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『La croisade de l'ange 1:Reims』 ⑩

『Reims ‐ランス‐』

10

雨が本格的に降りだした時刻。
ロイは水車小屋の扉を開け、馬をそっと引き入れた。
馬の額の上ではクウ・クルがぷるぷると水をはじき、馬はそれに応えるようにぶるぶると鼻を鳴らした。
「シャルル、本当に来られるのかな」
濡れて気持ち悪い帽子をとると、少年はドレスの裾を引きずったまま、小さな木の椅子に座った。重たくなった裾をギュッと絞るとばたばたと水滴が床を濡らした。
修道院の門は村に親戚を尋ねて行くと話す子どもの前で、閉じられることはなかった。
シャルルが育った修道院。本当に、ここから出て行くつもりなんだろうか。
そんな風に思いながら、馬を走らせた。

濡れた体は冷えてきていた。また熱が出てきたのか、気だるくなる。
「ほんと、どうしようもないな、私の体は」自嘲気味にため息を吐き、ロイは小麦の麻袋を見つけると膝にかけて暖を取った。

どん、と。扉を開こうとする音。
ロイは慌てて扉に近づき、様子をうかがう。
暗い外は何も見えない。
シャルルかな。でも、違ったら。
不意にせき込む。
まるでロイの心を読んだように扉の外から声が。
「シャルル、シャルルだろ?俺だ、ロンダだ」
男の声だ。
「夕方アンが家に来たんだ、お前、修道院を飛び出したって、その、……悪かった。突然で。怒ってるんだろ?」

ロンダ?
確かシャルルが結婚させられるとか言っていた、相手の名だ。
ロイは胸を押さえながら、相手を見ようと木箱を扉の前に引きずってきた。丸いのぞき穴にはちらちらとランプの明かりが横切っている。そっと覗くと、若い男と目があった。
「!」
「シャルル?か?おい、開けろよ、お前こんなところに閉じこもってどうするんだよ」
「あの」
「…ほら、こんなところにいるから、お前風邪ひいたんだろ。声がおかしいぞ、悪いようにしないから」
ロンダの口調が優しさを帯びる。この男はシャルルを大切に思っている。
「シャルルを、助けてほしい」
「助けるさ、だから、……え?」

扉を押さえていた閂を外す。がた、と開けば、男の手が押し開く。
「シャルル!」
駆け込んだ男は、見間違えたのかロイを抱きしめた。
「あの、違う、私は」
「私、ってお前……あれ?」
「すまない、あの。シャルルの」
「お前、誰だ!なんでシャルルの服を着ている!」
今度は突き放し、怒鳴りつける青年の勢いに押されながら、ロイはよろめいて座り込んだ。
「あの、落ち着いて聞いてほしい。私はシャルルの好意でここに逃げ込んだ。彼女ももうすぐここに来るはずなんだ。ここで待ち合わせて、一緒にランスを出て……」と、そこまでいいかけて、ロイは言いなおす。
「いや、シャルルがここに来るはずなのに、遅いんだ。もしかしたらシャンパーニュ兵に捕まってしまったかもしれない」
「シ、シャンパーニュ兵だと?」
ロイが頷くと、ロンダは腕を組んだ。
「で、お前は誰だ。俺はロンダ。シャルルの許婚だ」
「あ…あの」
「お前はなぜ、シャルルの花嫁衣装を台無しにして、あいつに俺があげた剣を持ち、ここで待ち合わせしているんだ。お前はあいつとどういう関係なんだ」
ロイはシャルルが持たせてくれた短剣をまじまじと見つめた。
結婚なんかいやだと言っていたシャルル。

「私が、巻き込んでしまったんだ。私の名は、明かせないけれど。私のせいでシャルルに危険が及んだ、だから、助けてほしい。私は、私は力が足りなくて」
一緒に、逃げようと言ってくれた。
誰かのぬくもりを感じながら眠れたのは、初めてだった。
ロイはうつむいて、目の前に立っていたクウ・クルの頭をなでた。
「私は、約束したんだ。シャルルがここに会いに来る」
そう、シャルルと一緒に、逃げる。

ロンダは手を差し出した。
「返せよ、それ」
ロイは短剣を、大切なそれを抱きしめる。
「シャルルが」
「誰がお前なんかにやるかよ!」
飛びかかった男はロイを突き倒し、強引に短剣を奪い取る。
「出ていけ!お前はこんなとこにいる人間じゃないんだろ!貴族様が、俺たち平民を巻き込むな」
少年の腕を掴むと、強引に立ち上がらせ、忌々しそうにドレス姿を睨んだ。
「ほら、この町から、出ていけ」
「だめだ、シャルルが」
「俺が言っておいてやる。お前が約束を破って逃げ出したとね」
「だめだよ、放せ!」
戸口に取り付いた手を引きはがされ、ロイは小屋の外に突き飛ばされた。
耳をふさぐような雨の音。泥だらけの手を握り締め。ロイは顔に滴る水を濡れた袖で拭った。ロンダは馬も外に追い出し、戸口に立ちはだかる。
「ほら、さっさと出ていけ。なんだか知らんが、お前がいるからシャンパーニュ兵がこの町を囲んでいるんだろう!行かないならとっ捕まえて突き出すぞ」

一緒に、と。約束したのに。
一人残せば罰を受けるかもしれない。
「シャルルを、助けてやって、ください」
豪雨の音が少年の声を遮っていた。ロンダは早く行けよ、と腰に手を当て怒鳴るばかりだ。

馬の頭に乗るクウ・クルは、濡れるのが嫌なのかロイの肩に飛び乗ると襟元に隠れようとする。
「…ごめん」
誰に告げたのか。ロイはそっと白イタチを抱きとると、地面に下ろした。
小さくてもドレス姿でも。騎士としての意地がある。馬の手綱を持ち鐙に足をかけ、何とか馬にまたがると、ロイは毅然と前を向いた。
背後のロンダの視線を感じながら、背筋を伸ばし馬を走らせる。決して振り向きはしなかった。



風が強まる。
シャルルはぐったりとし、もう抵抗する気力も残っていないようだ。
男の前の小さな体に風と雨を受け馬に揺られている。
乱れたミモザ色の髪。ふとロトロアはシャルルの言葉を思い出す。
ジャンヌ・ド・フランドル伯の、血を引く。
真実ならば利用価値がある。有力な諸侯の子女を娶ることは、家の繁栄につながる。
それに。
少年の服を身につける華奢な肩は雨にぬれ、白く細い首は頼りなげに震えている。今はまだ子供だが将来の姿を想像すれば悪くない。
ふと手を伸ばし、細い首に触れる。
「!」振り返る顔は雨と涙でぐしゃぐしゃだが、大きな菫色の瞳は夜に深い色をたたえ睨みつけた。
「どこまでも、気丈な女だな」ロトロアは面白そうに笑う。



「ロンダ!」
少女は水車小屋の前に立つ人影に、ロトロアが想像もしなかった名を口にした。
前方にはあふれんばかりの水をたたえる河に張り付くように立つ水車小屋。暗がりに、丸い影がそれと知れる。ランプの明かりが一つ、軒にあり、十代後半くらいの青年が飛び出してきた。水車小屋の扉は開け放たれている。
「どけ」シャルルを馬上に残しすらりとロトロアは地に降りる。すぐ目の前の青年は農夫らしい日に焼けた腕で掴みかかる。その拳は鈍い音を立て騎士の籠手に弾かれた。
「シャルルを放せ!」
「ロンダ、どうしてここに」
手を伸ばす青年に抱きつくように飛び降りようとする、シャルルのそれは騎士のサーベルに阻まれた。
切っ先にロンダは一歩下がった。
「ロンダ、ロイは、ここに男の子がいなかった!?」
もう二歩下がった青年は、表情をこわばらせ、腰に差していたものを掲げた。
それは、あの蒼い短剣。
「それ、ロイに渡したんだ!ロンダ、ロイは?会ったの?どこに行ったんだよ!」
シャルルが必死であればあるほど、ロンダの心を堅くしていく。冷たくしていく。
「あいつはなんだ、シャルル。なんであいつがお前の剣を持っている、あのドレスを着ているんだ!あいつはなんなんだ!」
「ロイは、ロイは」助けてあげたい、大切、な。
言いかけて、シャルルは言葉に詰まる。
自分にとって彼が何か、そんなこと考えたことはなかった。
ただ、「助けてやりたいんだ、そばにいたい」
そう口に出すと、それの意味が改めて胸を締め付けた。雨に冷え切った頬に、温かい涙がこぼれた。

「本気なのか。あいつとこの町を出るって、本気なのか!なんでだ!どうして」
ロンダの真剣な問いはロトロアの笑い声が打ち消した。
「ふん、もてるじゃないか、シャルル。おい、お前。ここにいた子供をどうした。隠しているなら、差し出せ。このランスに仇なすものだ。かくまう必要などないだろう?」
「……取引だ。シャルルを放せ、そうすれば教えてやる」
ロンダの顔は青ざめていた。
「だめだよ!ロイを助けなきゃ、ロイはこの国の」言いかけて、シャルルは口をつぐんだ。ロトロアが振り返ったその表情に鬼気迫るものを感じとったからだ。
知らないほうがいいこともある、と。ロイの言葉がよみがえる。決して名を明かさなかったのは、シャルルを気遣ってのことだ。
ロンダは震える手で、短剣を抜いた。
「なんだ、あいつは何者だ!この国の?」
くす、と笑い、騎士がサーベルを持ち替えた。
「!だめだよ!やめろ!ロンロン!」
「この国の王子、だといったら?」
ロンダが目を丸くするのと、ロトロアが襲いかかるのと同時だった。

シャルルの悲鳴は何も救いはしなかった。

わああ。
叫ぶ声は、泣きつかれたせいなのか、かすれ。呼んでも叫んでも、雨の中倒れている青年は動かない。ロトロアの腕にとらわれたまま、シャルルはただ泣いていた。
いつの間にか馬は街のはずれへと向かっている。シャルルが出たことのない、このランスの外へ。
「ふん。街道には軍隊が待っている。子供一人、逃しはしないさ……なんだ?」
なんだって?
背中から響く男の声に、シャルルはうっすら目を開けた。
朝から走りまわり、泣き叫び、疲れ切ったシャルルは目の前の馬の頭に、白い生き物がしがみついているのをぼんやりと見つめていた。
ああ。

クウ・クル、だ。

お前、ロイをちゃんと助けてほしかったのに、馬鹿。




次に目を開けた時も、目の前に白いクウ・クルの尻尾が見えた。
白い、中に。
白いイタチ。
お前、そうやってみると白くない。

白い?
修道院ではない、よね。
体を起こした。眩しい日差し。
窓辺から涼しい風が入り込み、日よけの布がパタパタと揺れた。
見たことのない部屋。床には異国のものらしい見たことのない模様を編み込んだ絨毯。高い天井にはステンドグラスの天窓。丸いそれはまるで聖堂の薔薇窓を小さくしたようなきれいな模様が描かれている。
壁は白く、シャルルの寝ていたベッドも白い。天蓋のある小さなベッド。続き部屋のついた、そうだ、まるで貴族の住む部屋みたいな感じ。
夢だったのかな。
僕は、やっぱりフランドルの貴族様、孤児も修道院もランスも全部悪い夢で。
なんて、ありえないか。

ふと涙がこぼれていた。
アン、院長様、大司教、ロンダ。村の皆。それに、ロイ。
ごしごしと目をこすっていると、扉が開いた。

「起きたか」
ああ、と溜息が先にこぼれた。
「ロンロンか」
「御挨拶だな、顔を見るなり溜息かよ。熱を出して寝込んだお嬢様にこれほど尽くした俺に向かって」
「…馬鹿らしい」
軽妙な口をきいても、中身は恐ろしい騎士だ。ロンダに刃を向けた。
「ロイは?」
「ああ、嫌なこと言うなお前。結局行方知れずさ。あの体でパリに戻れたとも思えん―」
捕まっていない、逃げ延びたのか。
ロイ、無事だといい。生き延びてくれたら。
「―まあ、どこかでのたれ死んでくれたならそれでいいが」
「ひどいこと言うな!」
「お前の期待に応えたまでだ。俺のことをひどい男だと思っているだろう?こっちに来い」
騎士は持ってきたトレーの上のものをテーブルに並べた。
食事のようだ。
一体何時なのか、ここがどこなのか、分からないが。男の服装は清潔な白いシャツに絹の上着。ここが男にとってくつろげる場所なのだとわかる。武装しなくていいのだ。腰には。
そこまで観察して、シャルルは男の腰にある短剣をじっと見つめた。
「ああ、これか。お前のだろう。俺には似合わんし、返してやってもいい。ほら、まず食べろ。三日も、寝ていたんだぜ」
三日。

少しくらくらする頭を振って、シャルルは裸足で床に降り立つと男が座る正面に席を取った。
お腹は素直に食べたいと要求する。
仕方ないか、と小さくつぶやくと、シャルルはまずパンを手にした。スープに浸し、口に含むと勢いが増す。
「おいおい、野良猫みたいに食べるなよ」呆れて笑う男を無視して、シャルルはとにかく体が要求するままに食べた。
最後にオレンジのジュースを一気に飲み干して、一仕事終えた気分で満足げな吐息を洩らす。
「さて。シャルル。俺はお前に寝床と食事を用意してやった。お前は俺に何をしてくれる?」
「はあ?」
「生きるためには働かなくてはいけない、それは修道院でも同じだったな?」
「まあ、そうだよ」
「じゃあ、俺のために働け。お前に選択の余地はないぜ。ここに名前だ。ほら」
いつの間に広げていたのか、テーブルには羊皮紙が一枚。
「……僕が字を読めないと思って、ばかにしてるだろ」
「してない」と言いながら、にんまりと笑っている。
シャルルは口を尖らせた。
「嘘だ!だって、これ、僕がお前と臣従礼を結ぶっていう、その代わり僕はリタって村の封を受け取るって!」
封とは村民から受け取る租税のことだ。それを受けるとはつまり、村の領主のようなもの。
「読めるのか、さすがラエル修道院だ。孤児にも文字を教えるとはな。どうだ、悪くないと思うが?こんな小娘に生活に困らないだけの収入を与えようっていうんだ。リタの村は二十戸ほどの山間の農村でな、俺の所領の代官が管理する。お前に手間がかかることはない」
主従関係を結ぶ代わりに領地を分けてくれる、というのか。シャルルは目を細め契約書を睨みつけた。通常の臣従礼ならそうだろう。
だけど、相手が僕。そんなの変だ。
「子供を対等に見てくれるのは、まあ、嬉しいけど。でも、嫌だ。絶対、何か企んでるし、僕はあんたに仕えるのは嫌だ」
「じゃあ、殺す。ランスで行方不明になった少年の正体を知っている、お前を生かしておく理由は無い」
……。
「騎士、に。騎士にしてくれるなら。女扱いじゃなくて、僕を騎士にしてくれるなら」
ロイと話した騎士のことを思い出した。
貴族に騎士として雇われる、それが一番の近道。
「騎士?お前が?」
間がある。男は額にかかった黒髪をうるさそうにかき上げた。シャルルはロトロアが真剣に考えてくれていることに気付いた。
「……笑わないんだな」
「ふん。初めて会ったとき。憶えているか?修道院で俺からサーベルを奪って見せただろう?不意を突かれたとはいえ、お前の身のこなしには感心した。まあ、使えないこともないかもしれん」
「…あんたは、なんで僕を捕まえてさ、なんで、こんな遠い町まで連れてきたんだ?なんで臣従礼なんか結ばせようとするんだ?子供くらいしか部下になってくれないから?」
ぶ、と。口に運んでいたワインを噴き出して、ロトロアはむせる。
「お前、ひどいいい草だな」
口元をナプキンで拭う男を、じっと。シャルルはまっすぐ見上げている。
冗談ではなく、知りたいのだろう。ロトロアは目を細めた。

「そばに置きたい。今はそれだけだ」
「意味が分かんない」
「その内、俺の好みの女に成長するかもしれんし、そうでないかもしれん。ただ、今は逃したくない。それだけだ」
……。
「それ、告白?」
男はまた、ワインを噴き出した。
派手にせき込んで、ロトロアはため息をつく。
「下らん。いいか。シャルル、お前がフランドル伯の血縁であるなら、娶ることでわが家系に益をもたらす。だが、捨てられた理由もあるだろうし、それが真実でない場合もある。そんなどこの馬の骨ともしれん奴と結婚するつもりもないから、今は様子を見ておく。かといって奴隷にするわけにもいかない。それだけのことだ。だいたい、女のくせに騎士になりたいなんて奴に誰が惚れるか」

口をとがらせ、シャルルはなぜか熱い頬をぺたぺたと両手で叩いた。
なんだか、悔しい。
「さて。シャルル。お前の本名を教えろ」
「へ?」
「契約書のサインには普通本名をかくだろう」
「他にないよ」失った名は、誰も知らない。

「そんなはずはないだろう?シャルル、ってのは男名だ。いくらなんでも、女の赤ん坊を拾ったときに男名をつけることはしないだろう?」
「でも他に知らない」
「……じゃあ、シャルロットとかそんなか?ガキのお前が発音できないから、シャルルで覚えたんだろう?」
「馬鹿にするな!」
「それとも、本当に男か?脱いでみるか?」
「ば、馬鹿!!シャルルはシャルルだ!」
「書けるのか?」
「だから、馬鹿にするな!ほら、こう書くんだ。僕の名前はシャルル」
「シャルル・ド・リタ。ってことになるわけだ」にやりと笑い、男はシャルルの横にサインをする。
「あー!」
サインの入った契約書を男がひらひらと見せた。同時にリタ村の小さな領主シャルルの誕生、ということになる。もちろん名ばかりだが。


ロトロアは立ち上がり、上からシャルルを見下ろした。強引にシャルルの両手を両手で握り締める。臣従礼だ。
「汝、我が従者と認める」と。勝手に宣誓した。


ひどいとか、嘘つきとか。わめいても怒っても、ロトロアは面白そうに笑ってからかうばかり。最後には拗ねてベッドにうつぶせに寝転んだシャルルに、男はあの蒼い短剣を渡した。
「契約成立だ。お前は今から、俺、ロトロア・ド・ルジエのセネシャル(側近)だ」
ロトロア・ド・ルジエ。広大なシャンパーニュの北東部、ランスに近いラン伯領の一部、ルジェ地方を治める。その当主ロトロアにシャルルは雇われることになったのだ。


男が去ったのち、シャルルは再びベッドに寝転び、抱き上げたイタチの白い腹に一通り男の悪口を並べ立てた。
「ねえ、ロイは、無事だよね?」イタチが答えるはずもない。ただ、尻尾をぶんぶんとふり、早くおろしてと身をよじり始めた。
ふん、と抱きしめると。迷惑そうなそれに構わず、シャルルは天井を眺める。
いつか、会えるかもしれない。ロイ。
生きていて、本当にこの国の王子様だというなら。いつか。
一人前の騎士になって、僕はパリへ行く。
ロイに、会いに行く。

窓からの風が、なんの匂いなのかやっと思い当った。
海、だ。
海が近い。
起き上り、窓から外を眺める。
白い建物が、丘陵地に沿って並ぶ。朝かと思えばどうやら夕陽だった。街の真ん中を運河が流れ、そのオレンジに光る道筋の先、遠い地平線に海を見つけた。たぶん、海。
かすかな波の音。生まれて初めて海を見た。
シャルルはこの新しい街、「ブリュージュ」が一目で気に入った。


La croisade de l'ange Chapitre 1 :『Reimsランス』 了

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