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「宙の発明家」第二章 二.父親①

★★さあ、連載再開です!お休み気分はすでに、ふっとんでいますよ!らんらら、全開です!!★★

「宙の発明家」第二章二.父親

ちょっと間が開いたので、前回までのあらすじです!

宙(そら)の世界に一人で置き去りにされた少年クラフ。いつか、自分のいた世界に帰りたいと作っていた飛行機の存在を知られ、監禁されることに。
ところが、警備兵の死体を残して、監禁されているはずの彼は行方が分からなくなってしまった。
クラフの世話をしていたセキア、一緒に飛行機を作っていた友達カカナとピーシ、そして、リスガ。皆がクラフのことを心配しています。
クラフは無事なのか?
なにが起こっているのか?

続きから、どうぞ!

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「宙の発明家」第二章 二.父親②

★★★らんららです。久しぶりにゲームを始めました!ふふ♪いえ、のめりこんでいて更新遅れたわけじゃないです、決して、けっして…(><)
一日おきくらいにちょこまか更新しますね!小説の更新のないときに、たまには日記らしきものとかも、やってみようかなぁ…★★★



しばらくブール候が消えた扉を見つめていたが、クラフはそっと扉に近づいてみる。
大きな木の扉。開こうとしたけれど、取っ手はびくとも動かなかった。
空にしたカップの底を扉に、反対側に耳を当てて、音を聞く。人の気配はない。
クラフは室内を見回し、ベッドの棚にある時計を手に取る。毛布をかぶって、見えないようにしながら、分解する。長針をはずすと、残った部品を隠し、再び扉に近づく。
扉の隙間からは留め金は見えない。取っ手の根元にある、金属の小さなネジを、器用に外した。取っ手が根元から取れる。その下にある、鍵の部分を分解し始めた。
時計の長針を口に軽くくわえながら、いつもの作業のように淡々とこなす。
カチ、と扉を固定していた金属の棒を外した。
そっと開く。
隙間からのぞいてみたが、あまりよく見えない。
思い切って外に出た。
そこは、二階の部屋のようで、部屋の前に廊下、廊下の向こうは吹き抜けになっていて、木で作られたきれいなフェンスの下をのぞくと、一階の居間が見える。派手な模様の絨毯、大きなソファー、ラウンド型のテーブル。居間の扉の脇から、階段があって、ここに上れるようになっている。そのまま視線を、階段から自分の閉じ込められていた部屋、そして廊下の奥へと移していく。クラフのいた部屋の隣に同じような扉。廊下の突き当りにも、これは少し大きめの両開きの扉がついている。主寝室、といったところだろう。とりあえず、そこからのぞいてみる。

鍵がかかっていた。隣の部屋も。
仕方なく、そっと下の階に降りてみる。ふかふかした絨毯のおかげで足音が響かない。ちょうどいい。
はだしの足に、気持ちいい。
階段を途中まで下りたところで、人の気配を感じて、座り込んだ。
居間の奥から、ブール候が出てきた。出かけるようで、黒いコートを着て、帽子をかぶっていた。
クラフは小さく縮こまって、男の後姿を階段の上から見つめる。
男は振り向きもせずに、居間から出て、少しして、外へ出たのだろう、扉のしまる音がした。
クラフはじっとしていた。
息を潜めて。
室内はどの窓も、厚いカーテンが閉められていて、薄暗い。他に人はいないようだ。
探検を続けた。
居間を見回して、隣のキッチンを見る。さっき、クラフが食べた、食器が、そのまま捨てられていた。世話をする人を呼んでいないのだろう。外から運んできたらしい。キッチンの炊事場は使われた様子がなかった。
「そういえば、デザートなかったじゃないか」ぶつぶつと、文句を言う。
ここには、普段人は住んでいないんだ、クラフはそう判断した。
でも、カカナの子供部屋。肖像画。
昔住んでいた家、ということかな。確かに、この街を代表する政治家の家にしてはさほど大きくも贅沢でもない。
キッチンから、隣の洗面所。鏡を見たら、殴られた傷が頬に赤く残っている。
顔を洗って、くしゃくしゃの髪を整える。
洗面所の、小さな窓。
緋色のカーテンの向こう、クラフはそっと外を見てみようとした。
カーテンの隙間から漏れる陽光に、目を細める。
慣れれば、見える、かな。
目を閉じたまま、そっとカーテンを開く。まぶたの向こうが真っ赤になって、それだけでもじりじりと痛い気がする。しばらく、我慢して、そっと目を開けてみる。
「うわ」
目を押さえた。
白い。
慌ててカーテンを閉じ、座り込んだ。
暗がりでもしばらく目が見えない。
真っ白。
そのうち、だんだんうっすら見えるようになる。
意味もなく、息が荒くなる。鼓動が、とくとくと耳を打つ。
見えない。
ランドエンドに旅したときも、まだ明けきらない朝日をまぶしく感じた。
あの時も嫌な気分になった。




皇宮での昼食会には、大教皇も、セキアも同席していた。
客用のさほど広くない一室で、五人はテーブルを囲んだ。
皆、話したいことはたくさんあるのだろうが、セキアの放つ威圧感が、無口にさせる。
「くーちゃんが心配よのう」大教皇が、白身魚のベリーソース焼きをつつきながら、つぶやいた。カカナとピーシはくーちゃんという聞きなれない呼び名に一瞬誰のことか分からず、そちらを見つめた。
「くーちゃんが自分から逃げ出したのか、何者かに誘拐されたのか、今だ確証はなくての」
大教皇が、ひげについたソースをナプキンで拭き、話はセキアが引き継いだ。

「クラフさまが行方不明でも、公に捜索するわけにはいかないのです。それはお分かりですね」
皆が頷いた。

「賢老士会がクラフさまの身柄の拘束を決め、その処置の途中でクラフさまが行方不明になった。責任は賢老士会そして、処置を任されていた那迦の街にあると、彼らも認めています。ただ、先日臨時の会合が終わったばかりで賢老士たちはそれぞれの街に戻ったところですし、昨夜の出来事を至急知らせるにしても、七人の賢老士を再び集めるとすれば明後日以降になる。そこで、一番動きの取れるこの那迦の街の賢老士、つまりピーシ様のお父上が、捜索のために守護士を数人派遣されるようです。その旨、各賢老士には事後承諾となるでしょう。セクトール候も場合によっては、黒馬も辞さない覚悟のようです」
「くろうま…って、なあに?」
リスガが、首をかしげた。
セキアがふと笑う。カカナが、隣でリスガの肩に手を置いて話し出した。
「リスガ、『黒馬』っていうのはね、夜、公の活動することを言うんだ。宗教で禁じられているから、普通は皆昼間しか動かないだろう?それを侵してまで行動しなければならない公の事由が発生したときにのみ、許可される。賢老士と大教皇様の命によってね。内容や誰という特定なものがいるわけじゃない。禁じられた夜の間に行動することを、『黒馬』と、呼んでいるんだ。
これは、賢老士会、司教会、ともに位の高いものは知っているんだ」
「ふうん」自分だけが知らなかったことに気づいて、リスガは少し口を尖らせる。
「ということで、司教会は聖騎士を派遣することは出来ない状態にあります」
セキアの言葉の最後は、怒りがこぼれかけている。まったく手をつけていない昼食は冷め切っている。

「もし、無事にもどっても、また、監禁かのう」
大教皇は憂鬱な表情で、デザートの果物に手を伸ばそうとする。少し遠くて届かない。セキアが無言のまま、果物の皿を近くに動かす。
「ふむ」
満足そうに葡萄を一房取ると、大教皇はひげをなでた。
葡萄の紫が白いひげに残る。
「大教皇様…」
セキアが布巾を差し出す。
「飛行機、面白いのにのう。何も危険などないのに」
大教皇はぶつぶつと、独り言にしては大き目の声で話す。
「あの、お父様」
リスガが口を開いた。
「あの、私が話したんです」
亜麻色の巻き毛が、今は華奢な肩に柔らかに落ち、漆黒のベルベットの上着に施された刺繍をすかしてきらりと光る。流れるような美しい髪はそのまま、柔らかな丸みの胸の曲線に沿って、揺れる。
どうしてもそこに視線が行くのは、この席にいる全員が男である限り、仕方ないことだろう。
カカナだけは、リスガの顔色を気にしていた。
「私、大聖堂で、ブール候に会って、その。お話したんです、だって、お父様も候とは仲良しだったし、カカナのお父さんでもあるし、だから、クラフは今何を作っているのって聞かれて…飛行機のこと、話したの。私なの」

リスガの顔色が優れなかった理由を、カカナは理解した。
「リスガ、いいんだ。君にそんな風にかばってもらっては、黙っているわけには行かないね」ふと息をついて、カカナは微笑んだ。
「カカナ!」
リスガは自分の犯した失敗に気づき、口を手でふさいだ。すでに、遅かったのだが。


<<クラフがんばれ!考えてみれば、宙に来てはじめて、一人っきりになったのかも…(@@)>>

 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章 二.父親③

「宙の発明家」第二章 二.父親③

カカナは、持っていたナイフとフォークを静かに置き、ナプキンで口元を軽く拭くと、一つ息を吐いてから、言った。
その場の、全員を見回して。

「僕が、父上にクラフの飛行機のことを話しました。
すみません、父上は、大教皇様とも話し合って、僕たちにクラフの新しい発明や知識を学ぶよう計らってくださっていて。だから、僕は、父上がまさか、クラフを賢老士会に諮るようなことをなさるとは想像できなくて。
僕の落ち度です。セキア、すまなかった。大教皇様。すみませんでした」
立ち上がって、深々と頭を下げるカカナ。
ピーシが立ち上がって、肩に手を置いた。
「カカナ、君は悪くないよ!」

大教皇は目を細めて、穏やかに笑うと手をパンと一つたたいた。
「よいかの。カカナ、ピーシ」
二人は姿勢をただし、大教皇を見つめた。
「カカナの言う、ブール候の気持ちはわしも知っておった。この世界のこと、クラフはわれらの知らぬことを知っている。この世界を背負う若者が、知っているべきだろうと考えたのも事実じゃ」

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「宙の発明家」第二章 二.父親④

★★★らんららです!最近食べすぎです。年末の大掃除に、邪魔だと言って体重計をしまいこんだのが、いけませんね…でも、今更、出すのも怖い…(><;)
さて。カカナくんの決断はいかに?★★★


「僕ら、考えたんです」
ピーシが、コーヒーを苦そうに飲み下すと話し出した。
「クラフの誘拐のことは、僕らではどうしようもないけど、クラフが戻ってきた時に前みたいにいられるようにしようって。そのために、僕、お父様と話して、賢老士会の決めた監禁を解いてもらえるように頼んでみます。カカナも、同じように、話してみてくれるって言うので」

デンワで、クラフと何を話したかは分からない。けれど、必要なことであればカカナが明かす。ピーシは、それまでは、様子を見ることにした。

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「宙の発明家」第二章 二.父親⑤

★★★らんららです!久しぶりに一人っきりの休日(^▽^)
わーい!自由だぁ!!
小説書くぞ!ゲーム進めるよ!美味しいおやつ食べて、ごろごろして。イラストも描いちゃおう!!ああ(><)幸せデス…★★★



「よし」
クラフは、最後の秘密の扉を開けることに成功した。
二階の一番奥の、主寝室だ。
そこだけ両開きの大きな扉で、鍵も丈夫だった。
途中で、時計の長針は曲がってしまったので、キッチンに戻って、代わりにトングのバネ部分を外してきた。

そっと、開く。
中は暗かった。

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「宙の発明家」第二章 二.父親⑥

★★★らんららです!ブール候の悪行ぶり(?)はまだ続きます…(><)がんばれ!クラフ!!★★★


「……わかったから、造るから、教えろ。何に、使うんだよ」
クラフの言葉に、ブール候は口の端をゆがめるようにして笑った。
ぎらぎらして見える瞳、額にかかる乱れた前髪。
クラフは唇をかみ締めた。口の中に血の味が広がる。

「この世界をまとめるのだ」

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「宙の発明家」第二章 二.父親⑦

すぐに先ほどの若い騎士が出てきた。
表情は厳しい。
ピーシは口をぎゅっと結んで、一歩前に歩き出した。
「あの」
言いかけた騎士を素通りし、ピーシは執務室に駆け込んだ。
「!ピーシ様!!」
慌てる騎士の脇を寸前ですり抜け、さらに追いすがる騎士の目の前に無理やり扉を開いて、けん制すると、執務室に滑り込む。正面には大きな衝立。奥は見えない。
室内にもう一人、側近が控えていて、ピーシはそいつに止められた。
「ピーシ殿」
側近は、幼いころから遊んでくれた男だった。背後からのぞく守護士に、目で合図し、先ほどの騎士はほっとしたように扉を閉めた。
「お父様に、あわせてくれ!」

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「宙の発明家」第二章 三.黒猫①

★★★一人救出を待つクラフくん、父親と対峙したピーシ、そして救出に向かうセキアとカカナ…クラフくんのいない一日が、終わろうとしています★★★

その頃、カカナとセキアは、迩史の街の宿に落ち着いたところだった。
外で夕食を済ました二人は、一番広い部屋に案内された。
広いといっても、辺境の街の宿。二つのベッドに小さなソファーとテーブルがついているくらいのものだ。それでも、主人は珍しい上客に自ら部屋を案内した。
「これはこれはカカナ様、このようなところによくおいでくださいました」
宿屋の主人はぼさぼさの眉に隠れている小さな目をニコニコさせながら、二人を迎えた。この街で、カカナのことを知らない者はいない。
「ありがとう、すまないけど、僕がここに泊まる事、父上に知られないようにしてほしいんだ」
カカナがいたずらっぽく片目をつぶった。
「あの、どうしてでございますか?」
驚く主人に、少年は笑った。
「突然帰って、父上をびっくりさせたくて。ほら、もうすぐ父上のお誕生日だから。毎年、きちんとしたお祝いもなされないし、父上も嫌がるんだけど」
「ほう、なるほど、なるほど」
嬉しそうに笑って、年老いた主人はブール候にと、お祝いの葡萄酒を一本カカナに持たせた。
窓から外を眺めていたセキアは、主人が退室すると、フ、と鼻を鳴らして笑った。
「葡萄酒もらったよ、セキア、飲む?」
カカナが悪びれる様子もなく、客間のテーブルに置いた。
「…なかなか、カカナ様もお人が悪いですね」

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「宙の歩き方」第二章 四.飛行機、友達、クラフ

第二章四.飛行機、友達、クラフ① :ただ、セキアがいないだけだ。一人ぼっちなだけ…
1/27更新!

第二章四.飛行機、友達、クラフ② :「セキア、強い!すごいぞ!」
興奮して、嬉しくなって、クラフは枕を投げたり、蹴りつけたりして応戦する…

1/29更新!

第二章四.飛行機、友達、クラフ③ :ふいに風が通り、枕から飛び散った白い羽と埃がいっせいに舞い上がった
1/31更新!

第二章四.飛行機、友達、クラフ④ :「セキアは、大丈夫?」クラフはセキアの腕に巻かれた包帯を見つめた…
2/1更新予定!

第二章四.飛行機、友達、クラフ⑤ :キタキは背中を見せたまま、思いにふける少年に、目を細めた。「お父上には、会われましたか」
2/3更新予定!

第二章四.飛行機、友達、クラフ⑥⑤ :向こうではクラフが毛布をぐるぐる体に巻きつけて、ソファーに座って縮こまっていた…
2/5更新予定!

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「宙の発明家」第二章 三.黒猫②

翌朝、カカナはピーシからの連絡を受けた。
デンワの向こうのピーシの声は沈んでいた。
「気にしないでさ。やっぱり、君のお父上は、怖いね、僕が何とか父上を説得するから。僕はセキアも一緒だし、何とかしてみるよ。でも、本当に、ピーシ、君のほうが心配だよ」
カカナは、自分のベッドに腰をかけている。
「ああ、本当に、気にしないでさ、ああ、じゃあ、また、連絡するから」
デンワを切ると同時にため息をつく少年に、セキアが声をかけた。
「ピーシ様、やはりだめでしたか」
「ああ、セクトール候は、話を聞くどころじゃなかったって。ピーシが僕らと一緒に飛行機を作っていたことを、セクトール候に黙っていたから、だから、怒っているみたいなんだ。でも、ピーシも逆にさ、もう親子の縁を切るとか言っていて」
そこで少し、面白そうな表情になるカカナに、セキアは目を細める。
セクトール候はそんなに単純な人間ではない。ピーシを突き放すのも何か意図があってのことだろう。情報を得るならば、騙してでも傍におかなければならないはず。

「無理だよね、僕らは、賢老士の親を持って生まれてしまったんだ、その権威の中で生きてきたし。いまさら、逆らっても無駄だと思うんだ」
「どうでしょう、ね」
セキアは静かにいい、テーブルに地図を広げた。何かを書いている。
「それに、父親と縁を切るなんて、さびしいよ」
「そうでしょうね。カカナさま、あなたにピーシ様ほどの覚悟が、おありになるといいのですが」
カカナはやっと気づいた。
セキアの表情は険しい。
「あ、ああ。そうだね。僕も、父上がもし、クラフを匿っているとして、そこからクラフを連れ出そうとしているんだ、それも、十分父上を裏切ることになるね」
「匿っているではなく、拉致されている、です。連れ出すではなく、助け出すのです」
「……セキア」
「いえ、結構です。場所を教えていただければ、私一人で行けます」
「!僕も行くよ!隠していたのは悪かったけど、僕だって、考えがあって」
「お父上を、裏切る行為ですよ?」
声が大きくなるカカナに対して、あくまでもセキアは冷静だ。それが余計に彼の怒りを感じさせて、カカナは納得がいかない。自分も悪者のように扱われては、我慢ならない。クラフのことを心配しているのは同じなのだ。
「分かっているよ!でも、父上は何か考えがあって、誤解かもしれないだろ?だから、僕はそれを証明したいんだ!クラフに、飛行機を作れって脅すなんて、父上らしくない!きっと何か理由があるんだ」
「脅す、ですか」
「あ…すまない、それも、言っていなかった」
「それでも、クラフさまがあなたを信じて、あなたに任せたのです。私も、手がかりはあなたの知る、その場所だけですしね」
わざとらしくため息をつくセキアをカカナは少し睨んだ。
カカナが、クラフからのデンワの内容をすべて話していなかったことを、セキアは責めているのだろう。気持ちは分かるが、カカナにも言いたい事はあった。
「仕方ないだろう。僕には、たった一人の家族なんだ、大切な、尊敬する父上なんだ」
「……クラフさまはお優しい」
「!」
思わず立ち上がるカカナを無視して、セキアは地図の距離を測る。
「カカナ様、クラフさまがいる場所は、おおよそこの円の範囲内のはずです」
セキアは彼らが昨日、通り抜けた、那迦の街と迩史の街をつなぐ唯一の城門を中心とした円を二つ描いていた。
「…」
「那迦の街からこの城門までは半日、夜の移動と考えれば、馬であれば三時間で走れます。そこから先、クラフ様がカカナ様にデンワしてきた時間が午後二時。あの殺された警備兵の死んだとされる時間から城門を通って、午後二時までにたどり着ける距離、それが、この円までです。カカナ様のおっしゃる、郊外の別邸は、このあたりですね。ぴったりです。ここなら、迩史の街の政府庁舎からもそう遠くない。お父上は普段は政府庁舎内にお住まいでしたね。守護士は何人ですか」
「セキア、僕のこと、疑っていたのか?」
「いいえ、確認したまでです」
「…セキアが、こんな意地悪なやつだとは思わなかったよ」
「申し訳ありません。私も、クラフさまも、命がけですから」
地図をさっと丸め、セキアは立ち上がった。その表情は、笑っているのか怒っているのか、計りきれない。カカナも、黙って、荷物を持った。


迩史の街。七つの街の中で、最も西に位置する。那迦の街を世界の中心と捉えれば、その中心を取り囲むようにして並ぶ六つの街。迩史の街は、那迦の街とほんの五十キロほど接している。そこに、セキアたちが使った城門が一つ。その二つの街の境から、東西に長く伸びた迩史の街の領土は東西に三百キロ、南北には百二十キロ。ちょうど、卵を横にしたような形だと説明すれば分かりやすいだろう。
その領土を囲う城壁のさらに外側に、苔池の地と山地が広がる。その先が果てだ。
以前クラフたちがランドエンドを目指したときは、街境の城門から最も近い距離を選んだ。あの時は迩史の街とすぐ南隣の南制(なんせい)の街との境付近を西へと向かったのだ。
今、セキアとカカナが目指す郊外は、あのときよりずっと北に位置する地域で、迩史の街の中心部を突っ切って、一日はかかるだろう。
カカナは、前を進むセキアの白馬を見ながら、ふとため息をついた。
父親に確認せず、とにかくクラフさえ保護してしまえば、なかったことに出来る、そう考えた。そうすれば、父親が罪に問われることも、危険な目にあうこともない。
そして、クラフだって、セクトール候の黒馬に見つかるより、なるべく早く、セキアに発見されるのがいいはずだ。
間違っていない。
カカナは、眉を不安げに寄せながらも、自分に言い聞かせていた。
間違っていない。

日が、高く上る頃、二人は迩史の街の中心部を通り抜けていた。
カカナは顔を知られているので、フードを深くかぶり、目立たないように進む。セキアは見るからに騎士だが、ここ十年、めったに人前に出ることをしていないために、道行く人に敬礼を受けはするものの、別段、注目を浴びることはなかった。
注意深くその腰の剣や、腕にある籠手の紋章を観察すれば、それがどれほど高い身分かが分かるだろう。黒髪を東風に揺らし、精悍な表情のセキアは、クラフと二人でいるときとは別人に見えた。カカナは、あの皆で旅したときのことを思い出していた。
あの時、まさか、こんなことになるとは、想像もしていなかった。やさしげで穏やかだったはずが、今のセキアの印象は恐ろしい。
ふと、前のセキアが馬を止めた。
こちらを振り返って、今朝の様子からは想像もつかない穏やかな笑みを浮かべて言った。
「カカナ様、この辺で昼食としますか」
「え、ああ」
セキアが馬から下りるのを、視界の隅に見ながら、カカナもひらりと降り立った。石畳の道は、改めて足に冷たい固さを感じさせた。
通りは、政府庁舎のある大通りに並行する細い通りで、かろうじて馬車が二台すれ違えるくらいの路地に、両脇にぎっしりと店が軒を連ねる。人通りの多い場所だった。特に昼前のこの時間はにぎやかで、あちこちで呼び込みの声や花売り、水売りの歌や掛け声が入り混じる。
目立ってはいけないのに、こういう道を選ぶのは、理由があるのだろうかとカカナは少し不思議に思いながら、セキアの後について、小さな食堂に入っていった。
店内は、すすけた感じのレンガ造りで、燻したような、深い色合いの木製の調度品が落ち着いた雰囲気だ。壁に馬の絵が飾られているところを観ると、馬のレースを趣味にしている店主でもいるのだろう。絵の中の白い馬が、一瞬、セキアの馬と重なって見える。
カカナは目を細めた。
カウンターに席を取ると、セキアは勝手に二人分、パンとソーセージ、カカナのためらしいフルーツのサラダを注文した。選択の余地がなかったことに、多少の不満を感じて、カカナは店主の挨拶にも無愛想に口を閉じる。正体を知られてもいけないのでそれはそれでよかったのだが。
軽く、炭酸の入った蒸留酒を、セキアは口に運ぶ。カカナは堂に入ったセキアの雰囲気に、少し対抗意識を持って、つい同じ飲み物を頼んだ。
「飲めるのですか?」
セキアにバカにされたように感じて、カカナは笑って見せた。
「僕だってもう、十七だよ、来年成人なんだ」
「…それはあまり、大きな声ではいえないことですが」
セキアは不思議な顔をして、次にふと笑った。
「あなたも、まだまだ、子供だということなのですね」
「!」
「少し、安心しました。お父上に似た資質をお持ちなので、警戒しないではいられなかったのですが」
出されたパンをちぎりながら、カカナは顔を少ししかめた。

セキアはカカナを、まるで政治家のようだと感じていた。
リスガがあの昼食の席で、カカナを庇おうとしなければ、自らが飛行機のことを父親に話してしまったことを、打ち明けはしなかっただろう。あの時も、丁寧な口調には反省の色も後悔の思いも見受けられなかった。昨夜の宿で微塵も本音を出さずに主人に嘘をつき、自らがクラフのデンワについて隠していた事になんの罪悪感もないように見えた。
クラフがカカナを思いやって、カカナのみに自らの居場所を知らせた、その真摯な思いをどれだけ受け止めてくれているのだろうか。
クラフの立場の弱さを説明しても、カカナの態度には依然、変化はない。悪びれる様子もない。父親を信じているのか。それとも、生来の人となりなのだろうか。
どちらにしろ年相応とは思えなかった。だから、セキアはピーシよりずっと、カカナに対して距離を置いていた。

「セキアは、ずいぶん失礼だよ。父上はいい人だ、警戒が必要など、理解できない」
無造作にサラダとパンを口に放り込む。
飲み物で流そうとして、少しむせた。
セキアがジュースのように飲むそれは、意外と辛く、喉を焼くアルコール臭がある。
顔を真っ赤にしながら、何とか飲み込もうとする少年の背を、セキアがそっとたたいた。
「クラフさまと、大して違わないようですね」
「!あそこまで子供じゃないよ」
苦しげに反論するカカナに、セキアは笑った。
クラフが行方不明になってから、初めての笑顔だった。
「なんで、そんなに笑うんだよ、セキア、なんだか、クラフの気持ち分かるな、すごく子ども扱いされている気がする」
「そうですか?」
「そうだよ」
カカナは、やっと落ち着いて、次は飲み物だけでもう一度喉を潤そうとして、また、むせた。
セキアは、くすくすと笑い、そして、目を細めたかと思うと、カカナの肩に手を回して、言った。
「本当に、無理しないでください……カカナ様、黒猫につけられています。このまま、目的の場所に向かうのは危険です。いったん、政府庁舎でお父上にお会いしましょう。そこで、様子を探ってからということで」
後半は、ひそひそ声になる。
「黒猫?」
「ええ、多分、セクトール候の手のものでしょう。宿からずっと、ですからね。われ等を見張って、クラフさまを見つけようということでしょう。ピーシ様、セクトール候に何かお話になったのかもしれません。今後、ピーシ様とのデンワは、気をつけてください」
「ごめん、黒馬は分かるけど、黒猫は…」
それに、ピーシがそんな迂闊なことをするとも思えない。カカナには、セキアが神経質になりすぎているように感じられた。
「黒猫は、闇に乗じて動くもののことです。馬があくまでも公の仕事であるのと比べて、猫は裏の仕事をするのです。猫は専属のものがおります」
賢老士の息子の自分が、知らないことなどないと自負していた所もあって、カカナは少し反感を覚える。
「…神の教えの裏をかいて、いろいろあるんだね。わざと夜の活動を禁じているんじゃないかって思えてくるよ」
セキアは穏やかに笑って、答えない。
「…そう、なのか?…それって、父上にもいるのかな」
「さあ、賢老士それぞれが密かに雇うもの、実態はご本人のみ知るところです」
「でも、セキア、気づいたじゃないか」
「さて、私も若いときには、猫であった時期がありますので。同業者は見れば分かりますよ」
「若いとき?」
ここで、カカナは声を普通に戻した。セキアは、わざと咳払いして、言う。
「いえ、今も、もちろん、私は若いですよ!」
「若者は、若いとき、なんて言わないよ」
笑い出すカカナ。
「失礼です!」
「自分だって、僕のこと子ども扱いじゃないか」
セキアも笑った。
カカナは、それが、黒猫の目を欺くための、わざとらしい演技であることを感じながら、今朝まで予定していた、もっとも理想的な解決方法が崩れつつあることに不安を感じていた。


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 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章三.黒猫③

「宙の発明家」第二章 三.黒猫③

★★★らんららです!最近すごーくすごーく、眠い!!職場で一日中眠い…昼寝のために仕事休みたい誘惑に駆られています!!
さて、セキアさんたち、どうするんでしょ?続きです(^^)★★★


食後は、馬を引いて歩く。
人ごみに紛れるとはこのことかと、カカナは感じた。
セキアが人通りの多いこの場所を選んで進む理由を理解した。

大きな声で呼び込みをする商人、駆け回る子供、雑踏はこれほど音を遮断する効果があるとは。引いている馬で、彼らの姿も隠しやすい。その中を進みながら、セキアは少しずつ説明してくれた。
彼らをつけてきている黒猫は、やせ気味の背の高い四十代後半の男。黒髪を短くし、頬に傷跡がある。小さな眼鏡をかけ、黒い裾の長いマントを着ている。
公に出来ない黒猫を使うということは、クラフを奪還、あるいは亡き者にする、それが目的だと考えられた。
つまり、もっとも事件を小さいうちに処理する方向だと、セキアは読んでいた。
そう語る厳しい眼が、一瞬、悲しげに見えて、カカナはふと、自分の胸に沈んでいる感情と同調した気がした。

なぜ、父親は、こんなことをしたのだろう。
それさえなければ、カカナ自身も、セキアも、クラフも、こんな思いをしなくて済んだのに。絶対的な信頼を置く、父親。たった二人の家族。母親の亡き後、カカナを大切に育ててくれた。疑いたくない。信じている。けれど、胸の奥にわだかまるものの重さが悲しくさせた。セキアのやりきれない怒りは、それに似ている気がした。
カカナは、父親にその疑問を、ぶつけたくなった。どうして、こんな思いをさせるのか。
どうして。
カカナは、セキアの先を歩き、迩史の街の政府庁舎に向かった。

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「宙の発明家」第二章 三.黒猫④

ふいに、思い出した。
「彼女と同じ、だ」
セキアは過去、クラフの世話をともにした女性を思い出した。若くして、病で亡くなった彼女は、いつもこの、甘い香りをさせていた。十年、たつ。
覚えている自分に、少し笑みがこぼれる。

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「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ①

合流したキタキ。二人の黒猫は、クラフを救い出せるのでしょうか…

郊外の家は、小麦畑に囲まれた、のどかな村にあった。回りには民家は見えない。
まだ、緑色の穂が風にざわとうなる。
月明かりがそれを照らし、まるで寄せる波を見る思いだ。
クラフは、窓から、家の周りを眺めていた。
(外を見ても目印があるわけではない、これじゃ、どこだ、なんて指定できない。本当に、バカだな、セキア)
そんなことを考えながら、家の周りに見える、見張りたちを数える。
増えていた。館の中の各部屋の鍵を、クラフがすべて開けてしまった事で、ブール候は館の外の警戒を増やしたのだろう。今、クラフのいる部屋には、鍵がかけられてはいない。
昼過ぎにブール候が出て行ってからは、家の中はクラフ一人きりだった。
二階の部屋、今は月明かりだけの部屋で、クラフは再びベッドに横になった。
抜け出すことは出来る。だからといって、それが何になるのか。
クラフにとって、あの離れにいた時となんら変りはない気がした。ただ、セキアがいないだけだ。一人ぼっちなだけ。

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「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ②

■■二人の黒猫。その、真意は…■■


「行くぞ」
セキアは潜んでいた小麦畑の中を、低い姿勢のまま走り出した。
「セキア様?」
「ブール候はお前が来ていることを知っている。わざわざ目立つのに馬車で来ただろう?明日にはクラフさまをあれで移動させるつもりだ。時間がない」
「…ブール候にお会いになりましたね」
「ああ」
麦畑の切れ目で、一度止まる。
「わざと、ほのめかしたのですか?われ等の存在を」
「さて、な」
セキアはふんと笑った。

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「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ③

「やめろ!俺、何でも作るから!セキアを殺すな!!…お願いだから!」


ふいに風が通り、枕から飛び散った白い羽と埃がいっせいに舞い上がった。傾いていた壁の絵が派手な音を立てて落ちる。

「父上!」
扉の前に、背の高い少年が立っていた。
煙と火薬のにおいに腕で鼻を押さえた。カカナだ。
室内を見回し、状況を把握した。
カーテンに残る炎に照らされ、室内は異様な様相を映し出していた。
必死にブール候にしがみ付くクラフの金の髪が、風とともにゆれた。
父親の構える剣の、ギラリと冷たい光の向こうに、二人の男の座り込んでいる影がある。

「クラフ!ああ、セキア…」

「おお、カカナ、どうしてここに」
ブール候の表情が和らいだ。
「父上、セキアの後を追って…!危ない」
カカナは、父親を庇って前に出ると、切りかかったキタキに応戦する。見知らぬ刺客を、カカナはにらみつけた。
「!お前が、黒猫か!」
「カカナ様!お止めなさい!クラフを、こちらに」

キタキは折れた剣でカカナの剣を受け止めながら、叫んだ。まだ、耳が遠いためか、声は必要以上に大きい。

「黒猫、お前は賢老士を殺すつもりか!」
カカナの言葉は、キタキの勢いをそいだ。腕に傷を負ったのか、血を滴らせる黒猫は、次の瞬間身軽に飛びのいた。懐から、ナイフを取り出す。
「…私は、ブール候ではなく、クラフを」
「!?」
投げつけられる銀色。
思わずクラフは目をつぶった。

「父上!」
クラフの目の前には、ブール候の腕が伸ばされていた。そこには冷たく、ナイフが光る。痛みを感じないのか、それを抜き取りもせず、ブール候はにやりとクラフを見つめた。
「お前を死なせるわけにはいかん」
「父上!」
再びカカナはキタキに斬りかかる。

キタキは、ぐんと後ろに引かれバランスを崩して倒れこんだ。
代わりに、カカナの剣を弾いたのは、鋭いセキアの一閃だった。
床に片膝をついた状態で、セキアは目の前の少年を睨みつけた。

「カカナ様、クラフさまを返していただきます。猫、お前にはやらせん!」
同時にセキアは自分の腕から抜き取ったガラスの欠片をカカナに投げつける。
それはキラと月明かりを弾いて、少年の頬を掠める。
カカナがそれを理解した時には、剣を持つ手をセキアに掴まれ、ひねり上げられていた。

「あ、…」セキアの腕は血まみれで、掴まれた手に生暖かいそれがしたたる。それでも圧倒的な力と迫力に、カカナは怯んだ。

「セキア、だめだよ!カカナに、うあ!」
止めようと叫んだクラフは首に冷たい痛みを感じる。
「クラフさま!」
カカナの剣を取り上げてベッドの奥に投げ捨てると、少年を押しのけて、セキアはブール候に飛びかかろうとする。
候はクラフの首に腕を回し、剣を頬に押し当てていた。

「動くな、セキア。これを、殺してもよいのか?」
「父上!」
ブール候はにやりと笑った。その凛々しい眉がこれほど憎悪に歪む様を、カカナは初めて見た。ぞくりと、知らないオトコの存在を父に見たようで、カカナは震えた。
その、父であり見知らぬ男でもあるブール候が叫んだ。
「カカナ、セキアを殺せ!今のうちだ、早く!」
カカナは懐の短剣を意識するが、動けない。

「…止めろ、ダメ、カカナ…ブール候はオレを殺せないから!大丈夫だから!セキア、あぅ」

頬に鋭い痛みを感じて、クラフは歯を食いしばった。
ブール候の荒い息遣いが耳元で聞こえる。

「次は目を突く。片目でも飛行機は作れる」
その声は笑いを含んでいるかのようだ。
大きく見開いた少年の瞳に、そぐわないほど大きな剣の切っ先が、突きつけられる。
「貴様…」
セキアは、剣を床に落とした。

カカナは、ぎゅと目をつぶって、胸の前で拳を握り締めると諭すように、話し出した。
「聞いてください。父上、ダメなんです!賢老士会の決定がなされました。クラフを救い出すために賢老士会の命で、警備隊がここに来ます!聖騎士団も派遣されて!ダメなんです!賢老士会は、父上よりクラフを選んだのです!」
「何を?私がいないのに何を決定すると言うのだ」
ブール候が青ざめた顔でうすら笑った。

「お願いです、父上、クラフの迎えが、あの異世界のものが来たのです!だから、非常召集があって、家に黒馬が来たのです!
なのに、父上は庁舎にはいらっしゃらないし、セキアは勝手に動いていて!それに、デンワがあって、大教皇様が、心配なさって、だから、どうしようもなくて…僕は、この場所を」

「!」セキアは先ほどデンワが鳴ったのを思い出す。
あれは、大教皇様からだったか。

「父上、お願いです。もう止めて下さい!クラフを元に戻して、剣を降ろしてください。クラフは今やこの世界に必要な存在です。今ならまだ、きっと、賢老士の地位を失わずに済みます!」

クラフは、呆然としていた。
迎え?
その言葉の意味を飲み込めずに、目を見開いたままだ。セキアは眉間にしわを寄せ、血の滴る腕を押さえる。
迎え…
セキアもまた、飲み込めずにいる。
それが、賢老士会を動かした。

キタキは床に座り込んだまま、腕を押さえ、成り行きを見守っていた。賢老士会の方針が固まったのであれば、キタキは動きが取れない。もともと、クラフを処分することが目的だった。

ブール候は歪めた表情のまま、口の端を上げた。
何を感じるのか、憎しみとも絶望とも、悲しみとも取れる視線で、息子を見つめる。
「ふ、ダメだ、カカナ。私には時間がない。時間がないのだ」
ブール候は、クラフを引きずったまま、背後の廊下にじりじりと下がった。手すりに当たって、止まる。吹き抜けの大きな窓から、月明かりが男を斜めに照らした。
色のないその表情は、あの晩、クラフが見た顔だった。力のない、視点の定まらない瞳。
クラフはぞくりと背筋が寒くなるのを感じた。

「父上お願いです。セキアも、剣を納めてほしい、お前だって、クラフさえ戻れば、賢老士を殺す必要なんかないはずだ!」
カカナの必死な願いが、館に響く。
「お願いです、父上!」

カカナとブール候の間は、一馬身ほど。

「時間が、ないのだよ。カカナ。私はお前に残してやるのだ」
ブール候の表情が乏しくなって、視線が泳いでいる。クラフは気付いた。ブール候の側頭部から赤い血が流れていた。それは月明かりに黒々と肩をぬらし、クラフの首を締め付ける腕に滴る。
ぽつと、金色の前髪にそれがつたい落ち、クラフは血の匂いに眉をしかめた。
「?父上?」
「だ、だめだよ!無駄なんだ、飛行機なんて半年じゃ造れないんだ!だから、諦めろよ!」
クラフが叫んだ。
「世界を一つになんか、出来ない!苔池をなくすなんて無理なんだ、だから」
「黙れ!」
ブール候は剣の柄でクラフを殴ると、急に優しげな顔になってカカナを見つめた。
「私は、カカナ、私はあと半年しか生きられん、肺をやられているのだ」
「父上…やはり、そうでしたか」
カカナは、悔しそうに眉をひそめた。声が震えていた。

「屋敷に、薬のにおいが残っていました。母上も、使っておられたあの薬の。父上、僕は医学を学んで、病を治して見せます!ですから、このようなことおやめ下さい!」

甘いあの香り、あれは薬の匂いだったのか…、クラフと同時にセキアにもその想いが浮かぶ。甘い香りが記憶を揺らす。

「やはり、苔池の病のために、お前は医者になるのだな。
…優しい子だ。自慢の、息子だ。私はお前の母も、兄も救えなかった。お前だけは守ろうと、力を注いできたのに、まさか私自身が倒れるとは。
こんな、半ばで。
私がいなくなれば、お前は一人きりになってしまう。淋しい思いをさせる、せめて、私が賢老士として力のあるうちに、お前によい街を残したいのだ。今のままではダメなのだ、この街は、この世界は。すべて焼き払わねば、苔池の病はなくならんのだ!」

「父上!僕は、よい街とか、権力とか、そんなもの要らない。父上が、いてくださればそれでいいんです!僕が、治します!そのために医学を学んでいるのです。そのためにクラフの知識を学ぼうとしているのです!父上も、絶対僕が治して見せます!だから、お願いです、どうか、こんなこと止めてください」
カカナは一歩、父親に近づく。

ブール候は目を細め、涙をこぼした。顔面は蒼白だ。
「後半年なのだ……」
「間に合わせます、クラフと研究して」
「クラフには迎えが、来ているのだろう?」
「クラフは、帰しません、父上も、そうおっしゃっていたでしょう?」
ブール候は、黙り込んで、クラフを見つめた。

クラフは、ただ、目を見開いて見上げていた。クラフの視界も、涙だろうか、変に、にじんだ。

「父上、お願いです、僕をひとりにしないで下さい。剣を降ろして、クラフを開放してください」
ブール候は、ふと、笑った。
「大切な、友達なのだな」
カカナが黙って頷いた。

ブール候が構えていた剣が、がたんと廊下に落ちる。
クラフは首を締め付けていた腕が離れたことに気付いて、その場に座り込んだ。
クラフは叫んだ。
「カカナ、早く手当しないと!ブール候、ひどい怪我をしてる!」
ブール候は、クラフをじっと見詰めていた。

「父上!」カカナが駆けよる。
「ブール候…」
セキアが言いかけたとき、階下で扉を叩く音が響いた。破られる。
警備隊の怒号。
焚かれた松明。

どんとカカナを突き放すと、ブール候は懐から丸い小さな玉を取り出した。
黒く、鈍く光るそれを、クラフは視界に認めた。
「だめだ!」
クラフとカカナが同時に叫んだ。
男の姿は、手すりの向こうに倒れこむように消えた。

微笑んでいたように見えた。

ど、と嫌な音が吹き抜けの居間に響く。
光が生まれ、爆発音が響いた。


空気が痺れるように震え、ばらばらと、天井が崩れる。
カカナは、壁を背にして座り込んでいた。
クラフは、ずるずると頭から落ちかけながら、自分が階段の途中で止まったことを感じていた。
赤い炎が、居間いっぱいに広がって、ゆらゆらと少年の頬を照らした。
「クラフさま!」
まだ、上手く聞こえない耳に、セキアの声がかすかに届いた。


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 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章四.飛行機、友達、クラフ④

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