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「想うものの欠片」第二話 ③



少女はミキーという名で、年齢も苗字も教えてくれなかった。
毎日、図書館に通っているのだと笑った。
冷たく冷やした紅茶のグラスを、何度も口に運びながら、タースは生まれて初めてのデートをしている自分に気付いた。同時に、少女に抱いた感情にも気付く。
それからはもう、なにをどうしゃべったのか覚えていない。
ただ、お互い楽しい時間を過ごせたことだけは自覚があった。
ミキーは始終ニコニコしていて、透き通った声で頼んだ飲み物も飲まずによくしゃべった。
ほとんどがシーガさまという彼女の雇い主のことと、お気に入りの洋服とブランドの話だったが、それはかえってタースにとって見知らぬおとぎ話を聞くようでドキドキさせた。
午後三時の教会の鐘が鳴らなかったら、仕事のことなど忘れているところだった。


午後はなぜか仕事が進まなかった。
親方に何度か、大丈夫かと問われ、大丈夫だと笑っていたけれど、そのうち、体全体がおかしくなっているように感じた。
午後四時を回るころには、立っていられないほどになっていた。
機関車の黒く塗られた車輪が二重に見えて、さすがにタースは作業の手を止めた。
給水車の屋根に上っていたが、震えて力の入らない足で、なんとか足場を伝って降りると、地面につくなりへたり込んだ。


「タース!」
親方が肩を支えて、何か言っていた。
「すみません、僕、調子が……」
「タース、お前ひどい熱だ、病院へ行こう」
親方が作業員をもう一人呼んで、二人で両側から支えてくれた。
「直ぐそこ、確かあったな」
親方の声に、先輩の声。
「はい、あの角の建物が国立病院ですよ」


タースはくらくらする頭の中で何か思い出さなければいけないことがあると考えていた。
病院、病院。そればかりが回っている。
気付いたのは、診察室で横になっているときだった。


心配そうに覗き込む親方。医者だろう、灰色の髭があごまでまとわり付くように伸びている初老の男。男の持つ注射器で、一気に思い出したのだ。
「あ、僕、ケトンの入ったの、ダメです…」
医者の手首を下から押さえて注射を止めた。ケトンは通常使われる解熱剤に入っている成分だ。タースはそれが体にあわない。
「え?そうかい」
医者の穏やかな茶色い瞳が一瞬見開いた。
親方がどう思ったかは、知りたくなかった。だから、顔を見れずにいた。
「なんだ、お前シディなのか?」親方がつぶやくように言った。
まぶたの奥が重く目を開けるのもつらかったが、タースはここできちんと言わなければと覚悟を決めた。
「…はい。半分、シデイラの血が」
「ほお、珍しい!混血か!」
声を上げたのは医者のほうだった。
顔を動かして、親方の方を見た。
いつもと表情が違った。


「あの、すみません、黙っていて」
憮然とした様子で親方は腕を組んだまま言った。
「別に、謝ることはないさ」
言葉とは裏腹に、その後の親方は黙り込んでいて、興味深そうにタースの診察を続ける医者とは対照的だった。
医者は、ケトンの入っていない薬では、直ぐに熱は下がらないから、と入院を勧めた。
原因も分からないし、と、そう言う表情が嬉しそうで。タースは余計に気分が悪くなった。
「あの、僕、お金がないから入院できません。すみません、帰ります」
無理やり起きようとする少年を医者が抑えた。
「まあ、今は無理だ。お金のことは気にしなくてもいいよ。ご両親はどちらに」
「…いません。二人とも十年前に、亡くなりました」
タースの言葉に医者はますます嬉しそうな顔をした。
あまりにもその表情があからさまだったので、タースが顔をしかめたほどだ。しかしそれも熱のためと解されたのか、医者は嬉々として入院の手続きを進めていた。


シデイラ。それは、山岳民族。この大陸で最も高い標高を持つシデイラ高地に昔から住んでいた。しかし、他の民族の神が一つであるのに対して、シデイラの民だけは自然信仰、山とか風とか、草、水、太陽、そういったものを大切にしていた。
唯一神が世界中で統一され、一つの教会の元に信仰が集まった時代から、シデイラの民は異端者扱いされてきた。ユルギアと会話する特殊な力があるとされ、神秘的な銀の髪、翡翠色の瞳は美しく、過去には他民族の狩の対象となった。
今ではほんの少しの人々が、教会が管理する広大な北の土地シモエ教区で保護されている。十数人に満たないというから、いずれ絶滅するのだろうといわれている。
保護されている民は他の民族との婚姻は許されていない。
だとすると、タースの存在は珍しい。
シデイラの民はケトンという解熱剤の成分を受け付けない。服用すると命を落とすこともある。自分も同じなのかは分からないけれど、試す必要も勇気もない。ずっと隠し通してきたのに、タースは熱を出した自分を呪った。


風邪など引いていないはずなのに。どうして急に。
このまま、公国の研究機関でもあるこの国立病院に捕まってしまうのだろうか。
絶望的な気分で目を閉じて、ため息を一つ吐き出したときだ。
「この子はわしらが預かっているんだ。養子だ。つれて帰るよ」
親方だった。
自由をくれる一言だった。

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要さん♪

コメントありがとうございます♪
タース君のわけあり、少しだけ出てきました♪
親方の一言。
驚いちゃいました?
親方のとっさの嘘なんだけれど…。
次回の展開を期待してください♪

ミキーさんと出遭った後、タースさんは突然の病に伏してしまいましたね。そして中で、彼の過去が明らかになりましたね。タースさんの両親は、既に亡くなっていたのですね。
彼が親方の養子として引き取られたと言う過去には少し驚きました。
果たしてこの後、タースさんをどのような出来事が待ち受けているのか
次回の展開に期待します

楓さん♪

好きですか?うれしいですよ~(><)
この世界の歴史、上手く描けるか、今から不安ですが!
とにかく、タース君、いろいろとがんばりますので!
応援してやってください!
ミキーちゃんの熱…当分うなされるかもしれません。うなされてみたい…(らんらら、眠いのかもしれない…)

あああ、

この手の設定には!!!
非情に過敏に反応してしまう!!
だ、大好きです!!!←おい(笑
中性ヨーロッパで行われた魔女狩りもそうですが、おおよそそう言った民族差別という尾は宗教・協会が絡んでいるもので、特に上流特権階級の・・・あああ、歯止めがきかない!!笑
ともかく、この物語の世界に置けるシディのおいたち・歴史とその立ち位置というか立場がよく分かりましたお!
で、案の定ミキーの熱にうなされる?タース君、
可愛いですね~
それにしてもミキー・・・
まーたシーガ君に怒られるのでは?笑

お言葉ありがとうです♪

chachaさん♪
救われました?ええ、本当に!!
シデイラの民は、そんなです。ロゼルヌ卿がシーガ様を「シディ」と呼んだのにも、同じ蔑視の意味があるのです。シーガ様はそんなもの、嬉しそうに笑い飛ばしましたが(^^)
タース君は今までそれなりに、つらく受け止めてきたのです…どうなるでしょう(^^)ふふふ。



kazuさん♪
おお!ありがとうございます!!
コメント、嬉しいです!
はい、混血、という存在はこれからいろいろと鍵になります!重要ですよ!
タース君、けなげにがんばりますので!
見守ってやってください♪


ユミさん♪
おお?何か大変なことに…ごめんなさい。いずれ、巻き込まれます(笑)そのための混血ですから!(?)
今からサッカーですか!!いいですね~(><)やっぱりゴール裏ですか!?燃えますね!ビリー並の激しい応援を期待してます♪勝ちますように♪


Takagaさん
恋の病…それはそれで、素敵です♪ロマンチストですね~(^^)
親方いい人です!やっぱりそこは、ほら。おじさんに好かれるタイプですから!
娘婿決定でしょうか、これは!!もう、断れないですよね~優しくしてもらっちゃったら!恩人ですもん♪人生の分岐点…近づいています!ええ!!


かいりさん♪
ありがとう!!
はい、ここは救われないと寂しいですし!せっかく登場したばかりでこの扱いはって、ね(^^)
ミキーちゃんの熱とシーガ様のお怒り、コレはおいおい、タース君を苦しめ(?)ます♪ふふふ!お楽しみに~♪

よ、よかったー><;!!

もしかしたら親方、タース君の出生を知ってタース君のこと嫌いになってしまったのかと…!
良かったー!助けてくれたよ~!!
はぁ…ドキドキしてしまいました^^

そして、あれですね、この高熱は。ミキーちゃんのせいですね^^;
これをシーガ様が知ったらきっとまた怒っちゃうのでしょうね。
早くタース君が元気になりますように!
そしてシーガ様の再登場楽しみにしています^^!!

恋の病だと本気で思いながら読み進んでいたのは、はい僕です。
親方……流石は親方だな。タースを娘婿にするのさ、親方。
そうですか、国立病院は国の研究機関。なかなか大変な境遇なんですね、タースって。彼の人生の分岐点が迫っているのでしょうか?う~む。

そっかぁ

ミキーちゃんに触れちゃったもんね。シデイラの混血なんだ?
それがわかってしまって、何か大変なことに巻き込まれませんように!!
親方は味方になってくれそうですね♪
実は今からサッカーなもので、競技場から携帯で読んでます☆

こんにちは

らんららさん、こんにちは。
タースくん、かっこいい・・・v-10
シーガ様とは違った、素敵な魅力のタースくんですね。
シデイラの民が、異端者扱いをされてきた背景が、寂しいですね。
宗教の違いは、簡単には超えられるものではないですものね。
それでも、混血のタース君がいるということは、シデイラの人を愛した他の民族の人がいるということで。
でも、混血を隠さなければならないタースくん。
今まで、苦労してきたんでしょうね。

見捨てなかった、親方に感謝の拍手!!
親方、素敵です~~

続き楽しみにしています。

親方~~~><

あぁ、本当に救われた一言!!
親方ったらもぉ!てっきり見放されたのかと思ったじゃない、その態度!(笑)^^
良かった良かった、これでタースの身も安心・・・
って、シディってそんな風に扱われてたの??
むかぁっ!ですよ、らんららさん!むかぁっ!><
でも、確かにタースくんは混血なわけで・・・
むむ!?規則破りをして結ばれたわけですね!?タースくんのご両親は☆
いやいや、愛に血なんて関係ないさ!うんうん^^

あはは、でも、やっぱりきたか~とは思いました。
あんなにもミキーちゃんに触られてたんだもの(笑)
体に合わないものがあるのって、大変ですよね。アレルギー症状のようなものなんでしょうか?

タースくん、今はゆっくり休むんだ!元気になったら、ミキーちゃんに会いにいこう!(笑)^^
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