08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「宙の発明家」第一章 二.世界の果て①



二・世界の果て



この世界を治める身分制度には、聖職者と政治家、二つの柱がある。
聖職者は大教皇を頂点とし、その下に七つの街の聖堂を代表する大司教の司教会。以下、ピラミッド状の身分制度がある。一方政治家は、頂点には一人ではなく、七つの街の代表、賢老士と呼ばれる政治家が開く、賢老士会という議会制をとっている。
司教会も賢老士会も親密で、この宙の地はとても平和だ。
大教皇は、クラフのために賢老士会に掛け合って、賢老士会は二人の使者を派遣することで了承した。
実際、クラフがたった五日の小旅行をする程度のことで、いちいち呼び出されてはたまらないというところだ。

クラフたちは、彼らの住む那迦(なか)の街を、日が暮れてから密かに出発した。
初めのうちは、久しぶりの外出と夜の街の景色になんだかんだと興奮していた少年も、数時間かけて隣の街、迩史(にし)の街に入るころ、ただ揺られているのに飽きてきていた。
大きなあくびをして、クラフは背後の男に声をかけた。
「セキア、眠い」そういって、セキアにぐんともたれかかる。
「昼間きちんと寝ておかないからいけないんです」
「嬉しくってさぁ」
大きなラマの背に、二人で揺られながら、手綱を持つセキアはクラフの頭を軽く叩いた。
「いて」
「子供ですか、あなたは!それに、眠ってもいいですが、みっともないです。皆さん我慢していますよ」
見回す。二人で乗っているのはクラフだけだった。横に一頭、後ろに二頭それぞれ一人で騎乗している。目をこすりながら隣を進むリスガと目が合った。
少女は月明かりにいつもよりさらに色白に見える。この世界の人は皆、少しだけ褐色の強い肌をしている。東洋人、でもないけれど白人とも違う。典型的な白い肌のクラフと比べれば、リスガも少しだけ濃い色の肌だ。
寒さをしのぐ緋色のマントを羽織って、くりくりした亜麻色の髪を二つに分けて縛っている。それがラマにあわせて揺れる。顔を縁取るフードのふち飾りが、ふわふわと少女を余計に柔らかな印象に見せる。小さな鼻、小さな口。ちょっと丸い頬に大きな丸い瞳。
十七歳。あどけなさと大人っぽさが混在する危うさが、月明りで強調され見るものをどきりとさせる。少し笑いを浮かべて見つめる少女に、クラフは慌てて姿勢を正した。
「あのさ、リスガ!オレ、リスガと一緒に乗りたい!」



ガツ。
後頭部の衝撃に、頭を抱えながら、さらに言い募る。
「な、セキアと交代しろよ。オレ後ろに乗るから、お前は、前でさ!」
少し小柄なラマの首をなでて、少女が笑った。
「セキアさん、あんまり締めたら死んじゃうわ」
「んぎゅ…」
ばたばたと暴れる少年の口元を、後ろから回した腕で締め付けながら、セキアは笑う。
「大丈夫です、慣れていますから。ご無礼、申し訳ありません、リスガさま。なにぶん、他に女性を知りませんので、やたらと…」
ばちん。
少女に叩かれたのは、セキアの頬だ。驚いて声も出ないでいる。
「失礼よ、それ!」
「リスガさま?」
クラフが声を殺して笑う。
「私しか知らないから、って。まるでクラフは女の子なら誰でもいいみたいじゃない!私のこと、本当ならクラフがかまうような女の子じゃないって思っているんでしょ!ひどいわ!クラフだって選んでいるわ」
「うん、強くて可愛くて乱暴で早口で、ちょっと考えすぎなとこ、すげー好み」
リスガのほうに手を伸ばそうとして、ぱちんとはたかれ、クラフはまた笑う。
「いて。セキアの女の子の理想像は、可愛すぎるよ、だからまだ、独身なんだ!」
「ほんと、かっこいいし強いのに。ねえ?今年、三十五歳だったかしら?」
リスガも頷く。
「お二人とも、かなり失礼です」
拗ねるようにそっぽを向くセキア。
くくく、と笑って、後ろをついてきていた白いラマに乗る少年が笑った。年はリスガと同じ十七歳、賢老士の子息だ。さらりとした亜麻色の髪、涼しげな緑の瞳と、整った顔立ち、代々賢老士を輩出する家系に生まれた彼は気品すら感じる。
「セキア、お前ほんと失礼だよ。リスガは可愛いからね、クラフだって惚れるよ」
「だめだめ、カカナ、セキアはクラフ一筋なんだ。この間だって、お父様の勧めた縁談、断ったんだよ。すごく綺麗な女性だったのに」
カカナと呼ばれた少年の横で、ぶち模様のラマに乗るもう一人の少年ピーシが笑った。細身の彼はカカナと同じ年で、やはり賢老士の子供だ。黙っていれば気弱な感じの彼は、話せば時折、トゲのある言葉を使う。クラフに紹介した時、ニコニコして握手したカカナとは対照的にうっすら笑って見せただけだった。
賢老士は世襲制ではないが、その権力は一族に及ぶ。セキアからすれば、二人とも上の身分になる。
「ピーシ、本当それ?」
リスガの問いに、少年は少し伸ばした黒髪をかきあげた。
「お父様はセキアが我が町の出身なので、気にかけておいでなんだ。いずれ、今の職を解いて下に置きたいと考えていらっしゃる。僕にはよく分からないけれど、クラフのわがままに付き合えるほどの忍耐力を買われたのではないかな」
にやりと笑う。
心の中でなにやら毒づいているのか、クラフは顔をしかめた。最初の握手の時から嫌な奴とクラフは考えている。振り向いて、セキアと目が合った。
「ぷ」
セキアが同じことを、考えているのが分かった。
「クラフさま、何がおかしいのですか」こほ、と咳払いする。
「だめだよ、ピーシ、セキアは有能だからね、オレのそばにいるんだ、ずっと」
にま、と笑って見せた。
「やーだ、やっぱり変な関係だわ」
リスガがつんとして見せた。この間から妙な誤解をしているようだ。セキアが弁解する。
「リスガ様、私にとって、クラフさまはその、子供みたいなもので」
「子供?何だよそれ!」クラフはぷんと怒る。

うはは、と後ろの二人が笑う。
「それは、そうだね、確か二十違うんだよね。なかなかぴったりだと思うよ、そう思わないか?リスガ」
と、亜麻色の髪のカカナがお腹を押さえた。
「親子じゃ、引き離すわけには行かないなぁ。お父様にもそう伝えておくよ、残念だったな、折角のいい話なのに」
カカナの肩に手を置いて、ピーシも笑う。
「いやあね、すぐからかうんだから」
男の子たちにあきれながら、少女は一人ラマを早める。
ぺし。
何かがリスガの視界を横切って飛び、ピーシの額に張り付いた。
「うわ!なんだ!?見えないぞ!」
片目を手のひら程の葉っぱのようなものにふさがれて、少年は慌てる。
「危ないなっ!」
もう一つ飛んできたそれをカカナはさっとよけた。それた葉っぱは、カカナの白いマントにぺたりと張り付いた。
「うわ、汚れた!」
綺麗好きのカカナは、葉を引き剥がそうとする。少し肉厚の緑の葉なのに、その裏にはべっとりとした粘着性のものが塗られている。
「クラフさま!何をなさるんですか」
「うるさい!お前ら、勝手についてきてるくせに偉そうなんだよ!どっか行けよ!」
ピーシはイタイイタイ、といいながら、引き剥がそうと悪戦苦闘している。
「オレ様発明の「ぺたっ葉(ぺたっぱ)」!いいだろ、かなり強力だぜ!無理にはがすと眉毛なくなるぞ、ピーシ!とってほしかったら、大人しくしろよな!バカにしやがって、セキアは年上だぞ、お前ら少しはうぐ……」
また、後ろから締め付けられて、クラフはもがいた。
「貴方だって、決して誉められた態度じゃないでしょう、いつも」
「そうだよ、クラフ、どうしてくれるんだよ!僕の服が汚れてしまったじゃないか!」
セキアが背後のカカナを睨みつけた。
「あなた方お二人もです!子供をからかうからそういう目にあうのですよ!」
怒鳴り声に押されて、静まる。
夜の山道は虫の声が少し聞こえる。
「こ、子供じゃないぞ!オレは!」
セキアの腕をやっと引き剥がして、クラフが怒鳴った。
「…子供でしょう」
「なんで。こいつらと変わんないだろ!」
「十五歳のあなたより二つ年上です、三人とも」
「あれ?違うだろ!オレだって十七歳だ!」
「くすくす」
リスガが横で笑った。クラフに初めて会ったとき、本人が言ったのだ。僕、十歳だ、と。当時リスガは十二歳だった。それから五年。どう、考えても十五歳だろう。
「な、リスガ、オレの方が年上なんだからな!」
「やーだ」
かわいらしい顔でにっこり言われて、クラフは口を尖らせる。
「やあだ、って…」
「ほら、クラフさま、もうすぐ迩史の街を抜けます。気を引き締めてください。街の外は何がいるかわかりませんから!」
セキアがクラフの肩を軽く叩いた。
彼の示す先には、迩史の街を囲っている城壁の西の門が見える。
夜間は閉ざされているが、今日は特別な計らいで、巨大な門の横にある、通用門の鍵が渡されていた。
「あーあ、街、昼間見たかったなぁ!市場とか、あるんだろ?生きた鶏とか売ってるんだろ?見てみたかったな」
クラフは頬を膨らめてふてくされる。
「仕方ありません。あきらめてください」
「お前だけいつもずるい」
「私はクラフさまじゃありませんから」
「ずるいずるい、ずるい!」
駄々っ子のように足をばたばたさせるので、ラマが迷惑そうに後ろを向く。
「こら、止めなさい!」
「うぎゃー」
また締め付けられて、暴れる。
「本当に、仲良しね」
あきれたようにリスガが二人を見つめる。
その隣でカカナがくすくすと笑った。
「それより、クラフ、早くコレ取れよ!」
ピーシはまだ、ぺたっ葉と格闘していた。背後のピーシに気付いて、クラフが舌を出す。
「やあだね!」


街を囲む城壁。
二階建ての建物くらいの高さのそれを、通用門から抜けた。
門の重い鉄の扉が、ぎしぎしといやな音を響かせた。締まる音がまた、ぞくりとさせる。
ふわりと、冷たい風が横に吹き抜ける。夜は冷え込む。
暗い、真っ暗な景色。
月明かりだけが、街道の石畳を冷たく光らせる。
ラマがぶるっと一瞬震える。
「見ろセキアが脅すから、ママもおびえちゃったじゃないか」
「まま?」
「そ、でかいラマだからママ」
「ちょっと、意味がわかりませんが」
「そう決めたんだ!うるさいこと言うな」
そう背後をにらむと、クラフはラマの首に抱きついた。
「うひゃ、温かい」目をつぶる。
「ああ、甘えたいんですね」
冷たい言葉を返すセキアに、かかとで蹴りを入れる。
「こうしていると落ち着くんだ、ママが。セキア、リスガたち初めてなんだろ、夜」
クラフの言葉に、セキアは改めて回りの三頭を見回した。
夜道を歩いたことのあるラマはいない。人間がそうしないからだ。
この世界の宗教では、夜、外に出ることはあってはならない。
言い伝えがある。
夜の闇には、恐ろしいものが潜むと。それは、人間を喰らい、魂を飲み込んでしまう。そう、子どもの頃から、言い聞かせられてきている。
彼らにとって、夜は恐ろしいのだ。
街から出れば、建物も見えない闇の平原が広がる。風も強く感じる。
リスガは口をぎゅっと閉じて、こわばった表情だ。風にラマの手綱がぺたと音を立てたことにびくりとする。
背後のカカナは、白いマントをぎゅっと胸元で手繰り寄せている。ピーシも、厳しい表情で道の先を見つめている。
セキアはふと息を吐いて、微笑んだ。
「ありがとうございます、クラフさま。いつの間にか、笑う余裕もなくなっていましたね」
こくんと一つ頷いて、クラフは懐から、何か取り出した。
丸い小さな玉。
暗がりの中、背後のセキアからはクラフが手元でなにをしているのかわからない。
「クラフさま?」
不意に振り向いて、クラフが手に持った何かを投げた。背後に向かってだ。
暗闇に、消えたそれは、地面に落ちるとパン!と派手な音を立てた。
「!」
「きゃあ!」
音と同時に、地面から噴水のような炎が一メートルほどの高さまで吹き上がる。
「うわあ!」
ラマたちは、背後に現れた炎の塊に驚いて走り始めた。
「うーん、なかなか」
一人感心しているクラフは、ママの首にすがったまま背後の花火を見つめている。花火はシューと音を立て、火薬くさい煙を白く漂わせる。時折赤い光や緑の光を放ちながら、美しい金色の火花で夜の闇を照らしている。
満足そうだ。
「な、何をしたんですか!!」
興奮しているラマを無理に抑えようとしても逆効果、四頭の気が落ち着くまで走らせるしかない。
「え?試したかっただけ。花火って言うんだよ、きれいだろ?街中じゃ出来ないからさぁ」
意味もなく疾走するラマに、振り落とされないようしがみ付くリスガが、怒鳴った。
「なに!何でそんなことするの!」
「だから、実験」
「クラフさま!だから、何で今なんですか!」
「ひどいぞ!お前!」ピーシは、片目をぺたっ葉にふさがれたまま怒鳴る。
ラマも人も必死だ。
暗い街道を、走り続ける。もう、花火は遠く小さくなって、ほとんど見えない。
不意に、消えた。
クラフはそれを見届けると、再び前を向いた。
「うわー速い、速い!!」
クラフは笑う。風を切って進むのが気持ちいいのか、満面の笑みで、夜の空気を吸い込む。
「いい加減に、しなさいっ!」
ゴツンと、セキアの拳で殴られて、クラフは痛みにしばらく黙り込む。
「三人とも、大丈夫ですか?」
セキアが、先頭を切っていたママの手綱を上手く操って、速度を落とすと、ようやく、ほかの三頭も落ち着きだした。
「ええ、何とか」
リスガは乱れた髪を整えて、脱げてしまったふわふわのフードを再びかぶった。
「ハナビっていうのは、驚いたけれど、きれいだったよ。クラフ。でも、後ろじゃちゃんと見られないし、タイミングってものがあるだろ?」
カカナがあきれたように言う。
「何だよ、皆、変に緊張してたからさ、びっくりさせようと思ったのに」
けらけらと、クラフはまた、笑う。
「…クラフさま。だから、言葉がおかしいです、いえ、理屈がおかしいです。緊張は驚きではほぐれませんよ!」
「そう?」
ぷ、くくく。
笑い出したのは、カカナだった。
「いや、でも、面白かったよ。ちょっと怖かったけどね。本当に、いろいろ作るんだね!」
「笑えないわよ、カカナ」
リスガは、ため息をつく。
「そうです、僕は未だにこれ、貼り付けたままなんですから!」
ピーシを見て、さらに笑い出したカカナに、リスガもつい微笑む。
「ほら、あの辺り、礼拝堂だろ、あれ。早くついたのはオレ様のおかげだ!」
ニコニコ笑う少年に、セキアは数回目のため息を吐き出した。
「本当に、しょうがない人ですね」

月明かりに小さく見えていた礼拝堂も近づくにつれ、周囲の木々に隠されてしまった。森に入ってからは礼拝堂の姿を見ることが出来ず、花火の効果も空しく、皆黙り込んだ。
真の闇に沈むそこを、小さな灯り一つで進むのは、不安を掻き立てる。
街道はラマが二頭、並べる程度の広さで続き、めったに人が通らないのだろう、折れた枝や葉が積もり、嫌がるラマを歩かせるのに四人は集中していた。
ただ一人、クラフだけはセキアの腰につけた水筒に手を伸ばして、くつろいでいる。
時折、森の奥から聞こえる、葉のこすれる音、枝を踏みしめる音。何かが羽ばたく音。一つ音がするたびに、ピーシはきょろきょろ見回し、カカナは手綱を握り締める。
「な、リスガ一緒に乗ろうよ、心細いだろ?」
のどを潤して、クラフはニコニコ笑う。
リスガは思いついた。
「あ、いいわねそれ!」
「やった!セキア止めて止めて!」
クラフがセキアの持つ手綱を奪い取ろうとする。
「はいはい、いいのですか?リスガ様、クラフさまはラマを操れませんよ?」
ラマが止まると、クラフが半分落ちそうになりながら、何とか滑り降りた。
「はいっ、交代ね」
リスガはさっと自分のラマから降りると、目を丸くしているクラフを尻目に、セキアの前に乗り込んだ。
「ぷ」
カカナがふきだす。案外笑い上戸なのかもしれない。
「え?なんで?リスガ、俺と一緒じゃないの?」
リスガの足元にすがるクラフに、少女はにっこりと笑って見せた。
「嫌よ、頼りにならないもの。クラフ男の子なんだから、一人で乗って」
「えー!!やだ!」
「クラフ、怖いんだろ!」
ピーシにバカにされたように言われて、クラフはムッとする。
「やだよ、なあ、セキア」
クラフがセキアの手綱を持つ手に手をかける。
セキアは、厳しい表情で辺りを見回していたが、クラフの肩に手をのばして言った。
「クラフさま、とにかく、ラマに乗ってください。何か、来ます」
「え?」
クラフが辺りを見回した。クラフの乗っていたママのクビから長い竿に釣られる灯りは、クラフの足元までしか照らしていない。
ふいに、クラフの背後のラマが鼻を鳴らした。
「え?」
ざわと、木々が風にあおられる。
「早く!」
クラフは慌てて、小さいラマによじ登った。
その瞬間、何かが街道を横切るようにラマの足元を駆け抜けた。
黒い影。
小さい生き物のようだ。
驚いたラマは慌てて走り出す。
「うわ!」
まだ上半身を乗せただけのクラフはラマの背にしがみついた。そのままラマは茂みに突っ込んでいく。
「クラフさま!」
セキアが慌てて後を追おうとしたとき、また、草むらから別の生き物が飛び出してきた。
それは、一瞬ママの前を横切る。同じ黒い影がもう一つ、背後のカカナのラマの足元に掠めるように横切った。
「わ!」
驚いたラマが鼻を鳴らして足踏みした。
「森の獣です!気をつけて!」
セキアが声を上げる。
一旦横切って消えた草むらから、また、今度はゆっくりと二頭の四足の獣が姿を現した。
ひくく、ぐるぐるとうなり声を上げてけん制する。
鋭く尖った牙、犬に似た大きな口から、赤い舌を覗かせるそれは、ふさふさした尾をゆっくりと左右に揺らしながら、こちらを見る。大きさはそれほどではない。大きな犬くらいだろうか。
「何、これ?」
リスガが怯えた声を出した。
その瞬間、近づいてきた一頭がうめいて横たわった。
「え?」
銀色の小さなナイフが獣の額を割っていた。
リスガは背後を振り返る。
セキアはもう一つ、ナイフを既に構えていたが、後ろでカカナが一頭しとめたのを確認すると、穏やかに笑った。
「カカナ様、クラフさまを追います」
「ああ」
薄明かりの中でカカナはニコニコと愛想のいい笑顔を浮かべていた。
「さすがだね、カカナ。敵に回したくないな」ピーシが苦笑いする。
「お二人はここでお待ちください。動かないで下さい」
セキアはそう言うと、クラフの乗ったラマが消えた方角にママを走らせた。
森の中、道もないそこを進むのは、ラマにも困難だ。唯一、クラフの乗ったラマが踏み折った草や低木の跡だけが道しるべになる。
「クラフさま!」
セキアの声に驚いたのか、どこかで何かが羽ばたく。
顔にかかる木の枝に、リスガはママの頚にしがみつくように姿勢を低くしていた。
「やだ、こんなの。だから、いやだってお父様に言ったのに!」
「すみません、リスガ様がいらっしゃるとクラフさまが喜ぶので」
「迷惑よ」
苦笑いしながら、セキアはもう一度声をかける。
「クラフさま!どこですか?」
ぼっと、少し離れた草むらで、明るい光が光った。
花火のようだ。
「あそこ!」
リスガの声に、セキアの操る大型のラマはその場所に近づいていく。


「なあ!立てってば!」
クラフは冷たい地面に膝をついて、目の前にいるラマの背中を揺らした。
木々と低木に囲まれて、周りは何も見えない。頭上の月だけが、一頭と一人を照らす。目が月明かりに慣れてくると、大体の様子がわかってくるが、灯りもない森の中に入り込んでいる、ただそれだけだ。どうしようもなかった。クラフの着ていた黒いマントを踏んだまま、ラマはどっしりと重い尻を下ろしていた。
やっと、何とかマントを脱いで、クラフは自由に動けるようになったところだ。
「こんなとこで、どうするんだよ、寝るのか?なあ?だめだよ!」
怯えて座り込んだラマは、もう何をどうしても、動いてくれない。もともと夜は眠る動物だ。
クラフが目いっぱい手綱を引いても、ふんとうるさそうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
小さな獣が、草むらから出てきた。ラマは気にならないのか既に眠る体勢に入ろうとしていた。ラマの傍らで座り込んでいた少年は、黒い獣、先ほど一番最初に突っ込んできた、それに、じっと目を凝らす。月明かりにシルエットしか見えない生き物は特徴のある動きをした。
大きな後ろ足でぴょん、と飛んだ。クラフが抱きかかえることが出来そうな大きさのそれは、遠巻きにラマとクラフを眺めながら、立ち止まっては後ろ足で立つ。長い耳を、ひくひくさせた。
「なんだ、ウサギだ」
ほっとして、クラフはラマの頚にすがった。温かい。
ウサギを追っていた牙を持つ獣のことはクラフは知らない。
「いいなぁウサギ、飼いたいな」
ラマの背にもたれながら、そんなことを考えている。じっと、ウサギを観察する。
何か餌を与えてみようか。
クラフは、自分の腰に結んだ袋を探る。
出てくるのは花火とぺたっ葉。ろうそくや、小さなマッチ。
「ちぇ、おいでおいで」
クラフは小さくささやいて、ウサギに手を伸ばそうとする。
ウサギは頚をかしげた。
「へへ、かわいいな」
小さな独り言にも、ウサギの耳がぴくぴく動く。
急に動いていた二つの耳がぴっと揃えられた。
「クラフさま」
遠くでセキアの声がした。
「あ、ばか…」
ウサギが警戒して、前足を下ろすと茂みの向こうにぴょんぴょんと逃げ出した。
「!待って」
クラフはウサギを捕まえようと茂みに飛び込んだ。
空振り。
慌てたウサギは、なぜか茂みから飛び出して反対方向に駆けて行った。
「なんだよ、残念」
座り込んだクラフは、顔にあたる草を払いのけた。
がぶ。
「ガブ?」
暖かい鼻息を頬に感じて、クラフが振り向くと肩にのしかかるように獣が張り付いていた。
ずきりと肩に痛みが走る。
「うわ!!」
立ち上がるとその獣は噛み付いた肩を離すまいと前足をばたばたさせたが、クラフの拳で頭を殴られて、キャンと喚くと地面に降りた。
「いて…」
獣はまた、クラフに飛び掛ろうと、うなり声を上げて近づいてくる。クラフは後ずさりしながら、ラマの座るところに戻る。ラマは迷惑そうに立ち上がって鼻を鳴らした。
「オオカミ、かな、でもちょっと小さい」
クラフは、腰の袋を探る。花火、マッチ。
火をつけた。
そいつに投げつけた。
ぎゃん、と鳴いて、獣は茂みの奥に消えていった。
クラフの目の前で、花火が美しくシューシューと赤い火花を吐き出していた。痛む腕を押さえて、息をつく。
下草を掻き分ける音に気付いて振り向くと背後のラマの姿がない。
「あ、しまった」
ラマの向かっただろう方角を見つめると、花火の灯りの中、大きなラマが姿を現した。傍らに、少しまだ興奮している小さいラマ。その手綱はセキアに握られていた。
「クラフさま!」
セキアだった。

花火の灯りに駆けつけたセキアは、クラフの腕に包帯を巻いた。
その間もクラフはぷんぷん拗ねていた。
「申し訳ございません、クラフさま」
再びセキアの前に座るクラフは、まだ口を利かない。

それは再び街道沿いに進み始めても変わらなかった。だまって、おとなしくしている。それは、普段のクラフを知っているセキアやリスガには、少し気味が悪い。
「やあね、クラフ、助けてもらったんだから」
「そうだよ、セキアが来なかったら獣に食べられていたかもしれないよ」
「それよりも、さあ。僕のこのぺたっ葉、いつ取ってくれるんですか」
「似合ってるわよ、ピーシ」
「ははは、本当だ」
にぎやかな三人を無視して、クラフはまた、セキアにぐんと寄りかかる。
「…痛みますか?痛み止めの薬草を貼ったのですが…効きませんか?」
「ウサギ」
「え?なにか?」
「ウサギ、捕まえ損ねた」
「あ、はあ?」
「可愛かったのに」
セキアはクラフの頭にフードをかぶせた。
「うるさいぞ」
ふふ、とセキアが笑った。フードを取ろうとするクラフに、逆らって頭を押さえつける。
「セキア!」
「そうですねぇ、ペットもいいですね。クラフさま、淋しがりですから」
「セキア!」


 続きはこちらです!(^^)
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-188.html

関連記事
スポンサーサイト

theme : ライトノベル
genre : 小説・文学

chachaさん

ありがとーv-345
ピーシ君、いい子ですよ!
クラフ君も、子供でバカで天才で。楽しい奴です!
一日一話。わかるなぁ、その気持ち!そう言うの、楽しみですよね!ってことで、らんららも明日のコメ、楽しみにしちゃいますよ!!v-354

うんうん^^

いいですね~楽しいっ!本当に!(笑)
クラフは本当にワガママボーイだと思ってたけど
この無邪気っぷりを見続けてたら、どんどん憎めない存在になってきました^^ふふふ。
私、意外とピーシがツボですが(笑)
クラフ!もっとピーシを苛めてやって!

次も楽しみだけど・・・
一日一個で^^
また明日きます☆ポチッ!

アポロちゃん

不定期なやつなのに、コメントありがとー!

ふふふ、クラフ君わがままいっぱいですから!
いけないこと…想像だけなら自由ですv-10
じゃあ、リスガとクラフとか、カカナとリスガとか。いっぱい想像したくなるように、書きまくりますよー!!

すご~!!(゜▽゜人

花火までつくっちゃうんですか!!?
それを何も言わないでいきなり実験しちゃうクラフくんばんざい☆いよいよ小旅行が始まったのですね。ぴったりな花火ありがとう^^
セキアとクラフのやりとりも いけないこと想像してしまいそうで 楽しいです^^

ユミさん

ありがとー!
今回は、とにかく楽しいお話で行きます!
クラフくん、いろいろな一面を持っていますよ!
でもこれ、現実にいたら、らんらら、セキアさんみたいに殴り倒しています、きっと(^^)

楽しい~

まるで自分も一緒に旅をしているような気分になりました♪
時々目を瞑って、想像しながら読んでます。
わたしもクラフくんにLoveですよ☆
周りにこんな人いないかな~なんて!!
Bon Voyage!!

kazuさん一番乗りです!

いえね、不定期で突然更新なので、誰が一番かなぁなんて、思っていて。
やっぱりkazuさんでした!嬉しいです。ありがとう!
クラフ君、わがままなのに彼なりに優しかったり、頭いいくせに五歳児並みだったり。不安定なやつです。
気に入ってくれて嬉しいですよ!セキアさんが惚れる(?)のもわかるでしょ?(自賛か?)
二人を温かく見守ってあげてくださいね!

いや~ん、クラフ君格好いいv-10
「うん、強くて可愛くて乱暴で早口で、ちょっと考えすぎなとこ、すげー好み」
この一文で、クラフ君にころっと堕ちました。
「好き」、じゃなくて「すげー好み」。
この言葉に男らしさと子供っぽさと、あぁっ、もうとにかくいい!
セキア様は、やっぱり落ち着いていて好きv-343
言葉はぶっきらぼうだけど、皆の事を思って行動するクラフ君。楽しいたびが続きますように!
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。