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「宙の発明家」第二章 三.黒猫②

翌朝、カカナはピーシからの連絡を受けた。
デンワの向こうのピーシの声は沈んでいた。
「気にしないでさ。やっぱり、君のお父上は、怖いね、僕が何とか父上を説得するから。僕はセキアも一緒だし、何とかしてみるよ。でも、本当に、ピーシ、君のほうが心配だよ」
カカナは、自分のベッドに腰をかけている。
「ああ、本当に、気にしないでさ、ああ、じゃあ、また、連絡するから」
デンワを切ると同時にため息をつく少年に、セキアが声をかけた。
「ピーシ様、やはりだめでしたか」
「ああ、セクトール候は、話を聞くどころじゃなかったって。ピーシが僕らと一緒に飛行機を作っていたことを、セクトール候に黙っていたから、だから、怒っているみたいなんだ。でも、ピーシも逆にさ、もう親子の縁を切るとか言っていて」
そこで少し、面白そうな表情になるカカナに、セキアは目を細める。
セクトール候はそんなに単純な人間ではない。ピーシを突き放すのも何か意図があってのことだろう。情報を得るならば、騙してでも傍におかなければならないはず。

「無理だよね、僕らは、賢老士の親を持って生まれてしまったんだ、その権威の中で生きてきたし。いまさら、逆らっても無駄だと思うんだ」
「どうでしょう、ね」
セキアは静かにいい、テーブルに地図を広げた。何かを書いている。
「それに、父親と縁を切るなんて、さびしいよ」
「そうでしょうね。カカナさま、あなたにピーシ様ほどの覚悟が、おありになるといいのですが」
カカナはやっと気づいた。
セキアの表情は険しい。
「あ、ああ。そうだね。僕も、父上がもし、クラフを匿っているとして、そこからクラフを連れ出そうとしているんだ、それも、十分父上を裏切ることになるね」
「匿っているではなく、拉致されている、です。連れ出すではなく、助け出すのです」
「……セキア」
「いえ、結構です。場所を教えていただければ、私一人で行けます」
「!僕も行くよ!隠していたのは悪かったけど、僕だって、考えがあって」
「お父上を、裏切る行為ですよ?」
声が大きくなるカカナに対して、あくまでもセキアは冷静だ。それが余計に彼の怒りを感じさせて、カカナは納得がいかない。自分も悪者のように扱われては、我慢ならない。クラフのことを心配しているのは同じなのだ。
「分かっているよ!でも、父上は何か考えがあって、誤解かもしれないだろ?だから、僕はそれを証明したいんだ!クラフに、飛行機を作れって脅すなんて、父上らしくない!きっと何か理由があるんだ」
「脅す、ですか」
「あ…すまない、それも、言っていなかった」
「それでも、クラフさまがあなたを信じて、あなたに任せたのです。私も、手がかりはあなたの知る、その場所だけですしね」
わざとらしくため息をつくセキアをカカナは少し睨んだ。
カカナが、クラフからのデンワの内容をすべて話していなかったことを、セキアは責めているのだろう。気持ちは分かるが、カカナにも言いたい事はあった。
「仕方ないだろう。僕には、たった一人の家族なんだ、大切な、尊敬する父上なんだ」
「……クラフさまはお優しい」
「!」
思わず立ち上がるカカナを無視して、セキアは地図の距離を測る。
「カカナ様、クラフさまがいる場所は、おおよそこの円の範囲内のはずです」
セキアは彼らが昨日、通り抜けた、那迦の街と迩史の街をつなぐ唯一の城門を中心とした円を二つ描いていた。
「…」
「那迦の街からこの城門までは半日、夜の移動と考えれば、馬であれば三時間で走れます。そこから先、クラフ様がカカナ様にデンワしてきた時間が午後二時。あの殺された警備兵の死んだとされる時間から城門を通って、午後二時までにたどり着ける距離、それが、この円までです。カカナ様のおっしゃる、郊外の別邸は、このあたりですね。ぴったりです。ここなら、迩史の街の政府庁舎からもそう遠くない。お父上は普段は政府庁舎内にお住まいでしたね。守護士は何人ですか」
「セキア、僕のこと、疑っていたのか?」
「いいえ、確認したまでです」
「…セキアが、こんな意地悪なやつだとは思わなかったよ」
「申し訳ありません。私も、クラフさまも、命がけですから」
地図をさっと丸め、セキアは立ち上がった。その表情は、笑っているのか怒っているのか、計りきれない。カカナも、黙って、荷物を持った。


迩史の街。七つの街の中で、最も西に位置する。那迦の街を世界の中心と捉えれば、その中心を取り囲むようにして並ぶ六つの街。迩史の街は、那迦の街とほんの五十キロほど接している。そこに、セキアたちが使った城門が一つ。その二つの街の境から、東西に長く伸びた迩史の街の領土は東西に三百キロ、南北には百二十キロ。ちょうど、卵を横にしたような形だと説明すれば分かりやすいだろう。
その領土を囲う城壁のさらに外側に、苔池の地と山地が広がる。その先が果てだ。
以前クラフたちがランドエンドを目指したときは、街境の城門から最も近い距離を選んだ。あの時は迩史の街とすぐ南隣の南制(なんせい)の街との境付近を西へと向かったのだ。
今、セキアとカカナが目指す郊外は、あのときよりずっと北に位置する地域で、迩史の街の中心部を突っ切って、一日はかかるだろう。
カカナは、前を進むセキアの白馬を見ながら、ふとため息をついた。
父親に確認せず、とにかくクラフさえ保護してしまえば、なかったことに出来る、そう考えた。そうすれば、父親が罪に問われることも、危険な目にあうこともない。
そして、クラフだって、セクトール候の黒馬に見つかるより、なるべく早く、セキアに発見されるのがいいはずだ。
間違っていない。
カカナは、眉を不安げに寄せながらも、自分に言い聞かせていた。
間違っていない。

日が、高く上る頃、二人は迩史の街の中心部を通り抜けていた。
カカナは顔を知られているので、フードを深くかぶり、目立たないように進む。セキアは見るからに騎士だが、ここ十年、めったに人前に出ることをしていないために、道行く人に敬礼を受けはするものの、別段、注目を浴びることはなかった。
注意深くその腰の剣や、腕にある籠手の紋章を観察すれば、それがどれほど高い身分かが分かるだろう。黒髪を東風に揺らし、精悍な表情のセキアは、クラフと二人でいるときとは別人に見えた。カカナは、あの皆で旅したときのことを思い出していた。
あの時、まさか、こんなことになるとは、想像もしていなかった。やさしげで穏やかだったはずが、今のセキアの印象は恐ろしい。
ふと、前のセキアが馬を止めた。
こちらを振り返って、今朝の様子からは想像もつかない穏やかな笑みを浮かべて言った。
「カカナ様、この辺で昼食としますか」
「え、ああ」
セキアが馬から下りるのを、視界の隅に見ながら、カカナもひらりと降り立った。石畳の道は、改めて足に冷たい固さを感じさせた。
通りは、政府庁舎のある大通りに並行する細い通りで、かろうじて馬車が二台すれ違えるくらいの路地に、両脇にぎっしりと店が軒を連ねる。人通りの多い場所だった。特に昼前のこの時間はにぎやかで、あちこちで呼び込みの声や花売り、水売りの歌や掛け声が入り混じる。
目立ってはいけないのに、こういう道を選ぶのは、理由があるのだろうかとカカナは少し不思議に思いながら、セキアの後について、小さな食堂に入っていった。
店内は、すすけた感じのレンガ造りで、燻したような、深い色合いの木製の調度品が落ち着いた雰囲気だ。壁に馬の絵が飾られているところを観ると、馬のレースを趣味にしている店主でもいるのだろう。絵の中の白い馬が、一瞬、セキアの馬と重なって見える。
カカナは目を細めた。
カウンターに席を取ると、セキアは勝手に二人分、パンとソーセージ、カカナのためらしいフルーツのサラダを注文した。選択の余地がなかったことに、多少の不満を感じて、カカナは店主の挨拶にも無愛想に口を閉じる。正体を知られてもいけないのでそれはそれでよかったのだが。
軽く、炭酸の入った蒸留酒を、セキアは口に運ぶ。カカナは堂に入ったセキアの雰囲気に、少し対抗意識を持って、つい同じ飲み物を頼んだ。
「飲めるのですか?」
セキアにバカにされたように感じて、カカナは笑って見せた。
「僕だってもう、十七だよ、来年成人なんだ」
「…それはあまり、大きな声ではいえないことですが」
セキアは不思議な顔をして、次にふと笑った。
「あなたも、まだまだ、子供だということなのですね」
「!」
「少し、安心しました。お父上に似た資質をお持ちなので、警戒しないではいられなかったのですが」
出されたパンをちぎりながら、カカナは顔を少ししかめた。

セキアはカカナを、まるで政治家のようだと感じていた。
リスガがあの昼食の席で、カカナを庇おうとしなければ、自らが飛行機のことを父親に話してしまったことを、打ち明けはしなかっただろう。あの時も、丁寧な口調には反省の色も後悔の思いも見受けられなかった。昨夜の宿で微塵も本音を出さずに主人に嘘をつき、自らがクラフのデンワについて隠していた事になんの罪悪感もないように見えた。
クラフがカカナを思いやって、カカナのみに自らの居場所を知らせた、その真摯な思いをどれだけ受け止めてくれているのだろうか。
クラフの立場の弱さを説明しても、カカナの態度には依然、変化はない。悪びれる様子もない。父親を信じているのか。それとも、生来の人となりなのだろうか。
どちらにしろ年相応とは思えなかった。だから、セキアはピーシよりずっと、カカナに対して距離を置いていた。

「セキアは、ずいぶん失礼だよ。父上はいい人だ、警戒が必要など、理解できない」
無造作にサラダとパンを口に放り込む。
飲み物で流そうとして、少しむせた。
セキアがジュースのように飲むそれは、意外と辛く、喉を焼くアルコール臭がある。
顔を真っ赤にしながら、何とか飲み込もうとする少年の背を、セキアがそっとたたいた。
「クラフさまと、大して違わないようですね」
「!あそこまで子供じゃないよ」
苦しげに反論するカカナに、セキアは笑った。
クラフが行方不明になってから、初めての笑顔だった。
「なんで、そんなに笑うんだよ、セキア、なんだか、クラフの気持ち分かるな、すごく子ども扱いされている気がする」
「そうですか?」
「そうだよ」
カカナは、やっと落ち着いて、次は飲み物だけでもう一度喉を潤そうとして、また、むせた。
セキアは、くすくすと笑い、そして、目を細めたかと思うと、カカナの肩に手を回して、言った。
「本当に、無理しないでください……カカナ様、黒猫につけられています。このまま、目的の場所に向かうのは危険です。いったん、政府庁舎でお父上にお会いしましょう。そこで、様子を探ってからということで」
後半は、ひそひそ声になる。
「黒猫?」
「ええ、多分、セクトール候の手のものでしょう。宿からずっと、ですからね。われ等を見張って、クラフさまを見つけようということでしょう。ピーシ様、セクトール候に何かお話になったのかもしれません。今後、ピーシ様とのデンワは、気をつけてください」
「ごめん、黒馬は分かるけど、黒猫は…」
それに、ピーシがそんな迂闊なことをするとも思えない。カカナには、セキアが神経質になりすぎているように感じられた。
「黒猫は、闇に乗じて動くもののことです。馬があくまでも公の仕事であるのと比べて、猫は裏の仕事をするのです。猫は専属のものがおります」
賢老士の息子の自分が、知らないことなどないと自負していた所もあって、カカナは少し反感を覚える。
「…神の教えの裏をかいて、いろいろあるんだね。わざと夜の活動を禁じているんじゃないかって思えてくるよ」
セキアは穏やかに笑って、答えない。
「…そう、なのか?…それって、父上にもいるのかな」
「さあ、賢老士それぞれが密かに雇うもの、実態はご本人のみ知るところです」
「でも、セキア、気づいたじゃないか」
「さて、私も若いときには、猫であった時期がありますので。同業者は見れば分かりますよ」
「若いとき?」
ここで、カカナは声を普通に戻した。セキアは、わざと咳払いして、言う。
「いえ、今も、もちろん、私は若いですよ!」
「若者は、若いとき、なんて言わないよ」
笑い出すカカナ。
「失礼です!」
「自分だって、僕のこと子ども扱いじゃないか」
セキアも笑った。
カカナは、それが、黒猫の目を欺くための、わざとらしい演技であることを感じながら、今朝まで予定していた、もっとも理想的な解決方法が崩れつつあることに不安を感じていた。


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「宙の発明家」第二章三.黒猫③
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ミナモさん♪

うは~。よかった。
らんららも、よく分からなくなって(^^;)
不可解な迷路みたいなブログだと、かなり迷いますよね。
時間がないときに読もうとすると、迷ったまま諦めてみたり。

せっかく作ってあったインデックスなので、奥からひっぱり出してきてみました♪
役に立ってよかった♪
黒猫さん、そんな感じです♪
楽しんでくださって嬉しいです~。

うふ~。イラスト。
いろいろと妄想を働かせているところです♪
描かせていただけるのは本当に嬉しいです。絵のお勉強にもなるんですよ♪
お楽しみに~!!

そうかぁ。

黒猫とは、そういう意味だったんですね~。
なんか、感慨深いものがありますよ。

物語に、更なる深みが増してきましたね~。
じっくりと読みふけってます。えへへ。

いやいや、最近、身の回りがワタワタと忙しくって。
らんららさんの小説は、真面目に物語の中にぶっ飛ぶことが出来ますんで、日常をついつい忘れてしまいますぅ。(笑)

そうそう、PC初心者の私には嬉しい仕様になりましたね~。あはは。

いっつも、続き探しから始まっちゃうんでね。でも今回はすんなり入れましたよぉ♪

ゆっくりゆっくり、物語を噛みしめながら、読んで行きたいと思いまっす❤

そうそう、私のブログで、らんららさんのイラスト見たいって盛り上がってます!

ずーずーしくも、勝手に楽しみにしてますよ♪よろしくで~す!

ユミさん

ありがとう!!
カカナはお父さん大好きな子だから。ピーシとは逆で、大変なんですね。
だからこそ、信じる気持ちを無くせないんです。
カカナ、これから何が出来るんだろう!
見ていてくださいね!!

子供から大人に

そういう時期に、父親を尊敬しているカカナ…。
それを口に出せるところに、ちょっとホロリ
としてしまいました。
「裏切る」それでも「助け出す」。
どうなるのかハラハラします。こういう過程
を経て、だんだん皆大人になっていくんですね。
どうなるんだろう…。
続き、めちゃめちゃ楽しみです!!

テンプレ、ホントきれいな空!!
わたしも、クラフ君が早く空を見上げられ
る日が来るのを楽しみにしてますよ~。

kazuさん

カカナくん、ちょっと悪者っぽくて可哀相ですね…本当に彼の立場になるとかなり、きついはず…それを表に出さないことすらセキアにはちょっと気に入らないという…カカナクン、かわいそうな立場ですね。kazuさんの思いやりに、カカナくん、ちょっとジンとしています。きっと。表には出せないタイプですが。

テンプレ、素敵でしょ?空!!
クラフくんが、いつか旅立つのは、こんな空なら、いいのになぁ…

楓さん

いつもながら、ちゃんと分かっていただいてv-344(^▽^)
セキアさん、クラフくんの誘拐事件で随分気が張っていると思われますよ。余裕ないんです。だから、カカナクンにも、やさしく出来ないです。
大人気ないですが。そういうところもまた、可愛い…バカな作者ですv-398

おはようございます♪
テンプレ、素敵です~。
綺麗な青空で、この下にセキア様やカカナ君たちがいるのかなぁと、想像を掻き立てられます。
セキア様、黒猫だった時期があるんですね。
クラフ君の立場、セキア様の立場。
きっとカカナ君はわかっていて。
でも、それ以上に父親を慕っている。
父親のすることには、必ず、理由があって。
クラフ君の心配をする気持ちは、一緒なんだけれど・・・・。
理想的な解決方法が崩れてきた・・・。
アメリカからの使者も来てしまった事ですし、なんだかハラハラします~。

テンプレいいですね。
いつかクラフがこうして白昼空を見上げることができるようになるんでしょうか?
さてさて、
セキアさんとカカナ、少しずつ互いを分かり合えるようになってきたのでしょうか?ピーシよりカカナに距離を置いてきたセキアさんの気持ちは僕もよく分かります。ピーシの方が表現がストレートなんですよね。それに対してカカナは本心を見せない。政治家みたいという表現に納得です。
黒猫・・・なるほど。セクトール候のスパイでしたか。確かに彼らに付け回られたのでは、こっそりとクラフを助け出すことはもはや不可能でしょうね。
さて、どうするセキアさん、それにカカナ!

花さん

ありがとう!テンプレ、綺麗でしょ?がんばって、ちょっと文字を大きくしてみたり、色を変えてみたり。編集してみました。
やっと、HTMLが多少はわかるようになった気がする。(気のせいだけど…^^;)
もっと前から出来ていたら、もっともっと、読みやすいものになったのにと、ちょっと自己嫌悪ですね。

セキアさんとカカナくん。それぞれ、考えも立場も違うので。ほら、七弥くんと市晴くんだって、そんな感じの時期があったよね。あれ読んで、仲良しでも上手くいかない時ってある。と。
ああ、もう一度市晴くんに会いたい…。

ふぅむ…立場もあるとはいえ、他人の心情を探り出すのは難しいね><
皆、悪い人たちじゃないんだけど、自分が可愛くて誰かが嫌いだったりする。それは仕方がないことだけど、そこに出来た摩擦が、こんな事態を産むんだろうなぁ。
あ、テンプレ変え、オメデトです♪宙の雰囲気とマッチして、流石なセンスですね☆
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