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「想うものの欠片」第二話 ⑦

こんにちは~らんららです♪
実は今日より、平日夜間、PC禁止令が同居人より発令されました(><)なので、小説の更新はタイマー頼み。早朝と週末にのみ、皆さんのところに遊びにいけます…シクシク。なので、コメ返しとか、遅れ気味かもです…許してください!それでも、皆さんのお言葉に励まされて書き続けているのです…コメント嬉しいです、待ってます~♪





「シーガさまは、図書館が苦手ですの。他にも、人の思念がたくさん集まる場所が嫌なんですの。気分が悪くなるですの。だから、代わりにミキーが」
「おかしいよ、そんなの!いいよ、僕が話すよ!さっきだって危うく向こうに引っ張られて連れて行かれるところだったんだ!危険なことさせて!」
「…怒らないでください」
「怒ってるよ。ミキー、そいつに会わせてくれよ。僕は許せない」
少し、けだるかった思考が興奮のためか冴えている。
タースは立ち上がると、ミキーの手を引いて歩き出した。
少女はチョコチョコとついてくる。


「ミキー、ちょっと、待っていて」
タースはミキーの肩に手を置いて、言い聞かせるように言うと、受付のほうにかけていった。その姿をミキーは首をかしげながら見ていた。


シデイラの人は他の人と違う。ミキーはまた、手を握ったり開いたりして感触を確かめた。少年の手に感じるものは間違いなくシーガと同じ感じ。それは、ミキーを嬉しくさせた。


「あらぁ、タースくん、なあに?一緒に帰るの?」
ニコニコして笑うジャムに、タースは怒ったままの表情で言った。
「あのさ、三階に変な奴が出たんだ、捕まえようとしたけど逃げられちゃって。警備の人呼んでほしいんだ。僕、あの子を送っていくから」
「まあ、なあに、そんなことがあったの?警備の人は夜しか来ないから、そうね、誰か男の人に様子を見てきてもらうわ」
「え?ほら、入り口に一人守衛さんが立ってるじゃない」
タースが言うと、ジャムは目を丸くして。声を小さくして耳元で話す。
少し、香水の香りがした。
「タースくんも見えるのね?あれ、ユルギアらしいの。見える人と見えない人がいて、害は無いから放っておくしかないんだけどね」
「ユルギア!?」
「し、大きな声出さないでよ。びっくりでしょ?私は見えないんだけど。お客さんで何人か見える人がいてね。あら、怖くなっちゃった?」
「あ、へ、平気だよ」
「うふふ、彼女の前じゃ、怖がってなんかいられないわね、がんばってね」
真っ赤になったタースを見て、ほら、早く行ってあげて、と手を振った。


「ごめん、待たせた。行こう」
タースは笑顔でジャムに手を振って、それからミキーの背に手を回して玄関を出ようとする。
「あの、どうしたですの?」
「ん、怪しい奴がいてミキーが危ない目にあったって、伝えておいた。崩れた本も直してもらわなきゃいけないしね」
小さくウインクする少年に、ミキーは何だか面白みを感じて、にっこり笑った。


大きな硝子の扉をぎっと鳴らしながら開いて、タースとミキーが外に出ると、ちょうどふわりと風が吹いた。
「君、送っていこうか」


守衛のユルギアだった。
二人を見下ろしている。背の高いがっしりしたおじいさんだ。毎日ここに立っているのを、タースは見ていた。
「あ、大丈夫です、僕が送っていきます」
タースはミキーを背後に隠すようにして、守衛さんから遠ざけようとした。
「まあ、そう言わずに」
おじいさんは帽子を取った。
ぞわりと、タースの背筋に何か走った。


おじいさんは穏やかな顔で少年を見ていた。そして、背後のミキーをじっと見つめた。
「可愛い子だねぇ」
にこにこしながら、強引にタースを押しのけようとする。
「え?」
触れられるんだ!
ユルギアなのに?
考えて一瞬遅れた。
そいつはタースの脇を抜けてミキーのほうに向かう。
慌てて、腕をつかんで引き止めた。


「あ、シーガ様!」
少女の声に、タースが振り向く。隙を突いて守衛がタースの肩をドンと押した。
「待てよ!」
慌てて、タースは守衛を横から引っ張ると、ミキーのほうに向かうそいつに寄りかかるようにしてタックルした。
もつれて二人は玄関の石の柱に背中をぶつける。
「いて、何だよ!あんた」
目の前の守衛を押さえつけて、タースが睨んだ。
「タース!また明日ですの!」
ミキーのあどけなく嬉しそうな声がした。
あれ?


振り返ると、階段の下、黒い小さな馬車から、少女が手を振っていた。
一瞬、その向こうに男の影。シーガ様ってのだ。
馬車は白い馬が一頭。黒い服の小柄な御者が鞭を鳴らし、走り出した。
呆然と、馬車を見送っていた少年に、守衛が言った。
「放してくれんか」
「!あんた、なにするんだよ!それに、そんな格好のユルギア、見たことないぞ」
「何のことじゃ」
老人の守衛はぼさぼさした白い眉毛の下の碧の目をぎらりとさせた。
一瞬、タースはぞくりとする。
ユルギアだよな。タースはもう一度、老人の腕を触る。
「何じゃ、お前。どうしてわしが見える。わしはここにもうかれこれ…」
顔をしかめて放し始めた守衛は、言葉を止めた。
ユルギアに違いない。タースは不思議な感覚にぞくぞくしていた。
過去ユルギアに、触れたのはたった一回。
とても恐ろしいユルギアだった。
後にも先にも、実体を持つユルギアはそれだけで、たいてい、姿があっても実体はなかった。触ろうとしても触れないはずだった。


「かれこれ…」
老人は繰り返していた。
「なんだよ」
「思いだせん」
タースの力が抜ける。
「あの、おじさんはユルギアでしょ?」
「ユルギア?なにをいっている」
「あ、そうか。ええと、どうしてここにいるんだ?」
ユルギアにはこういう聞き方が一番手っ取り早い。自分がユルギアであるという自覚はないうえに、自分のこうしたいという思念だけだから、それ以外のことには理解がない。
守衛のユルギアは首をかしげて、髭の口元を手で覆って考え込んだ。
「どうして…だろうな」
「あの、何かしたいんだよね?目的があるんだろ?」
「ああ、そうじゃな。わしは立っているよ、ここに」
意味が分からなくて、タースはため息をついた。
話す必要もないかもしれない。ただ、そこにいたいだけなら、何の害もない。


「そういえば、どうしてミキーに近づこうとするんだ?」
立っていれば満足なはずなのに、どうしてミキーを追いかけようとしたんだろう。
おじさんは髭をピクリと動かした。
「あ、まあ、ここじゃなんだから、公園に行く?」
見えない人からしたら、タースはおかしい奴だ。それじゃ、まずい。
少年の申し出に、老人のユルギアは胸を張った。
「何じゃ、わしはここにいる」
話が通じない。
「あ、そう。僕はタース。あなたは?」
「わしはここだ」
「ここ?ええと」
少年は守衛の制服の名札を見た。
「レンドル、さん」
「んー!それ、だったか」
もうすっかり、忘れているのだろう。
ただ、ここに立っていたいだけで、目的も理由も。長い年月の間に薄れて、きっと、ただ立っていられれば幸せなのだ。
タースは、目を細めた。
少し、うらやましい気分になる。


「ああ、シーガに会い損ねた。また、明日来るよ」
レンドルはもう、仕事に集中していた。帽子をきちんと直すと正面を向いている。
聞こえないようだ。
タースはあきらめて、自分の本来の用事を思い出した。


アパルトメントから、荷物を取ってこなければいけない。
遅くなると奥さんに心配をかける。
三時のお茶に、ケーキを焼くからと嬉しそうだった。


いつもの公園のジャスミンの香りが鼻について、タースは何となく見渡した。灰色の石を敷き詰めた歩道が園内をS字を描くように続く。それに沿って植えられているマメツゲが丸く刈られた姿を日差しに晒していた。いつもタースが寝転がる木陰がここからだとよく見えた。
いつもの鳩が、その場所を歩いているのも見えた。


ああ、昼休みに見ていた守衛さんは、レンドルさんだったんだな、そんな考えが頭に浮かぶ。ぜんぜん、ユルギアだなんて気付かなかった。


ユルギアは怖いとは思わなかった。それは小さい頃からだ。母親がシデイラだったからかもしれない。それでも、ユルギアが見えることは、そのままタースの混血を表してしまうから、なるべく気をつけていた。間違ってユルギアに声をかけたりしたら、周りの人間に知られてしまうからだ。

ユルギアより、タースをシデイラの混血だと知った人間の方が怖かった。敏感になって、どんな些細なユルギアも見逃さないように、いつも神経を尖らせていた。
なのに、目の前にいるレンドルさんに気付かずに毎日そばを通っていた。


くす、と笑みがこぼれた。
それだけ、僕は幸せだったんだ。この街で、親方の下で働いて。そして、もう隠さなくていい。その上、これからもこうしていけるのだと思うと、寒い日に温かい甘い飲み物を抱え込んで飲むような気分になった。
飲み干さないように、温かさをずっと感じていたくて、抱え込む。
手のひらが温かくなった。

遠く、機関車の汽笛が響いていた。

次へ(7/3公開予定♪)
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「想うものの欠片」第二話 ⑧




その夜、夕食の手伝いをタースがしていると、ライラが学校から帰って来た。
「お帰りなさい」
そういったタースに、ライラは少し口を尖らすようにテレながら、ただいま、と言った。
「別に、あなたのために早く帰って来たわけじゃないから」
誰に聞かれてもいないのに、ライラはそう言うと、自分の部屋に駆け込んだ。
皿を運びながら首をかしげるタースに、エイナはくすくす笑っていた。


「でな、工場長さんが俺の作ったもんをみて、なんていったと思う?」
皆での楽しい食事は終わりに近づき、ワインを飲むセルパは上機嫌だった。
赤い顔で嬉しそうに語るセルパに、ライラが冷静に言った。
「お父さん、それ、三回目。もう答えも分かってるし、つまんない。タースも困ってるでしょ?酔っ払ったなら大人しく寝ちゃってよ」
想像以上にきつい言い方をするライラに、タースが目を丸くしていると、エイナが皮をむいた梨をテーブルに置きながら言った。
「ライラ、タースがびっくりしてるわよ」
「え?何が?」
自覚がない少女に、タースは言いようがなくてあせる。
「あ、え、いや、親方もライラには適わないんですね」
「え?どういうこと?」
ライラが眉をひそめて、タースを見上げた。少し上目遣い。
先ほどセルパのワインをグラスに一杯もらっていたから、酔っているのかも知れなかった。
「ええと。ほら、ライラ可愛いから」


全員が黙って、タースを見つめた。
「あ、あれ?僕、変なこと、言いました?」
さらにあせって、タースは三人の顔をかわるがわる見つめた。
セルパはじっと少年を見ていたが、手元にあったワインのボトルを掴むと、手に持っていたグラスに並々注いだ。ワイン用のグラスではない、水を飲むものだ。コップ、だ。それにたっぷりと、赤い色が揺れる。
それから、それを、どんと少年の前に置いた。
「え?」
「飲め」
「ええ?」
「男だろ!」
タースは助けを求めるようにエイナを見るが、エイナもにこにこして、もう、十五歳だからね、と笑った。
十五歳から、家での飲酒は許される国だ。通常、家庭内なら保護者が一緒だからだ。
「美味しいのよ」
ライラが自分のグラスを揺らしてみせる。
タースは、目の前の揺れる赤い液体をじっと見つめた。
実際、感覚の鋭い少年には、すでに強いアルコールの匂いが心に警鐘を鳴らしていた。


これを飲んだら、どうなるんだろう。


コップに、手を添えて。
もう一度、三人を見る。
期待に満ちた視線を感じて、タースは目をつぶった。
一気に、飲む!
つもりが。
むせた。
三人が楽しそうに笑うのを聞きながら、タースは目を回していた。


「弱いなぁ」
セルパの言葉に、エイナは笑った。
夜風が冷たくなってきていたので、窓を閉める。
二人はタースの部屋にいた。
セルパが酔っ払った少年を、ベッドに運んだのだ。
少しだけ飲んだワインで火照っていた顔も、今は落ち着きを取り戻しているようだ。本来のヤマツツジの白い花の色に戻っていた。少し長めの黒い前髪が頬にかかる。
エイナが、少年に毛布をかけた。
廊下からの小さなランプの明かりだけだが、静かに眠るタースの穏やかな顔が見て取れた。
「あなたとは違いますよ。まだ、子供ですし。こうして見ると可愛らしいわ」
「ふん、だけどな、男だ」
「あんまり、無理させないでくださいね。ライラとのことだってタース君に知れたら、居心地の悪い思いをさせてしまうでしょ?余計な気を使わせたくないわ。私たちが勝手に期待しているんだもの」
「ふん、けど、俺は、こいつならライラを任せてもいいと思ってる。こいつだって、まんざらでもないぞ、ライラのこと可愛いって言っていたからな」
「はいはい。さ、あなたももう寝たほうがいいわ。何だかんだいって一番手のかかる酔っ払いなんだから」
「リックみたいなこと言うな」
「はいはい」
セルパはエイナに支えられながら、階段を降りて言った。セルパは酔っている時だけ長男の名前を出す。
「あいつは、なんで出てったんだ」
「あなたが、後を継げって、大学には行かせないって、怒鳴ったからでしょ」
「…出てくことはないんだ、出てくことは」
「はいはい」
エイナは笑った。



「タース、昼飯だ、来いよ」
セルパがそう言って、工具をしまっているタースの肩を叩いた。
親方は昼には家に帰って食事をする。そして休憩を取って午後三時からまた、働くのだ。
「あ、はい、あの。僕、ちょっと図書館によってから…」
「なんだ、お前、図書館?」
ちょっと意外な顔をして、セルパは少年を見た。
「あの、僕、将来建築士になりたくて。いつも昼休み、図書館で本を読んでいるんです」
「ふん、勉強か」
親方の顔が曇る。
今までこの話はしたことがなかっただろうか、タースは首を傾げる。
「いいから来い。昼飯は皆で食べるもんだ!食ったら休憩する!ただでさえお前、伸び盛りなんだから、今無理してたらダメだ。必要な本なら買ってやる」
「あ、ええと」


タースはミキーのことが気になっていた。もちろん、ミキーのことがなければ建築の本を読むのだから、嘘は言っていない。買ってやるといわれても、そんなに安価なものばかりではない。図書館で好きなものを読めるのが、気楽でよかった。
どう断ろうか、迷っているタースにセルパは噛み付くように言った。
「建築士だなんて、お前、大学にでもいくつもりか?」
「え、あの、出来たら……」
「無理だ、お前今学校行ってないだろ?夜間でも行っておかなきゃ、大学の受験が出来ないだろう」
「あの、だからお金をためて、ミドルスクールの夜間に通って、それから受験資格取って……」
「無理だ」
頭ごなしに言われて、タースは黙った。
困難なことは分かっている。


「さ、昼飯だ。帰るぞ!」
強引に親方に引っ張られ、タースは重い足取りで家に向かった。
途中親方はずっと、俺がお前くらいの時は、と修行時代の話をしていた。親方はミドルスクールまでで、それ以上の学校へは行っていなかった。それでも腕さえあれば何とかなるもんだ、と。
タースは、数回、図書館のレンガ色の建物を振り返る。


今日もミキーは来ているのだろうか。
また、あのトントとかいう奴と交渉するのだろうか。
無駄なのに、危険なのに。


昼食の間中、少年が静かなので、エイナは何度も熱を測る。
「熱はなさそうね、食欲がないの?」
しきりとかまうエイナに、セルパはぶっきら棒に言った。
「ほっとけ、今日は午前中、きつかったからな。疲れたんだろ。昼寝して、午後の仕事に備えろよ」
先に食べ終わって、少年の背中をバシバシと叩いて、セルパは自分のお気に入りの昼寝場所、庭の木陰に向かった。
それを見送ってから、エイナはタースの顔を覗き込んだ。
「どこか、悪いの?」
「あ、いいえ。大丈夫です」
タースは、エイナが心配そうなので、目の前の食べかけのピザを一気に口に運んだ。
食べて、ジュースで流し込んだ。
「あら、無理しちゃダメよ」
むせる少年に、エイナは笑いながら背を叩いてくれた。
涙が出そうだ。
「いつまで食べてる!来いよ」
親方に呼ばれて、庭にしつらえたデッキにあるイスに座って、一緒に昼寝をした。
昼下がりの木陰で、ロックチェアの緩やかな動きに前髪が揺れるのを感じながら、タースは目を閉じる。
程なく、隣から、低いいびきが聞こえてきた。
目を開けて、少年は空を眺めた。


遠く見える駅の時計塔。鳩が飛んで、風が吹く。
ミキーのことを考えると、鼓動が早まる。
何度も目を閉じるが、眠れそうになかった。

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「想うものの欠片」第二話 ⑨

らんららです!本日、職場の健康診断です!久しぶりに体重を量ってみて…去年と変わってなくてホッと一安心♪




午後の仕事がひと段落したところで、セルパは工場長と届出のためにお役所に出かけることになった。新しい油圧機械を導入するための、輸入に関する手続きらしい。
また、隣のティエンザ王国から買うのだ。
二人を見送ると、タースは慌てて仕事を片付けて、先輩に断って図書館に向かった。


あのユルギアの守衛、レンドルさんはいなかった。
タースは不思議に思いながら、いつもの扉を開いた。

「あら、めずらしいじゃない!こんな時間に。今日は来ないかと思ったわ」


ジャムさんが笑う。その背後の彼女の上司だろう、ちょび髭の男が咳払いした。
普段、昼には休憩しているのだろう、見かけない顔だ。
タースはぺこりとお辞儀をして、ジャムさんには小さく手を振って笑うと、三階に向かった。


耳を澄ました。
また、何か聞こえるのではないかと。
今日は静かだった。


返って不安になる。


あのトントの巣がある辺りに向かう。空気が重い。


「ミキー?」
狭い書架と書架の隙間に人影があった。
「!レンドルさん!?」


守衛のユルギアはそこにぼんやり立っていた。
「何してるんですか?」
「あ、ああ、立っているんだ」


がく、と力が抜ける。
「場所が違うと思うけど?」
少年が腕を引くと、守衛の足元に本が散らかっているのが見えた。
「!?あ、まさか!ミキーは?あの女の子は?」


レンドルを押しのけて、この間の本棚の隙間をのぞく。真っ黒い煙がたまっているかのようにどろどろしている。
「レンドルさん!」
「あ。ああ、あの可愛い子。いいねぇ、何処行っちゃったかな」
「もう、いいよ!そこにいて!」


タースは、床に膝をついて、本棚の黒い隙間を覗き込んだ。
そっと、黒い煙のようなものに手を差し出してみる。
生ぬるい温かさを感じて、顔をしかめる。
もっと、奥に手を入れてみる。
腕のほとんどを入れても、棚の背板には手が触れない。
「ミキー!」
声をかけても、反応がなかった。
「トント!おい、出てこい!」
やはり何も起こらない。


タースは、ごくりと唾を飲み込んで。
顔を暗がりに突っ込んでみた。
何となく息を止めて、目をつぶった。
とたんに、ぐん!と引っ張られる感覚。
「うわー!」
後ろで誰かが足を引っ張ってくれたけれど、それも無駄だった。


目を開けると目の前は真っ暗。
何処まで続くかわからない穴の中に落ちていった。



「やーだなー!こいつ、呼んでないのに」
とん、と何かが腕を叩いた。
目を開けると、目の前は金色だった。
「?」
手を伸ばしてそれに触る。


「うや!触んなバカ!」
それは柔らかいふさふさした毛皮だった。
むぎゅと掴むと、逃れようとして、ばたばたと暴れる。


「ああ、トント…お前も、実体があるんだ」
タースは体を起こすと、頭を振った。
「ああじゃないよ!お前、呼んでないのに来るな」
ネズミはタースに掴まれた腹を大切そうになでながらひげをぴんぴん動かした。


「あ、ミキーは?」
膝を地面らしきところについて、タースがトントに触れようと手を伸ばすと、トントはびっくりしたように飛び上がって、よけた。
「ね、ミキーを知らないか」
「お前は、遊ぶのか?」
「え?」
「遊ぶ?」
トントは二本の後ろ足で立ったまま、尻尾をぺしぺしと揺らしていた。
その耳は興味深そうにぴくぴく動いて。


「ああ、お前ユルギアだったね。遊びたいの?」
金色ネズミはものすごい勢いで頷いた。
目が廻るんじゃないかと思うくらい何度も頷くので、タースはその頭を
ちょんと片手で押さえて止めた。


「じゃ、かくれんぼ。僕が鬼だから、トント隠れて」
「うん、うん!ほら、目を閉じて!十数えるんだよ。おいら、かくれんぼは得意だぞ」
「ああ」
タースは真っ暗な中、その場で顔を両手で覆うと、大きな声で数を数え始めた。


「よおし!!まだだめだぞ!数え終わったら、ちゃんともういいかいって言うんだぞ」
必死な様子のトントに、思わず噴出しながら、タースは頷いた。
「ほら、じゃあ、一からだ」
「いーち」
既にトントの気配は消えた。
「にー」
「さん」を数えたとき、タースは顔を上げた。そっと見回す。


暗いけれど、よくよく見ると低い天井はぬくもりのある紙で出来ている。丸い巣穴。トントが去っただろう方角に穴が続いている。
タースは続けて数を読み上げながら、そっと膝をついて這って行った。
穴はすぐに二股に分かれている。
右を選んで、タースが進むと、ぼんやりと明るい、丸く広くなった場所に、何かがいた。
数はまだ六。
タースは手前で止まって七を数える。
目の前のそれは、もそもそと動いた。
「!?」


さほど広くない、大人の人間なら一人が精一杯の通路に、それがこちらに向かって動いてくる。
慌てて、這ったまま後ろに戻ろうとする。
「きゅう」


そいつはのそのそと近寄ってくるが、タースの存在には気付いていないようだ。一定の速度で、迫ってくる。
分岐のところまで戻って、丁度、十を数えた。


「捕まえた!」
「うん?」
それは、男の後姿。黒いズボンの尻、黒い靴。振り向いた。
「レンドルさん!いつの間に?」
「ああ?」
守衛のユルギアは照れたように笑い、手に持った帽子を振って見せた。それも、狭い通路の中、膝と手を地面についた格好のままだ。

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「想うものの欠片」第二話 ⑩

10


「レンドルさん!?何してるの?」


「立って……」
「ないよね。ミキー、いるの?」
「見つからない。かくれんぼしたままだよ。あの子いいなぁ」


タースはレンドルの脇を這ったまま、すり抜けようとして、無理やり押しのける。狭い紙製の通路はゆらりと全体が揺れるような気がした。
「おいおい?」
「ちょっと、通してくれよ。もうちょっと向こうへつめて。ミキーはどこ?もっと奥なのか?」
強引に抜けた少年を見つめて、レンドルは笑った。

「探すのかい」
「ああ、あの、あなたは立っているのが仕事じゃなかったの?どうしてミキーに興味を示すんだ?」


薄暗い中、レンドルの顔が赤くなった。
「あの子は可愛い」
「……あ、そう」


バカらしくなって、タースはレンドルを放っておいて、穴の奥へと進み始めた。
入り組んだ紙で出来た通路は時に登ったり、下ったり。ずっと這ったままなので、ついた膝が痛み出す。


「ミキー?」
小さな声がどこかで聞こえた。
止まって、周りを見回した。背後にいつの間にかレンドルが付いて来ていた。
「何だよ、気持ち悪いな」
「まあまあ、わしゃ、これでも若い頃は」
「立ってたんだろ、あそこに」
タースは適当に相手をしながら進み始める。
「若い頃は兵隊じゃった。こうやって穴を掘ってナ、腹ばいになって進むんじゃ」
「ふーん」
何か思い出したのか。
「あの子はいつも図書館に通っておった」
「ふーん」支離滅裂だ。
「可愛い子じゃった。わしは約束したんじゃ、必ず帰ると」
「それで?」
可愛い子ときいて、タースは少し興味がわいた。出征の間、恋人が待っていてくれたんだろう。
「わしは帰った。じゃが、あの子は帰らなかった」
「え?」


タースは止まって、後ろを振り返る。どんとお尻を押されて、転びかけた。
「いて、レンドルさん、ちゃんと前見ててくれよ」
「行方不明だった。わしは図書館で、待つことにしたんだ。ずっと、毎日、毎日、立って、あの子を待っておった」
タースは、レンドルがうつむいたままなので、その場に座り込んだ。
体の向きを変えて、年老いた守衛を見つめた。
帰ったときに、レンドルさんが生きていたかは怪しいな、タースは彼の様子をじっと見ていた。時々、ぞっとするほどやつれて見える。生々しいキズが見えたり、きれいな優しい笑顔に戻ったり。あまりユルギアの中身を見たいと想わないのだが、話を聞いてしまったために、自然と意識が探ってしまうのだろう。
切ない気持ちも、感じられて。
タースはこういう話に弱かった。


「今でも、待っているんだ?」
少年の言葉に、レンドルは顔を上げた。
「そうじゃ、待っておった。わしは、ずっと」
「そう、いつの間にか待つことじゃなくて、立つことが目的になったのかもね」
額の汗を拭いて、タースが笑った。
その表情に、レンドルは大きな目を何度も瞬き、それから、タースと同じように上半身を起こした。かぶっていた帽子を取った。
「相手の人も、どこかで待ってるかもね」
少年の言葉に、レンドルは呆然と見つめたまま黙りこんだ。
「どうしたの?レンドルさん」
「待っている」
「レンドルさんって、本当に不思議なユルギアだよね。実体はあるし、自分の思念を忘れちゃうなんて、普通ユルギアはそれだけは忘れないのに」
「待っている?」
「うん、きっと。その人も多分、死んじゃっているけど」
ぐらりと、揺れた。
レンドルさんが立ち上がろうとして天井をぐんと押した。
「死んでいる?待っている?」
「うわ、ごめん、わかんないけど!暴れないでくれよ!壊れるよ!ここ、紙なんだから!」
「ぎゃー!何すんだ!お前何してる!」
背後からドンと何かに押されて、気付くと目の前にトントが立っている。
「壊すな!おいらの家だぞ!壊すな!!」
細い小さなネズミの手が背中をとんとん叩いた。
「ほら、僕じゃなくて、そっちのおじさんが」
「お前、壊すな!」
金色ネズミがレンドルの相手をしている間に、タースは急いで奥へ進む。
目的はミキーだ。ユルギアはああして、同じ思念を何十年と抱えている。数分付き合っただけですべてを解決できるほど、簡単なものじゃない。あまりのめりこむと、こちらの心が痛くなる。
ユルギアの話を聞いて同情なんかしている場合じゃないんだ。


「ミキー?」
耳を澄ます。
かすかに何か聞こえる。
紙を、破る音のようだ。
タースは入り組んだ狭い通路を、乾燥した手触りの紙の床を這っていった。
二つ目の分岐で左を選んで、少し下って。
その先に、少女はいた。
丸く広くなったそこに、立って天井に手を伸ばしていた。


「ミキー?何してるんだ」
「あ、タース。見つけましたの!これなんですの」
少女が天井を指差した。
覆うように張り巡らされたたくさんの紙、よく見ると文字が書かれているから本のページをちぎったものだろう。
手書きの文字が並んでいる。
ミキーはそれを背伸びしながらちぎり取っていた。
「届かないですの」
「これ?」
「タース、大きいですの」


タースは天井のミキーが剥しかけた本のページをそっと引き剥がした。
それは古い小さな手紙のようだった。半分は千切れている。走り書きの文字で、短い言葉が書いてある。


「神のご加護を。…どうかこの子に。名はシーガ。…どうか、お守りに持たせてください」


読めるところだけ読み上げると、ミキーが首を傾げる。
「タース、それ、下さい」
「あ、ああ。これなんだい?シーガって書いてあるけど」
「シモエ教区の保護施設の記録ですの。二十二年前、神暦482年ですの。シーガ様はご自分のご両親を探しているですの。差出人とか、署名とかないですの?」
ミキーは紙切れを受け取ると切れていることに気付いて、顔をしかめた。そんな顔も可愛らしい。
「どこかにあるよ、きっと」
タースは何となく興味がわいて、天井を見上げる。


「お守って、なに?今も持っているの?」
「シーガ様の大切な石ですの。拾われたときに握っていたんです。青い透明な綺麗な石を。それが何かの手がかりになると、そう思っているですの」
「青い石……?聞いたことないな。宝石じゃないんだ?」
言いながら、タースは天井の紙切れ一つ一つを順に指を差しながら確認していく。
「はい。小さな丸い石です」
「ふうん。シーガを拾った人はお母さんとかを見てないの?」
「わからないですの。シーガさまは聖堂で拾われて、そのまま聖堂で育てられましたの。今も義理のお母様がいらっしゃいますの」
「ふうん。でも、これ、シモエ教区のだって?」
「はい、シーガさまのお義母さまは偉い方ですの、だから、特別に聖堂で育てられましたの。法律でシデイラの方々はシモエ教区に行かなくてはならないから、保護された記録だけは保護施設に置いてあったですの。でも、十年前保護施設で事件があって、資料をこちらに移したそうですの」
タースは考えていた。
捜す親がいるだけ、いいのか。
それとも会えないのなら、死んでしまったのと同じ、かな。


二人は首が痛くなっても、一つ一つの紙切れを見て廻った。
足元の紙が時折薄くて、破りかけたり、引っかかって転びそうになりながら。
不思議なトントの巣穴は温かくも寒くもない。暗いけれどじっと目を凝らすと文字も読める。意思の力で、変えられるのだろうとタースは思った。
何しろ、思念だけのユルギアが作り出す空間だ。
試しに求めるものを頭に浮かべてみた。見つけられるかもしれない。
が、何も分からなかった。そう都合よくは行かないんだな。


「はあ、疲れたですの」
背後でミキーが座り込んだ。
「もっと、違う場所なのかな…」
「んー、なかなか大変ですの」
「そうだね、大丈夫?」
「タースは、優しいですの。お手伝いしてくださる」
「ん、ああ。まあね」


自分がどうしてそこまで、シーガの探し物を手伝っているのか、ふと疑問に思いながら、タースは固まって痛む首を回した。
「見いつけた!」
金色の塊がトンと、タースの腰にしがみついた。
「今度はタースが鬼だ!」
トントは尻尾をぱたぱたさせながら、見上げた鼻をひくひくさせて嬉しそうだ。


かくれんぼが続いているのか。
タースは何となく憎めない気分になって、トントの頭をなでた。丁度、小さな子供のようだ。このくらいの背だったら、六歳くらい、かな。小さな男の子の姿を金色ネズミの姿に重ねて、タースは膝を曲げて視線を合わせた。
「な、トント、今度は宝探しだよ」
「宝!!探す探す!」
また頭を何度も頷かせるので、止めてやる。

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「想うものの欠片」第二話 ⑪

らんららです♪前話、拍手いただき、ありがとうございます♪(どうやって感謝を表現しようかと想ったのですが、こうしてみました^^)嬉しいです~(><)喜んでくださる方がいるんだなって、勇気がわきます!がんばります!

11


「あのね、これ、宝の地図」
「!?これ?」
タースがミキーの手にあった紙切れをトントに見せた。


「ほら、ここから下にね、青いきれいな石のことが書いてあるんだ。それはとっても大切な石なんだよ。宝物だ」
トントは首をかしげた。
「分かる!おいらそれ、大切にしてる」
「え?」
「ほらほら!」
腹の辺りの毛皮を、自分で探ると、中に隠れていた首飾りを取り出した。
青い石のついた、首飾り。
それは、よく聞く宝石とは色が違った。透き通っていて、まるで海を閉じ込めたような、穏やかな青だ。
「なんで、それ、持ってるんだ?」
「へへ、おいら、図書館の隅で拾った」
「それなら、わしも」
「え?」
振り向くと、レンドルさんも守衛の制服の襟についた青い石をちらりと見せた。
「よし!宝探し!一番に見つけた奴が勝ちだ!」
言うなりトントは、鼻をひくひくさせながら、まるっきりネズミのように床を這い出した。
「ようし、ミキーもですの!」
少女も壁のあたりを丹念に調べ始めた。


レンドルはじっと、自分の石を見ていた。
ここに二人も石を持っている人がいる。珍しいものじゃないのか。
タースはレンドルの石を見つめた。
「レンドルさんは、どうしたの、それ」
タースの問いに、守衛のユルギアは照れたように笑った。


「あの娘にもらったんじゃ。出征の前じゃ。懐かしいのう、貴重な石を」
「それ、何なんですか?」
「知らんのか。これはシデイラが作る石じゃ。めったに出回らん。有名じゃろう?神の涙とも言われる、涙愛とかいての、ルリアイという」
聞いたことはない。見たこともない。
有名なはずはない。
知っていればシーガが探す必要はないのだ。
まだ聞きたそうな少年にレンドルは話し始めた。
「優しい娘でな」
「ええと、石のこと聞きたいんだけど」


「わしがまだ二十二のころじゃ。出征前にわしはあの娘に指輪を渡したのじゃ、メノウの指輪を。その店に行くと必ず奥の棚に飾ってあったルリアイを、店番に慈愛のルリアイと聞いてわしに贈ってくれた」
「慈愛のルリアイ?」
「ルリアイはシデイラの純粋な心が作り出す涙。奇跡の涙じゃ。一番多いのは母親が子供を産み落としたときに流す涙。我が子を思う母親の愛情の塊のようなものじゃ。それが慈愛のルリアイ。わしら人間にはよく分からんが、シデイラの作るルリアイには力があるという。だから、お守りとして好まれた」


「……レンドルさん、生まれたのいつ?」
「うーん。帝国が、誕生した年だったかの」
「!?レスカリア帝国!?それって、五百年前……」
言いかけてタースは口をふさいだ。


レスカリア帝国はこの大陸から船で一週間旅した先にある。大きな島国だ。神の使徒であるといわれる神王が皇帝だ。
この世界の宗教を統一した国。


宗教の頂点に神王がいるとされる。国自体が聖地のようなもので、これまで聖職者のみが渡ることを許されていた。謎に包まれた国だったが、最近、蒸気船と飛行船の航路が出来てから、だんだんとその様子が報道されるようになってきていた。
確か、レスカリア帝国は五百年くらい続いていると聞く。


レンドルがじろりと少年を睨んだ。
「なにを、言っとる。そんなはずはないぞ」


やっぱり、彼の探し人はきっと亡くなっている。そう、はるか昔に。
ひげをなでながらしげしげと少年を見ている老人に、タースは同情せずにはいられなかった。そんなに長い間、一人っきりで、ただ、立っていたのか。


「なんじゃ、その目は」
「いいえ、なんでもないです。レンドルさん、淋しくなかったですか」
「なにがじゃ?」
タースは老人の肩を優しく叩いた。怪訝な表情をしているレンドルさんに、タースは寂しさを感じる。
大切なものを失った悲しさも、一人で待つ淋しさもなくなっている。
ただ待っているだけで幸せだ何て、考えた自分がひどく情けなかった。


「あった!」
陽気なトントの声に二人は振り向いた。
「見てみて、見て!!これだよ、これ!おいらが一番だ!ほら、ほらぁ」
ネズミは壁の上の方に張り付いた紙を、背伸びしてそっと、はがそうとする。
「トント、僕が取るよ」
「やだやだ!おいらが見つけたんだ!おいらが取る」
そっと、そうっと、はがそうと、金色ネズミは小さな手をせいいっぱい伸ばす。


「あ!」
ミキーが驚いたように立ち上がった。
「うわ!びっくりした!びっくりして、破っちゃったじゃないか!!」
トントが手にした紙を振り回して怒った。


ミキーは何か他の事に神経を集中している。
「シーガさまですの!」
「え?シーガ?」
「ぎゃー!しまった!おいら、おいらってば、穴開けちゃった!」


トントの剥がした所から、中の空気が吸い込まれていく。
トントは慌てて塞ごうとその紙を元のところに戻そうとした。それは一旦張り付いたものの、くしゃっと丸まって巣穴の外に吸い出されてしまった。
「ああ!お手紙が!」
ミキーが慌ててそこに駆け寄る。
「うわ、へこんできた!ミキー危ないよ!」
ぎしりと、通路が傾いて、天井がぺこんと凹んだ。
「トント、直せないですの?お手紙はどこに行ったですの?」
「おいらの基地なのに!やだやだやだ!!」
気圧が下がったかのように、紙で出来た巣穴はさらに押しつぶされるようにべこりと天井を下げた。トントは凹んだ天井を押し上げようと手で支えようとした。
しかし、すぐに別のところがぺこんと凹む。
「やだやだ!おいらの基地が!」
混乱したのかトントはあちこち押し返そうと走り回る。けれど、トントが離れればそこはまた凹んでいく。
壁も狭まった。タースの足元の床も盛り上がる。
「危ない!出るんだ!」


タースはミキーの手を引いた。
「トント、お前も!」
後ろを這って進もうとするレンドル。トントはまだ、混乱して走り回っていた。
「トント!」
タースの声に、レンドルが振り向いて、トントをぎゅっと捕まえた。
「やだやだやだ!おいらの基地なんだ、おいらの大切な!」
「トント、基地がなくても遊べるよ!ほら、外でも鬼ごっこできるんだ、さ、早く!」
レンドルの手を引き剥がそうとして暴れていた金色ネズミは、そこでぱたっと動きを止めた。
「お前、外でも遊んでくれるのか?」
今度はレンドルを押しのけて前に出るとタースの背中に張り付いた。
「ああ、分かったよ、な、だから外に出よう!どっちが早く出られるか競争だよ」
「競争!!分かった!おいら早いんだ!行くぞ」
そう叫ぶなり、トントは通路を走り出す。さすがにネズミ、四足なら素早い。
タースはミキーを庇いながら、頭を押さえつける天井を押し上げて進む。柔らかいくせに押し戻してもまた直ぐ凹むそれのせいで、なかなか進めない。
「気をつけて、ミキー!」
「怖いですの」


巣全体が軋む。ぐらりと揺れたようだ。
「うわ!」
トントの声。
正面で、凹んだ壁と壁の間に、トントが挟まっていた。
「トント!」


助けようと手を伸ばそうとするが、ミキーをかばうので精一杯だ。
レンドルが背後からタースの脇の壁を押し広げてくれた。
柔らかくなった床に足を取られながら、タースはミキーを抱きかかえるようにしたまま、二歩。
手を伸ばそうとする。
「助けて!」
「もうちょっと」
後ろでレンドルがすぐに戻ってくる壁に業を煮やした。
「うおー!!」と怒鳴ると、締め付ける壁の一部を掴む。
「レンドルさん!?」
ビリ!
壁が、引き裂かれた。


「うわ!だめだよ!ばか!」
タースの声は遅かった。
レンドルの裂いた場所から一気に通路が萎んで行く。
タースはミキーを守ろうと、少女を抱きしめた。
周りの紙が迫ってくる。圧迫されて、苦しい。


「ミキー……大丈夫だから」
「タース」
腕の中で、少女が震えた。軽くて柔らかい体を守ろうと、タースはぐっと背中に力を入れる。息が苦しい。
「タース、タース、大丈夫ですの?」
「ん、大丈夫……」


紙の匂い、トントが何か叫んだ。
実体のないユルギアなら問題はないのかもしれなかった。
しかし、彼らには実体がある。
物理的に壊されてしまうことがあるのだろうか。
それは、僕らも……。
タースは目を閉じた。


耳に、何か響いた。
靴の音?
少年はうっすらと目を開けた。
目の前に、小さなネズミが首をかしげて立っていた。
白い、普通のネズミに見えた。
「?トント?」
手を伸ばすと、そいつはキーと鳴いて、走り去った。


「バカですね…」
聞き覚えのない声を聞いて、タースは飛び起きた。

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「想うものの欠片」第二話 ⑫

12


図書館のあの場所だった。両側の本棚を見上げて、その谷間の向こうに男が一人立っていた。腕には、少女が横たわっている。
「!ミキー!」
立ち上がって、一歩歩こうとしてよろけた。
棚に手を着いて見上げる少年に、男は冷たい視線を向ける。


「あんた、シーガなのか?」
青年はひどく綺麗な顔をしていた。白く冷たい肌、愁いを帯びたような翡翠色の瞳。銀の髪は長く伸ばされ、背で一つにまとめられている。上質な黒のシャツにベスト。背が高い。
「そうですが」
「あの、あんたが助けてくれたのか?」
青年は何も言わずただ、黙っている。不機嫌そうなしわが眉間に刻まれていた。
タースは見回した。レンドルの姿も、トントの姿もない。足元に、レンドルの守衛の制服が落ちていた。

「あ、レンドルさんは?トントは?」
「…ユルギアを名で呼ぶとは」
バカにしたように笑う青年に、タースは顔をしかめた。
「別に僕の勝手だ。二人はどうしたんだ」
「眠らせました」
「え?」
「消した、と言えば分かりますか?」
シーガはそう言って、ミキーを片手で抱えると、左手を開いて見せた。
青い石が二つ、ブローチになったもの、ネックレスになったもの。
トントとレンドルさんが持っていたものだ。
 

「ルリアイ……」
「なんです?それは」


青年はその言葉を知らないようだ。五百年前にはその名前が当然のように知られていた。ルリアイ、石の名だ。


「レンドルさんは知ってた。この石がなんなのか。なのに、消した?」


タースの睨みつける視線に少しだけ、目を細めて、シーガは言った。
「ユルギアが素直に眠るなど珍しいことです。私が来た時には既に、ユルギアたちは消えかけていました。私がしたというより、お前がしたのでしょう。ネズミに取り付いた少年のユルギア、制服をまとった老兵のユルギア。どちらもたまたま、石を持っていたがために実体を持った。本来あるべき姿に戻したのはお前です」
「どういうことだよ!」
「あれらの思念を打ち消すような何かを、お前が与えました。私に分かるのはそれだけです。私のせいにされても困りますね」
「なに言ってるんだよ!石がほしかったんだろ!だいたい、あんた、自分の親を探すのにミキーを使うなんて、こんな危険なことさせるなんて、どうかしてるよ!」


シーガは小さくため息をついた。
「お前には関係ありません。まったく、こんな気分の悪い場所に呼びつけて」
「……ごめん、なさい」
青年に抱きかかえられた少女は小さくつぶやくように言った。
「ミキー!」
タースが駆け寄ると、シーガはくるりと向きを変えた。
「近寄るな、雑種くさい」
「ざっしゅ!?」
タースは一瞬何のことか、飲み込めなかった。
雑種…。
去っていくシーガの綺麗な銀色の髪が揺れる。
保護区以外で本物のシデイラを見るのは初めてだ。
母さんと同じ、翡翠色の綺麗な瞳をしていた。
雑種……。
僕のことか!
そこで初めて、混血のことを言われたのだと気付いた。
むっと腹の奥が熱くなった。
「あいつ!」
既に、男の姿は無い。


シデイラの血を引くと、疎まれたり蔑まれたりすることは今までもたくさんあった。けれど、本物に雑種だとバカにされる筋合いはない!シデイラの血を引くために、どれだけ苦労していることか!


タースは階段を駆け下りる。
シーガは既に図書館の扉を開いて、外の日差しの下にいる。
ジャムさんがこっちを見ているのをちらりと視界の隅に感じながら、飛び出した。
「待てよ!」


門の前に小さな黒い馬車。シーガは既に乗り込んでいた。
タースが階段を駆け下りる。
走り出した馬車を悔しそうに見送る少年に、誰かが声をかけた。
「タース!」

振り向くと大柄な、作業服の男が立っていた。
「!親方…」





夕食も大人しいタースに、エイナはパンのお代わりを確認する。
タースは黙って首を横に振った。


親方に説明しようとしたら、この間と同じ口調で言わなくていい、と言われてしまった。
怒っているのは分かった。
仕事を済ませたにしろ、親方の許可を得ずに図書館に向かった。
すぐに戻るつもりが、気付いたら仕事の時間は終わっていて、心配した親方が探しに来たのだ。


タースは黙って親方の後について帰って来た。
親方は言った。
「図書館には行くな」
それが、タースの何を止めさせたくて言っているのかが、分からない。
勉強して大学に行きたい、それがいけないのか。
仕事を抜け出すのがいけないというのだろうか。
それとも、タースの様子から、シデイラに関係する何かだと勘付いているのだろうか。


どちらにしろ、タースには逆らうことは出来なかった。

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「想うものの欠片」第二話 ⑬

13


「ただいま!」
この家の夕食は、親方の時間に合わせて始まる。
夕刻、家に戻るとすぐにシャワーを浴びた親方は、軽く麦の酒を飲んでから食事を始める。
だから、学校から帰って来るライラは大抵、間に合わないのだとエイナが言った。


ライラは帰って来ると、ととと、と走ってキッチンに顔を出した。
「お帰り、ライラ」
エイナが出迎えて抱きしめる。いつもの挨拶。
「ね、ママ、郵便局に寄ってきたの!」
ライラは手に持ったものを、そっと母親の手に渡した。
「あら!」
エイナは目を丸くして、それからセルパを振りかえった。
「あなた!見て、リックから、手紙よ!」
がたっと、親方は立ち上がった。
駆け寄る。


「おう、おう」
嬉しそうに親方は手紙を持ったまま、リビングのソファーに向かった。その後を、エイナもライラも追いかける。
ライラが読み上げた。


「お久しぶりです、お元気ですか。父さん、母さん、ライラ。僕は元気です。この春からティエンザのサンルーという街で大学に通うことになりました。父さんはそういうと怒るかもしれないけれど、いまやティエンザの工業技術はすばらしい勢いで進歩しています。それを学んで、父さんの仕事に役立ちたい、それが僕の願いです。あの時、勢いで家をでてから、何度も帰ろうと考えました。でも、僕は、何も持たずには帰ることは出来ない、そう思って今日まで、働きながら勉強を続けてきました。父さんに教えてもらった技術は、今の職場でもとても役立っています。改めて感謝しました。そして、もし、許してもらえるなら、一度帰って、みんなの顔を見たいと思っています」
読み上げるライラの声が、震える。


エイナはすでにこぼれた涙を、エプロンで押さえていた。親方の表情は見えなかった。
タースは、皆の幸せそうな様子に、目を細めて、黙って席を立った。
食器を流しに持っていくと、そのまま、二階へと向かった。


ベッドに寝転んで、天井を見上げながら、息を深く吐く。また少し、熱が上がったようだ。そのせいだろうか。何故か、涙がこぼれそうになる。
嬉しいのか、悲しいのか。よく分からない。


雑種。
シーガの声がよみがえる。
ふん、と息を吐く。


ミキーにももう、会えないのだろうか。
あの子は、あの子だけは僕のことそんな目で見ない。会えて嬉しそうにしてくれた。


ドン、ドン。階下で玄関の扉が叩かれる音がした。
その少し前、車らしい音がしていたから、誰か、家に来たんだろう。タースは目を閉じて耳を澄ます。
三人の足音。
エイナが慌てて扉を開ける。
こんばんは、という会話を想像したが、違った。
何か、言い争っていた。


嫌な感じだ。
起き上がって、タースは様子を見ようと、扉を開けた。
同時に目の前に、一人の男が立っていた。


「おや、君か、タース君。ふーん、本当に混血なんだなぁ」
少したれ目、気障な口調。こけた頬にチョロリとしたあごひげ。三十代後半くらいのやせ気味の背の高い男だ。黒ずくめの服、手には、銃。
タースは息を呑んだ。銃口が、こちらに向いている。


「私はスレイド。ファドナさまのお使いだ。少々、君に用事があるんだ。来てくれるかい?」
「ファドナ、さま?」
「おやおや、知らないのかい?このライトール公国の教会で最も地位の高い、ま、いけ好かないおばさんだ」
「おば?」
「おっと、今のは聞かなかったことにしてくれよ。私も命は惜しい。さ、きてくれ。教会が君を保護するんだよ」
「あ、あの。結構です、僕は」
数歩、後ろに下がる。


「だめだめ」
男は小さな子供にするように人差し指を左右に振った。
「いいかい、君には身分証明がないね、市民証も。そういう人物を働かせるのは政府の決め事を破っていることになる。つまりだ。君がここにいると、セルパさんは逮捕されて、仕事も出来なくなるって寸法。分かる?」


にやっと笑って、その男は有無も言わせずタースの腕をつかんだ。
タースが睨みつけると、男は一瞬怯えたように手を離す。
「おいおい、シデイラってのは目つきが怖いね、まったく、シーガみたいだ…」
「!シーガを知っているの!?」
「ん?そりゃ、こっちの台詞。あんた、あっちゃいけない人間、いや、シデイラに会ったね。いけ好かない野郎だったろう?」
同情した口調で、男はタースの手を再び掴んだ。
「うん」
そこだけは素直に頷いた。
「ぷ、ははは!いいねこりゃ!面白い。さ、行こうか。なあに、人間、これ以上悪いことは起こらん、今後は人生上り調子さ!」
いいのか悪いのかわからないことを言って、男はタースを階下に連れて行った。


一階では、軍兵が二人、セルパたちを挟むように立っていた。
その手には、銃。
タースは軍兵を睨んだが、セルパと目が合うと、うつむいた。


「親方、ごめんなさい」
一言。
「いやよ!タースは何も悪いことしてないわ!」
ライラが叫んだ。
「ちっちっち、お嬢さん、悪い事をしたのは、こいつじゃない、あんたの親父さん。雇っちゃいけない子供を雇った。ま、ここからタースがいなくなれば、それはなかったことになるわけだ」
男の言葉にセルパがうつむいた。
「すまない、タース」
「そんなことないです、僕、嬉しかったです。ありがとうございました」
きちんとお辞儀をして、泣いているライラに微笑んだ。
わずかでも、幸せな家庭に居られた。


スレイドに背中を押され、タースは歩き出した。
「うーん、泣かせるねぇ。お前さん、いい子だねぇ」
それでいて、家の外に出るとスレイドはタースの手をきつく縛り上げた。
「いいかい、ユルギアなんか使っちゃだめだよ、私たちにはこれがあるんだ」
強引にタースを車に押し込むと、隣に座ってスレイドがポケットから小さな紙切れを取り出した。
なにやら、赤いごちゃごちゃした文字が書かれている。


「何、それ」
「知らんのか?護符だ。教会発行、一枚銀貨五百、なかなかの効き目だって噂だぞ?」
「…くす」
少し涙目の少年を元気付けようというのだろうか。そんな話聞いたこともなかった。
「今なら半額でもいい、買うか?」
「何からの護符なの」
「そりゃもちろん、悪いユルギアからさ」
「ふーん」
タースは少し意地悪な気分になった。


シーガとつながっているなら、逃げ出すのはもう少し後でもいい、だから、とりあえず道連れの人となりを確認することにした。
「じゃ、そこに座っているユルギアは?悪いユルギアじゃないんだ」
スレイドがふふんと苦笑い。
「嘘つこうってのは、悪いことだぞ、ぼうや。この護符はな、シーガも認めているんだ。これがあればユルギアが近づけないってね」
ぷ、とタースは噴出した。
「シーガのこと、信じてるの?」
「…ぼうやのこと信じるよりはね」
「ふうん、長い付き合い?」
「さあ、いつからだったか」
「へえ、シーガっていい人?」
スレイドは黙った。


「あのな、ぼうや、大人を脅そうなんて悪い考えだ。いいか、ユルギアなんてもんはそうあちこちにいるもんじゃない」
「じゃ、護符なんかいらないじゃない」
つと手を伸ばして取り上げようとする。
「ば、ばか!だめだだめだ!」
慌てて遠ざけると、スレイドは大切そうにそれを折りたたんでポケットにしまいこんだ。
「もう、大人しくしてろ」
「ちぇ」


つまらなそうに少年が正面を向く。
揺れる自動車に少しバランスを崩す。
「これ、ちょっと取ってほしいな、それか、もう少し丁寧に運転して…」
タースは最後まで話せなかった。


スレイドが護符と入れ替わりに、ポケットから取り出した布を口にあてがわれたから。


「!!」
それが何の目的なのか気付いたときには、意識が遠のく。


「まあ、可哀相なことは可哀相さ。けど、仕方ない。許せよぼうや」
スレイドの表情は口調からは想像もつかないほど、静かで鋭い。
自動車の揺れに、少年の髪がさらさらと頬に落ちる。


らんららです。タース君、なんだか大変です…(><)
次回更新は、一回間を空けまして(企画のテーマ小説、短編読みきりが15日に公開になりますので…)17日更新です♪
次へ(7/17公開予定♪)
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「想うものの欠片」第二話 ⑭

14


ライトール公国、ライト公領の北部。
新しい駅前の聖堂に比べて随分古ぼけた、それでも大きさだけは誇れる旧聖堂の建物がある。

麦畑を通り抜け、丘陵地の森の中。
月明かりが建物の屋根を夜空に浮き立たせていた。
ほとんどの部屋の明かりが消えている中、礼拝堂の奥、講堂脇の部屋にいくつか明かりが灯されている。ランプなのだろう、明かりはゆらゆらと頼りなく揺れる。


夜になって吹きはじめた強い風に青年はマントを翻して、黒い馬車から降り立った。
その後を追うように、小さな影がぴょこんと両足で着地する。


「嫌な風です」
「山臭いですの?」
「いうなら、獣臭い、ですね」


二人はそんな会話をしながら、ガラガラと上がる鉄の格子戸を見上げていた。鎖のきしむ音、落ちてくる土ぼこり。
それが顔にかかって、ミキーは思わずぶるるっと震えた。
「いやん」
「ミキー、耳が出ていますよ、みっともない」
「びっくりしたですの」
二人は歩き出し、背後で再び格子戸が降りた。


その地響きを明かりのついた二階の窓から聞いている女性が居た。
白髪の髪をきれいに結い上げた、初老の女性。ふふ、と微笑むと、机の上の呼び鈴を鳴らす。


ほどなく、ドアをノックする音がする。
「お呼びですか、ファドナ様」
扉の向こうの相手に、女性は厳かな声で命じた。
「シーガが到着しました。食事の用意を」
「は、かしこまりました」
人の気配が消える。


ファドナ、この国の教会の最高職にある聖職者だ。司祭の位で最も高い地位にある。世のうわさでは聖女ファドナ、と呼ばれるが、実際のところ、彼女本人を知るものは、聖女とは呼びにくいと感じるだろう。
再び人の気配。
ドアが小さく叩かれた。


「ファドナ様、シーガ様がお着きです」
「おお、通して頂戴!」
嬉しそうに扉に駆け寄る。開かれた目の前に女性がいることを察知していたのか、シーガは扉から一歩、後ろに下がる。
「シーガ!お帰りなさい!」
遠慮なく抱きしめようとする聖女をするりと交わして、部屋に入る。


よろけながら、ファドナはシーガの後について入ろうとする少女を、ペンと叩いた。
「きゃ!」
「お前は許可しません!出ていなさい!」
「シーガさまぁ」
頭を押さえて訴える少女に、シーガは冷たく手を振った。
少女に勝ち誇った笑みと鼻息を吹きかけて、聖女ファドナは扉を閉める。


「相変わらずですね」


青年がファドナの仕事の様子を見るように、机の上の書類の山を眺めた。ちらちらと数枚めくっている。
その立ち姿だけでも様になる、と聖女は微笑む。


「さあさ、シーガ、かけて。今食事の用意をさせています、それまで一緒にお茶でもどう?」
「座りませんよ、うっとうしい」
「なあに、水臭いじゃない、さ、座って、疲れたでしょ?いつティエンザから戻ったの?ちょうどひどい地震があったから心配していたんだから」


強引に、青年をイスに座らせると、ファドナはその背後に立つ。
「それが嫌なのです、ファドナさま」
背後に女性の息を感じることに、シーガは顔を引きつらせる。
「そんな、水臭い呼び方はよして、シーガ。母様って、昔は呼んでくれたじゃない」
「…違うと想いますが、お義母さま」
「ああ、いい響き」


ため息をつきつつ、シーガは長い足を組み変えた。
「相変わらず、この古い聖堂にこもりきりですか」
「いいのよ、今やミーア派は古い教えなんですって。新しい技術や、工業を取り入れた都会に移り、富豪や王族に媚を売るのが新しい教えだそうよ。まったく、ロロテス派は、何を考えているやら」


「くす、辛辣ですね。ここに来る前に、しばらく駅の近くにいました。随分都会になりましたね。人も多い、活気もある。人はそう言う場所に憧れるものですよ。人を救うのが教会の勤めであるなら、ロロテス派は間違ったことはしていません」


「いいえ、いいえ、シーガ、ロロテス派はティエンザ王国に大きな大聖堂を建てたそうよ。かの国の大司祭ガネルは、自分を聖王と呼ばせているとか。勘違いもいいところよ。最近では新しい医学のためと称して、異民族を捕まえることすら厭わないそうよ。私たちがシモエ教区に保護しているものたちですら、引き渡せといってきているのです」
「異民族、ではなくて。シデイラ、でしょう?」
青年の言葉に、ファドナは言いよどんだ。
シデイラが疎まれ蔑まれているのは周知の事実、もちろんシーガも分かっている。しかし、それを本人の前ではっきり言うのははばかられた。


シーガはその気持ちを見透かしたように、にやりと笑う。
普段は無表情なのに、相手が人間として弱い部分を見せると嬉しそうにする。
そのような性格に育てた覚えはないのに。
見かけは申し分ない青年に育ったと想うのに、と。
そこだけがファドナの密かな悩みだった。


「…ええ、そうよ。シデイラは今でこそこんな風に扱われているけれど。遠い過去には神の民族と呼ばれ敬われていたのに。嘆かわしい。私の名がなければ、あなただって危なくてかの国には入れないところよ」
「そうですか」
涼しげな視線をまともに受けて、ファドナは頬を染めた。


実際はファドナの後援がなくとも、シーガは平気だろうと分かっている。養母としての面目を押し付けようとしている自分に気付く。
さらにそれを見透かされているようで息苦しくなる。
話題を変えた。


「そうそう、この間公国政府から話があって、シデイラの混血を一人、保護したわ」
「混血?」
珍しかった。思い当たる人物が一人。
「ええ、可愛い子よ。会ってみたい?」
「……嫌です」
シーガは言ってから、しばらく考えた。
それから、ふと目を細めた。
「いえ、会ってみますよ。食事が済んだら、会わせてください」
「え?ええ、いいわ。今日連れて来たばかりだから、まだ落ち着いていないのだけど。シデイラの血を引くものとして、諦めてもらわなければならないことがたくさんあって、それを、どこから話していいものか、迷っているところよ。シーガ、あなたから話してあげてくれる?」


シーガはイスから立ち上がった。
着たままだったコートを脱いで、片腕にかける。
「ええ、そうですね、楽しそうです」
「シーガ?」
青年が、楽しい、という言葉を使うことは希だった。

らんららです♪やっと。シーガの出番♪お待たせでした!
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「想うものの欠片」第二話 ⑮

15


タースが目を覚ましたとき、相変わらず腕は縛られたままで、それでも一応、柔らかなベッドの上に横たわっていた。
スレイドが「保護」といっていた、あながち嘘でもないのかもしれない。


数回息を吐いて、手足を動かしてみてから、そっと起き上がる。


部屋はあまり広くないが、小さなテーブルと小さな本棚。素焼きレンガの床には鹿の毛皮が敷かれていて、テーブルのランプが揺れるたび、そのうねりの影も揺れた。
薄暗い部屋の隅には、小さなニッチが設けられていて、蝋燭が一つ灯されている。祈りの場所のようだ。それ以外には小さなバスルームが付いていた。


ここで、誰かが生活するための部屋。見上げると、窓は一つだけ。
高いところにあって、鉄の格子がはまっている。ちょうど月が見えた。
立ち上がって、窓を眺めた。
両手を伸ばしても、届かない。


「お月様にお祈りかい?」


びくっとする。
気付かなかった。
振り向くと、スレイドが手に飲み物の乗ったトレーを持って立っていた。
それをテーブルに置きながら、男はタースの隣に立った。ちょうど、男の胸くらいがタースの身長だ。


「ふん、お月さんがきれいだなぁ」
「月の光は癒しのアカリだ」
タースの言葉に、スレイドは肩をすくめた。
「シデイラの教えって奴かい。私は分からなくてね、皆そう言う類のことを言うが」
「皆?」


「シデイラたちさ。暗くてね、ボウヤはまともな方さ。目つきが悪くて、神だの大地だの、空だの海だのとうるさいんだ。シモエ教区に移されれば、文句も何もないだろうが」
「僕も、そこに連れて行かれるの?」
タースは傍らの男の腕に触れる。


「シデイラには楽園だろうさ。差別もなく、飢えもない。保護されて安らかに生きる」
「…希望もない自由もない、死に行くだけの楽園?」


スレイドは少年を見下ろした。
少年はうつむいていた。思いつめたような表情、長いまつげに涙が見えるのではないかと、男は想った。


「僕の生まれた場所だ。逃げてきたんだ、そこから」
「…そりゃまた、因果なことだな、ぼうや」


顔を上げた少年は、スレイドの腕にしがみ付いた。すがるように黒いコートの胸元を引く。


「いやだ、行きたくない!強引に捕まえて、連れて行って、閉じ込めるのが、あんたたちの保護なのか?」
「…そりゃ…」
言いよどんだスレイドの言葉を誰かがさえぎった。
「その通り」
開いた扉の外の明かりで、男の姿は逆光になっていた。


「おやおや、珍しい、シーガさま。あなたがこんなところに来るとはねぇ」
スレイドが大げさに肩をすくめた。
タースは顔をしかめた。


銀の髪の男が、腕を組んで立っていた。
「なんで、あんたがいるんだ!何しにきたんだよ!」
タースが怒鳴る。
「スレイド、お前は外にいなさい」
「へいへい、シーガさま」
タースは、スレイドの服を放そうとしない。
「スレイド、その後ろについているユルギア。過去に保護しようとして死なせた人が居るんだ」
「おいおい、ぼうや…」
強引に手を引き剥がすと、スレイドは肩を揺らして首をすくめた。


「誰だって、シモエ教区なんか行きたくない。それを強引に連れて行こうとしたんだろ?何人か、ここで祈りをささげたまま、亡くなったんだ。僕には見える。シーガ、あんたもだろ?だから、スレイドはユルギアを怖がってる」


「じょ、冗談はやめとけ、ぼうや。私にはこの護符が」
ポケットに手を突っ込む。
「これのこと?」
タースは縛られた両手でそれをひらひらさせて見せた。


「!お前いつの間に!」
タースはそれを目の前でびりびりと破った。
「ああああ!それ、マジで高かったんだぜ、おい、どうしてくれる」
少年に掴みかかろうとするスレイドを、シーガが足を伸ばして転ばせた。
ごつ、と鈍い音がした。


「で、いで、シーガ!てめえ、なにしやがる!」
口調が変わっている。
「子供にからかわれて、みっともない。子供の時間稼ぎに付き合う必要はない、お前は外に出ていなさい」
「く、畜生!」
鼻を押さえて、スレイドはどかどかと部屋を出て行った。


「さて、私より彼が居てくれたほうがまし、とでも思ったのですか」
「ああ、もちろん」
タースはにらみつけた。
「…、隠しているものを、出しなさい」
「なんのこと?」


シーガは縛られているタースの腕を掴んで、強引に手のひらを開かせた。
中から、扉の鍵が出てきた。


「雑種だけに、たくましいですね、しおらしいフリをしていても、本性は獣」
「あんたと一緒にするな!」
「ユルギアを見ることの出来ないものに、その存在を知らせるのはよくないですよ。スレイドはあれでも神経質です。当分、ユルギアのことが気になって眠れなくなるでしょう」
「護符を売りつけるくせに」
「あれは私の稼ぎになるわけではありません。この教会の資金になります。ひいてはあなたと同じシデイラたちのね」
「彼らは望んでない。あんただって、シデイラなんだろ?シモエ教区に閉じ込められるのが苦痛だってことくらい、分かるだろ?」


青年はうっすら笑った。
「私は特別ですから。そんなところに閉じ込められるわけではないので。分かりません」
「!なんだよ!特別って!!」
「まあまあ、そこに座りなさい」


タースは睨みつけたまま、シーガの指指したイスに座った。
シーガも座るのかと思っていたら、青年はタースの正面に立った。
見下ろしている。
タースは唇をかみ締めた。何が腹立たしいって、その見下ろした顔がひどく楽しそうだからだ。


「私は、シデイラの教えを受けずに育ちました。この教会でね。ですから、シデイラの人々の考え方は分かりません。我らはシデイラの人々を守るために保護する。それだけですよ。一生、日々の生活に困らないのですよ?君は懲りていないのですか」

「……何にだよ」
「自分の人生にです」

タースは唇をかんだ。


「幼い頃から、逃げ隠れて、まともな生活など出来なかったはずです。生きていくために何でもやってきたでしょう?それでも、やっぱり混血である事実は変わらない。いつまでも付きまといます。そろそろあきらめるころではありませんか?」
「……」
「あなたのご両親はどうでした?幸せな最期でしたか?」
「!」
タースは立ち上がりかけた。
大きな瞳でシーガをにらみつけた。


「もう、あきらめなさい。夢など、見るものではありません」
「……どうしても、僕を連れて行くのか?シモエ教区に?」
「ええ」
少年は、とん、とイスに座りなおした。
うつむいて、自分の手を見つめている。


「分かってくれましたか?まあ、雑種ですからねシモエ教区でも苦労するかもしれませんが」
その時、少年の手に、ぽたりと何かが落ちた。
しおらしくなったタースに目を細め、嬉しそうにシーガは近づく。
「望まなければ、苦しむこともありません」


タースは、ただただ、悲しかった。


すべてをあきらめる。
それは生きる理由を失うことのように感じた。
なぜ、そんな風になったのだろう。
ここから逃げても、新しい街にたどり着いても。
また一人だ。
分かっている、それでもあきらめきれずに生きてきたのに。
もう、終わりなのか。
希望を失って、ただ死を待つために生きることを思えば、ユルギアのように思い願い続けることのほうがどれだけ幸せか。
涙がこぼれた。

シーガが悪いわけではない。
両親が悪いわけでもない。

ただ、そのように生まれてしまった。
それが悲しかった。

理由などなかった。
他に何も浮かばなかった。

涙がコロンと膝に転がった。
それは、冷たく、きらりと光った。


「!それは!」
タースの涙が一粒、落ちた手のひらの中でルリアイに変わっていた。
驚いてそれを手に取るシーガを、タースは呆然と見ていた。
「ルリアイ……」
シーガはそう呟く少年を見た。


次へ(7/21公開予定♪)
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「想うものの欠片」第二話 ⑯

16


シデイラの涙、奇跡の涙。

そういう、ことなのか。

レンドルさんの言葉が思い出された。
五百年前には、ルリアイは当然のように知られた存在だった。どうして、今、それはどんな古い資料を探しても出てこないのか。気になるところだった。


シデイラの歴史をタースは図書館で学んでいた。
ルリアイの記述はなかった。
それは、シーガも同じことなのだろう。


「今、どうやった?どうして、これが出てきた?」
「知らない」
「教えなさい」
「どうして?」
「ど、どうしても、です」
睨む少年に、シーガはため息をついた。


「……私も、一つ持っていた。拾われたとき、私は一つ握り締めていた。それが、私の両親の手がかり……」
「くくく、いやだ。教えない」


タースは、意地悪く笑った。
自分でも理由など分からない。けれど、目の前の青年に素直になるほうがどうかしている。
彼が拾われたときに持っていた、ルリアイ。手紙にはお守りにと書いてあった。彼の母親の慈愛のルリアイなのかもしれない。タースには、それはなかった。
そんなもの、なかった。


「人には人生をあきらめろなんていっておきながら、自分は親探し?呆れるよ。すごい、自分勝手だ。協力なんかしてやらない」
「……」
頬を殴られた。


「お前の涙が石に変わった、そうだな?」
「…知らない」
「では、多少泣いてもらえば分かるのかな?」
冷たい青年の視線に、タースはきっちり睨み返した。


「シーガさま、それ、止めておいた方が。どう見ても、あなたのほうが悪役ですよ」


いつから居たのか、スレイドが呆れたように声を出す。開け放たれたままの扉の向こうで、廊下の壁に背を持たれかけて腕を組んでいた。ランプの明かりで、口元がにやりと笑っているのが見て取れた。


「スレイド、邪魔をするな」
「そんなあなたを見たらファドナ様が嘆くでしょうねぇ。あの人、自分のことは棚に上げて、シーガさまはまっすぐに優しい青年に育ったとでも思い込んでいますからね」
「勝手に思わせればいい」


「どうせ、その子は明日には国境を越えるんです。かまう必要などありませんよ。本当に石のことを知りたければシモエ教区でシデイラたちに聞けばいいんですよ。彼らは古くからのシデイラの教えに詳しい」


「あんなところには、行きません」
「あなたも同じ、シデイラでしょう?」
ぴりぴりと二人の間が張り詰めた空気で満たされる。
「一緒にしないでください」
「一緒に、連れて行けよ」

タースだった。


「え?」
スレイドとシーガが同時に少年を見た。
タースは立ち上がって、縛られたままの両手を、シーガに突き出していた。解けとばかりに。


まっすぐ、リール海の色の瞳で、シーガを睨みつけていた。


「ルリアイのこと、教えてほしければ、僕を連れて行け。シーガ、あんたはシデイラのくせに保護の手を逃れて自由なんだろ、あんたが特別なシデイラだって言うなら、混血の僕だってそうだ。保護なんて、ごめんだ」


シーガは目を丸くしていた。
その場にミキーが居たら、さぞ驚いて、また喜んで顔真似して見せたことだろう。
「タース、と言ったな。お前はまた、石を出すことが出来るのか?」
「……もちろん」
そんな自信も確信もない。それでも、今はそう言うしかない。
タースは目の前の男をにらみつけた。


傍に居るフリをして、機会を見て逃げ出せばいい。
シーガやそのファドナ様とやらが乗ってくれるかは分からない。けれど、それに賭けてみるしかない。
自由を手に入れるために。


「逃げ出すつもりですか」
シーガはさらりと言い当てる。


だめか、少年はこめかみが張り詰めてい痛むのを感じた。
「……」
「本気ですか、シーガさま」
スレイドが腕を組んでニヤニヤしながら二人を見ている。


「いいでしょう。ただし、私の言うことを聞くのです。逃げ出そうとしたり、逆らったりすればシモエ教区に送ります」


思わず一歩踏み出して、タースは鹿の毛皮を踏みしめた。
目の前の銀の髪の男は真面目な顔をして、もう一度言った。


「なるべく長く自由がほしいなら、逃げ出さないことです」
矛盾する言葉に、タースは、黙って頷いた。
腹立たしいが、我慢するしかない。


「では、着いてきなさい、余計なことを言ったら約束は即、なくなるものと思いなさい」
シーガの後について歩くと、戸口でスレイドと目があった。
彼は、にやっと、面白そうに笑うと、一つウインクした。
タースはやっと、笑った。


狭い通路を、小さなランプの明かりだけで進む。
湿ったかび臭い中を三人の足音だけが響いていた。
ふわと、どこからか風が入る。
「うわ」
小さく悲鳴を上げたのはスレイドだ。
一旦足を止めたタースは背後の彼を見つめた。
シーガは止まりもしないで歩き続けた。


スレイドは少年と目があうと、ふんとそらして見せた。強がっているようにも見えた。
しばらく歩き、二回目の階段を昇りきり、鋼鉄の厚い扉を抜けた。
扉が閉まるとき、派手な音を立てる。
それが、建物の中に反響して、不気味な音に変わる。
かさ、とどこかでネズミが音を立てる。
「う!」
また、スレイドが悲鳴をかみ殺す。本当に怖がりなのだ。
可哀相になる。


「スレイドさん、僕が悪かったよ、ユルギアは居ないから」
タースが縛られたままの手で、スレイドの手を取った。
「あ、なんだ、やっぱりそうか!そうだよなぁ!ははは、って、おい!騙したのか!」
「何?」
にっこり笑うタースに、スレイドは握られた手を振り払おうとした。
その瞬間何かに気付いて男は動きを止めた。
「なんだ、お前の方が震えてるじゃないか。どうした?何か催したか?ん?素直に言えよ」
「ち、違うよ!」
タースが口を尖らせる。


並んで歩く二人を振り返りもせず、シーガはくく、と笑った。
「スレイド、タースも見えているんですよ。シデイラですら、嫌な気分にさせる、強いユルギアが」


「!?何?タース、お前今、いないって!」
「だから、気付かないほうがいいって思ったから!」
「スレイド、シデイラだって人間です。恐ろしいものは恐ろしい。そうでしょう。雑種、特に力のないお前では、近づかれるのも嫌でしょう」
「雑種って呼ぶな!それに、こんなユルギア、怖くないよ!」
「最高に嫌な性格だぜ、シーガさま」


暗い階段をいくつも昇って、シーガの進む後を二人は一つになったまま歩いていく。
「さ、入りなさい」
シーガが扉を叩く。
「ファドナ様」
青年の言葉が終わるかどうかの時に、扉が急に開かれた。
「シーガ!心配していたのですよ、なかなか来なくて…?なあに?スレイド、その子供をどうしてつれてきたの?」


きちんとした身なりの、気位の高そうなおばさん、それがタースの第一印象だ。シーガに対する口調と、スレイドに対する口調があまりにも違っている。
黒いドレス、頭にかけた白い布。教会に居る女の人の姿だ。


「ファドナ様、この子供のことが気に入りましてね」
「気に入った?」
シーガの腕においた手を離し、ファドナは少年のほうに近寄った。
少し顔を傾けるようにして、じろじろとタースを見つめる。


「人間、よね?」
「は?」
「雑種ですが、可哀相な生い立ちなのです、お義母さま。私と同じで両親を探しているようです。ともに連れて行きたいと思っています」


先ほどまでの冷たい態度の青年はそこにはいなかった。
翡翠色のきれいな目を細め、ファドナを優しく微笑んで見ている。
その笑みと「おかあさま」の一言に聖女は満足した様子だ。


「まあまあ、シーガ、あなたにそんな優しい気持ちがあるなんて、思ってもみなかったわ!なんて素晴らしい!素敵なことですよ。あなたに任せるのなら、安心ですものね。私は嬉しいわ」
そういって青年に抱きついた。
ぷ、とタースは噴出しかけた。横でスレイドが肘でつついた。
シーガの演技もだが、ファドナの言い草も笑えた。


「ええ、哀れな雑種ですから。珍しいですし、粗忽ですが忍耐強く躾ければ少しは役に立つでしょう」
「まあ、そうね、可哀相な子ですものね。気まぐれでも可愛がってやれば、少しは恩義も感じると言うものですね。あなたが飽きたら、それからシモエ教区に連れて行っても問題はないわね」


気持ちの悪いやり取りを繰り返す二人を横目で見ながら、スレイドは何とか少年を押さえつけていた。タースが腹を立てて顔色を変えるのを彼らは楽しんでいる。


スレイドは小さく言った。
「タース我慢しろ、自由、だろ」
「……」


こうして、タースはシーガと出会った。
旅が始まろうとしていた。

第二話 了

らんららです♪第二話あとがき。
ここまで読んでくださってありがとう~♪感謝です!
やっと、やっと三人の旅♪シーガとタースの関係は微妙ですが(笑)
タースは巻き込まれるように、シーガの運命に関っていきます。
人と人との出会いって、必ず何かしら残しますよね…彼らの出会いが、今後何を起こすのか。うん、まだまだ、先は長い♪
楽しんでいただけると嬉しいです♪

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「想うものの欠片」第三話 ①

第三話 旅立ち



古めかしい石造りの部屋で、タースは目の前に置かれた理不尽の象徴を睨みつけていた。


それはベッドの上に無造作に置かれた服。
白いシャツは縁に控えめながらレースがつき、赤い細いリボンが結ばれるようになっている。上着は漆黒のベスト。上質な絹で出来ているようだが、それは裾が後ろが長い、つまり礼装のような状態だ。ズボンはふわりと幅が広く、膝下まで。用意されたブーツはその直ぐ下まで届く。


まるで、道化師かお人形のようだ。
せめて、ズボンくらいは長いのがいい。
腕を組んで、考え込んでいる。


女みたいな服だ。
自分の姿を想像した。
天井を見る。
小さなユルギアが天井の石からはがれるように、ゆらりと白く光って見せて、こちらを笑っているかのようだ。


「ちぇ」
「タース!お食事ですの!」
扉が開かれた。
涼やかなミキーの声に、少年は思わず慌てる。
着替えるために体を洗って、下着一つ、つまり裸同然だった。


「うわ、ちょっと、待って、今着替えるから!」
少女は首をかしげて、ちょこちょこと近寄ってきた。少年の格好など気にも留めない様子だ。馬鹿みたいに高鳴る鼓動に黙れとつぶやきながら、タースはとりあえずズボンを手に取った。


「新しいお洋服ですの!素敵ですの」
ミキーはそのズボンを少年の手から取り上げた。嬉しそうに掲げてみせる。くるりとその場で回った。
「……もしかして、君が選んだの?」
「ふふふ。ミキーはお洋服大好きですの」


だから、レース付きなのか。
少女の服がいつもレースだらけなのを思い出して、納得する。
仕方なく、タースはシャツから身につけ始めた。


「素敵ですの!大公御用達の老舗ラムンの新作ですの!ぴったりです!シーガさまが買ってくださったですの」
「……あいつの趣味かと思った」


シーガが選んだものではないなら、それほど理不尽でもない。せっかくミキーが見繕ってくれたものなら、多少恥ずかしくても我慢する。そのあたりはゲンキンだ。
首もとのレースがくすぐったくても、つるつるする絹が気持ち悪くても。


ミキーは満足そうにタースの姿を眺めていた。
正面から見て、それから右に回って、後ろからも。
その仕草は可愛くて、タースは人形のように突っ立ったまま首だけで少女の姿を追っていた。


「ね、ミキー。どうしてシーガと一緒に居るんだい?君たち、どういう関係なの?」
いつの間にか目の前にいて、襟元のリボンを直しているミキーに驚く。


「かわいいですの」
目の前の少女の顔に、どきどきして、タースは視線をそらした。
ミキーが顔を上げると、近すぎて。キスできちゃうくらいだ。そう考えるともう、どうにも落ち着かない。


少女はにっこりと大きな瞳で笑う。


「ナーにしてるんだ?」
背後の声でびくっとして、タースはミキーの肩に置こうとした手を慌てて引っ込めた。振り向いたときにはミキーは扉のほうにかけていった。
「スレイドか、なんだ。びっくりした」
「なんだって、なんだ?お前を助けてやったのにさ、あの人形お化けから」
「人形お化け?」


スレイドは黒い帽子のつばをピンと指で弾いてにやりと笑った。黒い彼の髪は前髪の一部が不自然に流れている。


「おやぁ?タースくん、君もやられた口だね。やだねー、男だねぇ。やっぱり見た目は重要か?少年」


スレイドはおどけた口調で、肩をすくめて見せる。
否定しにくいタースはにやけるような照れたような変な顔で睨んだ。


「ふふん、さっぱりこぎれいになったな、まあまあ見られるじゃないかタース。そういうのなんていうか知ってるか?」
「知らない、おいちょっと、触るな!」
「さあて、シーガ様が待ってるぜ」


スレイドはまだ少し濡れているタースの髪を悪戯して、自分と同じ位置に同じ形のくせを作ろうとする。

男の腕を、押さえつけながら、タースは軽い蹴りでけん制した。スレイドはするっとよけると、今度はタースの背後から肩に肘をのせてささやいた。


「食事の時間にはうるさいんだぜ、朝っぱらから不機嫌だ。ああ、いやだいやだ」
「いいの、そんなこと言って?それに、シーガはいつでも不機嫌だよ」


スレイドはどうやら聖女ファドナの護衛のようだった。


いつも傍に来るまで気配を気付かせない。軽妙な口調で、悪い人ではないようだが、何を考えているか分からないところもある。そして、時折見せる鋭い視線は、刃物を突きつけられたような気分にさせた。
それでも、この旧大聖堂の中ではまともにタースに話しかけてくれる数少ない人で、少年は嫌いじゃないと彼なりの判断を下していた。


古めかしい石柱が支える天井のアーチをちらちら眺めながら、薄暗い廊下を歩く。足元の絨毯は褪色し所々穴が開いて、そこを通ると足音が響いた。
スレイドと並んで廊下を歩きながら、タースは少し前を絨毯の穴を選んで跳ねるように歩くミキーを見つめていた。


無邪気だ。
時折、天窓から差し込む斜めの日差しを受けてミルクティー色の髪がきらきらと光る。数歩進んでは立ち止まり、後ろの二人を確認し、また、前に向く。
リボンが尻尾のように揺れ、その小動物のような仕草が可愛らしい。


「ほらほら、視線釘付け、やばいんだよなぁ、あれ。触ったか?触ったなら気をつけろよ」
「だから、何だよそれ!僕は別に、さ」
「ばればれだっての。まぁ、あれはそう言うイキモノだ」
「だから!なんだって言うんだよ!」
はっきりしないスレイドに、タースはむかむかしていた。
ちょうど空腹も手伝って、声は自然に大きくなる。


「好きだろ?あの子のこと」
男がにやっと笑った。


「え、あ、ええと」
すっかり頬が上気しているのはタース自身も分かっていた。


「触っただろ。え?少年」
スレイドがタースの額に手を置いた。
「!?なんだよ!そんなエッチなことしてない!」
ぶっ、とスレイドが噴出した。


「ははは!!面白いなぁ、ボウヤ。気をつけろよ。あれ自体には悪気がないから、余計に悪いよなぁ。俺だってなんど触って、ぶっ倒れたか」
「え?触ったの?」
「あー?注目すべきはそこじゃあないが?」


もしかして、この人もミキーのこと好きなのか。
タースの頭は想像でいっぱいだ。じっと背の高い男を見上げる。


「……スレイド、触ったんだ?」
「ああ、そりゃ、あれだけ隙だらけだしなぁ、男として……!なんだよ、おい」


睨みつけるタースに、スレイドはばつが悪そうに髭をなでた。
「エロじじい」
「お前、人のこといえるのか?ええ?」
掴みかかるのを笑いながらよけて、タースは走り出した。


「いくつ違うんだよ。歳を考えろって!僕は本気で!」
また、追いつこうとするスレイドの手をすり抜けた。
「本気か、おい、待て!少年!」
「待たない!悪いか!?僕は本気だ」


スレイドが突然走るのを止めた。
タースはそれに気付いて不思議そうに一旦止まると、男が歩いて追いつくのを待っていた。スレイドの表情に、何か言いたげな様子を読み取ったのだろう。
まっすぐ視線を合わせる。


珍しい生真面目な表情の男に、タースは首をかしげた。


「怖がらなくても、今日はユルギアいないよ」
黒い前髪が海の色の瞳にかかる。
タースはまっすぐ男を見つめて笑った。気持ちがすぐに顔に出る嘘のつけない性格だ。スレイドは視線をそらした。


「……あー、そうじゃない、お前本気であの子のこと、好きなのか、惚れてるのか」
まじめな顔で問われれば、頷くまでもなくタースの頬は赤くなる。
「そ、その、そうだよ!悪い?」
「……ま、分からんでもない、健全だな、少年」


少年、のあたりでスレイドの表情はいつもどおりに戻った。少しにやけた、細い目をさらに細める。
「だろ?可愛いからさ!」
嬉しそうに笑う少年の顔を、スレイドは眩しそうに見つめた。

らんららです♪第三話はじまりです♪タース君の恋心、うむ~どうなることやら…
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「想うものの欠片」第三話 ②




長い廊下は、もう直ぐ終わろうとしている。


一番奥の扉の前で、白い裾の長い服を着た男の人が、むっとした顔で三人を出迎えると、大きな扉をぎっと開いた。
中から、ふわりといい匂いがした。
お腹が鳴る。


「さ、どうぞ」
そこでミキーとスレイドは揃ってお辞儀をして、タースを部屋に送り出す。
二人はいつも、ここまでだ。何故か、一緒に部屋に入ることはない。ただ、タースを呼びに来るだけ。
軟禁状態の少年の世話役、というところなのかもしれない。


「楽しそうですね、ここまで聞こえましたよ」


長いテーブルの一番向こうにシーガがこちらを向いて座っていた。傍らに張り付くようにファドナが立っていた。青年はすでに食べ始めていたようで、空いた皿と飲み物のカップとを給仕が取り替えた。


「あら」

ファドナは声を出さずに笑った。
聖女の好奇の視線に耐えようと、タースは一つ息を吐いて、気を落ち着ける。服装のことだろうと想像できた。


「お、おはようございます」
「ええ、おはよう」


ファドナは銀色の髪を弄んでいたが、青年がじろりと睨んだので残念そうに手を引いた。


「ファドナ様、どうぞ、あちらへ」


シーガが隣の部屋への扉を示す。ふくよかな胸元に手を置いて、聖女は悲しげに口を尖らせた。


「あん、いいじゃない、ここにいても」
「うるさいですから」


にべもなく言い放つとシーガはそ知らぬ顔で紅茶を口に運んだ。


「もー、冷たいんだから!」


気味の悪い声を出して、ファドナは紅茶カップから顔を上げた青年の頬に無理やりキスをした。
去り際に、「お行儀よくね!雑種ちゃん、悪いことするとお仕置きするわよ」とタースを睨むと部屋の奥の扉に消えていった。


室内は二人きりになる。


タースは昨日と同じ、細長いテーブルのシーガから一番はなれたところに座る。正面に見える青年は、カップを置くと口元をナプキンで拭いた。優雅な仕草だ。


「少しは見られるようになりましたね。私とともに行くなら、あのような格好は許しません」
「……許さないって、あっちのが普通だって」


目の前に運ばれた料理を、タースはどんどん片付けていく。優雅さはないものの、的確にちゃくちゃくと空腹に食べ物を満たしていく。潔いくらいの食べ方だ。
こうして、一緒に食事をするのは三日目だが、かなり慣れた。


最初はナイフの持ち方から、座り方、かむ回数までこと細かくシーガに文句を言われた。何度、ナイフを投げつけてやろうと思ったことか。
それでも一応、ここから出られるまでは大人しくしていなくてはと、我慢していた。


「あの、どうしてミキーは一緒に食べないんだ?」
「あれが嫌がります」
「どうして?」
「お前の食べ方がみっともないから」
「な」


むかつく。絶対嘘だ。ミキーはそんなことをいう子じゃない。
ここで腹を立てると、シーガは余計に面白がる。それが分かるから、少年はぐっとこらえた。


「食事が終わったら、出かけます。急ぎなさい」
「!出かける?どこに?」
「地図は読めますか?」
「馬鹿にするな」
「馬は?」
「馬?」
「お前には御者をしてもらいます。ちょうどよかった」
「……」


正直、馬なんて触ったこともない。タースは街中を走り抜ける馬車を想像した。広い通りを自動車と馬車が入り混じって行き来する。想像するだけで眉間にしわが寄る。難しそうだ。
その不安を読み取ったかのように、シーガは言った。


「私の馬は利口です。お前が何もしなくても一人で走ってくれる。お前に期待などしていません。ただ、私は雑種と同じ馬車の中は嫌ですから」
「雑種って言うな!」


面白そうにシーガの目が細くなって、タースは悔しげに唇をかんだ。余計に、喜ぶのに、つい腹が立ってしまう。

シーガは本当に性格が悪い、この三日間で実感した。


常には不機嫌、大目に見ても無表情だ。
その表情がたまに変わったかと思えば、それはたいてい、タースを苛めるときだ。


昨日もセルパさんの所に息子のリックが戻ったらしいと言った。お前なんか忘れられている、そういってにやりと笑った。
お前は息子の身代わりだっただけだと。


それは分かっていたから、タースは黙って聞いていた。
それでも無口になる少年に面白みを感じるのか、機嫌よく食事をするのだ。

そのためのつまみのようなものなのかもしれないと、昨日の食事で理解した。できるだけ、自分も無表情にしてやろうと試みたものの、それも返って疲れるので諦めていた。


「タース、昨夜、ライトール公国の政府が、正式にお前を指名手配しました」


「え?なんで?」


冗談だろう。また、ろくでもないことで人を脅すつもりだ。タースは皿に残った鶏肉のソースに最後のパンを滑らせる。そのまま口に放り込んだ。


「雑種だからですよ。身分詐称、不法入国、なんとでもなります。政府の調査官がセルパの家に行ったとき、彼らは知らないと答えたようですよ。自分たちも騙されたのだと」


タースは一瞬かむのを忘れた。

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「想うものの欠片」第三話 ③



「我らミーア派も、お前をシモエ教区に送らないのであれば、正式な保護証明書を作成できませんし、知っていると答えるわけにもいきませんのでね。お前は我らの手から逃げ出した逃亡者ということになっています」


「……あ、そう」


スプーンをカチャと置くと、タースはデザートの小さなタルトをむずっと手で掴んで口に突っ込んだ。もくもくと食べる。シーガに対する反抗も含まれるが、その態度は逆に青年を喜ばせたらしい。

ただ、だまってタースを眺めている。


「ちぇ」


指先についたクリームをなめながら、小さくため息をついた。


みんなに迷惑がかかったんだ。ライラにも、職場のみんなにも。大丈夫だろうか。関らなければよかったと、親方は思っただろうか。


タースは味気ないデザートをジュースで流し込んだ。


「くく、これから行くティエンザ王国でも、教会が君を狙っていますからね。ティエンザの圧力で公国が君を売った、というのが真実でしょうね」


「なんだよそれ」


さすがに黙っていられなくなった。


「ティエンザ王国は今や、かの国の大司祭ガネルの言うがままですから。ガネルはロロテス派の急進勢力。ロロテス派は同じ神を崇めないシデイラを異教徒として抹殺するべきだ、と主張しています。だとすれば、混血などもってのほかでしょう?」
「…馬鹿じゃないか、それ」


ケガラワシイ混血、在ってはならぬもの、シモエ教区でも同じことを言われていた。こちらの教会でも同じことを言うんだろう。


「現在シモエ教区は我がライトール公国のミーア派が管理しています。ゆえに、大陸中何処でも、保護されたシデイラはわれ等がシモエ教区へ送る。

権利というほどではありませんが、それを、ティエンザ王国のロロテス派は欲しています。シモエ教区は確かにかの国とも隣接していますしね。あながち無謀な申し出でもない。

彼らロロテス派がシモエ教区を管理することになったら、それこそ、シデイラたちは監獄と同じ生活になるでしょう」


「勝手にすればいいんだ。あんなとこ、無くなったってかまわない」


タースは水を一気に飲み干した。乱暴にグラスを置く音がテーブルに響いた。シーガはピクリと眉をひそめた。


「かつて、シデイラが虐げられた時代がありました。帝国の設立後二百年間」


少年は手を止めた。表情が厳しくなる。


「……知ってる」


自然信仰を主とするシデイラの民族は、レスカリア帝国が誕生したとき、全世界を敵に回したのだ。


当時のレスカリア帝国は絶大な力を持ち、まだ統一されたばかりのライトール公国も、当時まだ自治区に過ぎなかったティエンザも、帝国の言うがままだった。
山岳地帯に住んでいたシデイラの民は、まるで獣か何かのように狩の対象になった。


その虐殺は帝国の皇帝が逝去するまで続いた。


そして、唐突に終わった。


おかしな話だが、二百年、その皇帝の代が続いていた。その内情は分からない。どの文献を見ても、皇帝が亡くなって代替わりしたことで殺戮は終わったと、それだけが残されている。

現在では、それは象徴的な表現であって、実際は二百年の間に数人の皇帝が帝位を継ぎ、同じことを繰り返していたのだと片付けられている。


そう、二百年も一人の皇帝が生きているはずはなかった。

その後のレスカリアの皇帝は、シデイラ民族を保護するよう教会に指示していた。

もちろん、虐げられてきたシデイラの民は、当然彼ら以外の民族を敵視した。保護とはいえ、強硬手段をとらざるを得ないのが実情だった。それから三百年近く。

結局シデイラの民は絶滅に瀕した少数民族で、他の民族にとって軽蔑する存在である意識は変わらない。

ミーア派は保護を始めた当初から存在する歴史ある宗派だ。


近年の教会はいくつかの派閥に別れ、最も新しいロロテス派はかつての神の威厳を取り戻す、という大儀を掲げ、「神代復興」と称して厳しい戒律と他宗派への圧力を強めていた。


少年のため息に、くく、と小さな笑い声が混じる。
顔を上げれば予想通り、シーガは嬉しそうに笑っている。


「シデイラが追われるなら、あんただって同じだろ?」
「いいえ。私はミーア派ですが、異教徒ではありません。ここで、育ったのですから」
「でも、シデイラだろ?」
「私にはミーア派の保護がありますから。それに、いざとなったら、お前を引き渡すことで私は身の安全を図ります」
「!!なんだよ!それ!」
「一緒に来たいと言ったのはお前ですよ?自分を呪うのですね。捕まったらどうなるんでしょうね。よくて幽閉、悪くて、処刑。今からでもシモエ教区に隠れますか?」


気を落ち着けようと、タースはぎゅっと目を閉じた。
シモエ教区に戻ることは出来ない。



あの、凍てつく雪原。
十年前の事件のことは、シーガは知らないのだろうか。


許さない。ユルサナイ。


どこからかまた、声が聞こえる。
頬をなぶる冷気、雪に埋もれる鉄条網。
声だけはいつまでも追いかけてきた。
もう直ぐ五歳になる、という時だった……。


「泣かないのですか?」
「!?」


気付くと、近くにシーガが立っていて、少年の顔を覗き込んでいた。


「!あんた、わざと!」
「なかなか、しぶといですね。随分冷たい思念が漂ったのに。……残念です」
泣かせるつもりだ、そうして、ルリアイを作らせるつもりだ!
「この!」


シーガはシデイラ。人の考えることは分からないが、そこから切り離された強い思念を読み取る力があるのかもしれない。そんなことより。


人の心が傷つくのを楽しんでいる、その笑みが気に入らない!


立ち上がって殴りかかった腕を、後ろからつかまれた。


「その辺にしておいてくださいよ、シーガさま。見ていてこっちが胸糞悪くなりますぜ」


スレイドだった。


彼は訓練されているのか、気配を消して近づいてくる。
いつの間にか、背後にいたのだ。
得体は知れないが、それでもシーガよりはずっと人間らしい。


「ほら、ボウヤ、落ち着け。どこまでが本当か怪しいもんさ」

低い声でタースに耳打ちするスレイドに、腕をつかまれたまま引きずられるように引き離された。


シーガは翡翠色の瞳で二人をじっと見詰める。


「スレイド、珍しくお気に入りですか、雑種が?」


「その言葉そのまま、お返しできそうですが?シーガ様」


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「想うものの欠片」第三話 ④




黙ったままの少年に、スレイドは数回首をかしげて言った。
「大丈夫かい?」


優しい言葉で思わず目が潤みそうになる。
でも、それもルリアイのためかもしれない。そう思ってタースは何度も瞬きした。


「なんていうか、ボウヤ、希に見る素直さだな。顔に全部出るから、からかわれるんだぜ?」


「……僕が指名手配中って、本当?」
「ん?いやぁ、そんなことはないさ。本当にそうだったら、ここがまずいことになるってもんだ」


視線をそらすスレイドに、少年は目を細めた。
嘘?


「まずいことになるのに、匿ってくれているの?」


「あー、かもしれん、けど、感謝なんかしないほうがいいぜ。ほら、あいつらはろくな性格じゃない。過剰サービスの裏には罠がある、無料ほど怖いものはないってね」


スレイドの言葉も、かなり怪しい。そんなことをいいつつ、スレイドは彼らに従っている。


何が、自分にとっていいことなのか、本当のことなのか、分からなくなりつつあった。


シーガはああして意地悪なことはするが、食事もきちんと出してくれる。一緒に食事をするって言うことはスレイドや他の人たちのような使用人ではないという扱いだ。

代わりに何か仕事をしようと申し出たときには馬鹿にしたように笑われて。結局何もしないまま、ただ、のんびりしている。

毎日、とにかく食べるだけで精一杯だった時もあった。市場や漁師、商人、工場、いろいろなところで働いてきた。たとえ三日間でも、働かずに食べて寝る、その生活は奇妙に思えて落ち着かなかった。



二階にある食堂から広い階段を下りていく。

一階の礼拝堂と講堂を左に見ながら中庭を望む回廊をスレイドについて歩く。言葉少ない彼は、少年の気持ちを図ってくれているのか。今は数歩離れた位置を保っていた。


背の高いスレイドの、黒い髪が風に揺れる。
それは、少し父親を思い出させた。
父親も、ライトール人だった。


風雨にさらされた回廊の床は、鈍い乳白色をしている。大理石で作られたモザイクは緋色と緑石を織り交ぜて美しい幾何学模様を織り成している。所々欠け、真ん中は人々の足跡のように緩やかに凹んでいる。


円柱と円柱を結ぶアーチは優美な彫刻で飾られ、経年による静かな色合いが無色のステンドグラスを際立たせている。そこを通り抜けることで陽光は荘厳さを帯びる。


長い歴史を誇るライトール公国は、今や工業国家としての名を上げているティエンザ王国に経済的には押され気味だ。それに負けまいと首都ライト公領は近代化が進んでいるが、こういった郊外の歴史ある建築物を見ると近代化=力という等式は空虚なものに思える。


古いものの持つ歴史の重み、成り立ち、関わった人々の想い、それを調べるのが好きだった。建築の歴史。タースがもっとも興味を持ったものだ。


この旧聖堂、ラミアカレス・ラキンは、図書館でもみたことのある有名な建築物だ。実際に目にしてみてその美しさと技に感心し、傷んだまま放置されている部分には逆にそれを維持できないでいる教会という組織に失望させられた。


スレイドの後に付いて中庭を横切ると、そのまま裏庭に抜けた。そこにはミキーが待っていた。小さな黒い馬車の前に立つ、真っ白なワンピースの少女は、日差しの中、緑の芝生に映えた。


自然と、鼓動が早くなる。


タースを見て笑顔を作る。その変化がまた、少年の心を躍らせた。
シーガとのやり取りの為にささくれ立った気分など、拭い去ってくれる。


「?そういえば、ミキーはどうしてユルギアが見えるんだ?」
ふと、口をついて出た言葉に、スレイドが振り返った。
「そりゃ、ボウヤ…」
「タース!旅のご用意をしていましたの!見てみて、このお洋服!素敵でしょ?このリボンはミキーからプレゼントですの!」


見せたくて仕方なかったのか、くるりと可愛らしいワンピースをみせびらかすと、抱きつかんばかりの勢いでかけてきて少年の目の前に黒い蝶ネクタイを掲げる。
よくよく見ると、それはレースで出来ていて、どちらかといえば、少女に似合うべきものだ。


「あ、ありがとう」
「これ、付けてください!」


首にすがりつく少女にドキドキしながら、タースはされるがままだ。
少女の肩越しに大きなトランクが三つ見える。その上にそれぞれ帽子と、コート。

本当に、出かけるんだ。
タースはもう一度馬車のほうを向く。小さな二人乗りの馬車。黒塗りの鉄製の車輪と車体を持つそれは、最新のバネが衝撃を抑え、かなり乗り心地のよいものに見えた。大きさの割りに手の込んだ、贅沢なつくりといえた。
御者台は黒い客車部分の前にあり、木で出来た座席部分の両脇を鉄の優雅な曲線の手すりで挟んだ格好になっている。
そこが、自分の場所になるんだ。

不思議な、感覚だった。

親方に初めて仕事を一つ任せてもらったときのような、高揚感。
誰かに必要とされるのは、悪くないとその時思った。

それが、例えシーガ相手でも。与えられたものに相当するだけの労力は提供するべきだと素直に考えてしまう、それはタースの性分だ。
やるべきことを果たさずして、シーガに食って掛かることは出来ない。今のところ、食べさせてもらっている立場だ。


「やっぱり似合いますの!」


気付くと襟元に黒い蝶ネクタイをつけられている。まるで、そう、ミキーにとっては楽しい着せ替え人形なのだ。
そうは思っても、ミキーがニコニコしているので、まあ、いいかと少年は照れる。


それを呆れて見つめながら、スレイドは小さくため息をついた。


「スレイドも一緒なのか?」
尋ねる少年に男はふふんと笑って見せた。
「笑えない冗談だねぇ。この二人とユルギア退治、どんな物好きだってお断りってもんさ!ああ、恐ろしい、恐ろしい」


スレイドは左腕で右のわき腹を押さえるようにしてかがむと、右手で左肩、右肩、最後に額と順に中指で触れる。
聖三角をかたどった祈りのポーズをして見せた。


「あ、ごめん、この間護符を破ったから?」
「ん?ああーこれかい?」


スレイドがポケットから赤い文字の細い紙を引っ張り出した。この間はひどく大切そうに扱っていたのに今日はやけにぞんざいだ。


「真似して書いてみたぜ!見てみろ、これ、五百で売れるよ、いい出来さ。ユルギアも真っ青てな」
「ぶ」
真剣に言うスレイドに、少年は笑顔になる。


背後から、コートを着た青年が現れた。
彼の周りだけ空気の温度が二度ほど低いように思える。
夏の日陰のように静まっている。黒い裾の長い上着を涼しげに着ているからだろう。

「いい副業を思いついたようですねスレイド。それなら、いつ解雇されても心配は要りませんね」
「ユルギア退治よりはましってもんです」
シーガとスレイドは軽く視線を交わす。冗談なのかなんなのか、この二人の間にはいつもこういった言葉が交わされる。
「退治ではありません、調査ですよ。さ、行きましょう、ミキー。雑種も、……ぷ」


少年の蝶ネクタイに気付いて変な顔をしたシーガに、ミキーは嬉しそうに近寄って、同じ顔をしてみせる。その仕草にタースが笑った。


まだ、分からない。
何が本当で、何を選ぶべきなのか。
それでも、今は付いていくしかない。


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「想うものの欠片」設定資料①

エノールトの世界:三つの大国①


ティエンザ王国:首都エンザ:ノトンドール二世


世界一の工業国を自負している。豊富な鉱脈と水を利用して、もともとの農業国家を工業国と変えようとしていた。
国の大半を占めるルードサス人種は大柄で身体能力に優れている。地方の街の半数に国の管理する鉱山があり、その資源を利用して、国家的に工業先進国を目指す。
古くから海賊、山賊が多い地域でもあり、どちらかというと野蛮な民族といわれている。
最近の近代工業の発展によって、自分たちを蔑むライトール公国の人々や帝国を、時代遅れとしてバカにする傾向がある。
帝国に対しては、過去は遠い聖なる都、とされていたため、その存在を脅威に思いつつも、新しい技術によって帝国を見下したい、というのが本音。


ライトール公国:首都ライト公領:リュエル三世

旧都市国家の集合体のため、地方意識が強く、未だに対立の深い都市もある。
中心にある公領と地方の24の都市。大まかに北部の北領、中央領、東領、海領(南)に大別される。海領と中央領との境にある公領が、首都。
古くから、学問や研究、芸術文化の栄えた土地柄。
ライトール人種が大半。
ティエンザ王国を田舎者ととらえる住民が八割を超える。
帝国については、古めかしい宗教の都と位置づけているが、逆に近年の観光ブームで「古都」として、人気があった。


 レスカリア帝国:帝都タシキモーニ:皇帝アルシャハシド

古い宗教の国、という印象の拭えない国。
世界一古くから統一されていて、その頂点にいる皇帝は謎に包まれている。
近年の工業技術の発展により、多くの他国の人間を向かえるが、その深部は明らかではない。
国民のほとんどが宗教に身をささげる人々で、彼らにとって皇帝は神に等しいものだった。
他の国が交渉したり会談したりする場にも、決して同席しない。
それでいて、各国の教会を押さえているために、他の国も手出しが出来ないという状況だ。
安寧の地、聖なる古都。

「想うものの欠片」第三話 ⑤




目立たないようにとの配慮か、タースには帽子が渡された。

紹介された白い馬は鼻をひくひくさせてタースを出迎えた。名をリロイといった。
ぶるると、歯をむき出して笑うようにして鼻面をタースに摺り寄せた。
初めて間近でみる馬は大きくて、ちょっと驚いたが、人懐こい馬でタースを安心させた。


そして何より少年を喜ばせたのは、馬にまたがって、今か今かと待っている初老の男性のユルギア。黒い服を着た小柄な人物だ。以前、この馬車を見かけたときには御者席に座っていた。多分普通の人には見えないのだろうが、彼が帽子を取って挨拶をしたので、タースもよろしくと笑った。


馬が連れて行ってくれる、そういうことだ。
その馬には、馬を愛するご主人のユルギアが乗っている。
タースは安心して、御者台に座った。


シーガが馬上のユルギアに何か小さく話したようで、タースの耳元をかすかな声がかすめ、振り向いたときには馬が走り出していた。


馬車は心地よい林の中を駆け抜け、タースはすっかり嬉しくなっていた。こんな気分で馬車に乗るなんて、思ってもみなかった。澄んだ空気。空は快晴で、風が心地よい。
昼前の日差しに、少し目を細め、少年は深く息を吸った。


道はいつの間にか石畳に変わっていた。
土がむき出しの道よりは埃が立たないので少しは楽だ。周りは小さな家が並ぶ村のようだ。馬車が珍しいのか、子供たちがこちらに笑って手を振っている。
思わず手を振り返そうとして、背後のシーガの視線を感じて、やめた。


小さな村だ。
石造りの平屋建ての小さな家が、同じような形で並んでいる。家並みがなくなると、あたりは一面麦畑だ。さわ、とまだ緑の穂がいっせいに風に揺れ、心地よい音に少年は目を細めた。のどかな風景。


小さな川にかかった橋に差し掛かる。橋からちょうど家一軒分低く作られた水車小屋があり、ぎしぎしと水車をゆっくり廻しながら、麦の粉を挽いている。水は澄んでいて、きらきらと日差しをきらめかせた。
道はだんだんと広くなる。


村を過ぎて、見かける家もまばらになったころ、左に見えていた林は深くなり、道がついにその中に入っていく。木漏れ日に身を晒しながら、タースは馬の背に揺れるそれを楽しそうに見つめた。
馬がしなやかな筋肉を動かすたびに、流れている木漏れ日もゆらりとする。
自分の手にも、足にも、暗い森を透かす頼りなく美しい光が注ぐ。


シデイラの教えは、硬いものではない。
こうした自然を楽しむ心。慈しむ心。愛する気持ち。自らを中心にではなく、世界のすべてが中心であり、その中に人が小さくたって居る。
この世の自然の営みに人は従い、悟り、成長する。


今の教会の教える唯一神の存在は、人のためでしかない。人のために神がいて、人は自らのために祈る。それとはまったく違う。
遠く、どこかの教会の鐘にタースは眉をひそめ、心地よい森の空気に浸っていた気分を揺り起こされた。


眠っていたのかもしれない。
いつの間にか、森はなくて、目の前には街が見えた。そこそこの規模らしい。すれ違う馬車、街角の人々。活気がある。


タースの座る御者台の背後には、身を乗り出せば肩くらいまでは出せそうな四角い窓があり、中が見える。窓には硝子がはまっている。引き戸になっているのだ。それがすっと開いた。
少年は気付かずに心地よさげに口笛を吹く。


「うるさいです」
突然の声にびくっとして、振り向くと、青年が小窓から手を伸ばし、タースの額に手を当てた。
「な、何?」
「……ミキー、薬を」
「何だよ!」


シーガの後ろで、心配そうにミキーも両手を胸の前で握り締めている。
「なんだよ、僕、別にどこも悪くないよ?すごくいい気分だ」
「タース、これ、飲むですの」
ミキーが小さな硝子のビンに入った飲み物をくれた。
「何の薬?」
くん、と匂いをかぐと、オレンジのような香りがした。喉が渇いていたので一気に飲んだ。
「ん、なんか酸っぱい」


「すみませんの、ミキーのお熱に効くんですの」
「え?」
少女はこくりと頷いた。
柑橘系の香りがしたその水は、直ぐに染み渡ってまた、飲みたくなる。内容なんかどうでもよくなった。
「ね、ミキー、もういっぱい、もらいたいな」
「はい」


嬉しそうに空き瓶を受け取って、少女は自分の席の脇にある荷物から新しいものを取り出そうとした。窓から差し込む日差しにミキーの髪がきらりと揺れる。
見とれる。


「タース、だめです。飲みすぎると腹を下します」
「え?」
シーガだった。
「足手まといは困ります」
読んでいたのだろう、小さな本を膝に置き、シーガは足を組んでちらりとタースを睨んだ。

タースは笑った。
「ありがとう」


青年は本当に驚いたように目を丸くして、少年を見つめた。

「なに?」
「……お前は、人を嫌うということをしないのですか」
目を丸くするのはタースの番だった。


「嫌われたいの?そりゃ、腹は立つし、あんたのこと好きじゃないけど。でも親切にされたら感謝するのが当然だろ」
シーガは表情をなくして、再び自分の座席に深く腰を据えた。

「なんだよ?気持ち悪いな、何かおかしいかな」
「いいえ、やはり雑種は理解できませんね。それとも熱で頭の中身がおかしくなったのか」
「熱?ないよ、別に、気分悪くないから!」


そういえば、スレイドも何か言っていた。
熱?


「はい、お薬ですの」
シーガの話を聞いていなかったのか、ミキーは新しいビンをタースに手渡した。
「え、ああ」
気分が悪いどころか、かいがいしく世話をしてくれるミキーを見ると嬉しくて仕方ないのに。
これから、一緒なのだ。
会いたくて図書館に通ったことを思えば、今の方が幸せに感じた。


セルパ親方のそばにいれば迷惑がかかることは必至、どうせ離れなければならないのであればこの状況は最良に思えた。選べる選択肢はないに等しかったけれど。
シーガの態度は気になるけれど、タースは現状に満足していた。


「飲まないですの?」
大きな夕日色の瞳に見つめられて、タースは我に返る。
手に持った飲み物をじっと見る。
よくないとシーガに言われたけれど、ひどく喉が渇いていた。
のどが鳴る。
「お前、気付いていないのですか?それに何か感じませんか?」
シーガに言われ、タースは手に持ったビンを見つめた。


「違いますよ!そのミキーの手です」
「あ?」
いつの間にか自分の腕にミキーの手がちょこんと乗っている。
柔らかな手。可愛らしく、長い袖から三本の指先だけが出ている。自然、頬が緩む。


「え?」


よくよく見ると、爪がない。
そっと、握ってみる。
「うふ?」
少女はにこりとした。
「え?」
手はふにゃりと柔らかい。滑らかな絹、中身は綿のようだ。


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