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「宙の発明家」番外編 ⑤



カカナが尋ねると、どの人も親切に応えてくれた。
昨日、クラフを囲んだ少年や男たちも、カカナに対してはへつらったような笑みを浮かべた。
「なんか、不公平だ」
「仕方ないよ」


教えられた少女の家に向かって、二人は歩いていく。
昼過ぎの日差しに、どこからか何かを焼く香ばしい香りが漂う。細い路地を中心街から離れるように進んでいく。
薄茶色の煉瓦を積んだ民家が目に付き始める。家の窓には木で出来た扉がついている。換気のためなのか、押し上げた木の扉は下を木の棒をはさんで止めてある。
このあたりになると、家はどれも平屋で、天井が低い。家の中で子供たちが騒ぐ声、母親の叱る声が路地にまでこぼれてくる。家と家の軒をつなぐロープに洗濯物が干されている。その下を呑気に散歩する猫。
どれも、クラフには興味深い。
猫を追いかけようとして引っかかれ、今は大人しくカカナについて歩いている。
カカナは、進むにつれ、言葉少なくなった。


「オレ、カカナと並ぶとチビだな、カカナ、あんまり近寄るなよ」
自分とカカナの身長を比べて、クラフはカカナから数歩、離れた。
「ね、クラフ」
「もうちょっと、こう、そうか、カカナみたいに腰に剣があるとかっこいいぞ」
カカナの剣を取り上げようとクラフはカカナの腰にまとわりつく。
「クラフ、ここは、よくない」
「なにが?」
丁度、クラフはカカナの剣を止める金具を外し、鞘ごと両手に持ったところだ。
「なにしてるんだよ、クラフ、ここは貧民街だ。あまり、よくない。帰ろう」
厳しい表情で、カカナがクラフの肩に手を置いた。
「えーやだ」


「あ、ねえ!クラフさま!」
突然声をかけられて、クラフは振り向いた。
「あ!リント!」


少女は小さな家の前で、洗濯物のカゴを抱えていた。
頭にかけた白い布が揺れる髪を余計に美しく見せた。
大きな瞳、細い手足。すとんとしたワンピースにほんのり女性らしい体型が見え隠れする。
「へえ」
カカナも見とれた。
「可愛いだろ」
嬉しそうにかけていくクラフを見送って、カカナは離れたところから様子を見ていた。
話しかけるクラフに、少女はニコニコと愛想のよい笑顔を浮かべていた。
昨日のピーシの話と随分違う。


「お母さんのお手伝いしてるの?」
「はい、母さんはお出かけ。お仕事なの」
「ふうん、えらいなぁ」
クラフは少女について、洗い場までついてくる。洗い場は家の裏側を通る水路沿いの小道を横切った先、数段階段を下りた共同の洗い場だ。その場所には大勢の女性が集まって、井戸端会議らしい。
クラフの姿を見て、それからリントを認めると愛想よく声をかける。
「リンちゃん、お友達?」
「お母さんに怒られるわよー」
「平気平気」
笑って応えるリント。クラフは、階段に差し掛かると、リントの持っていたカゴを持ってやろうとして、両手がカカナの剣で塞がっていることに気付く。
慌てて剣を道端に置くと、少女のカゴを取り上げる。
「ありがと」
にっこり笑う少女に、さらに頬を染める。
「あーあ」
水路沿いの小道まで後を追って、カカナはそっと剣を拾う。
そのまま座ると道端から二人の様子を眺めている。


時折、女性たちにからかわれながら、二人は楽しそうだ。
「ふうん。心配することなかったかな?」
一人つぶやくカカナの背後から、大きな声が突然聞こえた。
「リント!なにしてんだい!さっさとしな」
思わず心臓を押さえて、カカナが振り向くと、四十代後半だろうか、乱れた髪、皺の深い険しい表情の女性と目が合った。
「なんだい、あんた。おや、これはこれは」
カカナの服装と様子から、貴族と知ったのか急に態度を変えた。
「旦那様、こんなところじゃなんです、どうぞ、こちらへ」
ニヤニヤと笑う。カカナは顔をしかめた。
「リント、おいで!」


小さな家は、クラフの地下室よりずっと散らかっていた。
入ってすぐのキッチンだろう、かまどには汚れた鍋がそのままになっているし、水がめはふたを開けたまま。テーブルには皿と水のビンが横たわっている。かび臭い空気に、カカナは息を止めた。
クラフは珍しいものを見るようで、にこにこして、少女の後に付いて入っていく。
「ささ、どうぞ旦那様も」
女はリントの母だと名乗った。
慌ててテーブルの上のものを調理台に無理やりのせ、二人のためにイスを引いた。
「リント、お水を」
女が言うより先に、リントは小さな陶器のコップらしきものを二つ、手に持って運んできた。盆もないのだろう。
「で、旦那様方、どういうお話でしょう?リントならいつでもお召しいただけますよ」
女の言っている意味が分からなかったのか、クラフは首をかしげた。
「いいえ、そういうつもりはありません」
カカナは穏やかに言った。
「それでは?一体?」
「昨日、彼がリントに迷惑をかけたようなので。挨拶に伺ったまでです」
「そ、そんな滅相もない!」
女はリントの背をトンと叩いた。少女はそれに促されるように、言葉をつなぐ。
「あ、あの、私そんな風に思っていません」
「ええと、昨日は、オレ、悪かったよ」
クラフはニコニコしている。
カカナは内心、少年の頬をつねってやりたい気分だ。
二人の手前それも出来ず、一人対策を練る。
貧しい親子にとって、少女が貴族に召抱えられることは光栄なことだろう。だが、クラフにそんなことができるはずもない。もちろん、カカナだって同じだ。
勘違いされていることに、クラフはちっとも気付いていない。
召抱えられる、と言う意味すら。


「ね、クラフさま、よろしければお散歩しませんか」
リントが提案すると、クラフは大喜びだ。
「クラフ、ちょっと」
「まあ、まあ、旦那様。二人に任せて、どうぞ、お茶でも」
母親は立ち上がりかけたカカナの腕を、予想外の力強さでもって押さえ付けた。
その間にクラフと少女は二人で連れ立って外に出た。
カカナは女の手を睨む。
「あ、これはこれは、失礼を」
ニヤニヤ笑いながら、母親が手を離した。
カカナは厳しい表情で立ち上がると、懐から金貨を数枚手に取った。
物ほしそうにそれを見ている母親に、カカナは言った。
「いいか、昨日はたまたま市場ですれ違っただけのことだ、リントも、今後クラフに近づくことは許さない。もちろん、お前もだ。約束できるか」
切れ長の目に睨まれて母親は怯え、そそくさとテーブルに置かれた金貨を手元に手繰り寄せた。
「は、はい、もちろんでございます、旦那様」


「ね、クラフさまってのやめようよ」
「どうして?クラフさまは貴族様でしょ?」
二人は先ほどの水路沿いの道を歩いていた。
「違うよ、オレは発明家」
「はつめいか?貴族様じゃないの?カカナ様にお仕えしてらっしゃるの?」
「オレは貴族じゃないよ。カカナとは友達。発明家はね、いろいろと新しいものを作るんだ。かまどの、ほら、屋根につけただろ、黒い機械」
「うん」
「あれ、オレが作ったんだ」
「本当?あれね、すごく助かってるんだ。薪がいらないし、炎が出なくて危なくないし」
感心したようにクラフを見上げる。
「その、変わった眼鏡も?」
少女が手を伸ばして、取った。
「わ!」


一瞬垣間見えたクラフの顔に、リントはにっこりと微笑んだ。
「ごめん、それ、ないと困る」
クラフは顔を手でふさぐと立ち止まった。
「目が、悪いんだ?」
「うん、ちょっと、日差しが苦手なんだ」
クラフはやっと気付いた。少女の口調が、変わっていることに。
貴族じゃないから、敬語は使わない。それならそれでも平気だった。


「あの、それ、返して」
「あのね、お水代」
「お水、代?」
「いただくわ、これ。他に何も持っていないみたいだから」
「え?」
「いやあね、貴族じゃないなら用はないの。じゃあね」
少女の足音が遠ざかる。
クラフは慌ててそちらに踏み出すが、足元が見えないために転んだ。
石畳に膝を打って、座り込む。
「リント!?」

⇒続きは6/18更新、こちらから♪
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