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「想うものの欠片」第一話プロローグ 8


「うわー!すげー!広い」
眩しさに、ルーファは立ち止まった。
「綺麗だなぁ!」
ぐるりと取り囲む観客席、一層式ではあるが、傾斜の急な観客席はまるで城壁のように芝生のグラウンドを囲んでいた。何度か観戦に来たときは、あちらから見下ろしていた。あのときよりずっと、広く感じた。

「ルーファ、早く!」
「ああ!」
先を行く少年たちにそう叫ぶと、ルーファは通路を抜けたところで立ち止まっているミキーを振り返った。
「な、日の当る、俺たちから見えるとこにいてくれよ。もし、なんかあったら嫌だからさ」
信じないといいつつも心配する少年に、ミキーは目を細めて飛び切りの笑顔で答えた。
優しい父親を想像できる。
少年を見送ると、ミキーは直ぐ前に広がる芝を踏みしめた。向こうから少年たちの楽しいそうな歓声が聞こえた。さっそくボール競技の試合を始めたらしい。白いボールを追いかけてルーファも元気に走っていた。
ミキーは足元をじっと見つめながらとことこと芝の上を歩いた。石畳とも土とも違う。柔らかい感触に嬉しくなって、ぴょんぴょんと二度、そこで飛び跳ねてみた。
「うーん、靴脱ぎたい!靴脱ぎたい!」
「芝の上ははじめてかい?」
気付くと隣に青年が一人立っていた。
金色の短い髪、がっしりした体格。濃い茶色の目で、少女を見ていた。
落ち着いた穏やかな声に、ミキーは胸に手を置いて一つ息を吐いてからこたえた。
「はい、芝生の上は気持ちいいですの」
「はは、そうだね。ここに夜露が降りるとね、早朝はとても美しいんだよ」
さわと、風が吹く。青年の視線に釣られて、ミキーも一面芝生のグラウンドを眺めた。今は眩しいくらい昼の日差しが差し込んでいる。
とくりとくりと、心臓が高鳴る。
傍に立つ青年。
静かで、穏やかなユルギア。
それでも、ミキーはどうしていいのか分からない。
シーガさまのお手紙には、そのことは書いてなかった。青年の手が、ミキーの小さな肩に乗る。じわりと、重苦しい気分が伝わる。
「いい試合だね、もう少し傍に行こう」
青年はニコニコ笑っている。嬉しそうだ。
「はい」
緊張しながらもミキーは逆らえない。
「不思議だね、君はとっても小さいのに、すごく魅力的に見える」
「そ、そうですの……」
「可愛らしいのに、どうして隠すの?その大きな耳」
青年のユルギアが耳元をくすぐる。
ミキーはぎゅと目をつぶった。
シーガさま、シーガさま!怖いですの…


「あ、あいつら!」
ふいに背後で声がして、ミキーの傍らをシドが駆け抜けていった。追いかけてきたのだろう、大人たちも一緒だ。きょろきょろと見渡しながら、それでも日の当る芝生に出ると誰もが足元を確かめる。
だれも、少女と青年には気付かないようだ。


晴天の下の球技場はまるで彼らを歓迎しているかのように心地よい空気が漂っていた。
「ルーファ、止めろよ!」
シドがルーファの腕をつかむ。
「平気だって、シド!やっぱり全然違うんだな、芝生の上ってさ!なあ、シド!一緒にやろうぜ。今日こそ決着をつけようぜ!」
赤毛の少年は頬を上気させ、満面の笑みを浮かべていた。
ルーファがそんなふうにシドを誘うのは珍しいことだった。それが嬉しい気がして、シドは仲間を振り返る。皆も、芝生に触ったり、足の感触を確かめたり。そう、ボールを蹴りたいのだ。
「よし、分かった!」


そうなると話は早い。少年たちは海色のシャツ一色のチームといろいろ混じったルーファたちのチームとに分かれて四角いフィールドのそれぞれの持ち場に広がっていく。そこに、一つのボールが投げられた。試合が始まったようだ。
走り回ってボールを蹴る子供たちを、シドの父親スタリングも一緒についてきた大人たちも穏やかに笑いながら見つめていた。
ルーファが先頭をきってボールを蹴りながらゴールに向かう。ゴールの四角い枠の前では、大きな体の少年が腰を低くして待ち構えている。
威張るだけあって、ルーファは上手かった。後ろから追いすがるシドをかわすと、ルーファはくるりとターンして、仲間にパスを出した。受け取った少年はゴールに向かってボールを勢いよく蹴りこむ。
惜しくもゴールの枠から少しだけ外れた。
「おー!」
見ていた大人や子供たちが歓声とどよめきとで彼らのプレーに応えていた。
漁師の子供たちは痩せてはいるものの、すばしこくて、シドのチームの子供たちより明らかに身体的に優れているようだ。ボールを取って走り出せば一直線にゴールの近くまで攻め込む。それに比べてシドのチームはボールの扱いが上手い。商業区の学校には専属の指導者がいるのだろう。皆、同じくらい上手だ。シドはテデがまっすぐ突っ込んでくるところを上手く奪うと、きれいなパスを仲間に繰り出す。そうして自分もゴールに向かって走り出した。
「シド!走れ!負けるな」
ランカ・スタリングは思わず大きな声を出す。
それにつられるように、一緒に来ていた大人たちも、口々に海色のシャツを着た少年たちを応援し始めた。
その次にシドに向かって蹴られたパスをルーファが奪い取る。まるでたくさんのルーファがいるかのようにどこにいても目立つ。
再びゴールに迫ったルーファは、シドを正面に一旦止まる。足元にはボール。
「そんな奴、突き飛ばしちゃえ!」
テデが怒鳴った。
「よっし!!」
ルーファは一旦左に抜けようと見せて、逆に体を切り返した。
「っと!」
慌ててシドが止めようと足を出すと、それは出遅れてルーファの足元をさらった。
「ファール!ファールだぞ!」
転んだルーファに駆け寄って、少年たちが口々に怒鳴った。
この位置では、ゴールに直接シュートできる。
ファールをもらえば、ルーファたちには大きなチャンスだ。
「違うよ!今のはファールじゃないよ」
今度はシドのチームが騒ぎ出す。
「レット、審判してやれ!」
スタリングがレストランを経営する太った男に声をかけ、じゃあ、と審判員の資格を持つレットが腰を上げた。
「ようし!仕切りなおしだ!」
レットが厨房の見習いを怒鳴りつけるような大声で告げると、どこから引っ張り出してきたのか、正式に試合時間を計るための大きな砂時計ががらんと返された。
笛が鳴る。

見に来た大人たちも、その音に興奮するのか表情を輝かせた。
少年たちはポオト・ルクスの応援歌を合唱し始め、大人たちもそれに合わせて歌いだした。お互いそれぞれのチームを応援しているのだが、彼らの知っている応援歌は同じだ。
同じ歌を歌いながらも、自分の子供たちがチャンスとなればそれは歓声に変わり、危なくなれば再び同じ歌を歌う。
漁師たち、商人たち。交互に歌う応援歌は競技場に響き渡る。

本物のポオト・ルクスは遠征中だ。この街に帰って来るのは数ヶ月先のこと。その間、寂しい思いをしていたのだろうか、応援歌を聞きつけて、街の人々が集まりだした。
歌声と声援は風に乗り、街を流れる。まるで人々を競技場に誘い込むように。
いつしか競技場は、在りし日の雰囲気をまとっていた。
「おや、久しぶりにポオト・ルクスの応援歌が聞こえると思ったら」
そういいながら、年老いた老人が、杖をつきながら入ってきた。ミキーの立つフィールドの端をよたよたと通っていく。
「おじいちゃんったら、母さんの声は聞こえないのに、応援歌だけは聞こえるのね」
呆れて笑いながら、老人の世話をしているのだろう孫らしい女性が後についてくる。
「ほれ見なさい。未来のポオタスたちじゃ。血が騒ぐのう!」
ポオト・ルクスの選手のことを町の人間は敬愛を込めてポオタスと呼ぶ。
まさしく、ポオト・ルクスに憧れる少年たちの幾人かは、いずれこの芝を違った形で踏みしめることになるだろう。

おじいさんや街の人は皆、憑かれたように少年たちの競技に見入っていた。誰も、ミキーが小さく震えていることに気付いてくれない。
青年のユルギアはミキーの髪をなで、帽子の下の隠れた耳を引っ張り出そうとしていた。
「いやですの…」
震えているミキーに青年は悪びれもせずニコニコしている。
「本当に可愛いね」
「君はやらないのかい?」
ミキーに、声をかけた人が居た。


次へ 

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要さん♪

ありがとうございます!
やっとお話が展開して来ました(^^;)のろのろで申し訳ないです~!
この競技場の雰囲気が書きたくて(かけているかは別として…^^)このプロローグがあるのです♪青年のユルギア、正体はきっと直ぐにわかりますよ♪楽しみにしてください!

憧れの競技場の中に入る事が出来て、少年達はとても楽しそうですね。そんな彼らを見守るミキーさんはユルギアの事を気にしているようですね。
果たして静かで、穏やかなユルギアとは何なのか、ミキーさんに声をかけてきた青年は何者なのか
次回の展開に期待します

楓さん♪
いい勘です!!ミキーはやっぱり普通の子じゃないですので(^^)
見えてます。見えてますが、見えてない人もいる。
ふふふ~謎ばかりで申し訳ないですが!
しかし、そうか!v-392やっぱり楓さんは男性ですねぇ!!
らんららもこういう人がいたら怖いですよ!なれなれしく声をかけてきて、「君可愛いね~」って、髪とか触ったら、それ、痴漢ってヤツです(笑)殴り倒します!ミキーちゃんには出来そうもないですが!v-404
もう近くに!シーガがきても…、あの人が、助けてくれるかなぁ?


chachaさん
ふふふー、人間の姿になるとは思いませんでした?
ミキーちゃんにも見えます。でも、シーガほどは見えないし、理解も出来ない。それでも中には、他の人にも見えたりする奴もいるわけで。その辺は、幽霊に似ています。
そうそう、触るなって!!(笑)ミキーもchachaさんなら、ギュッっとしちゃいます♪
ミキー:素敵な香りがするですの!chachaさんも柔らかですの♪って(おっと、妄想!?)



ユミさん♪
続けてコメありがとうです!!
そう、ぞぞぞっv-405て(笑)
耳のことも、多分ミキーがピーだってことも、彼は本能(?)で感じているわけです。
そう、ミキーちゃんはボール競技(ごめんなさい、どうしても名前が浮かばなかったんです、この競技。でもサッカーってするのは問題ありな気がして^^;)はしません。
声の主は…次回に続く…v-217

ゾクゾク

なに、この雰囲気!!
本当に背中がゾクゾクしましたよー。
ユルギアには何でも分かっちゃうんですね。
みんな、ボール競技に夢中なのは分かるけど、ミキーちゃんを
助けてあげて~。
と思ったら、誰か声をかけてくれたんですね。
これは、助け舟?ミキーちゃんはさすがにみんなに混じって、
ボール競技はしないだろうに…。

えぇぇ???

ユルギア、実体するんですか!?青年の姿・・・
最初話しかけられた時は何ともなかったのに。
ミキーの胸がとくん、とくんって@@;
ということは、ミキーからしたらユルギアも普通の人も変わらず見えるのかな??
で、途中で気づいたのかな><
こらー!ユルギアめ!馴れ馴れしくミキーに触るんじゃないっ!!
私ですらまだ触ってないんだから!!(←ここ重要。笑

みんな、ルーファもシドも、大人たちも、みんなが一つになって試合をして^^
ふふ☆みんな強いのね~!将来が楽しみです、本当に♪
で、
大勢集まりましたよ!シガーくん!これからどうするつもりなんでしょう??
てゆーか、早くミキーをユルギアから助けてあげて~~><

ユルギア!!

ミキーの側に現れた青年!!
ユルギアって実体化するんですね~
てか、もしかしてミキーの特殊な能力で、ミキーにだけ実体化して見える??
そして震えてますね。
怖いんだ・・・
表情はニコニコしてるけど、怖いんだ・・・
うーん、シーガ君。
早く出てきなさい。ツンツンだけじゃミキーを守れないぞ~
それとももう近くにいる?
そして、最後に声をかけたのは、誰?
Secret

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らんらら

Author:らんらら
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