ちてるんだもん。死んじゃっているかと思った」
「ゆき?」
「ええ、ヨハンナが見つけたの。真っ白な雪の中、あなた真っ白だから、よく見つけたものよね」
女の人がひざを床について、ココと同じ目の高さで笑った。
「あの、ここどこ?」
「リッツデール村。あの、スイスのルツェルン地方よ。分かるのかしら」
女の人は、やせていて、とても白い顔をしていた。女の子のピンクの頬と並ぶと全然違う。
ココの肩に触れられた手も、やせて冷たかった。
「すいすってなあに?エノーリアじゃないの?」
「えのーりあ?知らない地名ね。あなた、その、翼、どうしたの。どうやってつけたの?」
「つけた?えと。ココのは、生まれつき一個しかないの」
女の子が女の人とココの間に入ってきた。手には、毛糸でできたお人形を持っていた。

「ママずるいわ、私がお話しするの!
ね、ココちゃんっていうの?わたしヨハンナ。よろしくね」
女の子は、ココより三つくらい年下に見えた。
それでも、いっぱしの女性らしい口調で、嬉しそうに、ココの手を握ったまま、その白い手に頬ずりしている。
「ヨハンナ」
「ママは黙ってて。ね、ココちゃんは天使なの?わたし、初めて見るから分からないのよ」
ヨハンナという女の子は、少し赤い茶色の髪を、くりくりとさせて、大きな青い瞳でココを見つめた。可愛い。

「てんし?ココは、ブランカなの。ちょっと、出来損ないだけど」
「ぶらんかって、なに?天使のこと?」
「てんしって、えと、わからない。ココ、ブランカなの。翼が一個しかないから、大人になれなくて、出来損ないなの」
「分かった、ブランカって堕天使のことかな」
「ヨハンナ、それは失礼よ、だめ。ココがブランカだって言うんだから、ブランカって思えばいいのよ。きっとね、人間が勝手に天使って呼んでいるだけなのよ」
「だって、天使みたいだもの!」
ヨハンナは、頬をぷくっと膨らめて、ママを軽く睨んだ。
そのぷくっとした顔が、なんだかカータを思い出させた。きれいなカータ。
いつも、美味しいパンを焼いてくれた。チーズも乗ってた。
おなか、すいた。

「ココ、てんしでもいいよ。ココ、おなかすいたの。ママもヨハンナも守人なの?」
「守人?私たちは人間よ、あなたが天使なら、分かるでしょ?」ママが言った。
「うん?ママね、守人の先生に似ているの」
「ココがママって言うの変よ。ママはヨハンナのママなんだから」
「?ママはママじゃないの?ママっていわないの?ココはココって言うよ」
ヨハンナは、目を丸くして、ココを見つめた。
「ココ、ママって知らないの?名前じゃないのよ。お母さんのことよ?」
「ままはいないの。おかあさんもしらない」
「お話は食べながらでもできるわ。こっちへいらっしゃい。一緒に夕食にしましょう」
ココは、ヨハンナに手を引かれて、ついていく。
なんだか、変な感じ。
ヨハンナは丁度、ココと同じくらいの背で、翼がないから守人だろうけど、でも、守人なのにエノーリアを知らない。変なの。人間っていう、守人がいるのかな。


小さな家は、炊事場と居室が一緒になっていた。
ガスコンロの上では、なべが火にかけられ、白い蒸気がコトコトとふたを鳴らす。
そのいい香りに、ココはすっかりうきうきしてきて、椅子に座って足をパタパタしていた。
「ねえ、ココちゃん、ずっといてね」
「ん?」
ヨハンナがココの隣で、パンをかじりながら言った。
「そうね。きっと、ココちゃんは、パパからの贈り物なのよ」
「ママ、ココちゃんを贈り物なんて、失礼よ。それに、パパはもう天国なんだから」
ヨハンナが青い瞳を細めて、口を尖らせた。その口調が、とてもその年齢の子供らしくなくて、ココは、自分より年上なのかな、それとも、守人の子供はブランカと違うのかな、などと考えていた。
ヨハンナが小さく、ため息をつく。
「ママ。パパはきっと、私たちを見守ってくださっているけど、
私たちはそれを胸にしまって、ニコニコしていなきゃいけないんだから。学校の先生も言ってたわ」

「ヨハンナ。そんな、悲しいことをいわないで。ママはパパのこと忘れたりできない」
ヨハンナは、プクと頬を膨らめた。
「パパ?」
「うん、うちのパパ、去年の秋に、死んじゃったの。ご病気だったんだって。それでね、…」
「ヨハンナ!」
皿にスープを取り分けていたママが、大きな声を出した。
ココはビックリして、パンを取り落とした。

「パパのご病気の話はしないでって言っているでしょう!」
険しい表情は、別人のようだ。
ヨハンナは、小さな眉間にしわをちょっと寄せて、うつむいた。
「…ごめんなさい」
ココは、二人を交互に見つめた。
シェインと、カータが言い争うのと、ちょっと違う感じだった。
シェインたちの喧嘩は、いつも楽しかった。最後に、ニコニコ笑った。
「ヨハンナ、笑って」
ココが、そっとヨハンナの肩に手を乗せた。
ココを見た瞳に、大粒の涙が浮かんでいた。

「いいのよ、ココちゃん。気にしないで。ヨハンナったら、大人のまねばかりして」
ママがココの隣に座った。
小さな四角いテーブルに、ママとヨハンナが向かい合わせ、その間にココがいた。
うつむいたまま、涙を拭くヨハンナと、ココの髪をしきりになでてニコニコするママ。
不思議な気持ちだった。
「ココちゃん。天国で、あの人に会ったのかしら?どんな様子なの?あちらで元気にしているのかしら」
「えと、あの人って、パパのこと?」
ココは困った。
「ええ、あの人、優しい人だから、きっと、天国でもみんなを助けて、幸せにしているのでしょう?」
「…あの、ココ、えと。分からない」
ココを見つめるママの顔が、少し怖くなった。
「そんなはずないわ!思い出して、ココちゃん、ハンスっていうのよ。ね、思い出して」
「ママ、止めて!天国が本当にあるかどうかも分からないじゃない!
ココちゃんが知らなくたっていいじゃない!
もう、パパのこと言うの、止めて!パパはもうとっくに死んじゃったんだから、もう忘れて…」
ヨハンナが立ち上がった。
その顔は、涙でくしゃくしゃだ。
パン!
ママの手が、ヨハンナの頬を叩いた。
びくりと、ココは怯える。
「こうして、ココちゃんが目の前にいるのに、お前は天国を信じないというの?教えを信じないというの!」
「…ママ、だめだよ、痛いよ、そんなことしたら」
ココが椅子から立ち上がると、立ち尽くしたままのヨハンナを抱きしめた。
ヨハンナの肩は震えている。
「ココちゃんは黙っていて。ヨハンナは、もうパパのこと忘れたいっていうのよ!この子は、パパにあんなに可愛がってもらったのに、何て恩知らずなのかしら」
「ふ…え」

ココは、どうしていいかわからなくなって、泣き出した。
それを見て、ヨハンナも黙って泣き出した。

ママは、大きくため息をついて、立ち上がり、二人のそばに座って、言った。
「さあ、もう寝なさい。ちゃんと歯を磨いて、お祈りして。ね」

ヨハンナが黙ったまま頷いて、ココの手を引いて、バスルームに向かった。
見よう見まねで、歯を磨き、ココはハミガキの味にむせる。
「ごめんね、ココちゃん」
ココの背中をさすりながら、ヨハンナが笑った。
「ママね、昔はもっと優しかったの。パパが死んでから、ちょっと、寂しいのよ。パパのこといつもお話しするの。でも、病気のお話だけは嫌がるの。ママ、寂しいのよ」
そういって笑うヨハンナの笑みも、とても寂しそうだった。

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片翼のブランカ 第19話

第3章 アースノリア

1988年。
その年の雪は、例年になく多く、ヨハンナの住む村も、雪の処理に追われていた。
といっても、田舎の村。家の半数は、夏の間の別荘のようなもので、今、この冬の時期に、村に残っているのは、ほんの数家族だけだった。
ヨハンナは、今年七歳になる。
お母さんのロザーナと二人で暮らしていた。決して裕福ではなく、だから、冬の厳しい季節にも、ふもとの村に下りることができない。
二人で、蓄えた食糧と、週に一回商品が入荷される、小さな雑貨店の野菜とチーズで細々とつないで、冬を越す。
後一月、雪の季節を耐え抜けば暖かい春が訪れるという時期だった。
この頃の、ヨハンナの日記には、山で拾ったココについての記述が、克明に記されていた。
それは、後に、ブッフェルト教授の興味深い事柄を書きとめた文書の一端を埋めた。
教授のそれは、このような書き出しで始まっていた。

翼を持つ子供。
ココは、1988年3月10日、スイスのルツェルン地方の小さな村、リッツデールで、発見された。
発見者はロザーナ・エンゲルス、ヨハンナ・エンゲルス親子。
彼女らは、ふもとの都市エンゲルベルクとの山道が解禁されるまでの雪の季節、ずっと、その天使を、かくまっていた。敬虔なカトリックであったエンゲルス親子は、この来訪者を、本当に天使だと思っていたらしい。少し無邪気なところのある母親は、夫の死後、深く信仰にはまり込んでいて、それが彼女の判断を鈍らせたと考えてもいいだろう。
私が故郷であるリッツデールの初夏を満喫するため、その村に着いた3月21日、騒動は始まっていた。
教会の牧師が、3月18日、村に戻ると同時に、いつもどおり祈りをささげに来た母子は、傍らに小さい子供を連れていた。
その、銀色の髪、金色の瞳の小さな子供は、翼を持っていた。
それは、当然、牧師を驚かせた。
母子は、牧師も喜んでくれると思い込んでいて、まさか、そんな騒動が起ころうとは思いもしなかった。
それほど、彼女たちは、ココというその子供を気に入っていた。
私がその天使と、いや、子供と出合ったのは、エンゲルベルクから車で4時間かかる村に到着して早々のことだった。
まるで待ち受けるかのように、私の小さな家の前で、牧師と村長とが、立ち尽くしていた。
私の職業や、研究内容を知っている彼らは、私にその子供の判別を、依頼してきたのだった。
あれは、まだ、夕刻の風が冷たくそよぐ時期だった。
メイドのシュナイダーさんが、片付けもたくさんあるのにといやな顔をしていたのを覚えている。ドイツ人のシュナイダーさんは、「エンゲルベルクから、やっとのことでリッツデールまで来たって言うのに、天使騒ぎだなんて、悪い冗談ですよ」そういって、やせた顔をしかめて見せた。敬虔なカトリックの彼女にしてみれば、エンゲルベルクの「天使の里」という地名もさることながら、そこに近い村に天使がいるだのというゴシップまがいの騒動を、冒涜とすら受け取っていたかもしれない。

案内され、教会の奥の一室で、その子供を見たときには、その子供は泣いていた。
小さく、床に座り込んで、震えていた。
白い綿入りのコートを着て、頭には耳あてのついたピンク色のニット帽。足元のムートンのブーツは、少し大きいのか、ぶかぶかだ。例の翼はコートの下らしく、分からなかった。
悪しきものには、見えなかった。
村長や村人は、ロザーナとヨハンナを、彼女らの家に閉じ込め、子供と引き離した。
このところ、あまりいいことのないこの村の出来事を、あからさまにその子供のせいにしたうわさを流したり、母子が貧しいこと、日頃から少し普通以上に信仰していることに対して、その正気を疑ってみたり。
とにかく、小さな山の村は、疑心暗鬼で満ちていた。
私は、幼馴染のロザーナの様子を、心配していた。

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片翼のブランカ 20

ココが、連れてこられたのは、ヨハンナのおうちからすぐ近くの、緑の屋根の白いおうちだった。
庭に、きれいな花のプランターを並べていた、金色の髪の女の人が、先生にお帰りなさいと言った。とがった鼻、とがったあご、薄い唇と細い瞳。きりっと結い上げた髪は、小さな頭に張り付いているようだ。
ココを見て、少し首をかしげて、それから、じっと見おろした。
「こんにちは!」
ココはヨハンナに教えてもらった言葉を使う。
「あ、こんにちは」
驚いたまま、挨拶を返すメイドに、ブッフェルト教授は笑った。
「ココ、シュナイダーさんだ。おいしい食事を作ってくれるんだよ」
「!ごはん!お腹すいた!すいた、すいた!」
ココがニコニコするので、教授は面白そうに笑った。

それは食べたことのない、美味しいものだった。
ココが上手くスプーンを使えないために、テーブルの上がべたべたになった。
シュナイダーさんが、じろじろとにらむ。
ココはそんなことお構いなしで、ニコニコ笑って、もっともっとと、暖かいとうもろこしのスープをせがんだ。
「ちょっと待って、テーブルを一度綺麗にしましょう」
シュナイダーさんが布巾を取りに、キッチンに向かう。
「あのね」
振り向くと、銀色の小さな子供がついてきていた。
「ヨハンナにもあげるの、ママにも。美味しいから」
ニコニコ笑うあどけない表情。汚れたままの小さな手で、シュナイダーのエプロンをつかむ頼りなさが、なんともいえない気分にさせる。
「お隣にはお隣のお夕食がありますよ」
「やだ、これ、おいしい。ママ病気だって先生が言ってた。ヨハンナもお腹すいているよ」
その姿に、神経質なはずのシュナイダーさんも、嬉しげに言葉を返していた。
「後で、持って行きますから。あなたも、あんまり食べ過ぎると、お腹を壊しますよ」
「こわす?」
「そうです。痛くなりますよ」
「…」
不意に、ココの表情がくもる。丁度、様子を見に、教授もキッチンに入ってきた。
「おや、どうした?どこか痛いのかい?」
「ココ、痛いって言ったのに、だめだった」
「何がだい?」教授が笑う。ココを抱き上げた。

「えと、守人はね、ココが痛いって言うと、ココに悪いことできないの。ブランカを傷つけちゃいけないからだって、シェインは言ってた」
「守人?」
「うん。シェインは強い守人なの。言葉に力があるんだって。でも、シェインも契約でブランカをいじめないの」
「ココ、私にはよくわからないな。少しずつ、教えてくれるかい?」
ココは少し胸を張って、嬉しそうに笑った。
「うん。ココのお話、面白いってヨハンナも言ってた」
「そうかい。ヨハンナのことは好きかい?」
ココは、またどきどきした。
頬が赤くなる。
ココをテーブルの席に座らせて、先生は優しく見つめている。
「大好き」
「おやおや、恋をしているのかな?」
ココは首をかしげた。
「こい?」

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片翼のブランカ 21

ココアのコップに手を伸ばそうとして、毛布をもこもこしているココに、シュナイダーさんが微笑んだ。
「たぶん違うのよ、ココ。あなたの言っているお友達のラクっていう鳥と、教授が言っているのとは」
「そうだな、どう考えても、ココが生まれた頃にはその種は絶滅していた」
「ぜつめつ?」
「ココ、この世界には、いろいろな種類の生き物がいる。それは分かるね?」
ココはうなずいた。空角のラタを思い出した。
「それらはね、環境や、生態の特殊性によって、ずっとその子孫を後世に伝えるものもあるが、著しい環境変化に耐えられず、絶滅してしまうこともある。」
「ぜつめつ」ココは顔をしかめた。よく分からない。
「そうよ、ココ。たとえばね、朝見た白い蝶々。あれと同じ蝶々が、一匹もいなくなってしまうことを言うの」
「さびしい」
ココはドキドキした。ラクがいなくなったときを思い出した。
「そうだな。それは自然淘汰ともいえるし、人間の仕業とも言える。なんともしがたいことだ」
「ココ、もう寝なさい。ほら、ココア飲んだら、ね?」
うつむいて泣き出しそうな顔をしている子供に、シュナイダーさんが言った。
「子供が考えても仕方のないことですよ。明日、ヨハンナも来るわ。ね、きっと楽しいわよ」
ココはにっこりする。ヨハンナの大きな青い目を思い出す。ヨハンナ、大好き。
「ココアおいし」
「ええ、そうでしょうとも」
シュナイダーさんが、カップを抱えたままのココを寝室に連れて行った。
「種…か。ブランカ、新しい種…」
ライアン・ブッフェルト教授は、あごをなでる。
ブランカと言う生き物が、なにかの新しい種なのだろうか?ラクとやらが、新しい種だったように。
ココの、翼は本物だった。ココの全身の骨格は翼を使って飛ぶことを意味していた。人間のそれよりずっと軽い構造になっている。骨が少ない。片翼でなければ、ココも羽ばたくことができただろう。
片翼のために、筋肉の発達に偏りが見られるが、歩き方もまっすぐだし、それほど大きな問題でもないような気がする。足首から先はネコ科と同じ。爪の形態から、よりライオンに近いように思われた。翼が体重の半分を占める。その重い翼を支えるに足る、強い骨格が足には必要ということなのか。手や顔は人間と同じだろう。肘から先が、少し長いような気もするが、形態分類に影響するような差でもない。人間の個体差のほうがずっと多様だ。

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片翼のブランカ 22

<<…美味しい食事は幸せにしてくれます。
ステキな物語はココロを満腹にさせてくれます。
ココちゃんのお話、美味しくいただいてくださいね。
ココちゃんの冒険、第22話です!>>


食卓を五人で囲んで、にぎやかな楽しいランチになった。
普段静かなシュナイダーさんが、張り切っているのだろうか、たくさん話した。
たいていは、教授がジュネーブでいかに日々の生活に無頓着で、研究に没頭すると食事を取ることも忘れてしまうかというような、面白い話だった。
教授は、始終照れたり、反論したり、顔を赤くしたりして、楽しそうだった。
ヨハンナは、じっと、笑っている母親を見上げていた。そして、教授の顔を見つめていた。
ココは、そんなヨハンナの顔を見ていた。
「ヨハンナ、お話しよう!」
ココがヨハンナが食べ終わるのを見て、その手を引っ張った。
「うん」
「あらあら、後でおやつを持って行ってあげるわ」
シュナイダーさんは二人が席をはずすことを喜んでいるようで、ニコニコ笑って言った。細い目が余計に細くなっている。
二人はシュナイダーさんに肩を押されて、二階にある、小さな白い部屋に行った。
「ココちゃんのお部屋?」
「うん」
ココは、ベッドのフワフワに寝転んだ。
「いいなぁ」
ヨハンナが、スカートにつけた、小さなエプロンを握り締めて、ココを覗き込んだ。
「じゃあ、半分こしよ」
ココは、ごろんと転がって、ベッドを半分あけた。
「うわ、ふわふわ!うちと違う!」
ヨハンナもココの隣に寝転んだ。
「ヨハンナね、ココちゃんに会いたかったの。ママがココちゃんがいないってずっと泣いていて、かわいそうだったの」
「ココも会いたかった」
ヨハンナはうつ伏せで顔の下に腕を組んで、あごを乗せた。
その横顔が、気になって、ココはずっと見つめていた。
「あのね、ヨハンナね、ここに住むんだって」
「ママは?」
「ママも一緒。最初はね、病気だからって遠い町の病院に入院するんだって言ってたんだけど、ブッフェルトさんが一緒にこないかって言ってくれたの。ママ、迷ったんだけど、ココちゃんがいるよってヨハンナがいったら、じゃあって。ねえ、ココちゃん。ママのおそばにずっといてあげてね」
ココは、なんだか不思議な気分になった。
「ココ、ママのそばにもいるけど、ココ、ヨハンナのそばにいたい」
ヨハンナの、大きな目が、ココを見つめた。
「ココちゃん、優しいね」
「うん?だってね、ココね、ヨハンナのこと大好きなの。えと、恋なの」
どきどきしていた。きっと、顔も赤くほてっている。
ヨハンナが隣のココを見て笑った。
「ヨハンナもココちゃんのこと好き!大好き」
そういって、ごろんと横になって、ヨハンナが手を伸ばした。
ココも同じようにごろんとして、手をつないだ。
向かい合っている。
ココが笑うと、ヨハンナも笑う。
どきどきした。

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片翼のブランカ 23

<<ども、管理人らんららです!『片翼のブランカ』とうとう、第23話まで来ました(^^;)あっというまでした。
走り抜けるように書き進んだ作品です。
あと少しだけ、ココちゃんにお付き合いください!応援してあげてください(>_<;)>>


絹の白さで、シェインは目を覚ました。
先ほどの部屋だろう。耳元に、ぬくもりを感じる。
「シェイン…」
カータだった。
床に横たわったシェインを、膝に抱き、薄い青い瞳に涙を浮かべていた。

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片翼のブランカ 24話

<<ココは、なぜ殺されなくちゃならないの? ココちゃんの冒険第24話です!!>>
「ルーノが言っていましたね、ココを殺すことでより多くの命を救うと」
苦々しく、ルーノを睨み付ける。
シェインの傍らに膝をついていた、カータが立ち上がった。
そっと、シェインの手を握る。

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片翼のブランカ 25話(最終回)

<<ココちゃんの冒険も、終わりが近づいてきました。
皆さんに「ココちゃん可愛い」と、応援していただきました。
このお話とかわいらしいココちゃんが、皆さんの心に何か残してくれること、らんららも期待しています。
さあ、ココちゃんの冒険第25話、最終話です!!>>



第4章  転生

そっとなでる、カータの手の下で、ラタが、ピクリと動いた。
それは、彼の意思には関係なく、ただ、命の最期の瞬きだったような気がした。
急速に生気を失っていく瞳。黒く、潤んだそれは、今は、何を見ているのだろう。
かつての、シェインと見た下層の景色だったのかもしれない。
カータは、泣いた。
自分が、ルーノに命じられたとはいえ、フウガもまさかラタがこうなると思っていなかったとはいえ、自分に力があれば、こんな事にはならなかった。
ラタは、生まれた時から、シェインと一緒だったという。この、神殿で生まれたのだ。少年の頃の彼が、初めて所有した、空角。
神殿の慣わしで所有したけれど、相棒なんだと、言っていた。可愛がっていた。
「契約を解いてあげればいいものを…」
ポツリと、カータとともに覗き込んでいた、白い衣装の医官が、穏やかな小さな目をしばたいた。
「違うわ、シェインは所有の契約を、あなた方のようには使わない。ラタは契約がなくてもきっと、そばにいた。契約することで、ラタを守ることができる。相手を操るための契約では、ないのよ」
「立派なことを言っても所有していたことに変わりはない」
ルーノがラタの横で、膝をついて様子を見ていた。
「触らないでよ!」
「黙れ」
カータは動けなくなる。
「どうして、そんなに、シェインを憎むの?兄弟、なんでしょ?」
カータは震える手を、胸元で握り締めた。
すぐ横に、ルーノの整った、しかし冷たい顔が見える。
「憎んでなどいない。蔑んでいるだけだ。あれほど、期待され、老にも可愛がられ、朱席にまでなっておきながら、神官の身分を捨てるなど。
あきれる。当時、緑席だった私は、許せなかったよ。彼と私は異母兄弟だ。彼の母親は私の父の所有の契約を裏切り死んだ。
同時に、父も第一の契約により亡くなった。それでも、神殿では大切に扱われてきたものを、裏切るなど」
「…昔から、憎みあっていたのね」

「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-89.html

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