02
2
4
6
8
11
12
13
14
15
16
17
18
20
22
24
26
28
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ④

らんららです!奇数日更新、コレで一日おきだわ!と考えていたら。今日は連続で奇数日なんですね!そうかぁ。当たり前のことに今日、気づきました(^^;)
てことで。更新です。
父親を失ったカカナくん、迎えの着ているクラフくん。さて。
どうなるんでしょうか!




「放せ!僕に触れるな!」

カカナの声で、クラフは目覚めた。
声のした方を見ようとして、体を横に向けようとする。
動けず、肩をセキアの手が押さえていることに気付いた。
「あ、」
「気が付かれましたか」
「カカナ、は…ブール候は?」
動こうとするクラフを、セキアは優しく押さえる。
「見ないでやってください」
「カ、カナ?そこにいるのか?」
「そっとして。今は、誰とも」
セキアの覗き込む顔が、悲しげで、クラフは悟った。
ブール候は、死んでしまった。

続きを読む

スポンサーサイト

「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ⑤

■■らんららです!友人が短編小説の書き方なる本を読んで、小説を書き始めました。彼女いわく、人間が一回に集中して読み込める文章量は原稿用紙五枚と。2000文字…案外、短いけど…常に連載していると、一回の長さって割と悩むものなんだよね。少し試しにその話を信じてみようかなぁ…この章はもう、インデックス切ってしまったから直すの面倒くさい…(おい ^^;)第三章からはそうしてみますね!■■


那迦(なか)の街の皇宮の一室で、ピーシは窓から外を眺めていた。すぐ隣に見える大聖堂は、夕闇にそのシルエットを黒く見せるだけになっていた。敷地内の森。城壁。その向こうに、かすかに残る夕焼けを見つめていた。
冷たくなった風が、ふわりと髪を揺らす。
昨日は早朝から様々なことが起こって、自分はただ、手をこまねいてみているだけだった。
バルコニーの大理石の手すりに、腕を置き、頬をうずめる。
ため息。
「ピーシ様」
柔らかな毛織物の上着が背にかかるのを感じて、ピーシは振り向かずに口を開いた。
「キタキ、傷はいいのか?寝ていなよ」
複雑な思いで、ピーシは温かい上着を首元に引き寄せる。
キタキは怪我をした腕を肩からつっていた。
怪我をした理由も、状況も、結果も。ピーシはキタキから聞いていた。

あれほど、仲のよかった父親を亡くして、カカナがどんな状態なのか気になっていた。自分は、自分自身のために父親から離れることを決めたのに、カカナは永遠に父親から引き離されてしまった。もし、父親が死んでしまったら、自分はどう感じるのだろう。そう考えてピーシは少し身震いした。
キタキは背中を見せたまま、思いにふける少年に、目を細めた。
「お父上には、会われましたか」
ピーシは、肩をすくめた。
「会える時間なんか、ないんだ。分かっているよ。それより、僕は、二人が気になっていて」
「私のことも、お怒りになるかと思いましたが」
「それは!ショックだったよ、お前はあの時、僕を慰めてくれたのかと思っていたんだ。味方になってくれたと。それが、結局、お前はお父様、いや、あの人の命令で、僕からセキアの行き先を調べようとしていただけだったんだ」
「…はい」
キタキは、ピーシが父親とやりあった日の夜、ピーシからセキアとカカナの行き先を確認すると、セキアの後を追うと言い出した。ピーシには止められなかった。

「お前は、あの人がクラフを捜索するために派遣した黒馬だったんだ。あの人の部下だからね。仕方ないよね。だけど、それはいいんだ、結局、クラフを保護しようとしたんだから。今ここにいるのも、そうなんだろう?あの人の命令なんだ」
キタキは穏やかに笑った。
ピーシは悔しそうに、視線をそらす。
「分かってるんだ。あの人が、お前をここによこす理由、そうだろ?僕を、守ろうとしているんだ。僕がクラフにかかわって何かするんじゃないかって、警戒しているんだ」
「心配なさっておられます」
「…そんなこと、分かってる。だから、こうやって、大人しくしているだろ。ただ、反発したって、勝てない」
あんなに、冷たいことを平気で口にする父親が、体面のためなのか、本気で心配しているのか本心は分からない。けれど、キタキが黒馬だと気づいたときから、ピーシはかなわないと痛感していた。
ぴぴぴ。
デンワが鳴った。
「!」
「はい、ピーシです」
キタキは表情を引き締めた。
「ああ、分かった。行くよ。キタキも一緒だけど、いいかな」
そういいながら、ピーシは男をちらりと見る。
「すぐ行くよ。じゃ」
「ピーシ様、どなたですか」
ピーシは冷たくなってきた風に身をすくめて、コートを取りにクローゼットに向かった。
「一緒に来てくれるだろ?セキアがね、手伝って欲しいんだって」
そういいながら、ピーシはキタキの上着を手渡した。


ピーシが、キタキを伴って、離れに向かうと、丁度、迷路の前でリスガと一緒になった。リスガも、セキアに呼ばれたのだという。
事情を大まかに聞いていたようで、少女はカカナを慰めるつもりだろう、彼の好きな食べ物を抱えていた。
「それ、カカナに?」
「ええ、そう。あと、栄養のつくお薬も。だって、きっと、ちゃんと寝ていないだろうから」
「…そういうところ、女の子って気が利いていいね」
「それ、誉めているの?」
リスガの視線は疑っている。嫌味なのかと、思っているのだろう。
「なんだと思うんだよ?」
ピーシは、ふと笑った。力の抜けたような柔らかな表情に、リスガは珍しいものを見た気がして、何度も瞬きした。
「…別に、嬉しくなんかないわ」
「あ、そう」
キタキが声を出さずに苦笑する。

「でも、クラフが無事でよかったわ」
リスガが視線を足元に落としたまま言った。

「ブール候のことは、本当に悔やまれるけれど、カカナも、クラフも無事でよかった。私は、これでよかったんだと思うな。ひどい言い方に聞こえるかもしれないけれど、ブール候が選んだことだもの。

人は、選んできた道の先に何があるか知ることは出来ない。けれど、選んだのは自分なのだもの。誰かのせいにしてはいけない。教えは、そう説いているわ。
カカナもきっと、大丈夫。自分で道を選べる人だと思う。それでも、つらくて仕方ないときに、神を恨めばいいの。そのために、神という存在はあるわ」

そう、まるで自分に言い聞かせるように話して、少女は顔をあげた。正面を見る。
迷路の終わり、クラフの寝室が見えてきた。

ピーシは少女を少し驚いた顔で見つめるキタキに気づいて、苦笑した。
リスガは聖職者なのだ。
人の死について、思うところ感じるところは、彼らとは違う。
少女の亜麻色の髪が、通路の灯りにきらりと白く光る。
ピーシは少女の後姿に、強さを見ていた。


面白かったらココをクリック!!人気blogランキングへ


 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章四.飛行機、友達、クラフ⑥

「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ⑥

らんららです!昨日は一日ファミリーバドミントンの大会でした!決勝トーナメントには残れなかったけど、それなりにがんばれた気がします!今日は筋肉痛と戦いますよ!!


リスガが、扉を開けようと手を伸ばしたときだった。
ドン!と内側から開いて、クラフが飛び出してきた。
「クラフさま!」
すぐ後からセキア。
クラフはすぐに捕まえられて、もがく。
「放せ!」
クラフは両手を縛られている。自由にならない。
悔しそうに叫んだ。
「放せよ!オレ、オレが飛行機なんか造ったから!だから!」
セキアは無言で、少年を引きずって、立ち尽くす三人の前に戻ってきた。
「セキア、クラフは大丈夫なのか?」
ピーシがクラフの表情を覗き込む。両手で顔を隠している少年は、泣いているようだ。
「クラフ?」
「…カカナが」
「せっかく作ったのでしょう?壊してどうするんですか!壊したって、ブール候は帰ってきません」
ひどく怒っている様子で、セキアは強引にクラフを部屋に戻す。

室内は、クラフが暴れたのか、少し散らかっていた。それでも、以前に皆で住んでいたときよりは片付いていた。
奥のセキアのベッドに、カカナが座っていた。
焦燥した様子に、リスガが足を止めた。
カカナは、クラフを睨みつけ、そして、入ってきたピーシたちにそのままの視線を移した。
こんな表情のカカナをはじめてみた。

リスガの足が、重くなるのも分かる。ピーシは、ごくりとつばを飲み込んで、カカナのそばに向かう。

向こうではクラフが毛布をぐるぐる体に巻きつけて、ソファーに座って縮こまっていた。セキアが隣に座る。
「カカナ、少しは寝たのかい?」

ピーシの言葉に、カカナは口元をゆがめるような笑みで答えた。
「着替えて、綺麗にしてさ。休むことだよ」
ピーシが穏やかに笑った。
「!よく、笑えるな」
カカナが睨んだ。
「君が、いつもは笑っている君が笑わないからね」
「僕が、こんなことになって、面白いのか?」
「面白くはないけど」
立ったまま、動けずにいるリスガの肩を、キタキがやさしくたたいた。
「お料理をお持ちでしょう?あちらで器に移されたらどうでしょう」
そう言って、キッチンをさした。
「あ、ええ」
リスガは、思い出したように、抱えていた荷物を持ち直して、キッチンに向かった。
そのときだった。
新たな来訪者が二人。
寝室の扉をノックして、入ってきた。

すでに、日が沈む頃だ。通常であれば誰も来ることのない時間。
しかし、このとき、この場所を訪れた二人は、いずれも自らの判断で自由に夜も出歩ける人物だった。
そのうちの一人の姿を確認して、ピーシは顔をしかめた。

「セクトール候…」
キタキが賢老士のそばにより、上着を受け取る。
セキアは、セクトール候の隣に立つ、小さな人形のような大教皇の前に、膝をつき頭をたれていた。
大教皇は、毛布の塊になって拗ねているクラフを見つけると、何か言いたそうに表情を動かしたが、隣の賢老士が咳払いしたので、視線を目の前にいるセキアに戻した。

「セキア、白い人間と会談した結果を、伝えよう」
セクトール候は、無表情のまま、低い姿勢の男に話し始めた。
「白い人間、彼らに、クラフを引き渡す。クラフ、よく聞くがいい」
名を呼ばれ、クラフは毛布の中でひざを抱えて、賢老士を見つめた。
カカナも、ピーシもじっと見つめた。
リスガが、サラダの入った皿を持ったまま、キッチンの戸口に立っている。
全員の視線を確認して、セクトール候は話し始めた。


それは、今日の早朝、三人の白い異世界の人間が、この街に到着したことから始まった。
彼らを連れてきたのは、南制の街の賢老士デスカナ。彼は、三人を目立たないよう、昨夜馬車に乗せて連れてきたのだった。

面白かったらココをクリック!!人気blogランキングへ

 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章五.迎え①

「宙の発明家」第二章 五.迎え①

大聖堂の敷地内にある講堂を会談の場所とした。
長方形の講堂内は、中に二列、シンプルな装飾の、大理石の円柱が並び、そこから四方につながるアーチに支えられている高い天井には、タイルでモザイクが作られている。
明り取りの窓の光をうまく反射するつくりのタイルが、室内を満遍なく照らす。
並べられた胡桃色の長机とベンチ。つい先日流季節の式典が行われたばかりのそこは、そのときの華美な様子を想像できないくらい、静かに静まり返っている。
列柱に沿って二つの通路が走り、正面の真ん中に演壇がある。
演壇を向くように並ぶベンチの一番後ろに、楕円のテーブルと、椅子が持ち込まれた。

怪しげな異世界の人間を、宗教上聖なる場所である聖堂の建物内に入れることははばかられた。
普段、賢老士が講堂に入ることなどはないが、今回だけは特別だった。
集まったのは、ごく少数。
大教皇、賢老士ではセクトール候をはじめとする六人。そして、司教会の代表が三人。
計十名と、白い三人は一つのテーブルを囲んだ。
白い服の三人は、真ん中の一番背の低い男が、オクトと名乗り、その左側に座る少し太めの男がデアマン、右側のひときわ背の高い男がカーチスと名乗った。
一通り、紹介を終えると、オクトが切り出した。

「私たちはここに、三つの目的を持ってきました」
穏やかな口調の男だ。
白いごわごわした服で全身を覆い、頭も同じ白い丸いものを被っている。顔のところだけ透明なガラスのようになっていて、じっと見つめれば、中の顔が見える。四十代後半くらいの男、髪は金色、目は青い。
オクトは続けた。
「私たちは、地上の世界にある、アメリカ連邦政府を代表してここにきています。一つ目に、あなた方に私たちの存在を知っていただこうと考えています。そして、二つ目。わがアメリカ連邦政府との友好的な関係を築くために、今後双方が行き来できる環境を整えることに同意願いたい。そして、三つ目の目的は、ここに十年前においていった子供を引き取ることです」
賢老士たちが、ざわりとどよめく。

大教皇が、手を挙げ、それを制した。
「よく分かった。では、わしらの立場をご説明しよう」
小柄な老人がひげをなでながら話し出したので、三人はさっきまで正面に座るセクトール候を代表と考えていたのだろう、そちらに向けていた視線を、右隣に座る大教皇に移した。

「我らの世界は、一つの神の教えによって統治されている。その教えでは、この地には、果てがあり、その先は無。人は命を失い無に還る。この土地以外には人など存在しておらんし、果てを越えて無に旅立つなど、あってはならん。
あなた方にしてみれば、下らぬ思想に思えるかも知れぬが、我らの地は空を飛ぶ必要もなく、夜灯りを灯すこともない。必要以上に富を得ることもせんし、命を奪うこともしない。あなた方の世界とは、存在が違う。相容れないものと、わしは思っておる。
よって、あなた方の友好的な申し入れは嬉しいのじゃが、受け入れるわけにはいかんのじゃ。われらがあなた方の世界をないものとするように、あなた方にも、我らの世界など存在しないものとしていただきたい」
背の高いカーチスが腕を組んだ。
「それから、子供のことじゃ。確かに、十年前、この地に置き去りにされた者がおる。あれは、あなた方がここに来ることを予想して、われらが保護していた」
「ありがとうございます」
オクトが笑ったようだ。

「しかし、十年は長すぎたかもしれんな」
賢老士の一人が言った。
その後を、セクトール候が継いだ。
「十年間も放っておかれて、今更帰りたいと考えるはずもなかろう」

「返さないつもりか!」
オクトが立ち上がった。
彼らを囲む警備兵が、剣の鞘を一斉に鳴らした。

「だれも、返さないなどと言ってはおらん。だが、我らは十年間あの子を育てたのだ。可愛がってもいる。あなた方が本当にあの子の保護者であるかどうか、我らには分からない」
大教皇が頷いた。セクトール候は、ひげをなでて話し続けた。
「あなた方が、先ほど言っていた友好とやら、それを育むに足る存在かどうか。クラフを幸せに出来るのかどうか。疑わしいのだ」
「何を!」
オクトが怒鳴る。それを抑えようと、背の低いデアマンが立ち上がった。
腕を組んで一人座ったままだったカーチスが、ゆっくりと話し出した。
「……なにを、条件とするのですか?どうすれば、信用するというのですか」
セクトールは、にやりと笑う。

「クラフに会ってもらう。彼が帰るといえばそれに従おう。そして、クラフを返したからには、あなた方がこの世界に残る理由はない。早々に立ち去っていただきたい。そして、二度とこの地に足を踏み入れることを禁じる」

「それは脅迫ですか。それに従わねば子供を返さないと?」
カーチスの表情は見えない。しかし、その低い声には怒りが伺えた。

「本来ならば、勝手にあの子をここに連れてきておいて、今更連れて帰りたいなど都合のいい話、けっして受けるものではないのじゃ」
小柄な大教皇が話し出した。手で、胸から下げたデンワを握り締めている。
「わしらはクラフが可愛い。返したくはない。
だがの、あの子が帰りたいというのであれば、本心からそれがいいのだと思うのならば、わしらの憤りも苦労も、我慢しようといっておる。
それを、脅迫などと言われる筋合いはない。
それほどあの子が必要ならば、最初から、こんな遠いところに、小さな子供を置いていくなどしなければよかったのじゃ」

大教皇は穏やかに、そして、きっぱりと言った。

カーチスは、力が抜けたように座り込むオクトを横目で眺めて、再び大教皇をまっすぐ見据えた。
「わかりました。子供を返してもらえるのなら、今後、この世界には足を踏み入れないこと、お約束しましょう」
そういって、カーチスはどかっと椅子に座った。デアマンもそわそわしながら、それに従った。
三人は講堂で待つことを了承した。
「つまり、お前の意思を確認するために、我らは来たのだ」
そう、セクトール候は話を結んだ。

 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章五.迎え②

「宙の発明家」第二章 五.迎え②

皆の視線が集まるのを感じながら、クラフはどきどきするのを隠すように、毛布の下で胸に手を当てる。淡い茶の瞳がどこか遠くを見ている。
数回、瞬きして。
少年は、顔を上げた。
笑っていた。
「…オレ、帰れるんだな?」

クラフはセキア、大教皇、ピーシと順に皆の顔を見る。
カカナのところで、視線が止まった。

「だめだ、クラフは帰さない」
そう、カカナは言った。
クラフが、じっと見つめると、ゆらりと視線をそらし、またあわせる。こちらを見つめているようで、でも想いは遠くにあるような。疲れ果てた表情。握り締めるカカナの拳が、震えるのに気づいて、リスガはカカナにしがみ付いた。
拳を華奢な手で包む。そうすることで、少しでも想いが通じたら。リスガはそう願っているように見えた。

「君の、意見は聞いていないのだよ、カカナ」
落ち着いたセクトール候の言葉に、カカナは一歩踏み出そうとする。リスガと、ピーシが両側から止める。
「クラフは帰さない!僕と一緒に研究するんです!苔池の病を治すんです!クラフが帰るなど許さない!クラフのせいで父上は亡くなったんだ!クラフだけ帰って、何もなかったかのように幸せになるなんて、僕は許せない!」
「カカナ…」
ピーシは鋭く睨みつけるカカナと、また少し涙目になっているクラフを見比べた。
クラフが、飛行機を壊そうとしていた理由がピーシにも分かった。
金髪の少年が、怯えたように毛布に包まり、その傍らに大教皇が立った。
クラフの肩をやさしくなでる。

「くーちゃんが悩むことではない。くーちゃんは分かっておったろう?だから、カカナには危険なものを教えなかった」
「大教皇様!クラフの持っている知識や技術を、この世界の未来に生かすというお考えはどうなされたんですか?あなたは父上とそういうお話をなさっていたはずでしょう!同じ考えだったはずです!父上だけ悪者にして、あなたはクラフを庇うんですか!」
ぱん、とカカナの頬が鳴った。
リスガが、涙を浮かべて見つめていた。
「!」
カカナは思わず頬を手で押さえて、呆然と少女を見詰めた。
リスガは、カカナの胸に顔をうずめて泣き始めた。

「ふん。クラフ、お前は迷うのか?」

リスガの小さな嗚咽だけが響く室内で、セクトール候が一人、あごのひげをなでながら、面白そうに笑った。
クラフは、目の前に立つ政治家を見上げた。
そして、視線をそらす。

「白い人間たちとの会談はあくまで取引。賢老士会は、お前を元の世界に戻すことを決めた。お前の存在はもともと、あってはならぬもの。そのために、今回の亡きブール候のような悲劇が起こるのだ。お前がいなければ、おかしな発明もわれらの世界を乱すことなどなかった」
セクトール候の言葉に、クラフは何度も瞬きしている。
ピーシはじっと父親を見つめていた。

「お前は存在してはいけないもの。ここに、生かしておくのも我らには危険を伴う。よって、賢老士会は、白い人間たちにお前を引き渡す」
「…そんな」
小さくつぶやいたのは、リスガだった。
「聞こえなかったのかな?賢老士会は、お前をこの世界から追放することに決めたのだ」
セクトール候はその場の全員を、穏やかな笑みすら浮かべて見回した。

「この地から、出て行ってもらう。果てに突き落とすことも出来るが、せっかく迎えが来ているのだ、彼らが二度とここに来ないことを約束させるため、クラフは引き渡す」
ピーシは、じっと父親の顔を見つめた。
目が合っても、そらさない。

「だめだ、クラフは、帰さない!僕と一緒に研究するんだ!」
カカナがまた、叫び始めた。
リスガが悲しげにすがりつく。
ピーシは、カカナの右隣で、腕を押さえながら、言った。

「カカナ!君はクラフのこと憎んでいるわけじゃないんだ!」
カカナは、ぴた、と動きを止めて、傍らのピーシを睨んだ。
「お父上のことで混乱して、憎んでいる振りをしているけど、結局、クラフをそばに置きたいんだ。帰したくないんだ!そうだろ?カカナは、クラフのこと、可愛がっていたじゃないか!寂しいだけなんだ!クラフを傷つけるようなこと言うの、止めろよ」

「分かったようなこと言うな!」

「淋しいんだろ?クラフが帰ったって君は一人じゃないよ!僕だってリスガだっている!君の父上が残してくれた、信頼してくれるたくさんの人たちがいるだろう?クラフだって友達に変りはないんだ!クラフはずっと、ずっと一人ぼっちで、親のいない寂しさを抱えてきたんだ。クラフだって淋しかったんだ!…だから、カカナ、クラフを責めるのは間違っているよ」
カカナは悲しげに、クラフを見つめた。

クラフは、なんと言っていいのか分からないのか、ただ、何度も瞬きしている。
大教皇が、口を開いた。
「のう、くーちゃん。長い間、閉じ込めていて、すまなかったのう。やっと、お前を元の世界に帰してやることが出来るんじゃ。なにも、気にすることはない。くーちゃんは、くーちゃんの世界に戻るべきじゃ」
小さな目を、にこにことさせる老人に、クラフは、思わずぎゅっと目をつぶって、両手で、顔を覆った。
その様子を見つめて、セキアは唇をかみ締めた。
大教皇は、続けた。

「セキア。ご苦労だった。十年もの間くーちゃんを守ってくれたの。感謝しておる。それも、今この時まで。セキアよ、任を解く。以前のわしの聖守護士としての仕事に戻るのじゃ」
セキアは、膝をついて床を見つめたまま、小さく頷いた。
「ご苦労じゃった」

静まり返っていた。
セキアが黙ってクラフの肩を叩き、毛布を取らせると腕のロープを解いた。何か、言いたそうにクラフはセキアを見上げたが、セキアの表情はそれを許さないほど、張り詰めていた。
「セキア…」
両手で目をぎゅうぎゅうこすると、クラフはソファーから降りて、立ち上がった。その肩には、セキアの手が添えられている。
「カカナ、ピーシ、りー、じじい、その、オレ、なんていいって言いか、よく分からないけど、…でも、帰る。帰って、オレ、もっといろいろ勉強したいんだ。知りたいこととか、きっと、たくさんある。それでさ。もっともっと、天才になって。カカナを、手伝うよ。だから、なあ、また来てもいいのかな?」

クラフの薄い茶色の瞳が、大教皇とセクトール候に向けられた。
小柄な老人が、傍らの賢老士を見上げ、一瞬もじもじしたとき、賢老士が口を開いた。
「お前は異世界の人間。こちらに来れば、また、監禁する。それでもよければ、来るがいい」
ピーシが、キタキが、目を細めた。

クラフは、目をこすった。
そして、笑って頷いた。
「のう、くーちゃん。わしらは、くーちゃんの意思を尊重すると、あの白い人間たちに伝えた。くーちゃんがもし、あ奴らに会ってみて、ダメだと思えば、残ればいいのじゃ」
クラフは、首を横に振った。
「オレ、知りたいこと、あるんだ」
「そうか」
大教皇は、視線をそらした。
いつも、穏やかな表情が、今は悲しげに見えた。
「白い、人間たちと会ってみるといい。カカナ、リスガ、ピーシ、皆は席を外しなさい」
セクトール候の言葉に、カカナだけが一瞬、顔をこわばらせた。

隣で肩に手を回していたピーシが、言った。
「カカナ、さよなら言えるの、今だけかもしれないんだよ」
カカナは、整った顔をピーシに向けた。
それから、充血した瞳を、ぎゅっとつぶって。
ため息とともに、開いた。

「クラフ」
カカナの言葉と同時にクラフは駆け寄って、カカナに抱きついた。
「!」
「オレ、言っただろ!皆好きだ!さよならなんか言わない。また、絶対に会いに来る!なんていったってオレ様天才なんだから、出来ないことなんかない!」
「…ああ、お前、甘えん坊だな」
「そんなことないぞ!…また、来るから。空の羊号、あと少しだからさ。一緒に仕上げようよ」
頷くカカナの瞳は、優しい笑みが戻っていた。クラフは、少し顔を赤くして、惜しむようにそっと離れる。
「クラフ、これ、お前が持っていきなよ」
ピーシが、胸に下げていたデンワを、クラフに渡した。
「ピーシ」
「使えるか知らないけど、お前天才だからね。またこっちに来るときは、ちゃんと連絡してくれないと迎えに来られないから」
ピーシは笑う。
クラフは、受け取って、そして、握手した。
「あ、あのさ、リー」
クラフが少女を見つめた。
珍しく、照れたような、恥ずかしそうな顔をしているクラフに、リスガは傍らのカカナに抱きついてみせ、微笑んだ。
「待っていてあげないわよ。…だから、早く戻ってきてね」
「…」
リスガと、ピーシは目を合わせ、二人で支えながら、カカナを連れて行った。
その後を、キタキがついていく。

「セキア」
セクトール候の言葉に、セキアは首を横に振った。
「クラフさまをお見送りするまで、私の仕事ですので」
落ち着いた強い表情の男に、賢老士は目を細め、ふと口元を緩めた。

「長きに渡って、本当に、ご苦労だったな。セキア、お前でなくては、勤まらなかっただろう。そう、先ほども大教皇様と話していたところだ」
大教皇は、は、と息を吐いて、にっこり笑った。
「くーちゃん、面白かったぞ!最後に、言っては、くれんかのう」
クラフは大教皇の前に歩み寄った。少しだけ彼より低い身長の老人に、満面の笑みを、彼にしては本当に珍しく、やさしげな笑みを浮かべた。
「ああ、オレも面白かった!じじいがいてくれて、本当に楽しかった」
「!くーちゃん…」
大教皇は、言葉を詰まらせて、少年と抱き合った。
「…アイシテルは?」ひそひそと、大教皇が耳元にささやく。
「ばか」
クラフは何度も瞬きして、もう一度ぎゅっと抱きしめて。それから、にまっと笑った。
「最高だったよ、じじい、……」
最後の言葉はささやき声に変わって、聞こえない。
クラフの目から、一粒涙がこぼれたのを、嬉しそうに見上げて、大教皇は数歩、少年から離れた。

そして何も言わずに、キタキの後に続いて部屋を出る。大教皇の後ろに、セクトール候が続いた。

セクトール候が、部屋の外に出て、迷路を進んだ一つ目の門に少年が立っていた。
黒髪をかき上げて、ピーシは言った。
「あの、ありがとうございます」
「何のことだね?」
冷たい表情のまま、歩みをとめることもしない父親に、少年は歩調を合わせた。
「僕らでは、素直に帰すことは出来ませんでした。賢老士会の決議かどうかは別として、あなたが、あのように言ってくださったおかげで、きっと、クラフは心置きなく、帰ることが出来ます」
ふん、とセクトール候は口の端を歪めた。

「お前のためではないぞ、ピーシ」
「ええ、でもクラフにも、そして皆にも救いになりました。それは、僕にとっては嬉しいことです」
「ふん、生意気な」
「少し、悔しいですが、クラフが帰ることは必要だと、その考えは同じでした。それから、お父様」
「!」
そう呼ばれたことに、セクトール候は一瞬表情を硬くした。
「僕は、カカナを大切な友人だと思っています。一緒に、研究を続けたいと思っています。学校はもちろん、きちんと行きますから。お気に召さないでしょうが、見ていてください。いつか、お父様からキタキを奪い取れるくらいに、なってみせます」
賢老士は、不機嫌に眉をひそめて、無言のまま、足を速める。
ピーシは、立ち止まって見送った。
父親の姿が、曲がり角の向こうに消えて。
ふう、と肩を落とした。
それから、後ろを振り返った。

クラフのことを想った。
また、髪をかき上げて、背を向け歩き出す。

■■ここまでお付き合いくださって、本当にありがとうございます!「宙の発明家」第二章も残り一話となりました。いよいよ、クラフくんと白い人たちが10年ぶりの再会?を果たします。さて、クラフくんはどうなる!?
らんららの企みにより、明日2/10更新します!
第三章との間に、企画ものを挟もうかと思いまして!
わがまま更新ですが、よろしくお願いしますね!!■■


 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章五.迎え③

「宙の発明家」第二章 五.迎え③


残ったクラフは、そわそわしていた。
外出用の膝上まである上着と、裾のふわりとしたズボン、新しいブーツ。身支度の間、セキアが荷物を詰めてくれる。

「な、パンダバーとか、持って行っていいよな、それにほら、お菓子とかも」
そういって、クラフはキッチンに走ったり、お気に入りの服を引っ張り出したり。
その間、一度もセキアとは目を合わせない。
「クラフさま」
「やっぱりもえ玉は、危ないかなぁ、オレお気に入りなんだ。空の羊号のことはカカナと相談する。まずは、帰ったらデンワ使えるようにしなきゃな」
地下室に行こうとするクラフを、セキアが止めた。

続きを読む

「宙の発明家」第三章一.変わらない①

らんららです!少しお休みをいただいて、久しぶりのクラフくんです。
宙の世界に迎えが来て、その中にお父さんがいた!
彼はクラフくんの「ここにいる理由」を語りました。
それでも、クラフくんには、帰るしかありません。
そう、「命を握られている」のだから…。

いよいよ、最終章です。

●変わらない?1
 

「すげー!」

クラフの感嘆の言葉に、カーチスが笑った。
彼は、肩にクラフの荷物の入ったトランクを担いで運んでくれていた。
「だろ?世界で一つだけなんだぜ、この飛行船。お前のお父さんが開発したんだ」

白い楕円のそれは大きくて、クラフはずっと上を見たまま歩く。月明かりに浮かぶそれの下に入ると、いっそう暗くなるが、クラフは気にせず見上げている。夜目が利くのだろう。
「へー、翼?普通は尾翼くらいだよね。そっか、エンジンも積んでるんだ。もしかして、成層圏と対流圏とで動力を変換するのかな?」
クラフは夢中になって見つめる。
「なんだ、詳しいじゃないか」
傍らを歩く背の高い白いスペーススーツの男に、クラフは笑いかけた。
まだ、夜が明け始める前。薄青い早朝の風に、クラフの金髪がなびく。
カーチスはおしゃべりで、楽しい青年だった。歳も二十五歳で一番クラフに近い。そのためか、馬車の中で二人はすっかり仲良くなっていた。カーチスが三人の中唯一の軍人で、セキアのことを腕が立つと褒めていたことも、クラフには嬉しいことだった。
青年は英語で話そうとするクラフに、こちらの言葉で話そうと言ってくれた。
「ここの世界の言葉、英語の語源になっている言葉なんだぜ。俺、そういうの不得意なんだ」
「じゃあ、英語でいいよ。ボク、英語だって話せるから」
カーチスは笑いながら、クラフの肩をとんとんとたたいた。
「せっかく覚えたんだぜ、帰ったらすぐ忘れちまうんだ、今のうちに使っておかないと、努力の意味がないってもんだ。だから、古英語でいいぜ」
「じゃあ、帰ってもオレ、カーチスとはこの言葉で話す。そしたら、忘れないだろ?」
カーチスはまた笑った。

存在を否定したい賢老士会の意向で、見送りなどない。
四人を乗せてきた馬車と付き添いの二人の警備兵だけが、四人が本当にこの世界から消えてくれるのかを確認するべく見張っていた。
背後に、その視線を受けながら、クラフは前を向いていた。
その胸には、デンワがかかっている。銀色のそれをぎゅと握り締め、クラフは飛行船に乗り込んだ。
アルミ製の小さな階段を上る途中で、遠く、ランドエンドを縁取る朝焼けが目に入る。
薄桃色の空に目を細めた。


乗船してすぐ、カーチスの操縦を見たいと言い出したクラフを、オクトがたしなめた。
「ちぇ」
口を尖らせる少年に、カーチスが笑った。
船内で皆スーツを脱いだので、今はちゃんと顔が見えた。

操縦席で真剣な顔になっているカーチスは、プラチナブロンドを短く刈り込んだカッコイイ青年で、クラフはその耳についているピアスにも感心する。
オクトは予想以上に歳をとっている印象だった。
クラフは、なんとなく照れくさいような、怖いような気分で、オクトとはあまり馴染めない気がしていた。オクトは白髪の混じった茶色い髪で、太くて少し下がり気味の眉、青い瞳。眉間のしわは、笑わなくてもそこに貼り付いている。
オクトの助手だというデアマンは、オクトとそんなに変わらない年齢のようだ。金髪で癖のある短い髪。小さな緑の目。少し太っていて、常は丸い鼻の下で口をぎゅっと一文字に結んでいる。あまり表情のない人だ。クラフはまだ、彼の笑顔を見ていない。

「クライフ、お前はここに寝ていなさい」
オクトが示したのは大きな楕円の、透明なカプセル。
クラフは思わずぞくっとした。クラフが宙の世界に残されたときに入っていたものより当然ながら大きい。違うものだ。
ただのカプセルではないことは、ふた部分につけられた何かの機械で分かる。子供のころクラフが入っていたのは、本当にただのカプセルだった。

躊躇していると、デアマンも言った。
「クライフ君、君の体のことを考えてね、この中では空気を調整できるんだ。急に環境が変わって負担が大きくなるだろうから、それを防ぐんだよ。そういえば、ぬいぐるみはどうした?あれを抱いていると落ち着くんじゃないか?」
「あれは、あっちの荷物の中、別になくたって平気だ」
クラフは、子ども扱いするデアマンを軽く睨んだ。さっさとカプセルに横たわる。固い樹脂の手触りは冷たくも、温かくもない。
「ああ、少し、大きかったかな」
デアマンが横たわった少年を見て、ぽつりと言った。
「なに?」
カーチスが背を向けたまま笑ったのが聞こえる。
「いや、もう少し高い身長を想定していたんだ。一応平均的な十五歳の男の子にあわせたつもりなんだ」
生真面目に答えるデアマンに、クラフは頬を膨らめた。
「オレは、ゆっくり成長するんだ!先に脳に栄養が行ったんだ」
カーチスが声を出して笑い始めた。
オクトも、口元を苦しそうに押さえる。
「怒ることかなぁ?」
デアマンは首をかしげた。
「あのさ!父さん、このおっさん無神経だよな!」
「だれも、お前のこと小さいだなんていってないよ」
オクトは穏やかに言った。
「!…」
クラフが何か言いかけたのを制して、オクトはふたを閉じた。
声が遮断される。
聞こえていないと分かったのか、クラフも大人しくなった。
そのうち、目を閉じる。

「なかなか、にぎやかな子に育ったな」
オクトが腕を組んで少年を見つめた。
「別に身長が低くたっていいのに」
そうつぶやくデアマン自身も、平均よりかなり低い。気にしたことがないのだろう。
カーチスは後ろを見つめて、ため息をつく。
「催眠ガスですか?…可哀相に」
オクトとデアマン、二人の研究者はカーチスに一瞥をくれると、再び少年の寝顔を見つめた。

変わらない?2へ続く♪

「宙の発明家」第三章一.変わらない②

●変わらない?2

クラフは夢を見ていた。
ミッキーマウスが、追いかけてきた。
捕まえられるとくすぐられてしまうのだ。うひゃ、と変な声を上げながら逃げ回って、おなかが痛いほど笑って、ぎゅ、と胸が苦しくなって立ち止まった。
すぐに追いついてきたミッキーは、背後からぎゅうと抱きしめて、でも、その手には銃があった。
震えた。
「何でミッキーはそんなもの持っているの!危ないよ!」
怒ってみたものの、ミッキーは笑顔のまま頭をかいて、首をかしげる。
「ダメだよ、危ないんだ!セキア、危ない…」

ぞく、と寒気を感じて目を開けた。
夢の余韻でぼんやりした頭。ピクリと無意識に動いた指先。ぎゅと握ってみる。
ほう、と一つ息を吐いた。
とたんに、ぱ、と室内が明るくなった。
白い壁、天井の全体が淡く発光していて、クラフは目の前にあるガラスのふたを押してみた。やっぱり、重い。あの飛行船の中じゃないんだな。

ふと、足を蹴り上げてみる。
こん、とガラスに突き当たる。裸足。あ、オレ、服着てるのかな?
やだな、裸かな?
手で探ってみた。かろうじて薄いシャツみたいなものを着ている。袖はない。裾が丁度膝の上くらいまである。

まわせるだけ首を回してみる。白い壁くらいしか見えない。
持ってきた荷物が気になっていた。どういう状況になるか分からないから、使えそうなものを持ってきたのだ。お気に入りの小さな「空の羊」号も。
人を実験に使ったくらいだ。何をされるか分からない。
また、ため息をついた。父さんの顔が浮かんだ。見覚えのある、青い瞳。正直嬉しかった。だから、余計に腹立たしかった。

「オレを、どうするつもりなんだろ」
ポツリと言った。
それに応えるかのように、こつん、と音がした。目を開けると、目の前に覗き込む人の顔。デアマンだ。クラフが笑いかけても、相変わらずにこりともしない。苦手な人間かもしれないとクラフは思う。

ふ、と体の上を覆っていたガラスのふたがスライドして消えた。
「目が覚めたかい?」

デアマンは少し丸い鼻、太い金色の眉だ。緑の目はくりくりとしていて、案外まつげが長い。少し赤ら顔で、鼻の頭がぴかりと光る。
「あの、ここは?」
英語で答える。

上半身を起こそうとするクラフを、デアマンはそっと支えた。
「君のお父さんの研究所だよ。大丈夫かい?心臓と肺の手術は終わったんだよ。新しいものに変わったんだ。もう、発作が起きることもない。こちらの大気に順応できるか確認を取るのに時間がかかってね。向こうは酸素が薄いからね、向こうの人間がこちらに来た場合は本来問題はないはずなんだ。我々が向こうに行くには、酸素マスクが必要なんだけどね。気分はどうだい?」

「少し、ふらふらする。でも、大丈夫。ねえ、父さんは?」
変なベッドから降りようとしながら、クラフは室内を見回した。
見知らぬ機械がたくさん並んでいる。

ぺたりと、裸足のまま床に降り立ち、クラフは歩き出した。白いそこから、デアマンに付き添われ、ぺたぺたと裸足のまま廊下を歩く。
「ね、父さんは?」
「あ、ああ。今、大事な会議中なんだ」
「ふうん。デアマンさんは会議に出なくていいの?」
「私は単なる助手の一人だからね。ここだよ、ここが当分、君の部屋だ」
廊下の一番奥、両開きの白い扉が、音もなく開いて、クラフは目を丸くした。

薄い水色の絨毯を敷き詰めた小さな部屋。
壁には猫の足跡の絵が書かれていて、腰くらいの高さで、点々と続く足跡から上は白、下はきれいなブルーに塗られている。

濃いブルーのブラインドが下ろされた小さな窓。その脇の棚には茶色いクマのぬいぐるみが置かれていた。その隣に宙で作ったデンワや「空の羊」号の100分の1模型。部屋の窓に向かって右側の壁にベッドが置かれ、ミッキーマウスのクッションと枕。ベッドのサイドテーブルは深い茶色の木でできていて、小さな白いランプが置かれている。
テーブルの下の棚に、絵本。

床にはたくさんの色とりどりのクッション。まん丸だったり、三角すい、円柱。ごろごろと無造作に転がっていた。ベッドと反対の壁には、机と本棚。本棚の中には、何かの全集だろうか、同じ背表紙のものが並んでいた。
机の脇に、クラフが作ったパンダバーが立てかけられている。ぺタッ葉ともえ球入りの箱も机の上に置かれていた。
クラフはほっと目を細めた。

「どうだい?可愛らしい部屋だろう?」
「うん。ボクには、ちょっと可愛すぎる気がするけど」
「十年かかるとは思わなかったんだ」
「え?」
「言っただろう?もっと早く迎えに行きたかったんだ。ただ、いろいろ事情があってね」
クラフはデアマンの丸い鼻をじっと見つめた。
子供に話すような口調。

「寂しかっただろう?もう、大丈夫だからね。あちらでは監禁されていたって言うじゃないか。怖い思いをしたね」
そういって、クラフの肩を優しくたたいた。

少し眉をよせて、複雑な表情のクラフを、ベッドに座らせると、デアマンは食事を持ってくるといって、部屋を出て行った。
扉は、デアマンの真似をしてその前に立って小さな黒いプレートに手をかざしてみたけど、開かなかった。取っ手のない両開きの自動扉。結局、自由ではないということか。

変わらない?3へ続く♪

「宙の発明家」第三章一.変わらない③

●変わらない?3

室内をもう一度、見回す。
ベッド、テーブル、机、本棚。本棚の横に小さな扉を見つけて、のぞいてみた。

狭いユニットバスだ。
室内が子供部屋のように飾られている割にそこはシンプルに真っ白だ。石鹸とシャンプーのボトルのミッキーマウスの絵がやけに白々しい。シャワーが浴びられるようになっているようだ。
「家には、帰してもらえないのかな…」

続きを読む

「宙の発明家」第三章二.ローザ①

●ローザ1

「そうじゃ、なくて!」
顔を赤くして、クラフは女性を突き飛ばした。
ふいのことで、ローザはよろけて、後ろに転んだ。
「あ、ごめんなさい、あの」
思ったよりずっと、簡単に転んでしまった女性の華奢な体に少年はどきどきしてしまう。同じくらいの身長なのにやっぱり女の人は弱いんだ。助け起こそうと手を伸ばしたとたん、逆に引っ張られて、クラフもあっけなく転ぶ。
「うわ!」
ローザに抱きつく格好になって、慌てて離れる。
「くすくす。ほら、やっぱりまだ、力が入らないでしょ?検疫で一週間、手術してもう一週間、ずっと眠っていたんだから」
座り込むクラフを尻目に、ローザは勝ち誇ったように笑った。無邪気とも思える笑顔は、可愛らしい。東洋人のハーフだからか。十代後半くらいに見えた。
クラフは子ども扱いされて、いいようにからかわれているのが分かるのに、ドキドキしてしまう自分を持て余していた。
その視線をどう思ったのか、ローザは、ふと真剣になる。
「お父さんに会いたいの?お母さんに?」
女性の言葉に、クラフは黙って、うなずいた。
座り込んだままのクラフがじっと見つめると、ローザは瞳を潤ませているようだ。優しい人なんだ、クラフは目を細めた。
「ごめんね、今はまだダメなの」
「どうして?」
「博士は忙しいのよ。遠いところに出かけているの。それにね、もっとたくさん検査をしてからでないと許可が下りないわ」

「会いたい」
それは、本音だ。

ぎゅっと抱きしめられた。ローザの見た目からは想像できなかった胸の柔らかさに、少年はどきどきしていた。
女の人の匂い。
クラフは目を閉じた。
しばらく、甘えてみることにした。


クラフのいる場所は、軍の病院内の付属施設の研究所だということだった。
ローザはその病院に勤務している医師だといった。
「私は君の担当医なの。軍の病院だから、他の病院みたいに外来を受け付けることはないのよ。だから、担当する患者さんの診察や手術のあるとき以外は、君のそばにいてあげられるわ」
そういって、出来るだけいつもそばにいようとした。
クラフが視力のことを告げると、ひどく同情して、治してあげるといった。
ローザが自ら食事を持ってきてくれたり、夜クラフが眠るまでそばにいたりするのを、クラフは黙って受け入れていた。

「ローザ、散歩行こう!」
昼食を済ませると、クラフがローザを誘う。
白衣のローザは昼食のトレーをワゴンに乗せると、仕方ないわね、といった風に笑って、二人で手をつないで研究所の廊下を歩く。
クラフは、目の保護のためにサングラスをかけ、フードのついた軽い素材の上着を羽織っている。季節は冬なのだが、研究所内は一定の温度に保たれているから、クラフの服装はいつも薄着だ。宙は常に十度以下という寒い気候だった。クラフはこの研究所内でも暑く感じていた。
ジーンズにスニーカー。サングラスの少年が、同じくらいの身長の白衣の女性と連れ立って歩く姿は、一種異様なのだが、数日もすれば、研究所内で知らないものはないほどになった。
もともと、さして、広いところでもない。入れてもらえない個人の研究室や資料室、地下の実験室以外は三回目ですべて行きつくした。三階建ての一棟の建物だ。
「ねー、ローザ、外に出たいよ」
窓のない建物の廊下から、エントランスのホールに出ると、クラフは玄関口を眺める。
そちらに向かおうとすると、ローザはいつも怒るのだ。
「だめよ。まだ、感染症の予防接種が終わってないわ。安全じゃないの。いい子だから、外には出ないでちょうだい」
「いやだ!ボク、外に出る!」
ぐんぐんとローザの手を引っ張って、玄関を目指す。
「こら!」
ローザの声を聞きつけたのか、エントランスにある警備室から、警備員が出てきた。
「こら、クライフ!ダメだって言ってるだろ!」
お腹の出た中年の警備員のビイが、わざと怖い顔をして、クラフの前に立ちふさがった。警備員も皆、クラフのことを少し発達の遅れた子供として扱っていた。
「ちぇー、つまんない」
「さ、クライフくん、お部屋で本を読みましょ。今日はなにがいいのかな?」
「むー…科学の本がいい!カッコイイ飛行機とか乗っているの」
「科学?」
「そう、サイエンスって言うの」
「!?知ってるの?」
「あ…そういうの、お父さんが、ボクにくれたんだ。あっちに行っていたときに読んだよ。いっぱいあったんだ。あとね、勉強の本。数学とか、えと、地質学とか」
本当に読んでみたい、論文集や、科学書、辞典の類は頼めない。
「ふうん。じゃあ、分かりやすいキッズサイエンスにしましょうか。用意させるわ」
「オトナのがいい」
「わがまま言わないの。さ、お部屋に戻るの」

昼二時。
本来、十五歳の少年がお昼寝など出来るはずもなかった。
傍らに見守るローザをちらちら見上げながら、寝たふりをして、ごまかす。つないでくれる手が気持ちいいのは、セキアのせいだと、密かに責任転嫁している。
かけてくれた毛布を、上からやさしくぽんぽんとたたかれ、何となくいい気分になって、結局いつも、昼寝してしまう。

一週間、ただローザだけを相手に生活して、クラフは建物内の様子をたいてい理解すると、この、穏やかな日々にも飽きてきた。
ローザが悪いわけではない。

かつて、宙に取り残されてすぐ、世話をしてくれた女性をローザと重ねた。大人しくて、性格はローザとは違ったが、クラフを見つめる穏やかな視線は同じだった。
女性ってものはどうして、小さな子供に対してこんなに優しいんだろう。

クラフは、本気でお母さんを思い出してしまっている自分に、苛立っていた。思い出せば、会いたくなる。
何度、それを訴えても、かなえられなかった。
抜け出すことも出来ず、相変わらず、部屋の鍵は閉められたままだ。
これでは、宙にいた頃と何も変わらない。


その晩、いつものように寝かしつけようとするローザに、言った。
「外に出たい!」
「ダメよ」
「父さんに会いたい」
「博士は忙しくて…」
「お母さんに会いたい!」
「博士の許可がないとだめなのよ」

「カーチスは?ボク、カーチスに会いたい!飛行機の話するんだ」
ローザの表情が、変わったことにクラフは気づいた。
「!カーチスを知っているの?」
「え、ええ。お友達なの」
少年はじっと、大きな瞳でローザを見つめた。
ローザは少し頬を赤くして、目をそらす。
「もうすぐ消灯時間よ。さ、寝てちょうだい」
「いやだ!ボク、外を散歩する。もう、ここに来て一週間なのに、一度も外に出してくれない」
「もう。何度も言ったでしょ?言うこと聞かないと、明日は嫌いなお野菜、たくさん入れてもらうわよ?」
「……」
それは、本気で嫌だ。
クラフは、毛布にもぐりこんだ。
「さ、いい子ね」
毛布ごとぎゅっと抱きしめられ、額にキスされる。
その習慣は宙にはなかったし、あっても、セキアがするはずもないから、クラフには刺激的で気に入っていた。
目を閉じた少年を見て、ローザは穏やかな笑みをもらす。
部屋が暗くなり、ローザが戸口から出ようとしたその時。

クラフは、扉が閉まる寸前で、ローザを押しのけるように飛び出した。
「!クライフくん!?」
ローザが止めようとするのも無視して、駆け出す。細い白い手を振り払って、それに少し、罪悪感を感じながら。それでも、クラフは外に出たい。
いつかやろうと思っていた。子供の振りをしている間は、何をしても大概許されるからだ。今なら、挑戦できる。
オクトが戻るか、カーチスがここを訪れれば、子供の振りをしていることがばれてしまう。その前に実行あるのみ。

ローザ2へ続く♪

「宙の発明家」第三章二.ローザ②

●ローザ2

「!クライフ!」
かけだして、はだしのまま、冷たい廊下を走りぬける。
クラフのいる部屋は一番奥。正面にずっと暗い廊下が続く。
クラフのいる一階は、どの部屋も真っ暗だった。
「待って!」

ローザの声が遠ざかるのを感じながら、廊下の角を曲がる。正面に、玄関だ。その手前の警備員の部屋から明かりが漏れる。
ローザの声で誰かが気づいたのだろう、部屋の扉が開いて非常灯だけだった廊下に光が伸びる。
クラフは、左手にある階段を駆け上った。
ばたばたと階下がうるさくなって、クラフは追っ手が増えたことを知った。

二階の廊下は明るかった。一瞬目を細め、廊下の両側にある扉をちらちら選びながら、クラフはぺたぺたと走った。
二階は個人の研究室があるとかで、どの部屋にも入ったことはない。扉には何も書いていないし、廊下の壁も真っ白。貼り紙一つない。
適当に一つの扉を開いた。
「!誰だ!」
中には大きな本棚に囲まれたテーブル。そこには確か一度だけ会ったことのある男の人が座っていて、クラフを見るなり怒鳴った。
「お前!何してるんだ!」
「うわ」
すぐに扉を閉めて、クラフは再び廊下を走る。
外に出てみたい。
廊下の奥まで来ると、突き当たり。右手にある扉に、非常口、というランプがついていることに気づいた。人が扉から駆け出す絵が描かれている。
「外だ!」
廊下の向こうに、ローザと警備員だろう、大きな男の人の姿をちらりと見て、クラフは飛び出した。非常口の扉には鍵がかかっていない。
外は、ひやりと冷たかった。
夜なのに空気はどんよりとしていて、天気が悪いのだろう、星は見えない。
クラフは階段を降りた。
建物の裏手だろう、ところどころに灯されている外灯を見ながら、舗装された四角い場所を駆け抜けた。

「わあ、車だ!すげ、本物!」
思わず、外灯の下の赤い車に立ち止まる。
中をのぞいてみる。
きらりと速度計らしいものが見える。クラフは追われていることも忘れて、見入った。ドアを開けようとしてノブを引くと、大きな音が鳴り出した。

「うわ!びっくりした!」開かないので、隣の車を見る。
それから改めて、周囲を見回す。
駐車場には五台くらいのさまざまな形の車があった。全部で二十台分くらいの四角い駐車場は、クラフの背より高いフェンスに囲まれていて、出入り口には、機械仕掛けの門らしきものがある。今、ちょうど一台入ってきた。車の前に伸びていた棒のようなものが音もなく上がった。車が入ってきた。エンジンの音だ。
クラフは興味でいっぱいになって、自分の正面に走ってくるそれを、目を丸くして見つめていた。

「すごいな!」
車が止まった。
「何しているんだ!クライフ!」

まぶしいヘッドライトが消されて、クラフはかざしていた手を下ろした。車から誰かが降りてきた。
背の高い男のようだ。
「あ!カーチスさん!」

不意に後ろから抱きしめられて、クラフは転びそうになる。
「もう!ダメでしょ!」
ローザだった。振り向くと、すぐ横に、銃を構えた警備員が立っていて、見上げたクラフをにらみつけた。その警備員はビイとは違っていつもむっとした顔をしている。嫌いな人だ。

「連れて行きますか」
「いたい!」
警備員はクラフの肩をぐいとつかんだ。
冷たく言う男に、ローザは大きく首を横に振った。
「いえ、いえ、大丈夫。この子は何もわかっていなくて。ただ、退屈していただけなのよ」

「どうしたんだ?クラフ、何でそんな格好で出歩いているんだ」
カーチスが怪訝な顔で、話しかける。古英語だ。
クラフも同じ言葉で返す。

「ああ、ごめん、大丈夫。ちょっと、探検したくなっただけだよ!それより、カーチス、その車見たいよ!すごいよ、車。見てみたい!乗りたい!なあ、オレすごい興味あるんだ!」

クラフは目の前のカーチスを見上げて、ニコニコ笑っていた。
「ああ、そうか。初めてなんだな、見るの」
「小さい頃見たけど、あの頃はよく分かってなかったからさ。な、エンジンはなんなの?燃料は何?ガソリンじゃないやつ?ほら、電気のとかかな?ね、オレ、十年前の知識しかないからさ、教えて欲しいよ!」

「あ、ああ。いいけど、クラフ。その、お前、それより後ろ…ローザ、何をそんなに怖い顔しているんだ?」後半は英語になっていた。
「!」
クラフは、思い出した。
いつの間にか、抱きしめていた女性の手はなく、振り向くと警備員と同じくらい、怖い顔をしたローザが睨みつけていた。
「あ、あの…ボク」


カーチスは笑い転げていた。
クラフの部屋に戻って、テーブルでコーヒーを飲んでいた。
ローザにとカーチスが持ってきたケーキに、クラフは満足げな顔で舌鼓を打つ。
「笑えないわよ!私はすっかり、五歳児くらいの知識しかない可哀相な子供だと思っていたのに!」
「だから、ごめんなさいって。ね、これ、美味しい」
クラフはふた切れ目の紅茶のシフォンケーキに、たっぷり生クリームをかけた。
「五歳児なわけないだろ?ローザ、十五歳ともなれば大人だぜ?」
「うん、オレ、オトナ」
「お前、何でそんなことしたんだ?そう言う趣味か?」
面白そうに目を細めるカーチスに、思わずクラフは飲みかけた紅茶を噴出した。
「やだ、クライフ!だめじゃない、ほら、汚れちゃったわ」
ローザはティッシュでクラフの口元を拭く。
それはまるで、小さな子供にするような仕草。
「あ」
気づいて、ローザはニコニコしているクラフを睨んだ。
手に持っていたティッシュを、クラフの顔にぽんと投げつける。
「もう!」
「お前、ローザに優しくしてもらって、甘えてたんだろ!いやらしい笑いになってるぜ」
「うん、たくさん甘えた」
悪びれもせず、再びケーキを口に放り込む少年を、カーチスはこつんと小突く。
「だって、いい匂いするし。女の人って、いいよな」
少し照れくさそうに笑う少年に、今度は箱ごと、ティッシュが飛んできた。
「本当に、怒っているのよ、私は!君がそんな子だとは思わなかったわ!」
ローザはぷいと席を立って、部屋を出て行ってしまった。
「あれ?そんなに怒らなくてもいいのに」
「ばか、お前、からかいすぎだぜ」
そういいながらも、カーチスはくすくすと笑い始めた。
「なんだよ?」
「いや、ローザもあんな可愛い顔するんだな」
「!惚れてるの?」
今度はカーチスが変な顔になる。
「へー!そうだよな、こんな夜中にケーキ届けるためにわざわざ来るくらいだもんナ」
「うるさいぞ、お前。いい女だろ?」
カーチスが切れ長の瞳をとびきり優しくして微笑む。クラフは少し、寂しげに笑った。
「いいなぁ」
「なんだ?お前好きな子…」
言いかけて、カーチスは黙った。
クラフにそんな出会いがあるわけがなかった。

「好きな子はいたよ」

カーチスの視線をどうとったのか、クラフは笑った。口の脇にクリームをつけて、その笑顔はあどけない。
「でも、ぜんぜん。カッコイイやつに取られた」
「ま、そのうち、いい子に会えるさ」
カーチスが微妙に視線をそらしたことに、クラフは気づいていた。
「あのさ。オレ、いつになったら、自由になるんだ?」

檻の中の狼1へ続く♪

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。