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「想うものの欠片」第三話 ⑯

16

「どうして!そんな、キケンなことを!」
母親の声だった。
泣いている、怒鳴っている。

「子供から目を離したのが悪い。第一お前たちは追放された身、文句があるなら二度とここに来るでない!」
しわがれた、嫌な感じの声だ。

あ、どこかで。
母さんの仕事場で一番偉い人だ。

目を開くと母親の向こうに、銀色の髪を頭の上で一つにまとめた小柄な老婆が見えた。
タースは、起き上がった。
起き上がってから、自分が仕事場の木の長いすに寝ていたこと、そして、ひどく頭が痛いことに気付いた。
「い、痛い」
「!タース!」
母さんが抱きしめてくれた。
「よかった、気がついたのね。よかった」
「ふん、だいたい、その子供がいるからお前たちは追放されたんだ、いっそノクさまに食われればよかったんだ」
「!なんてこと!」


ノクさま?


「穢れた混血児など!ルニ、お前もハレクも殺されずにいるだけありがたいと思え!さあ、さあ、出てお行き!お前たちがこの保護施設にいる資格はない!さあ!!」


タースを抱きしめる母親の背が、どんどんと揺れた。そいつが、母親を叩いている、そう気付いてタースは怒鳴った。


「止めろ!ばか!母さんに何するんだ!許さない!!」
許さない…
そう言ったとたん、どくりとタースの心臓が鳴った。


コゥーン。
キツネが、鳴いた。
「お、おおお!ノクさま!!」
老婆はそう叫んで、頭を押さえてうずくまった。
その震えるしわだらけのいやらしい手が、ちょうど少年の目の前に見えた。
「タース、だめよ、今、あなた!」
母親がタースの顔を見ようと、肩を起こした。


僕は、木の長いすに座ったまま、上半身を起こして母さんを見ていた。
キレイだった。


優しい翡翠色の瞳。銀色の髪。
世界で一番キレイなんだ。
母さんは僕の頬を冷たい手で包んだ。
気持ちいい。


「タース…あなた、強いのね」
「うん、僕、強いんだ!母さんを苛めるやつは許さない!」
許さない…許さない…。
ふわりと、何かがタースの背中を包んだ。
金色。
キツネの大きな目。


「だ、だめよ、ユルギアに同調してはダメ!!さ、行きましょう!」
タースは母さんの大好きな背中に背負われて、その首にしっかりしがみ付いた。
嬉しくなって、足をぶらぶらさせる。


「僕、強い?」
「ええ、ええ、そうね。とっても強い思念を持っているわね。でも、怖くなかったの?」
歩きながら、母親は何度もタースのほうを振り返った。
母親の柔らかい髪にほっぺたを擦り付けながら、タースは甘える。


「怖くないよ、キツネさんにね、小さいキツネさんがいたんだ。きっと僕と同じ、キツネさんの子供だよ」
「そう、見たの?」
「うん。その仔、可愛かったよ」


「そうなの。きっとね、タース、あのキツネさんはその仔を護ろうとしたのよ。護ろうとする怒りと憎しみでいっぱいになっているの。あのキツネさんはねノクさまと言ってね、少し特別なの。赤い怖い石と青い石とでたくさんのユルギアを宿しているの。お父さんが言った優しいキツネさんじゃないのよ」


「ふうん?怖くないよ?」
「怪我させられたのに?母さん心配したのよ」
「ごめんなさいを言わなきゃいけない?」


母親はふと笑った。かすかなそれをどう取ったのか、タースは小さな手で母親にしがみ付く。
今日はお母さんはお休みの日だった。病気で寝ていたのに、迎えに来てくれた。


「お母さん、ごめんなさい」
「優しい子ね。タース。仔ギツネのユルギアに好かれたのかもしれないわね。無垢な動物の思念とお前の思念が似ていたのかもしれない。それで殺されずに済んだのかもしれないわ」


「ゆるぎあって、ときどき、天井にちょろってなってるヤツ?」
少年は人差し指で母親のほっぺたをにゅっと押しながら笑った。


「ええ、そう。他にもいろいろいるんだけど。お前にはすべては見えないわね。ノクさまには、わたしたちシデイラの民を守ってくれるユルギアが入っているの。とても大きな力を持ったユルギアなのよ。怖いキツネさんだから近寄っちゃダメよ」


「許さないって言っていたよ」
「…聞こえたの?」
「うん。今もね、そう言うとどきどきする」
ぎゅっと、母親の手に力が入った。


「ね、タース。お前はその言葉を使ってはダメよ。お前は、誰にでも優しい、素敵な男の子になってほしいの」
「ふうん。そしたら、僕、母さんに優しくする!」
「ええ、そうね」
「母さん、肩こってる?」
そういって、目の前のお母さんの肩をとんとんと、小さな拳で叩いた。


「ふふ、いい気持ち♪」
「ほんと?」
「ええ」
「じゃあ、じゃあ、今日、お母さんとお風呂入っていい?」
母親はくすくす笑った。


「あら、お父さんとは?」
「お父さんは僕の頭をガシガシ洗うからいや」
「あ、そうね、タース。今日はお風呂だめよ。ほら、頭に包帯を巻いているでしょ。怪我が治ったら一緒に入ってあげる」


「うん!約束だよ!ねえ、かあさん僕のケガっていつ治るの?」
「たくさんたくさん眠ったら治るの。せっかく綺麗なのに、痕が残らないといいわね」
母親はそう言って優しく背中の少年を揺らした。


それは、心地よくて。温かくて。
タースはいつの間にか眠りに落ちていた。



+



『―許さない』


『―許さない』


僕はぎゅと、目を硬くつぶった。
背中の向こうに何かがいるみたいで、怖くて震えた。
あの日から、眠るとその声が聞こえた。


『―ユルサナイ』


それは、僕のこと?僕を許さないの?
なんども、夢の中で問いかける。
けれど、金色のキツネは答えない。ただ、許さないとつぶやき続けている。


ノクさま、僕が悪いことをしたの?
お願いだから、仲直りして。
ノクさま?


息苦しくて、目が覚める。
また同じ夢だ。


すーと、隣で母親の寝息が聞こえた。
気持ちよさそうだ。タースはそっと起き上がった。
反対側に、父親が腕をドンと伸ばして眠っていた。
時折ごごっと、変な声を出す。


タースと同じ黒い髪、凛々しい太い眉毛。抱き上げられるといつも、その眉毛をタースの頬に擦り付ける。タースはぐっすり眠る二人を見て安心すると、そっとベッドから降りた。
床に薪を積んで毛布を重ねただけのベッドだ。弾みでからんと薪が音を立てたけれど、母親も父親も起きなかった。



外に出た。
暗い空。
小さく星がきらきらした。ひゅと冷たい風が吹いた。


『―許さない…』
また、聞こえた。


風に乗って届くのかもしれない。タースはそう思った。白い雪原が今は蒼く見えた。
どこまでも、すべてが蒼い世界。


「きれいー」
いつの間にか背後に、人が立っていた。
タースは後ろから抱き上げられた。
大きな男はそのまま歩き出した。


「だ、だれ?!放せ、母さん!」
タースの声に、母親が家から飛び出した。そして父親も。


「待って!タースに何するの!」
母親が叫ぶ。


父親は追いすがって、その大男につかみかかった。


ぶん、と男の腕が鳴った。
逆さまに見えるタースの視界の中、父親は雪の中に倒れ、母親が悲鳴を上げた。
タースは男の腕の中で暴れたけれど役に立たなかった。


母親の泣き顔。呼ぶ声。
タースも泣いた。


こんな、ひどいことするやつら!!許さない!!


『―ユルサナイ』


耳鳴りがした。


静まり返った大地。
揺られて進む、雪の景色が、斜めになる。


暴れ疲れてタースはぐったりしていた。




タースは見覚えのある建物の地下室にいた。
そこにはノクさまがいる。
この間の老婆がタースを見るなり、にと笑った。


「タース、ノクさまはお前をお気に入りのようだ。おいで。さあ。混血の穢れた血をノク様のために!」
タースは男の腕に捕まえられて、床に下ろされた。部屋の隅にキツネはいた。じっと大きな瞳で少年を見ていた。
その、奥。小さなキツネがむくと動く。


「ささ、ノクさま。この子は思念の力が強い。ユルギアを見る力は大してないけれど、とても強い思念を持っている。この子の恐怖や悲しみ、怒りの思念をくわえれば、ノクさまはもっと強くなる。もっとも強いユルギア。わが、シデイラを守ってくださる、金色の獣」


どん、と不意に背中を押されて、タースはキツネの目の前に転がった。
大きなキツネだ。
太い前足はタースの足と同じ位しっかりしている。
裂けた様な口。赤い口。そこから、不似合いに牙が出ている。


先日は気付かなかったそれに、タースは首を傾げる。キツネの様子は明らかに変わっていた。瞳は赤く燃えているようで、牙からは涎がたれている。


うつぶせのまま見上げるタースの肩を前足で押さえつける。重い。


『―許さない!!ユルサナイ!!』


怒りと憎しみの混じった重苦しい声に、タースは目をつぶった。
ノクさまが怒っている。
仲直りできないの?
床に横たわったまま小さく膝を丸めて、うずくまった。


クー。


小さな鳴き声が聞こえた。
小さなキツネがタースの頬をぺろりと舐めたようだ。


「…」
いつの間にか、頭の上に乗っていたノクさまの前足がなくなっていた。


タースが起き上がると、子供のキツネが少年の膝の上に乗ってきた。
「ふふ、可愛い」
触ろうとしたら、それはするりと通り抜けた。


「あ!」
ユルギアの小さいキツネ。その仔はタースの膝の上を浮いているように登ってくる。触れられないけれど、そこにいる。


お前、死んじゃったの?



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かいりさん♪

はい、ノクさま…怖いです。
とりあえず、タース君、子ぎつねのユルギアで助かっていますが…。
むむ。ヒミツです(^-^)b
メールが嬉しくて♪コメ返しより先に注文に走ったらんららです!!本、楽しみに待ってます~!!

タースくん!

すごい可愛い。で、無邪気^^
お母さんも優しくて、タースくんのこと守ってくれて、良い家族の
元に生まれたんですね。それが…今後どんどん変わっていっちゃう
んですかね?いったい、何が待っているのでしょう。
ノク様の存在が気になります。仔キツネさんとは仲良くなれた
のかな?どうか、そうでありますように…☆

ほ~><;

ちびタースくん、ノクさまにやられちゃうかと思いました><;
やっぱりあのユルギアの仔キツネはタースくんに懐いているようですね^^
そのおかげでやられないで済んだ…?
ノク様の存在、すごく気になります。
なんだかとても大きな存在なような…。なんだか不安になります><;
続きも楽しみにしていますね!

すいません!日付を間違えて前回のコメントおかしなこと書いてしまいました><;
気にしないでくださいませ~!!
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