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「想うものの欠片」第一章プロローグ 15

15

緑の芝生に、ポツリと青年と少女だけが競技場の最後を見守っている。
彼らの影も、足元に長く伸びている。


「分かっていますよ。あなた方が教えてくれた。老朽化ではない。落石も事故ではなかった。本当はロゼルヌの手によって殺されたんです。管理人の彼は国からの鉄道敷設の視察団をここに案内した。視察団の目的もロゼルヌ卿の目的も分かっていた。管理人はこの競技場を愛していた。建替えに反対する漁業会に知らせようとしたのでしょう。ロゼルヌ卿が金のためにこの競技場を壊そうとしている、とね」
風が、ゆらりとシーガの服を揺らした。


「それで、殺してしまったんですの?ひどいです」
ミキーが憤慨したようにぷんとすると、風が今度はミキーの髪をくすぐった。
「ロゼルヌのすることは、金のためです。けれどそれは、この街のためでもあります。ひいては街の人々のため。そして、あなた方が最後の力を振り絞って、崩れ行く競技場を守ってみても。あなた方の望むものは得られません」
静かに語るシーガに、まるで突風が吹いたように髪が、服が巻き上げられる。
小さな竜巻が彼を囲んでいるようにも見えた。
「シーガさま!」
「ミキー、離れていなさい。すぐに治まりますよ。もう、時間はないのです」
それを象徴するかのように、シーガの背後で砂時計の砂が落ちきろうとしていた。
風に巻き上がった小さな小石に頬が切れたのか、シーガの白い頬に赤い血が一筋滴る。
「シーガさま!」
「もう、諦めなさい。この競技場は壊れてしまいました。地震は誰のせいでもありません。時は流れるのです。崩れたものは、あなた方の力では直すことは出来ません。いずれ、ロゼルヌ卿が新しい競技場を作るでしょう。あなた方が染み付いたこの石材は再利用されるといいます。その時まで、しばらく静かに見守りなさい。いずれまた、客たちと一緒に歓声を響かせるときが来るでしょう」
青年が、微笑んでいた。
これまでの彼とは思えない、優しく美しいその表情。
ミキーはこの表情が大好きだった。
普段は見られない、愛情にあふれた青年の表情に、いつの間にか胸の前で手を握り締めている。胸が温かくなる。


ふ、とシーガを取り囲んでいた風が止んだ。
彼の足元の芝は丸く円を描いて一方向に倒れ、それを中心に小石がばらばらと落ちていた。
青年が歩き出し、石壁に取り付いて崩れる石を支えている黒い植物に、そっと触れた。
すでにいつもの表情に戻ったシーガは、静かに語りかける。


「通常、ユルギアは実体を持たない。思念の作り出すエネルギーに過ぎない。それが、触れることのできる実体を持つなど、ありえない。教えなさい。石を持っていますね?」
シーガの触れる部分が青く光った。青年の手のひらの内側から静かな蒼い光がこぼれた。
ミキーは何度も瞬きして眩しそうにそれを見ていた。


「やはり、ありましたか」


光が消え、青年の手のひらには小さな青い輝石が乗っていた。
青年の手がそれをそっと包んだとき、地震に似た地響きがとどろいた。余震かもしれない。
「!?」
「きゃあ!」
ミキーは縮こまったまま、耳を押さえて青年に擦り寄る。
シーガは少女を抱きしめたまま、翡翠色の瞳でじっと植物に宿ったユルギアたちの答えを待っていた。


「……だめですね。力を使い果たしたようです。消えました」
青年のつぶやきと同時に、黒い木々は急速につやを失っていった。内に抱えていたユルギアたちが目に見えない水蒸気となって天に昇るように、競技場全体をつつむ空気が歪んだ。
「あ!」
ミキーが小さく叫んだ。
その瞬間だった。
競技場が、木々に支えられていた石柱が崩れ、観客席が崩れ落ちた。建物が、崩壊したのだ。
競技場の真ん中で、二人はその光景にただ立ち尽くしていた。


その音は、街中に響いた。
倒れた家の前で座り込んでいた男も、津波に洗われ、横倒しになった船を呆然と見ている漁師も、子供を抱きしめ街をさまよう女性も。皆が、その音に気付いて競技場を見上げた。
競技場は瓦礫の山となり、潮風が抜けるたび白い土煙を漂わせていた。


津波が街の半分をなめ、もろい石灰の海岸線は崩れ、街は大きな被害を受けていた。特に港に近い繁華街は津波の被害が甚大だった。
漁師たちの住む高台は、古い家が倒れたものの、それほどひどくはなかった。
古人の知恵がそこに生きている。不便な山手にポオト人が住み着いたのは、決して偶然ではない。
このとき、街の人々のほとんどが競技場に集まっていたため、奇跡的にも誰一人として命を落とすことはなかった。まるで、競技場に守られたかのようだと、後に噂されることになる。


地震から二日後。
シーガは領主の館を訪ねていた。
館はそれほど損傷はなかったもの、ロゼルヌの座る背後の大きなステンドグラスに、いくつものひび割れが走っていることで揺れの激しさをもの語っていた。
黒檀の大きな執務机に向かいながら、ロゼルヌ卿はペンを走らせていた。


「ロゼルヌ卿」
正面に立つシーガが声をかけると、一瞥をくれてまた、手元の書類に向かう。
先ほどから、その繰り返し。
シーガの表情が曇る。
「だから、お前に払う報酬などない」
シーガは呆れて、つかつかと領主に近づく。
それを避けるように、アラン・ロゼルヌは立ち上がると、背後の窓辺に近づいた。
「見たまえ。この街はかろうじて崩壊を逃れた」


館の広い庭は、家を失った街の人々に解放されていた。船の帆布を使ったテントが、いくつも立ち並ぶ。崩れかけた塀の脇で、ランカ・スタリングと教会の神父が配給のスープを配っていた。炊き出しは街の女たちの仕事なのだろう、敷地の片隅では大勢の女たちが忙しそうに働いている。
災害で家を失ったものの、人々の表情には笑みが昇る。たくましい海の民たちだ。
領主の覗き込むステンドグラスの窓を遠めに眺めたままシーガはけだるそうに口を開く。


「地震と津波で家を追われたのは街の人々です。あなたではありません。そして、私に約束した報酬はあなたの資産からすれば極わずか」
いつか工事業者のダーレフが言っていた。ケチだと。
「わずかだろうと、その金があれば、今ここで寝泊りしている大勢が助かる。申し訳ないがな、シーガ。あそこにユルギアがいたのかどうか、私は未だに分からないんだ」
「ほう、眠っていらしたとは知りませんでした」
「それにな。工事予定の競技場は崩壊した」
「それは、好都合ですね、ダーレフも喜んでいるでしょう」
「つまり、工事自体が無くなったのだ」
「…詐欺のようにも、聞こえますが。ダーレフの請負も反故にするおつもりですか」
シーガの怒りを含んだ言葉にロゼルヌ卿が振り返った。
ここ数日の疲労が頬に出ていた。目も少しくぼみ、やつれたようにも見えた。


「話したくは、ないのですが。ロゼルヌ卿。私がなぜ二十年前のことを知っているか、お教えしましょう」
「いらん」
領主は耳を塞ぐように両手で頭を抱えると、再びイスに座り、机の上の書類をじっと見つめている。

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要さん♪

アリガトウございます!
ロゼルヌ卿、小悪党と呼んでやってください。
でも、彼の立場も分からないではないですが…。
シーガ様、あくまでもクールに行きますので♪
プロローグもあと少しですね♪
ここまで読んでくださってアリガトウです!

競技場を壊そうとしていたのは、ロゼルヌさんだったのですね。そしてシーガさんは、彼に20年前の出来事を話そうとしていますね。果たして、彼はシーガさんの話を聞き入れるのでしょうか?
物語は、波乱の展開を見せていますね
次回の展開に期待します

楓さん♪

おおー!海溝型!?(何も知らずに書くなって?まあまあ^^;)地震、これからも起こすつもりなので、勉強しておかなきゃ!!頼もしいうんちく、待ってますよ♪
さて、ポオトはたくましい街です。
これから、どんな変化があっても。
きっと、それなりに(?)生きていきますよ、みんな。(他人事だなぁ~^^;)ロゼルヌ卿。何をやらかすのか…。
ま、こんなもんでしょう!
予想通り?かな?楓さん、読み深いからなぁ~(どきどき!)

ユミさん♪

ありがとう!
はい、笑わせてみました、シーガさま。
ミキーちゃんはほんと、大好きなんですけどね、何せ、相手がこのヒトでは…^^;
いずれ、ちゃんとロマンスするとして。
まずは、この件を解決しなくちゃです!
あ、後二回ってこの間コメント返しで言ったのですが…もう一回増えちゃって…あと二回、です♪(ごめんなさい^^;
コメント嬉しいです!

おお津波!

なるほど。
地震は海溝型の地震でしたか。
津波が発生するには震源が比較的浅くかつ大きなマグニチュードを伴う地震であることが条件で・・・いやいや、ついくせでうんちくを語りそうになりました。笑
街の人々はたくましいですね。
競技場に人が集まっていたため人的な被害がほとんどなかったというのも幸いでしたが、それにしても、例え自分の家を失い、生活の糧である船を失っても笑顔で生きていく。何というかこう、街の人々のつながりの深さを垣間見た思いです。
それも文明開化と共に廃れていくのかな・・・
ロゼルヌ卿、まだなにかありそうですねぇ。

波乱ですね

競技場を支えていたユルギアたちは、心穏やかになれたんでしょうか。
シーガ様の初微笑み&優しい言葉。良かったです♪そういう表情もできる
んですね!!そして、ミキーちゃんはそれを知っている。
だからこそ、シーガ様の傍にいられるんでしょうか。

ロゼルヌ卿は、自分の私利私欲のために走ってますね。イヤです、こういう人。
もっと大切なことがあるってことに気付いて欲しいですね!
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