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「宙の発明家」第一章②



その部屋には、ごちゃごちゃと、様々なものが散らかっていた。
四方の壁面を埋める棚には、金属の塊やら、木の切れ端、巻かれた針金のようなもの、色とりどりの液体の入ったビンや石の固まり、いろいろと詰め込まれている。部屋の真ん中の作業台には広げられた設計図、定規が散らかる。飲みかけのホットミルクが書類の下に隠れて冷たくなっている。作業台の上には配線図のような細かい記号やら文字やら書かれた紙が分厚く束になって、積まれている。
天井の全面から入る、柔らかい白い光が空中の埃とともにそれらを照らす。
背を向けて、木の椅子に座って、手元のデンワを見つめて黙り込む少年。
セキアは腕を組んで、少し笑った顔になって言った。
「クラフさま、ここでもできるじゃないですか」
「な、にができるって?」
険悪な空気が漂ってくる。
「クーちゃん、できたかえ?」
ほうけた声をかけて、扉を開けたのは、クラフよりもっと背の低い、禿げた老人だ。髪とは対照的に、白い立派なひげが、胸の辺りまである。黒い足首までの長い上着、黒いブーツ。まるでハンドパペットのように見える。歳の割りにぴょこぴょことすばやく歩く。杖もない。
「丁度いい時に!じじい、コレ持って外出てみて」
クラフは顔をほころばせ立ち上がると、セキアの持つデンワを引っつかんだ。
「クラフさま!教皇様にじじい呼ばわりはやめなさいと、いつも言っているでしょう!」
「うるさいな、役立たず!」
力をこめるセキアからひったくるようにデンワを取る。
「まあまあ、セキア。クーちゃんは特別じゃ。どれ、貸してみなされ。楽しみじゃ」
ニコニコ笑う教皇に、セキアは黙って一礼する。表情は険しいが。
「クーちゃんっての止めろよな!」
デンワを渡しながらクラフは教皇をにらみつけた。
「あなたが言えた義理ですか!」
セキアの怒鳴り声も無視して、クラフは教皇に舌を出してみせる。笑うその顔は整って美しく、教皇は嬉しそうに笑った。
「どれ、行ってこようかの!クーちゃん、わしがワシじゃ、と言ったらアイシテルじゃぞ」
「ふざけんな!じじい!」
ほほほ、と変な笑い声を残して、老人はちょこちょこと部屋を出た。
「まったく、教皇様はクラフさまに甘くていかん」
ぶつぶつ言いながら傍らに立つセキアを無視して、クラフは再び椅子に座るとデンワのスイッチを入れた。

「そろそろいいかな」



大教皇は、クラフのいる皇宮の離れを出たところだ。日差しがきらりと、禿げた頭に反射する。
離れの建物には名前もなく、近づくものもいない。地上一階、地下一階の小さなものだ。
クラフのために建てたといっていい。白い大理石で統一され、真上から見ると長方形をしたそれは回廊で囲まれている。無数の円柱がアーチを支え、シンプルな彫刻を施してある。回廊といっても、それは、クラフが夜間、散歩するためだけにあり、建物の正面の入り口をのぞいて、建物内に入る場所はない。もちろん窓は一つもない。
平らな屋根を支えるため、内部はたくさんの壁で区切られている。外見のシンプルさとは裏腹に、まるで迷路のように。そこを通らなければクラフのいる部屋には行けない。それは、クラフの意思ではなく、国の政の代表である賢老士会(けんろうしかい)の決定だった。
身分上はそれよりも上にあたるが、彼らの決定を覆す理由も、自由もない己の立場に、大教皇はフンと鼻をならした。
屋根には、クラフが作った太陽光を吸収するだとか言う黒光りするプレートが敷き詰められ、それが室内の明かりになるという。そのためか彼の住まいは常に他の建物より気温が低い。
年間の最高気温が10度前後というこの国にあって、彼の住まいだけが、8度前後と低めになっている。ただでさえ日の光を浴びない生活をしているのに、だからいつまでも色白で、やせているのだと、大教皇は思う。
本人が外に出たいと願っても、かなえられることではないが。

「お父様、何してるの?」
通りかかった少女が声をかける。離れは丁度、皇宮の本宮の脇にある。正門から入ってごく普通に目に入る位置にあった。緑の苔が一面に生える庭は、特に造りこんだわけではなく、この国では当たり前の光景だ。手を入れない土地は自然と苔が生える。
二列の円柱に導かれる本宮までの歩道から、細身の美しい少女が駆け寄ってきた。
「おお、リスガ。クーちゃんの新しい発明じゃ。デンワといってな、離れた人と話ができるんじゃ」
「へえ!面白そう」
嬉しげにリスガも持っていた学校の荷物を肩にかけると、父親の手に収まるそれを覗き込んだ。少女の二つに縛った亜麻色の髪がゆれ、ピンクの頬がまぶしいくらいだ。可愛いわが子に目を細め、教皇は手に持つ銀色の機械を見せてやる。
少し伸びた豆の形のそれは、持ち上げると先端から、ぴんとしたトゲのようなアンテナを伸ばした。中間のへこんだところがぼんやりと黄色に光る。
「お」
「わあ、光った!」少女も目を輝かせる。
大教皇はデンワを耳に当てる。
『じじい、聞こえるか?』
「わしじゃ!」
『…』
「あれ、おかしいのう、アイシテルが返ってこん」
「お父様、そんなだからじじいって呼ばれるんです…」
少女があきれる。老人はデンワを振ったり、日にかざしてみたりした。
「こちらの声が届いていないのよ、きっと」
リスガは、デンワを受け取ると、上にしたり下にしたり、飛び出たアンテナをつついたりしてみる。
「んー?失敗かのう?」
デンワは日差しを受けると、アンテナが光った。
「あ、光った!」
大人気なく娘からデンワを取り上げると、大教皇はもう一度話しかける。
「くーちゃん、アイシテルはどうしたのじゃ!?」
『じじい、聞こえるぞ!成功だ』
「アイシテルは?」
『…』
リスガは笑い出した。
「お父様、その質問だけは通じないんだわ」
リスガは黒い瞳を丸くして、視線を離れの入り口に移すと、嬉しそうに微笑んだ。西風がふわりとリスガの髪を揺らした。
「さすがクーちゃんじゃ!コレはわしがもらうぞ。リスガにも一個作ってくれ」
父親と目を合わせ、嬉しそうに少女が微笑む。
『分かったよ、じじい。ありがと』


クラフは左拳をぎゅっと握って、小さくガッツポーズをした。
「やった!」
クラフがデンワを開発したのは、リスガといつでも話をするためだ。そのことは、誰にももちろん、リスガ本人にも話していない。少年がたくらんだ結果だ。
ふふふ、と笑うクラフに、セキアが背後から睨みつける。
「何喜んでるんです?」
「いいだろ、ほっとけ」
「私には作っていただけないのですか?」
「…いつもそこにいるのに、デンワいらないだろ。ばかだな」
冷たく言い放ち、クラフはまた、何かを考え込む。彼はリスガのために、ピンク色に光る可愛らしいデンワを想像している。
椅子に座ると、机に向かい、白い紙に配線図をさらさらと描き始める。
整った顔でにやにやする少年に、セキアは眉をひそめる。
「なんだか、顔いやらしいですよ」
すぐ後ろに立ってのぞきこむ男にびくっとして、クラフは立ち上がった。
「近づきすぎ!お前、いつもいつも、いつも!煩いんだよ!もう、十年だぞ!毎日毎日、二十四時間、飽きないか?なあ、いい加減飽きろよ!」
「飽きません。貴方はろくなことしませんから。ちょっと目を離せば抜け出そうとしますし、リスガ様と見れば寄っていこうとなさいますし。本当に退屈しません」
こういうことを言い出すときは大抵、変なことを考えているのだと、セキアは承知している。挑発などには乗らない。
「オレはお前に飽きたぞ!よし、じじいに言って変えてもらう。他の人がいい」
何かろくでもないことを思いついたときの、悪戯っぽい笑みを浮かべ、クラフは人差し指を鼻にちょんと当てる。癖なのだ。
十代半ば、と思われる彼の表情や仕草は、時折、四、五歳くらいの子どものようになる。
「無理です」
無表情なセキア。だいたい、こんなわがままな人に付き合って世話できるのは、私くらいしかいない。見上げる薄茶色の少年の瞳を見つめ返しながら、セキアは思う。
「そんなこと、ないもんね!」
クラフは上着の短めのスタンドカラーを外し、フックをいくつか取った。へそのすぐ上くらいまで外すと、にやりと男を見上げる。
「なんです?着替えるならここじゃないでしょう?」セキアは腰に手を当てて、じろりと睨む。
「じじい!助けて!きゃー!セキアがおかしくなった!!」
デンワに向かって叫びながら、男に抱きついた。
「!なんです!それ!離しなさい!」
「きゃー、いやー」
笑いながら悲鳴を真似る少年。ほんとうに、ろくでもない!
「いい加減にしなさい!」
セキアはがつ、と一発。しがみつく少年の額に拳を見舞った。
「うぎゃ」
倒れ掛かって、クラフはセキアのシャツをつかんだ。
引かれて、セキアもよろける。
「ったく、本当にろくなことしませんね!何のために発明したんですか!悪戯のためですか?」
「いてーなぁ」
クラフは床に座り込んで、軽く頭を振った。
「何に使ったって、オレの自由だ。うるさいぞ」
「取り上げますよ?大体、クラフさまがお話しするのは、大教皇様とリスガ様、後は私だけでしょう!何の必要があるって言うんですか!どうせ、リスガ様とお話したいだけなんじゃないですか?」
「いやだっ!」座り込んだまま、クラフはセキアの脛をける。
「!クラフさま!!」
思わず脛を押さえてセキアは座り込んだ。
じろりとにらむと、少年は憎たらしく舌を出している。
「この!」
「どうしたの!」
扉が開いて、少女が駆け込んできた。
デンワを取り上げようとしていたセキアは、ふりむいた。
「あ」
少女は固まった。真ん丸くした大きな黒い瞳には驚きと同時に恥ずかしさがうかがえた。
頬を赤くすると、一瞬両手で顔を覆った。
クラフの上着はすっかりはだけて、二人はまるっきり抱き合っているように見える。
クラフは起き上がろうとして、目の前のセキアの肩に鼻をぶつけた。
「あた、りー!これ、ちが…」
クラフが言い終わらないうちに、リスガは身を翻して駆けていってしまった。

「リスガぁ!なんで、じじいじゃないんだよ!」
「誤解された、みたいですよ。大好きなリスガ様に」
セキアが意地悪に笑みを浮かべる。服を直してやる。
面白そうに見つめる男をクラフは押しのけようとする。
「どけって、リスガ追わなきゃ…」
「だめです。あなたをここから出すわけには……?」
床に膝をついて、起き上がろうとして、少年は息を詰まらせた。
胸を押さえてうずくまる。
「!クラフさま!」
セキアの表情が変わる。
「ごめ、…いつもの」
男は小さくなって震える少年の肩をゆすった。

呼吸が苦しいのか、息をするたびにぜいぜいと苦しそうだ。少年はぎゅっと目をつぶる。
蒼白になって、震えているクラフに、セキアは懐の薬を取り出した。
小さな白いボトルに入った、とろりとした液体を、手のひらに二滴程だすと、クラフに舐めさせる。
薬草から取り出して、煮詰めた液体だ。今のところ、それで何とか収まるらしい。
何の発作か、何がいけないのか。ここの医学では分からなかった。

クラフは、ぐったりとセキアの膝に体を預け、弱弱しく息を吐き出した。
まだ、少し手が震えた。
「なんじゃ、何があったんじゃ?リスガが血相を変えて飛び出していった…クーちゃん!」
「教皇様、大丈夫です、いつもの発作です」
穏やかにセキアが言った。
はあ、と息をついて、教皇は床にしゃがんで少年の様子を見る。迷路を一通り走りぬけたためか、息が上がっている。

「頻繁になってきているな」
教皇がポツリと、先ほどまでとは別人のように真剣な表情でつぶやいた。
「そうですね」
セキアも、低い声で答えた。
「クーちゃん、今日は終わりじゃ、休め」
教皇は明るくそう声をかけると、クラフの肩をそっとたたいた。
「寝室に運びます」
セキアがそういうと、クラフは目を閉じたまま、小さく頷いた。

 続きはこちらです!さ、読んで読んで(^^)
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-184.html
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脳内願望人さん

ありがとうだなんて、こちらが言わなきゃです!読んでくれてありがとう!

クラフくん、わがままで描いていて楽しいですよ!上手いだなんて…そんな(どきどき)まだまだ、気を抜くと適当なものになってしまうので…がんばります!

どうも!
クラフ君可愛いですね(笑) 毒舌もここまで行くと怒る範囲を超えますね!
最後の病気の様な症状がとても興味深かったです!
らんららさんの小説はとっても上手なので勉強になりますっ。ありがとーございましたー!

chachaさん

ありがとうー!!
楽しい人たちです!
しばらくこの乗りで、楽しんでいただけると嬉しい(^^)
あんまり派手な事件とか、起こらないので…
「アイシテル」…遠い言葉になっちゃったなぁ(笑)
らんららも誰かに言われたい!!
(同居人はあまり言わない…ー。ー;)

こんにちわ!

くーちゃんかぁ^^ふふふ
私も「アイシテル」って言って欲しかったなぁ!
でもクラフは絶対言いそうにないけど(笑)
リスガ、完全に勘違いですね(笑)
その光景が思い浮かんできて、思わず笑ってしまいました^^
登場人物みんな、大好きだなぁ☆

それにしても、発作か・・・
頻繁になってるって、心配です;;
これからまたどんな展開になるんだろう!?
ドキドキです^^でわまた!ポチッ☆

ホーリ先生

ありがとうございます!
というか、なんて時間ですか!?
大丈夫ですか?これからお休み?
長いお話ですので、のんびり読んでください(^^)
おやすみなさい。

読んでて、何だかとてもワクワクます。。。
いいなぁ~。凄く夢があるお話で。
らんららさんの才能をもの凄く感じます。

教皇のキャラクターがとても好きです。
あの透明のケースに入っていた赤ちゃんがクラフなのかな?
お話の続きが楽しみです。でも、もう眠くなったから、また明日読ませて貰いますぅ。

eigoさん

良かったぁ(*^o^*)
心配していたんですよ!
嬉しいです(^_^)v
また、らんららも遊びに行きますねー!

お久しぶりです!!
ちょっと具合が悪くて中々ネットが出来ませんでした(泣)
でも、最近は具合が良さそうなので又通わせていただきます!!
又、宜しくお願いします!!

今回のお話も興味津々です!!
この先どうお話が展開していくんだろう。
ふむふむ。

又、来させていただきます!!
今日はこの辺でぽちっと!!

ひろさん

ありがとうございます!
クラフ君、これからもわがままさせます!
わがままな主人公って、書いていてとってもすっきりするから不思議。こういう性格になってみたい、こんなこと、言っちゃってみたい!という内なる願望の現われかな?
楽しんでいただきたいです!
更新、がんばりますよ!

クーちゃん、ラブ♪

すごいな~!らんららさん。
当初に比べ、成長著しい!!
文章力もめきめきと上達しているし、世界観がしっかりしていて、安心して読めます。
そして、主人公、クラフが良い!!!
第一話目から、天才でわがままな彼に釘付けです。
更新を楽しみにしています!!
これから、どんな事件が起きてくるのかわくわく、ドキドキです。

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コメントありがとーー(>▽<)

花さん

教皇様、人気です!
らんらら的にはうれしい予想外!
セキアがまじめ君だから、バランスよく、と思って(^^;)
たまに、間違えて更新するかも。コメントうれしいから、つい、「次のも読んで、次のも」って、更新したくなっちゃうんだなぁv-398

kazuさん

セキアさんに「様」つきで呼んでくれるのはkazuさんだけです!v-407
彼も喜びますよ、きっと(^^)
クラフ君のらぶは、どうなるかは秘密。秘密。
楽しみにしてくださいねー!!

あきららさん
ありがとう!!
キュートだなんて、どきどきしちゃった!
自称天才の割には可愛いとこ満載の彼です。応援してやってください!飛行船…って、単語、使わなかったつもりなんだけど。気づいてくれました?
さすがです!

くーちゃん☆

間違い大歓迎(^^)
2話分夢中で読ませてもらいました☆

悪ガキ、小生意気、でもめちゃくちゃキュートな
クーちゃんに、教皇様じゃなくても、アイシテル
を言わせたいです☆☆

デンワ、飛行船、ノスタルジックな雰囲気もあきららのツボです☆毎週楽しみに待ってます(^^)

こんばんは♪
おぉ、来週分が!嬉しいハプニングですね♪
セキア様、やっぱりいぃv-413
kazu、らぶ視線をびっちりおくらせていただきます♪
クラフ君は、本当に飽きないですね。
セキアさんとの掛け合いも面白いけれど、教皇様がいい感じ☆
リスガちゃんとのらぶ、楽しみにしてます♪

しっかり気付いて読ませてもらいましたよ☆
っていうか、教皇様…。好きだなぁ、あのキャラ。たまらなく。
悪ガキクラフ君も、リスガちゃんにはヘロヘロなんdねすね。策士、策に溺れる…くくっw
来週まで待てないですよぉ!教皇様を我に!(笑

あ~(☆o☆)アポロちゃん

ら、来週分、間違えて公開しちゃった!キャー!
バカね(^o^;)そこにすかさずコメントくれるアポロちゃん、大好き(^_^)v
ええ、このまま、にします。続きは来週です!

アイシテル

ってちょっと期待してしまったww
いいです。いいですよクラフ!!
読んでいて楽しいです♪なんというか憎めないほど憎たらしいwwww
なんども「アイシテル」期待していた教皇様もすっごく好き☆とりあえず電話成功してよかった☆
おめでとう!!!
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らんらら

Author:らんらら
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