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「想うものの欠片」第三話 ⑧



「い、てて」
「雑種は、雑種らしく、していなくてはね」
シーガの動きは素早かった。次の瞬間には左腕をひねり上げられていた。

痛む肩にタースは目をつぶった。シーガの細い腕の何処にそんな力があるのかと思うくらい、身動き取れない。つかまれた手首は痺れていた。

「放せよ!」
そのまま引きずられるように壁際に連れて行かれ、突き飛ばされた。
「さ、お前の部屋はそっちです。われらは二階。屋根があるだけましだと思いなさい」
見下ろした翡翠の瞳に、タースは左肘を押さえ床に膝をついたまま睨み返した。
「わん、とでも吼えますか?」

唇をかみ締めて、タースはうつむいた。
ミキーを人形とあざ笑ったり、自分を雑種の犬扱いしたり。腹立たしいことばかりだ。
はあ!とやけくそ気味なため息を吐き出して、タースは立ち上がった。

「わかったよ」
スーツケースの一つを受け取って、示された小さな扉に向かった。
扉の前で振り返ると、階段を昇る二人の姿が見えた。何となく見送ってから、受付に立つ中年の女将と目が合った。女将は慌てたように視線をそらした。

扉を開くと、そこは小さな部屋だった。
入って直ぐ左手に、薄い生地のカーテンが引かれている。
あけてみるとタイル張りの浴室だった。たっぷりと水を張った桶に、小さなランプの明かりが揺れる。ポンプ式の蛇口、その横にタオルがかかっていた。

体を洗うことくらいはできそうな設備。その奥にトイレ。
狭い部屋には小さなベッドが一つ。それで部屋の半分が埋まっていて、残った場所にスーツケースをおけばそれでいっぱいに見える。
タースはブーツを脱いでベッドにのぼり、その向こうにある小さな木の窓を押し開いた。

目の前は隣の店だろう、細い人一人やっと通れる路地を挟んだすぐ向こうに、クリーム色の壁があった。
「いい眺めだよな…」

それでも、ライト公領で自分が住んでいた部屋に比べてましだとタースはベッドに仰向けに横たわる。天井にはくもの巣が白い埃と一緒になって揺れている。

横向きになって、腕を枕に上質な大きなスーツケースを眺める。自分のために用意されたそれ。
今着ている服。
一人分増える旅費がどれほど負担になるか。感謝はしている。

けれど、ミキーのこととなれば、別だ。好きで何が悪い。例え、それが人形であろうと、ユルギアだろうと。
ただ一人、タースを人間扱いしてくれる。

傍に居たい。

さらりとしたシーツに頬を滑らせ、耳のすれるくすぐったい心地よさに目を閉じた。壁を背にして、体を守るように小さく丸くなる。くせのようなものだった。
そうして、一人で夜を過ごしてきた。

僕には何もない。家族も、友人も、仕事も。それでもやりたいことはあった。

いつか、建築家になる。そして、それを果たした時に、そばに彼女がいてくれたら。笑ってくれていたら。他に何もいらない気がする。

もう、ここまで来れば、一人で抜け出すことだって出来る。今だってこの窓の外は直ぐに路地だ。けれど、ミキーが必要だ。

「案外、あいつも好きなのかも…そうだよ、あんな性格の奴、他に相手してくれる女の子なんていない」
しかも、シデイラ。同じ境遇、ともいえる。

タースは先ほどの珍しく感情的なシーガを思い出した。予想外に強かった。
まだ少し痛む左肘をさすった。

コンコン。

誰かが扉を叩いた。
「あ、はい?」
起き上がって、ベッドからスーツケースの脇に降りたつと、同時に扉が開いた。

「タース、あのね」
ミキーだった。


先ほどまで着ていたフード付きの薄いコートを脱いで、少女はほっそりとした体を際立たせるようなシンプルなワンピースを着ていた。足元はひざ下までの黒いブーツ。真っ白なワンピースに黒のレースが縁取る短めのカーディガン。それは些細な風にも舞い上がりそうなくらい薄く軽そうだ。
そして、黒い帽子。
亜麻色の髪が、桃色の頬がシンプルな色合いに映える。

「ミキー、どうしたの?」
出迎えると、タースは少女を抱きしめた。
もう、ごまかすつもりもない。

「ん、あのね」
腕の中の少女はくすぐったそうに頬をタースの胸に擦り付ける。
二つに束ねた巻き髪から真っ白なものが見える。

「!?あ、これ?」
タースに耳をつつかれて、ミキーはやん、と可愛らしい声を出した。
一気に心臓がやかましくなって、タースはぎゅっと抱きしめた。


お人形、なんだろう。
だから、柔らかくて優しくて、決して嫌がらない。

見上げる瞳が何度も瞬いて、ミキーは恥ずかしそうに笑う。
「くすぐったいですの。あのね、タース、シーガ様がお夕食をご一緒にって、お外に行きましょ?」
「あの、ミキー?君は、ユルギアなんだろ?」
「はい?」
少女は首をかしげた。

ああ、そうだ。ユルギアは自覚がない。思念の内容を聞かなくては。
「ええと、ミキーは何のためにいるの?何をしたい?」

ミキーの頬が赤く染まった。
「ミキーは皆さんに大好きでいてほしいですの。ミキーも皆さんのことが大好きですの」
皆さん、大好き、その意図が測りづらい。


「ええと、皆さんっていうのは?僕も入ってる?」
「はい!」それは嬉しいことだけれど。
「大好き、って?」
「ミキーは寂しいの嫌いですの。だから……」
白い大きな耳がぴくと動いた。
「シーガ様がおいでですの」
「え?」

タースが顔を上げたときには、扉が開いていた。

銀髪の青年は、じろりと睨むと、つかつかと歩み寄る。




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要さん♪

ありがとうございます~♪
ふふ、シーガ様…ミキーちゃんのことをどう考えているのか。性格上、口にすることはないとおもいますが(^^)
いやぁ女性をめぐって争う男性、いいですよねぇ♪
ミキーちゃん本人に自覚がないのがなんですが♪ま、そこはいずれ。(というかユルギアだからナカナカそういう風に出来るかどうか…)

シーガさんはミキーさんを、どうやら恋人のように大切に思っているようですね。この章では、ミキーさんに近付こうとするタースさんを容赦なしに攻め立てるタースさんの様子が、丁寧に描写されており、なかなか良い感じだと思いました。
一方のミキーさんは、まだ強い恋愛感情を抱いてはいないようですね。
果たしてこの後、物語がどのように進んでいくのか
次回の展開に期待します

ユミさん♪

はい~この、恋の結末は…おっと、まだヒミツ…
シーガ様、ご飯はきちんとくれます。その辺は律儀なご主人様ですね♪(単にらんららが食事風景書くの好きなだけかも…クラフくんもかなり食べさせました、いろいろと♪)

ほぇ~

シーガ様、ご飯連れてってくれるんだ?!
そんなところに感心されてしまうあたり、かわいそう(笑)
ミキーちゃん、可愛いなぁ。みんなに同じ愛情を注いでいる
ところが、タース君には辛いだろうケド。とりあえず、好きな
相手には入っているんですね^^
タースくん、どこまで好きでいられるのかな~。

かいりさん♪

うはは♪ごめんね!
小競り合いはするものの、タース君もホンキで殴りあうほどでもまだない…というところでしょうか♪いや、勝てないのか(笑)
すごくあっさりと。あ、へたれ?もしかして?
そう、シーガ様強いですよ。多分。
ミキーちゃん、ええ、らんららも抱っこしたくてしょうがないです!やわらかいだろうなぁ~♪なんて妄想していたらタース君に行動させてました(笑)
ミキーちゃんの思念。まだ謎にしておきますが。いずれ♪
とりあえずタース君の目の前にはやっぱり、シーガ様という障害(?)が立ちはだかっていますので♪
ふふ。お楽しみに♪

ありゃ~…

あっさりと負けてしまったタース君><;
そして何気に強いシーガ様♪♪(←こいつ…
いやぁ、それにしてもタース君かなり大胆ですね!
ミキーちゃん抱き心地良いんだろうな~vV
彼女の思念は可愛いですね!でもちょっと切ない感じがしました。
ミキーちゃんは何があってユルギアになったんだろう…。
そしてまたしてもなんだかハラハラな予感です><;
続きも楽しみにしていますね!
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