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「宙の発明家」第三章八.逆転②

●逆転2

日が高く上り、そろそろ午前のお茶がほしくなる時間だった。
久しぶりに戻ったアパートの部屋に、カーチスを残してローザが出勤すると、ちょうど休憩のために紅茶を入れていたビイが、慌てて廊下に飛び出すと呼び止めた。いつもの小さな目が、今日はやけに何度も瞬きする。
「あの、おはようございます!ローザさん」
「おはよう」
いつもより薄い化粧なのに、ローザの表情は美しく見えた。それは彼女の精神状態がとてもいいことを示していた。ここしばらく、クラフのことで張り詰めていた彼女とは別人のようだ。
カーチスといい時間をすごしたのだろう。
余計なことを想像して、ビイは何度も瞬きする。
「…それ、あいつにですか」
ビイがローザの持つシフォンケーキの丸い箱を見つめた。
「ええ、あの子、好きだから」
嫌な予感を感じながら、ローザはにこっと笑いかける。
ビイは頭をかいて、言った。
「あの博士、ちょっと、こちらに」



詰め所に呼ばれ勧められるままイスに座ると、ローザはもっていたケーキの箱を胸の前に抱えた。
小さな室内ではもう一人の警備員が、内線でどこかに連絡していた。
「あの、どうしたの?ビイ?」

人懐こい笑みの警備員は、困ったように何度も瞬きする。
同僚が電話している隙に小さな声を出した。
「ロイズ博士があなたが来たら連絡しろと。なんか、怒っているみたいですよ。昨日、仕事の途中でカーチスが呼び出したからですかね?あの野郎、酔っ払っていましたからね」
「あの後、何かあったのかしら?」
ローザが探るように上目遣いで見上げたのも、ビイは嬉しそうに笑っていった。
「さぁ、私は仮眠をとっていたんでねぇ。そういや、明け方にデアマンさんを見かけたくらいですかね。ロイズ博士は大佐さんとどこかいいホテルでも泊まってたんじゃないですかねぇ、デアマンさんが言ったとおり、今朝八時ごろに二人して戻られましたよ。大佐さんはここの仮眠室じゃ、我慢できないですからね。贅沢なこった。警備員の仮眠室に比べりゃ、博士たちのはホテル並なんですけどねぇ」

ローザは首をかしげた。
「ビイ、…カーチスに、来てほしいって…伝えてもらえるかしら。このケーキ、差し入れよ、昨日から大変だったでしょ?」
「あれ、これクライフにじゃあないんですか」
ビイは首をひねりつつも、ローザの差し出す箱を受け取る。
「いいから、カーチスに連絡して。お願いだから」
真剣なローザの瞳に、ビイは少し照れながら、うなずいた。視線がつい、ローザのタイトスカートからのぞく、二つの白い膝小僧に向く。
女性の少ない職場では、ローザは男たちの憧れでもあった。ビイも例外ではない。高嶺の花と思いつつも、笑いかけられれば嬉しくなる。

「やあ、ローザ」
オクトだった。報告した警備員が敬礼をして出迎えた。
「おはようございます」
ローザは硬い笑顔を、オクトに向けた。
「来てもらおう」
ローザは黙ってイスから立ち上がる。

ロイズ博士とその背後に立つ黒い服のシークレットサービスの間に挟まれるようにして、ローザが部屋を出て行った。
ビイは、いっそう小柄に見える彼女を見送っていた。

「おい、ビイ、それちょうどいい、今から食おうぜ」
同僚がビイの持つケーキに手を伸ばした。
「んー、ああ…」
ビイは、珍しく頭をフル回転させながら、ローザの行動を反芻していた。何か気になる。
「けど、これ、クライフにって持ってきたんだよなぁ」
すでに、丸い箱を破って、中からこんがりとしたシフォンケーキをむき出しにしている同僚をちらりと睨みながら、ビイは口を尖らせた。
「んー、食べられなくなったんだろ、なんか、用事でも出来たんだよ」
呑気な同僚に負けじとシフォンケーキを一掴みちぎり取って口に放り込みながら、ビイは紅茶のカップを手に取る。
「!」
そうだ、カーチスに連絡してくれといっていたな。
なにか、クライフに大好きなケーキが食べられなくなるようなことが起こったってことか。

ようやく、ビイはズボンのポケットから携帯電話を取り出した。



クラフはベッドの周りに本の山を再構築している最中だった。積み上げられた本は、取り囲むように城砦をなし、不可解なイキモノの巣穴のようでもあった。その巣穴の主は痛いのだろう、時折むすっとした表情で切れた唇にそっと触る。
顔をしかめる。
入ってきた大佐とオクトにも同じ視線が注がれた。彼らの背後にローザの姿を見つけて、クラフはぎゅっと唇をかんだ。慌てて自分のベッドの上によじ登り、一番奥に逃げ込むと壁を背にする。
ブラインドの閉められた薄暗い部屋で、クラフは追い詰められた野良猫のように息を潜めていた。

「ふん、可愛げのない」
オクトの顔は怒りに青ざめていた。
「煩い!」
クラフに投げつけられた分厚い辞書を、よけたつもりが足の上に落ちた。
「いて!」
オクトは思わず足を押さえてうずくまる。
「ロイズ博士、何を遊んでいる」
大佐は、組んでいた腕を放すと、ローザの肩を掴んだ。
「薬物による麻痺で、動けなくなっているんじゃあなかったかね?」
「…」
ローザは視線をそらした。
「君だけだね、あの時、細工できたのは」
ローザに近寄ろうとするオクトに、何かが飛んできた。
「うわ?」
それはオクトの顔を半分埋めて、ペチャリと張り付いた。
「な、何だ!?」
慌ててオクトが無造作にはがそうとする。それはしっかりと張り付いて、引きつられる皮膚の痛みに、オクトは思わず声を上げた。
「ロイズ博士…」
博士の顔に張り付いているのが、ただの木の葉のように見えて、大佐は呆れたようにうなる。
ひゅん、と。
大佐も冷たい感触の後に、視界が半分真っ暗になった。
「!!な、このガキ!!取り押さえろ」
ヴェデリットはもう一枚飛んできたぺたっ葉を、腕で受け止める。制服の袖にべったりと張り付いたそれを無視して、少年のいるベッドを囲む本の山を蹴り崩す。

「来るな!」
「クライフくん!」
ローザの言葉を、クラフは無視した。
「嫌だ!皆嫌いだ!近寄るなよ」
関係ないフリをする、その意図をローザは理解した。
大佐たちの意識を自分にひきつけるために、わざと暴れている。
庇おうとしている。
ローザは唇をかんだ。

黒服の大男が本の山に無理やり登って掴みかかる。クラフは分厚い本を遠慮なく投げつけた。
「嫌だ!来るな!」
クラフはベッドの上に立って、赤い小さい玉を構える。
お構い無しに近寄るシークレットサービスの額に一つ。
それはぼっと燃え上がる。
「うわ!」
立派な体躯に似合わない声を上げた男は、額の前髪を焦がす炎を慌てて叩いて消した。

不意にブラインドが開けられた。昼の日差しが室内に差す。
「わ!」
クラフは顔を手で押さえて、うずくまった。
ローザは、気付いた。
少年の赤い玉を持つ腕に残る打撲の痕が、日の光に赤紫に見える。痛々しい。殴られた口元には、血がにじんでいる。壁を背にしたクラフは、顔を覆ったまま、小さくなっていた。
怯えていた。

この、大人たちは、子供相手にいったい何をしているのか。
ローザは窓際で勝ち誇ったようにニヤニヤしているオクトをにらみつけた。
次に、足元の辞書を拾うと駆け寄り、思い切り博士の頭を殴りつけた。
「な…」
頭を押さえてうずくまる博士。
大佐が驚いて振り向くところに投げつける。
「いい加減にしてよ!子供相手に、許せない!」

次の瞬間、ローザは壁に顔を押し付けられていた。大佐の冷たい目が目の前にあった。
前髪を掴まれた。こめかみには銃が突きつけられているんだろう、固い感触が耳に響いた。

「ふん、ローザやはりお前が庇っていたんだな。お前次第だ。このまま、クラフを痛めつけるのもいいが。私としてはあまり見たくはない」
視界をさえぎる目の前の男を突き放そうとして、また、殴られた。再び壁に打ち付けられて、視界が一瞬暗くなる。

「君は、知っているんじゃないかな?クライフが何を隠しているのか」
つかまれた肩が痛む。
穏やかに無表情を貫く大佐は、決して笑わない瞳でローザを見下ろしていた。
「ほら、いいのかな?もう、随分、殴られているが…せっかく目覚めたのにねぇ」
大佐の向こうで、クラフはぐったりとベッドに倒れていた。
その細い体を、黒い服の男が膝を乗せて押さえつけていた。
「!止めて!」
叫んだのと同時だった。
大佐が何かうめいて、うずくまった。

「!カーチス!」

大佐の持っていた銃は今度は逆に、大佐の頭に突きつけられることになった。
「き、貴様!反逆罪だぞ」
叫ぶ大佐に容赦なく蹴りを加える。
「動くなよ!おい、クライフを放せ。早く!」

カーチスの視線は鋭い。クラフにのしかかっていた大男は、額のちりぢりの前髪を揺らしてベッドを離れた。
クラフは、ぐったりとしたまま、かすかに頭を動かしたようだ。

「貴様!任務を忘れたのか!」
オクトが床に座り込んだまま叫んだ。まだ、ぺたっ葉を貼り付けたままだ。
「ローザ、大丈夫か?クライフを診てやってくれ」
ローザは睨みつける大佐の脇をすり抜けて、クラフの横たわるベッドに向かう。
「カーチス中尉、命令違反だぞ」
「何の問題もありませんよ、大佐。軍規にもあるでしょう。お忘れですか?上官の命は絶対でありこれに反するものは厳正なる裁判の上、処罰を受ける。ただし、上官の命令が著しく軍紀に悖るものであり、民間人の生命を脅かす危険がある場合はその限りではない、とね。前回はクライフの意思を尊重して黙っていましたが。さすがに、大佐。ローザにまで暴力を振るうとは、いい加減にしろってんだ!」
上司を思い切り殴りつける。
視界の隅で床を這うオクトをにらみつけた。
「動くなって言ってんだろ!」
「クライフくん」
ローザの緊迫した声に、カーチスはそちらを振り向いた。

隙が出来た。

ずん、とヴェデリットの重いタックルを腹に受け、カーチスは壁にしたたか頭を打ちつけた。
「!カーチス」
ローザはクラフを抱きかかえたまま見守るしかない。

カーチスが取り落とした銃を、オクトが掴んだ。
向こうでもみ合うカーチスと大佐を見て、それから、オクトは背後のローザに銃を向けた。
いや、正確には、ローザの抱きかかえる、少年に、だ。

「!止めて!」

オクトは両手でささげ持つように、銃を高く上げた。銃口が少年の金髪を狙う。
ローザは覆いかぶさるように身を伏せる。

「そこまでにしていただきますよ」
冷静な声が響いた。

扉を開けて入ってきたのは、大佐にも劣らない大柄な黒いスーツの男たち、数名。どれも、襟に金色のバッジをつけ、鋭い視線で室内の人間を睨んだ。
異様な迫力を見せる彼らを、カーチスは驚いた表情で見つめて、それから大佐の表情を見た。

「…ローザ」
静寂を、クラフの声が破った。
無残に腫れた目元が紫に変色している。華奢な手には、しっかりと首から下げた銀色のデンワを握り締めていた。
「クライフくん、大丈夫よ、今治療してあげるから、ね」
「ローザ、それより、…おなかすいた」


逆転③へ続く♪
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あははは!楓さんってば♪

男でしょ?カーチス!ローザのためならかなりやります!
ええ、そうですとも!
黒服、金バッジ。いったい何者って?答えは明日♪いろいろと、うほほぅ!、と喜んでいただけるとうれしいなぁ(^^)

びーえす
ビイの気持ち…わかってくれますか!って、サービスカットですから!楓さんに♪いえいえ、コレを呼んでくださるすべての男性に(?)

そこまでにしていただきますよ!!

か、かっちょええ!!金バッチの黒服!!(え、そこ?笑

そこまでにしていただきますよ。

も、もう一度言ってみた。笑
しびれるなぁ~!!
そして・・・
そしてかーちすキタ━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!
やっときたぁ!!
おせーよお前!!
もっと早くそれをやらんかいっ!!怒
しかもローザちゃんとやることやってから(こら、そいでもってローザちゃんがやられてから本気出すって・・・お前って奴はお前って奴はお前って奴はお前って奴はお前って奴はお前って奴は・・・

男じゃのぉ。←遠い目。笑

そいでもって結局やり返されて、金バッチの黒服が来なければ大ピンチになっていたところが何ともかーちすらしくていいですよ。いいっ!!笑

いやはやとにかく何もかもすっきり!!
で気持ちよかとです♪

びーえす。
ビィ・・・僕は分かるよ君の気持ち。そんな職場でそんなエロ可愛い格好されたら誰でも見るって♡
そしてらんららさん・・・
あにゃたって人は・・・くくぅ。

コメントありがとう!!

kazuさん
でへへ!やっと、カーチスさんを動かせて嬉しいですよぉ♪
いやいや、そりゃ、男ですものね、好きな子が危ない目にあえばキレますよね!
ふふ、やっと、「逆転」のタイトルにふさわしくなってきました!
kazuさんに喜んでいただけるよう、がんばりますよぉ!

ホーリ先生
えへへ。そんなぁ、褒められちゃうと有頂天ですよ!
ええ、オトナから子供まで、が。コンセプトなんです(^^)
伝えたいことが伝わるといいなぁと。分不相応なお褒めの言葉、恐縮ですが!でもとっても、力になっちゃいます♪ありがとうございます!

chachaさん
そう、唯一の武器(?)←?がつくとこがクラフの可愛いところですね♪本物も作れるけど作らない(ブール候で懲りてますから…^^;)
ローザ、かっこいい?らんららもあのシーンは「スッキリ」ってこれだわ!と。小躍りしていました!カーチス、もう一歩ってとこですが(笑)
カーチスは思っているんです「助けてほしい」といわれれば、いつでも助けるのにってね。暑苦しい正義の味方面は出来ないわけですね♪
(でも、泥酔してダメダメになるくらいなら素直に行動すればいいのに…^^;)
金バッジの男たち。
ふふ。明日、分かります♪

おっとぉ!

ぺたっ葉ともえ玉が再登場だ!(笑)
クラフの唯一の武器(?)だもんね!^^
へっへ~☆オクトも大佐もビックリしちゃってるぞ~!
それ、無理にはがそうとすると、眉毛抜けるぞ(笑)

それにしても、本当ハラハラドキドキで~~><
心臓が持ちません!らんららさん!心臓が持ちませんよぅ!(←強調。笑
あぁ、ローザ。あなたほど勇敢な女性はいないでしょう。
女性に暴力をふるう男はサイテーだっ!><
クラフのような子供(って言ったらクラフが怒りそうだけど。笑)にも暴力ふるうなよ!大人のくせに!!><

それでも、良かった。カーチスはちゃんと助けにきてくれた^^
うん、かっこ良かったよ!ローザにはまだ負けるけどねっ!(笑)
そして、現れた謎の男達。
金バッジ??もしや・・・大統領が呼んだの??
どうか味方でありますように!

お腹減ったってあなた・・・
クラフはやっぱり、肝が座った男の子だなぁ^^ふふ☆

うおぉぉぉ~!

凄い!
凄い展開ですね。
ドキドキ、ハラハラしっ放しで夢中で読みました。
ホント凄いよ。らんららさん。
これは絶対に出版すべきですね。
私みたいなおっさんが読んでも、また若い人たちが読んでも、そして子供達が読んでも十分に楽しめる、そして夢が広がり、人の生き方や正しい心の在り方、更に勇気についてもまでが学べるもの。
凄いよ。本当に素晴らしいよ。
とっても感動しています。私。

だだだぁぁぁぁ

前回から、どきどき止まりませんでしたが、やっぱりローザさんにも暴力が・・・・;;
クラフくんが必至になって庇おうとする意図をくみ取った、ローザさん。
オクトに呼ばれたことで、危険を察知しカーチスさんを呼んだローザさん。
よかった・・・。
カーチスさんが、間に合って。
いくら軍規があるといっても、一つ間違えば立場が悪くなる状況。
ローザさんがケガを負わされたことに、頭にきたんだろうな。
うーん、強気カーチスさん、いいなぁ・・・。
あわや!の場面ではいってきた黒スーツの男たち!!
この男達は・・・!!
大統領の・・・!?
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