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「想うものの欠片」第一章プロローグ 2


この小さな港町ポオトは海岸線の北半分が遠浅の海と美しい砂浜、岬を境に南は切り立った石灰岩の崖になっている。
そこを切り出した港は、航路の利便性が重宝され、この国有数の港とされている。西に海を臨み、東はサティモ山脈を背負っている。遠い昔には小さな国家の首都であった時期もあったという。古来から海とともに生活してきたポオト人は素朴で情に厚く誇り高い気質を持っている。現在ティエンザ王国に統一されて三百年以上が過ぎているが、未だに選民意識は強い。

海と自然を尊ぶ彼らは観光客を嫌っていた。この街に生まれた船乗りや漁師は観光客に対してぞんざいな態度を隠さない。彼らの仕事は観光客を呼んで街にお金を落とすことではないのだ。ゆえに移民の商人たちを嫌った。商人の組合である商業会と漁師の団体である漁業会とは常に対立していた。

しかし、街を代表するボール競技のチーム、「ポオト・ルクス」を応援する時だけは違う。

昔から盛んだったこのボールを足で蹴る競技は、ティエンザ王国で正式に国技とされ、王国認定のチームが全国で五十を超える。その頂点を決める大会ではポオトは常に五本の指に入る。

この街に住むポオト人たちにとって、その競技を応援することは、何よりも重要なことだ。他に楽しみがないといってもいい。東の高台にある競技場で試合が行われるときには、港には船がひしめき、沖に出る船は一艘もないという。
街を代々治める領主ロゼルヌ一族はポオト・ルクスのオーナーでもあり、積極的に盛り上げることで商人たちと漁師たちを一つにまとめあげてきた。
その十八代領主、アラン・ロゼルヌが今回の依頼主だった。


ぶるぶるとエンジンを響かせる車の後部座席で、革張りのシートに背を任せ、シーガは不機嫌だった。木枠に革を打ちつけただけの車輪は石畳の振動を直に伝える。ぎしぎしときしむようなその機械の乗り物を、シーガは嫌っていた。

「シーガさま、車ってすごく揺れますのね」
「お嬢さん、揺れますがね、これでも最新式なんですよ。これからは自動車の時代ですよ。王都では自動車のために、道路の石畳に砂をまいて平らにしているくらいですから。この街で今、自動車を持っているのはロゼルヌ卿と商業会会長のスタリングさんくらいのものですが、これから増えるでしょうね」
「嫌いなものは嫌いです。もう少し、揺れないように丁寧に運転しなさい」

運転手は困り果てる。
「そんな無茶言わないでくださいよ」
「じゃ、ミキーがしてみたいです!」
「お、お嬢さん、冗談言わないで下さい」
ミキーはまんざら冗談ではないらしい。面白そうに座席越しに運転手の手元を覗き込むと、ハンドルに手を伸ばそうとする。
「あ、危ないですよ!」
「あん」

運転手に手を払われるとつまらなそうに座席に戻り、落ち着きなく見回す。今度は窓に張り付いて街を眺める。普段は馬車しか使わない。初めての乗り物に興奮している。
その姿は運転手の笑みを誘ったが、青年は苛立ったようでため息の後に一言つぶやいた。

「嫌いです」
「見てください、シーガさま!速いですー!すごいです!お馬さんも追い越しましたの!」
「自動車は気分が悪くなります。だから、馬車がいいと言ったのに」
「はやーい!目が回りますのー!」
かみ合わない会話はいつものことだ。

「運転手!後どれくらいですか」
夜だというのに黒い眼鏡をかけた青年を面白そうにミラー越しに見つめて、運転手は口元のひげを揺らした。
「旦那さま、あと少しの辛抱でございますよ。ほら、競技場が見えてきました」
蒼い顔の口元を手で塞いで、シーガは運転手のさす正面の景色を見つめた。

それは、改装中だという、この街の競技場だ。円形の石造りのそれは、城壁より立派な石壁を半分ほど崩した不気味な様子で、暗がりの中にたたずんでいた。
工事用のテントの小さなランプの明かりだけが、あたりを照らしている。
落日の名残を残す夕闇の空に黒々とそびえる。古い建物の放つ瘴気に、シーガは眉をひそめた。車のライトがテントの前で出迎える人影を映し出す頃には、シーガはますます気分を悪くしていた。

「う、最悪ですね」
「シーガさま、ミキーは何だかドキドキしますの!分かりますの!」
喜んでいるのかなんなのか、少女は青ざめる青年の手を両手で握り締める。

ミキーの耳にも、何かが聞こえていた。それは、これまでの経験からユルギアに違いなかった。
シーガと同じものが聞こえることに、彼女は喜びを感じている。そのあどけない表情を見るとシーガは余計に疲れを感じた。
それは、聞けるものと聞けないものがいる。気付かぬものと気付くもの、と置き換えてもいい。少女はただ、気付くだけだ。
シーガはそれを感じ取ると同時に吐き気に襲われる。それが慣れない車のせいでないことは経験で分かっている。シーガは理解できるもの、ミキーは理解できないもの。そこが二人の違いである。

「…」
「シーガさま?お手手が冷たいのです。嫌なユルギアですの?」
「…うるさいと言っています。ミキー、お前は何の役にも立たないのだから、せめて黙っていなさい」

瘴気を放つその古い建物をシーガは見ないよう、見ないようにと顔を背けていた。
「旦那様、さ、降りてください。私はこちらでお待ちしております」
運転手が後部座席の扉を開けた。
引っ張られるようにして、青年と少女は車から降りた。
「まったく、こんな仕事請けるものではありませんね」
「でも、シーガさま、石を感じるってそうおっしゃったですの」
「…自動車に乗るくらいなら、石などどうでもよかったのです」
ミキーは首をかしげた。

依頼の封書が届いた時には、とても嬉しそうだったのだ。
探している大切な石が関係するのだと話していたのに。
「シーガさま、うそつきですの?石と自動車とどちらが大事ですの?」
「…うるさい。人は矛盾するイキモノだ。お前とは違う」
悪戯を見つけられた少年のように一瞬表情を歪めると、すぐにまたいつもの冷静な顔をする。ミキーは垣間見える青年の表情を楽しむかのように、その顔を真似して見せた。
もちろん、シーガは無視している。
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要さん♪

ありがとうございます!なかなか、じれったい(笑)展開かもしれませんが…v-356
ロゼルヌ卿の依頼。今回、ここに彼らがいる理由です。何をするのか…見ていてやってくださいv-345

車でポオトの街を走るシーガさん達。不機嫌なシーガさんと楽しそうなミキーさん。彼らの会話が面白かったです。
そして領主ロゼルヌさんから受けた依頼とはどのようなものなのか
次回の展開に期待します

chachaさん

ありがとー!!
まだまだ、ゆっくりお話が始まるので、分からないことだらけでしょうね…楓さんのとこみたいに世界の説明がほしいかなぁ…でも地図とか大変だし、と。まめじゃない性格なので(^^)
ユルギア、それもだんだんと出てきます。
お付き合いお願いします♪

はぅ・・・

一番乗り逃しました;;
読みにきたのはきっと一番でしたが(笑)

本当、皆さんも言ってますが、描写がとにかく素晴らしいです!!もぉもぉ!本当に素敵です☆
地図とかイラストを入れなくても、ちゃんと位置がわかる。
山があって、海があって、そして競技場。
いいですね~^^これからどんなことが起こっていくのかわくわくします☆

自動車・・・そうか、便利だけどかなり辛そう@@;
乗り物酔いとか激しい人には不向きですね><
そんな中、ミキーちゃんはかなりはしゃいでて(笑)
めっちゃ可愛いです~☆萌えです^^
それとは対照的な、シーガ様☆そこがまた魅力的♪
ででで・・・
ユルギアとは一体何なんでしょう??幽霊みたいなものなのかな・・・ぶるぶる@@;

続き楽しみにしてますっ!><

ユミさん

うふふ、そうですよね、ミキーのあの性格には理由があるのですが。
ずっと一緒に、二人っきりだったら、シーガさまみたいになりそう確かに(笑)うざいよお前!!ってね!

今回のは背景の描写(説明^^;)がたくさん必要で、なのに、キャラクターの視点はなるべく使わずにと思っていて。…この物語で一人称で語るのは、第二話から登場の少年だけのつもりなので。プロローグは、ちょっと硬い文章です。だから余計に、ミキーの騒ぎ方が目立つのですね!
静と動。そうですね、テンポを上手く操れたらと。理想ですが。まだまだ!小説は奥が深いですね~♪

えっと…

ミキーとっても無邪気ですよね~。なんとなく、シーガ様の気持ちも分かるかも!
わたしの知り合いで、ミキーのような男性がいるんです^^
無邪気で、人の意見に全てYESのイエスマン(笑)
でも、女の子なら可愛いですよね~。

小説の初めがいつもキレイな情景で始まって、とっても静かで穏やかな
情景を思い浮かべて、心が落ち着いて…
そして、ミキーの登場で、楽しくなる♪静と動のコントラストがとても
面白い文章です☆
ホント、楽しい^^

コメントありがとうです!!

ひじょーに眠いらんららです。テンションあがらなぃ~e-260
kazuさん
町の歴史…考え出すと止まらなくなっちゃうんですよね、こういうのって。
雰囲気はナポリ、多分。近くまでいったことがあるけれど、街のイメージはそれです。
今回のプロローグは、ちょっとクールに決めたい(^^?)
と思っていて…。なかなか、話が見えてこないとは思いますが…お付き合いください!

楓さん
ふふ、ツボでしょ?
らんららはどうも、日本の風景よりこういうのが好きです。
想像していて楽しい♪町の歴史、背景、現状。そこに生きる人たち。今回はちょっと、そう言う部分も描いていくつもりです。
ゆっくり進む物語になりそうですが!
ふふ、どこかでフローターがチラッと掠めるかも?(その際はタウくんによろしく!?)
ツンデレ?そうか!男の人でもツンデレはあり?
しかししかし。楓さん。シーガさん、ツンツンですよどっちかというと。
デレは一切なし!
冷たい奴です。
ある意味どこかのメラメラ氏と同じくらいかも(笑)容姿はマー様と同じくらいだと嬉しいですが…らんららの文章表現では、無理かも♪
クールに行きますよ!プロローグは!
おお!?茉莉さん、新しい小説ですか!!素敵な情報、ありがとうございます!!

おお~♪

煉瓦作りの街に夕日、そして海・・・
この組み合わせは最強だと僕は思っています。
思わずリコシェを思い起こしました♪
なんか、僕のツボをつく設定で・・・いいですね~♪♪
自動車が普及し始めた時代。
そのノスタルジックな雰囲気も好きです。
しびれますy
その辺にタウ居ません?
岬あたりでフローターかっ飛ばしてません??笑
風景の描写に脱帽です。
で、シーガ君・・・
も、もしや彼はツンデレ系??
時代は美少年のツンデレかっ!!!
うおぉ、それはちょっと斬新かつ今後萌えそうな予感。て、勝手にシーガ君をツンデレ美少年にしてしまってますが、何か?
いいですね~
キャラが立ってますぅ~←キモイ?笑
茉莉さんのといい、皆さん新作のつかみ最高にグーで羨ましいですっ!!

凄く、情景が浮かびました。
港町、ポオトの地理。
そして、歴史と今の現状。
ポオトの町が、シーガ様たちが本当に何処かにいるように感じる。
らんららさんの小説はいつもながら、描写や背景に、とてもすっと入り込めて、凄いなぁと思います♪

シーガ様、不機嫌ですね^^;
うーん、確かに革だけを木枠に・・・じゃ、振動で気持ち悪くなりそうですね。
でも、ミキーちゃんがいてくれるからいいのかも☆
凄くあってますね、2人って。
お互いがちゃんと会話が繋がるように話していたら、とことん不思議か、とことん不機嫌かになっちゃいそうで☆
2人だからこそ、一緒にいられるんだろうなぁって。

そして、シーガ様がここに着た理由が、垣間見れました!
依頼があったことも理由だけど、捜し求めていた大切な石、それに関係するから・・・だったんですね。
シーガ様の探している大切な石。
それがなんなのか・・・
そして、ユルギアとは・・・?

続き楽しみにしています~!
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