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「想うものの欠片」第三話 ⑤




目立たないようにとの配慮か、タースには帽子が渡された。

紹介された白い馬は鼻をひくひくさせてタースを出迎えた。名をリロイといった。
ぶるると、歯をむき出して笑うようにして鼻面をタースに摺り寄せた。
初めて間近でみる馬は大きくて、ちょっと驚いたが、人懐こい馬でタースを安心させた。


そして何より少年を喜ばせたのは、馬にまたがって、今か今かと待っている初老の男性のユルギア。黒い服を着た小柄な人物だ。以前、この馬車を見かけたときには御者席に座っていた。多分普通の人には見えないのだろうが、彼が帽子を取って挨拶をしたので、タースもよろしくと笑った。


馬が連れて行ってくれる、そういうことだ。
その馬には、馬を愛するご主人のユルギアが乗っている。
タースは安心して、御者台に座った。


シーガが馬上のユルギアに何か小さく話したようで、タースの耳元をかすかな声がかすめ、振り向いたときには馬が走り出していた。


馬車は心地よい林の中を駆け抜け、タースはすっかり嬉しくなっていた。こんな気分で馬車に乗るなんて、思ってもみなかった。澄んだ空気。空は快晴で、風が心地よい。
昼前の日差しに、少し目を細め、少年は深く息を吸った。


道はいつの間にか石畳に変わっていた。
土がむき出しの道よりは埃が立たないので少しは楽だ。周りは小さな家が並ぶ村のようだ。馬車が珍しいのか、子供たちがこちらに笑って手を振っている。
思わず手を振り返そうとして、背後のシーガの視線を感じて、やめた。


小さな村だ。
石造りの平屋建ての小さな家が、同じような形で並んでいる。家並みがなくなると、あたりは一面麦畑だ。さわ、とまだ緑の穂がいっせいに風に揺れ、心地よい音に少年は目を細めた。のどかな風景。


小さな川にかかった橋に差し掛かる。橋からちょうど家一軒分低く作られた水車小屋があり、ぎしぎしと水車をゆっくり廻しながら、麦の粉を挽いている。水は澄んでいて、きらきらと日差しをきらめかせた。
道はだんだんと広くなる。


村を過ぎて、見かける家もまばらになったころ、左に見えていた林は深くなり、道がついにその中に入っていく。木漏れ日に身を晒しながら、タースは馬の背に揺れるそれを楽しそうに見つめた。
馬がしなやかな筋肉を動かすたびに、流れている木漏れ日もゆらりとする。
自分の手にも、足にも、暗い森を透かす頼りなく美しい光が注ぐ。


シデイラの教えは、硬いものではない。
こうした自然を楽しむ心。慈しむ心。愛する気持ち。自らを中心にではなく、世界のすべてが中心であり、その中に人が小さくたって居る。
この世の自然の営みに人は従い、悟り、成長する。


今の教会の教える唯一神の存在は、人のためでしかない。人のために神がいて、人は自らのために祈る。それとはまったく違う。
遠く、どこかの教会の鐘にタースは眉をひそめ、心地よい森の空気に浸っていた気分を揺り起こされた。


眠っていたのかもしれない。
いつの間にか、森はなくて、目の前には街が見えた。そこそこの規模らしい。すれ違う馬車、街角の人々。活気がある。


タースの座る御者台の背後には、身を乗り出せば肩くらいまでは出せそうな四角い窓があり、中が見える。窓には硝子がはまっている。引き戸になっているのだ。それがすっと開いた。
少年は気付かずに心地よさげに口笛を吹く。


「うるさいです」
突然の声にびくっとして、振り向くと、青年が小窓から手を伸ばし、タースの額に手を当てた。
「な、何?」
「……ミキー、薬を」
「何だよ!」


シーガの後ろで、心配そうにミキーも両手を胸の前で握り締めている。
「なんだよ、僕、別にどこも悪くないよ?すごくいい気分だ」
「タース、これ、飲むですの」
ミキーが小さな硝子のビンに入った飲み物をくれた。
「何の薬?」
くん、と匂いをかぐと、オレンジのような香りがした。喉が渇いていたので一気に飲んだ。
「ん、なんか酸っぱい」


「すみませんの、ミキーのお熱に効くんですの」
「え?」
少女はこくりと頷いた。
柑橘系の香りがしたその水は、直ぐに染み渡ってまた、飲みたくなる。内容なんかどうでもよくなった。
「ね、ミキー、もういっぱい、もらいたいな」
「はい」


嬉しそうに空き瓶を受け取って、少女は自分の席の脇にある荷物から新しいものを取り出そうとした。窓から差し込む日差しにミキーの髪がきらりと揺れる。
見とれる。


「タース、だめです。飲みすぎると腹を下します」
「え?」
シーガだった。
「足手まといは困ります」
読んでいたのだろう、小さな本を膝に置き、シーガは足を組んでちらりとタースを睨んだ。

タースは笑った。
「ありがとう」


青年は本当に驚いたように目を丸くして、少年を見つめた。

「なに?」
「……お前は、人を嫌うということをしないのですか」
目を丸くするのはタースの番だった。


「嫌われたいの?そりゃ、腹は立つし、あんたのこと好きじゃないけど。でも親切にされたら感謝するのが当然だろ」
シーガは表情をなくして、再び自分の座席に深く腰を据えた。

「なんだよ?気持ち悪いな、何かおかしいかな」
「いいえ、やはり雑種は理解できませんね。それとも熱で頭の中身がおかしくなったのか」
「熱?ないよ、別に、気分悪くないから!」


そういえば、スレイドも何か言っていた。
熱?


「はい、お薬ですの」
シーガの話を聞いていなかったのか、ミキーは新しいビンをタースに手渡した。
「え、ああ」
気分が悪いどころか、かいがいしく世話をしてくれるミキーを見ると嬉しくて仕方ないのに。
これから、一緒なのだ。
会いたくて図書館に通ったことを思えば、今の方が幸せに感じた。


セルパ親方のそばにいれば迷惑がかかることは必至、どうせ離れなければならないのであればこの状況は最良に思えた。選べる選択肢はないに等しかったけれど。
シーガの態度は気になるけれど、タースは現状に満足していた。


「飲まないですの?」
大きな夕日色の瞳に見つめられて、タースは我に返る。
手に持った飲み物をじっと見る。
よくないとシーガに言われたけれど、ひどく喉が渇いていた。
のどが鳴る。
「お前、気付いていないのですか?それに何か感じませんか?」
シーガに言われ、タースは手に持ったビンを見つめた。


「違いますよ!そのミキーの手です」
「あ?」
いつの間にか自分の腕にミキーの手がちょこんと乗っている。
柔らかな手。可愛らしく、長い袖から三本の指先だけが出ている。自然、頬が緩む。


「え?」


よくよく見ると、爪がない。
そっと、握ってみる。
「うふ?」
少女はにこりとした。
「え?」
手はふにゃりと柔らかい。滑らかな絹、中身は綿のようだ。


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要さん♪

ありがとうございます!
異民族的雰囲気♪うれしい~そういっていただけると♪宗教観って表現するの難しいですよね…民族の問題はこれからいろいろと影響しますので、がんばって描いていきます♪
ふふ、ミキーの正体…。それを知ってタースはどうする?…お楽しみに♪

旅立ったタースさん達の様子と、周りの風景が丁寧に重なり合い描写された章だと思いました。この章で、シディラ達の信仰形態も明らかになりましたね。自然を愛する彼らの宗教は、まさに異民族的雰囲気でよい感じですね。
そしてタースさんは、ミキーさんの正体に気づきましたね。
果たしてミキーさんの正体とは何なのか
次回の展開に期待します

楓さん♪

おお、描写…(やっぱり苦手…風景はまだ、ましだけど。心理描写が^^;)
日記にあるように、すごく好きな文章の方を発見したのに、自分と違いすぎて(笑)日々、勉強ですね~!!
お!リンク切れ、おしえてくださってありがと~
早速直します!

素晴らしい

風景描写に一段と磨きがかかってきた感がありますね。
この記事を読んでちょっと、いやかなり感動しました。
やはり巧いなぁ。
馬車の上で揺れるタース君の見る景色が手に取るようです。
そこに自然に挿入される協会の教え、
シーガとタース、相容れぬ二人の会話。
いいですねぇ~
夏ですね~(それは関係ない(笑
ささ、
ミキーちゃん……
て、タース今気が付いたの?!!!!!!笑

p.s.インデックスリンク切れしてました。
htmlの前にドット「.」が抜けているものと思います。

ユミさん♪

おお!シーガ改善計画!!
どうでしょうか?
ふふふ~だんだんと?いや、シーガはシーガでやっぱり大人だからなぁ~v-391
よし!この章はシーガの落ちた人気を取り戻すように、がんばりましょ♪

chachaさん♪

ありがと~♪
ふふ!タース君…ま、この性格ですから!!
そうなるわけです♪
旅の始まり…わくわくしていいですよね♪
風景、楽しんでいただけました?すごく嬉しいです(><)
シーガ…変わってくれるといいけど♪
でも、冷たいシーガ様ってのもなかなか捨てがたい…

うふ

ミキーちゃんの「うふ」に女のわたしがうっとり~v-10(笑)
なんて可愛いんでしょ♪タースくん、次回どんな反応を示すのか
興味しんしんです!!

そうそう!chachaさんの言うとおり!
タースくんと一緒に行動することで、シーガ様が何か大切なものに
気付いてくれるといいのですが…!気付かなきゃ、
「シーガ改善計画」実行ですよ^^

おわわわ!!><

とうとう!とうとうタースが愛するミキーちゃんの正体に気づいた~~~!!!><
あぁぁ・・・タース、どう思うんだろ@@;本当、続きが激しく気になります!!!

旅の序盤、といった感じですね~^^
心地よい風景、温かさ、自然の音に身を委ねて、馬車に揺られながら進んでいく・・・
旅は始まったばかり、といった風で、映る景色に目を細めながら読ませていただきました☆ほんわかです♪

シーガくん・・・驚いてましたね(笑)
ある意味、三人の中で一番変わりそうな予感です^^タース!改善してあげるのだ!(笑)
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