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「宙の発明家」第一章 四.カカナとピーシ③

日の沈みかけた群青の空を背に、背の高い男が皇宮の中庭を足早に歩いていた。背後に二人の従者を従えている。夕闇迫るこの土地では、出歩くものはいない。灯される明かりもないまま、三人は今や皇宮の大聖堂の陰に沈む小さな建物に入っていく。四角い、一階建てのそれは、白い石が冷たく夕日をはじく。


クラフは一階の寝室にいた。
二つ並ぶうちの奥のベッドに寝転がって、壁のほうを向いて背を向けていた。手前がセキアが使っていたものだと言う。

壁に貼り付けて置かれているベッドから、時折手を伸ばして、壁につけた小さな電灯に指を当てる。
それは、クラフの造った小さな電球に、ガラス工房で作ってもらったカバーがつけられている。淡い水色に光るそれは手作りのガラスで白い模様が入っていて、ちょっと、雲のある空のように見える。
クラフのお気に入りだ。
小さい頃そこに落書きした小さな飛行機が、空を飛んでいるかのように見える。それを、ぼんやりと指でなぞる。



「クラフ、ほら、いい匂いだろ?今日のスープはね、母上直伝のトマトのスープ」
「トマトキライ」

小さくつぶやくように言ったまま、クラフは動こうともしない。
カカナは二つのベッドの間にすえられたテーブルにスープの入った皿を二つ置くと、クラフの背後、ベッドの空いているところに腰掛けた。クラフの顔を覗き込む。

「具合、悪いのかい?」
「…」
「お腹すいてないのか?」
もう一人、カカナの隣に座って、クラフを覗き込む少年。ピーシだ。
学校帰りで制服の下に着ている白いシャツに、ミルクティー色の仕立てのいいベストを身につけている。

「うるさい、二人もいなくていいのに。ピーシ、もう夜だよ、教えはいいのか?帰らないのか?夜に、出歩くのはダメだろ!カカナだって、毎日ここにいたら勉強できないだろ、どっか行け」
「本当に、拗ねているんだね」

ピーシが感心したように、クラフの肩に手を置いてぽんぽんと叩いた。
「参っているんだ、食べてくれなくて。風邪を引いているみたいなのに熱も測らせないんだ」

カカナはピーシがいてくれるためか、今日は少し落ち着いていた。さすがに、疲れた表情がのぞく。頬には殴られた跡がある。

寝室は、あらゆるものが散らかって、足の踏み場に困るくらいだ。
きれい好きのカカナは、それだけでもイラつく。片付けてもすぐに散らかるので、三日目にあきらめてしまった。

「すごいな、まるで猛獣をならしているみたいだ。クラフ、僕はお前が食べようと食べまいと、関係なくてさ。ほら、この間言っていた、雑誌を借りようと思って」

ピーシは面白そうにニコニコしながら、クラフの肩をぐいと押して、こちらを向かせようとする。
「雑誌?」
カカナが顔をしかめた。自分がいくら見せて欲しいと頼んでも、一冊の本も貸してもらえなかった。

「なんだよ、クラフ、僕には見せてくれないのに」
「カカナはリーに手を出すから、ダメ」クラフが顔をしかめる。
「!」

ピーシは昼間のリスガの態度を思い出す。カカナはどう思っているんだろう。ちらりと複雑な顔をしているカカナを見つめた。
「クラフ、拗ねているとリスガ連れてこないよ」
カカナの一言は効いた。

やっと振り向いたクラフの顔は、傷だらけだが、膨らめた頬が子供っぽくて面白かった。
「いいじゃないか、クラフ、カカナにも、見せてやろうよ。丁度、今はうるさい大人もいないし」
ピーシの言葉に、せっかく振り向いたクラフは、またごろんと顔を伏せてしまった。
「あ、ピーシ、失敗」
セキアのことを思い出させると余計にすねる。
カカナはテーブルに添えられている椅子に腰掛けて、自分のスープを一口飲みながら言った。寮の食堂で夕食を済ませて合流したピーシと違って、カカナはクラフにあわせているためにまだ、夕食にありついていない。
「あー。そうか。セキアに会いたいんだ」にやりとピーシは目を細めた。
「違う!」
「じゃ、会いたくないんだ」
「…」
「どっちでもいいよ、クラフ。けど、僕は関係ないんだから、僕に当たらないで欲しいな。ほら、例の本」

冷静なピーシに反論もせず、クラフは、口を真一文字にぎゅっと閉じたまま、ムクリと起き上がると、ベッドの下から一冊の雑誌を引っ張り出した。
「!なんだ、こんなとこにあったんだ!気付かなかった」
カカナが他にも何かあるかと覗き込む。
その後頭部を雑誌でペシとたたいて、クラフは膝を抱えてベッドに座った。
隣にカカナ、さらにその向こうにピーシ。
三人で並んで、クラフが出してきた『プレイボーイ』を開く。

「うわ!」
と、カカナ。
「すごい、本当にそういうのばかりだ」
ピーシは少し頬が赤い。
クラフだけが、視線をスープに奪われていた。二人が雑誌を見てなんだかんだと声を上げている間に、そっと、スープに手を伸ばした。
お腹が、きゅうと鳴る。

一口食べた。
鶏肉と豆、ジャガイモの入った温かいそれは、とても美味しかった。

「なんだ、食べてるじゃないか。美味しいだろう?」
小さく頷いてもくもくと食べるクラフに、カカナはふと安堵のため息を漏らす。
「トマトキライっての、嘘なんだ」ピーシが笑う。
「嘘じゃないよ」
「でも食べてる」
「…セキアが、トマトキライなんだ」
「…」
ピーシは目を丸くしたまま、クラフを見つめた。カカナが、うつむいて食べ続けるクラフの頭をぐりぐりとかき回した。その瞳は優しく笑っていた。
「…美味しいだろ?」
もう一度、クラフは頷いた。
「セキアがいなくなって、お前いいチャンスなんだと思うな」
ピーシが気に入ったページの端を折りながら言った。
「ピーシ?」
カカナの視線を無視して、ピーシは続ける。
「二人して、甘えあっていて。クラフも少しは自立するべきだし、セキア以外の人間からも影響を受けるべきだと思う。今は、ね、まるでセキアに飼われているペットだ」
「う、うえ」
カカナが視線をクラフに戻すと、クラフは苦しげに口を押さえていた。
「!ばか、僕の分まで食べたのか?いっぺんに食べ過ぎ!ここ五日、ぜんぜん食べてないんだから、ダメだよ!ここで、吐くなよ!こっち、ほら」

連れ立って洗面所にたつ二人を見送りながら、ピーシは髪をかき上げた。
戻ってきた時には、少し青い顔のクラフの肩を抱いて、なのにカカナは満面の笑みを浮かべていた。
「どうした?大丈夫かい?やっぱり、風邪かい?」
「そうみたいだよ。熱がある。ほら、寝てなよ。食べていないし、寝てもいないから風邪引くのも当然なんだ」
クラフは大人しくベッドにごろりと横になる。

カカナはやけにニコニコしながら、薬を作るといってキッチンに向かう。
食糧庫から、乾燥させた薬草を取り出しながら、カカナはピーシに声をかけた。

「なあ、ピーシ。君も、クラフのこと心配するんだね。さっきの言葉。ほら、いいチャンスだっていうの。僕も賛成なんだ。嬉しいよ。なんだかんだ言っても、君もクラフを友達としてみているじゃないか」
「…別に、人として扱ってないわけじゃないよ。ただ、父上の政策上、あまり親しくなるとさ」
ピーシも、少し照れたように雑誌ばかり見つめている。

「…変なの」クラフが不思議そうな顔をした。
クラフは、うつ伏せになり、枕を抱きしめていた。その端を少しかむ。
「ピーシの気持ち、分からないじゃないけどね」
カカナが変なにおいのお茶をカップいっぱいに入れて持ってきた。
クラフは味を想像して、毛布の下にもぐりこむ。

「それに、ね。カカナ」
ピーシが、雑誌を床に置いて、真剣にカカナを見つめた。カカナは、まだ熱いお茶を冷まそうと、ふうふうしていた。

「僕の父上は、心配しているんだ。クラフは僕らの知らない様々なことを知っている。その知識は、悪用しようとする人に、利用されてしまうかもしれないだろう?そうなったら、つらいのはクラフなんだ。
だから、セキアもクラフも、余計なものを、クラフの世界の本とかを、君に見せないんだよ。クラフは頭がいいからね。
拗ねていてもきっと、全部考えて行動している。だろ?」

振り向かれて、クラフは毛布に顔を隠す。
「照れているのかい?子供っぽいのは、セキアの前だけだよね」
もぞもぞと動いていたのが、ぴたりと止まる。

「ピーシ、それは、僕と僕の父のことを、批判しているのかな」
低いカカナの声に、ピーシは振り返った。
いつものカカナとは、違う表情だ。穏やかで、優しい印象の彼ではなかった。

ピーシはため息をついた。
「君は、お父上の批判には、過敏だね」
にらみ合う。
不穏な空気に、クラフはそっと、毛布から顔を出す。
カカナの声色はいつもクラフと喧嘩する時と違う。

「君だって、同じだろう?ピーシ。君の父上は怖い人らしいからね、クラフのこと本当は嫌いじゃないし、人質だなんて思っていないのに、親しくできないんだろう?君は怖いんだ、お父さんが。おかしいよ。僕らもう、十七なんだよ?子供じゃないんだ、自分で考えて自分で行動しないとさ」

ピーシが頬を赤くした。確かに逆らえずにいる、父上は怖い。分かっている。だからといって、ただ言いなりというわけではない。
「!僕は、君みたいな考え無しじゃないんだ!カカナ、分かってないよ!クラフを閉じ込めて、人質にしているのは、政府なんだよ?クラフからしたら、僕らは彼らと同類じゃないか!敵なんだよ!
クラフのこと閉じ込めておいて、世話してやるとか、友達だとか!偽善だよ。
僕は、本当にクラフの気持ちを考えたら、友達だなんて言えないだけだ!僕は、父上の考えも分かる。クラフをそっと、今のままにしておくのがクラフを大切にすることなんだって。
多分、セキアも同じなんだ。
だけど、クラフが自由になりたい気持ちも分かる。
クラフの気持ち分かっていながら、それでも僕は父上の考えに従うしかないんだ。」
そこで、ピーシは一つ息をついた。
興奮して少し赤くなった顔が、少し寂しげになる。
「だから僕は、クラフの友達になる資格なんかない」
立ち上がって、カカナを見下ろす少年は、そういい切ると、きびすを返して部屋を出ようとする。

カカナは、呆然と見つめていた。
「ピーシ!」
クラフの声にピーシは振り向いた。クラフはベッドに起き上がってピーシを見つめていた。

「資格とかそんなの関係ないよ。ピーシって、優しいな」
クラフは珍しく穏やかに笑った。それは、少し大人びた笑みに見えた。それから、少し、目をそらして、手元の枕を見つめながら話し出した。

「オレも同じだから、さ。
オレ、セキアも、皆のことも信じているんだ。甘えている。
そのほうが、楽しいし。
でも、いつか誰も知らないうちに、そっと自分の世界に帰ろうとしているんだ。それは、セキアに嘘ついているのと同じなんだ。それがばれて、セキアと喧嘩になった。セキアが怒るのも無理ないんだ。
それでも、オレ、帰りたい。いつか、帰る」
カカナが、目を丸くして、金髪の少年を見つめた。
初めて、本当の気持ちを話したのかもしれない。

「ごめん、カカナ。オレ、いつか皆を裏切る」
クラフの瞳は少し潤んでいた。
「それでも、オレ、皆のこと好きだ」
カカナは一つ息をついて、淋しげに笑った。
「わがままだな」

クラフは、まだ、戸口で立ち尽くしているピーシに、枕を投げつけた。
「ピーシ、オレ様のわがままにつきあってもらうからな!」
枕を受け取って、ピーシは少し目を瞬いて、それから笑った。
「仕方ないな」
そう言って、ピーシが枕をクラフに投げ返した時だ。

扉を二回叩く音とともに、男が三人入ってきた。
「!父上!」
カカナが驚いて立ち上がる。ピーシも慌てて立ち上がるとお辞儀をした。
クラフは毛布にもぐりこんだ。
「こんな宵に、まだ起きているのかい?」

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 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第一章四.カカナとピーシ④
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ホーリ先生

そんな、さわやかな風…?
なんだろ?
らんらら、基本的にのほほんとしたバカなので、そのあたりののんびりした雰囲気が出ているのかもしれないです!
あとは、子供ががんばるお話が多いので、みんな、それぞれにまっすぐだから。
かな?
読後にあったかい気持ちになってもらえれば、本当に、嬉しいです!

kazuさん

ピーシ君、いいでしょ?
らんららもお気に入りです!
この後、クリスマスに向けて怒涛の(?)はた迷惑な更新をします!本当は、まとめて読んだほうが面白いのかもしれない、とか、自分の作品を分析していて。
またきてくださいね!
ピーシ君のことはきっと、もっと好きになってもらえるはず!

おひさです。

らんらら さん♪こんばんわ!
またまた一気読みしてしまいました。

いいね!いいね!3人がそれぞれに自分の世界をチャンと持ってて、立場と考えもシッカリしている。
これからの絡みがとっても楽しみです。

それにしても、らんらら さんの小説を読んでいて何時も感じることなんですけど・・・・・
読み始めると、何処からか、とても爽やかな陽ざしと言うか風と言うか・・・・
読み始めから、読み終わるまでズッとその爽やかさを感じるんですけど・・・・・
何か魔法でも使っているんじゃ?と思うくらいです。
これは真面目に感じることで、決してお世辞でもヨイショでもありません。
感じたままの事なんですが・・・・・

魔法じゃなかったとしたら、良い意味で らんらら さんの心が文字に乗り移っているんでしょうねェ~。

ピーシ君、好きだなぁ。。。
いろいろと、皆考えて行動してて・・・。
クラフ君、本音を2人に話しましたね。
なんだか、三人の絆が強くなったような・・。
今まで表面で付き合っていた3人が、やっと友達になれたような。
ほっとしたところに、うわっうわっ、カカナ君のお父さんが登場!
次回楽しみにしています!
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らんらら

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