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「想うものの欠片」第一章プロローグ 14

14

ごごご、と地鳴りが続く。
崩れかけた客席にひび割れが走る。土煙を上げて崩れていく。


激しい揺れに街の人々はその場に座り込んだ。這って逃げようとするもの、子供を抱き寄せようと叫ぶもの。
芝生の地面が盛り上がる。それが亀裂を走らせ黒い土を晒したかと思えば、ぐんと沈んだ。


その中に、ただ一人、銀色の髪の青年だけが、まるで何も気付かないかのように競技場を見つめて立っていた。彼の黒いコートは、ふわりと風にゆれ、取り囲むように空気の渦が流れる。


外への通路の中。
固く目を閉じたシドが、恐怖の中、死を覚悟した時だった。


不意に揺れがおさまった。シドはルルドとともにルーファを庇うように覆いかぶさっていた。シドの青いシャツは土ぼこりで真っ白に汚れていた。
「シド、…?」
冷たい石の通路に自分が横たわっている理由も、父親とシドが自分を庇うようにしている理由もよく分からずに、ルーファは視界を何度も瞬きして拭った。自分の上にいるシドの腕を力なく握り締めた。


「あ、ああ。ルーファ、気が付いたんだな!びっくりしたぜ、お前倒れたんだ。今、病院に運ぶからさ」
金髪の少年が嬉しそうに笑うので、ルーファは照れくさそうに目をそむけた。
その様子を見ていたルルドは逆に落ち着いたのか、黙り込んでいた。
「ほら、行くよ、父さん!」


シドは座り込んだままの父親の肩を叩いた。
「スタリング、無事か?車は何処だ?」
スタリングはロゼルヌ卿の声に数回頭を振って立ち上がった。肩から、背から、砂埃が煙を上げながら落ちた。
「助かったのか…」
「崩れるかと思った、よかった、父さん早く外へ」
シドが笑った。
大人たちも安堵の表情で、再び出口を目指して歩き出した。
ルーファはルルドに抱き上げられたまま、ぼんやりと天井を見上げていた。何かが動いた。
「…?」
黙って天井を指差した。
「ルーファ?おい?」
シドがルーファの視線の先を追った。
「うわ、すごい、これ!」
シドも天井を指差した。大人たちもその視線の先を見上げた。


通路の天井は一面黒い植物の根で覆われていた。網の目のように伸びた植物の隙間で、崩れかけた石がビシと音を立てた。隙間から落ちかけた岩に、また一筋の根が絡みつく。
まるで、崩れるのを防ごうとするかのようだ。


「今のうちです、早くここから離れてください」
シーガの穏やかな声はまるで染み渡るように皆に響き、人々は無言で足を速めた。
競技場で座り込んでいた街の人々も、不思議そうにあたりを伺いながら、誰も口を利かず競技場の外へと向かう。いつの間にか集まっていた数百人、いや、千人はいるだろうか。列を作って先にルーファたちの消えた通路に向かった。
その背中を見つめて、シーガはコートにかかった埃をはらった。
傍らに座り込んでいるミキーは、恐怖にこわばったまま身動き一つせずにじっとしていた。


シーガは銀の髪をかきあげた。視線は誰もいない観覧席に向かっていた。
「さて。まだ嫌がるのですか」
シーガがまるで目の前かのように話しかけた相手は、ミキーにも見えていなかった。
「あなた方がなぜこれほど力を得たのか、それを知りたかったのですが。亡くなった管理人の方、あなたのお話は分かりました。それでも、この競技場は壊されると思いますよ。真実が明らかになっても、工事は止まりません」
「ねえ、シーガさま。どなたとお話してますの?」


青年が遠く向こうの観客席を見ているようなので、ミキーも芝生に座ったままそちらを見つめる。誰も座っていないようだ。何か、どんよりとした生ぬるい空気がミキーの周りを囲んだ。ふわ、と不意に起こった小さな風にミキーの髪が揺られた。
「怖いですの」
青年のコートにしがみついた。
「ミキー」
シーガはしがみつく少女を引き剥がす。


「皮肉ですね。この競技場を残したいと願うユルギアたちの行動が、街の人々を救った」
「偶然ですの?」
「ミキー、彼らの願いはただ一つです。ここで人々の声援と歌声に合わせて歌っていたかったのです。その思念に、殺された老人の思念が毒をさした。老朽化を理由に取り壊されてしまう。落石事故があったという。それが真実ではないことをユルギアたちは訴えているのです」
「…真実ではないですの?」
シーガはみしみしと木の根を軋ませる落石をじっと眺めた。


いかに力強い木の根とはいえ、この競技場すべてをそれだけで支えるのは難しい。時折枝の折れるような乾いた音が響く。落ちかけた落石にさらに二重三重に黒い根がわたる。
すでに、観客席は途中から大きな段差が出来、崩れ落ちようとする通路を黒い植物が覆いつくしていた。客席の階段は半分落ちて、落ちかけた石にも植物がまきつき、まるで不気味なオブジェのように不器用な形で揺れていた。
再び、小さな地震があった。
競技場全体を包もうとする植物が、ぎしぎしときしみ、さらに崩れる石を追いかけてまた巻きつく。

「御覧なさい、ミキー。いくら支えても、壊れてしまったものは元には戻らない。ユルギアたちも分かっているでしょう。彼らの黒い木々で覆われた客席に、彼らの大好きな観客は戻ってこない」
ぐるりと取り囲む観客席を青年が見回す。
いつの間にか傾いた日差しに、空は白い雲が流れていた。
目の前で最後を迎えようとしている巨大な建造物と対照的に、空は大陸一の美しい夕日に染まりつつあった。

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要さん♪

はい、やっと、シーガ様、分かっていることを語りだしました。一応主人公ですからね~仕事してもらわないと。
続き、楽しみにしていただいて本当に嬉しいです♪

地震が起こる中で、ルーファさんが目を覚ましましたね。意識を取り戻した彼が見つけた巨大なユルギアの大樹の根が、競技場を支えていたのですね。
そして、ユルギアたちの真の願いを知ったシーガさん、ミキーさん達がこのあとどのような行動を取るのか
次回の展開に期待します

お言葉をいただきましたの♪

楓さん♪
ええ、はがしてまス!それが彼の愛情?(←そう言う奴です^^;)
ミキーのしがみ付きも愛情です(笑)飼ってみたくなります、コレ。
ユルギアたち、基本的に一途なのです。彼らの想いがらんららに?え?~聞こえないなぁ…(←鬼?)
ふふ。あくまでも、クールに終わらせます、プロローグですから♪(?)


かいりさん♪
やっと、シーガ様のお仕事です♪
かっこよく決めさせていただきます♪プロローグは彼の紹介のためでもありますし!
競技場…らんららもサッカー観戦しますので、なくなったらさびしいだろうなぁと、本当に、思いますよ~(><)どうなるんでしょう…ふふふ()


takagaさん
やっとここまで追いつきましたの♪って、(笑)何気にコメントタイトル可愛い♪
よく来てくれたわ~って。ぎゅっと、ぎゅっとしたくなる!(←変態は放っておきましょう)
そうですね、前半は街と二人、そしてそこに暮らす人々の抱える問題。中盤でそんなもの、スポーツを通して一つになれる、と思ったものの、時代の流れはそれほど甘くない…という感じでしょうか?(そこまで考えていたかどうか怪しい作者^^;)
建造物…ユルギアは住み着きますがそれ自体には乗り移ったり出来ないでしょうね…無機質のものですし。有機質(植物)に乗り移って実体を持つこともかなり希です。(という、設定にしてあります)takagaさんがそう思ったのは、きっと競技場自体を、直せないかなぁという想いからかなぁ?(^^)
おお、takagaさん。子供、便利です(おい^^;)照れも構えもなく、いいたいことを言わせるにはちょうどいい存在ですよ。現実、オトナのらんららにとっては、現実の子供は素直すぎて怖いくらいですから(笑)
時に「おばさん」攻撃を受けています(笑)

やっとここまで追い付きましたの。

不思議な二人組が現れて、序盤はミキーを主役に子供たちを描いて、大人が出てこなくて子供だけで先に進んでいくから「大丈夫かあ?なんか怖いこと起こりそう……」という不安感を煽りつつ、そしてその場で不可思議な現象が起きると(主役たちにとっては日常?)、遂にシーガの出番!

ここからは大人たちの話になっていく訳ですね。汚れた醜い世界ですが、そんな彼らが子供の頃を思い出したりもしつつ……競技場は役目を果たす……と。

建造物はユルギアになりませんかねえ……。

読ませていただいて思ったんですよね。

ああ、自分の書く小説には子供が登場しないなあ……て。

こんばんは!

真実ではない…それをユルギアたちは訴えている。
真実とは。一体何があったのでしょうか><;?

この競技場は本当に壊されてしまうのでしょうか。
街の人たちのそえぞれの気持ちもわかるけど、こんなに皆して盛り上がれる場所なのに…。
これからどうなってしまうのか、とても気になります!

そしてやっぱりシーガ様カッコイイ♪(←

シーガ・・・

彼はとことんミキーに対してもクールですね。
がしがし引き剥がしてますけど(笑
それでもくっつくミキーが可愛い.。.:*・゜
老朽化した競技場。
それを残したく思うユルギア達。
地震で崩れようとする競技場を必死になって食い止めている姿が目に焼き付いて悲しいです。
ただ、もう一度あの歓声が聞きたかった。
その思いは、きっとどこかに届くはず!!!!
・・・だよね?らんららさん?

ユミさん♪

ありがとー♪
そうですね、古いものを大切にする気持ち、変わりたくないという気持ち。それはとても素晴らしいことだけれど…
この時代が許さないわけです…。
それでも、何かが心に残るといいのだけれど~と。
オトナな展開を試みています!
プロローグも後二回…どんな感想を持っていただけるか、正直不安は一杯ですが(@@)どきどき。
よろしくお願いします!!

ユルギアたち

ただ悪い思念を残しているだけじゃないんですね。怖いだけじゃなくて
良かったです。この競技場、残せたら良かったのに。いま生きている
人たち(一部を除いて)やこの競技場を残したいと思っていたユルギアたち
の思いが…一気に寂しくなりますね。
黒い木々と空の美しい夕日。見事なコントラストですよね。黒い木々たちが、もう動かないような雰囲気です。

壊れたものは、元には戻せないけど…シーガ様!!
修復は無理ですか~??どうぞ、皆さんの思いを大切にして下さい!
あ、ダメ??
こんなに可愛いミキーちゃんを引き剥がすくらいだから、無理か?!(笑)
Secret

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