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「宙の発明家」第二章 三.黒猫①

★★★一人救出を待つクラフくん、父親と対峙したピーシ、そして救出に向かうセキアとカカナ…クラフくんのいない一日が、終わろうとしています★★★

その頃、カカナとセキアは、迩史の街の宿に落ち着いたところだった。
外で夕食を済ました二人は、一番広い部屋に案内された。
広いといっても、辺境の街の宿。二つのベッドに小さなソファーとテーブルがついているくらいのものだ。それでも、主人は珍しい上客に自ら部屋を案内した。
「これはこれはカカナ様、このようなところによくおいでくださいました」
宿屋の主人はぼさぼさの眉に隠れている小さな目をニコニコさせながら、二人を迎えた。この街で、カカナのことを知らない者はいない。
「ありがとう、すまないけど、僕がここに泊まる事、父上に知られないようにしてほしいんだ」
カカナがいたずらっぽく片目をつぶった。
「あの、どうしてでございますか?」
驚く主人に、少年は笑った。
「突然帰って、父上をびっくりさせたくて。ほら、もうすぐ父上のお誕生日だから。毎年、きちんとしたお祝いもなされないし、父上も嫌がるんだけど」
「ほう、なるほど、なるほど」
嬉しそうに笑って、年老いた主人はブール候にと、お祝いの葡萄酒を一本カカナに持たせた。
窓から外を眺めていたセキアは、主人が退室すると、フ、と鼻を鳴らして笑った。
「葡萄酒もらったよ、セキア、飲む?」
カカナが悪びれる様子もなく、客間のテーブルに置いた。
「…なかなか、カカナ様もお人が悪いですね」



「誕生日が近いのは本当だよ。ただ、その日は母の命日でもあるからね。お祝いなんて、したことないんだ」
「お母上は、病でしたか」
「ああ、苔池のね」
セキアは窓から遠くを眺めた。町の南東に当たるこの地域からは、遠く街を囲む城壁が、細い紐のように地平線を縁取る。その先が、苔池の広がる地帯だ。
丁度、夕日が、城壁の帯を赤く照らし、どんよりとした赤黒い空に、浮かび上がらせている。
「カカナ様は、お体は大丈夫ですか」
セキアは視線を背後に向けた。
カカナは荷物を整理しながら、身軽な服装に着替えていた。
「ああ、僕は、十二歳から那迦の街の寮に住んでいるから」
「やはり、苔池なんでしょうか」
セキアは、到着したままの姿だったことに気付いて、自らもマントを脱いだ。
カカナの返事はない。
夕闇に、少年の表情は見えない。

苔池の毒については、諸説があった。苔の花が放つ花粉に毒があるのだという説もあれば、池の水そのものに毒があるとか。苔池の花の咲く頃、風下の街や村に発生する。全員でもなく、年齢にも特に顕著な傾向は見られず、判断が難しかった。過去には、肺の病にかかるのは信仰心の不足だとさえ言われていた。現在では、医学の進歩によって、宗教と結びつける傾向はないが、それでも忌まわしい病とされている。
かかれば、治らない。
感染するものではないらしいが、同じ地域同じ家、発症するとそこで必ず複数の犠牲者が出る。何がしかの環境が、それを引き起こすのだろう。
カカナの家でそれが発生し、母親が亡くなっていれば、カカナの発症を心配するのは当然のことだった。カカナが十二歳から那迦の街に住まわされたのもその辺に理由があるのだろう。

「ね、セキア。もし、だよ。もし、父上がクラフを誘拐していたら、どうする?どうなるんだ?」
カカナが暗がりの中、自分のベッドに横たわるのを、気配で感じながら、セキアは窓際を離れ、手に持っていたマントを自分のベッドの脇にかけた。
「私は、クラフさまを無事返していただければそれでいいのです。返していただけないのでしたら、それなりに、行動させていただきます」
「それなり…って」
「さすがに賢老士を殺すわけにはいきませんが、脅すくらいはさせていただきます。当然、それでも納得なされないようでしたら、そのときは、カカナ様、覚悟していただきますよ」
「そ、そんな、セキア一人じゃ、そんなこと出来ないよ!父上の守護士だっているんだ!」
「さて、どうでしょうね。多勢に無勢となれば、私も無事にはすまないかもしれませんね。それでも、それが私の務めですし。クラフさま一人守れないようでは、聖守護士の名が泣きますが」
そこまで話して、セキアは笑った。
「逆も、あるのです」

「え?」
「先ほどのものは、私の現在の立場。賢老士会の立場で考えれば。カカナ様、ブール候は賢老士の中でも、もっとも影響力のある人です。現在七人の賢老士のうちご本人を含めて四人を味方につけている。ブール候の判断で、賢老士会の意見は左右されます。そのブール候が、たった一人の子供のために命を落とすなどあってはならない。この世界すべての混乱を招く可能性があります。
賢老士会の判断が下され、大教皇様が了承すれば、私には逆に、クラフさまを闇に葬るよう命令が下されるでしょう。
いえ、そんな遠まわしなことをせずとも、もっと簡単にセクトール候の派遣した黒馬、彼らがクラフさまを見つけて殺そうとすることも考えられます。クラフさまが警備兵を殺し逃げ出した、と偽れば大教皇も口を出せない。確実な証拠など残らないからです。
すべてを操作できるように、そして、大教皇が動けないように、賢老士会、いえセクトール候は、自分たちの落ち度を認め、クラフさまの捜索を買って出た」
「!」
穏やかなセキアの言葉。カカナは目を見張る。すっかり日がくれ、セキアがどんな表情なのかは分からない。
「クラフさまのお立場は、とても弱い。だからこそ、手を出して欲しくなかった。もともと私は、あなたやピーシ様がクラフさまの発明に興味を示されることが、いずれこのような事態に発展することになると、危惧していたのです」
どんな世界にも闇がある。セキアはそれを十分承知していた。
この世界に、昼と夜があるように。

「あの、セキア」
「はい」
「もし、もし父上にも知られずに、クラフだけをそっと救い出せれば、それが一番なんだね?」
「ええ、そうですね」
「そうすれば、もし、もし父上がこのことに関係していても、罪は問われない?」
「問いようがありませんが。もともと、クラフさまは存在しません」
「…明日、案内するよ」
少し間があった。

「ありがとうございます。カカナ様」
低く、静かなセキアの声。それ以上、追求もしない。カカナは少し、ほっとして、目をつぶった。



宙の夜は暗い。すべての建物の明かりは消える。教えにより、明かりをともすことすら、禁忌とされる。静まった夜に、響くのは夜活動するケモノの遠吠え。果ての城壁は、黒々と宙を取り巻き、はるか上空から見下ろすと宙の世界は黒い大きな固まりに見える。
その夜、雲のない成層圏はいつもどおり晴れ渡り、月の光に白い影を光らせ、大きな丸い物体が、宙の世界の黒い影に近寄る。
ヘリウムを詰め込んだバルーンは長径が二十フィートの楕円で、高層飛行のためかなり大きい。気圧がほぼ0に等しいこの場所で、どうやってその風船を保つのかは分からない。
もしクラフがこの光景を見ていたなら、解明したい謎に目を輝かせたことだろう。
船体は両側に伸びた、ヒレの様な翼を、く、と動かし、その静かで厳かですらある動きが下向きに変わる。前回と同様、その静かな動きとは裏腹に、着地する瞬間は派手な衝撃をまわりに与えた。
セキアたちのいる迩史の街から、南に下った隣町、南制(なんせい)の街の郊外だ。幸い、辺りには民家はない。が、その衝撃に気づいた民は、慌てて外をのぞき、夜目に白く見える物体に驚くと閉じこもった。
夜の闇には、恐ろしい化け物が出る。
彼らの脳裏には化け物、が浮かぶのだ。

動揺に怯えはしたものの、南制の街の城壁を守る騎士は街の賢老士に伝える。怪しげなものが現れた、と。

賢老士のなかでもっとも大きな体躯の彼は、堂々とした黒いひげを蓄え、胸を張って三人の白い人間を出迎えた。背後に警備隊を従えた、南制の街の賢老士デスカナだ。
「何者だ」
彼の言葉に、三人のうち一番背の高い人間が言った。
「我々は、アメリカ合衆国の使者です。あなた方の代表にお会いしたい」
はっきりと話す。デスカナは目を細めた。
「以前は、言葉が通じなかったと、聞いていたが」
「我々は今はあなた方の言葉を理解している」
「武器などは、持っていまいな?」
白い三人は両手を挙げて見せた。剣は携えていないようだ。
「顔を見せて欲しい」
デスカナの言葉に、白い人間は首を横に振った。
「我々は、ここでは息ができない。だから、コレを取ることはできない」
「…仕方あるまい。我らの代表は、各街にそれぞれある。召集を待つ間、目立たぬよう願いたい。夜になれば、代表の集まる街に案内しよう」
デスカナは三人に準備が整うまで待つよう、説得した。
三人は、納得し、再びデスカナが現れるまで、不可思議な乗り物で待機することにした。


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 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章三.黒猫②

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楓さん

ありがとう!!
ふふ。こんな風になりましたよ、カカナクン。でも、カカナクンが思っているほど、セキアさんは優しい人じゃないです。
オトナですから。
カカナくんの気持ちをとっても分かってくれている楓さんが、どう思うのかちょっと不安だけれど(^^;)
続き、楽しみにしてくださいね!!

こんばんわ。

なるほど!!
以前、カカナが一人で全て解決しようとするのか、みんなに父親の非礼を詫びて協力しようとするのか、どうするんだろう?ってコメントしたことがあたんですが、その時僕は、僕がカカナなら一人で・・・かなぁと漠然と考えたことを思い出しました。で、読んで納得。セキアさんにだけうち明ける・・・うん。なるほど!!そうか、そうだよなっと、すっごい納得し、そして改めてらんららさんは細部までものすごく緻密にちゃんと考えて物語を書いておられるなぁと思い知らされました。しかも、それをさらっと書いてしまわれるところがまたすごい。。。
アメリカ合衆国・・・来ましたね。クラフの母国(でしたよね。確か)。今後の展開が気になると同時に、もしやブール侯が国を統一したいと考えている理由もここにあるのだろうか?と思えてきました。
タイトルの黒猫・・・どこでどう関連してくるのかも含めて興味津々です♪

コメントありがとー(><)

kazuさん
そう、カカナクンの気持ちを思えば、今のまま何事もなく、上手くいけば…と思ったのだけど。らんらら、意地悪なので(^^)
さて。ここから、しばらくカカナくんとセキア様が物語をリードします。いろいろ、絡んできますので。
お楽しみにv-344


アポロちゃん
大きく…っふふ。
動かないよぅ、まだまだ(^^)
でも、いずれ。そうね。いずれこの章の重要な場面につながります!
この世界に、いきなり「アメリカ合衆国」って、書いていてすごく違和感があったんだけど(^^;)
期待に応えられるといいなぁ!
あ、それとも、一気にぱあっと、公開…いえ、自殺行為は止めておきます…読むほうも大変だよね(^^)

ユミさん
びっくりです?アメリカ!!星条旗を付けてると思われますよ、彼ら。
もしかして、宙の世界に星条旗をガツンと突き刺して帰るとか…(^^)
そんな冗談はともかく。
クラフくんには、もう少し、苦労してもらいます!
らんらら、主人公いじめ大好きかも、隠れS?隠れてないか…(^^;)
描写、かっこいいなんて!!!
う、嬉しい(><)

花さん
タイミング、そう、すごく悩んだんです!!
いつ、来るか!どうなるか?
この世界の時間の流れと、事件の動き。
クラフくん、セキアさん、ピーシ君、そしてアメリカの方々。四つの場所で平行して物事が起こるので、それをどう表現するのか。思わず、チャート作っちゃいましたもの(^^;)
矛盾しませんように、分かりやすくなりますように…ってね。
で、考えた末のこのタイミング。
ふふ。
どうでるか。上手くまとまるか!!
賭けです。
感想、聞かせてくださいね!!

ア、アメリカ…?やっぱりクーちゃんの読み通り、宙の国は地球上、上空にあるんですね!
でも、このタイミングでの出現…どうなるんだろ、考えさせられる所もあるなぁ…
花個人としては、クーちゃんもカカナ君も、前回頑張ってくれたピーシ君も、皆笑顔で暮らせてたらそれでいいと思うのでした。

すごい!

話が深くなってきて、何度も読み返しました。
アメリカからの使者とは・・・。
クラフ君の無事は・・・。
本当にドキドキです!!

らんららさんって、情景描写がすごい格好いい
ですよね☆いつもため息が出ちゃう。

ぬおぉぉぉ!

続きがすっごくきになるぞ~!!
なにかが大きく動きそうな予感。
クラフ君どうなるんだ・・・。
今のクラフ君の様子がすっごくきになるし・・・。

おはようございます。
クラフ君を、そっと助け出す・・・。
助け出せれば、全てが万事おさまる!と、カカナ君のセキア様に対する告白を、よかった~っと読んでいたのに。
アメリカの使者がやってきましたね。
あと一日遅ければ・・・!とか、考えてしまいました。
どうなっちゃうの??
クラフ君は・・?
セキア様たちは・・・?
続き、とてもドキドキします!!
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