08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「想うものの欠片」第三話 ⑫

12


宿に戻ると、ロビーの明かりも消され、かろうじて受付のカウンターの上でランプが一つ揺らめいているだけだった。

ぎしぎしときしむ扉を閉めてシーガが入ると、ちょうど、宿の女将さんが片づけを終えたところだろう、カウンターの奥にあるキッチンから手を拭きながら顔を出したところだった。


「あれ、お客さん、遅かったねぇ。外は、もう真っ暗でしょう?」
丸い顔の少し太った女将は笑った。
「あの、水を一杯いただけませんか」
タースだった。

「喉が渇いたですの?」
「あ、うん、少しね」
「はいはい、ちょっと、待ってくださいよ。先に、これだけ」
女将さんはそういいながら、シーガの背後に回って、扉の鍵を閉めた。錠前が三つ。

「やけに、厳重ですね、女将さん」

青年の言葉に少し慌てた様子で、女将さんは愛想笑いを浮かべた。
「いえいえ、この辺は特に物騒なこともないですがね、念のためなんですよ。ほら、都会のお客さんの中には、このくらいしないと安心できないって方もいらっしゃいますし」


「ユルギアが出るのですか?」


チャリン、と。女将さんは三つ目の錠前の鍵を取り落とした。
慌てて拾う。
シーガはカウンター脇のベンチに座ると髪をかき上げた。隣に座ったミキーが足をゆらゆらと面白そうに揺らした。


「ま、まさか。ユルギアなんて、いるわけないですよ、びっくりさせないでくださいな」
「見ましたよ。三つ向こうのお店ですね。白い布が看板に結ばれていた、あれは何かの印ですか」


シーガの言葉に女将はびくりと肩を上げた。
「え、でも」
あれは何にも害がなかった。
言いかけたタースに、シーガは黙っていなさいとにらみつけた。
それから胸のポケットから、白いリボンをつけた小さな銀貨を取り出す。それを女将さんに見えるように掲げてみせた。


「私は、ご覧のとおりシデイラです。何かお困りでしたら、協力しますよ。これでも大聖堂の聖女ファドナ様にお仕えする身です」
「あ、あなたが……」
それが、何か身分を表すものなのだろう、女将さんは驚いて、まるで礼拝堂で神に祈るように頭をたれた。肩と額で聖三角をかたどる。


「お困りですか」
「は、はい」
シーガは言った。
「お話をお伺いしましょう。お役に立てるかもしれませんから」
女将さんは宿のロビーに三人を座らせると、温かい飲み物を持ってきてくれた。


悪戯にそれに口を近づけようとするミキーに、シーガがじろりと視線を送る。
女将さんはちらちらと、落ち着きなく視線を床に落として、話し出した。


「あの料理店には、ツクスって男が住んでいるんですよ。ツクスはね、あたしと同じ年でね、二月前に子供を亡くしたんですよ。ちょうど、ボウヤ、あんたくらいの男の子をね。ツクスは奥さんも亡くしていたからねぇ、一人きりになっちまって、塞ぎこんでしまって。最初はね、まだ、よかったんです。店は休みになったものの、人が来れば顔を出して、挨拶くらいはしてね。みんな励ましたんだけどね。日に日にやつれていったんです。あたしが最後にツクスを見たのは、そうねぇ、一月前くらいですかね」


「生きてるの?」
タースが首をかしげた。
「ああ、街の皆が交代で食事を届けているんですよ。届けたものは空になって戻っているからね」


「誰も、無理やり中に入ろうとしなかったの?」
「そこなんですよ、出てこなくなって三日目にね、みんな心配して集まりましてね。ツクスの店まで入ってね、その先の寝室に入ろうとすると、コレがまた扉が硬くてね。
木の普通の扉なんですよ、なのに、カタともしない。鍛冶屋の旦那と息子が二人がかりで蹴破ろうとしたんだけど、ダメでした。猟師の鉄の斧でも刃がこぼれる始末。それで、ユルギアが取り憑いたんじゃないかって話になったんです。ま、見てみりゃ分かると思いますよ」


「ふうん。そういうユルギアもいるんだ」
「本当に、退治できるんですかい?あんたたち」
タースの言葉に、女将さんは眉をひそめた。


「ああ、彼はただの御者ですから。ユルギアに詳しいわけではありません」
シーガがじろりとタースを睨んだ。商売の邪魔をするな、ということなのか。
「え、うん、そう。僕はよく分からないから」
タースはミキーの分と二つ、温かい紅茶の入ったカップを抱える。ミキーが飲めないので交互に飲んでいた。飲んでいない方にミキーがそっと、たっぷり甘い蜜を落とす。透明なミツがとろりと紅茶に溶け込むのが楽しいのか、何度も落とす。


「ふうん。そちらは詳しいんでしょう?シデイラの旦那さん。どうでしょうね?あれはユルギアじゃないかって皆はいうんですよ。
ツクスは奥さんが亡くなってからいいことがなくてね。奥さんは病気だったんだけど、なんだかねぇ。息子のノルドが励まして、がんばっていたんですけどね。ほら、ユルギアがつくと、嫌なことばかり起こるっていうじゃないですか。あの家の息子が亡くなったのもそのせいじゃないかってね」


女将さんは、宿の玄関に付けられた三つの錠前をこわごわ見つめた。


その時、遠く、悲鳴のような声が聞こえた。
甲高く、けれど細い声ではない。窓の木枠をすり抜ける突風のように近づいて遠ざかる。何故かタースは紅茶のカップを持つ自分の腕を握り締めていた。


目をつぶって祈りを小さくつぶやいている女将さん。
ミキーがタース袖にしがみついているのが分かる。
「!?何、今の!」
タースが女将さんと同じ、戸口を見つめた。


「ツクスなんですよ。ああして、時々ね、叫んでいて。だから、生きているってのは分かる、けど、誰も入れないもんだから」
腕を組んだままのシーガは無表情だ。


落ち着こうと、タースは紅茶を口に運んで、ぶ、っと噴出す。


「タース!」
「けほ、だって、すごい、甘い」
シーガがごつんと頭を叩くのでさらに紅茶をこぼした。
その様子にこわばった表情が解け、女将さんは笑いながら布巾をキッチンに取りに行った。


「あの、本当に退治してもらえるんですか?」
女将さんは、タースの手を拭いてやると、そのままテーブルもきれいにした。
「ええ、私たちはそれを生業としています」
シーガはけろりと言ってのけた。
「あ、ありがとうございます!」
「代金は結構ですが、このお札を買っていただくということでどうでしょう」
「!」
タースはさらに蜜を入れようとするミキーと、カップと蜜ツボとで戦いながら、二人のやり取りを聞いていた。
あの、赤い文字が書かれた細長い紙。


「銀貨五百枚ですが」
女将さんの表情が曇った。そうだろう、紙切れ一枚にそれは高い。
銀貨五枚でこの宿代二人分が出る。この宿で二百人の客を取るには何年かかるか知れたものではない。


「もちろん、成功したら、のお話で結構」
「……それで、ツクスは元に戻るんですかね」
「ええ。あの叫び声も、皆さん困っているのでしょう?」
無表情な青年の言葉は、異様な説得力がある。


「ちょっと、考えさせてくださいな」
女将さんは何度も瞬きをして、緊張を隠せない様子で席を立った。


「ええ、どうぞ。ただし、われ等は予定通り、明後日の朝には発ちますから」
女将さんはおやすみなさい、といって奥の自室に入っていった。



次へ
ブログランキング・にほんブログ村へ

以下、あとがきみたいなもの~♪
関連記事
スポンサーサイト

松果さん♪

うふ、やっぱりみんな「様」ガ取れちゃうんですよ~(笑)
ツクスさん。はい。こういうユルギアもいるんです。
怖いですよ~v-391お楽しみに♪

ひゃ~

銀貨500て、シーガさん(もはや「様」ではない)そんなアコギな。

ツクスさん、どうなってるんでしょうね。なにやら胸の痛むお話。
ここのユルギアはどんなのかしらん。ゾクゾク…

ユミさん♪

おお、順番が(><)ごめんなさい!
ユミさんの相方さんもですか!!
大変ですよね!
ときどき、同居人は倒れそうになって帰ってきます。帰るなりアイスノンを頭に当ててぐったりと寝込んだり。
心配ですけど、どうしようもないですよね…(><)
なので、彼の好きなように、室温は調整されます。食事は冷たいお蕎麦、冷奴、お刺身がメインです。同居人はカレーは食べてくれません。熱いからだそうです。
まだまだ、熱いですけど!お互い体に気をつけて、乗り越えましょうね~♪

史間さん♪

うふふ~ツクスさん。
どんなユルギアが取り憑いているのか…
気になるところですが、はい。次回にはタース君が…。
むぐぐ。
コメ返しも続きへ!

わわわ!

ツクスさん、どうしちゃったんでしょう!?
悲しい事があって、とっても心配です。
もしユルギアなら、シーガ様にこてんぱにされてしまうかも。
それも心配…。
続きがアップされているので、見に行きます!

飲み食いですか、いいですねぇ。
楽しんできて下さいませ♪

本当に

いろんなユルギアがいるんですね。
ツクスさんがもう生きていないのかと思ったけど、夜中の
叫び声…怖いですね。奥さんもお子さんも亡くしたなんて
寂しすぎです。
町の皆で協力して、銀貨500枚。うぅ、高いですねぇ。
シーガ、どういうつもりなんでしょ?

らんららさんの同居人さん、外仕事なんですね…。
ご飯ちゃんと食べれてますか?
わたしの相方も外仕事なんです。夏はご飯食べれなくて…。
麺類かカレーです(笑)
体調気をつけて下さいね☆

コメントアリガトウです!!

楓さん♪
ふふ~いいところ、読みますね♪街のみんな、しかないでしょうね。
銀貨?ふふ~見たい?
では、近いうちに♪(イラスト描くのは禁止されていないので!)
ああ~、分かりますよぉ!書き上げた後の放心状態(笑)
らんららもなりますもん。ただ、大抵は書き上げてからブログ公開までに二、三ヶ月余裕があるのでその間に、次のをやる気になるわけです。それで、切れ間なく連載という感じに見えるんですね~♪
新作!楽しみにしていますよ~!!


chachaさん♪
そうそう、ちょっと高価。でも、がんばればナントカなるという、微妙な値段設定。シーガ様、企みますから(笑)
ツクスさんがどうなっているのか…ふふ。
シーガ君の出番、かどうかも。ふふふ~。
その前に、ちょっと。過去にさかのぼったりさせてもらいます!
はい。
ミキーちゃん、ここにきてだんだんと悪戯キャラになりつつあります。この後もあんなのやこんな♪のや。いろいろと用意しています♪


花さん♪
おお!クールさ加減がいいです!ブラックジャック!好きですね~♪
どんなユルギアなのか。そこはちょいとヒミツ♪
お、バトン、長かったのに、ありがとうです!
はい。ラストシーンはもう、涙とかいろいろとごちゃ混ぜになりつつ書き上げます!
よろしければバトン、もらってやってください♪
熱く優雅に…すごせるかどうか…というか。「暑いの却下。人ごみ嫌い」という同居人のためにこうなるわけです。はい。

銀貨五百枚…ブラックジャック?(笑
というか、タース君は悪いユルギアじゃないって言ってたのに、どうして?ツクスさんは何をしてるの?
うーん、なんだかよく分からなくて、でもタース君とミキーちゃんのやりとりが暖かくて、お腹がすいてきました。うふ(?
バトンも見せていただきましたよ!1番好きな作業の、「ラストを書くとき」っていうのに同感です♪やっぱりみんな、それが書きたくて小説を書くんですもんねw
世間は暑い中ですが、同居人さんとはもっとお熱く、優雅なひとときをお過ごし下さいマセ☆

むむぅ

シーガくん、そりゃないぜ…(笑)
銀貨五百枚って。やっぱり街の住民たちで出し合ってなんとかするのかな(>_<)
ツクスさん、なんだか本当に生きてるのかどうか不安になってきたんですが…さすがにユルギアがご飯食べるはずないしなぁ(^_^;)

さて、シーガくんの出番!頑張ってちょーだいっ♪

ミキーのイタズラ可愛いですねん(^.^)
タースがぶっ、て(笑)相当甘かったんだろうなぁ(笑)

銀貨五百枚か……
街のみんなで出し合えば何とかなる?
紙切れ一枚にではあるけれど、何より気になるツクスさんのためだしね。
シーガ、よもや足元見て値段つり上げたりは……
ないと言い切れないヤツだけにね(汗
うはは。
シーガが見せた銀貨がどんな物なのか、絵で見たい。
イラスト描いて下さい!!!←強制?笑
それにしても、
長編書き上げて未だ放心モードが抜けきれない僕ですが、らんららさんの創作意欲というか、情熱というか、根っからの物書き魂のようなものに最近つくづく感心します。
新作のプロットで立ち往生の今日この頃(笑
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。