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「宙の発明家」第三章三.檻の中の狼①

●檻の中の狼1

カーチスは、首を横に振った。
「悪い、俺はあそこに行ったのはパイロットとしてなんだ。ただ、それだけの仕事だった。お前のこととか、これからの計画とか、俺は知らないんだ」
「俺さ、あの後、一度も父さんに会ってないんだ。なんだかさ、帰って来た意味ないよな、これじゃ」
クラフがまた一口、ケーキを食べた。
紅茶を飲んで、最後に皿に残ったクリームを綺麗にフォークでさらって舐めるまで、カーチスは黙ってみていた。

「お前、帰ってきて、やりたいことって何だったんだ?」

クラフは顔を上げた。
「まず。親に会う。小さい頃のガールフレンドに会う、もっといろいろなことを勉強する。ほら、車とか、いろいろな技術のこと。それから、えーと。ディズニーワールド、だな」
「WDW(ウォルトディズニーワールド)か」
「うん、そう。オレ、小さい頃何度か行っていてさ、すごく好きなんだ!子供っぽいって笑うなよ。それから、勉強したら、また、宙(そら)に戻る」
そこで、カーチスは目を丸くした。
「戻る?」
「うん」
「なんで?」
「え?だって、友達いるし」
「いや、でもさ」
「おかしくないだろ?」
「…あの、さ。お前が宙と呼ぶ、あそこ。こちらではBlank Spot of Air、「BSA」ってコードネームでさ。軍の機密なんだ。関係者しか知らない。勝手に行ったり来たりは出来ない」
「変なの。オレ軍人じゃないし、関係者でもないから関係ない」

クラフは歯を磨きに洗面所に向かった。その背に、青年が話しかける。
「…クラフ、悪いことは言わない、それはあきらめろ。お前はこっちで生きていくべきだろ?父さんも母さんもいるんだ、な?」
「…じゃあ、さ。オレに普通の生活、返せよ」
クラフは歯ブラシをくわえている。視線は鏡の中の自分のまま。
カーチスは黙った。
「無理だろ?だったら、オレ、自分のしたいように生きるんだ。オレ、宙で幸せだったんだぞ」
クラフは、穏やかに笑っていた。


翌日から、ローザの態度は一変した。
診察と視力の訓練以外は顔を出さないし、必要最低限の言葉しか話さない。
「あのさ」
クラフがたまりかねて、訓練用のゴーグルを外して、ローザに声をかけた。
「悪かったって言ったよ、その態度はひどいよ」
「はい、今日の訓練はおしまい」
そう言うなり、遮光カーテンを開けた。
「う!」
クラフが、まぶしくて顔を手で覆っても、閉じてくれない。
「さ、部屋に戻るの」
「まぶしいよ!閉めて」
「本気で怒ってるって言ったでしょ?クライフくん、誰かに嫌われたことないの?あんな悪戯して。わがままで」
「閉めてってば!」
「いやよ。自力で帰りなさい、部屋までね。今度は逃げ出しても手加減してもらえないわよ。気をつけることね」
冷たく言い放つローザの表情は見ることが出来ない。
クラフは顔を手で覆ったまま、手探りでゴーグルを探すが、それは取り損ねて、テーブルから落ちた。立ち上がって、拾おうと座り込む。
分からなくて、テーブルの角に頭をぶつけて、今度は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「いたい、ひどいよ!そんなに怒ることないだろ!」
「許さない」
「ボクが小さい子供じゃないとそんなに嫌なのか?」
クラフの英語もだんだんさまになってきている。
「違うわよ!小さい子の振りして甘えようっていう考えが嫌なの」
「悪かったな!五歳じゃなくて!そっちが勝手に思い込んだのに!もういいよ!止めた!オレもう、我慢できない!」
そう怒鳴って、クラフは目をつぶった、よたよたと部屋を出ようとする。
途中、何もないところでつまずきそうになって、よろけて壁に頭をぶつける。
「って、畜生!」
壁を蹴り返して、怒鳴ると、クラフは何とか壁沿いに手探りで扉を見つけ、外に出る。
また、転んだ音が廊下に響いた。

開け放された扉を忌々しげに見つめて、ローザは再び書類に向き直る。
訓練の結果は思わしくなかった。

水晶体に入る光量を調整する筋肉、虹彩(こうさい)に、変異が起きていた。一定の明るさを超えると対応できなくなる。眩しいのだ。逆に、通常より暗い場所での視力が高い。
このままでは、昼の陽光を裸眼で見ることはかなわない。
それが、宙の世界の大気成分のためなのか、環境のためなのか。まだ、分からない。

偽物になってしまった心臓と肺。取り戻すことの出来ないものが、また一つ増えたのだ。
ふ、とため息をつく。
どうやって、告げるか。迷っていた。

檻の中の狼2へ続く♪
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「宙の発明家」第三章三.檻の中の狼②

●檻の中の狼2

こちらに来て何日目になるのだろう。
クラフは、届けられた雑誌と本の山に囲まれながら、変わり果てた部屋で一人作業をしていた。
部屋は、窓際にテーブルがぴたりとつけられて、広く開いた真ん中に分厚い本がアルプス山地のように高低をつけて広がっている。
ベッドの上には、くしゃくしゃになった毛布と散らかした服。

少年は本を積み上げた山脈と山脈の間に、座り込んで、足元に広げた図面とたくさんのメモに何か走り書きしている。
「そう、そこの耐性がちょっと低いね。うん、そう、気密を高めるには間の素材の精度が問題なんだ。ほら、ぺたっ葉の元のやつ、ゼリーの、あれをさ、高温で圧縮するといいんだ。分かるかな」
扉が開いて、男が入ってきたことにも気付かない。
「そう!ピーシ、勘がいいな、でさ、コックピットのガラスだけど、やっぱり変更しなきゃだめだと思う。気圧変化に耐えられないからさ。うん、まだ、考えてる。重さが変わるとまた、バランス変更しなきゃならないから今は、まだ、計測しなくていいよ」

クラフが夢中になって、走り書きしているメモを、カーチスが覗き込む。書かれているのは、古英語と何かの数式。それと、構築比率の計算式のようだ。素材の元素記号が、並ぶ。
抗圧試験の結果数値をさらさらと並べて、手書きで簡単なグラフを書く。必要な強度指数のところで縦に線を引く。
ここまでが、必要な強度、と、メモ。

「そ、素材のこと決まったらまた、連絡するよ。ああ、俺元気だよ。大丈夫。あ?セキア?いいよ、代わらなくても。だって、話すことないから。じゃあね」
少年が銀色の巨大豆のような機械を耳から離す。

「よお」
「うわ!!」
思わずクラフは背後の本の山脈を崩しかけた。
カーチスはにこにこして、クラフの手元を覗き込んでいた。
「なんだ、カーチスか、びっくりした」
クラフはささっと、書類をまとめる。くるくると図面に挟み込んで丸めると、本の山脈の下にある空洞にしまい込む。
「なんだ、今の」
「うん、ほら、向こうで作ってる飛行機の図面」
「見せろよ」
「やだね、それよりさ、ほら、見て」

クラフがカーチスを引っ張って、一番窓際のテーブルのところにつれてくる。間の山脈や書類の川をまたぎながら、青年はあきれ返った。
「なんだ、こりゃ。すごいな、これほど散らかす奴、初めて見た」
クラフはお構い無しだ。

「見てみて!これ!」
見上げたクラフの顔のあちこちに、白いものがついていた。
「なんだ?」
クラフの差し出した手には、両手に丁度乗るくらいの、車があった。
真っ白いもので出来ているそれを、カーチスはじっと見詰める。確かに精巧に出来上がっている。

「あれ?すごくない?」
カーチスの反応にがっかりして、クラフは大事そうにそれを抱えて、窓際のテーブルにのった冷めた食事のトレーを肘で押しのけ、開いたスペースにそっと置いた。

「それ、作ったのか?」
カーチスは部屋を見回しながら、どこにケーキをおくべきか考えているようだ。
「紙粘土でクレーモデル、作ったんだ!ほら、カーチスのクルマと同じだろ?」
「ん?そういわれれば、そうだな」
「キッチリ、100分の1サイズだ。コレ、乾かして、色付けるんだ」
楽しそうに笑う少年に、カーチスは釣られて笑った。
「そうか、それ、お前が作ったんだな」
「そ」
「そんなことしなくても、頼めば買ってきてやったのに」
「何を?」
「同じタイプのラジコンとか、模型とかさ。どこでも売っているぜ」
「!?走るのか?」
クラフは目をまん丸にしている。落胆の色を隠せないので、カーチスがにっと笑った。
「ああ、それにしても、お前、器用だな。この図面から起こしたのか」
「そう。オレ様天才だからさ。ほら、あっちに、エンジンの模型もある。ローザがけちだから、金属加工させてくれないし、材料だって、粘土と紙しか用意してくれないんだ」
クラフはそう言って、口を尖らす。
ハサミやナイフを使う必要のあるものを与えないのだろう。

カーチスは、いくつかの本の山を乗り越えて、テーブルの脇のクラフのところにたどり着くと、ケーキを渡そうとした。
「ほら、これ、気に入ったんだろ?」
「…いらない」
「…本当にいらないのか?」
「ローザになんか言われたんだろ?それで、持ってきたんだろ?」

カーチスは、箱を一番高い本の山の上に置くと、クラフの肩に両手を置いた。
「お前、何にも食べないそうじゃないか。診察も受けないし、訓練も。彼女心配していたぞ」
「うそだよ。ローザはオレのこと、嫌ってる。ただ、仕事だからそうしてるんだ。ローザが俺のこと好きならやる気も出るけど、無理だよ。我慢するの止めたんだ」

クラフの肩はほっそりと頼りなく、顔色も悪い。
ローザの話では、今日で七日。最初は拗ねているだけだと放っておいたらしいが、一向に食事を要求しないので、三日目からとにかく、差し入れるだけはしているという。診察させないし、このままでは、強制的に点滴、と言うことになるという。
拒食症状が出る前に、何とかしたいのだ。
それで、クラフが唯一懐いているカーチスに依頼があったのだ。
きっかけは、一通り聞いてある。

「ローザがいなくなればいいのか?交替して他の人になるとか」
「…違う」

クラフはうつむいた。一瞬、セキアを思い出す。

「このままじゃ、お前、死んでしまうだろ?俺はいやだぜ、そんなこと」
「じゃあ、自由にさせろよ。外に出せ、オレ、家に帰りたい。母さんに会いたい。日の光で見えないのはいいよ、もう。サングラス買ってもらったからそれでいいんだ。父さんがオレに会いたくないならオレだって無理に会いたいとは思わない!でも、オレは、普通の生活に戻るためにこっちに帰ってきたんだ!」
見上げる少年の目が真剣でカーチスは思わず目をそらした。
出来ない。
男の態度はそう告げている。クラフは手を振り払って、ぴょんと本の山を飛び越えた。
が、着地に失敗してよろめいた。
「!クラフ!」
転びかけた少年はそのまま座り込んでしまった。
無理もなかった。


檻の中の狼3へ続く♪

「宙の発明家」第三章三.檻の中の狼③

らんららです。春です。眠いです。周りは花粉で泣かされています。
一人、風邪も引かず、花粉にも平気で、意味のない元気を振りまく私。職場では、「いずれ、私の免疫力を商品にして売り出したい」と豪語しております!絶対儲かる!
ご予約の方はお早めに…もれなく、副作用として「なんとか」がついてきます。語源は「~は風邪引かない」といういわれのあれです(^^)



●檻の中の狼3

気づいた時には、ベッドに横たわっていて目の前に、黒髪の白衣の女性が覗き込んでいた。
クラフは睨みつける。
額に手を置こうとする女性を押しのけるように、体を起こす。

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「宙の発明家」第三章三.檻の中の狼④

らんららです!カーチスさん大人気?いい男ぶり、発揮となるかしら…?

●檻の中の狼4

クラフが目覚めたとき、カーチスはまだ、そこにいた。
「おはよ、お前、気分はどうだ?」
カーチスはベッドの脇に座って、切れ長の瞳で、ニコニコ笑っていた。
クラフは黙って寝返りを打つ。手の甲につけられた点滴に気づいてはがそうとした。それをカーチスに止められた。

「な、お前やりたいことあるんだろ?向こうでもお前、ずっとがんばってきただろ?言っていたよな、こっちに帰るために飛行機を作ったって」
「…」
クラフは黙っている。
「お前、こんなやせていてさ、体力もなくて。それで、どうやって目的果たすんだよ」
クラフの表情が険しくなる。

「お前頭いいんだからさ、もっと冷静になれよ。ローザにつられて、二人して感情的になっていたって、何の解決にもならないだろう?」
穏やかに笑う青年。
クラフは一瞬何か言いたそうに口を開き、また、閉じた。

「目的を果たすために必要なことをさ、身につけろよ。時間かかったっていいじゃないか。十年待ったんだぜ?今数週間を待てずに、死んでもいいなんて自分を追い詰めることないだろ。
昨日、あれ、ほら、電話みたいなやつ、かかってきたぜ。通話方法が分からなくて会話は成立しなかったけどな、あのセキアって男、お前のこと、心配していた」

「あせって、命を粗末にしたら、あいつにも会えなくなるだろう?」
少年の瞳が涙目になっていることに気づいて、カーチスは頭をぐりぐりとなでた。
「とにかく、お前は自分の何が有効な武器になるかを考えるんだ。お前の持っている向こうの世界の知識。
あの電話なんか、軍部が目をむいて興味を持つような代物なんだ。相手の様子を見て、戦略を練る。上手く取引して自分のむけたい方向に変えるんだ。
そして、行動するに足る体力や技術を身につける。
拗ねてる暇なんてないだろう?俺も少しは手助けしてやれる。
な、オトナになれ」
「…」
「クラフ?」

少年は何も言わず、毛布で顔を覆った。
ベッドの上で、ひざを丸め、小さくなって。
肩が震えている。

ローザではないが、子供に見えた。
小さな子供が、怯えて震えているように見えた。
「…泣きたいなら、泣けばいいだろ」
クラフは首を横に振った。
「オトナのオトコは泣かない」
「意地っ張りだな」
しっかり涙声になっているくせにと、カーチスは目を細めた。
「…オトナに、なれって、あんたが言ったんだ!」
顔を上げるとそれは、とどまることが出来ずに、頬を流れ伝う。
「…ばか」
カーチスはため息をついた。ベッドに腰掛けて、肩を叩いてやる。
「簡単に言うとな。心配かけるな、俺は、お前の味方だって、そういうことだ」
クラフがしがみ付いてきた。
「甘えん坊だな、お前」
「そう育った…」
セキアのせいだ、と、それは声にならなかった。

彼のことを思い浮かべるたび、つらくなった。
だから、セキアとは話したくなかった。
声を聞けば、きっと、こらえられなくなる。
どれほど頼りきっていたのか、セキアに会えなくなって痛感していた。
覚悟はしていたものの予想以上に、何も出来ない。何の力もない。


青年は気の済むまで、泣かせておくことにした。
カーチスに兄弟はいないが、弟がいたらこんな感じなのだろうと思わせた。
十年間、一人ぼっちだった。そして、やっと、両親のいるこの世界に戻ってきた。
それなのに望むものは何一つ、クラフには与えられていないことが、カーチスの胸を苦しくさせた。
ごく、普通の少年なら、当然そこにあるべきものが。


どれくらい、泣いていたのか。
すでに深夜であることは間違いないが、テレビどころか、時計すら置かれていないこの部屋では、確認することは出来なかった。
こんなところに、一週間いたら、俺なら精神を病んでるな。カーチスがそんなことを考え、クラフの頭に手をのせた。クラフは先ほどからじっとしていた。
静寂が、続いていた。眠ってしまったのかもしれない、とカーチスが思い始めた頃、ふいに、クラフが顔を上げた。

それから、恥ずかしそうにくしゃくしゃになった前髪を手で調えて、何度か瞬きすると、笑った。青年から離れて、しゃんと姿勢を正す。
「も、大丈夫。落ち着いた…」

「そうか。あのさ。俺からプレゼントやるよ」
「え?」
カーチスは悪戯っぽく笑った。
「三日後はクリスマスイヴなんだぜ」
「…」
「俺とローザのデートに、お前を連れて行ってやる。ディズニーワールド、行きたいんだろ?」
クラフは再び青年に抱きついた。

夢の国1へ続く♪

「宙の発明家」第三章四.夢の国①

らんららです!今日から楽しくワンダーランド♪いいなぁ、行きたいなぁ!!お仕事逃避して、心だけは夢の国…

●夢の国1

その日は、この亜熱帯のオーランドでは珍しく、寒い日だった。クリスマスイブだけあって、このワンダーランドは人で埋め尽くされる。

クリスマスのデコレーションを施された、世界でもっとも大きな夢の楽園の煌びやかな姿に、クラフは感激していた。
十時過ぎに入園したために、すでに園内は混雑している。

続きを読む

「宙の発明家」第三章四.夢の国②

●夢の国2

カーチスの声に、クラフは親指を立ててみせる。カーチスの短い金髪が風で揺れる。
コースターはぐぐ、と左に回ったかと思うと、次に右。かなりのスピードだ。その先に赤い星が見える。
それはぐんぐん近づいて。
クラフは指示に従って、操縦桿をあげたり下げたり。タイミングがずれると、手元のスクリーンが赤く点滅する。
『ようし、いいぞ。ほら、あれが火星だ』
目の前が真っ赤に染まると同時にコースターは急降下!キャーと後ろで悲鳴とも完成ともつかない声が上がる。
赤いランプが点滅し、クラフの頬を照らす。
白い煙と変なにおいがして、警報音が鳴り響く。
がたがたとおかしな揺れ。
誰かが悲鳴を上げた。
『燃料タンクに故障発生!緊急着陸を試みる!』
キャプテンバーリーの緊迫した声と同時に、一気にコースターは下降する。しながらも、クラフの目の前のスクリーンではタイミングにあわせてエンジンの逆噴射だ、角度を間違えるな!さあ、レベルゲージにあわせて操縦桿を引け、と赤い文字が躍る。
映像と自分の手元のシャトル全体の絵の写ったスクリーンを同時に見ながら、タイミングを計る。
手元に伸びる二本の操縦桿を、両手で思い切り引く。下降するコースターで、それは至難の業だ。
「危ない、右に旋回」
コースターが右に傾く。
逆らうように右に操縦桿を傾ける、それはかなり重い。
「く」
「しっかりやれよ!」
カーチスが横から手助けしてくれた。
がたがたとゆれ始めたコースターが左に傾いて旋回しているような感覚にとらわれる。
目の前の映像はひび割れた火星の地表だ。その細い亀裂にシャトルが飛び込んでいく。真っ暗になったかと思えば、目の前に轟々と流れる水。
『危ない!』
クラフは操縦桿を手前に引く。
右横のシャトルのバランスを表示する機械が赤くなって、次にはグリーンに戻る。
安定した、ということか。
どん!
と衝撃を感じて、水しぶきがかかった。
「うわ!」
「うえ」
思わず叫んだカーチスの声に、クラフは笑いながら、それでも目の前の映像に釘付けだ。
そこは水の中。水中に落ちていく。
『驚いたな、火星にこんな地下水脈があるとは』
キャプテンバーリーの声。
『お!アレはなんだ!』
ひゅんと何かがスクリーンを横切る。
「出たよ!カーチス!逃がすなよ!」クラフが叫んだ。
次の瞬間、がたがたとゆれ、クラフは膝をどこかにぶつける。
「いってえ」
「大丈夫か」
カーチスの声に、クラフは笑った。
「いいから、ちゃんと、狙ってくれよ!外したら道連れになっちゃうんだ!」
目の前に現れた怪しげな生き物に、カーチスは照準を合わせる。
赤いレーザーがロックオンすると、次の瞬間白い煙のように、それは消えうせる。
視界の悪い水中から、次々と出てくるそれを、カーチスはすばやく打ち抜く。
「すげー!カーチスかっこいい!」
「ばーか、オレはプロだぜ、バカにするな」
ウインクする余裕を見せる青年。クラフは、自分の役割を一瞬忘れてぐらつくコースターを慌てて立て直す。
「しっかりしてくれよ!」
「分かってるよ!」
そう怒鳴りながら真剣な瞳の少年に、カーチスは笑う。初めて、クラフがコレほど楽しそうに笑うのを見たのだ。

二十分程度のアトラクションを、最高得点で終えた二人は、立ち上がると同時にハイタッチを交わす。
「最高!」
「ああ、お前もなかなかだったぜ」
アトラクションを後にしながら、クラフは嬉しそうに頬を上気させ、笑った。
「な?カーチスじゃなきゃダメだろ?オンナは足手まといなんだ!」
「お前、そういう奴か」
「何が」
「さんざんローザに甘えたくせに、俺もガキの真似しようかなぁ!」
「あ!ミッキーだ!!」

少し離れたターキーレッグのワゴンの脇で、キャラクターグリーティングが始まったことに気付いて、クラフは駆け出す。
「…ごまかしやがって」

夢の国③へ続く♪

「宙の発明家」第三章四.夢の国③

らんららです!
一週間もお休みをいただいちゃいました!でも本当に、もらってよかった…かなり忙しい状態でした。三日続いた歓送迎会、最終の日曜日は午前2時過ぎまで語り合って、濃い内容、つらい二日酔いの週末でした(^^;)



間が空いたので。前回までのあらすじ♪
地上に戻ったクラフくん。でも自由なんか一個もなくて。閉じ込められて、ふてくされて。
そんな時、唯一味方のカーチスさんにクリスマスプレゼントをもらいます!それは夢の国。10年ぶりのディズニーワールド、楽しんでいるのです!


「な?カーチスじゃなきゃダメだろ?オンナは足手まといなんだ!」
「お前、そういう奴か」
「何が」
「さんざんローザに甘えたくせに、俺もガキの真似しようかなぁ!」
「あ!ミッキーだ!!」

少し離れたターキーレッグのワゴンの脇で、キャラクターグリーティングが始まったことに気付いて、クラフは駆け出す。
「…ごまかしやがって」

●夢の国3

あきれつつも、面白そうに笑ったまま、カーチスはそれを眺める。クラフはこちらを見て手を振るドナルドをフットボールよろしくさらっとかわすと、後ろにいたミッキーマウスに抱きつく。両手を天に挙げてちょっと怒ったドナルドにサングラスを外されそうになって慌てる。
彼らはとてもフレンドリーだ。
「どうせ、女は足手まといですからね。あら、あれ大丈夫なの?」

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「宙の発明家」第三章四.夢の国④

お休みしたので、少しまとめて更新です。
お付き合いくださいね!


●夢の国4

つんと顔を背ける。サングラスの少年が、見かけに似合わない幼い口調なので、前に並んでいた男性が怪訝そうな顔をして振り向いた。
クラフはその視線をじろりとにらみ返したが、サングラスの奥からでは相手に通じるわけでもなかった。
「ばか、ダメだって言ってるだろ!」
カーチスが列の脇のロープを無視して、手を伸ばしてくる。

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「宙の発明家」第三章四.夢の国⑤

●夢の国5

すっかり機嫌を悪くしたクラフは、ランチのレストランでもほとんど何も手をつけない。ミッキーの形のハンバーグも、派手に飾られたチキンレッグも、手をつけずにじっとしていた。
悔しかった。
「おい、クライフ。機嫌直せよ。な?ほら、ショーが始まるぞ」
「…」

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「宙の発明家」第三章五.取引①

●取引1

クラフは、緊張していた。
車内は広くて、大柄の大人が四人並べるくらいだ。向かい合わせの席は遠く、間にテーブルがある。冷蔵庫がついているのに気付いて、クラフはちらちらとそちらを見つめる。本来なら車に乗るのはすごく楽しい。とくにリムジンは真ん中にテーブルを据えたつくりで、ミニバーのカウンターもある。興味は尽きないが、はしゃぐ雰囲気ではない。
両側を大きな黒いスーツの男たちに囲まれて、正面に父親。

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「宙の発明家」第三章五.取引②

●取引2

ルームサービスの朝食にかぶりつく少年を見つめながら、オクトは苦笑していた。
クラフが頼んだサンドウィッチは食べやすい大きさに切られた、上等なものだったが、少年はそれを分解してしまって、中身を一つ一つ確認し、見慣れないものを発見すると喜びの声を上げた。

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「宙の発明家」第三章五.取引③

●取引3

食事が済むと、クラフはシャワーを浴びて、着替えるように命じられた。
ずっと、つまらなそうな顔をしてサングラス越しに外を眺めてばかりいた少年に、オクトは念を押すように言い含めた。

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「宙の発明家」第三章五.取引④

●取引4

「さあ、クライフくん。続けたまえ」
ヴェデリット大佐の黒い目が、面白そうにクラフを見ていた。少年はまっすぐ見据える。
「人口は約八十万人。土地の六割が開拓されていない山地と苔池と呼ばれる沼地。これを、唯一の宗教で保護しているんだ。なんて名前の宗教なのかは分からない。だって、国と同じでそれしかないから、他と区別する必要がないんだ」
「統一されているということかな?」

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「宙の発明家」第三章五.取引⑤

らんららです。
年度末です。忙しくなってまいりました。コメ返しとか遅くなるかもです…ゴメンナサイ(><)
更新だけは自動で、がんばります!!
ちょっと前から描いていたクラフくん。このシーンですね。


20070329074603.png



●取引5

ヴェデリット大佐が帰ると、クラフは広いリビングの大きなソファーにゴロンと横になって伸びをした。
遮光カーテンがされているので、薄暗い。シャンデリアのきらめきに、まぶしそうに目を瞬いて、少年は堅苦しいシャツの襟のボタンを二つほど外す。

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「宙の発明家」第三章六.HOME①

●HOME 1

会場の周辺はそれらしき正装の大人でいっぱいだった。その中を、ちょこまかと縫うように歩くクラフを、オクトは何度も見失いそうになる。
SSたちも、立食の会場で早足でクラフを追いながらウェイターとぶつかりかけたり、見失ったと思えば後ろからクラフにわっと驚かされて、隣に立つ人が持った皿の料理をこぼしかけたり。
平静を装いつつも、皆イライラしながら常にクラフに気を配る。

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らんらら

Author:らんらら
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