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「宙の発明家」第三章五.取引④

●取引4

「さあ、クライフくん。続けたまえ」
ヴェデリット大佐の黒い目が、面白そうにクラフを見ていた。少年はまっすぐ見据える。
「人口は約八十万人。土地の六割が開拓されていない山地と苔池と呼ばれる沼地。これを、唯一の宗教で保護しているんだ。なんて名前の宗教なのかは分からない。だって、国と同じでそれしかないから、他と区別する必要がないんだ」
「統一されているということかな?」



「うん。ちょっとカトリックに似ていると思う。宗教上の一番上の地位に大教皇と呼ばれる人がいるんだ。その下に司教会という合議制の七人の聖職者がいて、それぞれの街の聖堂を統べているんだ。政治家はまた別で、七つの街それぞれに賢老士と呼ばれる代表がいる。彼らは大教皇より身分としては下になるけれど、政治的な判断は賢老士会に分があるみたいだ」
「よくわかったよ。では、われわれが交渉するなら、賢老士会にということかな」
クラフは視線をそらした。手元のグラスのジュースに問いかけるようにまなざしを向けた。それから、一口飲み込む。

そう簡単に、宙へ行けるわけじゃない。カーチスがあの時言ったんだ。
宙から戻る時に。
世界に一つだけの飛行船だと。
だから、まだ、大丈夫だ。投げかけてみなくては、反応を確かめられない。目的を達成できない。

「…交渉は、難しいと思う。あの世界は、自分たちのいるその世界しかないから、だから争いもないし、バランスが取れているんだ。他の世界があって、新しい物が入ってくると、それはよくない影響を及ぼす。それを、宗教で戒めているんだ。だれも、違う世界があって、そこに人間がいるなんて信じていない」
「クライフくん。争いのない世界など、ありえないのだよ」
サラダに続いて出てきた、子牛のタリアータが、薄く削ぎ切りの状態で出てきたことにほっとしながら、クラフはそれを口に放り込んだ。
薄桃色の柔らかな肉は、ほんのり甘いバルサミコのソースとコショウの辛味が効いていた。

「おいし!」
やっと、クラフに笑顔が浮かぶ。
「あの、ヴェデリットさん。出来ればあの世界を、そっとしておいて欲しいんだけど」
「それは、出来ないね。うん、旨いな」
男も肉をほおばる。
オクトだけが皿を前に、ただ、二人のやり取りを聞いている。

「ボク、クリスマスプレゼントにコンピューターが欲しい」
唐突にクラフが言った。
思わずヴェデリット大佐はむせた。
「クライフ!」
嗜めるオクトを手で制すると、大佐は少年を見つめた。

視線は、皿の肉に向けたまま、クラフは続けた。
「持ち運びできるのがいい。それから、家に帰りたい。母さんに会いたい」
「なんだ、会わせてないのか?ロイズ博士」
大佐はオクトを見つめた。苦い表情で、オクトがうなずく。
「それと」
「なんだ、まだあるのか!お前は!」
父親が頬を紅潮させて、立ち上がりかけても、クラフは真剣な落ち着いた表情だ。逆にヴェデリット大佐は面白がって見ている。
その大佐の顔をじっと見つめて、クラフは言った。

「自由になりたい」

クラフは返事を待った。
オクトが、視線を皿に移して、ため息を一つついた。
「申し訳ございません、大佐。わがままな上に、常識を心得ないものですから」
「面白い子じゃないか」
「なあ!」
クラフの問いかけは無視された。
「きつく言って聞かせますので」
「言って聞くような子供でもなさそうだが」
「なんだよ!無視するなよ!」
「クライフくん、君のおねだりを聞きに来たわけではないのだよ」
ヴェデリット大佐の声が少し低くなった。迫力が加わる。
クラフは黙って、椅子に座りなおした。
折角整えた前髪が、また、くせなのだろう、ゆらりと右にはねていた。
「…ごめんなさい」
うつむいて、デザートにも手をつけない少年に、大佐は表情を緩めた。
「コンピューターは午後には届くよう手配しよう。だから、今夜は大人しく言うことを聞くんだ。いいね?」
「!本当?」
目を大きく見開いて、少年の表情は明るくなる。
「ああ、約束するよ」
「あの、夜、何をするんだ?」

オクトが咳払いをする。
「まあいい。いずれ分かることだ。クライフくん、デビット・ニービア氏を知っているかい?」
クラフは首をかしげた。
「元大統領なんだよ。今は地元の環境問題や福祉に力を入れている人物だ。現大統領の父親にあたる。今夜、このホテルで、環境問題の講演とパーティーがある。彼に、君を紹介するつもりだ」

クラフは、デザートの丸いシャーベットが柔らかくなって皿の上ですべるので、苦戦していた。白いシャーベットをチーズケーキの壁に追い詰めて、カツ、とスプーンの音を立てて一口分をすくい取る。やっと一口目にありついて嬉しそうに笑った。
「いいよ、分かった。で、その人、BSAのこと、知っているんだよね?元大統領なら」
「ああ。そうだよ」
大佐が目を細めた。
「聡い子だね。さすがに、君の子だ、オクト。いずれ、研究所に迎えるのかい?将来が楽しみじゃないか」
オクトの眉間にしわが貼り付くのを見て、クラフはもう一つのピンク色のシャーベットを今度は丸ごと口に放り込んだ。

「ボク、お父さんの研究の後を継ぐよ!ボク、またBSAに行くんだ」
「お前はだめだ」
オクトの口調が荒くなった。大佐は驚いた顔をしている。
クラフは、予想通りだったのだろう、相変わらず、嬉しそうにデザートをつついていた。
目的は、まず、果たした。クラフはシャーベットで冷え切った唇が温かい紅茶にとろける感覚に、小さく息をついた。

取引⑤へ続く♪
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ユミさん

コメントありがとう!
クラフくん、がんばりますよ!
まだまだ、試練はあるけどとりあえず目的のために一歩、ですね!

大佐が低い口調になったとき、ちょっとビクビクしてしまいました^^;
も~ぅ、結局この人も、大人の勝手な事情でクラフくんの気持ちを
引っ掻き回すヤツなのね…って。
でも、いちおうパソコンを届けてくれる約束をしてくれた。
オクトより、いい人♪

クラフくん、だいぶ冷静に対処してますね。
いい感じです♪目標達成のために、確実に、着実にね!!

優しくして…

kazuさん
へへ、ちょっとすっきり?この後もっと、すっきりすると良いんだけど♪
殴ったり、苛めたり…そんなそんな(…それも良いかな?)
優しく…楓さん同様ちょっとドキッとしちゃいましたv-405


楓さん
ふふ、浅い奴です、オクトさん♪マー様のような深みは与えません、そんなそんな。(…悲しみがよみがえっている…)
優しくしてあげて!!…意味もなく叫んでみる。

本当に。
クラフくん、着々とがんばってますよ!がんばれ十五歳!彼の目的。この会談で得たものを利用しますよ!一応、天才設定だもんね~
ええ、らんららもキャラに優しい人間ですから♪大逆転!となると、いいなぁ(遠い目…)

chachaさん
ふふデザート、食べたいです…フルーツとシャーベットが二つと小さくきったケーキ二種類くらいのプレートで…服といい食事といい、らんららの願望いっぱい盛り込んでます(笑)
クラフくん、無事元大統領と会談できるのか…どうでしょう?ふふふ。
お楽しみに♪

うんうん^^

クラフ、とりあえずは目的を果たせましたね。
あれかな?オクトよりも大佐の方へ語りかける辺り、やっぱり大佐へ言った方が確実だから・・・??^^
言いたいことは、全て、言った。
あとは向こうの出方次第ですね。

この後元大統領と会うんだ・・・クラフって凄い立場にいるんだなぁと、改めて思いました。
でも確かに、それだけの経験や状況にいたわけですからね@@;
クラフの頭のよさ、きっと今後も見れるんだろうな☆
いずれ「宙」へ帰る為に!頑張れクラフ!!^^

食事風景、とっても描写素敵でした☆
私も思わず、美味し!冷たっ!ってなっちゃいました(笑)ふふ^^

おやおや

すっかりクラフ君に振り回されてますね。
天間博士・・・いやオクトさん。笑
昨日の勘ぐりはやはり間違いでしたか。
いや、深く読んだつもりでもなく直感でそう思ったんですが、僕の直感は当たらない・・・にゃはは。
やっぱオクト、純粋に小さいヤツでした。
でも、そう言うヤツが能力と権力を持っているからなおやっかいなんですよね。
まだ母親に会わせていないのか?と尋ねられ、苦い顔で頷くオクト・・・どうやら、クラフ君は父オクトよりも立場が上の第三者の前で自分の身上を語ることで、憂さ晴らし・・・いや、少しずつ自分の生活環境を改善し、来るべき時に向けて準備を整えはじめたんですね。
恐るべき15歳・・・これは、最後の最後、クラフ君の大逆転が期待できそうな予感!!
kazuさんの優しくしてあげて・・・のフレーズに何故かぎくりと胸が痛みました。

・・・・・

オクト形無しv-8←ひどい奴(笑
このあと2人きりになった時、オクト恐そうですね~
どうされちゃうのか・・・
殴ったり手を上げないでよね!オクト!
でも、PCはくれる。
それが、クラフ君の望み・・・もらいたかったクリスマスプレゼントなんですね。
着々と宙に帰る準備をしているクラフ君。
オクトとの溝はどんどん広がっていきそうだけど。
お母さんには、会えそうな感じですね!
あわせてあげて!しかも、優しくしてあげてv-406
続きまってます~
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