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「宙の発明家」第三章四.夢の国⑤

●夢の国5

すっかり機嫌を悪くしたクラフは、ランチのレストランでもほとんど何も手をつけない。ミッキーの形のハンバーグも、派手に飾られたチキンレッグも、手をつけずにじっとしていた。
悔しかった。
「おい、クライフ。機嫌直せよ。な?ほら、ショーが始まるぞ」
「…」



つまらなそうに、フォークの先で果物をひっくり返す。先ほどからつつかれて、りんごは穴だらけだ。
その様子を、じっと見ていたローザが、ふと息をはいて笑った。
「ね、レストルームで、診察させてくれる?無理していなければ、少しは考えてあげてもいいわ」
クラフが勢いよく顔を上げた。まん丸な目をして、ローザを見つめる。ローザは少年の額に手を置いて体温を確かめていた。
「なあに?そんなに驚くことかしら。ただし、私もアトラクションには一緒に参加するわよ。でなきゃ、許可しないわ」
クラフは思わずローザの手を両手で掴んだ。
拝むように見つめると、ローザは少し照れたように笑った。
「ローザ、綺麗だ!ありがと!」
「ばか、お前声がでかいぞ!」
ショーを見ていた観客が、皆こちらに視線を向ける。
ステージの上で、ミッキーマウスがターキーレッグを片手にクラフに向かっておいでおいでをした。先ほどのグリーティングであったミッキーだろう。
「こっちにもあるんだ」
クラフは自分のチキンレッグを掲げて見せると、舌を出す。
残念そうにミッキーマウスは他の子供にまた、おいでおいでを始めた。
クラフはおなかがすいていたのだろう、そのままチキンにかぶりつく。カーチスが笑う。
「午後はロックンローラーコースターだよ!絶対だからね!」
そう言って、嬉しそうにクラフはハンバーグのミッキーを分解し始めた。


「ほら、寒いだろう、これ」
カーチスの差し出したホットチョコレートを受け取ると、クラフは赤くなった頬に何度目かのとびきりの笑顔を浮かべた。
「やっぱり、サングラスないほうがいいわね」
ローザがクラフの額にかかる髪に触れた。クラフは少し気恥ずかしそうに何度も瞬きする。その様子を、ローザの隣に立つカーチスが見つめていた。
時刻は二十四時を迎える。そろそろ閉園が近づく。
今は、最後のショーを見ようと、三人で一番よく見える場所を陣取って、星空を眺めていた。フェンスに寄りかかり、クラフは腕に顔をうずめた。ホットチョコレートの香りが漂う。
「あっという間ね」
ローザが、星を見たまま、ぽつりと言った。
「んー美味しい」
ホットチョコレートをふうふうしながらクラフは聴かない振りをする。
この時間を惜しむ気持ちは、カーチスも同じだった。
冷たい風が吹き抜ける。
晴れた空には星を覆い隠すように切れ切れの雲が薄いベールのように流れている。綺麗にライトアップされたアトラクション、たくさんの電球に彩られたツリーやリース、赤、オレンジ、黄色。クラフの足元にある池の水面にはそれが二倍にも三倍にもなって揺れる。

クラフの隣で、青年が同じようにフェンスにもたれかかる。
「悪かったな、結局、いくつか乗れなくてさ。お前の体のことなんて俺、考えてなかった」
クラフは、黙って首を横に振った。
二度と、手に入らない。それは、怒っても泣いても同じことなんだ、クラフはにじむイルミネーションに目を細めた。
失ったものもある、でも。代わりに得たものもある。クラフは胸元に下げた銀色のデンワを握り締めた。
大丈夫、がんばれる。

花火が上がった。
音楽が流れ、それにあわせてミッキーが現れる。
手に持った魔法の杖。
星に願いを。

花火に赤く照らされる少年の頬が、きらりと光る。

クラフは、ホットチョコレートを一気に飲み干すと、ごしごしと目をこすった。
隣の青年を見て笑った。
「ありがと。初めて、帰ってきたんだって、そう思えた」
カーチスはクラフのかぶっているサンタミッキーの帽子をさらに深くかぶせ、笑った。
「俺だって楽しかったぜ」
「私も」
ローザの言葉に、二人は女性を見つめた。初めて来たというローザは、一番どうでもいいって顔していたくせに、結局、子供のように楽しんでいた。
青白く照らされた横顔に、淋しげな笑みが浮かんだ。

「私、子供がいるのよ」
その発言には、カーチスが固まった。
「ふふ、離婚していて。私の仕事、忙しいし、家族の世話なんか出来なくて。向こうに、取られてしまったのよ。あの頃、四歳だった。もう、三年、会ってないなぁ」
ローザは、星を見上げたままだ。その表情は分からない。

「最初に、ね。クライフの話を聞いたときから、ずっと君の心臓や肺を開発しながら、どんな子だろうって。本当に、研究に没頭すればするほど、興味がわいて。経緯からは十五歳の無知な子供だろうと、そう思ったのね。
いざ、連れ帰ってみれば、五歳のときからずっと、閉じ込められて育ったって言うじゃない。見掛けも思ったよりずっと、小さくて。言葉も、小さい子みたいで。
この子は五歳のままかもしれない、そう思ったら、子供と重なっちゃったの」

「オレそんなに小さくない…」
小さくぶつぶついう少年の肩にカーチスが手を置いた。
「ふふ、ごめんね。君が、本当はちゃんと年齢相応の、普通とは言いがたいけれど、まあ、五歳児じゃないって分かったときに、すごくがっかりしちゃったのよ。しかも演技できるくらい賢くて。勝手に期待して、勝手に失望していたの。大人げなかったわ。ごめんなさい」

振り向いたローザの表情は美しかった。クラフは綺麗な大きな瞳で見つめられて、思わず大きく首を横に振った。
「オレも、悪かったよ、ごめん」
「それから、カーチス、ごめんなさい。子供がいること、黙っていて。もう、一生会わないつもりだから。忘れてしまいたかった」
不意にカーチスがローザを引き寄せて抱きしめたので、クラフはホットチョコレートのカップを取り落としそうになる。
大人二人が後ろでいちゃいちゃし始めたので、クラフは目をそらした。
「ちぇ」
クラフはミッキーのステッキにあわせて夜空に開く花火を見つめていた。
「すげー。あれ、炎色剤、バリウムとか入ってるのかな、あの色!おお!?ミッキーの形だ!うわ!」
一人で感動しながら、その花火の向こうに宙を想像し、心に決める。
必ず、帰る。その時にはこの花火、持って行きたい!きっと皆びっくりするぞ!皆に、見せてあげたい。こんな、きれいなものがこの世にあること。

リースの飾られたゲートを、名残惜しそうに振り向きながら、クラフが歩く。
次にいつ外に出してもらえるかわからない。クラフは、すべての景色を記憶にとどめようとするかのように、何度も何度も振り返る。また来る、絶対に。そう心に誓っている。
それは何もクラフだけではないだろう。
この魔法の国にはそう思わせる何かがある。

傍らでしっかり手をつないでくれているものの、カーチスは反対の手で肩を抱いているローザに夢中だ。
急に二人が立ち止まって、後ろに小さくなっていくツリーを見ていたクラフは転びそうになった。
抱えていた大きなポップコーンカップが転がる。キャップが閉まっていたから、中身は無事だ。
「なんだよ!危ない…」
三人の前には、黒塗りのリムジンが停まっていた。
男が三人降りてくる。
「カーチス中尉、世話をかけたね」
オクトだった。
後二人は、この夜中にサングラスをしていて、いかにも怪しい。少し浮かせた脇の構えに、黒いスーツの下に銃を持っていることが分かる。
「博士」
ローザが目を丸くしていた。
「すまないね、デートの邪魔になっただろう。さ、クライフ、おいで。お前は我らと帰るんだ」
二人の眼鏡男に両手を取られ、クラフは引きずられるように、車に乗せられた。
何度も、カーチスのほうを振り向いて、悲しげな視線を送る。
それを、二人はただ黙って見送っていた。
「…博士、ワシントンから戻ってきたのね。交渉が、うまくいかなかったのかしら」
オクトの表情からローザが予想する。
カーチスは足元に転がったポップコーンカップを拾いながら、ため息をついた。
「ペンタゴンの許可が下りれば、また、BSAに行くことになるのにな。クライフは、行きたがっているんだ」
「!あの子は、もうだめよ、負担が大きいわ」
「ま、普通の生活ってやつ、返してやるべきだよな、本来なら」
「ええ」

「母親に会わせてやりたいな」
「ええ」
「君も、会ってきたらどうだい?」
「え?」
カーチスはにっこり笑っていた。

取引①へ続く♪
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ミナモさん♪

ディズニーワールド!!
楽しそうでしょ!?

かなり本物に近いですよ。
アトラクションは実際にあるものです♪ただ、中身までは分からないのでアドリブが入っていますが…この資料を調べていて、「行きたい~フロリダ」病になっていました!

夢の国。
ローザさんとクラフ君。仲直りさせたくて。カーチスもがんばってくれました♪
ああ~楽しい時間が終わるとクラフ君。いよいよ…対決です!!
見守ってやってください~

ほんとに、夢の国♪

お久しぶりです~♪
ちょろちょろとは、お邪魔させてもらってましたが、
今日は一気に読み進めました♪

いや~、ディズニーワールド。

行ったこともないれど、ほんとにその場に居るかのような楽しさで、クラフと一緒に、アトラクションを楽しみました♪

夢の国。
ここでは、心のタガが外れるのですね。
ローザの過去。
そんなことがあったんだね。

大丈夫、カーチスは受け止めてくれるもんね。

楽しいひと時でした。

ユミさん

ふふ、ありがとう!ローザさんと仲直りして、やっと、味方が二人。仲直りのきっかけがほしくて、ディズニーワールド書いてみました。思ったより楽しくてつい、長くなってしまったのだけど。
さ、これからがクラフくんのがんばりどころです!応援してやってください!

半分の気持ち

あぁ、良かった!!クラフくんの気持ち、ローザが分からなかった
わけじゃなくて。そういう事情があったんですね。ローザにも悲しい
過去が…。
そして、自分の子供とクラフくんを重ねていたって。辛かったでしょうね。
ローザにとても優しい心があって、微笑ましく思っていたのに…。
オクト登場ですか(>_<)強引にクラフくんを連れていっちゃって。
も~、父親だからって何でもしていいってわけじゃないんですよ~!!
クラフくんの楽しかった時間を、奪っちゃって!その前に、クラフくんの
体や自由も奪っているというのに;;
カーチス&ローザの言うように、普通の生活させてあげたいです。
Secret

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