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「宙の発明家」第三章七.隠し事③

●隠し事3

同僚との夕食を済ませると、カーチスは自分の部屋に戻る。
独身の彼は基地内の宿舎に住んでいた。家を買うことも出来るが、どうせ、あちこちの基地を点々とするのだ、結婚するまでは面倒くさいから、という理由で宿舎を選んでいる。どこを見ても軍人ばかり、仲間やライバル、上司。そういう環境に身をおくことは、彼にとって気楽だった。



休日には自宅のあるテキサスに帰る。
いつものクリスマスはここにはいなかった。
今年は、いろいろと変わったことが起こる。
ふん、とタバコの煙を鼻から吐き出し、火をつけたばかりのそれを灰皿に押し付けると、ベッドに横たわる。
完全に消えきらずに、タバコの白い煙が細く長く揺れる。
寝転んだ彼のベッドの傍らには、銀色の豆のような形のデンワ。そして、見上げている天井に、つないだ紐をゆらゆらさせる変わった形の飛行機の模型があった。
この二つだけ、持っていて欲しいと言われたのだ。
クラフが、飛行機は紐がついているけど、つながないで欲しい、そんなことを言っていた。
ひも付きのくせに自由に浮かぶ、不思議な飛行機を青年はぼんやりと見上げる。
まるで、クラフの生きてきた環境そのものだ。飛行機はつながれたまま、広い空に出られずにいる。
そんな風にしか、生きられなかったのだ。

カーチスは十年前のことは知らない。まだ、彼自身が今のクラフの年齢の頃の話だ。まだ、何も知らずに空にあこがれていた頃だ。
はじめて、BSAの事を聞かされたとき、そのプロジェクトの意義をオクトから聞かされた。

現在、温暖化の進むこの地球では、成層圏に観測基点を置こうという事業が各国で盛んに検討されている。温暖化の主原因とされるオゾン層の破壊、それは成層圏で起こっている。一日の長のあるわが国は、BSAを拠点としたプロジェクトを推進するべきだと、ロイズ博士は力説した。それは、もっともな意見であるし、気球観測で精一杯の他国の現状から考えれば、誇らしくさえあった。
しかし、具体的な話になるほど、様相が変わってきた。

人権を無視した実験、BSAを植民地にでもしたいかのような言動。
ロイズ博士は名誉を欲し、大佐は自らの昇進でも考えているのだろう。アメリカ空軍の技術開発部は常にNASAとしのぎを削る立場にある。全世界を驚かせるような大きな成功を収めれば、二人はそれで満足なのだろう。今のプロジェクトは歪んでいる。

BSAとの友好。
それが、本当に果たされて、平和のうちに双方が協力し合えることを、カーチスは望んでいた。
「非現実的、か…」
ため息をつく。理想に過ぎないのかもしれない。
実際に自分が夢見た空軍のパイロットも、理想とは違った。

クラフが感情的にならずに、将来のBSAのプロジェクトを有意義な方向に向けてくれればと、期待していた。
ロイズ博士が息子を目の前にして、なぜあれほど冷静でいられないのかが、不可解だった。ローザじゃあるまいし。
それとも、天才とやらは、普通の感覚では語れないのか。

最後まで、クラフは話すことを拒否した。
意地を張るなと、何度も説得しようとした。ロイズ博士に話したくないなら、俺に話せと。自分を犠牲にする必要なんかないと、何度も何度も、言って聞かせた。

少年は頷かなかった。
悲しそうに笑った。

クラフはプロジェクト自体を否定しているのだ。
何か、我々オトナの計り知れない事実を知っていて、それを基にしたもっともな意見なのかもしれない。逆に、単なる父親への反抗なのかもしれない。
冷静になれと、言ったのに…。

別れ際に見た、クラフの笑顔を思い出した。
手術室に連れて行かれる少年に、コンピューターはいいのかと聞くと、そんな大きなもの、持ち出せないだろう?と、笑われた。それにコンピューターは便利だけど、あちらの世界には持っていけないものだから、とも言っていた。
帰るのだと。
いつか、帰るから、その時まで預かって欲しいと。
あの表情には迷いはなかった。
何も考えていない子供なら、あの覚悟は出来ない。

クラフが本当に天才なのかどうか、そのあたりは分からない。地上の学校を経ているわけでもない。カーチスがこれまで出会った唯一の天才、ロイズ博士は、尊敬に値する人物ではなかった。

天才なんかでなくてもいい。
ただの、子供の反抗でもよかった。
止めたかった。

昨日カーチスが、訓練飛行から戻ったところで、ローザから連絡があった。
処置が施されたこと、そして、少年が眠ってしまったこと。


「バカ…」
天井にゆれる紐を手に取り、ぐんと引いて、放す。
飛行機は、ふわりと飛んで、再び天井にコツンと当たって停まった。
ぴぴぴ。
カーチスは、眉をしかめた。
想像通り、デンワはピンク色に光っていた。

少年は眠ったままだ。
なにを話していいのか、分からなかった。
ぴぴぴ、ぴぴぴ。

しつこいコール音に、苛々してきた。
仕方なく、起き上がると、デンワをとる。
向こうの声はいつもの、セキアとやらだ。

『クラフさま?私です』
「セキアってやつだな?」
『!?誰だ?』
男の声色が変わる。

クラフに呼びかける声とのギャップがあまりにもはっきりし過ぎていて、カーチスはふと笑みを漏らした。
数日振りの笑みだった。
「クラフの友達だ。カーチスだ」
『!ああ、あの三人のうちの一人だな。クラフさまはどうした?彼に話があるのだ』

「…伝言を預かってる。心配するな。大丈夫だ、とね」
間があった。

『…信用できない』
「…信じるかどうかは任せるさ。俺には、どうしようもないことだ」
デンワが切れた。
元の場所におこうとして、灰皿からたゆたう紫煙に気づいた。
もう一度もみ消す。
思い立って、立ち上がり、上着のポケットに入ったままの携帯電話を取り出した。

「ハロー、ローザかい?」
電話の向こうの女性は、疲れた様子の静かな声で応答する。
クラフの様子と彼女の近況を、手短に確認する。
事務的な会話。

カーチスはいらいらしてきた。
彼女もまた、クラフと同様心を閉ざしてしまったかのように、以前にもまして冷たい態度を取る。
明日は十二月三十一日。一年の最後の日だというのに、カウントダウンパーティーにも来てもらえない。誘ってみたものの、彼女の反応は冷たかった。
「そんなに、根を詰めていたら君も体調を崩すだろう?少しは休んだほうがいいぜ」
「大丈夫よ。ごめんなさいね、パーティー。クライフがいつ目覚めてもいいように、私、そばにいたいのよ」
「なんだ、妬けるな、じゃ、俺がそっちに行こうか。クラッカーの音で目覚めるかもしれないだろう?」
「…聞こえて、ないわ」
努めて明るく振舞う青年に、ローザは遠慮のない言葉を返す。
それは、何も出来ないでいる青年には、罪悪感を伴う痛みを感じささせた。

「な、ローザ。どうしたんだ?クラフのことは確かに悲しいことだし、君も責任を感じるだろうが、俺に対する態度まで変わることないだろう?」
「…」
「春には、君の子供も連れて、三人でディズニーワールドに行くって約束したじゃないか。それとも、もう、忘れてしまったのか?子供に会ってよかったって、君、言っていたじゃないか!」
「あの、ごめんなさい。カーチス。私には、もう、かまわないで。私、今、彼のことで精一杯なの」
電話が切れた。
カーチスは携帯電話をベッドに投げつけた。
クラフのことで、悲しんでいるのは彼女だけじゃない…。


ひやりと冷たい風が首にまとわり付く髪を揺らす。ローザは首をすくめて、背後の研究所の建物を見つめた。エントランスから、ビイがこちらを心配そうに見ていた。そんな大きな声で話したつもりはない。それとも、強い風が声を運んだのか。
一つ、息を吐いてローザはエントランスに戻る。
「あんまり、根を詰めないでくださいよ、博士」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、心配してくれて。ビイは家には帰らないの?LAにご両親がいらっしゃるんでしょ?」
小柄なローザが微笑むと、ビイは大柄な丸い体をむずがゆそうに揺らしながら笑った。
「いやぁいいんですよ。年が明けてからたっぷり休みをもらいますよ。帰ると母ちゃんが嫁っ子はまだかって、うるさいんで」
「ふふ、どこも同じなのね」
「博士にはカーチスがいるじゃないですか」
ビイの言葉にローザは悲しそうに肩をすくめた。
首をかしげるビイを警備員室の前に置き去りにして、ローザはクラフのいる部屋に戻る。一日のうちのほとんどをそこで過ごしていた。

小さな子供用にしつらえた可愛らしい部屋。積まれた本はクラフを運んできたときに脇にどけられて、部屋の隅を埋め尽くしていた。小さなダウンライトだけを灯し、薄明かりが眠る少年を照らしている。
「!誰!?」
ローザは人影に駆け寄った。暗がりの中、誰かがクラフのそばにかがみこんでいる。
白衣。
少し丸い背中。
「あ、ああ、ローザ」
金髪が子供のようにくりくりとあちこちに跳ねている、丸顔の男。
「デアマンさん」
慌てたように立ち上がると、男は駆け寄るローザから遠ざかるように、本の山にぶつかりそうになりながら後ずさった。
「あの、クライフくんに何か?」
「いや、なんでもないんだ」
「許可なく近づかないでいただけますか」
厳しい表情のローザに、デアマンはグリーンの目を何度も瞬きしながらじりじりと部屋の扉に向かっていった。

助手としてロイズ博士についているデアマンは、あくまでもロイズ博士が個人的に頼んでいる民間人。自らの研究室を持つローザとは立場が違うのだ。
十歳以上も歳の離れたローザに睨まれて、それでもデアマンはへらへらとした笑みを浮かべる。何を考えているのか分からない、そういう人物だとローザは感じていた。
「あ、ああ。分かっているよ。ちょっと顔を見たくてね。よく眠ってるね」
「出て行ってください!」
ローザの声に、びくりとして、男は部屋を出て行った。
ドアが音もなく閉まり、しばらく見送ってから、ローザは肩を落とした。
振り返って、目を覚まさない少年をじっと見詰めた。


隠し事④へ続く♪
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コメントありがとうございます!

だふーぅv-390
小説の状況に皆さんの苦しさが伝わって、らんらら自身、ため息混じりのコメント返し…(じゃあ書くなって?^^;)
いえいえ。

kazuさん
苦しい想いさせちゃってゴメンナサイ~v-393
現実世界の二人は何の力もないですね…そばにいるのがセキアさんなら、とっくにオクトはこの世にいませんから!もちろん、大佐も。
もうちょっと、もうちょっと我慢してください!ちゃんと逆転、させますから!(みんなのコメが余りに落ちているので希望の光を投げかけてみた…)

楓さん
いやぁん、ばかぁん、怒らないでぇぇぇ~v-406って(笑)?
いやぁ、楓さんにバシッと言っていただけると何だかすっきり♪
あまりにもカーチスがふがいないので、らんららもあきらめました。
そういえばそうです。役立たずですよ、奴は。(ひどい作者だ…)
デアマン、動き出しました。
え?奴が何って?
なんばしよっとって?(笑)
それは秘密。何にもしてませんから。
きっと。
多分。

chachaさん
昼コメありがとうございます!!
「もう、みんな何してるの!」って、本当にその通り!!書いている本人が一番イラついていて…。さっさと嫌なシーンをやり過ごそうと、やけに一回が長くなっています(笑)
そう、クラフくん、天才だもの。余裕はなかったけど、勝算のない戦いはしません!!そんな危ないことばかりしていたらセキアさんに心配かけちゃうもんね!
待っててください!あとちょっと。
もうちょっと、重苦しいですが…。

ユミさん
なんだか、重苦しくなって心苦しいらんららです。
ローザさん、クラフくんを目の前に何を思うんでしょう…クラフくんがきっかけで、会わないと決めた子供に、会った。
変われた。
だからこそ、クラフくんを自分の手で眠らせました。だからこそ、カーチスから離れようとしています。
ふふふ。
逆転、待っててくださいね♪

ちょっと…デアマン、いったい何をしていたの…??
オクトに何か指示されて来ていたんでしょうか??
心配です。

ローザも自分が関与したことで、クラフくんが眠りに
ついてしまって、1番罪悪感に苛まれているでしょうね。
自分の子供にこうはできないでしょうから…。
それを思うと、オクトは本当になんて冷静、いやいや冷酷
なんでしょう。
地位や名誉って怖いですよね。それと引き換えに、とても
大切なものを失ってしまうということに、いつか気付いて
欲しいものです。

カーチスさんも、いまは辛いでしょうが、ローザさんの
気持ちを尊重して、見守ってあげてほしいです☆

セキアさんは、何の用事だったのかしら?みんなすっごく心配してますよね(>_<)

むぅ。

自分を責めたり、悲しんだり。
いらいらしたり、ヘラヘラ笑ってたり。
クラフの周りではいろんな人の感情が渦巻いてますね。
カーチス、本当あなたはいらいらがかなり溜まっていることでしょう。
でも、何も行動出来ない自分に不甲斐なさも感じていると思います。
ローザ、自分がクラフを眠らせてしまった。オクトに反発出来ず、協力をした結果が招いた事態。
自分を責めて、悲しみのどん底まで落ちていると思います。
セキアはもぉ気が気じゃないでしょうね(笑)^^

それでも、クラフは天才だから。
きっと何か出口はあるはず。
そして、みんなも何かきっかけがあれば、今の自分を取っ払って行動出来るはず。
だから、それを信じて今は「もぉ!何してんだよみんな!」という気持ちをむむっと閉じ込めておきます><(笑)

怪しい・・・

デアマン・・・
クラフ君に何かしたな?
したでしょ?
なんばしょっとかぁ?!!!←誰?
そして・・・
そしてかーちす!!
ああ、言ってやるとも!!
例えらんららさんに楓さんかーちすに怒ってるぅ~うるるぅぅいやぁんばかぁん怒らないでぇぇと言われようとも!!←・・・汗
何じゃその煮え切らない態度はっ!!
軍人だろ?
漢(おとこ)だろ?
いてこましたらんかいっ!!!
・・・
とまぁ言いつつ、僕がかーちすでもそんなマンガの世界のようにかっちょいい男にはなれんわなと思ってですね。てへ☆
しかーしっ!!
ここは夢幻の小説の世界!!
いけーっ!!やっちゃえーっ!!骨はらんららさんがきっと拾ってくれるはずっ!!←えっ、お前ゎ?!

・・・

みんな、・・・いやオクトと大佐以外は、罪悪感で押しつぶされそうなんだな・・・と。
何も出来ず、クラフくんのそばにいられないカーチスさん。
実験に参加し、命令とはいえ自らの手でクラフ君を眠らせてしまった、ローザさん。

カーチスさんとローザさんの苦しみは、本当に辛いですね。
どちらがとはかれないくらい。
何も出来ずに手をこまねいているのだって辛い。
でも、クラフ君を目の前にして、眠らせてしまったローザさん。
自分の幸せを考えていられるほど、つよい人間はいないはず。
とても・・・とても、哀しい状況ですね。
クラフ君が、目を早くさましますように!!
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