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「想うものの欠片」第二話 ⑮

15


タースが目を覚ましたとき、相変わらず腕は縛られたままで、それでも一応、柔らかなベッドの上に横たわっていた。
スレイドが「保護」といっていた、あながち嘘でもないのかもしれない。


数回息を吐いて、手足を動かしてみてから、そっと起き上がる。


部屋はあまり広くないが、小さなテーブルと小さな本棚。素焼きレンガの床には鹿の毛皮が敷かれていて、テーブルのランプが揺れるたび、そのうねりの影も揺れた。
薄暗い部屋の隅には、小さなニッチが設けられていて、蝋燭が一つ灯されている。祈りの場所のようだ。それ以外には小さなバスルームが付いていた。


ここで、誰かが生活するための部屋。見上げると、窓は一つだけ。
高いところにあって、鉄の格子がはまっている。ちょうど月が見えた。
立ち上がって、窓を眺めた。
両手を伸ばしても、届かない。


「お月様にお祈りかい?」


びくっとする。
気付かなかった。
振り向くと、スレイドが手に飲み物の乗ったトレーを持って立っていた。
それをテーブルに置きながら、男はタースの隣に立った。ちょうど、男の胸くらいがタースの身長だ。


「ふん、お月さんがきれいだなぁ」
「月の光は癒しのアカリだ」
タースの言葉に、スレイドは肩をすくめた。
「シデイラの教えって奴かい。私は分からなくてね、皆そう言う類のことを言うが」
「皆?」


「シデイラたちさ。暗くてね、ボウヤはまともな方さ。目つきが悪くて、神だの大地だの、空だの海だのとうるさいんだ。シモエ教区に移されれば、文句も何もないだろうが」
「僕も、そこに連れて行かれるの?」
タースは傍らの男の腕に触れる。


「シデイラには楽園だろうさ。差別もなく、飢えもない。保護されて安らかに生きる」
「…希望もない自由もない、死に行くだけの楽園?」


スレイドは少年を見下ろした。
少年はうつむいていた。思いつめたような表情、長いまつげに涙が見えるのではないかと、男は想った。


「僕の生まれた場所だ。逃げてきたんだ、そこから」
「…そりゃまた、因果なことだな、ぼうや」


顔を上げた少年は、スレイドの腕にしがみ付いた。すがるように黒いコートの胸元を引く。


「いやだ、行きたくない!強引に捕まえて、連れて行って、閉じ込めるのが、あんたたちの保護なのか?」
「…そりゃ…」
言いよどんだスレイドの言葉を誰かがさえぎった。
「その通り」
開いた扉の外の明かりで、男の姿は逆光になっていた。


「おやおや、珍しい、シーガさま。あなたがこんなところに来るとはねぇ」
スレイドが大げさに肩をすくめた。
タースは顔をしかめた。


銀の髪の男が、腕を組んで立っていた。
「なんで、あんたがいるんだ!何しにきたんだよ!」
タースが怒鳴る。
「スレイド、お前は外にいなさい」
「へいへい、シーガさま」
タースは、スレイドの服を放そうとしない。
「スレイド、その後ろについているユルギア。過去に保護しようとして死なせた人が居るんだ」
「おいおい、ぼうや…」
強引に手を引き剥がすと、スレイドは肩を揺らして首をすくめた。


「誰だって、シモエ教区なんか行きたくない。それを強引に連れて行こうとしたんだろ?何人か、ここで祈りをささげたまま、亡くなったんだ。僕には見える。シーガ、あんたもだろ?だから、スレイドはユルギアを怖がってる」


「じょ、冗談はやめとけ、ぼうや。私にはこの護符が」
ポケットに手を突っ込む。
「これのこと?」
タースは縛られた両手でそれをひらひらさせて見せた。


「!お前いつの間に!」
タースはそれを目の前でびりびりと破った。
「ああああ!それ、マジで高かったんだぜ、おい、どうしてくれる」
少年に掴みかかろうとするスレイドを、シーガが足を伸ばして転ばせた。
ごつ、と鈍い音がした。


「で、いで、シーガ!てめえ、なにしやがる!」
口調が変わっている。
「子供にからかわれて、みっともない。子供の時間稼ぎに付き合う必要はない、お前は外に出ていなさい」
「く、畜生!」
鼻を押さえて、スレイドはどかどかと部屋を出て行った。


「さて、私より彼が居てくれたほうがまし、とでも思ったのですか」
「ああ、もちろん」
タースはにらみつけた。
「…、隠しているものを、出しなさい」
「なんのこと?」


シーガは縛られているタースの腕を掴んで、強引に手のひらを開かせた。
中から、扉の鍵が出てきた。


「雑種だけに、たくましいですね、しおらしいフリをしていても、本性は獣」
「あんたと一緒にするな!」
「ユルギアを見ることの出来ないものに、その存在を知らせるのはよくないですよ。スレイドはあれでも神経質です。当分、ユルギアのことが気になって眠れなくなるでしょう」
「護符を売りつけるくせに」
「あれは私の稼ぎになるわけではありません。この教会の資金になります。ひいてはあなたと同じシデイラたちのね」
「彼らは望んでない。あんただって、シデイラなんだろ?シモエ教区に閉じ込められるのが苦痛だってことくらい、分かるだろ?」


青年はうっすら笑った。
「私は特別ですから。そんなところに閉じ込められるわけではないので。分かりません」
「!なんだよ!特別って!!」
「まあまあ、そこに座りなさい」


タースは睨みつけたまま、シーガの指指したイスに座った。
シーガも座るのかと思っていたら、青年はタースの正面に立った。
見下ろしている。
タースは唇をかみ締めた。何が腹立たしいって、その見下ろした顔がひどく楽しそうだからだ。


「私は、シデイラの教えを受けずに育ちました。この教会でね。ですから、シデイラの人々の考え方は分かりません。我らはシデイラの人々を守るために保護する。それだけですよ。一生、日々の生活に困らないのですよ?君は懲りていないのですか」

「……何にだよ」
「自分の人生にです」

タースは唇をかんだ。


「幼い頃から、逃げ隠れて、まともな生活など出来なかったはずです。生きていくために何でもやってきたでしょう?それでも、やっぱり混血である事実は変わらない。いつまでも付きまといます。そろそろあきらめるころではありませんか?」
「……」
「あなたのご両親はどうでした?幸せな最期でしたか?」
「!」
タースは立ち上がりかけた。
大きな瞳でシーガをにらみつけた。


「もう、あきらめなさい。夢など、見るものではありません」
「……どうしても、僕を連れて行くのか?シモエ教区に?」
「ええ」
少年は、とん、とイスに座りなおした。
うつむいて、自分の手を見つめている。


「分かってくれましたか?まあ、雑種ですからねシモエ教区でも苦労するかもしれませんが」
その時、少年の手に、ぽたりと何かが落ちた。
しおらしくなったタースに目を細め、嬉しそうにシーガは近づく。
「望まなければ、苦しむこともありません」


タースは、ただただ、悲しかった。


すべてをあきらめる。
それは生きる理由を失うことのように感じた。
なぜ、そんな風になったのだろう。
ここから逃げても、新しい街にたどり着いても。
また一人だ。
分かっている、それでもあきらめきれずに生きてきたのに。
もう、終わりなのか。
希望を失って、ただ死を待つために生きることを思えば、ユルギアのように思い願い続けることのほうがどれだけ幸せか。
涙がこぼれた。

シーガが悪いわけではない。
両親が悪いわけでもない。

ただ、そのように生まれてしまった。
それが悲しかった。

理由などなかった。
他に何も浮かばなかった。

涙がコロンと膝に転がった。
それは、冷たく、きらりと光った。


「!それは!」
タースの涙が一粒、落ちた手のひらの中でルリアイに変わっていた。
驚いてそれを手に取るシーガを、タースは呆然と見ていた。
「ルリアイ……」
シーガはそう呟く少年を見た。


次へ(7/21公開予定♪)
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要さん♪

おお、描写を褒めていただくなんて~嬉しい♪
常々描写不足なので、何とかしたいなぁとお持っているのですが。特に心理描写が苦手。(普段何も考えていないからかしら…^^;)
はい、タース君、このままでは終わりませんよ!
シモエ教区はこの物語のキーポイントだったりしますので…でも、あまり近づきませんが(笑)
次回お楽しみに♪

教会に保護されたタースさんの様子が、この章では丁寧に描写されていると思いました。彼と話しているスレイドさんの言葉から、シディラ達と教区の宗教対立のようなものがあったのではないか、と思わされました。
そしてタースさんの許に、再びシーガさんが姿を現しましたね。相変わらず自分を雑種呼ばわりする彼を嫌悪するタースさん。果たして彼はこの後どのような行動を取るのか
次回の展開に期待します

楓さん♪

おお、週末にありがとう~!
はい、ルリアイ。ここにキテ役に立ってもらいます!
走れ!!(笑)

やばい

すっかり乗り遅れな楓ですはふぅ(涙
シーガ君、どこまでも毒舌…
タース君大丈夫でしょうか?
胃がやられてしまうのではないかと心配です(笑
このタース君の涙が、
今後シーガ君との旅を決定づけることになるのでしょうか?
続き、うpされている分に走ります!!

ユミさん♪

シーガ様…操っているのはらんらら…ふふふv-391
嫌な奴ですが、そう言う性格なんです(笑)
今後、すごい嫌われキャラになったらどうしよう~!
タース君。
彼がシモエ教区を嫌がるにはわけがあります。それはまた。後ほど~♪

う~ん

シーガ様は、シデイラの中でも特別なんですね。何が、シーガ様を
自由にさせているんだろう…?お義母さんの存在??
誰かに操られているのかな~?だから、あれだけ冷たくなれるとか?!
タースくん、本当に悲しかったんでしょうね。
タースくんの涙がルリアイに…。
シモエ教区へ連れて行かれないことを祈っています。

コメントありがとうです!

かいりさん♪
うふふ。ルリアイ、出ました!!
はい、いい勘です!さすがです!
これがないと、タース君は強制収容所的なシモエ教区へ送られちゃいます!
ふふ~スレイド。楽しいですね~書いていて。
一応、レギュラーですから、多少活躍もあるかも。


kazuさん♪
ありがとう!!
タース君の過去。いずれ、お話しますが。
彼が誰のせいでもなく、自分が生まれてきたから、なんて考えるのも理由があります…
今のこの、優しい性格も。
シーガ様の性格の悪さが際立ち始めますが…
続きをお楽しみに~♪

こんばんは♪

らんららさん、こんばんは☆
シーガ様再登場v-10、なんて前回喜んでいたら・・・
タース君、なんて不憫な・・・
ホント、かいりさんも書いておられますが、掴みかかっていくかと思ったら、涙を流して・・・
タース君は、シモエ教区から逃げ出してきたんですね。
そして、転々としながら見つからないように生きてきた。
どこに行っても一人きりで・・・

切ない・・・
でも、シデイラとして生まれてきた悔しさややるせなさを、両親に押し付けないその純粋さが、とても可愛いです。

そんなタース君の涙が、ルリアイとなって手のひらに残った。
シーガ様もびっくりで・・・

うぅ、続きを待つのです!!

ルリアイー!!?

た、タース君の涙がルリアイに!?
すごい!タース君!そりゃシーガ様もびっくりですよね!!
でも、タース君もっとシーガ様に掴みかかっていくと思っていた分、その目の前で泣く姿が痛々しくて…(涙)
何か、このルリアイによってタース君がシモエ教区に行かなくて済むなんてことあったらいいなと思います><!

しかしスレイド、どうも憎めない人ですね(笑)
ちょっと可愛いとか思ってしまいました^^
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