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「想うものの欠片」第二話 ⑧




その夜、夕食の手伝いをタースがしていると、ライラが学校から帰って来た。
「お帰りなさい」
そういったタースに、ライラは少し口を尖らすようにテレながら、ただいま、と言った。
「別に、あなたのために早く帰って来たわけじゃないから」
誰に聞かれてもいないのに、ライラはそう言うと、自分の部屋に駆け込んだ。
皿を運びながら首をかしげるタースに、エイナはくすくす笑っていた。


「でな、工場長さんが俺の作ったもんをみて、なんていったと思う?」
皆での楽しい食事は終わりに近づき、ワインを飲むセルパは上機嫌だった。
赤い顔で嬉しそうに語るセルパに、ライラが冷静に言った。
「お父さん、それ、三回目。もう答えも分かってるし、つまんない。タースも困ってるでしょ?酔っ払ったなら大人しく寝ちゃってよ」
想像以上にきつい言い方をするライラに、タースが目を丸くしていると、エイナが皮をむいた梨をテーブルに置きながら言った。
「ライラ、タースがびっくりしてるわよ」
「え?何が?」
自覚がない少女に、タースは言いようがなくてあせる。
「あ、え、いや、親方もライラには適わないんですね」
「え?どういうこと?」
ライラが眉をひそめて、タースを見上げた。少し上目遣い。
先ほどセルパのワインをグラスに一杯もらっていたから、酔っているのかも知れなかった。
「ええと。ほら、ライラ可愛いから」


全員が黙って、タースを見つめた。
「あ、あれ?僕、変なこと、言いました?」
さらにあせって、タースは三人の顔をかわるがわる見つめた。
セルパはじっと少年を見ていたが、手元にあったワインのボトルを掴むと、手に持っていたグラスに並々注いだ。ワイン用のグラスではない、水を飲むものだ。コップ、だ。それにたっぷりと、赤い色が揺れる。
それから、それを、どんと少年の前に置いた。
「え?」
「飲め」
「ええ?」
「男だろ!」
タースは助けを求めるようにエイナを見るが、エイナもにこにこして、もう、十五歳だからね、と笑った。
十五歳から、家での飲酒は許される国だ。通常、家庭内なら保護者が一緒だからだ。
「美味しいのよ」
ライラが自分のグラスを揺らしてみせる。
タースは、目の前の揺れる赤い液体をじっと見つめた。
実際、感覚の鋭い少年には、すでに強いアルコールの匂いが心に警鐘を鳴らしていた。


これを飲んだら、どうなるんだろう。


コップに、手を添えて。
もう一度、三人を見る。
期待に満ちた視線を感じて、タースは目をつぶった。
一気に、飲む!
つもりが。
むせた。
三人が楽しそうに笑うのを聞きながら、タースは目を回していた。


「弱いなぁ」
セルパの言葉に、エイナは笑った。
夜風が冷たくなってきていたので、窓を閉める。
二人はタースの部屋にいた。
セルパが酔っ払った少年を、ベッドに運んだのだ。
少しだけ飲んだワインで火照っていた顔も、今は落ち着きを取り戻しているようだ。本来のヤマツツジの白い花の色に戻っていた。少し長めの黒い前髪が頬にかかる。
エイナが、少年に毛布をかけた。
廊下からの小さなランプの明かりだけだが、静かに眠るタースの穏やかな顔が見て取れた。
「あなたとは違いますよ。まだ、子供ですし。こうして見ると可愛らしいわ」
「ふん、だけどな、男だ」
「あんまり、無理させないでくださいね。ライラとのことだってタース君に知れたら、居心地の悪い思いをさせてしまうでしょ?余計な気を使わせたくないわ。私たちが勝手に期待しているんだもの」
「ふん、けど、俺は、こいつならライラを任せてもいいと思ってる。こいつだって、まんざらでもないぞ、ライラのこと可愛いって言っていたからな」
「はいはい。さ、あなたももう寝たほうがいいわ。何だかんだいって一番手のかかる酔っ払いなんだから」
「リックみたいなこと言うな」
「はいはい」
セルパはエイナに支えられながら、階段を降りて言った。セルパは酔っている時だけ長男の名前を出す。
「あいつは、なんで出てったんだ」
「あなたが、後を継げって、大学には行かせないって、怒鳴ったからでしょ」
「…出てくことはないんだ、出てくことは」
「はいはい」
エイナは笑った。



「タース、昼飯だ、来いよ」
セルパがそう言って、工具をしまっているタースの肩を叩いた。
親方は昼には家に帰って食事をする。そして休憩を取って午後三時からまた、働くのだ。
「あ、はい、あの。僕、ちょっと図書館によってから…」
「なんだ、お前、図書館?」
ちょっと意外な顔をして、セルパは少年を見た。
「あの、僕、将来建築士になりたくて。いつも昼休み、図書館で本を読んでいるんです」
「ふん、勉強か」
親方の顔が曇る。
今までこの話はしたことがなかっただろうか、タースは首を傾げる。
「いいから来い。昼飯は皆で食べるもんだ!食ったら休憩する!ただでさえお前、伸び盛りなんだから、今無理してたらダメだ。必要な本なら買ってやる」
「あ、ええと」


タースはミキーのことが気になっていた。もちろん、ミキーのことがなければ建築の本を読むのだから、嘘は言っていない。買ってやるといわれても、そんなに安価なものばかりではない。図書館で好きなものを読めるのが、気楽でよかった。
どう断ろうか、迷っているタースにセルパは噛み付くように言った。
「建築士だなんて、お前、大学にでもいくつもりか?」
「え、あの、出来たら……」
「無理だ、お前今学校行ってないだろ?夜間でも行っておかなきゃ、大学の受験が出来ないだろう」
「あの、だからお金をためて、ミドルスクールの夜間に通って、それから受験資格取って……」
「無理だ」
頭ごなしに言われて、タースは黙った。
困難なことは分かっている。


「さ、昼飯だ。帰るぞ!」
強引に親方に引っ張られ、タースは重い足取りで家に向かった。
途中親方はずっと、俺がお前くらいの時は、と修行時代の話をしていた。親方はミドルスクールまでで、それ以上の学校へは行っていなかった。それでも腕さえあれば何とかなるもんだ、と。
タースは、数回、図書館のレンガ色の建物を振り返る。


今日もミキーは来ているのだろうか。
また、あのトントとかいう奴と交渉するのだろうか。
無駄なのに、危険なのに。


昼食の間中、少年が静かなので、エイナは何度も熱を測る。
「熱はなさそうね、食欲がないの?」
しきりとかまうエイナに、セルパはぶっきら棒に言った。
「ほっとけ、今日は午前中、きつかったからな。疲れたんだろ。昼寝して、午後の仕事に備えろよ」
先に食べ終わって、少年の背中をバシバシと叩いて、セルパは自分のお気に入りの昼寝場所、庭の木陰に向かった。
それを見送ってから、エイナはタースの顔を覗き込んだ。
「どこか、悪いの?」
「あ、いいえ。大丈夫です」
タースは、エイナが心配そうなので、目の前の食べかけのピザを一気に口に運んだ。
食べて、ジュースで流し込んだ。
「あら、無理しちゃダメよ」
むせる少年に、エイナは笑いながら背を叩いてくれた。
涙が出そうだ。
「いつまで食べてる!来いよ」
親方に呼ばれて、庭にしつらえたデッキにあるイスに座って、一緒に昼寝をした。
昼下がりの木陰で、ロックチェアの緩やかな動きに前髪が揺れるのを感じながら、タースは目を閉じる。
程なく、隣から、低いいびきが聞こえてきた。
目を開けて、少年は空を眺めた。


遠く見える駅の時計塔。鳩が飛んで、風が吹く。
ミキーのことを考えると、鼓動が早まる。
何度も目を閉じるが、眠れそうになかった。

次へ(7/5公開予定♪)
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要さん♪

ありがと~♪
はい、タース君、これからちょっと迷います。
でも、とりあえず。
やっぱりミキーちゃんが気になるですよ!
金色の変なのが絡んでいたから…(^^)

セルパ親方の家庭で、親方の家族とタースさんは、ほのぼのとした時間を過ごされていますね。そしてそんなタースさんは、どうやら自分のこれからの進路に迷われているようですね。進路に迷う、と言う悩みを抱えている彼の雰囲気が、いかにも少年らしいと思いました。
そして、再びミキーさんに会えることを望むタースさんをどのような運命が待ち受けているのか
次回の展開に期待します

楓さん♪

お疲れ様ですー!
出張!大変だなぁ~(といいつつ、らんららの出張の印象は新幹線の帰りにビールとおつまみを楽しむスーツ姿の人々だったりして…^^;あまり、出張ってないので…)
ふふ、親方。変われないんですよこういう親父さんは♪そうやって生きてきたから。
そうそう、タース君は逆らえない状況。覆すミキーちゃんの存在…だったらよかったかもですが…ふふ(ニヤリ)。
お、続きにコメありますね!ありがとうございます!

頑固オヤジ(笑

こんにちわ。
やっと読みに来れましたよ~
出張続くと大変です(苦笑
で、タース君
てか親方・・・リック君が出て行ったわけを分かっているくせに、つい言っちゃうんだろうなぁ。
それだけタース君が気に入られてるってことだろうけど、
ちょっと可哀想な・・・リック君と違い、タース君は逆らえないんじゃないかなと、ふとそんなことを思ったりしてしまいます。
でも、それを覆すのがミキーちゃんの存在・・・かな?
続き、アップされているので、さっそくGO!です♪

chachaさん♪

はい。セルパの気持ち分かってくれて嬉しいです♪タース君もソレを感じ取れるから、きっとちょっとなんだかなぁと想いつつも、従います。
そうそう。タース君の人生はタース君のもの。
親方…長男が出て行ってしまったのに…相変わらずなのです。頑固一徹なお人ですからね~(^^)

むむ~??

セルパさん、いい人なんだけど、いい人なんだけど・・・><
タースの気持ちもわかって欲しいなぁなんて。
頑張ろうとしている気持ち、スパッと一刀両断しちゃって・・・ちょっとタースくんが可哀相でした;;
でもね、わかるんですよ。セルパさんだって辛いわけですもの。
自分の息子が跡を継いでくれずに大学に行ってしまって・・・
やっと、自分の跡を継がせたいと思えるタースが現れたと思ったら・・・また!?ってなっちゃってるんでしょう。
でも。
タースくんの人生はタースくんのもの!
セルパさん、そこんとこはわかってちょーだいっ!><

あぁ、ミキー。そしてシーガくん。今回出番なしですか(笑)
次回を楽しみにしてます♪^^

ユミさん♪

ええ、親方、ちょっと期待しすぎ…タース君苦しくなっちゃってます(^^;)
ミキーちゃんは…今頃…ふふふ♪やっとお話が少し、動き出しますよ!次回から♪(あ、でもまだ、シーガ様は脇役だけど♪)

気にはなっていたけれど…

お兄さんのリックくんが家を出たこと。こんなに暖かい家族
だから、揉め事があったのではないと思っていたけど…。
お父さんって、必要以上に長男に期待しちゃいますよね。
おぉ、しかも、タースくんにかなりの期待を!!!
あんまり強引になりすぎて、タースくんが離れていかなければ
いいんですけど、大丈夫ですか?!
ミキーちゃんのことも心配でしょうね。
今日は、シーガ様も一緒かなぁ。
あ、でも脇役のそのまた脇に追いやられてたから、そうそう
出てこないか…(笑)
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