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「想うものの欠片」第三話 ⑭

14

「……」
シーガに、肩を抱かれていた。


何か言おうとしたけれど、言葉にならない。


「馬鹿ですね、気分が悪いならそう言いなさい。ほら、薬です」
昼間、飲ませてくれたビンをタースに渡す。少年の手は震えていて、上手く持てない。


「仕方ないですね」
小さくため息をついた。


タースは、止まらない涙をぬぐうことも忘れて、何度も苦しそうに瞳を閉じる。
シーガは懐から、白い紙の包みに入った薬を取り出し、そっと開くと二つに折った。
その三角を片手で持ち、そっと少年のあごを持ち上げて、上を向かせた。
口を開かせ、さらっと白い粉を滑り込ませる。


「ぐ」


一瞬、喉を詰まらせかかった少年に、今度はあの小瓶の飲み物を含ませた。
覚えのある味に、タースはざらつく粉と一緒に喉を鳴らして、飲み干した。


けふ、と息をついて、再び壁に寄りかかった。


「自覚はないのかもしれませんがずっと熱があるのですよ、ミキーに触れるなと何度も言っているでしょう?」
「……」
壁に額を擦り付けたまま、タースは小さくクビを横に振る。


違う、タースには分かっていた。
ミキーのせいではない。


「……それとも、タース。何か別の思念を、抱えているのですか」
再びタースは体を振るわせた。


ユルサナイ。


再び聞こえる声に、少年は目を閉じた。
幼い頃の記憶。恐ろしく悲しい。しばらく見なかった夢を、見てしまいそうな予感があった。





シモエ教区。世界の北果てにあるその土地は、一年中氷が解けることがない。
冷たい土地。


朝焼けの澄んだ空気に、白く吐く息は瞬時に凍え、喉を焼く。
雪と氷の入り混じった大地に、まばらに暗い緑の影が散る。背の低い針葉樹の一種だ。冷たい風を避けるように、それは地上から三十センチほどの高さに伸びると、風に押されて東に倒れる。
そこに積もった雪がいつしか凍りつき、小さな黒い小山になる。
さらに雪が乗る。


風が吹き、風の形に凍りついたそれは、小山から斜めに生えている角のように、あるいは牙のように、白い平原に突き出している。そこにも、あそこにも。


タースの思い出すシモエ教区は、そんな場所だった。


物心ついたとき、平原に張られた鉄条網の一番端に、小さな小屋を置き、そこに母親と父親とで住んでいた。小屋の周りには誰も住んでいなかった。


母さんは、優しい目をした、美しいシデイラの女性。そして、父さんは司祭見習いとしてこの地に赴任したライトールの南部の青年だった。
母さんと父さんはいつも楽しそうだった。
貧しかったけれど、幸せだった。


父さんは、猟の名手で、外に狩に出かけては小さな野鼠や野ウサギ、オコジョを獲ってきた。


ぱぁんと、猟銃の音が響くと、僕は心が躍った。


母さんは、幼いタースをつれて、雪の中に不似合いな大きなレンガ造りの建物に、仕事に行った。働いた代わりに、水と野菜を分けてもらう。そこはシデイラの保護施設だ。ここに、たくさんのシデイラの民と、彼らの見張り役である、ライトール公国の司祭たちがいた。


建物の中はとても温かくて、タースはいつもそこに行くのが大好きだった。仕事のない日も、タースはお仕事に行こうと母にせがんだ。


ある日、いつものように、家の周りに顔を出すオコジョの姿を追いかけて遊ぶうちに、タースはイイコトを思いついた。母親は、今日は朝から寝ていた。


「タース、いい子だから一人で遊んでいてくれる?母さん、ちょっと休みたいの」
そういった母親は、白い細い手でタースの頬をなでた。


「うん、分かった!病気は寝ていなきゃ治らないぞ!」と、父親の口真似をする。母親は少年の黒い前髪をなでた。


タースは目的があった。いつもは、遠いところに一人で行ってはいけないと、母さんが怒るからダメだけど。今日は母さんは一人で遊んでいいって言った!だから、僕はあのキツネに会いに行くんだ!


少年は、一人でふかふかした毛皮の帽子を被り、ブーツの下にもう一枚、靴下をはいて、それからお母さんの赤いマフラーを借りた。いつも仕事に行くときに母さんがつけるものだ。ときどき、それをタースの首に巻いてくれた。
今日は、お母さんは使わないから、僕が使う。


「キツネ、キツネ~♪」
小さい声で鼻歌を歌いながら、四歳の少年は凍てつく白い土地に踏み出した。


いい天気だ。風もない。


そういう日はすべてがきらきら輝いて、タースは大好きだった。


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ユミさん♪

ありがとう!!
タース君のわくわくが…うう~ん(><)
ごめんなさい!!といっておこう!!
それよりらんららは、途中になってる桃ちゃんの様子を見に行きます!!今日は二時間時間もらったから!v-218

ユルサナイという言葉とキツネが何か関係しているのかしら?
タースくんのこのワクワクした気持ちがずっと続けばいいのにな~♪
幸せな家族。暖かい雰囲気いっぱいですね☆
シーガ様も薬を飲ませてくれて、優しい!!

史間さん♪

ふふふ~♪
ルリアイ。タース君は気付かないけど、いくつか取り上げられているかもです。(笑)そっとポケットに詰め込んでいるシーガ様!
想像して、ぞくぞくしちゃった♪
さて、やっとタース君の過去を話すことが出来ます。
幼い頃の。今後の鍵になるので気を使いながら…どきどき…。

かいりさん♪

ありがとうございます!!
タース君、なかなか「ごめんね、こんな作者で…」というような過去の持ち主。
これからニ、三話はタース君の思い出話です。
(実は、こういう挿話が苦手で…どきどきですが)
シーガ様、本当に弱っている人間には優しい人です。素直じゃないですが♪だんだんとシーガ様も主人公の一人らしく人気をアップしないといけませんから♪
期待してくださいね~♪

うわ!

タース君の記憶が!?
ユルサナイという声と、この回想シーン。ギャップがありすぎて続きが気になる。ドキドキします><
幸せそうな家族に、一体何が……

シーガ様。ルリアイをとりに来たんじゃなくて、よかった(ほ

過去!!

いよいよタース君の過去が明らかになるのですね!!
かなり辛そうなタース君、読んでいて涙が出そうになりました。
一体、幼いタース君に何があったのでしょうか。
かなり気になります><;
そしてそんなタース君にすっごく優しいシーガ様にメロメロです~*><*(コイツ…

続き楽しみにしています!!
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