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「想うものの欠片」第三話 ④




黙ったままの少年に、スレイドは数回首をかしげて言った。
「大丈夫かい?」


優しい言葉で思わず目が潤みそうになる。
でも、それもルリアイのためかもしれない。そう思ってタースは何度も瞬きした。


「なんていうか、ボウヤ、希に見る素直さだな。顔に全部出るから、からかわれるんだぜ?」


「……僕が指名手配中って、本当?」
「ん?いやぁ、そんなことはないさ。本当にそうだったら、ここがまずいことになるってもんだ」


視線をそらすスレイドに、少年は目を細めた。
嘘?


「まずいことになるのに、匿ってくれているの?」


「あー、かもしれん、けど、感謝なんかしないほうがいいぜ。ほら、あいつらはろくな性格じゃない。過剰サービスの裏には罠がある、無料ほど怖いものはないってね」


スレイドの言葉も、かなり怪しい。そんなことをいいつつ、スレイドは彼らに従っている。


何が、自分にとっていいことなのか、本当のことなのか、分からなくなりつつあった。


シーガはああして意地悪なことはするが、食事もきちんと出してくれる。一緒に食事をするって言うことはスレイドや他の人たちのような使用人ではないという扱いだ。

代わりに何か仕事をしようと申し出たときには馬鹿にしたように笑われて。結局何もしないまま、ただ、のんびりしている。

毎日、とにかく食べるだけで精一杯だった時もあった。市場や漁師、商人、工場、いろいろなところで働いてきた。たとえ三日間でも、働かずに食べて寝る、その生活は奇妙に思えて落ち着かなかった。



二階にある食堂から広い階段を下りていく。

一階の礼拝堂と講堂を左に見ながら中庭を望む回廊をスレイドについて歩く。言葉少ない彼は、少年の気持ちを図ってくれているのか。今は数歩離れた位置を保っていた。


背の高いスレイドの、黒い髪が風に揺れる。
それは、少し父親を思い出させた。
父親も、ライトール人だった。


風雨にさらされた回廊の床は、鈍い乳白色をしている。大理石で作られたモザイクは緋色と緑石を織り交ぜて美しい幾何学模様を織り成している。所々欠け、真ん中は人々の足跡のように緩やかに凹んでいる。


円柱と円柱を結ぶアーチは優美な彫刻で飾られ、経年による静かな色合いが無色のステンドグラスを際立たせている。そこを通り抜けることで陽光は荘厳さを帯びる。


長い歴史を誇るライトール公国は、今や工業国家としての名を上げているティエンザ王国に経済的には押され気味だ。それに負けまいと首都ライト公領は近代化が進んでいるが、こういった郊外の歴史ある建築物を見ると近代化=力という等式は空虚なものに思える。


古いものの持つ歴史の重み、成り立ち、関わった人々の想い、それを調べるのが好きだった。建築の歴史。タースがもっとも興味を持ったものだ。


この旧聖堂、ラミアカレス・ラキンは、図書館でもみたことのある有名な建築物だ。実際に目にしてみてその美しさと技に感心し、傷んだまま放置されている部分には逆にそれを維持できないでいる教会という組織に失望させられた。


スレイドの後に付いて中庭を横切ると、そのまま裏庭に抜けた。そこにはミキーが待っていた。小さな黒い馬車の前に立つ、真っ白なワンピースの少女は、日差しの中、緑の芝生に映えた。


自然と、鼓動が早くなる。


タースを見て笑顔を作る。その変化がまた、少年の心を躍らせた。
シーガとのやり取りの為にささくれ立った気分など、拭い去ってくれる。


「?そういえば、ミキーはどうしてユルギアが見えるんだ?」
ふと、口をついて出た言葉に、スレイドが振り返った。
「そりゃ、ボウヤ…」
「タース!旅のご用意をしていましたの!見てみて、このお洋服!素敵でしょ?このリボンはミキーからプレゼントですの!」


見せたくて仕方なかったのか、くるりと可愛らしいワンピースをみせびらかすと、抱きつかんばかりの勢いでかけてきて少年の目の前に黒い蝶ネクタイを掲げる。
よくよく見ると、それはレースで出来ていて、どちらかといえば、少女に似合うべきものだ。


「あ、ありがとう」
「これ、付けてください!」


首にすがりつく少女にドキドキしながら、タースはされるがままだ。
少女の肩越しに大きなトランクが三つ見える。その上にそれぞれ帽子と、コート。

本当に、出かけるんだ。
タースはもう一度馬車のほうを向く。小さな二人乗りの馬車。黒塗りの鉄製の車輪と車体を持つそれは、最新のバネが衝撃を抑え、かなり乗り心地のよいものに見えた。大きさの割りに手の込んだ、贅沢なつくりといえた。
御者台は黒い客車部分の前にあり、木で出来た座席部分の両脇を鉄の優雅な曲線の手すりで挟んだ格好になっている。
そこが、自分の場所になるんだ。

不思議な、感覚だった。

親方に初めて仕事を一つ任せてもらったときのような、高揚感。
誰かに必要とされるのは、悪くないとその時思った。

それが、例えシーガ相手でも。与えられたものに相当するだけの労力は提供するべきだと素直に考えてしまう、それはタースの性分だ。
やるべきことを果たさずして、シーガに食って掛かることは出来ない。今のところ、食べさせてもらっている立場だ。


「やっぱり似合いますの!」


気付くと襟元に黒い蝶ネクタイをつけられている。まるで、そう、ミキーにとっては楽しい着せ替え人形なのだ。
そうは思っても、ミキーがニコニコしているので、まあ、いいかと少年は照れる。


それを呆れて見つめながら、スレイドは小さくため息をついた。


「スレイドも一緒なのか?」
尋ねる少年に男はふふんと笑って見せた。
「笑えない冗談だねぇ。この二人とユルギア退治、どんな物好きだってお断りってもんさ!ああ、恐ろしい、恐ろしい」


スレイドは左腕で右のわき腹を押さえるようにしてかがむと、右手で左肩、右肩、最後に額と順に中指で触れる。
聖三角をかたどった祈りのポーズをして見せた。


「あ、ごめん、この間護符を破ったから?」
「ん?ああーこれかい?」


スレイドがポケットから赤い文字の細い紙を引っ張り出した。この間はひどく大切そうに扱っていたのに今日はやけにぞんざいだ。


「真似して書いてみたぜ!見てみろ、これ、五百で売れるよ、いい出来さ。ユルギアも真っ青てな」
「ぶ」
真剣に言うスレイドに、少年は笑顔になる。


背後から、コートを着た青年が現れた。
彼の周りだけ空気の温度が二度ほど低いように思える。
夏の日陰のように静まっている。黒い裾の長い上着を涼しげに着ているからだろう。

「いい副業を思いついたようですねスレイド。それなら、いつ解雇されても心配は要りませんね」
「ユルギア退治よりはましってもんです」
シーガとスレイドは軽く視線を交わす。冗談なのかなんなのか、この二人の間にはいつもこういった言葉が交わされる。
「退治ではありません、調査ですよ。さ、行きましょう、ミキー。雑種も、……ぷ」


少年の蝶ネクタイに気付いて変な顔をしたシーガに、ミキーは嬉しそうに近寄って、同じ顔をしてみせる。その仕草にタースが笑った。


まだ、分からない。
何が本当で、何を選ぶべきなのか。
それでも、今は付いていくしかない。


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ぬこ&えふぃさん♪

アリガトウです!
スレイドさん、そうなんです~人気だったので。
レギュラーに昇格させちゃった!またいずれ、お目にかかります♪
ミキー!いいです。そのうち逆転して、タースのおもちゃに…(いえいえv-12

スレイドのイメージがかなりいい奴っぽくなってきました。
シーガと並べと際立ちますね。
ミキーにおもちゃにされるタースが微笑ましいなー。

要さん♪

けなげでしょ~?うふふ。
タース君、だんだんと巻き込まれますが…とりあえず今は目の前の二人。怪しい二人組み(笑)とどうつきあうか、ですね♪楽しみにしてください!
なかなか、遊びにいけなくてごめんなさい(><)時間が取れなくて実はコピペさせてもらってプリントアウトして職場で読んでいたりします…この間仕事の資料の間からそれがチラッと出てきて蒼白(^^;)
そんなバカな奴です~

シーガさんの策略を知ったタースさんは、ルリアイの為にと涙をこらえていましたね。彼の健気な努力を感じる事が出来ました。タースさんは、指名手配されている自分の素性を隠すようにして、旅立とうとしていますね。
そして、ここでミキーさんが何故、ユルギアを見ることが出来るのかと言う謎も浮かび上がってきましたね。ミキーさんはまだまだ、謎多き少女であると思いました。
果たしてこの後タースさんをどのような運命が待ち受けているのか
次回の展開に期待します

楓さん♪

おかえりなさい♪
暗中模索、でしょ?
ふふ、これはしばらく続きます!
なんていっても、国が…いやいや、むぐむぐ…

こんにちわ

さ。
今日からブログ徘徊を再開なのです!!
で……ああ、既にみなさん突っ込まれている……
シーガの含み笑いにこっちが笑いました。
そうか、シーガもそういう反応するんですねぇ。
周りの温度が二度ほど低い……
おおう(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
未だ暗中模索中のタース君。
その気持ち、分かるよ!

コメントありがとうございます♪

chachaさん♪
ふふ、あんまり嫌われても可哀相なので♪作者より愛の手?
そうです!いよいよ、旅のはじまり♪ふふふ…三人の関係も刻々と変化させていくつもりですので…がんばります♪


花さん♪
ふふ、タース君。ミキーちゃんに気付きません。鈍感です(笑)
シーガ様、ふふ、そうですね~いい人では、ありませんね。
これから、だんだんと、主人公らしきところを見せてもらわないといけないですが(これでも一応、ね…)
スレイドさんも、一旦はお別れですが。人気なので復活予定(笑)
おお?あのイラスト、気付いてくださっていたんですね?でもあの絵はフリフリじゃないですね♪別で書きかけたのだけど、下書きで断念。


ユミさん♪
ふふ、分からないでしょ?うん、いろいろとね。タース君個人の問題だけじゃないんですよ、コレ。ちょっと、今回は難しいお話になるかもです。
タース君、几帳面というか、生真面目というか。人に甘えることの出来ない、ある意味寂しい性格でもあります。
シーガも、たまには、笑わせてあげることにしました。
これから、だんだんと、シーガとタースの関係も変えていく予定ですので♪
お楽しみに~♪


かいりさん♪
ふふ、ミキーちゃんとスレイドさんがこの物語を明るくしてくれています♪タース君とシーガさまだけでは、成り立ちません♪
はい、だんだんと、いい感じになっていくと思います♪
スレイドさん、いずれまた、出します!あまりに人気なので、ちょっと重要な奴にしてみようかとプロット検討中(今更ですが^^)

おっと?

なんだか良い雰囲気な気がします^^♪
前回ハラハラしたからかな?
それとも…やはりミキーちゃんが登場したからかもしれませんね^^
癒しキャラだよミキーちゃん!!
これからの旅、シーガ様とタース君をよろしくね><;!!

そしてスレイドさんはやっぱり良いキャラです^^
面白い♪本当に一緒に旅についてきてくれたらいいのに~!
いよいよ旅立ちの時ですね!
続きも楽しみにしています^^

うわ~、わたしもどこからどこまでが本当なのか、まったく分かりません!!
どの関係もとっても微妙なんですもの~><
タースくんって、本当に苦労してきたんですね。誰かに必要とされて、
その人がどんな人であろうと(えぇ、シーガ様でも^^;)労力で返す。
そうじゃなきゃ、自分の主張はできない。大人だ~。
シーガ様!そこのところ見込んでますか??

ミキーちゃんの洋服選びは相変わらず可愛いですね♪
それを見た、シーガの「ぷ」に、わたしが「ぷ」です(笑)

随分オヒサになってしまいましたが…ふふ、タース君、好きw
とっても素直だし、純情だし、一途だし。いつになったらミキーちゃんの秘密に気付くのかしら?シーガさん、そんなにイジメないであげて!そこはスレイドさん、出来る限りお願いしますよ!頼れるお兄ちゃん肌なんだから!(笑
ていうか…ゴメンなさい、個人的に『雑種』とか『混血』とか言う人、花嫌いです。たとえ冗談でも。なので、これからシーガさんに関する風当たりが強くなるでしょうが、ご容赦下さい。
そういえばプロフィールに載っていたシーガ×ミキー×タースの絵、消されてしまったんですね。フリフリ衣装のタース君見たかったのに…><

うは☆

シーガくんが・・・本気笑い??(笑)
微かにですが、いつものイジワル笑いとか皮肉笑いとは違う「ぷ」って!!ちょっと可愛かったのです^^(タースには悪いけれど笑
ミキーはねぇ~悪気はないから仕方ないけど、うーん。タースはいいようにされちゃってるなぁ。好きな女の子には甘いというか優しいというか^^でも、そういった殿方は嫌いじゃないです♪ふふ☆

いよいよ!旅が始まるんですね^^
どんな旅になるのか、今からわくわくですよ~♪
スレイドさんもついてくればいいのに(笑)
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