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「宙の発明家」第一章 二.世界の果て⑤



セキアとラマに乗り込む。日よけのフードを目深にかぶったクラフの表情は見えない。
「僕も行くよ」
ピーシが自分のラマの手綱を解く。
「もちろん、私たちもね」
リスガがそういい、カカナと同じラマに乗っても、クラフは何も言わなかった。
ただ、セキアの前でじっとしていた。



木陰をすり抜ける陽光。そわとなでる風にも、クラフは意識が届かない。ただ、目前に見える城壁を、地に這う蛇のようなそれを、じっと見詰めている。
「クラフさま、十年ぶりの昼間の光ですよ、嬉しくはないですか」
「…うるさい」
セキアが背後から肩に手を置くので、クラフはその手をぱちりと叩く。
「可愛くないですね…」
「うるさい!」

そんなやり取りを、三人も後ろから黙ってみていた。
リスガが背後のカカナを見て、カカナもその視線に答える。
ピーシは軽くため息をつく。
皆、クラフの気持ちは分かっている。人質という立場で閉じ込められて、幸せなはずはない。けれど、元の世界に返してやる方法はない。そして、この世界にいる限り、クラフの存在は隠されなくてはならない。
「…やだな、泣くのかな」
ポツリとリスガがつぶやく。
「かも、ね」
カカナも、静かに答えた。

近づくにつれ、城壁はその高さを実感させた。
五メートルほどだろうか。
その下で、セキアはラマを止めた。
「さ、着きました」
クラフが降りるのを手伝う。クラフは黙って、地に足をつけると、壁に近寄る。
苔むした、灰色の石を積み上げて出来ている。そこから見上げても、空の半分が壁に塞がれて見えるだけだ。
「ここから、昇れますよ」
セキアは、城壁にたれている、さびた鎖を指差した。
「通常、この上に上る人などいないのです。ですから、階段もありません。登れますか?」
クラフは黙って頷いた。
「では、私が先に登ります。私が合図したら気をつけて登って来て下さいね」
そういうなり、セキアは鎖を数回引いて強度を確かめると、登り始める。
見る見るうちに、城壁の上にたどり着くと、すとんと向こうに立った。手首に結んでいた、クラフとつながっているロープを肘に巻き取って、合図だろう手を上げた。
クラフは、後ろから支えるカカナに手伝ってもらって、ずるずると登り始めた。
セキアがそれにあわせて、ロープを手繰り寄せ、命綱のつもりだろう、いつクラフが滑ってもいいように、しっかりと持っている。
夢中で、登った。
その向こうにあるもの。
海だろうか、谷だろうか、もしかしたらどこかの街が見えるかもしれない。オレの生まれた街じゃなくてもいい、この世界のどこかに、きっとつながっている。
それを見るために。

城壁の上、少し崩れかけたレンガに左手をかけると、セキアが右手を掴んで引っ張りあげてくれた。
ふわりと、冷たい風が頬をなで、かぶっていた黒いフードが流れる。
青い空に日の光を受け、少年の金色の髪はきらきらと煌いた。
下で見ていた三人は、目を細めた。
「本当に金色なんだな」
「日の光で見ると綺麗ね」


クラフは、黙って、膝を落とした。
城壁は幅が二メートルほどある。その、先には。
空だった。
空しかなかった。
何処までも、蒼く遠い空。城壁の外側を、のぞき見ても。
壁の基礎部分には少しだけ岩の部分があるが、崖のように見えるその下は、空だった。
何もない。
まるで、空の中に、浮いている島のように。
下には何の景色もなかった。
果て、そう感じると同時に、目が熱くなる。息苦しくなる。
当然、あると思った自分のいた世界。
なぜ、ないのか。


「夜は、虚無を思わせるほど、暗いのでしょうね」
セキアが静かに言った。
「人は死ぬと、この果ての向こう、無に還ります。そのように、神の教えで語られています。私たちには、クラフさま。あなたを元の世界に帰してあげることは、したくても出来ないのですよ…!」
ふいにクラフが向こう側に落ちた。

「!クラフさま!」
ぐん、とロープがしなり、よろけたセキアはつんのめって、城壁の一番端にかろうじて留まる。
重みがあるということは、まだ、下に落ちてしまってはいない。
セキアは城壁の先に突き出しているレンガに足をかけ、何とか下を覗き込む。
クラフは、宙でぶら下がったまま、ぐったりとしていた。
ロープに支えられた衝撃で城壁にぶつかったのかもしれない。どこか、怪我をしたのかも。
「クラフさま!」
「大丈夫!?セキア!」
背後から登ってきたカカナが声をかけた。
「あれ!?クラフは?」
「下に、すみません、引き上げるのを」
セキアの持つロープはきりと張って、果ての向こうに続く。足場が悪いのだろう、苦戦している。
最後まで聞かずとも、カカナは察してセキアの腕に巻かれたロープを手繰り寄せると、思い切り引っ張る。
本人に上る意思がないのか、城壁にずるずると擦り付けられても、じっとしていた。
マントの襟元をつかんで、やっとのことで引き上げる。
ぐったりとして、冷たいレンガに手足を投げ出したまま、クラフは泣いていた。
何も言わずに、泣いていた。
「お怪我は、…」
クラフの腕を取ろうとして、セキアはためらう。
無言の涙は、触れて欲しくないと拒絶していた。


カカナの後から登ってきたピーシも、それを見て、何も言わずに腰を下ろした。
クラフの横たわる背後にピーシが。正面にセキア、そして、カカナが。黙って座っていた。

偏西風が彼らの髪をなびかせる。耳元を通り過ぎる。
しばらく誰も、言葉を発しなかった。

「キャ!」
彼らの背後の城壁から、小さな悲鳴が聞こえて、カカナが慌てて鎖の先をのぞいた。一人残っていた少女が、鎖のさび色に手を染めて、よじ登っていた。
「リスガ、危ないよ、下で待っていればよかったのに」
「いやよ、私だけ…」
息を切らせながら、カカナの手を引いてもらって、少女はレンガに膝をついた。
「いやあね、クラフってば。泣いてるの?」
その言葉にピーシはぎょっとしたが、セキアは苦笑した。
クラフは顔を真っ赤にして飛び起きると、ごしごしと涙を拭いた。

「ふふ、ほら、いっぱいついてるよ」
リスガが、白いハンカチを差し出し、クラフはテレながらも、泥のついた顔を拭いた。
「うわー!綺麗ね!朝焼けも綺麗だったけど、この青と言ったら!吸い込まれちゃいそうに、きれい」
リスガの言葉につられて、クラフもそちらを眺めた。
空。
雲はない。
空の中に、この世界があった。
その青は、目にしみた。

「満足、した?」
しばらくして、リスガがいう。
「初めて、クラフに会ったとき、言ってたよね。いつか、帰るって」
クラフはじっと傍らに立つ少女を見詰めた。
大人びた少女の緑の瞳はまっすぐ果てに向けられている。遠い世界を想像しているかのように見える。
「果ての先には、何もないかもしれない。でも、行ってみなきゃ分からないじゃない。ここからは見えないけれど、見えないからって、もう、あきらめるの?」
クラフは大きく首を横に振った。
リスガに初めて出逢ったのは、クラフが自殺未遂を計った後だった。大教皇が心配したのだろう。話し相手にと、自分の娘を選んだ。
あのときから、クラフにとって大切な女の子だった。あの頃は十二歳くらいだったか、大人びた口調の美しい少女は、この世界でいう聖職者だ。幼いころから、そのように学んでいた。
あきらめることはない、と。あの時も、そう言ってくれた。

普段は、少しわがままで乱暴なのに、本当のことを話すときは、とても澄んだ綺麗な表情をしていて、それがクラフは好きだった。

「リスガ、可愛い」
思わずこぼれた言葉に、リスガはクラフの背中に平手打ちで答える。
「いやあね!」
「!いて、危ない!落ちるよ!」
あははは、可愛い顔に似合わず豪快に笑うリスガを、ピーシは目を丸くしてみていた。
「いい子だよね」
ポツリとカカナがつぶやいた時には、クラフとリスガが競って下に降りようとし始めたので、セキアもピーシも気付いていなかった。

礼拝堂に戻ると、さすがに眠くなったのか、クラフはぐっすりと置物のように眠り込んだ。
日が傾き、本来の活動時間が迫ると、セキアはそっと、外に出る。
礼拝堂の外壁に作られた、小さなかまどで火を焚くと、夕食、いや朝食というべきか、干し肉をあぶり、パンを切る。
この旅で、数回繰り返されているこの作業も、手馴れたものだった。パンに乗せたチーズが溶けて、香ばしい香りを漂わせる頃、一人目が起きてくる。
「おはよう」
こちらもいつもどおり、カカナが一番に起きてきた。
「おはようございます。そろそろ、皆さんを起こしていただけますか」
「それなんだけど。折角、ここまで来たんだから、もう一日、ここに留まらないか?クラフも、なんだかもう一度、城壁に登りたいって言っているんだ。何か気になるものがあったみたいで」
「気になるもの?」
「そ、ご飯食べたらカカナといってくる」
カカナの背後からクラフが顔をのぞかせた。
金髪に夕日の赤が煌く。
「あの」
「なんだよ、セキアも一緒でなきゃ、淋しいのか?」
にやりと笑うクラフに、男はあきれて笑った。
「いいえ。あなたこそ、私がいなくても大丈夫ですか?」
「ばか!平気だぞ!」
「くくく。分かりました、もともと予定では、今夜、城壁に向かうつもりでしたからね。どうぞ、いってらっしゃい。くれぐれも危険なことだけはしないでくださいね」
「よおし!カカナ、行こう!」
クラフは焼けたばかりのパンと干し肉をさっと手に取り、重ねて折ると、カカナに渡す。
「え?何コレ」
「何って、こうやって食べながら行くんだ!ほら、行くぞ!」
自分の分も即席のサンドウィッチを作ると、口にくわえ、チーズの熱さにハウハウ言いながらラマにまたがる。
「変なの…ふうん」
カカナも手に持ったそれをじっと見詰めながら、ラマに乗り込んだ。


「ね、いいの?二人だけで行かせちゃって。クラフ、逃げたりしないかな」
リスガだった。
「もう、大丈夫でしょう。今、ここで何をしても、帰れないと分かっていますから。クラフさまは賢いですから。無駄なことはしません。……カカナさまはクラフさまの研究に興味がおありなんですね」
「ええ。ちょっと、不自然なくらい」
そう言った少女を、セキアは見つめた。
目があった。
「そう、思うでしょ?セキアも」
「…そうですね。彼の父上が、からんでいないといいのですが」
カカナの父親、賢老士の一人、ブール候は野心家だ。聖職者のような穏やかな人物だが、その政策は冷酷かつ的確で七人の賢老士の中で最も権力を有している。だからこそ、聖職者からも他の賢老士からも警戒されている。
「リスガさま、とにかく、もう少し様子を見ましょう」
「そう、ね」
まだ十七歳の少女ではあるが、リスガはすでに聖職者としての立場を理解していた。大教皇である父親が面倒を見ている間は、クラフの発明するさまざまなものも益をもたらす面白いおもちゃでありえるが、賢老士たちのような政治家に利用されては、この世界が乱れる原因になりかねない。
それを、リスガも理解していた。
「あんなに、懐いちゃっているのに」
ポツリとリスガがため息をついた。その様子をセキアは目を細めて見つめる。
「そうそう、自由にはさせませんよ」
背後で言ったのは、ピーシだった。
「!ピーシ様」
「あなた方、聖職者にご迷惑をおかけすることは避けたいことです。我らと聖職の方々とは不可侵であるべきですので。なかなか、理解されにくいですが。僕の父上は常々、そうおっしゃっています」
「ピーシ」
リスガは背の高い少年を見上げた。
ピーシの父親は、カカナの父親とは政敵と言っていいくらい仲が悪いことで有名だ。同じ那迦の街の学校にいた頃からのライバルで、常にピーシの父親が次席に甘んじてきたことからも、ピーシが常々どういうことを聞かされて育っているのか、容易に想像できた。
細い目をさらに細めて、ピーシは黒髪をかき上げた。
この少年も、やはり賢老士の血を受け継いでいるのだと、セキアは感じずにはいられなかった。

 続きはこちらです!(^^)
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-193.html
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楓さん

いいとこ、ついてます!
カカナとピーシ。これから、がんばりますよ!
まだまだ、十七歳。子供ですもん。(楓さんがもっと年上だと勝手に決め付けている発言です。ごめんなさい)
自分の生き方とか、決めていくって、どうやるんだろうって。そう言うときの子供も、親も。どんなことを考えているんだろうって。不安定だからこそ魅力的な時期ですよね!
うまく描けたらと思ってます!
お仕事、遅くまで、大変です!
らんらら、あと一日しかないのに、机の上に伝票山積み。
いいんです。これ、処理すると、課長の机に伝票山積みになるんだから。らんららのところで、止めておいてあげます!(太っ腹です)
明日は仕事納めです。あと一日。がんばりますよ!!

今日は仕事に追われてここまで~><

こんばんわー☆
今日は2話しか読み進められませんでしたぁ。残念。
まだ仕事してまふのでねぇ。悲しいですがコメをば(笑
カカナ・・・やっぱ何か隠してるような。
そう思って読んでいるとやっぱし!・・・てまだ誰も確信しているわけではないんでしょうけど。せっかく心許せる同年代の友達ができたと思ったのに・・・クラフ君、裏切られちゃうんでしょうか?それとも本当にカカナはいいヤツで・・・そうあって欲しい!!ああ!気になる(笑
ピーシとカカナ・・・親の言うことを真に受けず、その目で、その心でクラフ君を見つめ、自分の進むべき道を見つけるんだぞ!などとえらそうなことを言ってみる(笑

ユミさん

ありがとー!
これから事件は起こります(?)
楽しみにしていてくださいね!

一気読み

しました!!
しかも、紙にプリントアウトしちゃいました(笑)
ためておこーっと。

楽しいんだけど、何か起こりそうな雰囲気。
ちょっと心がざわっとしました。

コメントありがとう!

kazuさん
すみません、どたどたと更新していて。しかも、文字化けしていたでしょ?携帯から確認してびっくり!!
原因が分かるまで三十分を要しました!
読みにくかったですね、ごめんなさい!
ピーシ君、リスガちゃん、どうでしょう、今後…(疑問か?)。
カカナ君は、まあ、そんなに悪いやつでもないかも?
基本的に、勧善懲悪は苦手なので、悪でも理由あり、見たいにするかも?いえ、決して。悪じゃないです。
多分…
どちらにしろ、くーちゃんは可愛いです。信頼できます。
安心してみていてください!(朝だと頭寝ているかも^^;へんなコメ返し、ごめん)

花さん

ふふ、きらいな状況、多分この子達も同じだと。
特に親の影響を受けずにはいられないこの年代は、親は大きらいとか、なるよね。その辺、うまく表現して見せますぜ!今回の隠れテーマ、早くもかぎつけられてしまいそうです(さすが! ^^)




おっと、やっぱり何か裏がありそうですね、カカナ君。
旅の序盤から何かにつけて対立…というか、カカナ君の言動を非難していたピーシ君、なるほど、そこも親の事情でしたか。
親の問題を子に引き継がすのは、花の最も嫌いな社会なのですが…仕方ないでしょうね。誰しも、立場というものがありますし。
楽しい旅の帰り道、クーちゃんが楽しいままでいられますように。

続きだ♪
クラフ君の無邪気さが、なんだか好きだけど利用されないでね・・・と心配になってしまいます。
初めての友達で、自分に興味を持ってくれて、そして一緒に楽しんでくれる。
リスガさんをとられ気味なのは少し悔しいけれど、それを補ってあまるくらいの楽しさをくれる。
でも、なんだか政治が絡んできそうですね、

ピーシ君の印象が急浮上中です♪
セキア様とリスガさんも、やっぱり凄いです。
クラフ君との旅を楽しんでるように見えて、実はいろいろと考えている。
この先の展開が気になりますよぉ~v-291
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