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「宙の発明家」第三章三.檻の中の狼②

●檻の中の狼2

こちらに来て何日目になるのだろう。
クラフは、届けられた雑誌と本の山に囲まれながら、変わり果てた部屋で一人作業をしていた。
部屋は、窓際にテーブルがぴたりとつけられて、広く開いた真ん中に分厚い本がアルプス山地のように高低をつけて広がっている。
ベッドの上には、くしゃくしゃになった毛布と散らかした服。

少年は本を積み上げた山脈と山脈の間に、座り込んで、足元に広げた図面とたくさんのメモに何か走り書きしている。
「そう、そこの耐性がちょっと低いね。うん、そう、気密を高めるには間の素材の精度が問題なんだ。ほら、ぺたっ葉の元のやつ、ゼリーの、あれをさ、高温で圧縮するといいんだ。分かるかな」
扉が開いて、男が入ってきたことにも気付かない。
「そう!ピーシ、勘がいいな、でさ、コックピットのガラスだけど、やっぱり変更しなきゃだめだと思う。気圧変化に耐えられないからさ。うん、まだ、考えてる。重さが変わるとまた、バランス変更しなきゃならないから今は、まだ、計測しなくていいよ」

クラフが夢中になって、走り書きしているメモを、カーチスが覗き込む。書かれているのは、古英語と何かの数式。それと、構築比率の計算式のようだ。素材の元素記号が、並ぶ。
抗圧試験の結果数値をさらさらと並べて、手書きで簡単なグラフを書く。必要な強度指数のところで縦に線を引く。
ここまでが、必要な強度、と、メモ。

「そ、素材のこと決まったらまた、連絡するよ。ああ、俺元気だよ。大丈夫。あ?セキア?いいよ、代わらなくても。だって、話すことないから。じゃあね」
少年が銀色の巨大豆のような機械を耳から離す。

「よお」
「うわ!!」
思わずクラフは背後の本の山脈を崩しかけた。
カーチスはにこにこして、クラフの手元を覗き込んでいた。
「なんだ、カーチスか、びっくりした」
クラフはささっと、書類をまとめる。くるくると図面に挟み込んで丸めると、本の山脈の下にある空洞にしまい込む。
「なんだ、今の」
「うん、ほら、向こうで作ってる飛行機の図面」
「見せろよ」
「やだね、それよりさ、ほら、見て」

クラフがカーチスを引っ張って、一番窓際のテーブルのところにつれてくる。間の山脈や書類の川をまたぎながら、青年はあきれ返った。
「なんだ、こりゃ。すごいな、これほど散らかす奴、初めて見た」
クラフはお構い無しだ。

「見てみて!これ!」
見上げたクラフの顔のあちこちに、白いものがついていた。
「なんだ?」
クラフの差し出した手には、両手に丁度乗るくらいの、車があった。
真っ白いもので出来ているそれを、カーチスはじっと見詰める。確かに精巧に出来上がっている。

「あれ?すごくない?」
カーチスの反応にがっかりして、クラフは大事そうにそれを抱えて、窓際のテーブルにのった冷めた食事のトレーを肘で押しのけ、開いたスペースにそっと置いた。

「それ、作ったのか?」
カーチスは部屋を見回しながら、どこにケーキをおくべきか考えているようだ。
「紙粘土でクレーモデル、作ったんだ!ほら、カーチスのクルマと同じだろ?」
「ん?そういわれれば、そうだな」
「キッチリ、100分の1サイズだ。コレ、乾かして、色付けるんだ」
楽しそうに笑う少年に、カーチスは釣られて笑った。
「そうか、それ、お前が作ったんだな」
「そ」
「そんなことしなくても、頼めば買ってきてやったのに」
「何を?」
「同じタイプのラジコンとか、模型とかさ。どこでも売っているぜ」
「!?走るのか?」
クラフは目をまん丸にしている。落胆の色を隠せないので、カーチスがにっと笑った。
「ああ、それにしても、お前、器用だな。この図面から起こしたのか」
「そう。オレ様天才だからさ。ほら、あっちに、エンジンの模型もある。ローザがけちだから、金属加工させてくれないし、材料だって、粘土と紙しか用意してくれないんだ」
クラフはそう言って、口を尖らす。
ハサミやナイフを使う必要のあるものを与えないのだろう。

カーチスは、いくつかの本の山を乗り越えて、テーブルの脇のクラフのところにたどり着くと、ケーキを渡そうとした。
「ほら、これ、気に入ったんだろ?」
「…いらない」
「…本当にいらないのか?」
「ローザになんか言われたんだろ?それで、持ってきたんだろ?」

カーチスは、箱を一番高い本の山の上に置くと、クラフの肩に両手を置いた。
「お前、何にも食べないそうじゃないか。診察も受けないし、訓練も。彼女心配していたぞ」
「うそだよ。ローザはオレのこと、嫌ってる。ただ、仕事だからそうしてるんだ。ローザが俺のこと好きならやる気も出るけど、無理だよ。我慢するの止めたんだ」

クラフの肩はほっそりと頼りなく、顔色も悪い。
ローザの話では、今日で七日。最初は拗ねているだけだと放っておいたらしいが、一向に食事を要求しないので、三日目からとにかく、差し入れるだけはしているという。診察させないし、このままでは、強制的に点滴、と言うことになるという。
拒食症状が出る前に、何とかしたいのだ。
それで、クラフが唯一懐いているカーチスに依頼があったのだ。
きっかけは、一通り聞いてある。

「ローザがいなくなればいいのか?交替して他の人になるとか」
「…違う」

クラフはうつむいた。一瞬、セキアを思い出す。

「このままじゃ、お前、死んでしまうだろ?俺はいやだぜ、そんなこと」
「じゃあ、自由にさせろよ。外に出せ、オレ、家に帰りたい。母さんに会いたい。日の光で見えないのはいいよ、もう。サングラス買ってもらったからそれでいいんだ。父さんがオレに会いたくないならオレだって無理に会いたいとは思わない!でも、オレは、普通の生活に戻るためにこっちに帰ってきたんだ!」
見上げる少年の目が真剣でカーチスは思わず目をそらした。
出来ない。
男の態度はそう告げている。クラフは手を振り払って、ぴょんと本の山を飛び越えた。
が、着地に失敗してよろめいた。
「!クラフ!」
転びかけた少年はそのまま座り込んでしまった。
無理もなかった。


檻の中の狼3へ続く♪
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ユミさん(^^)

一つ一つ丁寧にコメントありがとう!!
嬉しいv-290
ほんとに、クラフくんの絶食の意気込み、らんららもダイエットにいただきたい…あ、願望が出ているかも…。

クラフくんっ!!

とにかく、寂しいよね!!両親に会えないことも、自由になれない
ことも。何より、自分が何かの実験になっていることも(>_<)
唯一心を開いているカーチスさんも、クラフのために、一生懸命
よくしてくれるのは、分かるんだけど、それはクラフを満足させて
あげられるわけじゃない。

そうそう、デンワつながったんですか?!
それによって、少しでも気持ちが楽になればいいのにな~。

ご飯食べて、クラフくん!!
どんなことがあっても、生き抜いて宙に戻れるように…。

コメントありがとう!

kazuさん
そうです、クラフくん、宙の世界と関っていると元気ですよ!セキアさんは一人で拗ねている状態でしょう!
絶食。よく、クラフくんにはさせていますね…今回のはちょっと、理由が。
いえ、たいした理由じゃないですが。クラフくん的には重要!

chachaさん
心配してくれて、本当に嬉しい!ローザさんじゃなくて、kazuさんやchachaさんだったら、こんなことしないんだろうけど…。
七日。
想像もつかないですね。
今度、やってみようか。
倒れるかな?

あらら…

クラフ、かなり弱ってるじゃないですか!
7日間も食べてないって…信じられない!><
ダメだよクラフ!死んじゃうよ~;;
本当に心配です。どうなるんだろう…クラフはどうするつもり??
きっとクラフのことだから、何の考えもなしでこんな状況になってるわけ、ない!

デンワ、使えるんだ!ピーシと飛行機について話してたけどまさか…?

早く、誰かクラフを助けてあげて!><

クラフ君・・・・

ローザさんに甘えることで、この状況を我慢してきたんですね。
そして、ローザさんにとってもいい子でいた。
でも、ローザさんに嫌われているのなら、我慢なんかしない。本心だなぁと思います。
電話!宙と繋がっているんですね!!
さすがクラフ君の作った電話♪
ピーシ君との話し、とても専門的ですんごいリアルに感じますね。
話すクラフ君も凄いけど、理解するピーシ君も凄い。一瞬、電話を取り上げられたら嫌って思ったけど、カーチスさんにそんなそぶりがなくてよかった。
セキア様と話すことないって、クラフ君たら。心配してるよ、きっと。

ご飯を食べないクラフ君・・・
体壊しちゃうから、カーチスさんの差し入れケーキは食べてね。
座り込んでしまったクラフ君。心配です・・・・
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