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「想うものの欠片」第一話プロローグ 11

11


シーガは競技場の歌声、風の音、海の音を意識した。
今ルーファに手を振っているミキーが帽子の下の耳をぴくりとさせてシーガの存在に気付いたことすら、聞き取っていた。二人は互いにそういう部分でつながっていた。


シーガが競技場の芝生に足を踏み入れた時には、黒い服の少女が駆け寄ってきていた。抱きつこうとするので、額を押さえる。
「シーガさまっ」
短い手をパタパタと伸ばす仕草はかわいらしい。
「尾が出ていますよ、みっともない」
「あ!」
慌てて自分の後ろを見ようとくるりとその場でミキーは廻る。
「あれ?あれ?」
「随分、集まりましたね」
シーガは感心したように見回した。


観客席は封鎖されているために、四角のフィールドの外側は人でいっぱいだった。早朝の漁を終えたのか漁師の一団らしい男たちも、声を張り上げて自分たちの息子を応援していた。
ちょうど、競技の残り時間一パイントを告げる鐘が鳴らされた。
競技の時間は専用の砂時計で二十回返して測る。残り一パイント。パイントとは砂時計に入っている砂の量を表す単位だ。一パイントは生まれたばかりの赤ん坊と同じくらいの重さで、それを詰め込まれた酒の小樽位はある砂時計が専用の台座の上でがらんと向きを変えた。最後の一パイント分、砂が落ちきるまでが勝負だ。
点数は二対二。同点のようだ。


「ふん、子供同士の競技にこれほどの声援を送るとは」
言葉とは裏腹に誇らしげな領主に、シーガが答えた。
「ご存知ですか。この競技場でこれほどの歌声が響く理由を」
「声が反射するつくりになっているのだろう?人間の技術はすばらしい」
シーガはふっと笑った。
「いいえ、これもユルギアです。たくさんの人々の想いがこの競技場の石くれ一つ一つに染み込んでいる。それは、この競技場で試合が行われるたびに揺り起こされ、まるでこの座席全部に人がいるかのように響かせる」
「信じないぞ。お前はそのうち、陽の光すらユルギアだと言いかねん。いいから、お前はあの木を何とかするのだ」


「こりゃ、領主様、ごきげんよう。さ、どうぞどうぞ、前へ。そこじゃ見えないでしょう?なかなか、いい試合になっとりますよ」
パン屋の主人が観戦する人並みの一番後ろにいて、ロゼルヌの声に気付いて振り向いた。
続いて、隣にいた漁師の老人、学校の先生。小さな子の手を引いた女性。
皆に口々に挨拶され、握手し前へ前へと送り出され、ロゼルヌはいつの間にか観戦する人の列の一番前に立っていた。
傍らに立つシーガは黙り込んで、その隣の少女はルーファの姿を見つけて手を振る。
商業会会長のスタリングと、その隣に立つユニフォーム姿の青年がロゼルヌに気付いて、隣に移動してきた。
喧騒の中、領主はスタリングと話すために声を張り上げる。
「お前も来ていたのか」
「ええ、いいものですね、この雰囲気は。街中のものが集まったみたいですよ」
嬉しそうに微笑むスタリングにアラン・ロゼルヌ卿が眉をしかめた。


「残り、一パイントを過ぎたあたりだった」
シーガがぽつりと言った。
喧騒の中、その声は不思議なほどロゼルヌの耳に響いた。
「覚えていませんか、ロゼルヌ卿。二十年前、ですね」
ロゼルヌ卿の表情が硬くなった。
スタリングも、シーガのほうを振り返った。


「二十年前のこの日。ちょうど決勝でしたね。ポオト・ルクスは宿敵と同点だった。満員の観客の見守る中、残り1パイントを切ったところで異変が起きた」
シーガの話に、ロゼルヌ卿とスタリングは視線を合わせた。確認するように。
「何の、ことかね」
ロゼルヌ卿はシーガをにらみつけた。当時は子供だったはずの青年が二十年前のそれを知っているはずはなかった。どこかで古い新聞記事でも拾い読みしたのか。
シーガは切れ長の瞳を細め、むしろ面白がっているように話し出した。


「当時のポオト・ルクスでロゼルヌ卿、スタリングさん、あなた方はこの芝生の上に立っていたはずです。そして、彼も」
スタリングは隣に立っていたポオト・ルクスのユニフォームを身につけた青年を振り返った。
「はい」
青年は嬉しそうにシーガに答えた。
「な、何を言う!君は関係ないだろう!何しろ二十年前だ、君はまだ小さな子供だったはずだ」
ロゼルヌが青年を睨んだ。
「ロゼルヌ卿、ユルギアは歳をとりません。年月がたち、競技場のユルギアを吸収して確かに姿は少し変わったかもしれません。しかし、紛れもなく彼はあなた方と一緒にボールを蹴っていた。あの時心臓の病で倒れ、そのまま命を落とした選手ジエ・キリエです」
ユニフォーム姿の青年は不思議そうに自らの心臓の辺りを押さえていた。


「な、まさか!」
ロゼルヌ卿が一歩下がる。
スタリングは青ざめたものの、何度かの瞬きの後に青年に近寄った。顔を観察すると、思い当たる容姿であったようで、青年の手を取ろうとした。
「そうだ、ジエだ、私のチームメイトだった!ジエだ!私はランカだ、ジエ、覚えているかい?」
スタリングがかつてのチームメイトを抱きしめようとしたが、その手は空を切った。
「!」
「スタリングさん。彼は二十年前に亡くなっているんです。何か、心残りがあったのでしょうね。この競技場でもっとも強い力を持つユルギアです。彼は競技場に昔から染み付いているユルギアと同調しています。それが、これを作ったと考えられます」
青年は背後の黒い植物を親指で指し示した。


「嘘をつくな、そんなこと、ありえん。この植物をユルギアが作ったのだと?そのユルギアがジエだと言うのか!嘘だ!そんなはずはない!二十年前に死んだジエが、どうして今ユルギアになって出て来るんだ!おかしいではないか」
ロゼルヌ卿が、シーガのコートの胸元を掴んだ。
貴族であり領主であり、もとポオト・ルクスの選手でもあった。立派な体躯と強い意志を持つ顔をしていた。今のロゼルヌ卿に先ほどまでの姿はない。何かにおびえ威嚇している。安っぽい獣。
シーガは目を細めてその姿を楽しんでいた。


「競技場を取り壊すことで、彼だけじゃない、数え切れないユルギアが目覚めました。皆、競技場に住んでいるのです。誰だって、心地よいベッドからたたき起こされれば、苛立ちもしますよ。あなたが、彼らを起こしたのです。何事も理由なくしては起こり得ません」
「信じないぞ!」


ロゼルヌ卿は、突き飛ばすようにシーガから離れると、一歩下がる。背後に立っていたパン屋の主人に背が突き当たった。
主人は何も気付かないようだ。聞こえていないのかもしれない。
声援を続けていた。


慌てて周りを見回したが、ロゼルヌたちに興味を示す人は誰もいない。競技場を揺るがしている歓声は、まさしくユルギア。その力がシーガたちを取り囲んで、彼らは今や孤立していた。

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要さん♪

ありがとうございます♪
うふふ、動きますよ~そろそろ…いろいろと。
毎日ありがとうございます!コメント嬉しいです!
らんららも、やっと要さんのところ最新に追いつきました♪アンドレア…密かに応援しているのです~(^^)v

シーガさんに再び出遭う事が出来たミキーさんは、とても嬉しそうですね。
そしてロゼルヌさんのかつてのチームメイトであるジエ・キリエさんの、20年前の死が明らかになりましたね。彼の死にもユルギアが関わっているようですが、ロゼルヌさんはまだその存在を信じれずにいるようですね。
果たして、この後物語がどのように動くのか
次回の展開にきたします

そーきたか!!!

青年とスタリングさんはもしかして・・・と思っていましたが、そうか、ロゼルヌ卿もチームメイトだったんですね~
ふーーーーん。
そっか、ユルギアって年取らないけど、少しずつ姿形は変わったりするんですね。だからスタリングさんも気がつかなかった・・・
なる~♪
さぁさぁ、ロゼルヌ卿。
この大観衆・大歓声につつまれ、それでもまだユルギアなど信じないと言い続ける事ができますかね??
週末からPCから離れていた分を一気に取り戻しますよ~
続きへ急げぇぇえええ~♪

ユミさん

そうですね~。それほど何かを強く想うことができることも、ある意味羨ましい気もしますが…今らんららが死んだら、お話、書き終えていない~と(笑)ブログが止まっちゃう~ときっとpcに取り付くユルギアになりそうです…。
信じないと豪語したロゼルヌ卿、彼はいろいろな意味で信じたくないわけですね…。
ま、いろいろですからね~。
ええ、シーガさまとミキーちゃん。つながっています。
何しろミキーちゃんは…っと、これはしばらく先まで出てこないので(^^)プロローグが終わったら恋敵出現ですから!!(笑)楽しみにしていてください~!

あぁ~

ロゼルヌ卿、本当にピンチ?!スタリングさんには見えていて、
むかしのチームメイトだってことが分かって…でも、彼に触れられなかった。
なんだか悲しいですね。そうやって思念だけがこの世に漂っているってこと。

chachaさん同様、わたしも気になっております♪
シーガ様と繋がってるってトコ!!
それじゃ、甘い言葉もイラナイよね?!

chachaさん!!

は、早~(@@)
大丈夫ですか?忙しそうです(><)
うふふ。ええ、幽霊君です、そして皆さんの予想通りスタリングさんのお友達。
ユルギアたちは競技場をこわすな~こわすな~とがんばっていますが…どうなんでしょう?
ミキーちゃんとシーガさま。二人とも耳はいいです♪ミキーちゃんは特にシーガさまの気配とか聞き取るでしょうけど、シーガさまは何でも聞こえるらしいので…耳栓必要かなとか思ったりも…。

超・早朝徘徊中・・・(笑)

おはようございます^^(早過ぎ。笑

ユルギア、まさしく、幽霊でしたね~!!
ロゼルヌ卿同様、私も信じない(というか信じたくない><)派なので、気持ちがわからないでもないですが・・・
シーガくんにそこまで食ってかからなくてもいいのに~><
全く、大人気無いですよぅ!

この青年のユルギア、前々話で「もしやスタリングが若い頃、一緒にボールを蹴っていた仲間なんじゃ・・・」って思っていたら!見事!当たりました!!(笑)
いえ、スタリングにもこのユルギアが見えたという所で、何らか関わった人物なのかなぁと^^ふふ☆

ユルギアと接触している間は、他の人から見えなくなるんでしょうか??ユルギアが見える人には、見えて・・・
むむ@@
どちらにせよ、ロゼルヌ卿はいよいよユルギアの存在を認めなくちゃいけなくなってきましたよ~~^^
取り壊さないで、ポオトの大事な建造物として護っていったらいいのにな。

それにしても、いつ見てもミキーは可愛いですねん♪
シーガくんと繋がっている・・・二人はどういった関係なんでしょう?そこも知りたい所です~^^
Secret

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