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「宙の発明家」第三章九.天才は永遠に③

●天才は永遠に 3

「…イフ、クライフ!」
腕の痛みを思い出して、クラフは声を上げた。
そして、咳き込む。







何かが口元にあてがわれて、それが非常用の酸素マスクだと気づく。小さな缶に吸入カップが付けられただけの簡単なものだ。数回、深く吸い込むと、ぐらぐらしていた頭の奥がはっきりしてきた。
引っ張り起こされてはじめて、相手がデアマンだと感じた。
「とう、さんは?」
「いいから!逃げるんだ!火が回る!博士が仕掛けたんだ!」

そう言うと咳き込んで、デアマンはクラフに当てていたマスクを今度は自分に当てる。ボンベからは絶えずシューと小さな音がしている。
「ま、待って!父さん!父さん?」
クラフはデアマンの肩を突き放して、その体の陰に隠れていた室内を見回す。

すぐそばに、オクトがうつぶせに倒れていた。非常照明が焚かれ、室内はほのかに白く照らされていた。
「!父さん!!」
這って近づく。肩を、ゆすろうとして、一瞬伸ばした手を、止めた。
彼の体の下から、黒い水たまりが出来ていた。額から大量に流れる血。その目は、どこかを見ている。
「?何?なんだ?どうして?」
恐る恐る、触ろうとしたクラフの手を、デアマンが押さえた。
「もう、死んでいるんだ」

クラフはもう一度、オクトを見た。
こんなに、大きな目だっただろうか、こんなに、尖った鼻だったろうか。
動かないそれを、吸いつけられるように見つめたままクラフは絶句していた。
「…死んでる、の?どうして?」
デアマンの手も、震えていた。
「すまない。すまない」
「なんで?どうして!」
クラフは、床に膝をついたままデアマンのシャツを掴んで揺らした。
「君を、お前を殺そうとしたんだ!それだけは!もう、それだけは許さない」
「だけど、殺さなくってもいいだろ!父さん、父さん!」
再びオクトにすがろうとするクラフを、背後からデアマンが抱きとめる。
「離せ!父さん!父さん…」
声は、言葉にならなくなって、泪が流れる。

「クライフ」
デアマンは、小さな目をしっかりとクラフに向けた。
表情に宿るやさしさに、クラフは初めて気づいた。少したるんだ頬、たれた目。やさしげに、少年を見ていた。
「お前は、私とクレアの子供なんだ!」
非常照明が心もとなく点滅し始め、ふいに消えた。

意味が、分からなかった。
デアマンはぎゅっと少年を抱きしめると、続けた。
「彼女は、ずっと寂しがっていた。博士は研究ばかりで、ほとんど家に帰らなかった。私は度々、彼女から博士への電話を取り次いだ。そして、何度も、会えないと断らなければならなかった。彼女は苦しんでいた。私は、彼女に相談を受け、そして、いつの間にか…そう言う関係になった。クライフ、お前は、私と彼女の子だ」
「…あの、…、父さんは?」
「博士は、多分気づいていたはずだ。結婚して十年、突然彼女が身ごもったんだ。相手が私だと博士は知っていた。だから、お前には近づこうともしなかったし、私へのあてつけのようにあの実験にも使った。それなのに、私は止められなかった!私は、研究者としてロイズ博士を尊敬していた。博士には、昔から頭が上がらなかった。お前を助けようともしなかった!すまない、私は臆病ものなんだ…」

クラフは、じっとしていた。
じっと、聞いていた。
ガラガラと音を立てて、天井が落ちてくる。
デアマンはクラフを抱きしめ、庇う。
その腕の中で、クラフは何かと戦っていた。
腹立たしいのか、悲しいのか分からなくて涙ばかりこぼれた。
暖かい、ぬくもり。お父さんの記憶。抱きしめられた記憶。いつのものだったか、どんな顔だったか、そんなことは思い出せなかった。さあ、クマさんだよ…そう言って、優しくなでてくれた手があった。大きくてふっくらした手。
お母さんがよかったわね、可愛いわね、とクラフの抱える茶色いクマをそっとなでてくれた。嬉しかった。それを渡してくれた人は、ぎゅっと抱きしめてくれた。あれは、二歳の誕生日だった。
そう、こんな風に。

物心付いた時から、覚えている父さんの記憶。
それは、自分を見下ろすオクトの顔だ。けっして、クラフの目線にあわせようとせず、クラフはいつも首が痛いくらい上を向いていた。

「…分からない…分からないよ!」
「すまない、私自身、ほとんど遊んでやれなかった。記憶になくても当然なんだ…」
デアマンが咳き込んだ。
クラフは傍らに落ちている酸素の小さなボンベを手にとって、デアマンに渡した。
男はそれを受け取ると、クラフの口に当てようとした。
「!デアマンさん…」
吸入口でふさがれて言葉が途切れる。再び、何かが爆発して、建物が揺れた。
視界は暗い。崩れた天井の何かがベッドの上に落ち、そこから赤い炎が広がっていた。真っ黒い煙。
早くここから逃げなきゃ!クラフはデアマンを見上げた。クラフを庇うように覆いかぶさった男は、動こうとしない。
その肩が血にぬれていることに気づいて、クラフは慌ててデアマンの顔を覗き込んだ。
片手ではうまく行かない。意識のないデアマンはそのまま、ごろんと倒れてしまった。
「デアマンさん!」
ゆすっても起きない。クラフは酸素のボンベをあてがった。
「息をして!ねえ!」
少年も、咳き込んだ。
窓のガラスが派手な音を立てて割れた。

壁紙に燃え広がっていた炎は新鮮な酸素を得て一気に激しく燃え上がりだした。いっそう明るい炎に包まれて、オクトの冷たい目が揺らめいていた。

熱い。
クラフは、デアマンの口元にボンベをあてがったまま、壁に体を任せた。
焼け付く空気で、喉が痛んだ。
向こうでビイが倒れていた。ビイの背を、廊下に広がる炎が照らす。眩しいくらい明るい。クラフは、頬を伝う涙が、焼けた空気で乾いていくのを感じながら、座り込んでいた。
喉が焼けるって、こういうことなのかな、ぼんやりとそんなことを考えていた。

傍らに横たわるデアマンさん。
そして、その向こうの父さん。
俺だけ平気なのかな。そうか、酸素が薄くてもこの肺は大丈夫だから。
ローザ、天才だ。
オクト博士の背に天井から炎が落ちた。燃える。
「!だめだよ!」
クラフは、涙をぬぐってオクトの手を引っ張ろうとした。身を乗り出して、体の下にデアマンが倒れいていて。
「だめ…」
その背の炎を消そうと、右手で何度も叩く。
また、どこかで何かが爆発した。
びりびりと揺れる。オクトの背に広がった炎は、すでにその体を覆い隠そうとしていた。クラフは目をそらした。
「…父さん…」
崩れた天井の板の下から、何かがふわりと浮き上がった。
あの、模型の飛行機だ。
炎をまとって、黒くこげた紐をゆらゆらさせながら、ゆっくり昇る。
燃えながらも窓から入る風に揺れた。不意に炎を上げていた機体が、パンとはじけた。
きらきらと浮遊砕石が黒い天井に昇っていった。
金色に光って、それは自由を喜んでいるようだ。

小さな「空の羊」号の模型は、発信装置だった。「空の羊」号から補足できる。これを持っていれば、いずれ、必ず、戻れると信じられた。
セキア…

クラフは涙をぬぐって、立ち上がった。胸に下げたデンワを握り締める。
デアマンの手を引く。重い。
窓に向かって引っ張る。
「う…」
デアマンが小さくうめいた。
ずるずると、本の散らばる床を引きずる。
「デアマンさん、しっかりして!」
こんなとこで、死んじゃうなんてダメだ。

天才は永遠に⑤へ続く♪
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エンディングを控えて緊張気味のらんららです!

chachaさん
ふふー(^^)予想外の先をいけて嬉しいです!
クラフくん、どうなるんでしょ!ふふ。
chachaさんに満足してもらえるとうれしいなぁ…どきどきしますよぉ!
ラスト、ご期待ください!

花さん♪
お疲れさま!学際は楽しかったです?らんららの母校もこの時期で、買い物に出かけたりすると資材を買出しに来ている高校生を見かけて、懐かしくなりましたよ!!
オクトの気持ちも、これで少しは分かってもらえる?かな?でも、だからといって許されることじゃないんだけどね(^^;)
天才は永遠に…ふふ。
うーん!ラストシーン、納得していただけると嬉しいんだけど…どきどき…
(らんららが天才!?は、初めて言われた!!逆のはよく言われますよ、ええ^_^;)


kazuさん
お、思いだしてくれましたか!!あの時のコメント、kazuさん、するどいーって(笑)
ドキドキしましたもん♪さすがです!
そう、クラフくんはデアマンさんを助けようとします!そう、そこもポイント!!
オクトのこともやっぱり、お父さんだし、本当のお父さんも、やっぱり大切にしたい。
がんばりますよ!
そして。
セキア様…出るかなぁ?

あぁぁぁぁ

デアマンさん!!
デアマンさんは、クラフ君の実の父親だったんですね!!
それで・・・、クラフ君を助けようとして・・・・。
お母さんが1人暮らしと思われてしまうほど、オクトは家に帰ってなかったんですねってコメントに書いたとき、そこがこの先のポイントになりますよって、コメ返しを頂いたのを思い出しました。
寂しかったお母さんを、デアマンさんが・・・。

クラフ君の中の、幸せな記憶の中のお父さんはデアマンさん・・・。
炎が迫る中・・・、懸命にデアマンさんを助けようと頑張るクラフ君。
セキアさま!!
完成した飛行機で、クラフ君を助けに来て!!!
セキア様ァァァァ

お久しぶりです!
花がパソコン世界から離脱していた間に、色んな事件が起こって、色んなことが解決して、ようやくいい方向へ落ち着こうとしてたのに。
オクト、本物の父さんじゃなかった!そりゃもう納得の限りですよ。だけど、クーちゃんはやっぱりオクトを捨て置けなくて…分かる、痛いほど分かるよ><
って、そんな感傷に浸ってる場合じゃないでしょう!セキアさん!!高所恐怖症だの言ってる場合じゃありませんよ!!
『天才は永遠に』って、そんな意味で終わらせないで!でないと、涙が止らないからぁ~…えぐっ(/Д‐)
天才は、誰よりもらんららさんだと思いますよ!!

どぇぇぇ!?

ななな、なんとっっ!クラフの生み親はデアマンだったなんて!!@@;
これは予想外よりも遥か遠くの予想外だ!!(意味不明。笑)

そうか…これで色んな謎が一気に解決しましたね!
オクト…そりゃあ血の繋がらないんだもの、クラフに対して冷たい態度とるの、頷けます。しかも仲間内の人に妻を取られたあげく、その子供は自分より天才ときたら…憎悪は増すばかり。

でもクラフ、まだ真実を受け止められないでいて。
当たり前だけど;;
クラフの悲痛の叫びがここまで届きましたよ(涙)

模型の羊号が発信機になってたんだ!
セキア!クラフが呼んでるぞ!早く来てあげてーーーー><
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