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「宙の発明家」第三章二.ローザ①

●ローザ1

「そうじゃ、なくて!」
顔を赤くして、クラフは女性を突き飛ばした。
ふいのことで、ローザはよろけて、後ろに転んだ。
「あ、ごめんなさい、あの」
思ったよりずっと、簡単に転んでしまった女性の華奢な体に少年はどきどきしてしまう。同じくらいの身長なのにやっぱり女の人は弱いんだ。助け起こそうと手を伸ばしたとたん、逆に引っ張られて、クラフもあっけなく転ぶ。
「うわ!」
ローザに抱きつく格好になって、慌てて離れる。
「くすくす。ほら、やっぱりまだ、力が入らないでしょ?検疫で一週間、手術してもう一週間、ずっと眠っていたんだから」
座り込むクラフを尻目に、ローザは勝ち誇ったように笑った。無邪気とも思える笑顔は、可愛らしい。東洋人のハーフだからか。十代後半くらいに見えた。
クラフは子ども扱いされて、いいようにからかわれているのが分かるのに、ドキドキしてしまう自分を持て余していた。
その視線をどう思ったのか、ローザは、ふと真剣になる。
「お父さんに会いたいの?お母さんに?」
女性の言葉に、クラフは黙って、うなずいた。
座り込んだままのクラフがじっと見つめると、ローザは瞳を潤ませているようだ。優しい人なんだ、クラフは目を細めた。
「ごめんね、今はまだダメなの」
「どうして?」
「博士は忙しいのよ。遠いところに出かけているの。それにね、もっとたくさん検査をしてからでないと許可が下りないわ」

「会いたい」
それは、本音だ。

ぎゅっと抱きしめられた。ローザの見た目からは想像できなかった胸の柔らかさに、少年はどきどきしていた。
女の人の匂い。
クラフは目を閉じた。
しばらく、甘えてみることにした。


クラフのいる場所は、軍の病院内の付属施設の研究所だということだった。
ローザはその病院に勤務している医師だといった。
「私は君の担当医なの。軍の病院だから、他の病院みたいに外来を受け付けることはないのよ。だから、担当する患者さんの診察や手術のあるとき以外は、君のそばにいてあげられるわ」
そういって、出来るだけいつもそばにいようとした。
クラフが視力のことを告げると、ひどく同情して、治してあげるといった。
ローザが自ら食事を持ってきてくれたり、夜クラフが眠るまでそばにいたりするのを、クラフは黙って受け入れていた。

「ローザ、散歩行こう!」
昼食を済ませると、クラフがローザを誘う。
白衣のローザは昼食のトレーをワゴンに乗せると、仕方ないわね、といった風に笑って、二人で手をつないで研究所の廊下を歩く。
クラフは、目の保護のためにサングラスをかけ、フードのついた軽い素材の上着を羽織っている。季節は冬なのだが、研究所内は一定の温度に保たれているから、クラフの服装はいつも薄着だ。宙は常に十度以下という寒い気候だった。クラフはこの研究所内でも暑く感じていた。
ジーンズにスニーカー。サングラスの少年が、同じくらいの身長の白衣の女性と連れ立って歩く姿は、一種異様なのだが、数日もすれば、研究所内で知らないものはないほどになった。
もともと、さして、広いところでもない。入れてもらえない個人の研究室や資料室、地下の実験室以外は三回目ですべて行きつくした。三階建ての一棟の建物だ。
「ねー、ローザ、外に出たいよ」
窓のない建物の廊下から、エントランスのホールに出ると、クラフは玄関口を眺める。
そちらに向かおうとすると、ローザはいつも怒るのだ。
「だめよ。まだ、感染症の予防接種が終わってないわ。安全じゃないの。いい子だから、外には出ないでちょうだい」
「いやだ!ボク、外に出る!」
ぐんぐんとローザの手を引っ張って、玄関を目指す。
「こら!」
ローザの声を聞きつけたのか、エントランスにある警備室から、警備員が出てきた。
「こら、クライフ!ダメだって言ってるだろ!」
お腹の出た中年の警備員のビイが、わざと怖い顔をして、クラフの前に立ちふさがった。警備員も皆、クラフのことを少し発達の遅れた子供として扱っていた。
「ちぇー、つまんない」
「さ、クライフくん、お部屋で本を読みましょ。今日はなにがいいのかな?」
「むー…科学の本がいい!カッコイイ飛行機とか乗っているの」
「科学?」
「そう、サイエンスって言うの」
「!?知ってるの?」
「あ…そういうの、お父さんが、ボクにくれたんだ。あっちに行っていたときに読んだよ。いっぱいあったんだ。あとね、勉強の本。数学とか、えと、地質学とか」
本当に読んでみたい、論文集や、科学書、辞典の類は頼めない。
「ふうん。じゃあ、分かりやすいキッズサイエンスにしましょうか。用意させるわ」
「オトナのがいい」
「わがまま言わないの。さ、お部屋に戻るの」

昼二時。
本来、十五歳の少年がお昼寝など出来るはずもなかった。
傍らに見守るローザをちらちら見上げながら、寝たふりをして、ごまかす。つないでくれる手が気持ちいいのは、セキアのせいだと、密かに責任転嫁している。
かけてくれた毛布を、上からやさしくぽんぽんとたたかれ、何となくいい気分になって、結局いつも、昼寝してしまう。

一週間、ただローザだけを相手に生活して、クラフは建物内の様子をたいてい理解すると、この、穏やかな日々にも飽きてきた。
ローザが悪いわけではない。

かつて、宙に取り残されてすぐ、世話をしてくれた女性をローザと重ねた。大人しくて、性格はローザとは違ったが、クラフを見つめる穏やかな視線は同じだった。
女性ってものはどうして、小さな子供に対してこんなに優しいんだろう。

クラフは、本気でお母さんを思い出してしまっている自分に、苛立っていた。思い出せば、会いたくなる。
何度、それを訴えても、かなえられなかった。
抜け出すことも出来ず、相変わらず、部屋の鍵は閉められたままだ。
これでは、宙にいた頃と何も変わらない。


その晩、いつものように寝かしつけようとするローザに、言った。
「外に出たい!」
「ダメよ」
「父さんに会いたい」
「博士は忙しくて…」
「お母さんに会いたい!」
「博士の許可がないとだめなのよ」

「カーチスは?ボク、カーチスに会いたい!飛行機の話するんだ」
ローザの表情が、変わったことにクラフは気づいた。
「!カーチスを知っているの?」
「え、ええ。お友達なの」
少年はじっと、大きな瞳でローザを見つめた。
ローザは少し頬を赤くして、目をそらす。
「もうすぐ消灯時間よ。さ、寝てちょうだい」
「いやだ!ボク、外を散歩する。もう、ここに来て一週間なのに、一度も外に出してくれない」
「もう。何度も言ったでしょ?言うこと聞かないと、明日は嫌いなお野菜、たくさん入れてもらうわよ?」
「……」
それは、本気で嫌だ。
クラフは、毛布にもぐりこんだ。
「さ、いい子ね」
毛布ごとぎゅっと抱きしめられ、額にキスされる。
その習慣は宙にはなかったし、あっても、セキアがするはずもないから、クラフには刺激的で気に入っていた。
目を閉じた少年を見て、ローザは穏やかな笑みをもらす。
部屋が暗くなり、ローザが戸口から出ようとしたその時。

クラフは、扉が閉まる寸前で、ローザを押しのけるように飛び出した。
「!クライフくん!?」
ローザが止めようとするのも無視して、駆け出す。細い白い手を振り払って、それに少し、罪悪感を感じながら。それでも、クラフは外に出たい。
いつかやろうと思っていた。子供の振りをしている間は、何をしても大概許されるからだ。今なら、挑戦できる。
オクトが戻るか、カーチスがここを訪れれば、子供の振りをしていることがばれてしまう。その前に実行あるのみ。

ローザ2へ続く♪
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コメントありがとう!

ふふ、邪推大歓迎!
昨晩は珍しく同居人がパソコンを独占!?おかげで何にも出来なかった…新手の手法かしら(><)

kazuさん
そうなんです、クラフくん。馬鹿なようで考えている(らしい…)常人には理解しにくいこと、やります。
ま、きっと甘えたいのもちょっとあるんでしょうけど(^^;)

>くらふ「そんなことない」

これからカーチスさんとローザさん。二人がどう関ってくるのか、楽しみにしてくださいねー!!

chachaさん
クラフくん、甘えるふりは慣れていますから!セキアさんで…

>クラフ「だから、甘えてないってば」

脱出、できるかなぁ?今まであんまり、そういうことしたことなかったですね、そういえば。やっぱり、セキアさんがいるといないとでは違うんですね!

>クラフ「だから、甘えてないって言ってるだろ!!」

ちょっと騙されているローザさん、どうなるんでしょうね(^^)
>クラフ「無視すんな!!」ガツ!

…クラフくん、もっとつらくさせちゃうよ?
>クラフ「…ごめんなさい…」

そうか!

クラフ、うんうん、みんなが言ってるように、何だかクラフらしくないなぁって思ってたんですが・・・
演技だったのか!やるな!^^(笑)
確かにでも・・・ローザさんにはちょっと罪悪感抱きますけど・・・
ずっと閉じ込められたままのクラフの気持ちもわかって欲しい!><
さぁクラフ、脱走成功なるか!?ドキドキ@@;

kazuさんも言ってますけど・・・
ローザさん、どうもカーチスとわけありですね~むふふ^^

こんにちは♪

うーん、クラフ君。
そういう考えで、幼く振舞っていたんですね。
もし、失敗しても事情を知る人がいなければ、ごまかすことができる。
本当に、頭いいなぁ、クラフ君。
ローザさんに少し罪悪感を感じるけれど、それでも!この状況は、本当に辛い。
せめて、お母さんを!!
あわせてあげたいです。
カーチスさんの名前を聞いて、少し頬を染めたローザさん。
付き合ってるのかな?それとも片思いかな?
そんな邪推をする、kazuでした♪

桜さん

ありがとー!
更新が早いから、読むほうも大変ですよね、ごめんね!
インデックスを見て、我ながら長い話だ、とため息ついてみたり。
心からクラフくんのこと心配してくれる人。必要ですね。
ローザが、そうなるかな?
まだまだ、クラフくん、いろいろな人に出会わなきゃいけません。見守ってやってくださいね!v-345

花さん

ありがとう!
そうなんです。急に幼児化現象起こしていましたが…。
この状況、いずれ、すっきり?どうかな?
サブタイトル「逆転」あたりまで、もう少し我慢が必要かな。
今はまだ、お父さんとも対峙していないから。ちゃんと、いずれ。白黒付けなきゃですよ。

こんばんは☆

随分ご無沙汰してしまいましたが、ようやくここまで追いつきましたー♪
らんららさんの小説は一度読み始めると止まりませんっ!

クラフの周囲の状況が二転三転して、ほんっとーにドキドキものです。
ここにも、心から本気でクラフのことを考えてくれる存在がいることを祈りつつ――
けれどクラフ自身が前向きで強い心を持っているから大丈夫!と信じて、続きを楽しみにしています☆

なるほど、クーちゃんがやけに子供っぽいなと思ったら、そうふるまっていたわけですね。
それにしても…ムカつくなぁ。肺の中に墨が溜まってるみたいですよ(-"-)
『変わらない?』というタイトルも、監禁状態という面から見てあぁそうか、と思いましたけど…より悪化してるイメージです。うぅ、またムカムカしてきた…。
クーちゃん!愚かな大人たちをアッと言わせてやるんだ!
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