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「想うものの欠片」第一話プロローグ 12

12


「そうか…」
ランカ・スタリングは、もう一度懐かしいユニフォーム姿の青年の手を取ろうとした。ジエもまたランカの手を握り締めようとする。彼らは親友だった。
「あの…」
再びすり抜けるのをやるせなく見ていたミキーがジエの手を右手にとった。少女はユルギアの手をしっかりと握った。そしてスタリングの手を左手にとって、そのまま上下からはさむように二人の手を合わせた。
スタリングの右手と、ジエの右手が触れ合った瞬間、スタリングの脳裏に二十年前の記憶が駆け巡った。
色鮮やかな、まるで今まさにその時であるかのような映像が心に沸きあがる。


突然だった。


その年のチームは、過去最強を歌われていた。
国内リーグでは敵なし。
その決勝も守勢一方の相手を攻め続けていた。
青い空の日だった。午後の日差しに競技場の座席がうす黄色く照らされて。応援の街の人間はポオト・ルクスのチームカラーのオーシャンブルーのタオルをふって、大声で歌を歌っていた。それは、芝生の上で走っていると、潮風に流れて、まるで波のうねりのように見えた。
先ほどのプレーで、相手選手と接触したスタリングをジエが手を差し出して助け起こした。


「後、1パイントだ」
「勝とうぜ」
そういったジエの表情が、一瞬で蒼白に変わった。
助け起こしてくれていた手の力が抜けた。
「ジエ!」
スタリングは仲間を、親友をゆすった。彼は胸を押さえたまま、うずくまり。


医者とチームスタッフが病院に運んだが、そのまま逝ってしまった。
どれほど、泣いたことか。
チーム一の頭脳を誇り、いつも冷静に皆を引っ張り、穏やかな性格は皆に好かれていた。歳は一番若かった。当時、まだ二十三歳だった。
スタリングは三つ年下の彼を尊敬していた。
頬に、あの時と同じ熱い涙が伝った。


ジエは不思議そうにスタリングを見ていた。
「ランカ、試合はどうなったんだい?」
ジエはスタリングに語りかける。
スタリングは首を横に振った。
ジエの少しぼんやりとした顔は、悲しそうに歪んだ。


「ジエ、君がいなくなって僕らのチームが勝てるわけがないだろう!君が生きていてくれたら!試合の結果なんか、どうでもいいんだ。君が逝くには早すぎた!」
「…そうか。負けてしまったのだね」
「すまない。あの後、君のことを思って、誰もが試合どころじゃなかったんだ。私は試合など放っておいて、君のそばについていたかった。二度と会えなくなると分かっていたなら…。すまない、私がどれほど悔やんだことか」
「スタリング…」
ミキーにはジエの表情が笑ったように見えた。自分を思ってくれる親友に心打たれているのに違いない、少女は何度も何度も涙の出ない瞳を瞬いた。


くく。
笑うものがいた。
「スタリングさん、ユルギアは思念だけです。自分が死んだことなど理解していませんし、悲しんでもいない。彼の死を悲しんでいるのは彼ではなく、あなただけなのですよ」
ジエは首をかしげながら苦笑いするシーガを見つめた。
「シーガさま意地悪ですの」口を尖らせるミキー。
「な、なにを言う!彼は私の親友だ!」
「…そうか、負けてしまったのか」
「ジエ?」
ランカ・スタリングの目の前で、ジエの姿が薄くなった。ミキーが悲しそうに消え往くユルギアを見つめた。


「もう、いいでしょう?ジエ、あれを消してください」
シーガはジエの肩に手を置いた。シーガもまたユルギアに触れることが出来るようだ。消えかけていた青年がまた、元の通り、まるでそこに生きているかのようにはっきりとする。ジエは少し驚いた顔をしながらシーガを見つめた。
シーガは観客席を這い回っている黒い植物を指差していた。


「あれを、消してください」
ジエの表情に色がなくなった。何色かも分からぬ瞳はシーガではない何かを見つめるように恍惚としていた。
「…負けた」
ユルギアの想いは、ただそこだけにあるようだった。
シーガはジエの思念が薄くなるのを感じながら、小さく舌打ちした。それ以上顕在化させているとこちらの力を浪費する。ふと、息を吐いてあきらめると、肩に置いた手を離す。
「だから、獣だというのです。役に立たない…」


きゃー!
歓声に悲鳴のようなものが混じる。
隔てていた扉が開かれたかのように、場内の歓声が耳に流れ込んできた。
誰かが倒されたのだと、男が怒鳴る。白熱する試合は、いつしか不穏な空気を競技場に放っていた。


痛そうに足を押さえてシドが座り込んでいる。
彼を庇うようにチームメイトが転ばせたテデに詰め寄った。
「なんだよ!」
「お前、汚いぞ!」
突き飛ばされ、よろけたテデはやり返そうとして、ルーファに止められた。
「落ち着けよ、テデ!相手にするな!」
そこにすかさず商人たちの野次が飛んだ。
「ルールを教えてもらってから出て来い!」
「なんだと!お前ら」
大人たちも、けんか腰になる。


その様子を聞いているのか、ジエはそちらを見ていた。もう、その金髪の向こうに芝の緑が透けて見えていた。
「ジエ?」スタリングはジエを振り向かせようと声をかける。
「そう、ちょうど、この時間だった。あの日もよい天気で。ファールの判定にもめて、ひどく荒れた試合になっていた…」
ジエの静かな言葉に、スタリングは嬉しそうに目を見開いた。
「思い出したかい?ジエ」
ふいにジエが胸を押さえて座り込んだ。
あの時のように。
「ジエ!」
そして、あの時のように、スタリングが助け起こそうとした。


だが、その手は空を切った。
ジエの姿は消えていた。
「ジエ!」
叫んだスタリングの手は、むなしく空を掴む。


静寂。


先ほどまで地鳴りかと思われるほど競技場を揺らしていた歌声や歓声が、突如消えた。それはシーガたちを囲んでいたユルギアが、霧が晴れるように消えうせたように感じられた。ロゼルヌ卿は辺りを見回した。
隣に立っていたパン屋の男が、じっと、固まったかのようにフィールドを凝視していた。


「ルーファ!」
誰かが叫んだ。
言い争っていた街の人々も、芝生の一点を見つめていた。


赤毛の少年が一人、芝生の上に倒れていた。

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要さん♪

うふふ、毎朝ありがとうございます♪
はい、スタリングさん、当初はもっと、さらりと登場のはずでした。もともとこの競技場を書きたくなった理由が、実際にあった悲しい出来事(競技場で命を落とした選手のこと)を題材にしていますので…ついつい、シーガより表に出てしまっています(笑)
今後の展開…どうでしょう(^^)楽しんでいただけると嬉しいです♪

スタリングさんの脳裏に、20年前の記憶が甦りましたね。彼が経験した記憶は、友人の死と言う悲しいものでしたね。そして、競技場の中央で倒れてしまったルーファさん。彼が一体どうなってしまうのか
次回の展開に期待します

ユミさん!

出勤前ですね?忙しい時間にありがとう!!(><)ちょうど、今コメ返しを打っていたところで♪
ええ、シーガさま、皆さんの予想以上に冷たい人です…ミキーちゃんとは正反対なので…
ジエ選手のこと、実話にヒントを得ています。
実際に、ありましたよね、どこだったかなぁ。試合中に。本当に選手が倒れて…。らんららが見ていたから、リーガエスパニョーラかセリエAか…CLかな。
次の試合、チームメイトが喪章をつけて試合する姿に、らんらら涙しまして…あの切なさが伝わればと。
おお、打っている最中にまた、ユミさんからの嬉しいコメントが!!

早くも

涙が…!!
スタリングさんの手が再び空を切らないようにって、ミキーちゃんが
ジエとスタリングさんの手を取って重ねたところに、ぐぐ~っと
きちゃいました!!
ミキーちゃんの優しさと、2人の友情素敵です。
あぁ、なのにシーガ様ってば~。もうすこーしだけでも優しく…ね^^

ルーファ、ジエの思念が同じ状況を作り出したんじゃないですよね??

花さん♪

ふふ~ジエ選手、道連れかも?どうかなぁ~♪(ニヤニヤにやりv-391
コレからが、正念場なのです。うまく書けるかどうか…どきどきですよ~(><)
そう、ユルギア、幽霊さんたちだと思ってください。
それが一番簡単かも。(適当なヤツだな…^^;)
さて、コレからがシーガさまのお仕事です!がんばってもらいます!!

かいりさん♪

ありがとうございます!
がんばりますv-411
ルーファ君、倒れちゃいました!
ええ、どうなるんでしょう(ニヤリv-391

ルーファくん、スタリングさん、ジエ、ロゼルヌ卿、みんなそれぞれの想いを抱えています♪
彼らを見ているある意味部外者のミキーちゃんたち、何を思うんでしょうか(^^)
また、是非遊びにきてくださいね~♪

「想うもの」ユルギア。感覚としては幽霊に近いのでしょうか。
って、そんなことより…ルーファ君!?ちょっ、ジエ!そこまで試合に想い入れていたことは分かるけど、関係ない子を巻き込んじゃダメだよ!
もしかして、ジエとスタリングさん、心臓発作が起こる前に何か一悶着あったんじゃ…?いや、邪推です;;
ミキーちゃん、君の愛らしさでルーファ君を救ってやっておくれ!

えぇぇ!?

ルーファ!?どうしちゃったのですか!?
ま、まさか…!?
ひぃすっごく続きが気になります><;

ジエ可哀想…ユルギアになってしまうほどに、試合のことが気になっていたのですね。
涙が出そうになりました。
そして負けたと知って…。まだ消えないでジエ~(泣)!!
ロゼルヌ卿はまだジエのことを信じていないのですね。信じたくないのかな…?

ひとつ前のお話で尻尾がでてしまったミキー!かっわい~*><*
続きも頑張ってください!!
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