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「宙の発明家」第一章 五.リスガとカカナ①

校内の大きな杉の木が祈季の風にざわりと揺れる。
一年中日陰をつくる丈高いその並木に沿う石畳の歩道を、少女は走っていた。昼の日差しが、ちらちらと眩しい。リスガの首元に巻いた、ふわりとした白いマフラーは、彼女に合わせてぺたぺたと軽く背を叩く。ピーシに話を聞いてから二度目の週末。休みになって、やっと大教皇に会って、話を聞いて、リスガは今、走っていた。
大聖堂の庭を通り抜け、その先にある皇宮、そして。
目指しているのは、その隣、小さな離れの建物だ。

カカナも、そして、ピーシもあれ以来学校に顔を出していなかった。一週間、悩んで我慢して。
今日、父親のそばにセキアを見つけて、話してからはもう、カカナが気になって仕方なかった。
庭を緑に染める聖なる苔を視界に感じながら、リスガはセキアの話を、思い出していた。
セキアは喧嘩して以来、一度もクラフに会っていない。淋しそうでもあったけれど、落ち着いた物腰、きびきびと仕事をこなす姿は、彼本来のものなのだと、リスガは改めて思った。
彼女の父親である大教皇もそしてセキアも、クラフと一緒にいると変る。クラフが相手だと、まるで彼ら自身が子供みたいに素直になってしまう。
不思議な気がした。そして、初めてクラフと会った時から、カカナはクラフを気に入っていた。
不思議だ。

リスガが初めてクラフと出合ったのは、五年前くらいになる。クラフが各家庭に発電装置を取り付けていた頃だ。
その頃から、生意気で、初めて紹介された時に手をつないできた。思わず叩いてしまった。
以来、どうしても、クラフのことは子供、という印象が強い。嫌いじゃないし、発明するものも面白いけれど。ほかに遊ぶ友達に不自由はないし、積極的に会いに行こうとしたことなどない。
父親が何度も遊んでやってほしいと訴えても、関心はなかった。
今、走って向かっていること自体に不意に違和感を感じた。
足を止める。
走るのをやめて、歩き出した。まるで、平静を装うかのように。

そう、ただ、カカナに会いたいだけなのだ。彼の顔を見たい、それだけ。

荒い息を整えながら、白い建物を見つめた。
狭い入り口。扉のないそこを入ると、迷路になっている。日差しに慣れた目に室内は真っ暗に映る。
目が慣れるまで、しばし留まる。
迷路といっても、簡単なものだ。建設当時はクラフが小さい子だったから、逃げられないように、と作ったもので、大人ならすぐに通り抜けられるだろう。
迷路の白い石の壁に手をついて、ふと、気付いた。

「やだ、私なんにも」
持ってきていなかった。格好がつかない。何をしに来たと問われれば、答えようがない。
まさか、本当のことは言えない。
普通、差し入れくらいはするものだろう。まして、リスガは女の子だ。手料理の一つや二つは披露できなきゃ。カカナはちゃんと食べているのだろうか。
そうだ、今からなら家に戻って、おやつにパイを焼くくらいは出来る。カカナが好きだって言っていたナッツをたくさん使ったパイ。
引き返そうと身を翻したところだった。
正面から、人影。
「あれ?リスガ?」

慌てた自分を呪ってみても、遅かった。
「あ、カカナ……」
逆光で、影しか見えないけれど、声ですぐ分かる。セキアより少し低いだけの長身。少しだけ癖のある髪が揺れる。買出しにでも言ってきたのだろう、大きな袋を抱えている。
「久しぶりだね。来てくれたんだ」
嬉しそうなカカナに、リスガは赤面する。
「よかった、クラフも喜ぶよ」
肩に手を置かれ、ますます固くなりながらリスガは促されるまま、クラフのいる研究所へと迷路を進んだ。

「あ、ねえ、カカナ。怪我はもう、大丈夫?」
「!嬉しいなぁ。クラフなんて、遠慮なく殴ってくるのに。もう、ほとんど痛まないよ。ありがとう、リスガはやさしいな」
肩に置かれた手に、少し力が入ったように感じて、リスガはどきどきする。
「殴るって、クラフが?」
「そうだよ」
「ひどいわ」
「くす、いいんだよ、僕だって、殴ったから」
「!カカナが?」
「そう。最近はもう、喧嘩しないけど。学校で習う武術と違って、やっぱり本当の喧嘩は難しいよね。手加減が。クラフも結構本気だしね」
「想像がつかないわ」
あはは、と笑うカカナ。

研究室の重い木の扉を開くと、同時に、誰かが飛び出してきた。
「うわ!」
ピーシだった。
カカナがリスガをかばい、ピーシはカカナの肩に突き当たってとまる。

「いた、ごめん、クラフが…」
ピーシは後頭部にぺたっ葉を一枚貼り付けている。

「また?何を怒っているんだ?クラフは」
「ほら、また今晩、上空の大気を観測するとかで出かけたいって言い出してね」
「まったく」
一つため息をついて、カカナが手に持っていた荷物、食料の入った袋をリスガに渡した。
「ごめん、これ持って、寝室の隣のキッチンにしまっておいてくれないかな」
「え、ええ」
リスガの表情も、返事も聞き終わらないうちに、カカナは振り返って研究室に入っていく。
「クラフ!また、風邪がひどくなるだろ?もうだめだよ!夜出かけるのは!」
ピーシも、カカナの後に続こうとして、動きを止めリスガを見つめる。
「なあに?」
リスガが少しにらむ。また、嫌味を言われる。リスガは身構えた。
ピーシはにやっと笑って、言った。
「助かるよ!あんなこと言っていても、カカナだって研究に夢中になりすぎて、ろくに寝てないんだ。食事も忘れることがあるし。食事と片付け、頼むよ」
「え?」
「僕も、面白くなっちゃって、ちょっと、手が離せないんだ」
「ええ?なに?私、召使じゃないのよ?」
ピーシは研究室の扉をぴたりと閉めてしまった。
目の前の黒い樫の扉を呆然と見つめる。かさ、と手に持った荷物の中のパンが傾いた。
「もう!」
ぷんぷんしながら、リスガは階段に向かう。
それでも、カカナに手料理を食べてもらう機会ができたのは嬉しいことだ。
「しょうがないんだから」
リスガは中身を確認しながら、メニューを思い描く。
一階に戻って、寝室の扉を開ける。

「な、何、これ……」
室内は、足の踏み場がない。
少し、汗臭い匂いと、食べ物の匂いが混じったような、変なにおいがする。
リスガは顔をしかめた。

まず、足元に転がっている枕をよける。
くしゃくしゃになった毛布を、迂回しようとして、下にあった雑誌を踏んだ。すべる。
「きゃ!」
転んで、抱えていた袋が転がって、中身が飛び出す。
「やだ!もう!」
ジャガイモ、にんじん、トマト、レモン、パン、チーズ、鶏肉、ハム。一つ一つ拾って、袋に戻す。
床についたひざの下には、書類のようなものが散乱している。
毛布の下に入り込みかけた丸いチーズを取ろうとして、ふと、気づいた。
床に転がっている毛布。ベッドにあるものと、床に二つ。一つはきちんとたたまれている。もう一枚が今、手元にくしゃっとなっている。どちらかに、カカナが寝ていたってこと。
リスガは、たたまれている毛布と、手元の毛布を比べる。
そっと、触ってみる。
と、毛布の下から、また、何か出てきた。
「!」
女性の、姿が写っている雑誌。クラフの持っている雑誌には、写真というものがあるのは承知していた。ただ、これは初めて見る。
「な、なにこれ」
表紙には、大胆に足を開いた、下着姿の女性。
しばらく自分の鼓動の音だけ聞いていたリスガも、恐る恐る、表紙をめくった。
「!!!!」
すぐに閉じる。
顔を真っ赤にして、傍らの袋を抱き上げると、キッチンに向かう。
動揺が足元に出て、また、転んだ。


リスガは忘れようとして、一心不乱にスープのための玉ねぎを炒める。香ばしい香り。
「よし、っと。これにスープを足して」
あめ色になった玉ねぎに、コンソメスープを注ぎ込んで、ふと、息をつく。
きれいな金色のオニオンスープ。ふと、雑誌の女性の金色の髪を思い出す。
頭を一つ振って、切りかけのトマトを切り出した。サラダの上に、それをちょこんと、乗せる。
それにしても。
リスガはどんな顔して三人に会えばいいのか分からなくなっていた。
(やっぱり、三人とも、男の子なんだなぁ。クラフも子供だけど、男の子なんだ)
そう考えるとどきどきしてきた。
(カカナも、見たんだよね…あの写真と同じように、私のことも見るのかな)
両手で顔を覆った。火照っていて、きっと真っ赤になっている。
彼らに会う前に、気を落ち着けなきゃ、とリスガは何回も深呼吸する。
部屋はそのまま、片付けていない。片付けたら、当然、見たことになってしまう。それは困る。でも、部屋の片付けもしないままでは食事できない。
どうしよう。
リスガは、ちらちらと、向こうに見える散らかった部屋を眺める。
「!」
雑誌をそのままにしてきてしまったことを思い出した。もし、今カカナが部屋に入ってきたら、目の前に落ちている雑誌に、絶対気づく!
あわてて、雑誌のところまで戻る。こんなものが、あるから。リスガは表紙の女性に怒りすら感じていた。

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 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第一章五.リスガとカカナ②
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chachaさん

楽しんでもらえました?
いやあ、リスガちゃんを描くときには、過去の自分を思い出しながら…って、そんな、純情なときもあったのか(?…遠い目^^;)
男の子の部屋って、どうしてもぐちゃぐちゃしたイメージなんだよね(^^;)特に弟の部屋がすごかったの。強烈。
それをイメージしてみました!

わはは><

い、いかん(笑)
声出して笑っちゃいましたよ~ウケる~(笑)><
リスガめっちゃ可愛い!
うんうん、そうなのよ、みんなで見たのよ、カカナもね~♪^^ふふふ。

リスガは本当に純情な恋をしてますね^^
ドキドキが伝わってきて何だか自分がカカナに恋してるみたい(笑)
ピーシも結局クラフと一緒に作ることが楽しくなったみたいで^^
いいなぁ、上手いなぁ、男の子が集まるとこんなもんですよね、本当に☆

今日は一話だけ^^
でも十分満足するほど笑わせていただきました(笑)
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