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「想うものの欠片」第一話プロローグ 10

10


シーガは再び眼鏡をかけた。
「ユルギアは皆何かの思念を持っています。いえ、思念のみと言っていいでしょうか。恨み、悲しむ。人は自らの死に臨んで最も強い思念を抱くといえるでしょう。だから、ユルギアは死んだ人の思念であることが多い。そのユルギアはあなたに言いたいことがあるようですよ。通訳しましょうか?」


「ユルギアが話すと言うのか!司祭たちでもユルギアの声を聞くなど聞いたこともないぞ!」


「くく、司祭と一緒にされても…高名な司祭たちがユルギアなど相手にすることはありません。聞こえいても無視するでしょう。私は聞こえるものには耳を傾ける。たとえ死んだ老人の呟きだろうとね」
くくく、と青年はいかにも面白そうに笑っていた。
ロゼルヌ卿は日に焼けた頬を薄くなった額まで赤くして怒鳴った。
「嘘だろう!人をからかうのもいい加減にしろ!薄気味悪い、シディが!」


シーガの笑いは大きくなった。シディ、それはシーガの民族シデイラを卑下した呼称だ。しかし青年は面白そうに笑っていた。
「っははは。ロゼルヌ卿、あなた面白いですよ。いや、この街に来てよかった」
「うるさい!」
領主は馬車が止まると同時に、シーガを押しのけるように外に出た。
とたんに、領主の顔色が変わった。
「なんだ?」


歓声と歌声はうねりとなって競技場を揺らしているようだった。
「なんでこんな騒ぎになっている!」
忌々しげに傍らに並んで立ったシーガを怒鳴りつけた。
「シーガ、直ぐに止めさせるからな!分かっているな!」
シーガは憤るロゼルヌ卿を無視して競技場のほうに歩き出した。
「ユルギアなど、信じないからな!」
ロゼルヌ卿は青年の背中に怒鳴った。そして、黒褐色の古びた石造りの建造物を見上げた。
「忌々しい…」
かつて、卿自身もボール競技の選手であった。四角張った顔立ちのいかにもポオト人の男性らしい容姿だ。堀の深い顔立ちに鼻梁が濃い影を落とす。口をへの字にしたまま、青年の後を追って橋を渡り、競技場の入り口へと入っていった。


あの黒い植物はまた伸びたのか、通路の天井を覆いつくしているように見える。薄暗い中、明り取りのはめ込みの窓からの光が斜めに差込み、ちょうどその下に差し掛かると青年の銀の髪が揺れた。
「ロゼルヌ卿、あなたは面白い人だ」
そう言って振り向いた青年のコートがゆらりと風に揺れた。


建物の中ゆえ風はない。
ロゼルヌ卿はそれに気付いた。いつの間にか響いていた歌声も聞こえず、静まり返った通路内で、風もないのにシーガの服がなびく。
再び、シーガの髪がまるで風に弄ばれるかのようにゆらいだ。
「うるさい」
青年の小さな呟きに、髪はぴたりと止まる。
若い領主は憮然としていた。


「何の悪戯だ、シーガ。何を仕組んでも私はユルギアなど信じない。古代の神々も、神王も単なる宗教上の象徴に過ぎない。山から掘り出される鉱石で自動車が走る時代だ。この国にも王都には機関車が走り、蒸気を利用した飛行船も飛ぶ。この進んだ時代に乗り遅れまいと、諸侯はこぞって技術者を募り、自らの領地を新しい機械で潤そうとする。このポオトでも新しい蒸気船を開発している」


青年は黙っていた。黒い眼鏡の奥の瞳は無表情だ。
「いいか、負けてはならないのだ。この時代を生き延びるためには、より便利な海路と陸路を手に入れなければならない。進んだ技術によって大量輸送が普及し始めたこの国にあって、山と海に挟まれたこの街は時代から取り残されつつある。ユルギアなど、怖がっているわけにはいかない。古臭い考えを捨てなければ、新しい世についていけないのだ。私には、この街に責任がある」


太いロゼルヌ卿の声が天井に反響した。
シーガはふん、と小さく笑った。
美青年といっていいシーガの愁いを帯びた笑みに、ロゼルヌはぞくりと何かを感じた。視線がつい、彼の口元を見入ってしまうのは眼鏡のために瞳を見ることが出来ないからだ。表情を読もうとそこに目が行く。
そして緩やかな笑みを浮かべる唇は妖艶な雰囲気を漂わせているのだ。
男は目をそらして吐き出すように言った。


「なんだ、何か文句でもあるのか」
「いいえ。私もユルギアは嫌いですよ。ユルギアは思念を持った獣です。赤ん坊に近い。単純な思念だけでつまらないものです。あなたのような人間の思念が覗けたらと思いますよ。きっと、醜く淫らで、悲しく切ないでしょう」
ロゼルヌ卿は怒りに任せて青年に掴みかかろうとしたが、足元を一瞬駆け抜ける風を感じて立ち止まった。
黙り込む。

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要さん♪

ありがとうございます!
はい、シーガは複雑な性格なので(笑)
ロゼルヌ卿、彼はこの物語のある意味準主役?ですね~。
毎日コメントいただいて、うれしいです♪通学時間の間なのかな~?ありがとうございます!

どうやらこの物語の悪役は、ロゼルヌさんであるようですね。
そしてシーガさんはシデイラと言う異民族の出身だったのですね。自らの民族を差別された彼は、内心で怒っているのだと思いました。
ユルギアの存在を信じるか信じないかでもめている2人は、この後どうなって行くのか
次回の展開に期待します

ユミさん♪

ありがとう~♪
古いものと新しいもの。どちらも魅力があって、難しいですよね!
ふふ、老人の話す事、ロゼルヌさんは聞きたくないでしょうね(><)
シーガがどうするつもりなのか。
見ていてやってくださいv-345

発展のために

新しいものを追求する気持ちは分かりますけど、古いものも大切に
しなきゃ~、ロゼルヌ卿!!かつてボール競技の選手だったのなら
特にです!!
ホントはユルギアが怖いんだろうと思うんですけど…。シーガ様、
ロゼルヌ卿の近くにいる老人のユルギアの思念を話して聞かせて
あげて^^

かいりさん♪

ありがとうございます!!
う、嬉しいです!かいりさんに読んでいただけるなんて!!(><)
今回のお話、そう、この、大勢の人の動きを書くのがすごく難しくて!更新するたびにどきどきしています!嬉しいです!あのおじいさんの台詞や、孫。街の歴史を感じていただけると♪
がんばります!ええ!勇気いっぱいもらいました!
合流して、シーガとミキーちゃん、どうするのか!うむむ。本当に難しいのはこれから…がんばります!!
そしてそして!!リンク♪ありがとうございます!早速らんららもいただいて帰りました!

こんにちは!

こちらでは初めまして!かいりです^^
ふあぁ!一気にここまで読ませていただきました!
世界観が凄く好きです><!!
そしてシーガ様はかっこいいしミキーは可愛すぎるし!
この二人の関係がすっごく気になります!ミキーちゃんの正体も!!

おじいさんが盛り上がっている試合を見に来て、孫が「おじいちゃんたら、お母さんの声は聞こえないのに…」
というシーンがすごく好きで思わず涙ぐんでしまいました!
こう、皆が一致団結しておー!!って盛り上がるシーン大好きなんですよー*><*!!

続きも楽しみにしています!頑張ってください!
うちのブログにリンクを貼らせて頂きました!
お時間のあるときにご確認くださいませ^^
それでは!これからも宜しくお願いします!!
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