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「想うものの欠片」第一話プロローグ 9




ミキーは呪縛に解かれたように、慌ててそちらに駆け寄った。
シドの父親、ランカ・スタリングがミキーのほうを見ていた。
「はい、見ているだけでいいですの」
半分しがみ付くようにする少女に驚いて、スタリングは笑った。
「あ、ああ、君じゃなくて」
シドのお父さんが、ミキーを通り越して先ほどの青年に声をかけたのだと気付いて、少女は恥ずかしそうに笑った。この人には、見えている。ユルギアが。ミキーは首を傾げつつも、ほっとしていた。


「僕ですか?」
青年はむしろ嬉しそうに、声をかけてきた四十代後半の男性の傍に歩いてきた。
「ああ。その服装は昔のポオト・ルクスのユニフォームだね。懐かしい。どうだい、一緒にやったら?楽しいぞ」
「僕はいいんですよ、子供たちの試合を邪魔しちゃいけませんから」
「ふん、遠慮深いなぁ。私が君くらいの年のころには、ボールさえ蹴られればどこでも誰とでもやったもんだ。子供相手ならなおさら、負ける心配がないからね」
ランカ・スタリングは青年に悪戯っぽくウインクして見せた。スタリングには青年がユルギアだと分かるはずもない。
「そうですか。友人にそういう奴がいますよ。ボールを見ると子供みたいになってしまう。あなた、彼にどこかにていますね」


青年が笑って答えた。すっかり、ミキーのことは忘れてしまったかのようだ。
「よかったですの……」
ポツリとこぼすと、帽子を直す。馴れ馴れしい青年のユルギアに、帽子を取られるところだった。悪意はないのだろうが、思うままに行動する彼らは獣に近い。
ほう、と甘い綿菓子のようなため息をついて、少女はそっと青年のユルギアを見つめた。


本来、普通の人にユルギアが見えることはない。稀に姿を見せる時には、何かしら理由がある。青年はまるで実体を持っているかのようにはっきりとした姿で、スタリングの言葉に答えた。
二人は楽しそうに会話している。まるで、旧知の友人のように。


「私はこれでも昔は選手だったんだよ。そこそこ活躍したんだ。当時は私からボールを奪えるのは神くらいだと、そう、信じていた。あの頃はね。それにしても、久しぶりに来たな。もう、そうだね、二十年になるか。私の走ったフィールドで、今息子がボールを蹴っている。なかなかいいもんだね。そうだな、壊される前に、最後に見ておくのもいいのかもしれないな」
感慨深くつぶやくスタリングに、青年が悲しそうにつぶやいた。
「壊される、ですか……」
おおー!歓声が上がる。
ちょうどシュートを決めて、ルーファは高々と手を上げてミキーに笑いかけた。
ミキーはルーファの笑みに両手を振った。
それを見て仲間が自陣に戻りながら、冷やかし半分でルーファの肩にタックルをかける。
シドと目が合うとルーファはにやっと笑って見せた。



その頃。
アラン・ロゼルヌ卿は、ただならぬ面持ちで馬車の座席に身を沈めていた。
隣に座る青年は無表情なままだ。
「大体、シーガ、君を雇ったのはファドナ様の推薦があったからだ。昨夜、ユルギアを見たのならどうしてその場で退治してくれないのかね!わざわざ昼間、しかも子供を使っておびき寄せようなどと。どういう考えなのか理解できん」
「退治ではなく、調査依頼でしたが?それに、あのユルギアは条件が整わなくては出て来ません。子供たちは必要です。何か問題でも?」


シーガは表情一つ変えずにロゼルヌ卿を見ていた。その、黒い眼鏡の向こうの瞳にはどんな表情が浮かんでいるのか分からない。
それもまた、卿を苛立たせる一つだった。
「例えば、だ。私は信じていないが、万が一にも君の意見が正しくて、競技場にユルギアがいたとしてだぞ。わざわざ子供たちを使うことはあるまい!子供たちに危険が及んだらどうするつもりだ」
「さあ?私はユルギアも好きではありませんが同じくらい子供も嫌いです」
ロゼルヌは天を仰いだ。
「いいかね、シーガ。私は、ユルギアなど信じてはおらん。競技場は、取り壊さなくてはならん。老朽化が進んでいる上、先日落石で人が一人死んだ」
シーガが目を細めた。


「いつのことです?なぜ、それを早く私に教えてくださらなかったのですか」
「先月のことだ。死んだのは管理人の老人だ。早朝の見回りの最中に落石に運悪く当ったらしい。発見されたときには死んでいたのだ」
ロゼルヌ卿が視線をそらす。
シーガはまた、小さくため息をついた。
「競技場でおかしなイキモノが工事の邪魔をする、ユルギアかもしれないから調査してほしい。そういう依頼だと、聖女ファドナから聞いています。なのに、その件を話してくださらなかったのはなぜですか?」
「私は、ユルギアなど信じてはおらん。管理人の事故とは関係ないと思っている。工事業者が気にしているだけだ」
青年が、黒い眼鏡を外した。


矛盾だらけの男の背後には、様々なものが見えていた。影だけのようなもの、時折きらりと光って男の首の周りから腕までを流れる水のように走るユルギア。意思を感じさせないくらい小さなものもある。多くの人、物事に関わって生きる者ほど、多くを引き連れている。だからといって、生活に支障が出るほどのものは見当たらなかった。
本人の強い意志にも関係があるのだろう。
ユルギアは大まかに言えば人間の残留思念。
すぐに消えるものあれば、長く残るものもある。
影響されやすい人間は、自らの思念の力が弱い場合が多い。


シーガは先ほどから、近寄ろうとして近寄らない老人らしき影に気付いていた。波のように、押し寄せては去っていく、彼の思念はロゼルヌ卿に悪意を持っていた。
だからこそ、ロゼルヌはこの場を嫌がり、近寄ろうとしない。
心当たりがあるのだろう。感じるのかもしれない。
老人は死んだという、管理人のように感じられた。
シーガは目を細めた。
「そうですか。なるほどね、それで納得できましたよ。あなたの傍にいる白髪の老人の意味が」
「!?」


領主は目をむいて青年を睨む。銀色の髪、翡翠色の瞳、典型的なシデイラの民であるシーガにも、初めて会う異民族であろうが、なんら態度を変えずに接してきた豪胆な男だ。


しかし、今は違った。
シーガの言葉は、背筋を寒くさせた。ロゼルヌ卿は口を閉じ、しばしシーガを見つめた。
シデイラは異教徒。ユルギアを見るという彼らを、通常は忌み嫌う。


この競技場の怪しげな植物を工事業者がユルギアだと騒ぎ立てた。そのため、ロゼルヌは教会を頼ったものの、異教徒排斥を訴えるロロテス派の司祭は相手にしてくれなかった。ユルギアなどいない、それが彼らの言い分だ。仕方なく、隣国の同じ教会に連なるミーア派の大司祭、聖女ファドナに手紙を書いたのだ。
そうでなければ、こんな得体の知れない男を雇うなどしなかった。

次へ 

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青年とシドさんの父は、どうやら顔見知りのようですね。彼が自分から遠ざかったことで、ミキーさんも安心しているようですね。
一方のシーガさんは、ロゼルヌさんともめているようですね。ユルギアを信じるか信じないかでもめている2人が、今後果たしてどのような動きを見せるのか
次回の展開に期待します

お言葉ありがとうです♪

か、楓さん♪いつのまに覗き見を…v-405
ってくらい!おお、当ててください!予想を裏切りません~♪(いいのかなそれで?…いいんです!!プロローグですから!←?)
ぷはは!!江原さんと来ましたか!!
近い近い!!今度ちょっと、和服着せてみます?似合うかも!!
うふふ。
どう展開するのか。楽しみにしてください!


ユミさん♪
楓さんにやられましたね!?v-392
内容がシリアスなので、コメントの楓さんは貴重な存在ですよぉ~(ありがたや~ありがたや~v-345
シーガさま、たいていのものが嫌いです。好きなものなど、…多分、自分…ぷっ♪想像して笑えた!

ぷっ^^

楓さんの、シーガ←江原さん?!のコメントに、思わずニンマリ笑って
しまいました~。

スタリング氏には、ユルギアが見えていたんですね。そのお陰で、
ミキーちゃん、なんとか帽子を取られずに、耳も隠せて良かった~~。
このユルギアさん(さん付け?!)悪そうには思えないな~。いたずら
好きって感じがして、あんまり憎めない。

シーガ様!お久しぶりです♪
彼ってば、すべてお見通しな雰囲気ですね~。子供達を集めたのにも
ちゃんと意図があって…。でも・・・子供が嫌いなんて~~。
それでこそ、シーガ様という感じはするけどね~^^

おおおおお

このユルギアの青年とシド君のお父さんって、昔のチームメイトだったりしません?あ、でもそれだったらユルギアの顔見たら思い出すか・・・
でも、世代は違えど、同じユニフォームを着て、同じようにボールを追いかけたからか、仲間意識みたいな、何かそんなものを感じずには居られないですね。だからこそ、スタリングさんにはこの青年ユルギアが見えた???
で、で、シーガ君。
ようやっと再登場ですか。
しかも・・・あなたはもしや江原さんですか?!!笑
な展開ですね~いいですね。
事故死した管理人のおじいさん、競技場を壊すな~なオーラ出てるんでしょうか?出てるんでしょうね~☆
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