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「宙の発明家」第三章七.隠し事⑥

●隠し事6

女性の白い小さな手で手を握られ、クラフは少し気分が落ち着いた。
やっぱり、誰かと手をつなぐのは、安心できた。

「…あれが、君が大統領より会いたかった、父親かね」
ニービア氏は深いため息とともに悲しげに少年を見つめた。



ローザの手を握るクラフの手に、力が入った。
「いいんだ、小さい頃から、父さんとは縁が薄かった。それより、ボクのこと、秘密にしておいてほしいんだ。もうしばらく眠っているふりをするよ。ローザの立場が心配だから」

「!だめよ、これ以上は!食事も取れないし、体に悪いわ!!それに、私は君の件が落ち着いたら、ここを辞めてもいいと思っているのよ。もう、研究に興味はないわ。民間の医学に貢献したいの」
そういいきったローザは、深い緑の瞳を緩ませて、照れくさそうに笑った。
「私ね、君に会って、離れていた子供のことを思い出したわ。仕事に打ち込むことで忘れてしまおうと思っていたのだけど。思い出さずにはいられなかった。
感謝しているの。十代の頃から周りに期待されて、特別扱いされて、優秀な研究者になることだけを自分の生き方だと思っていたの。遊ぶこともしなかった、恋愛も不器用で。だから、離婚したときもやっぱり自分には研究しかないんだと、そう思い込んでいたの。でも、君に会って、思い出したのよ。あの子が、私を見てどんな風に笑うのか。
君が、お母さんに会いたいって言うたびに、まるで自分が、責められているような気分だった。あの子も、同じに思えて」
クラフは何度も瞬いて、自分を見つめるローザを見上げていた。
あの時、彼女が両手で握り締めた手のひらに書いてくれた言葉。
「help you」
それがなければ、クラフ自身、意地を張り通せたか、宙を守りきれたか怪しかった。助けられたのは自分だと、少年の瞳も潤む。
「クライフくん、君のお陰なの。私、研究することだけが、自分の価値じゃないって思えたわ。だから、ロイズ博士が自白剤を使うと言い出したあの時、助けることを決めたの。君が、私の背中を押してくれたの」

ローザの言葉に、ニービア氏は目を細めた。
その父親の表情に浮かぶものを、隣に立つ大統領も感じ取っていた。
小さく、咳払いをして、大統領が口を開いた。
「君は、有能な人物だ。ペンタゴンが手放さないだろう。君の望むように転属の手配をしよう。数日のうちにこちらから内密に指示を出す。それまではクライフ君に演技を続けてもらって。なに、待たせはしない。それでいいね、クライフくん」
少年はにこりと笑った。
元大統領は、傍らの息子に視線を送る。大統領も頷いた。

「ニービアさん、大統領閣下、ボクはあなたたちにBSAのことで、どうしてもお話したいことがあるんです」
ローザに進められて、二人の男は、クラフが使っていた小さな椅子に腰掛けた。
「先日のなぞなぞの答えを、教えてくれるんだね?」
ニービア氏は、面白そうに目を細めた。
クラフはゆっくり体を起こすと、ローザの差し出したドリンクをストローで少し飲んで、顔色もよくなってきていた。眠っているだけとはいえ、その間、点滴だけで命をつないでいたのだ。
「こちらで、BSAと呼ばれているあの大陸だけど。知っている通り、成層圏に浮いているんだ」
二人は頷いた。
「浮いている理由を、知ってる?」
クラフの質問に、ニービアはかぶりを振った。

「ボクは勝手に名前をつけたんだけど、浮遊石という石によって支えられているんだ。このくらいの固まり一つで、ボク一人宙に浮かぶことが出来るくらいの力がある。その石の力と、あの大陸とそこに住む人たち、その重量バランスで、あの大陸は浮かんでいるんだ」
クラフは続けた。
「つまり、バランスが崩れれば、BSAは、もっと高いところに昇ってしまうか、最悪、地上に落ちる」
「落ちるの?」
ローザが思わず声を出した。
「そうだよ。成層圏内だって地球の重力を受けているから。浮く力がなくなれば落ちるよ。ニービアさん、言ったよね、三人乗りのボートに四人乗ったら沈むって。あの大陸は、今の環境を保つために、今のままでなきゃならない。こちらの新しいエネルギーや物質、人、そういうものを持ち込んだり、逆に浮遊石を採掘したりすれば、ハワイ島と同じくらいの質量のものが、六万フィート上空から地上に落下するんだ。それが、どのくらいの被害を及ぼすか、分かるよね」
大統領は、黙って頷いた。その表情は、真剣だ。
ニービア氏が口を開いた。

「クライフくん、そこは、我らが何かしら手立てを講じなければ、いずれ、バランスを崩してしまうのではないかね?」
クラフは少し考えてから、言った。

「協力はお願いするかもしれない。でも、まずあの場所への干渉を避けることが一番だと思うんだ。干渉しないって言ってもらえるなら、ボクはそのための協力は惜しまない。向こうへ戻って、維持するための必要なことが出来る」
「君が?」
大統領が、首をかしげた。
「ボクが全部計算してあるんだ。BSAは小さい環境だから、壊れやすい。だけど逆に、小さいからこそ調整できる。ボクはあの土地の総質量と、それを支える浮遊石の力、そしてあの土地で人々が生活することで変動するエネルギー循環を、こちらに戻ってからすべて調べて研究したんだ」
クラフは、横たわったまま笑った。
「ほら、そこにあるパソコン、それから、この研究所のデータも借りて。助かったよ。向こうの技術と自分で計算していたら、いくら時間があっても足りなかった」
「え?ああ」
歴代大統領の二人は顔を見合わせた。

「地球みたいに、森林や地下資源を燃料にして燃やしてしまったら、すぐに質量バランスが崩れる。だから、あの土地はほとんどすべて太陽のエネルギーを利用することにしているんだ。その準備は済んでいるんだ。ボク、小さい頃から太陽電池大好きだったしね」
大統領はじっと少年を見詰めた。
クラフは話し始めた。
宙の世界で、クラフが何をしてきたのか。
あの世界の燃料不足に太陽電池を生産し、協力してきたこと。それが、すでにほぼ全戸にわたっていること。宙の世界では、人々は宗教の教えによってシンプルな生活をしている。

太陽の光エネルギーを受け、地表は熱エネルギーとして受け取る。また、植物は光合成する。植物が光を有機的なエネルギーに変換し、それを人間や家畜が食糧として吸収する。光エネルギーは形を変え、循環し、最終的には熱エネルギーの形で宇宙に放出される。今、宙の世界ではそれを順調に行っている。

「大陸一つのエネルギー循環を調整できるって言うのかい?君が?」

「そうだよ。質量バランスのほかに、もう一つ問題がある。あの世界は、酸素を作り出すための植物を大切にしているんだ。向こうでは「苔池」って呼ばれるけれど、藻類の一種で、太古の地球に酸素をもたらした原始植物の一つなんだ。
それがあの世界の大気を作り出している。それを維持する意味でも、あの世界には過ぎた科学力は要らないんだ。彼らの科学力は1300年代のヨーロッパと同じくらいなんだ。今の状態なら維持できる。
これ以上、科学を進歩させない。というか、地上と同じ方向には進歩させない。何が必要なのか、ボクが見極める。この地上みたいになったら、もう、戻れないから。人間は、環境に適応するように生きなきゃいけないんだ。
大統領、もしあの世界に干渉したら、否応なく環境が変わって人の住めないものになる。そうしたら、こちらの世界にとって、巨大な無人の爆弾がいつ落ちるかわからない状態で上空を漂うことになるんだ」

大統領は、少年の言葉に表情を厳しくした。
対照的にニービア元大統領は満足そうに笑った。
「言った通り面白い子供だろう?」
「はい。本当に」大統領は表情を緩め、目を細めた。

実際の能力はともかく、考え方と方向性は評価できるだろう。まだ、十代の子供。出来るという言葉を鵜呑みにするつもりもないが、検討の余地はある。
実際、BSAが地上に落下することを思えば、少年の言葉に耳を傾けざるを得ない。唯一の、情報源だ。

ペンタゴンから離し、米国環境保護庁で専門のセクションを設けてもいいだろう。即座に大統領の脳裏には今後のプランが浮かんでいる。
「君に、それだけの力があると認められれば、是非協力してもらいたい。そうだな、研究レポートをもらえると助かる」
大統領の言葉にクラフは頷いた。

「…ボクは、いつかBSAに帰る。父さんたちの今の研究が終わりになって、BSAをそっとしておいてもらえるって確信がもてたら、帰る。そうして、あの世界を守るんだ」

ニービア氏はちらりと大統領を見つめた。
大統領は、穏やかな表情のまま立ち上がると、クラフと握手した。
「ロイズ博士の研究についてはまだ、なんとも約束できないが。君の研究の成果を見せてもらってからだね」
交換条件、クラフは表情を引き締めた。

「近いうちにレポートをまとめるよ」
「ああ、期待している」
ニービア氏も、クラフと握手した。
「君は、この地上の環境を、どう思っているんだい?」
「…もう、遅いかもしれないけど、ボク、太陽エネルギーを有効利用するのは得意だからそういう方面では協力できるよ。人類が成層圏に期待することも分かるけれど、それよりまず、自分たちの立っているここを、何とかしないとね」
にこりと笑いながら、クラフは言った。
大統領は父親と顔を見合わせた。

隠し事⑦へ続く♪
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すっかり、オネムの時間です…

コメ返しが遅くて、すみません~(><)
4月から昼休みが15分短くなって、唯一のオアシス、ランチブログライム(?)が減っているらんららです…。
ラストが近づくにつれ、満足していただけるのかと不安に駆られていますが…。

kazuさん
ふふー。クラフくん、一応自称だけど天才のつもりなので(笑)
具体的に説明なんか出来ないところが、情けないのだけど(笑)
そう、コレからが正念場!
うまく行くといいのだけど♪

楓さん
ええ、魅入られていますとも!!
空にある世界!そう思えば自然と浮かびますもの(^^)b
んふふふふっ♪
そうですね、クラフくんはすごいですよ。理想です。
うん。
クラフくんの言うことがすごすぎて、素人のらんららは具体的に説明できませんが(笑)
昔から言い伝えられていることは、先人の知恵が含まれている。だから、宙の世界での宗教の教えは、それに近いものを想定しています。
日が昇ればおきて、沈めば眠る。
(ああ、眠いです…。眠さゆえ、支離滅裂も許されると信じて…)
クラフくんが死んだとき?大統領が変わったとき?
ええ、知りません。(笑)
というか。
考えましたが。
クラフくんに、言わせるつもりで、結局使わなかった台詞があります。
「自分が死んでしまった後にも、責任を負わなきゃいけないことなんか、この世にはないと思う。俺は生きている間はがんばるよ。それじゃダメなのかな。それとも、俺に未来永劫の安定を作れなんて、言うのかな?そんなの、この世界を作ったかもしれない神様だって、面倒見てくれないのにさ」
最初の原案のラストシーンくらいですね。
ええ、クラフくんの印象はだいぶ違っていますが。もっと、悲壮感漂うお話でした(笑)
そう言う考えです。うふふ。
適当でしょ?


chachaさん
そうなんです、太陽電池作らせていたのも、宙の世界の宗教の教えも。すべてこのためです。そう言う世界でなくては、存在できなかったはずと、考えました。
うははは♪カーチスすっかりダメ男くんですね♪ええ、みんなに情けない奴と言われています!どうしよう、すごい役立たずになってる(笑)
最初はかっこよかったのに。
この後、もっと嫌われてしまうかもしれない!!(@@;)
うむー。そうかここぞという時に、ね。点数稼ぎ…してやるかどうか…。
(冷たい作者だわ…^^;)


ユミさん
こういうことでした。
なぞなぞにはひねりも何もないのだけど(^^;)きっと、鋭い人にはばれていたかなぁと。でも、分かりやすいからいいか!(?)
さて、大統領に聞いてもらって。このあと、クラフくんはどうなるのか!!
ふふふー。
お楽しみです♪
ラストが近づくと、無性に不安になって、いっぱい推敲したくなってしまうのは…仕方ないですね…。今、がんばってます!
でも、進んでないです(笑)
眠いです~。

すごい!!

謎が解けて、なるほど!!でした。
そうですよね。今の状態でいいバランスを保っている
宙に、地上の人が手を加えれば、何か起こっても不思議じゃない。
考えれば分かることなのに、やっぱりそこは、欲が支配してしまう
ものですねー。
大統領!
クラフくんのことを信じて、動いてください!
そして、クラフくん、自分を信じて頑張れ~♪

いや、あの、本当に

クラフって凄い!!><
そこまで、そんな細かなとこまで考えていたとは!
そうだった、クラフが太陽電池を宙で広めていましたよね!最初の頃のお話でそんなこと言ってました☆甦ってきました!^^
本当に、宙のことを大事にしている。
それでも、こちらの地上のことだって考えながら・・・の結論。
かっこいい!そして、とっても尊敬できる人だ!まだ十代なのに!(笑)

本当に、大統領達も真剣に話を聞いてくれて・・・
これはいよいよ、本格的に動けそう??^^
ローザのことも良かった☆
彼女の存在、かなり大きかったでしょうね、クラフにとっては^^
ん?カーチス?いたっけ、そんな人ーー;(←冷めた声。笑
でも、今はめっきり落ちこぼれちゃってる彼も、ここぞという時に手を貸してくれたら・・・見直してやってもいいぞ!(笑)

さぁクラフ!こっから逆転かましてやれ!^^

ふんふん

なるほど、謎かけの秘密が良く分かりました。
浮遊石・・・ランドエンドで採掘してましたよね。
空の羊号の模型にも♪
やはりあれで宙は浮いていた・・・
あ。
ここにもラ○ュタに魅入られた人が!笑←お前が言うな
んふふふふふふふっ
それにしても浮遊石の浮力と引力そして宙におけるすべての重量から宙を成層圏で安定させ続ける方法を考えるとは、クラフ君・・・あにゃたってば・・・汗すごすぎだ!!しかもエネルギー連鎖まで・・・
宙の生活レベルであれば、太陽光発電だけで何ら支障ないでしょうからね。日が昇れば起き、沈めば寝る。素晴らしい。
どこまで大統領が協力してくれるかはさておき、仮にクラフ君がアメリカ大使という形とかで宙に駐留できたとして、問題は大統領が代わったとき、あるいはクラフ君が死んだのち、彼らの意志を継ぐ人間がいなくなった場合のことを考えると怖いですよね。一歩間違えばハワイ島が落ちてくる・・・
ともかくも、巧くいけばオクトは失脚し、クラフ君は今より遙かに自由になれる。もしかしたら本当にBSAに戻れるかも知れない!!
希望が沸いてきたぞ!!

うふふ

クラフ君、やっぱり凄い。
宙で、大切に育てられてきたけれど、誰にも会えず軟禁されていたのも本当。
その生活の中で、元々の能力を最大限にのばすことが出来たのかな・・・そんなことを思います。
BSAが、どんなエネルギー循環で成り立っているのか。
その上で、干渉することが、この地上に甚大な被害を及ぼすことになる。
きっと大統領ともと大統領のお二方には分かってもらえたはず。
クラフ君の、周りから聞いたら大言壮語にも聞える言葉。
これからが、正念場ですね。
クラフ君の、宙への愛しさが伝わってくるです・・・・。
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