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「想うものの欠片」第二話 ④




「ありがとうございます」
帰りの馬車の中で、自分の荷物の入った袋を枕に横たわりながら、タースは馬を操る親方の背に心から礼を言った。
親方は黙っていた。
不安もあるが、嬉しさのほうが大きかった。


「僕の、両親は」
「言わなくていい」
さえぎった親方の一言が、表情が見えないために怒っているのか、笑っているのか分からず、さらに少年の不安をあおった。
シデイラの民はシディと呼ばれ、蔑まれている。ユルギアと話すことで気味悪がられて、まるで不幸を運ぶ厄介者のような扱いを受ける。
それは、幼い頃から身に染み付いていた。


仕事は、続けられそうもない。
やっと、この都会に出てきて、やっと落ち着ける仕事が出来て、いい人たちにめぐり合った。自分のしたいことも見つかって、充実していた。
それが、すべてなくなる。
両親が死んでから、これまで生きていくためにいろいろなことをした。盗みを働いたこともある。詐欺まがいのことだってした。そのどれも、罪悪感などなかった。
そうしないと生きていけなかったから。法律で守られていないのだから、自分が法律を犯すことに何の抵抗もなかった。
けれど。
優しくしてくれた親方を騙していたことが。シディであることを黙っていたことが、ひどく心を痛くした。
「明日は仕事を休め」
親方がぽつりと言った。
辞めろ、と聞こえた。
たまらなくなって、タースは鼻をすすった。
気付かれまいとぬぐっても、涙がまたあふれてくる。
「今夜は、うちに泊まるか」
親方が振り向いた。
その顔は穏やかに笑っていた。
「親方…?あの、僕、シディ、ですよ?」
すっかり鼻声の少年に、男はふと笑った。
「ばか、それが何だってんだ?お前はタースだろ。俺が半年かけて教えてきたこと、何にも分かっちゃいねえな。まだまだ、教えなきゃならんことがたくさんあるぜ」
少年は涙をぬぐって笑った。
人として、生まれ変わったかのようで。嬉しかった。


セルパ親方の家は、工場から馬車で少し南に走った、静かな住宅地にあった。親方に支えられて、白い門を通って芝生のきれいな庭を横切る。丁寧に整えられた庭をみると、家庭の円満さがうかがえるようだ。奥さんのエイナさんはニコニコして出迎えてくれた。
二階の一室をあてがわれて、横になる。
気を使わなくていいから、とにかく眠ることだとエイナになだめられ、タースは目を閉じた。
遠い街の大学へ行っているという長男が子供のころ使っていた部屋だという。白い窓枠、同じ色の本棚。そこに並ぶ学校の教科書。子供のころのものだけれど捨てられないのだろう。温かい家庭の匂いを感じて、タースは幼い頃を思い出していた。
温かい記憶と、両親をなくしたときの悲しい想い。
熱のせいか、耳鳴りがしている。
時折、聞こえるはずのない声やささやきが耳を掠める。ユルギアだろう。
また、明日ですの、と。ミキーの声がよみがえった。そういえば、彼女もユルギアと話をしていた。彼女も混血なのかもしれない。
心地よい少女の声に、深い眠りに落ちていった。

「だわ」
だわ?
女の子の声のようだ。
タースはぼんやり目を開けた。
心地いいベッド。キレイな天井。
ああ、親方の家だったな…。そう思い出したとき、また、声が聞こえた。
「シディなんて、気味悪いじゃない。私いや!そんな子が私の隣の部屋で寝るの!?絶対許せない」
セルパ親方にはタースより一つ年上の娘がいると聞いていた。
はあ、と息を吐いて。タースは起き上がった。
まだ、少し、目が回る感覚があったけれど、ゆっくりした動作なら立ち上がって歩くことも出来そうだった。
数回、深呼吸して立ち上がると、タースは荷物を持って、階下に向かった。
自分のせいで温かい家庭に水をさすことはない。


「ライラ、お前は何にも分かっていない」
セルパが低い声で言った。
「シデイラの民がなんだって言う?タースは真面目ないい子だ」
「そうよ、ライラ。人を差別することはよくないことでしょ?あなたがそんなことを言うなんて、母さんは悲しいわ」
「だって、嫌なものはいや!」

立ち止まって聞いていたタースは、ちょうど階段を昇りだした娘、ライラと鉢合わせした。
「き、きゃあ!」
悲鳴を上げられ、どうしていいか分からず、ただ立ち尽くす。
ライラは親方より奥さんに似ていて、少しタレ目の甘い栗色の髪の少女だった。
シデイラでなくても、見知らぬ男が自分の部屋の隣にいるだけで嫌だろう。
階段を駆け下りていく少女を見送って、タースはため息を一つ吐き出した。
帰ろう。


「ライラ、どうしたの!」
階下に降りると、夕食のいい匂いがした。ジャガイモとまめと鶏肉を煮たスープのにおいがしていた。
「タース!大丈夫か?」
一階に下りると、直ぐそこはリビングで、ソファーに座っていたセルパが少年に気付いて立ち上がった。まだ少し、心もとない足元に気付いたのか駆け寄った。
「あ、はい。大丈夫です。僕、自分の家に、帰ります」
ライラを抱きしめていたエイナが目を丸くした。
「何を言っているの、タース君!ダメよ!」
娘をあっさり置き去りにして、エイナはタースの前に立った。
身長はタースのほうが少し高い。それでもまるで小さな子供にするように、エイナは少年の額に手を当てた。
「ほら、まだ熱があるわ」
「どれどれ」
セルパも同じことをする。
タースは二人をかわるがわる見ていた。
あまり、経験のないことだったから。


「食欲はあるのか?」
「そうよ、ちょうどスープが出来上がったし、ライラも戻ったし、ね、一緒に食べましょう」
二人の優しい言葉に、タースは持っていた荷物を後ろに隠した。

二人がいていいって言ってくれているのに、変にかんぐって帰ろう何て、僕は大人気ない。そう思うと恥ずかしくなった。
それに、この機会を逃したら、こんな風に優しくしてくれる人に出会えるのは、いつになるのか分からない。いや、もうないのかもしれない。
半年、雇ってくれた親方に感謝する意味でも、ここは甘えるべきなのだろう。

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要さん♪

おはようございます♪
はい、タース君、親方のお家に来たのは嬉しいですが。
基本的には大人しい子なので。あんまり行動しませんね~(^^)機械ヲタですし♪
さて、次の展開をご期待ください!

異民族シデイラの子として生まれたタースさんの過去は、壮絶な物でしたね。彼はそんな過去を送って来た自分に親切にしてくれた親方を騙した事に、心を痛めているのですね。
そして、ここで親方の娘ライラさんが登場しましたね。
彼女との出遭いが、タースさんをどう変えてゆくのか
次回の展開に期待します

花さん♪

カタルちゃん!!おお、そうね!なかなか、沁み込んでいる自分に対する価値観は変えられないですよね~♪タース君にも栂木くんみたいな、カッコイイ守ってくれる人がいたら…あ、男の子だった。無理だなv-391
果たしていいことだったのか…ああ~微妙(笑)
遠い未来を考えると、いや、それでもひと時の輝きを考えれば…おっと、先走ってはいけません。とりあえず。
タース君、応援してやってください♪

タース君…。そっか、優しくしてもらったことないんだね…。
何かカタル思い出しました。ふぅむ…。
ミキーちゃんに出会ったことは、果たして幸せだったのか?親方にエディがバレたのは、果たしていいことだったのか?
…いいことだったと、思わせて下さいらんららさん!お願いします!(泣

コメントありがとう~

かいりさん♪
キュ~ンっとしてくれて、ふふふ。タース君かなり真面目ないい子路線の予定ですので、こんな風に考えちゃうシーンが多いかも。
ライラちゃん、仲良くなれるといいですね~。
でも、彼にはミキーちゃんがいるわけで(え?)


Takagaさん♪
わははは!いずれそんな子に?
「優しいだけじゃ、つまんないよね~」みたいな?

家族に災い…かもね♪
でも、そうしたらタース君つらいだろうなぁ~。そうかぁ。それもいいかも?
ふふ、どんな未来が用意されているかは、まだまだ、秘密なのです♪


楓さん♪
はい。そういう世界です。歴史が作り上げてきたものはなかなか、ぬぐいきれないです。個々の人は決して悪くないけれど…。ポオトでも業種だけでいがみ合っていたくらいですし。
タース君が失いたくない、と思う気持ち、分かっていただけました?嬉しいです♪
良いお話♪ありがとうございます!
やる気出てきました!


chachaさん♪
ありがとう(><)らんららも鼻すすりながら書きました(笑)
タース君、この温かい家庭に馴染めるといいなぁ~♪
何も災いが起こらないといいなぁ~♪
おお、そうそう。そうなんです。タースくん、考えすぎるほど考えます。習性でしょうね、人の顔色を見ながら生きてきて。悪い子になりきれない(後々理由が出てきますが…)
さて、がんばりますよ!

思わず

タースくんと一緒に鼻すすっちゃいました;;
あぅあぅ~~親方、いい人だぁ~~!
こんなにも温かい心を持った人、そうそう、簡単に出会うことはないよ!タース!
どうか親方の、奥さんの優しさを大事にしてあげてね☆
でも、娘さんがちょっと気になるな・・・
何も起こらなければいいけど><

タースも本当、人の気持ちを裏の裏まで考えて行動する子で・・・いい子だと思います^^

僕もいたたまれなくなって帰ろうとするだろうなぁ。
でも、これがこの世界の常識・・・
そう言う世界なのですよね。
それを、タースはタースだと庇ってくれる人が居る。
その優しさに触れたとき、この幸せをもう少し噛みしめていたい、甘えていたいと思う気持ちがわき起こって、荷物を隠してしまった。
・・・
良いお話だぁ。
分かるよ~分かる!!

ライラ……いまはそうでも、その内、男の子が大好きになるタイプになるんじゃないのかい?「普通はイヤ。ちょっと他の人とは違う感じじゃないと、私、満足できないの」とか言う娘になるんじゃないのかい?どうなんだい??(なんのこっちゃ)

いやあ、この親方にして、この女将さんアリみたいな。しかし、このことでこの家族に何かしらの災難が降り掛からなければ良いのですが……。

「嫌なものはいや!」

「おう、そうかい」

「嫌なものはいや、い~やっ!!」

「わかったよ、うるせえなあ!!(笑)」

泣いてしまったタース君に胸がキュ~ンとしました!
親方も奥さんもいい人でホっとしました!
でも娘のライラちゃんは…うーん。
年頃の女の子らしい反応ですね。
ライラちゃんも、タース君のいいところ早くわかってくれるといいな><;
そうだよタース君!体調の悪い時は思う存分甘えちゃえ~!!!(笑)
続きも楽しみにしてますね^^
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