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「宙の発明家」第三章六.HOME②

●HOME2

レセプションルームのパーティーは、東洋人が銃を誤認して騒いだことをのぞいては、これといって問題もなく、順調だった。
「やれやれ、東洋人は相手がSSかどうかも分からんのかね」
白髪の背の高いがっしりした体躯の老人が、小さな丸い眼鏡の下の目を瞬いた。

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「宙の発明家」第三章六.HOME③

●HOME3

白い壁、ダークグレーの三角の屋根。屋根の一番高いところには、ミッキーマウスの形の風見鶏が、遠く背後にある高速道路のオレンジの明かりに今は冷たくシルエットだけを見せる。
二階建てのその家の窓は、すべてに明かりがともっているようで、窓辺に置かれたメリークリスマスのライトと、スノーマンがぼんやりと光っている。レースのカーテンの向こうから、温かそうな灯りがもれる。
「これ、ほら、ミッキーのポスト、かわいいだろ!ボクお気に入りだったんだ」
懐かしいものを見つけて、クラフは嬉しくなる。

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「宙の発明家」第三章六.HOME④

●HOME 4

カフェの外、小さな芝生を囲む中庭で、カーチスはタバコに火をつける。
「それで、捜索範囲は?」
『いや、簡単なことだ。大体予想は付くがな、昔住んでいた家に向かったんだろう。五歳までの記憶しかないんだ、たいしたことは出来ない。位置は直ぐに確認できる。あれの心臓からは常にデータが発信されているからね。これまで、BSAでそうだったように。座標は衛星からデータを送ろう』
カーチスは眉間にしわを寄せた。いつまでも、クラフは道具のままなのか。

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「宙の発明家」第三章七.隠し事①

●隠し事1

基地に車が滑り込む頃には、クラフは寒気を訴えてぐったりしていた。雨に打たれて、風邪でも引いたのかもしれない。大切そうにデンワを握り締めている少年に、カーチスが声をかける。
「クライフ、ついたぞ」
「…」
だるいのだろう、返事はない。
何本目かのタバコをもみ消して、カーチスは研究所の正面に車を停める。

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「宙の発明家」第三章七.隠し事②

●隠し事2

つかつかと歩み寄って、オクトはクラフの頬をたたいた。
「お前は!勝手なことばかりしおって!」
「うるさい!ボクが戻ってきても知らん顔して避けてたくせに、逃げ出したボクを自分で迎えに来る勇気もないくせに!都合のいいときだけ父親面するんだ!」
クラフは反撃しようと、父親につかみかかった。
「待って!」
「止めてください!」
ローザとカーチスが二人を引き離した。

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「宙の発明家」第三章七.隠し事③

●隠し事3

同僚との夕食を済ませると、カーチスは自分の部屋に戻る。
独身の彼は基地内の宿舎に住んでいた。家を買うことも出来るが、どうせ、あちこちの基地を点々とするのだ、結婚するまでは面倒くさいから、という理由で宿舎を選んでいる。どこを見ても軍人ばかり、仲間やライバル、上司。そういう環境に身をおくことは、彼にとって気楽だった。

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「宙の発明家」第三章七.隠し事④

●隠し事4

少年に与えたかわいい子供部屋を後にすると、デアマンはまっすぐ二階にある研究室に向かった。ずんぐりした風貌の彼は人懐こい笑みとは裏腹に、無口でけっして自分の感情を表に出さなかった。

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「宙の発明家」第三章七.隠し事⑤

●隠し事5

午前一時。
静まり返った郊外の病院に、黒い大きな車が入ってくる。リムジンだ。ナンバープレートは分からないように照明が消されている。黒く張られたスモークの向こう。乗っている人物も、人数も分からない。
全部で3台。

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「宙の発明家」第三章七.隠し事⑥

●隠し事6

女性の白い小さな手で手を握られ、クラフは少し気分が落ち着いた。
やっぱり、誰かと手をつなぐのは、安心できた。

「…あれが、君が大統領より会いたかった、父親かね」
ニービア氏は深いため息とともに悲しげに少年を見つめた。

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想うものの欠片=インデックス=

◆想うものの欠片◆

舞台は産業革命時代のヨーロッパに似た異世界。

全てを見通す美青年と

誰にでも愛される美少女が、

誰にでも優しい少年タースに出会って

世界が動き出す…

設定資料更新!
⇒用語集です♪

番号をクリックすると記事にいけます!

第一話:プロローグ
                

第二話:「トント、そして三人」

               

第三話:「山桃とキツネ」
                   21 22 23 

第四話:「ミキーと白い虎」
                    21 22 23  

第五話:「国境」
               

第六話:「帰る場所」
               

第七話「胎動」
              

第八話「空」
                  

第九話「海」
             

第十話 「世を継ぐ男」
           

第十一話 「想うもの」完結
                    21 

「想うものの欠片」分からないことはここで解決?

【地理】

エノールト:この世界を表す言葉。古い言葉で生命の地を表す。

ノワールト:この大陸名前。「ライトール公国」と「ティエンザ王国」、「シモエ教区」がある。

ライト公領:ライトール公国の中ほどにある首都。

アバズカレズ川:ノワールト大陸の中心を南北に流れる大河。源流はシモエ教区のあるシデイラ山地。

シデイラ山地:ノワールト大陸北中部にある山。山頂で北部がシモエ教区、南西部がティエンザ王国、南東部ライトール公国領の分岐となる。古来、この山地にシデイラ民族が住んでいたことから、シデイラ山地と呼ばれる。

ライトールの二十四都市:過去はそれぞれが小さな都市国家だった。城塞都市が多く、今もほとんどの都市に街と人々を守る城壁がめぐらされている。公国として統一された後も、都市の自治はそれぞれの旧国王(現在は領主と呼ぶ)に任されている。

ナオトレオス:山間の小さな町。タースたちが始めて立ち寄った街。そこは、夜になると叫び声のする料理屋がある…。

ウルルカ:二十四都市ではない、中継地点に発達した都市。城壁に囲まれていないので、区別できる。領主の自治の及ばないこうした中間の街は、大公直属の公国政府が総督を置いて管理している。総督府と聖堂があることが特徴となる。
また、二十四都市でないので、警備兵(領主が持つ私兵のこと)もいない。治安の維持は公国軍によって行われる。

カヌイエ:二十四都市のうちの一つ。アバズカレズ川に唯一かかる国境をまたぐ橋、キョウカレズを守護する位置にある。城塞都市。国境の街として有名で、領主のワズムカ候は大公へも強い影響力を持っている。

シモエ教区:シデイラ民族を保護する目的で「教会」が所有する広大な北の大地。しかしながら不毛の地であるために、使われているのはごく一部。教会が建てた保護施設があり、シデイラたちはそこで生活する。
施設維持や管理にはミーア派の司祭たちが当たる。また、警護や治安維持にはライトール公国軍の部隊が常駐している。最近、ミーア派に代わり、ロロテス派が管理するようになるのと同時に、警護もティエンザ王国軍が当たるようになった。
タースの生まれた土地。

ティエンザ王国:ノワールトの大地の西半分を納める王国。ものすごい勢いで産業革命を推し進める。いまや、国力はどの国をもしのぐといわれている。

サンルー:ティエンザ王国の中東部にある学術都市。もともとは、丘陵地と温暖な気候を生かした農業主体の街であったが、国立大学が設立されたことで学術都市としての地位を確固たるものとした。
トラムの主要駅でもあり、国立大学の研究所や付属の医療機関なども隣接する。


エンザ:ティエンザ王国の首都。領地の中央北部にある都市。国内の主要な機関が集中している。同時に、異常気象による被災者が色を求めて上京している。治安は悪化。





【政治・宗教】

ミーア派:「教会」内の伝統ある宗派。シモエ教区が作られた三百年前には、大陸中の教会や礼拝堂はすべてミーア派が占めていた。「すべてに平和を」という教えを基本にした、温和な宗派。現在、ライトール公国ではミーア派のファドナに大司祭の任を承認している。

ロロテス派:最近、急激に勢力を増してきた宗派。ティエンザ王国では、ロロテス派のガネルを大司祭として任じている。「神代復興」と称し、五百年前の民族および宗教統一の理念の下に、山岳民族や少数民族、シデイラを撲滅させようとしている。

ライトール公国議会:ライトール公国の二十四の都市の代表と大公、総勢二十五人で話し合う、公国内の最高議会。毎月定例で開かれるものと、臨時召集で開かれるものがある。

教会:ノワールトをすべる教えを護る教会。宗派はさまざまだが、統一された宗教で、頂点はレスカリア帝国の皇帝であるとされる。





【民族・その他】

シデイラ民族:山岳民族。銀髪に翡翠色の瞳。ユルギアを見ることが出来、声を聞くことも出来る。力は個人差がある。シーガは純粋なシデイラのようだ。タースは母親がシデイラだった。五百年前に虐げられていたため、現在では、非常に少ない人数がシモエ教区に残るのみ。

ユルギア:人間の思念が固まったもののこと。時に動物もある。時代によっては幽霊、生霊、モンスターなど、様々な呼び方をされてきた。

本文中の事例①ボール競技のスタジアムに集まった観客の想いがユルギアとなり、スタジアム改修工事の妨害をした

事例②図書館にいたネズミに、子供のユルギアが宿った。遊びたいという子供の思いから生まれているので、誰とでも「遊ぼう」としたがる。

事例③守衛のユルギア。五百年前の兵士の愛する人を待つ想いだけが残ったユルギア。守衛の服とルリアイの力で、守衛のように図書館の前でひたすら待っていた。

事例④生きた人のユルギア。息子を亡くした男の悲しみや後悔が心を壊すほど強まって生まれた。心が壊れているために、彼は何度でも同じユルギアを生み出す。

事例⑤キツネに取り付いたユルギア。シデイラの民が、民族の恨みを晴らそうと大勢の恨みの思念のユルギアを、ルリアイを使ってキツネに取り付かせたもの。また、赤い石=緋石を使ってキツネは化け物のように凶暴化した。



【人名】

シーガ:生粋のシデイラ民族。幼い頃親に捨てられ、ミーア派の聖堂で拾われた。なぜかシモエ教区には送られずに、聖堂で育てられた。類稀な力を持ち、その実力を認められてシデイラ民族でありながら教会の一司祭として登録されている。
大陸内での自由な行動と身分を保証され、ユルギア退治をしながら自分の親のことを調べている。黒尽くめの服装、銀髪の美しい姿から「銀聖シーガ」と一部では呼ばれている。

タース:シモエ教区でライトール人の司祭見習いの父とシデイラの母との間に生まれた混血。混血を禁忌としていたために、シモエ教区の片隅で家族だけで生活していた。黒髪、蒼と翡翠色の混じった、南の海のような色の瞳。現在十五歳。

ミキー:ウサギのぬいぐるみに宿ったユルギア。可愛らしい姿は誰をも虜にする。白いたれたウサギ耳と、ふさふさした白い尻尾を持っている。普段は隠している。お洋服が大好き。

スレイド:黒髪黒いちょっぴりのあごひげ、黒尽くめの服。三十代半ばくらい。どこか世を拗ねたような、飄々とした男。常にはミーア派大司祭である、聖女ファドナに仕えている。

リュエル三世:現在のライトール公国、国主。通常は大公と呼ばれる。五十二歳、なくなった公妃との間に二人の子供がいる。

トエリュ:リュエル三世の長男。二十五歳、闊達で軽薄な面も。プライドが高く、将来自分が公太子となることを望んでいる。

ファドナ:ライトール公国大司祭。ミーア派の代表でもある。公国内の二十四都市にある教会から代表として選出され、大公の承認を得て大司祭となる。現在四十六歳。幼いシーガを拾い、旧聖堂で育てた。シーガの両親について、何も語ろうとしない。

ミネア:ファドナのライト公領での世話役。もともとライト公領の聖堂に務める聖職者。スレイドの婚約者。二十四歳。幼い所もあるが賢明な女性。スレイドを兄のように慕っている。

ガネル:ティエンザの大司祭。六十代後半の一見穏やかに見える老獪な聖職者。

リック:ティエンザの国立大学で赤い石の研究をしている。タースがライトールで世話になった親方セルパの息子。

ダルク:ライトール公国に本社のある大手新聞社の記者。四十代前半。記事のためにあちこちを点々としている。本来の所属はウルルカ支社。タースとは友人の想いを残した白い虎の一件で出会う。

トモキ:国境の街カヌイエの新聞記者。ダルクの後輩に当たる。恋人を隣国ティエンザに残している。赤い石の研究を取材、密かに持ち帰り、カヌイエの領主に渡した。

ムハジク候:カヌイエの領主。ライトール建国時代から脈々と続く武勇を誇る血族の末裔。現在のリュエル三世の平和主義の治世を嘆く。



【交通機関】

ノワールトでは、通常は馬が主な移動手段である。貴族や裕福な商人などは自家用の馬車を持つ。市民は駅と街の主要地点を回る乗合馬車を利用する。最近は、自家用車、トラム(鉄道)を利用する人も増えた。
また、ティエンザ王国では飛行船が定期的な運航を始めた。レスカリア帝国に渡るために利用されている。
トラム・ミス:ライトール公国の南部を東西に走っている鉄道路線のこと


【都市機能】

大きな都市には、公共の発電所が作られ始めている。ライトール公国内では、ライト公領、カヌイエなどの数箇所だけが電力を供給されている。しかしそれらはあくまで公共の建物や街灯、駅舎など限られた使用にとどまる。
工場や大きな建物では自家発電機を備えるところもある。
一般家庭では通常、ランプを使っている。
地下水を吸い上げるポンプによって、公共の水道はまかなわれる。田舎の家庭には井戸があるが、都市の建物は公共の水道からタンクに水を引き、そこからくみ上げて供給する。

「想うものの欠片」第一話プロローグ

すべてを見通す青年
すべてを愛する少女
すべてに優しい少年。
三人が出会ったとき、世界は大きく動き出そうとしていた。

産業が発達し始めた世界。
馬車と自動車が並走し、蒸気機関車が都市を結ぶ。

機関車整備工をしながら、建築技師を夢見る少年タース。
見ることのできないものを見、触れることのできないものを感じる美少女に出会ってから、すべてが変わる。壮大な冒険物語




「想うものの欠片」
第一話 プロローグ

その街の夕焼けは、大陸で一番のミモノであると評判だった。西へと低く続く丘陵地、その先に広がるリール海。西の果てまで続くそのエメラルドの海には、今まさに、沈みかかったオレンジの太陽が名残惜しむかのようにその色を水面に振りまく。
それはざわめく白い波と、丘陵地に続くオリーブの緑、家々のレンガ色の屋根を綺麗に染めて、すべてを一色にしようかとも思えた。
ゆらりと髪を揺らす風に青年は目を細めた。

肩でうねる銀色の髪を一つに束ね、黒い硝子の眼鏡の奥で、翡翠色の瞳が何かを見据える。隣に立つ少女は、柔らかい色合いの髪をふりんと揺らして、青年の美しい横顔を見上げていた。

彼らは、ティエンザ王国西端の街ポオトを見下ろす高台の宿に到着したばかりだった。
案内してくれた主人がうやうやしく退室すると、青年はまっすぐ窓に向かったのだ。しばらく立ち尽くしていたので、少女は傍らに自分の居場所を作った。
そうして美しい夕景にうっとりとし、嬉しくなって隣の青年の手に手を合わせようとする。
青年がポツリと言った。
「魚臭い」
美しいものはえてして、美醜に興味はないとも言う。青年は容姿に相応の無遠慮な感想を述べた。
「きれいなのに、シーガさま」
つなごうとした手を止めて、少女が面白そうに大きな瞳を瞬きする。
シーガと呼ばれた青年はきびすを返すと、窓を閉めなさいと少女に指示した。着ていた軽い生地のコートを脱ぐと、壁に付けられたフックにかけた。
少女が窓の脇にある開閉用のレバーをぐるぐると回し、それにあわせて、外に向けて開かれていた観音開きの大きな窓は、ぎしぎしと音を立てながら閉まっていく。海からの風が硝子の向こうに追いやられた。

「嫌な街です。昼間は海からの魚と潮の臭い風、夜には街から海ににごった空気が流れる。おぞましいですね」
青年の想像した夜の街は、酒場や観光客の織り成す酒と香水の匂いにも似た異臭、ごった返す夜店の食べ物、貧しいスリの子供、街角の娼婦、それらの街明かりをふんぞり返って見下ろす貴族たち。すべての営みが汚らしく感じるのだ。

「うふふ。シーガさまは人が嫌いですもの。でもシーガさま、夕焼けはきれいだと思いますの」
少女が名残惜しそうに引いたカーテンの間から顔だけ突っ込んで、まだ窓の外をのぞいている。室内はランプの灯りだけとなった。ランプオイルにラベンダーの香油を混ぜてあるのだろう、炎が揺らぐたび、かすかに香りがする。
「ミキー、私が嫌いだといえば嫌いなのです。お前の考えは関係ないですよ」
ミキーは小さく首をかしげた。
「では、私も嫌いになりますの。嫌な街ですの」
「…」

にっこりと満面の笑みをたたえた少女に、シーガはじろりと厳しい視線を投げる。それでも少女はニコニコしていた。
「価値観を同じくして相手に媚ようというそれが、私は嫌いです」
「はい、私も…」
「…相手になりませんね」
笑顔のまま同じ言葉を繰り返そうとするミキーをさえぎって、青年は自分の場所と決めたベッドに座り、そのまま横になった。

少女は、少し足りないところがあるのかもしれない。
年の程は十代前半に見える。やわらかな亜麻色の髪を二つに束ね、それが背の中ほどまでたれて揺れる。くりくりした瞳で青年を見つめ、ニコニコと嬉しそうに笑っている。白いレースの縁取りのあるブラウスに、黒いワンピース。その裾から黒い半ズボンが、ちょうど膝の上辺りまで来ている。少し大きいのだろうか、余計に少女を華奢に見せた。

「あ、そうですの。シーガさまが買ってくださった新しいお洋服!着てみますの!」
荷物の入った大きなトランクが、宿の主人に運ばれたときのまま部屋の入り口の脇に置かれていた。思い出したのか、少女はそれの留め金を外した。
「嬉しいですの」
パチ。
「きゃ!」
トランクは中身の重みで片側が一気に開き、本やら着替えやらが少女を押しのけるように転がりだした。
「ミキー、何度目ですか」
「えへへ、びっくりした」
悪びれない少女をシーガは半身を起こして睨みつけていた。今は眼鏡を外していた。翡翠色のきれいな瞳に見つめられて、ミキーは少し頬を染めながら、いそいそと転がった荷物を拾い集める。
「いっぱい転がっちゃった。大変大変♪」
半分がぱったり開いてしまった大きなトランクを、どうしようかと少し思案し、立ったままのもう半分を横たえようとする。
「ええと」
半分にもまだ、革のバンドで不自然にとどめられた荷物が残っている。

ライトール公国の名店レザンの革職人によって作られたものだ。それ自体が重厚なつくりで、荷物を合わせれば少女の体重をはるかに超えているのではと思われた。
「危ないですよ」
「んきゃ!!」
青年がつぶやくように言ったとたん、少女は倒そうとしたトランクを支えきれずに、下敷きになりそうになって、床にしりもちをついた。重いトランクはドンと階下まで響く音を立てる。
「やん、びっくりしました」
「…」
それでも青年は一向に手伝おうとはしない。少女が再び転がりだした雑多なものを拾い集めるのをじっと見ていた。

コンコン。

少女がトランクを広げている目の前、部屋の扉がノックされた。
「誰です?」
物憂げに、シーガはごろりと転がってうつぶせになると、組んだ腕の間からじろりと扉を睨んだ。
「シーガ様、お迎えの方がお見えです」
宿の主人のようだ。
シーガが何も言わないうちに、ちょこちょことトランクの向こうに回りこんだミキーは、扉を開けた。
「おや、お嬢さん、取り込み中にすみませんね」
宿の主人がミキーの肩に手を置く。主人の足元には小さな少女のものだろう、靴下がきれいに丸められたまま、転がっている。
「いいですの」

ミキーがにっこり笑い返すと、宿屋の主人はまるで少年のように頬を染めた。少女の愛らしい笑顔は、あらゆるものの心を奪う。冷たい視線でそれを眺めている青年を除いては。
「迎え、とは」
青年の言葉に我に帰ると、主人は照れたようにちらちらと少女を見ながら言った。
「ロゼルヌ卿のお使いでございます」

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「宙の発明家」第三章七.隠し事⑦

●隠し事7

「ったく、俺はなにやってんだろうなぁ…」
愛車の運転席で信号が変わるのを待ちながら、カーチスはため息をつく。助手席にはデンワ。天井には飛行機。飛行機からたれる紐が、フロントガラスの視界をゆらりと横切る。

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「宙の発明家」第三章八.逆転①

●逆転1

「ちょっと!カーチス、放して」
ローザの手を引いて、カーチスはぐんぐん歩いた。とにかく外だ。研究所内の廊下はどこも監視カメラがついている。モニターの前の警備員にサービスしてやる必要はない。

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「宙の発明家」第三章八.逆転②

●逆転2

日が高く上り、そろそろ午前のお茶がほしくなる時間だった。
久しぶりに戻ったアパートの部屋に、カーチスを残してローザが出勤すると、ちょうど休憩のために紅茶を入れていたビイが、慌てて廊下に飛び出すと呼び止めた。いつもの小さな目が、今日はやけに何度も瞬きする。
「あの、おはようございます!ローザさん」
「おはよう」
いつもより薄い化粧なのに、ローザの表情は美しく見えた。それは彼女の精神状態がとてもいいことを示していた。ここしばらく、クラフのことで張り詰めていた彼女とは別人のようだ。
カーチスといい時間をすごしたのだろう。
余計なことを想像して、ビイは何度も瞬きする。
「…それ、あいつにですか」
ビイがローザの持つシフォンケーキの丸い箱を見つめた。
「ええ、あの子、好きだから」
嫌な予感を感じながら、ローザはにこっと笑いかける。
ビイは頭をかいて、言った。
「あの博士、ちょっと、こちらに」

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「宙の発明家」第三章八.逆転③

●逆転3

クラフが気づいたとき、真正面の白い天井に「空の羊」号の模型が張り付いていた。
紐がゆらりと揺れる。
ふと、手に持つデンワの感触を確認する。
ちゃんと持っていた。

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「宙の発明家」第三章八.逆転④

●逆転4

二日後に、再び大統領の訪問を受けた。
傍らに弁護士もいた。
今回はきちんとした応接室で大統領と向き合った。
昼間の日差しを避けるために厚いカーテンを閉めてくれて、クラフはスーツを着せられて、大きなソファーにちょこんと座った。
大統領は、穏やかに笑って、会うなりクラフを抱きしめた。
まるで、本当の子供にするように。
それが、すごく不思議で、クラフは以前あったときよりずっと、緊張していた。

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「宙の発明家」第三章九.天才は永遠に①

●天才は永遠に1

「なんだ?文句でもあるのか?あれは私の子だ、私が誰にやろうとお前には関係ない」
ふと、オクトは眉を歪めた。
「ふん、それとも、喜んでいるのか?」
デアマンは黙ったままだ。

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らんらら

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