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「宙の発明家」第二章 四.飛行機、友達、クラフ③

「やめろ!俺、何でも作るから!セキアを殺すな!!…お願いだから!」


ふいに風が通り、枕から飛び散った白い羽と埃がいっせいに舞い上がった。傾いていた壁の絵が派手な音を立てて落ちる。

「父上!」
扉の前に、背の高い少年が立っていた。
煙と火薬のにおいに腕で鼻を押さえた。カカナだ。
室内を見回し、状況を把握した。
カーテンに残る炎に照らされ、室内は異様な様相を映し出していた。
必死にブール候にしがみ付くクラフの金の髪が、風とともにゆれた。
父親の構える剣の、ギラリと冷たい光の向こうに、二人の男の座り込んでいる影がある。

「クラフ!ああ、セキア…」

「おお、カカナ、どうしてここに」
ブール候の表情が和らいだ。
「父上、セキアの後を追って…!危ない」
カカナは、父親を庇って前に出ると、切りかかったキタキに応戦する。見知らぬ刺客を、カカナはにらみつけた。
「!お前が、黒猫か!」
「カカナ様!お止めなさい!クラフを、こちらに」

キタキは折れた剣でカカナの剣を受け止めながら、叫んだ。まだ、耳が遠いためか、声は必要以上に大きい。

「黒猫、お前は賢老士を殺すつもりか!」
カカナの言葉は、キタキの勢いをそいだ。腕に傷を負ったのか、血を滴らせる黒猫は、次の瞬間身軽に飛びのいた。懐から、ナイフを取り出す。
「…私は、ブール候ではなく、クラフを」
「!?」
投げつけられる銀色。
思わずクラフは目をつぶった。

「父上!」
クラフの目の前には、ブール候の腕が伸ばされていた。そこには冷たく、ナイフが光る。痛みを感じないのか、それを抜き取りもせず、ブール候はにやりとクラフを見つめた。
「お前を死なせるわけにはいかん」
「父上!」
再びカカナはキタキに斬りかかる。

キタキは、ぐんと後ろに引かれバランスを崩して倒れこんだ。
代わりに、カカナの剣を弾いたのは、鋭いセキアの一閃だった。
床に片膝をついた状態で、セキアは目の前の少年を睨みつけた。

「カカナ様、クラフさまを返していただきます。猫、お前にはやらせん!」
同時にセキアは自分の腕から抜き取ったガラスの欠片をカカナに投げつける。
それはキラと月明かりを弾いて、少年の頬を掠める。
カカナがそれを理解した時には、剣を持つ手をセキアに掴まれ、ひねり上げられていた。

「あ、…」セキアの腕は血まみれで、掴まれた手に生暖かいそれがしたたる。それでも圧倒的な力と迫力に、カカナは怯んだ。

「セキア、だめだよ!カカナに、うあ!」
止めようと叫んだクラフは首に冷たい痛みを感じる。
「クラフさま!」
カカナの剣を取り上げてベッドの奥に投げ捨てると、少年を押しのけて、セキアはブール候に飛びかかろうとする。
候はクラフの首に腕を回し、剣を頬に押し当てていた。

「動くな、セキア。これを、殺してもよいのか?」
「父上!」
ブール候はにやりと笑った。その凛々しい眉がこれほど憎悪に歪む様を、カカナは初めて見た。ぞくりと、知らないオトコの存在を父に見たようで、カカナは震えた。
その、父であり見知らぬ男でもあるブール候が叫んだ。
「カカナ、セキアを殺せ!今のうちだ、早く!」
カカナは懐の短剣を意識するが、動けない。

「…止めろ、ダメ、カカナ…ブール候はオレを殺せないから!大丈夫だから!セキア、あぅ」

頬に鋭い痛みを感じて、クラフは歯を食いしばった。
ブール候の荒い息遣いが耳元で聞こえる。

「次は目を突く。片目でも飛行機は作れる」
その声は笑いを含んでいるかのようだ。
大きく見開いた少年の瞳に、そぐわないほど大きな剣の切っ先が、突きつけられる。
「貴様…」
セキアは、剣を床に落とした。

カカナは、ぎゅと目をつぶって、胸の前で拳を握り締めると諭すように、話し出した。
「聞いてください。父上、ダメなんです!賢老士会の決定がなされました。クラフを救い出すために賢老士会の命で、警備隊がここに来ます!聖騎士団も派遣されて!ダメなんです!賢老士会は、父上よりクラフを選んだのです!」
「何を?私がいないのに何を決定すると言うのだ」
ブール候が青ざめた顔でうすら笑った。

「お願いです、父上、クラフの迎えが、あの異世界のものが来たのです!だから、非常召集があって、家に黒馬が来たのです!
なのに、父上は庁舎にはいらっしゃらないし、セキアは勝手に動いていて!それに、デンワがあって、大教皇様が、心配なさって、だから、どうしようもなくて…僕は、この場所を」

「!」セキアは先ほどデンワが鳴ったのを思い出す。
あれは、大教皇様からだったか。

「父上、お願いです。もう止めて下さい!クラフを元に戻して、剣を降ろしてください。クラフは今やこの世界に必要な存在です。今ならまだ、きっと、賢老士の地位を失わずに済みます!」

クラフは、呆然としていた。
迎え?
その言葉の意味を飲み込めずに、目を見開いたままだ。セキアは眉間にしわを寄せ、血の滴る腕を押さえる。
迎え…
セキアもまた、飲み込めずにいる。
それが、賢老士会を動かした。

キタキは床に座り込んだまま、腕を押さえ、成り行きを見守っていた。賢老士会の方針が固まったのであれば、キタキは動きが取れない。もともと、クラフを処分することが目的だった。

ブール候は歪めた表情のまま、口の端を上げた。
何を感じるのか、憎しみとも絶望とも、悲しみとも取れる視線で、息子を見つめる。
「ふ、ダメだ、カカナ。私には時間がない。時間がないのだ」
ブール候は、クラフを引きずったまま、背後の廊下にじりじりと下がった。手すりに当たって、止まる。吹き抜けの大きな窓から、月明かりが男を斜めに照らした。
色のないその表情は、あの晩、クラフが見た顔だった。力のない、視点の定まらない瞳。
クラフはぞくりと背筋が寒くなるのを感じた。

「父上お願いです。セキアも、剣を納めてほしい、お前だって、クラフさえ戻れば、賢老士を殺す必要なんかないはずだ!」
カカナの必死な願いが、館に響く。
「お願いです、父上!」

カカナとブール候の間は、一馬身ほど。

「時間が、ないのだよ。カカナ。私はお前に残してやるのだ」
ブール候の表情が乏しくなって、視線が泳いでいる。クラフは気付いた。ブール候の側頭部から赤い血が流れていた。それは月明かりに黒々と肩をぬらし、クラフの首を締め付ける腕に滴る。
ぽつと、金色の前髪にそれがつたい落ち、クラフは血の匂いに眉をしかめた。
「?父上?」
「だ、だめだよ!無駄なんだ、飛行機なんて半年じゃ造れないんだ!だから、諦めろよ!」
クラフが叫んだ。
「世界を一つになんか、出来ない!苔池をなくすなんて無理なんだ、だから」
「黙れ!」
ブール候は剣の柄でクラフを殴ると、急に優しげな顔になってカカナを見つめた。
「私は、カカナ、私はあと半年しか生きられん、肺をやられているのだ」
「父上…やはり、そうでしたか」
カカナは、悔しそうに眉をひそめた。声が震えていた。

「屋敷に、薬のにおいが残っていました。母上も、使っておられたあの薬の。父上、僕は医学を学んで、病を治して見せます!ですから、このようなことおやめ下さい!」

甘いあの香り、あれは薬の匂いだったのか…、クラフと同時にセキアにもその想いが浮かぶ。甘い香りが記憶を揺らす。

「やはり、苔池の病のために、お前は医者になるのだな。
…優しい子だ。自慢の、息子だ。私はお前の母も、兄も救えなかった。お前だけは守ろうと、力を注いできたのに、まさか私自身が倒れるとは。
こんな、半ばで。
私がいなくなれば、お前は一人きりになってしまう。淋しい思いをさせる、せめて、私が賢老士として力のあるうちに、お前によい街を残したいのだ。今のままではダメなのだ、この街は、この世界は。すべて焼き払わねば、苔池の病はなくならんのだ!」

「父上!僕は、よい街とか、権力とか、そんなもの要らない。父上が、いてくださればそれでいいんです!僕が、治します!そのために医学を学んでいるのです。そのためにクラフの知識を学ぼうとしているのです!父上も、絶対僕が治して見せます!だから、お願いです、どうか、こんなこと止めてください」
カカナは一歩、父親に近づく。

ブール候は目を細め、涙をこぼした。顔面は蒼白だ。
「後半年なのだ……」
「間に合わせます、クラフと研究して」
「クラフには迎えが、来ているのだろう?」
「クラフは、帰しません、父上も、そうおっしゃっていたでしょう?」
ブール候は、黙り込んで、クラフを見つめた。

クラフは、ただ、目を見開いて見上げていた。クラフの視界も、涙だろうか、変に、にじんだ。

「父上、お願いです、僕をひとりにしないで下さい。剣を降ろして、クラフを開放してください」
ブール候は、ふと、笑った。
「大切な、友達なのだな」
カカナが黙って頷いた。

ブール候が構えていた剣が、がたんと廊下に落ちる。
クラフは首を締め付けていた腕が離れたことに気付いて、その場に座り込んだ。
クラフは叫んだ。
「カカナ、早く手当しないと!ブール候、ひどい怪我をしてる!」
ブール候は、クラフをじっと見詰めていた。

「父上!」カカナが駆けよる。
「ブール候…」
セキアが言いかけたとき、階下で扉を叩く音が響いた。破られる。
警備隊の怒号。
焚かれた松明。

どんとカカナを突き放すと、ブール候は懐から丸い小さな玉を取り出した。
黒く、鈍く光るそれを、クラフは視界に認めた。
「だめだ!」
クラフとカカナが同時に叫んだ。
男の姿は、手すりの向こうに倒れこむように消えた。

微笑んでいたように見えた。

ど、と嫌な音が吹き抜けの居間に響く。
光が生まれ、爆発音が響いた。


空気が痺れるように震え、ばらばらと、天井が崩れる。
カカナは、壁を背にして座り込んでいた。
クラフは、ずるずると頭から落ちかけながら、自分が階段の途中で止まったことを感じていた。
赤い炎が、居間いっぱいに広がって、ゆらゆらと少年の頬を照らした。
「クラフさま!」
まだ、上手く聞こえない耳に、セキアの声がかすかに届いた。


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「宙の発明家」第二章四.飛行機、友達、クラフ④

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ミナモさん♪

カカナはこういう親子関係でした。
仲がいいからこそ、すれ違う思いがある。これを書いているとき「親の心子知らず、この心親知らず」なんて、言葉が呪文のように頭をめぐっていました~

ブール候…

何だか寂しいですぅ。
カカナを想っての行動が、カカナを悲しませてしまった…。

親として、子どもに何をしてあげられるのか。親としての子を思う気持ちに、間違いはないのか…そんな、深い思いに考えさせられました。

続き…読みに行きますぅ。

コメントアリがトー!

この後、どうなるのか!
…ご期待に沿いたいなぁ…

kazuさん
朝一番からありがとう!
あんまりキャラクターを死なせちゃうのって、好きじゃないんだけど…この場合、潔いかなと。
カカナくん、大切なもの自分の基準になっていた父親を失って。どうなるんでしょう!
奇数日が続くのでまた、今日更新です!

楓さん
やはり、予想の一つでしたね(^^)さすがです!
お父さんの気持ち、楓さんなら分かってくれると思いました!そうかぁ。子供がいるっていうのは、そういうことなんだなぁって、楓さんの感想見て思います。
らんらら基本的に親子愛がテーマですので、そう言うの感じてもらえたようで嬉しい。
でも、本物の、楓さんのような親子愛、には、決してかなわないなぁv-10
この物語もそろそろ終盤?それはどうかなぁ…(ごまかす…^^;)

chachaさん
そうですね、家族ってそばにいるのが当たり前だからこそ、会話とかなくても平気になっていたり、理解できている気になっていたり。
特に、子供の自分からみて、本当に親を理解できているか、は。未だにらんららも自信がないところです。
さて。カカナクン。
相当ダメージ受けているはず。…クラフくん、どうするんだろう?
ご期待ください!!

うぅ(泣)

ブール候・・・
そんな隠された真実があったとは・・・;;
でも!それでも飛行機とか爆弾とか使って全部焼き払うって、それはダメです!><
深い、親の愛情が隠されていたけれど・・・
別の道もあったのに、カカナが助けるって言ってたのに。
うぅぅ;;泣けます。悲しいですよ、この結末は(泣)

kazuさんも言ってましたが、本当、もっと早くからちゃんと話し合っていたら・・・
今頃みんなでクラフとも仲良く研究とかしてたかもしれないですね。
そんなこと想像しただけでまた・・・(泣)

カカナは、クラフはどうなるんでしょうか?
先が気になります!!><

うぉお。

カカナ来たぁ!やっぱし来たか!そうでなくっちゃ!!って思っていたら、どんどん展開が進んで・・・あわわわわ。
ブール候が言っていた「時間がない」は、やはり苔が原因だったんですね。そうかな?と想像の片隅で思いながら、でもそれがこうして現実になると、胸が締め付けられます。しかも、ブール候のあの行動の裏には、愛する息子カカナには自分と同じ苦しみは味わせたくないという必死の親心が隠されていたなんて・・・
余命半年と宣言されたとき、僕は何をしようとするだろうか?そうですね。やはり子供達に何かを残してやろうとするでしょうね。きっと。それは子供達のために、でもありますが、子供達に自分という存在をいつまでも覚えて欲しいと願うがため・・・かも知れません。
「よい街とか、そんなもの要らない。父上がいてくださればそれでいいんです!僕が治します!」
カカナの言葉が胸にしみます。
それをもっと早くに話し合う機会があったならば、運命は変えられたかも知れないのに。。。あまりにも2人は忙しすぎたのでしょうね。心で繋がっていても、言葉にしないと分からないこともある。
もしや、物語は終盤に差し掛かっているのでしょうか?続き、楽しみにしています♪

うっ・・・うわぁぁぁv-406
かっ悲しすぎます!
ブール候の行動の裏に隠された真実・・・。
自分の命が後半年としって、カカナ君に父親として残してあげられる精一杯の事をしてあげようとしていたなんて。
助けられなかった、母親とお兄さん。
その贖罪の意味でもあったのかな・・・と、思いました。

あぁ、でも最後、ブール候は自身で幕を下ろしてしまったのですね。
微笑を残して。
カカナ君・・・・、カカナ君大丈夫かな・・・。
クラフ君のお迎えも気になりますが・・・、気になることいっぱいでハラハラしてます☆
Secret

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