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「宙の発明家」第一章三.信じることと甘えること①

<<らんららです!クラフ君の生活に新しい友達が加わりました!人と人は出会うことで、互いに変化を迎えるものですよね。彼らとの出会いが、クラフ君を変えるのでしょうか…>>


三.信じることと甘えること

ずっと、行ってみたかった。セキアの言うこの世の果て。
そんなの信じていなかった。世界に果てなんかない。

そして、果てはあった。
そこですべてが終わり。
この国は小さな島のように、ただここしかないのだ。他に国と呼べるものはないから、名乗る必要もないこの国。いや、正確に言うと国という概念もない。この社会に、クラフは勝手に名前をつけた。
宙、そらと。


「クラフさま、そろそろお昼ですが」
背後に立つ黒髪の男をまったく無視して、クラフは一心に蝋を削っていた。
蜂の蜜蝋から作ったそれは、少しべたつくが十分な強度がある。それを先ほどから、小さなのみでさらさらと器用に削る。蜂蜜色のそれから、ちらちらと舞う白いかけらを、時折ふっと吹いて払う。
円盤を六等分したような扇形のそれには、円周部分に歯車のように小さなぎざぎざがついている。中心部分と真ん中には何かを接合するための穴。作業台の上には、すでに出来上がったのだろう、筒状の小さなもの、輪の形をした部品、丸く小さい手鏡のような形のものが二つ。そのほかにもいくつもの部品が、蝋のつるりとした光沢を放っている。

「なんです?それ」
セキアが筒状のものをつまんで持ち上げると、中は穴が空いている。向こうが見える感じだ。ちょうど、セキアの手に収まりそうなそれをひっくり返したりまた、覗き込んだりしている向こうで、少年が、睨んだ。
「触るな、歪む」
「はあ」
セキアの手からそれを取り上げると、クラフは木で出来た細かい仕切りのある箱に、一つずつしまった。
「これ、鍛冶屋のじいじにこの配合で、この時間で焼いてくれって、頼んで」
「これ、全部ですか」
「ん。オレ、直接見たいけど、だめだろ?」
「はい」
「じいじに、削りだしするの嫌だから、出来るだけ正確にってさ」
「はあ?あの、これを渡せばわかるんですか」
「うん。これ、ロウでできた模型なんだ。これをさ、鋳型にするんだよ。砂にこれを埋め込んで、そこに溶かした金属を流す。ロウが溶けて、この形の金属が出来るんだ」
「あの鍛冶屋にそんな技術があるんですか?」
「鋳造くらい出来るさ」
「ちゅうぞう、ですか」
「あー、おなかすいた!いくぞセキア」
そういって、クラフはそっと箱に布をかぶせて、立ち上がった。
「そうですね、今日は鳥を焼きましたよ」
「また?」
「お好きでしょう?」
「魚よりましってだけだよ」
「ひどいですね」
「リスガのパイ、食べたいー」
「わがままは止めてください」
そんな会話をしながら、研究室を後にする。一階の部屋に向かう。階段を上りかけて、セキアがふと、背後のクラフを止めた。
「?」
クラフが見上げると、セキアはクラフの肩を抑えたまま、人差し指を口元にあてた。静かにしろということだ。
セキアは、一歩、階段を上る。すでに、手は腰の剣にあてられている。

かつ、誰かの足音が近づいた。
階段の踊り場に、影。
「だれだ!」
セキアの鋭い動きに、影が驚いて、階段に足をとられて座り込んだ。
「うわ、僕だよ!」

座り込んだ少年を見て、クラフが目を輝かせた。
「カカナ!」
駆け寄って、その手を引く。
「驚いた」
「それは、こちらもです、カカナ様。失礼しました」
セキアの鋭い動きに、未だに心臓が踊るのか、カカナは胸を押さえたまま、立ち上がる。クラフがすでに手をつないで引っ張る。
「カカナ、お昼食べよう!セキアが鳥を焼いたんだ。あんまり美味しくないけど、とりあえず食べられる」
「クラフさま!」
「くすくす、セキア、大変だね」
カカナは涼やかな笑みを浮かべて、クラフと一緒に寝室に向かった。
一階の寝室は、広いリビング兼寝室、といったところだろう。入り口から向かって右側に二人分のベッドがすえられ、手前にソファーと小さなテーブル。左奥の一画に、ダイニングテーブルと椅子が四つ、並んでいる。部屋の左側に、バスルームとキッチンがつながっていた。
窓一つない部屋なのに、天井が白く明るい。カカナは目を細めた。階段や迷路のほうがずっと暗いからだ。
「へえ、結構広いんだ」
「そ、オレの家」
「かなり、散らかっていますが」
セキアが恥ずかしそうに笑った。
確かに、ソファーには毛布がぐしゃっとかかっていて、その下から書類がはみ出ている。奥のがクラフのベッドだろう、服が脱ぎ散らかされている。クラフは、ダイニングテーブルの上においてあった雑誌を手にとって、膝を抱えて座った。
「クラフさま食事にしますから、きちんと座ってください」
「ん」
すでに、雑誌に夢中なのか、クラフは片膝を抱えたまま動こうとしない。
カカナがその隣の席に座る。クラフが持つ、見た事のない雑誌が気になるのか、覗き込む。
「!エッチ」
「いいだろ、少しくらい」
カカナが笑う。
クラフは口を尖らせたが、あきらめて雑誌をテーブルの上に開いて置いた。そこには、写真が載っている。
「なんだい?これ」
「SCIENCE(サイエンス)っていう、雑誌。オレのいた世界の本だよ。今、この機械、作ってるんだ」
そういって、クラフは、目の前に置かれたパンを手に取りながら、説明する。
「すごいな、これ、本物みたいな絵だ」
「なんだ、そっちに関心あるんだ。写真って言うんだ。でも、この世界じゃ、できないよ」
「クラフでも?」
「欲しくないもん」
「ふうん。なに作ってるって?」
カカナはセキアが取り分けたローストチキンを、クラフの前におく。クラフは雑誌をよけると、パンをくわえたまま言った。
「六分儀。星とか太陽の位置で、今いる場所の位置を測る機械なんだ」
「うん?」
カカナが首をかしげる。
クラフは、チキンに塩をたっぷりかけて、それからオイルとレモンをぎゅうと絞る。しずくが目に入ったのか、ぎゃ!と手で目を覆う。
「クラフさま」
「いて、しみる、セキア!」
さらに手についたレモン汁が目に入ったようで、顔を覆う。
「クラフさま、ダメですよ、ほら、まず手を洗いましょう、こっちに」
小さな子にするように、セキアがクラフの両手を掴んで、ひっぱってキッチンに連れて行った。
「…本当に、子供みたいだな」
カカナはテーブルに残された雑誌をちらちらと眺める。
知らない世界の、技術の本だ。
クラフが作っているといった小さな機械の利用方法が書いてある。人が機械を持って、地平線を見ている図だ。
「それ、太陽の位置と地平線の位置で太陽高度を測るんだよ。でさ、ここにある太陽高度の資料と、数回の観測で、今いる場所がわかるんだ」
「場所って、那迦の街だろ?」
カカナが首をかしげる。
クラフが苦笑いした。
「あのさ、オレのいた世界にも、太陽はあった」
「ふうん」
セキアがクラフの空いたグラスにモモのジュースを注ぐ。
薄桃色のそれをごくごくと飲み込んで、クラフは話を続けた。
「オレの仮説はさ。ここは、空の上」
「空?の上?」
「カカナ様、クラフさまのお話、難しいですよ、無理に理解なさらなくても」
セキアがクラフの残した野菜をクラフの皿の上のチキンをはさんだパンに潜ませる。クラフは気づかずに話し続けていた。
「太陽の高度を30分ずつ数回計るんだ。それでさ、太陽の軌道を確認して、南中高度を出すだろ、で、それから90度を差し引くと今いる緯度がわかる。で、太陽高度とこの資料を照らし合わせると、大体の経度もわかる。まともに、地球上であれば、ね。仮説どおりだと、この数値がこのくらいになるはず」
カカナは、クラフが気づかずにパンを野菜ごと口に運ぶのを横目で見ながら、首をかしげていた。
「で、そうすると、ここが…」
クラフが停まった。
じろりと、目の前のセキアを見つめる。
「どうかされましたか?クラフさま」
にこやかに笑う。
と、不意にクラフが口をあけた。
「うわ!」カカナが思わず腰を浮かせる。
「吐き出さないでください!」
セキアが止めようとして差し出した手に、クラフはやさいを吐き出した。
「うえ、ぺっぺ!」
「クラフ、お前、最低!」
「クラフさま!」
二人の睨む顔を無視して、クラフ一人悠々と座ったまま美味しそうにジュースを飲む。
「ま、観測してみないことにはね」
「外には出しませんよ!」
セキアは手を洗おうとキッチンに向かう。その背に、クラフが飛びついた。
「うわ」
「ごめん!セキア!オレが悪かったよ、な?なあ、ねえ!」
「甘えてもダメです!」
「けち!」
「野菜、食べますか?」
「…わ、わかった、野菜一切れで半日外出」
「一皿です」
「うえー」
キッチンから聞こえるやり取りに笑いながらカカナはもう一度クラフの言った意味を理解しようと雑誌を見つめた。
ページをめくる。
見知らぬ金属の塊に、人が乗っている。人は、黒い筒のようなものを肩に乗せていて、それについて説明がされている。読めない。文字は同じだがスペルや文法が違うのだろう。
「あ、だめだぞ!勝手に見ちゃ!そっちのは武器なんだ、危ないぞ」
ぐいと、クラフが雑誌を取り上げた。
「面白そうだよね、クラフは読めるのかい?」
「当たり前だろ、俺の世界の言葉だ」
「本当かい?嘘なんじゃないか?」
「本当だ」
「じゃあ、それ、読んで見せて」
「自動連射式…!だめだよ!教えないよ!」
クラフは雑誌を服の下に隠した。
「つまらないな。面白そうなのに」
「だめ」
「見せろって」
カカナがクラフの服を掴んでお腹に手を突っ込もうとする。クラフはくすぐったくなって、笑うと逃げ出した。また、追いかけっこが始まる。
ただ一人、セキアだけが、笑っているのか怒っているのかわからない表情で、カカナを見つめていた。


冷たい空気に、白い息が吸い込まれるように消える。
「昼間が、よかったのにさ」
つぶやくように言うクラフに、セキアが上着をかけてやる。
「仕方ありませんよ」
クラフは皇宮の二階のバルコニーで、北の一つ星を観測していた。
石の手すりに載せた、六分儀が冷たい月明かりをはじく。付けられた小さな筒を覗き込むクラフは、手元の二つの鏡を微調整しながら、何度も地平線と空を見上げる。
「寒いよ」
「はい」
セキアがクラフの肩に手を置く。
「それ、少し温かい」
「まだ、終わりませんか」
「ん、後三十分後にもう一回。それで今夜は終わり」
「風邪を引きますよ」
「温かいスープ、食べたいな」
「この後ですか?」
「豆の入ったのでさ、ソーセージとキャベツ。卵落として」
「いいですね」
「多分、オレの仮説どおり」
「場所を知って、どうされるんですか。帰ることが出来ないのは、同じですよ」
クラフが黙った。
小さく吐いたため息が白く夜空を濁す。
「…ここは、嫌ですか」
「…」
わかりきったことと知りつつ、セキアは少年に問いかける。
帰りたいだろう、けれど、それは不可能。
その現実を、この間も思い知らされたばかりだ。
「自由であれば、いいのですか?」
「…違うよ」
「どうすれば、クラフさま。向こうの世界を忘れてくださいますか」
クラフが振り返った。
その大きな茶色の瞳が、背後の男を見上げた。大きく、見開いている。
かみ締めた唇を、離して、うつむく。
「不可能なことを希っても、苦しいだけではありませんか。クラフさま。どうすれば、心から、この世界を楽しんでくださいますか?本当の、故郷だと思っていただけますか」
「…ひどいこと、言うな」
クラフは再び、バルコニーから見える漆黒の空を見つめた。
「泣かないでください」
「…泣いてない」

金色の髪が夜風に揺られる。セキアはそれを惜しむかのように、なでた。
「オレ、天才だぞ。不可能なんか、ない」
「あきらめずにいるのは、時につらいものです」
「だから、ひどいこと、言うな。オレは、帰るんだ。いつか」
「…いつか、ですか」
少年が涙をぬぐうのを、セキアはじっと見つめていた。


数日後。

「おはよー!」

ぴゅん!

飛んできた緑色のぺらりとしたそれを、カカナはさっとよけた。
クラフの研究室ではさまざまなものが飛び交って、もともと散らかっていたところが、さらにすさまじい状態になっていた。

「慣れましたね、カカナさまも」

クッションを盾のようにささげもち、床に膝をついている褐色の肌の男が笑った。
「何?すごい有様だね!先に寝室に寄ったけど、あっちもものすごかった」
「たまに、ご機嫌斜めだと、こうなるんです!すみません、今は一度、お帰りになったほうがよろしいかと思いますよ!」
その間にも、ぺタッ葉が数枚飛んで来たので、カカナも足元に倒れて転がっている椅子を、盾にした。攻撃を繰り返すクラフに声をかける。

「おはよ!クラフ!」
「うるさい!出ていけ!」




クラフは机の向こう側にいるらしい。机を中心に展開されている書類や設計図、作りかけのデンワや、何かの材料など、さまざまなもので出来上がった要塞に隠れて、彼の姿は見えない。

「どうしたんだよ!今日来るって言っておいたよね」
「クラフさま!もし発作が起きたらいけませんし、ね、落ち着きましょう」
「うるさい!一人にしろ!」
「なんでそんなに、怒っているんだよ!」

ブン!と飛んできたぺたっ葉をよけて、カカナは足元に散らかった雑誌に気付いた。

『SCIENCE 』

見せてもらいたくても、決して見せてくれなかった、向こうの世界の雑誌とやらだ。表紙になにかよく分からないものの拡大写真が載っている。文章は読めないが、写真がたくさん載っているから、興味は尽きない。
さっと、それを手に取ると、カカナは抱きかかえるようにして、部屋を出ようとする。

「カカナさま!だめですよ!それ、持ち出し禁止です!」
鋭く、セキアが怒鳴る。
掴まれた手をカカナは振り払おうとする。
「まあまあ、一冊くらいいいだろ!」
「クラフさま!カカナさまが本を盗んでいきますよ!ぶっ」
振り向いて「ぺタッ葉」をまともにくらった。
「ああ!だめ、だめだぞ!」

セキアがカカナの腕を取って、引きとめている間に、クラフが走り出てきた。
カカナの腰に後ろからタックル。
「って」
雑誌を取り落として、カカナはクラフと一緒に倒れこんだ。
「だめだよ!」
「なんだよ、ひどいな!」
背中の下に何かの部品のような固いものがある。カカナは顔をしかめる。視界の端に雑誌。
カカナが手を雑誌に伸ばそうとするのを、クラフが馬乗りになって、静止、雑誌を遠くへと放り投げた。
「あー!」

セキアが、笑いながら雑誌を拾い上げた。
「残念!あと少しだったのに!」
ふんと息を吐いて、クラフを乗せたまま、カカナは仰向けになる。

「だめだよ。元素記号全部覚えてないだろ」
クラフが言うと、カカナはにやりと笑った。
「もうそれは覚えたよ」
「そしたら、次はうーん、素粒子論。物体の構成要素からだぞ」
「…そんな難しそうなのいやだな。その、写真のほうがわかりやすそうじゃないか」
カカナが指差す雑誌を、セキアがぱらぱらとめくる。
「なんだよ、セキアは読んでもいいのか?」
「バカだから、わかんないよ、見たってね」

クラフは急ににやにや笑い出した。
「?なんだい?気味悪いな」
「へへー」

馬乗りになるのはなんだかいい気分だ!
クラフはいつもくすぐられて苛められるので反撃に出ることにした。カカナのわき腹をくすぐる。
「わ!お前、やめろ!」
取っ組み合いになって、転がる。
「あれ?」
気付くと形成は逆転。
逆にくすぐられそうになって、クラフは慌てて逃げ出す。
「!セキア助けて!」

セキアは、さっきまでふてくされて隠れていたクラフが、楽しそうな様子に、笑っていた。
やはり、同年代のお友達は、必要だと満足げだ。
さんざん走り回って、息を切らせて。
「もうやめ、疲れた、オレ」
クラフは座り込んだ。ぜいぜいと肩で息をする。

今日は白いシャツ、黒い短いパンツ、黒いニットのベスト、と言った格好だ。黒いパンツと頭に、いつの間にかぺたっ葉が張り付いていた。
「ぷ、クラフさま…着替えられますか?それでは、今日のお誕生会出られないでしょう?」
セキアが持っていた雑誌を放り出して笑った。
「お誕生会?」
カカナがくすくすと笑いながら、視線をセキアの放り出した雑誌に注ぐ。
少し洒落た白いシャツに深いグレーのロングジャケット。金の肩飾りと襟元の刺繍、二列に並んだ金色のボタンが、華やかに見せる。黒いパンツは細身で、すらりとした足をもっと長く見せる。
乱れて額にかかる亜麻色の髪をかきあげて、黒い瞳でクラフを見つめた。
クラフは、顔を真っ赤にしている。
「そんなのしないんだ!ガキみたいで嫌だ!いらない!」
「そうおっしゃらずに、せっかく大教皇様がお忙しい中お祝いしてくださると言うのに。カカナ様もよろしければおいでください。夜ですが」

「いやだ!絶対嫌だ!オレ出ないからな!出てけ!」
「誕生日なんだ。いくつになったんだ?」
ニヤニヤ笑うカカナに、クラフはさらに顔を赤くする。
「違うって!オレがここに来た日だろ!誕生日とは違う!ちっとも嬉しくなんかないんだ」

ぷんと顔を背ける。誕生日はもちろん覚えているが、暦がこの世界とは違っていて、実際いつが誕生日なのか分からなくなっていた。だから、便宜上この世界に来た日が誕生日と呼ばれていた。
毎年のことだが、クラフは嫌がって怒る。
「そうか。丁度、十年になるんだね。もう、帰るのあきらめちゃったら?こんな風に、暴れてないでさ」

笑うカカナに、クラフがつかみかかった。
「クラフさま!すぐムキになるから、からかわれるんですよ!」
「やっぱり帰りたいんだろ?寂しいんだろ?」
「笑うな!」

殴りかかるクラフの手を、後ろからセキアがつかんで止めた。
「離せよっ!」
暴れる。
「クラフさま、落ち着いて、カカナさまも、からかわないで下さい!」
「いやだ!出て行けよ!二人とも出て行け!」

クラフは息を切らせて、にらみつけた。
カカナはうっすら笑いを残したまま、背を向ける。
「この間の話、ちゃんと考えて欲しいな。悪いようにはしないから」
「い、や、だー!」
振り向かず片手を上げて、気障に立ち去るカカナを思い切りしかめ面で見送ると、今度は押さえつけているセキアをにらみつけた。
「お前もだ」
「できません」

さりげなくつながれていた手を、ふんと振り払った。
「外から鍵を掛ければいいだろ。閉じ込めてもいいから。昔はそうしてただろ」
「…一人にすると、泣いていました、あなたは」
「…小さい頃の話だ」

「それとも、一人で泣きたい、とでもおっしゃいますか?」
クラフはうつむいた。
「そういう、時だってある」
「!じゃあ、私を空気とでも思って」
べし!
頬を軽くはたかれて、セキアは苦笑いした。
見上げて睨むクラフの瞳には、涙が伺える。
本気なのだろう。

「では、お昼までですよ。昼食をお持ちする頃までには、いつものクラフさまに戻ってください。午後から片づけを手伝いますので。発作が起きたらデンワしてくださいね」
ピンクのリボンのついた電話を振って見せた。

「うるさいぞ、お前。早く出て行け」
「はいはい」
部屋を出る寸前、扉のところでセキアは立ち止まった。
「あ、クラフさま。カカナさまがおっしゃっていた、この間の話とはなんですか?」
「なんでもない」
「…」
男は振り向いた。厳しい表情。
クラフは背を向けて、金色の髪をクシャリとかきながら、『SCIENCE』誌を拾い上げたところだった。
小さく、ため息をついて、セキアは部屋を出た。


ガチャリと鍵のしまる音を聞いて、クラフはぱらぱらとめくっていた、雑誌を閉じた。
ふん、と息を吐く。
「ばーか」
つまらなそうにつぶやいた。くしゃくしゃした髪を、撫で付けながら、クラフは壁に沿っておかれている棚、本やガラクタがぎっしり詰まった棚の、一番下の大きな段にある熊のぬいぐるみを動かした。
背板のない棚は、ぬいぐるみを取り除くと丁度、向こうに抜けることができる。
天井まである大きな棚の後ろには、五メートル四方くらいのスペースがある。以前は書籍や資料、試作品のガラクタをつめていた。それを少しずつセキアに気付かれないように処分して、今は隠し部屋のようになっている。ぬいぐるみの抜けた跡から、這ってくぐり抜けると、クラフはぬいぐるみを元に戻した。

その隠し部屋は、整然としていた。
足元にねじ一つ転がってはいない。


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 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第一章三.甘えることと信じること②


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ありがとー風花さん!

ごめんなさい!!インデックス間違えてました(*^o^*)修正しましたよ♪
助かります。
さて、クラフくん、どうするんでしょ(^_^)楽しみにしていてね~

またまた一気読んじゃいました;;
と、感想を書かせてもらう前に…
ちょっと迷子になっちゃったのです。インデックスが出来てからは、大喜びでそこを拠点として移動してたのですが…前回世界の果て⑧を読んで、喜び勇んで⑨を開けると、何故かお話が繋がらないんです。で、あれ?と思ってよくよく見ると、上の表示タイトルが⑩に。インデックスの⑩を開けると、水凪の国イラストに繋がっちゃうんですよ。⑧の最後の続きはこちら!から飛ぶと、ちゃんと⑨に飛ぶんですが…多分リンクの貼り間違えだと思うので、ちょっとご忠告を。
お忙しい中、頑張って更新されてるんですから、仕方ないですよね。
で、本題のお話!
クーちゃん、どうしちゃったんでしょ?やっぱり、帰る準備を進めてるのかな…と心配しちゃう花です。
クーちゃん、もし帰るときは、皆に挨拶もしないで…っていうのはナシだからね!
ていうか、カカナくんも負けず劣らず頭いいんだなぁ…。セキアさんは、相変わらず素敵でしたけどv
次回のお話も大期待です!
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