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「宙の発明家」第二章 五.迎え②

皆の視線が集まるのを感じながら、クラフはどきどきするのを隠すように、毛布の下で胸に手を当てる。淡い茶の瞳がどこか遠くを見ている。
数回、瞬きして。
少年は、顔を上げた。
笑っていた。
「…オレ、帰れるんだな?」

クラフはセキア、大教皇、ピーシと順に皆の顔を見る。
カカナのところで、視線が止まった。

「だめだ、クラフは帰さない」
そう、カカナは言った。
クラフが、じっと見つめると、ゆらりと視線をそらし、またあわせる。こちらを見つめているようで、でも想いは遠くにあるような。疲れ果てた表情。握り締めるカカナの拳が、震えるのに気づいて、リスガはカカナにしがみ付いた。
拳を華奢な手で包む。そうすることで、少しでも想いが通じたら。リスガはそう願っているように見えた。

「君の、意見は聞いていないのだよ、カカナ」
落ち着いたセクトール候の言葉に、カカナは一歩踏み出そうとする。リスガと、ピーシが両側から止める。
「クラフは帰さない!僕と一緒に研究するんです!苔池の病を治すんです!クラフが帰るなど許さない!クラフのせいで父上は亡くなったんだ!クラフだけ帰って、何もなかったかのように幸せになるなんて、僕は許せない!」
「カカナ…」
ピーシは鋭く睨みつけるカカナと、また少し涙目になっているクラフを見比べた。
クラフが、飛行機を壊そうとしていた理由がピーシにも分かった。
金髪の少年が、怯えたように毛布に包まり、その傍らに大教皇が立った。
クラフの肩をやさしくなでる。

「くーちゃんが悩むことではない。くーちゃんは分かっておったろう?だから、カカナには危険なものを教えなかった」
「大教皇様!クラフの持っている知識や技術を、この世界の未来に生かすというお考えはどうなされたんですか?あなたは父上とそういうお話をなさっていたはずでしょう!同じ考えだったはずです!父上だけ悪者にして、あなたはクラフを庇うんですか!」
ぱん、とカカナの頬が鳴った。
リスガが、涙を浮かべて見つめていた。
「!」
カカナは思わず頬を手で押さえて、呆然と少女を見詰めた。
リスガは、カカナの胸に顔をうずめて泣き始めた。

「ふん。クラフ、お前は迷うのか?」

リスガの小さな嗚咽だけが響く室内で、セクトール候が一人、あごのひげをなでながら、面白そうに笑った。
クラフは、目の前に立つ政治家を見上げた。
そして、視線をそらす。

「白い人間たちとの会談はあくまで取引。賢老士会は、お前を元の世界に戻すことを決めた。お前の存在はもともと、あってはならぬもの。そのために、今回の亡きブール候のような悲劇が起こるのだ。お前がいなければ、おかしな発明もわれらの世界を乱すことなどなかった」
セクトール候の言葉に、クラフは何度も瞬きしている。
ピーシはじっと父親を見つめていた。

「お前は存在してはいけないもの。ここに、生かしておくのも我らには危険を伴う。よって、賢老士会は、白い人間たちにお前を引き渡す」
「…そんな」
小さくつぶやいたのは、リスガだった。
「聞こえなかったのかな?賢老士会は、お前をこの世界から追放することに決めたのだ」
セクトール候はその場の全員を、穏やかな笑みすら浮かべて見回した。

「この地から、出て行ってもらう。果てに突き落とすことも出来るが、せっかく迎えが来ているのだ、彼らが二度とここに来ないことを約束させるため、クラフは引き渡す」
ピーシは、じっと父親の顔を見つめた。
目が合っても、そらさない。

「だめだ、クラフは、帰さない!僕と一緒に研究するんだ!」
カカナがまた、叫び始めた。
リスガが悲しげにすがりつく。
ピーシは、カカナの右隣で、腕を押さえながら、言った。

「カカナ!君はクラフのこと憎んでいるわけじゃないんだ!」
カカナは、ぴた、と動きを止めて、傍らのピーシを睨んだ。
「お父上のことで混乱して、憎んでいる振りをしているけど、結局、クラフをそばに置きたいんだ。帰したくないんだ!そうだろ?カカナは、クラフのこと、可愛がっていたじゃないか!寂しいだけなんだ!クラフを傷つけるようなこと言うの、止めろよ」

「分かったようなこと言うな!」

「淋しいんだろ?クラフが帰ったって君は一人じゃないよ!僕だってリスガだっている!君の父上が残してくれた、信頼してくれるたくさんの人たちがいるだろう?クラフだって友達に変りはないんだ!クラフはずっと、ずっと一人ぼっちで、親のいない寂しさを抱えてきたんだ。クラフだって淋しかったんだ!…だから、カカナ、クラフを責めるのは間違っているよ」
カカナは悲しげに、クラフを見つめた。

クラフは、なんと言っていいのか分からないのか、ただ、何度も瞬きしている。
大教皇が、口を開いた。
「のう、くーちゃん。長い間、閉じ込めていて、すまなかったのう。やっと、お前を元の世界に帰してやることが出来るんじゃ。なにも、気にすることはない。くーちゃんは、くーちゃんの世界に戻るべきじゃ」
小さな目を、にこにことさせる老人に、クラフは、思わずぎゅっと目をつぶって、両手で、顔を覆った。
その様子を見つめて、セキアは唇をかみ締めた。
大教皇は、続けた。

「セキア。ご苦労だった。十年もの間くーちゃんを守ってくれたの。感謝しておる。それも、今この時まで。セキアよ、任を解く。以前のわしの聖守護士としての仕事に戻るのじゃ」
セキアは、膝をついて床を見つめたまま、小さく頷いた。
「ご苦労じゃった」

静まり返っていた。
セキアが黙ってクラフの肩を叩き、毛布を取らせると腕のロープを解いた。何か、言いたそうにクラフはセキアを見上げたが、セキアの表情はそれを許さないほど、張り詰めていた。
「セキア…」
両手で目をぎゅうぎゅうこすると、クラフはソファーから降りて、立ち上がった。その肩には、セキアの手が添えられている。
「カカナ、ピーシ、りー、じじい、その、オレ、なんていいって言いか、よく分からないけど、…でも、帰る。帰って、オレ、もっといろいろ勉強したいんだ。知りたいこととか、きっと、たくさんある。それでさ。もっともっと、天才になって。カカナを、手伝うよ。だから、なあ、また来てもいいのかな?」

クラフの薄い茶色の瞳が、大教皇とセクトール候に向けられた。
小柄な老人が、傍らの賢老士を見上げ、一瞬もじもじしたとき、賢老士が口を開いた。
「お前は異世界の人間。こちらに来れば、また、監禁する。それでもよければ、来るがいい」
ピーシが、キタキが、目を細めた。

クラフは、目をこすった。
そして、笑って頷いた。
「のう、くーちゃん。わしらは、くーちゃんの意思を尊重すると、あの白い人間たちに伝えた。くーちゃんがもし、あ奴らに会ってみて、ダメだと思えば、残ればいいのじゃ」
クラフは、首を横に振った。
「オレ、知りたいこと、あるんだ」
「そうか」
大教皇は、視線をそらした。
いつも、穏やかな表情が、今は悲しげに見えた。
「白い、人間たちと会ってみるといい。カカナ、リスガ、ピーシ、皆は席を外しなさい」
セクトール候の言葉に、カカナだけが一瞬、顔をこわばらせた。

隣で肩に手を回していたピーシが、言った。
「カカナ、さよなら言えるの、今だけかもしれないんだよ」
カカナは、整った顔をピーシに向けた。
それから、充血した瞳を、ぎゅっとつぶって。
ため息とともに、開いた。

「クラフ」
カカナの言葉と同時にクラフは駆け寄って、カカナに抱きついた。
「!」
「オレ、言っただろ!皆好きだ!さよならなんか言わない。また、絶対に会いに来る!なんていったってオレ様天才なんだから、出来ないことなんかない!」
「…ああ、お前、甘えん坊だな」
「そんなことないぞ!…また、来るから。空の羊号、あと少しだからさ。一緒に仕上げようよ」
頷くカカナの瞳は、優しい笑みが戻っていた。クラフは、少し顔を赤くして、惜しむようにそっと離れる。
「クラフ、これ、お前が持っていきなよ」
ピーシが、胸に下げていたデンワを、クラフに渡した。
「ピーシ」
「使えるか知らないけど、お前天才だからね。またこっちに来るときは、ちゃんと連絡してくれないと迎えに来られないから」
ピーシは笑う。
クラフは、受け取って、そして、握手した。
「あ、あのさ、リー」
クラフが少女を見つめた。
珍しく、照れたような、恥ずかしそうな顔をしているクラフに、リスガは傍らのカカナに抱きついてみせ、微笑んだ。
「待っていてあげないわよ。…だから、早く戻ってきてね」
「…」
リスガと、ピーシは目を合わせ、二人で支えながら、カカナを連れて行った。
その後を、キタキがついていく。

「セキア」
セクトール候の言葉に、セキアは首を横に振った。
「クラフさまをお見送りするまで、私の仕事ですので」
落ち着いた強い表情の男に、賢老士は目を細め、ふと口元を緩めた。

「長きに渡って、本当に、ご苦労だったな。セキア、お前でなくては、勤まらなかっただろう。そう、先ほども大教皇様と話していたところだ」
大教皇は、は、と息を吐いて、にっこり笑った。
「くーちゃん、面白かったぞ!最後に、言っては、くれんかのう」
クラフは大教皇の前に歩み寄った。少しだけ彼より低い身長の老人に、満面の笑みを、彼にしては本当に珍しく、やさしげな笑みを浮かべた。
「ああ、オレも面白かった!じじいがいてくれて、本当に楽しかった」
「!くーちゃん…」
大教皇は、言葉を詰まらせて、少年と抱き合った。
「…アイシテルは?」ひそひそと、大教皇が耳元にささやく。
「ばか」
クラフは何度も瞬きして、もう一度ぎゅっと抱きしめて。それから、にまっと笑った。
「最高だったよ、じじい、……」
最後の言葉はささやき声に変わって、聞こえない。
クラフの目から、一粒涙がこぼれたのを、嬉しそうに見上げて、大教皇は数歩、少年から離れた。

そして何も言わずに、キタキの後に続いて部屋を出る。大教皇の後ろに、セクトール候が続いた。

セクトール候が、部屋の外に出て、迷路を進んだ一つ目の門に少年が立っていた。
黒髪をかき上げて、ピーシは言った。
「あの、ありがとうございます」
「何のことだね?」
冷たい表情のまま、歩みをとめることもしない父親に、少年は歩調を合わせた。
「僕らでは、素直に帰すことは出来ませんでした。賢老士会の決議かどうかは別として、あなたが、あのように言ってくださったおかげで、きっと、クラフは心置きなく、帰ることが出来ます」
ふん、とセクトール候は口の端を歪めた。

「お前のためではないぞ、ピーシ」
「ええ、でもクラフにも、そして皆にも救いになりました。それは、僕にとっては嬉しいことです」
「ふん、生意気な」
「少し、悔しいですが、クラフが帰ることは必要だと、その考えは同じでした。それから、お父様」
「!」
そう呼ばれたことに、セクトール候は一瞬表情を硬くした。
「僕は、カカナを大切な友人だと思っています。一緒に、研究を続けたいと思っています。学校はもちろん、きちんと行きますから。お気に召さないでしょうが、見ていてください。いつか、お父様からキタキを奪い取れるくらいに、なってみせます」
賢老士は、不機嫌に眉をひそめて、無言のまま、足を速める。
ピーシは、立ち止まって見送った。
父親の姿が、曲がり角の向こうに消えて。
ふう、と肩を落とした。
それから、後ろを振り返った。

クラフのことを想った。
また、髪をかき上げて、背を向け歩き出す。

■■ここまでお付き合いくださって、本当にありがとうございます!「宙の発明家」第二章も残り一話となりました。いよいよ、クラフくんと白い人たちが10年ぶりの再会?を果たします。さて、クラフくんはどうなる!?
らんららの企みにより、明日2/10更新します!
第三章との間に、企画ものを挟もうかと思いまして!
わがまま更新ですが、よろしくお願いしますね!!■■


 続きはこちら!(^^)
「宙の発明家」第二章五.迎え③

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ミナモさん♪

ありがとう~!!
別れのシーン、カカナがあんなだったから、ちょっと大変でしたが。クラフ君にとって、ずっと思い焦がれた故郷ですから。
一番、往生際の悪いのがセキアでしょうね~♪
うふふ。
楽しみにしてくださいね♪

わぁ~♪

すっごい、すっごい。
もう、情景が目に浮かんだもん!!

なんか、みんな素直じゃないなぁ~。
なんて思いながら、一人ニマニマ。(笑)

大教皇さまだけだったなぁ。素直なの(笑)

でも、みんなの言葉とは裏腹に、心の中の熱い思いが伝わってきて、ジーンとしちゃった…。
しかも、ホロリ付き。へへへ。

次話も楽しみ♪

こめんとありがとー(^^)

kazuさん
長かったです、ココまで来るのが。
…思い出せば苦労したなぁと、ちょっと感無量ですね(^^)
物語の始まりではまだ、出会っていなかった彼らが、こうして別れを迎えるまでに作り上げたもの。それがなくては、きっと、こういうシーンにはならなかったんだと思います。
(実は、最初の構想では、ピーシ君もカカナ君もかなり端役だったんですよ^^;)
苦労した分、感動したって言ってもらえて、本当に嬉しいです!!

chachaさん
泣きました?笑いました?
へへ、嬉しい!!
大教皇さまに、クラフくんがなんていったかはご想像にお任せしますv-8
本当は、この回と次回をまとめて更新しようかと迷ったんだけど。気持ちのいい感動に浸っていただくために、分けました。
え?次回が気持ちよくないかって??
ふふ。
どうでしょうか。v-391

楓さん
次回、クラフくんがここにいる理由、分かります!
やっぱり!と、当てられちゃうのかな?当たってたら言ってくださいね!豪華景品を…v-25
もともと構想は二部構成の物語で、このあたりが第一部終了といったところでした。でも、思ったより、第一部が膨らんでしまったので、ちょっと中途半端だけど全三章という形になりました。
ほぼ、半分、と思ってください(^^)
まだまだ、お話は続きます。
また、遊びに来てくださいね!

どうするどうなる?

こんばんわ。
いよいよクラフ君、母国の人たちと再会ですね。
意地を張っていた風にも思えたカカナ君も、いよいよここに来てもうクラフ君と会えないかもと言う思いの前には、小さな心のわだかまりも消し飛んだと言ったところでしょうか・・・良かった。良かったなぁクラフ君。君は本当に人の心を掴むのが巧い。いや、巧いというか、自然と周りをそうさせてしまう不思議な魅力がある。まさに、上に立つべき資質を持っている。
そして、ピーシ。
それに、セクトール候。
白人には「今後の交流を拒絶する」と鎖国政策を打ち立てながら、その一方でクラフ君には「また返ってきても良い」と臭わす。そしてこの一言で、クラフ君は白人と会う決心をする・・・さて、セクトール候の本心やいかに?ですね。一方、ピーシ君が最後にそのことを言い当てたように、彼もまた、立派な政治家として少しずつ成長しているようにも思えます。
「キタキを奪えるほどの人間になってみせる」
宣戦布告ですね。
今まで親の顔色しかうかがってこれなかった息子の成長に、これにはセクトール候もひそかに喜んでいるかも♪ですね。
最後に。
すでにみなさんがコメントされているので控えていましたが、別れのシーン、すごい胸につまされるものがありました。一人一人の惜別の気持ちが凄く伝わってきました。最後までクラフ君のもとを離れようとしないセキアさん、笑顔で別れを告げるおじいちゃん(笑・・・別れのシーン一つにも個性が溢れていて、じーんと来ました。
本当にこのまま最終回になだれ込みそうな勢いですが、まだ3章があるんですよね!!もう一波乱???
楽しみに続きを待ちます♪

はぁ・・・最高><

もう今回が最後の話だとしてもおかしくないほどの感動ものでした;;
事細かく、ここで泣いたとか、ここで笑ったとか書くとかなり長くなるので(笑)
もう全てひっくるめて、最高でした!^^
カカナとクラフ、最後は二人笑い合うことができて本当に良かった!
クラフがここを出ていってしまうのは、またここへ戻ってきた時に研究の糧を身につける為とは・・・本当にいい子ですね、クラフ^^
大教皇にきっと、クラフ言ったんでしょうね☆「アイシテル」って(笑)
セクトール候とピーシの関係も、少しずつ良くなっていきそうな予感ですし・・・
本当、読み応えありましたよ!!

続きは明日!?めっちゃ嬉しいんですが!^^
楽しみにしてます☆

おはようございます!!
くぅ~!!
いいっ!ピーシ君!
ちゃんと、カカナ君の心の声を聞いていたんだ!!
独りぼっちになりたくない、カカナ君の心を。
カカナ君、最後は素直になれて本当によかった。
「アイシテルは?」・・・大教皇様ってば☆
最後、言ったのかなクラフ君。
あぁ、なんだかとても爽やかな気分です。
ドキドキしてきたけど、本当にすがすがしい。
セクトール候とピーシ君も、ちゃんと向き合うことができて、よかった。
きっとお互いがお互いを認め合ったのかなって・・・。
くぅぅっ、セキア様とクラフ君の別れ!
想像するだけで、切なくなってきます。
あすを楽しみにしています!!

企画もの!!楽しみがいっぱいです~♪
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