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「想うものの欠片」第二話 ⑬

13


「ただいま!」
この家の夕食は、親方の時間に合わせて始まる。
夕刻、家に戻るとすぐにシャワーを浴びた親方は、軽く麦の酒を飲んでから食事を始める。
だから、学校から帰って来るライラは大抵、間に合わないのだとエイナが言った。


ライラは帰って来ると、ととと、と走ってキッチンに顔を出した。
「お帰り、ライラ」
エイナが出迎えて抱きしめる。いつもの挨拶。
「ね、ママ、郵便局に寄ってきたの!」
ライラは手に持ったものを、そっと母親の手に渡した。
「あら!」
エイナは目を丸くして、それからセルパを振りかえった。
「あなた!見て、リックから、手紙よ!」
がたっと、親方は立ち上がった。
駆け寄る。


「おう、おう」
嬉しそうに親方は手紙を持ったまま、リビングのソファーに向かった。その後を、エイナもライラも追いかける。
ライラが読み上げた。


「お久しぶりです、お元気ですか。父さん、母さん、ライラ。僕は元気です。この春からティエンザのサンルーという街で大学に通うことになりました。父さんはそういうと怒るかもしれないけれど、いまやティエンザの工業技術はすばらしい勢いで進歩しています。それを学んで、父さんの仕事に役立ちたい、それが僕の願いです。あの時、勢いで家をでてから、何度も帰ろうと考えました。でも、僕は、何も持たずには帰ることは出来ない、そう思って今日まで、働きながら勉強を続けてきました。父さんに教えてもらった技術は、今の職場でもとても役立っています。改めて感謝しました。そして、もし、許してもらえるなら、一度帰って、みんなの顔を見たいと思っています」
読み上げるライラの声が、震える。


エイナはすでにこぼれた涙を、エプロンで押さえていた。親方の表情は見えなかった。
タースは、皆の幸せそうな様子に、目を細めて、黙って席を立った。
食器を流しに持っていくと、そのまま、二階へと向かった。


ベッドに寝転んで、天井を見上げながら、息を深く吐く。また少し、熱が上がったようだ。そのせいだろうか。何故か、涙がこぼれそうになる。
嬉しいのか、悲しいのか。よく分からない。


雑種。
シーガの声がよみがえる。
ふん、と息を吐く。


ミキーにももう、会えないのだろうか。
あの子は、あの子だけは僕のことそんな目で見ない。会えて嬉しそうにしてくれた。


ドン、ドン。階下で玄関の扉が叩かれる音がした。
その少し前、車らしい音がしていたから、誰か、家に来たんだろう。タースは目を閉じて耳を澄ます。
三人の足音。
エイナが慌てて扉を開ける。
こんばんは、という会話を想像したが、違った。
何か、言い争っていた。


嫌な感じだ。
起き上がって、タースは様子を見ようと、扉を開けた。
同時に目の前に、一人の男が立っていた。


「おや、君か、タース君。ふーん、本当に混血なんだなぁ」
少したれ目、気障な口調。こけた頬にチョロリとしたあごひげ。三十代後半くらいのやせ気味の背の高い男だ。黒ずくめの服、手には、銃。
タースは息を呑んだ。銃口が、こちらに向いている。


「私はスレイド。ファドナさまのお使いだ。少々、君に用事があるんだ。来てくれるかい?」
「ファドナ、さま?」
「おやおや、知らないのかい?このライトール公国の教会で最も地位の高い、ま、いけ好かないおばさんだ」
「おば?」
「おっと、今のは聞かなかったことにしてくれよ。私も命は惜しい。さ、きてくれ。教会が君を保護するんだよ」
「あ、あの。結構です、僕は」
数歩、後ろに下がる。


「だめだめ」
男は小さな子供にするように人差し指を左右に振った。
「いいかい、君には身分証明がないね、市民証も。そういう人物を働かせるのは政府の決め事を破っていることになる。つまりだ。君がここにいると、セルパさんは逮捕されて、仕事も出来なくなるって寸法。分かる?」


にやっと笑って、その男は有無も言わせずタースの腕をつかんだ。
タースが睨みつけると、男は一瞬怯えたように手を離す。
「おいおい、シデイラってのは目つきが怖いね、まったく、シーガみたいだ…」
「!シーガを知っているの!?」
「ん?そりゃ、こっちの台詞。あんた、あっちゃいけない人間、いや、シデイラに会ったね。いけ好かない野郎だったろう?」
同情した口調で、男はタースの手を再び掴んだ。
「うん」
そこだけは素直に頷いた。
「ぷ、ははは!いいねこりゃ!面白い。さ、行こうか。なあに、人間、これ以上悪いことは起こらん、今後は人生上り調子さ!」
いいのか悪いのかわからないことを言って、男はタースを階下に連れて行った。


一階では、軍兵が二人、セルパたちを挟むように立っていた。
その手には、銃。
タースは軍兵を睨んだが、セルパと目が合うと、うつむいた。


「親方、ごめんなさい」
一言。
「いやよ!タースは何も悪いことしてないわ!」
ライラが叫んだ。
「ちっちっち、お嬢さん、悪い事をしたのは、こいつじゃない、あんたの親父さん。雇っちゃいけない子供を雇った。ま、ここからタースがいなくなれば、それはなかったことになるわけだ」
男の言葉にセルパがうつむいた。
「すまない、タース」
「そんなことないです、僕、嬉しかったです。ありがとうございました」
きちんとお辞儀をして、泣いているライラに微笑んだ。
わずかでも、幸せな家庭に居られた。


スレイドに背中を押され、タースは歩き出した。
「うーん、泣かせるねぇ。お前さん、いい子だねぇ」
それでいて、家の外に出るとスレイドはタースの手をきつく縛り上げた。
「いいかい、ユルギアなんか使っちゃだめだよ、私たちにはこれがあるんだ」
強引にタースを車に押し込むと、隣に座ってスレイドがポケットから小さな紙切れを取り出した。
なにやら、赤いごちゃごちゃした文字が書かれている。


「何、それ」
「知らんのか?護符だ。教会発行、一枚銀貨五百、なかなかの効き目だって噂だぞ?」
「…くす」
少し涙目の少年を元気付けようというのだろうか。そんな話聞いたこともなかった。
「今なら半額でもいい、買うか?」
「何からの護符なの」
「そりゃもちろん、悪いユルギアからさ」
「ふーん」
タースは少し意地悪な気分になった。


シーガとつながっているなら、逃げ出すのはもう少し後でもいい、だから、とりあえず道連れの人となりを確認することにした。
「じゃ、そこに座っているユルギアは?悪いユルギアじゃないんだ」
スレイドがふふんと苦笑い。
「嘘つこうってのは、悪いことだぞ、ぼうや。この護符はな、シーガも認めているんだ。これがあればユルギアが近づけないってね」
ぷ、とタースは噴出した。
「シーガのこと、信じてるの?」
「…ぼうやのこと信じるよりはね」
「ふうん、長い付き合い?」
「さあ、いつからだったか」
「へえ、シーガっていい人?」
スレイドは黙った。


「あのな、ぼうや、大人を脅そうなんて悪い考えだ。いいか、ユルギアなんてもんはそうあちこちにいるもんじゃない」
「じゃ、護符なんかいらないじゃない」
つと手を伸ばして取り上げようとする。
「ば、ばか!だめだだめだ!」
慌てて遠ざけると、スレイドは大切そうにそれを折りたたんでポケットにしまいこんだ。
「もう、大人しくしてろ」
「ちぇ」


つまらなそうに少年が正面を向く。
揺れる自動車に少しバランスを崩す。
「これ、ちょっと取ってほしいな、それか、もう少し丁寧に運転して…」
タースは最後まで話せなかった。


スレイドが護符と入れ替わりに、ポケットから取り出した布を口にあてがわれたから。


「!!」
それが何の目的なのか気付いたときには、意識が遠のく。


「まあ、可哀相なことは可哀相さ。けど、仕方ない。許せよぼうや」
スレイドの表情は口調からは想像もつかないほど、静かで鋭い。
自動車の揺れに、少年の髪がさらさらと頬に落ちる。


らんららです。タース君、なんだか大変です…(><)
次回更新は、一回間を空けまして(企画のテーマ小説、短編読みきりが15日に公開になりますので…)17日更新です♪
次へ(7/17公開予定♪)
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要さん♪

コメントありがとうございます♪
タース君は戸籍がありませんので。雇うことは法律違反になります♪
突っ込んだ説明をしてもいいですが、本編の流れにあまり関係がないので…^^;

親方の家に戻ったタースさんは、シーガさんに雑種呼ばわりされた事を気にしているようですね。そしてそんな彼の許に、ライトール公国の教会の使者スレイドさんが、部下を引き連れて唐突に姿を現しましたね。
そして何故、タースさんが工場に「雇ってはいけない子供」と言われていたのか
次回の展開に期待します

コメントありがとう~♪

楓さん♪
お忙しいのに!ありがとうです!!
スレイドさん、これからちょっと関係してきますね。多分レギュラー入りです♪らんららも少しお気に入り♪
タース君の立場。だんだんと。明らかになるわけです。
混血であることの意味。(←思わせぶる^^)
楽しみにしていてください!
は!!
15日!!
実は、「野いちご」で先に公開して、批評をいただいて直してから出そう…なんて、あくどいことを考えたのだけど…直すのが難しくて…割ときっちり伏線組んであるので。
どうなることやら!らんらら以外のお二人は大丈夫ですから♪安心して、遊びに行ってくださいね♪

kazuさん♪
そうです、タース君。これから、ちょっと大変。やっと第二話山場です!
スレイドさん、かなり大人です。こういう性格の人もいないとね、息抜きが出来ないので(笑)

さて、テーマ小説!!
kazuさんは「お休み」のほうですね!!了解です!
らんららも、これほど何回も推敲した作品は実は初めてなんです(><)
普段、連載の長編は…ほとんど推敲していない(おい…^^;)
どきどきしますよね~♪発表会の前の気分♪
でも、やりきったときにきっと、やってよかったなぁって思うから♪大丈夫!!
一緒にがんばりましょ♪

ユミさん♪
親方、結局はお父さん、なんですよね~。
実は、リック君を帰らせてタース君と対面、とか考えたのですが。リック君には別の役割を果たしてもらうことになったので、今回はさらっと伏線の人(笑)です。
スレイドさんの護符。あれ、じつはミキーちゃんの落書きだったりして…効果の程は…ふふふ♪
続き、楽しみにしてくださると嬉しいです!!

リックくんからのお手紙に、親方が駆けつけるところが
なんとなく可愛かったです。
そういう行動とりそうにもないので…^^
すっごく仲悪くて出て行ったのかどうかは定かではないけれど、
お互いに思いやってるんでしょうね。
素敵です^^親方の技術に役立つことを学んでいるなんて。
タースくんは…ちょっと寂しかったでしょうか。

あぁ、そんな雰囲気とは打って変わって、スレイドさん。
何を考えているのやら…。シーガ様も認めた護符ってのも
なんか胡散臭いような?!

タース君・・・うわぁん・・・・
どこからばれたのか、もう、どうにも辛い現実ですね。
親方だって、手を出しようがないですよね。
もう、こうするしかなくて・・・・
しっかし!!スレイドさん!
面白い人かと思ったのに、その裏側に隠された本心にドキンとしました。
表面の面白さに騙されちゃいけないですね;;
うぅ、しかしタース君、どうなっちゃうんでしょうか@@;
心配です

・・・あさってなんですよね・・・短編・・・
楓さんのコメをみて、なんだかどきどきとしてきちゃいました
らんららさんとchachaさんに挟まれて、kazu、穴があったらどこじゃなく、穴を自分で作ってはいりたいです~;;
って、今気がつきましたが、テーマをお伝えしていない!!
お休みのほうで。
とかいって、突然書き直したらどうしよう!!
と、若干パニクッてるkazuでした☆

むっはーーーーーー!!!

スレイドあやすぃーーーー!!
と思っていたら、やっぱりヤヴァイぃぃいい!!
本当に協会からの遣いなのか?
いきなり銃口をつきつけるその高圧的な態度にむかついていたのですが、その後のやりとりで「ん?このおっサン少し面白いな」と思い直しかけていたのに……
シンナーで眠らせた?!!
やばい
やばい
やばいですぞ!←お前誰?笑
シーガ君のことは知っているようでしたが……
それと、混血のタースって、そういう立場だったんですね。
あらためて人種の差別化に腹が立ちます。
短編企画オオトリ
chachaさん、kazuさん、そしてらんららさん!!
何と豪華な~ウットリ
楽しみにしてますよん♪
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らんらら

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