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「想うものの欠片」第三話 ③



「我らミーア派も、お前をシモエ教区に送らないのであれば、正式な保護証明書を作成できませんし、知っていると答えるわけにもいきませんのでね。お前は我らの手から逃げ出した逃亡者ということになっています」


「……あ、そう」


スプーンをカチャと置くと、タースはデザートの小さなタルトをむずっと手で掴んで口に突っ込んだ。もくもくと食べる。シーガに対する反抗も含まれるが、その態度は逆に青年を喜ばせたらしい。

ただ、だまってタースを眺めている。


「ちぇ」


指先についたクリームをなめながら、小さくため息をついた。


みんなに迷惑がかかったんだ。ライラにも、職場のみんなにも。大丈夫だろうか。関らなければよかったと、親方は思っただろうか。


タースは味気ないデザートをジュースで流し込んだ。


「くく、これから行くティエンザ王国でも、教会が君を狙っていますからね。ティエンザの圧力で公国が君を売った、というのが真実でしょうね」


「なんだよそれ」


さすがに黙っていられなくなった。


「ティエンザ王国は今や、かの国の大司祭ガネルの言うがままですから。ガネルはロロテス派の急進勢力。ロロテス派は同じ神を崇めないシデイラを異教徒として抹殺するべきだ、と主張しています。だとすれば、混血などもってのほかでしょう?」
「…馬鹿じゃないか、それ」


ケガラワシイ混血、在ってはならぬもの、シモエ教区でも同じことを言われていた。こちらの教会でも同じことを言うんだろう。


「現在シモエ教区は我がライトール公国のミーア派が管理しています。ゆえに、大陸中何処でも、保護されたシデイラはわれ等がシモエ教区へ送る。

権利というほどではありませんが、それを、ティエンザ王国のロロテス派は欲しています。シモエ教区は確かにかの国とも隣接していますしね。あながち無謀な申し出でもない。

彼らロロテス派がシモエ教区を管理することになったら、それこそ、シデイラたちは監獄と同じ生活になるでしょう」


「勝手にすればいいんだ。あんなとこ、無くなったってかまわない」


タースは水を一気に飲み干した。乱暴にグラスを置く音がテーブルに響いた。シーガはピクリと眉をひそめた。


「かつて、シデイラが虐げられた時代がありました。帝国の設立後二百年間」


少年は手を止めた。表情が厳しくなる。


「……知ってる」


自然信仰を主とするシデイラの民族は、レスカリア帝国が誕生したとき、全世界を敵に回したのだ。


当時のレスカリア帝国は絶大な力を持ち、まだ統一されたばかりのライトール公国も、当時まだ自治区に過ぎなかったティエンザも、帝国の言うがままだった。
山岳地帯に住んでいたシデイラの民は、まるで獣か何かのように狩の対象になった。


その虐殺は帝国の皇帝が逝去するまで続いた。


そして、唐突に終わった。


おかしな話だが、二百年、その皇帝の代が続いていた。その内情は分からない。どの文献を見ても、皇帝が亡くなって代替わりしたことで殺戮は終わったと、それだけが残されている。

現在では、それは象徴的な表現であって、実際は二百年の間に数人の皇帝が帝位を継ぎ、同じことを繰り返していたのだと片付けられている。


そう、二百年も一人の皇帝が生きているはずはなかった。

その後のレスカリアの皇帝は、シデイラ民族を保護するよう教会に指示していた。

もちろん、虐げられてきたシデイラの民は、当然彼ら以外の民族を敵視した。保護とはいえ、強硬手段をとらざるを得ないのが実情だった。それから三百年近く。

結局シデイラの民は絶滅に瀕した少数民族で、他の民族にとって軽蔑する存在である意識は変わらない。

ミーア派は保護を始めた当初から存在する歴史ある宗派だ。


近年の教会はいくつかの派閥に別れ、最も新しいロロテス派はかつての神の威厳を取り戻す、という大儀を掲げ、「神代復興」と称して厳しい戒律と他宗派への圧力を強めていた。


少年のため息に、くく、と小さな笑い声が混じる。
顔を上げれば予想通り、シーガは嬉しそうに笑っている。


「シデイラが追われるなら、あんただって同じだろ?」
「いいえ。私はミーア派ですが、異教徒ではありません。ここで、育ったのですから」
「でも、シデイラだろ?」
「私にはミーア派の保護がありますから。それに、いざとなったら、お前を引き渡すことで私は身の安全を図ります」
「!!なんだよ!それ!」
「一緒に来たいと言ったのはお前ですよ?自分を呪うのですね。捕まったらどうなるんでしょうね。よくて幽閉、悪くて、処刑。今からでもシモエ教区に隠れますか?」


気を落ち着けようと、タースはぎゅっと目を閉じた。
シモエ教区に戻ることは出来ない。



あの、凍てつく雪原。
十年前の事件のことは、シーガは知らないのだろうか。


許さない。ユルサナイ。


どこからかまた、声が聞こえる。
頬をなぶる冷気、雪に埋もれる鉄条網。
声だけはいつまでも追いかけてきた。
もう直ぐ五歳になる、という時だった……。


「泣かないのですか?」
「!?」


気付くと、近くにシーガが立っていて、少年の顔を覗き込んでいた。


「!あんた、わざと!」
「なかなか、しぶといですね。随分冷たい思念が漂ったのに。……残念です」
泣かせるつもりだ、そうして、ルリアイを作らせるつもりだ!
「この!」


シーガはシデイラ。人の考えることは分からないが、そこから切り離された強い思念を読み取る力があるのかもしれない。そんなことより。


人の心が傷つくのを楽しんでいる、その笑みが気に入らない!


立ち上がって殴りかかった腕を、後ろからつかまれた。


「その辺にしておいてくださいよ、シーガさま。見ていてこっちが胸糞悪くなりますぜ」


スレイドだった。


彼は訓練されているのか、気配を消して近づいてくる。
いつの間にか、背後にいたのだ。
得体は知れないが、それでもシーガよりはずっと人間らしい。


「ほら、ボウヤ、落ち着け。どこまでが本当か怪しいもんさ」

低い声でタースに耳打ちするスレイドに、腕をつかまれたまま引きずられるように引き離された。


シーガは翡翠色の瞳で二人をじっと見詰める。


「スレイド、珍しくお気に入りですか、雑種が?」


「その言葉そのまま、お返しできそうですが?シーガ様」


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松果さん♪

ありがとうございます!!
ドSです、はい…。描いていると案外楽しいキャラです(私もS?^^;)
世界観、いやぁ。そんなことないです。
架空世界の歴史を描くのは書きやすいですけど、そこにある「ユルギア」とかの不可思議なものを生かすのが苦手で…。自然な形で、わかりやすく、と思うんですけど。
これからしばらくタース君は大変そうですが。
ヨロシクお付き合いください♪

むわ~

シ、シーガ様のドS~!雑種いうなコラ!
スレイドさんのいい人っぷりがはっきり出てきましたね。大人だわい。

それにしても世界観がしっかりしてるなぁ。拙作なんて、微妙に古い現実の舞台を借りながら、だからって歴史ファンタジーというわけでもなく…「逃げてる」部分が多いですもん。

ではまた…らんららさんの作品世界にどっぷり浸りにきまーす。

要さん♪

おお!10年前の事件に目を向けてくださいました!?嬉しい~♪この一話に歴史を詰め込んだので微妙にスルー状態だったのだけど。
ふふ。
らんららにしては珍しく、過去にさかのぼって書きますよ♪(実は時間系列を乱すの好きじゃなくて…^^;)タース君にとってはかなり重要ですから♪

ルリアイを作り出そうと思い、タースさんに酷い言葉や悪口を投げかけるシーガさん。彼はなかなか、策士な性格の持ち主だと思いました。
仲良くなりかけていたシーガさんとタースさん達ですが、ここでまた互いの嫌悪感を募らせ始めましたね。そしてタースさんが思い出した10年前の事件とは一体どのような事件なのか
次回の展開に期待します

しろうそさん

ありがとうございます♪
ごめんなさい、一気にたくさん盛り込みすぎました…へたくそなんです、情報の与え方の配分が…(^^;)
でも、大丈夫。
今回の情報は、おいおいどこかで生きてきますので、何度も同じことを、言葉を変えてお話しすることになると思いますよ。その時に、ああ、そういえば、って思ってもらえたらそれでいいんです。
歴史の勉強、らんららも大の苦手でしたから。
わかりますよ♪
スレイドに様がつきました!!喜んでおります♪
せっかく人気が出たから、そのうち、彼のイラストでもアップしますか!

かいりさん♪

ありがとうございます~♪
シーガ様、黒いです(笑)オトナですから♪タース君のような素直な子はあんまりいないんですねぇ。
他に子供のいない環境で育っているので、かなりひねくれました(笑)
ふつう、タース君の生い立ちのほうがひねくれますが。
二人の関係はだんだんと…ふふふ~♪お楽しみに♪

私の頭では…

1度読みでは上手く頭がつていっていないアホなしろうそです。
…ごめんなさい!!
でもちゃんとした世界が成り立っていて、さすがだなぁって感心しましたv
私のなんてへっぽこぺー…(笑

スレイド様ー!!
もう様付けで呼ばせてください、なんですかあの格好いい登場は!!素敵すぎてもうニヤニヤしている危ない青春時代を過ごすシロウソです。

また何度も何度もよんで、必死にないようについていけるようにしたいかぎりですv

ではでは失礼させていただきますねぇ

ふわぁ!

世界観が本当にしっかりされていて、らんららさんを改めて尊敬いたしました*><*!!
宗教って難しいですよね。本当に…。

そしてシーガ様、いつに増してタース君を苛めてるなと思ったらルリアイが目的だったのですね!黒っ!(笑)
スレイドさん登場でなんだかホっといたしました^^;
でもでもスレイドさんの最後のセリフは気になりますね!
シーガ様ったらタース君のことお気に入り!?(わくわく)
続きも楽しみにしています^^♪

コメントありがとう!!!

chachaさん♪
おお!お褒めの言葉(=^v^=)アリガトウです!
国の歴史…いずれ、この物語は規模を大きくしていくので…必要なのです。上手く表現できるか不安。これから、少しずつ、歴史の理由と、今の世界の現状を表現していかなきゃいけなくて。そこに彼らが関っていく…う~ん、がんばります!!
ふふ、(むきー!が可愛い♪ってばchachaさん!)シーガくん、(お、chachaさんは君付けですね♪)彼にも理由はあります。性格が悪いのは仕方ないですが(笑)スレイドさん、人気ですね♪楽しみにしててくださいね~♪

ユミさん♪

おお!三回も!?ありがとうございます!
ちょっと、ここ、要素をたくさん入れすぎちゃったと、反省しつつ。でも大丈夫、また、必要なときに繰り返し、お伝えしますよ♪さらっと、頭の片隅に印象だけ残してくれれば。
帝国とシデイラの歴史。
現在のティエンザ王国とライトール公国との関係。
ミーア派とロロテス派の関係。
だんだんと、物語に影響してきますので、嫌でも…(笑)
そうですね…シデイラが虐げられたのにも、理由はあるのです。その謎が解けたら、この物語はエンディングとなりますので(いつになることやらですが^^;)
お付き合いくださいね♪
ふふ、そうです。スレイドから見れば、シーガはタースをからかっているようにしか見えないわけです。タース君にしたら、いいメイワクです(笑)
四人のバランス。はい。楽しいものにしていきたいですよ!


kazuさん♪
ありがとうございます!
そうですね。らんららも物語の世界を作るときにどうしても宗教は何かしら関係させてしまいます。宗教の生まれなかった国はないですから。
人の心の生み出すものだからこそ、様々な醜い歴史を残していますよね…でもその、人間臭さがまた、興味深かったりして。
ふふ、シーガさま(おお。kazuさんはまだ様付けしてくれています♪はい、みんな呼び捨てに変わりつつあります…笑)酷い性格なんです♪簡単に言うと。かなりのSなわけで。
タース君みたいな子は格好の遊び相手…!?

史間さん♪
お、いいところに目をつけてくださって♪さすが歴史好き!!はい。ミステリーです♪
いずれ、物語のエンディングでわかる、謎なんです♪シーガ様の(あ!史間さんも様づけだ♪)正体も…。
そう、ルリアイに必死なのも、その辺に理由が。
うむ。いずれ、わかりやすく、きっちり描きます♪うし!力がわきます!!
うふふ。シーガ様の冗談(?)ばれました?
さすが、風尹さんを生み出す史間さん!
そう、いじめて楽しい雑種なワンコ、手元に置きたい~(ぷふ、わかってくれます?シーガ様の心理♪)

謎の歴史に

どきどきです><
2百年も一人の皇帝が治めていた世界って、ミステリーですね!真実が気になります!

シーガ様、ルリアイに必死だ(笑)
こちらも、そんなに固執する理由が知りたいですね。気になるところです。

そんななかで、スレイドさんがミキー以上の潤滑油に^^
シーガ様ともいいコンビで、楽しい旅ができそうです!

それに、なんだかんだいって、ルリアイが欲しいからタースくんを渡すなんてこと、しませんよ、シーガ様は♪
ああ、私も混ざってタースくんをいじめたい(←コラ
だって、犬みたいでかわいいんだもの~

おはようございます!!

シデイラの民たちの、残酷な過去。
国を統一し安定させていく為には、宗教は欠かせない存在で。
その中で、違う信仰を持ち、ユルギアを見ることができるシデイラが邪魔だった。
虐殺がなくなっても、保護という名目で、強制的に集められ虐げられている。
宗教は、人の心が介在するから、難しい問題ですよね。
本と、ほっといてくれるだけでもいいのに・・・;;

シーガ様の冷たい言葉や酷い話は、ルリアイを生み出させるためだったんですね。
・・・シーガ様にもいろいろな事情があるとは思うけれど。
でも、酷い><
タースくん、絶対傷ついたぞ!
シーガ様!

スレイドさんの存在、ホントいいですね。
いて欲しい、ずっと一緒に。
続き楽しみにしています♪

三度

朝読んで、昼読んで、いま読みました^^
だんだん話が難しくなってきたので、しつこいほど繰り返し読んで
しまったのです(笑)

シデイラたちは保護されることによっていい方向に向かったわけじゃ
ないのに、敢えて保護なんですよね。でも結局は、軽蔑されてる。
ムゴイ…。
相容れなくてもいいから、せめて放っておいてくれたら…。
違う人種もいるんだ。考えや信仰が違う人と共存していく上手い
術を知っていたらいいのになぁと思ってしまいます。

シーガもスレイドさんも、タース君のことお気に入りなんだ♪
今の3人(いや、ミキーちゃんも入れて4人かな)の絶妙なバランス!
誰かが一歩でも動いたら、何かが崩れそうな…。
ドッキドキです^^

まず・・・

なんとも感服いたしました><
いや~背景がしっかりと構成されていることを、改めて思い知らされたというか・・・いやはや、頭が上がりません^^;
宗派がいろいろとあって、教えも信じるものも違えばいさかいは起こるもの。
自分の信じるものが正しいと思うもの同士がぶつかりあって、結局、力の弱い者たちが巻き込まれて。
ひどい話ですが、現実世界でもありますよね><

シーガくん、わざとタースを泣かそうとして!むきー!(怒)
今はむかむかするけれど、シーガくんだって色んな事情を抱えているんだろうなぁと、ふと思ったりしました。
スレイドさん、やっぱりあなたは素敵です☆
今きっと一番好きなキャラかもしれない♪^^
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