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「想うものの欠片」第三話 ⑱

18


悲鳴が、聞こえた。
母さんの声みたい。
でも、僕の目の前は真っ暗な床で。目を閉じているのかもしれなかった。

動けなかった。
とっても、重たい。苦しい。


コゥーン!
キツネさんが、ノクさまが鳴いていた。
それは遠ざかっていった。



どれだけ時間がたったのだろう。
遠く、悲鳴と怒号が聞こえていた。

小さなキツネのユルギアが、そばにいるような気がしていた。触れることが出来ないのにタースを慰めようとしているように感じた。
「お、重い、痛い」
声が出た。

いくつも足音がした。


「ここもだ!おい、ライトール人だ!同胞がやられたぞ!」
「こ、こいつ、ハレクだ」
「生きてるか?」

重いものがどかされた。
「おい、子供が!ハレクはだめだがこの子は息があるぞ!」


タースは抱き上げられた。
父親と同じ、黒い髪の髭の生えた男の人だった。
「ぼうや、大丈夫か?あの化け物にやられたのか?」
「父さん?父さんは?母さんは?」
見回した。


「おい、その子供は例の子だ。まずいぞ、医療施設に連れて行けば混血だとばれる。ここの管理を任されている我々の面子に関る。ハレクもとっくに病死で片付けられているんだ。そいつは外に放り出せよ!その辺で勝手に死んでくれるだろう」


「おい、随分な…」
「何言ってる、見ただろう?あの化け物がどれだけ殺したか。首輪がしてあった。きっとこいつらが飼っていたんだ。こいつらは大人しいフリをして、心の中では我らライトール人を恨んでいるんだ。我々だけじゃない、全世界を憎んでいる。保護など最初から無理なんだ。二百年も殺戮を繰り返して、今更理解しあうなど無理な話だ!」


「そうだな。許せよ、ぼうや」
髭の人は目を合わせずに言った。

僕は、再び床に下ろされた。
足元がぬるりとして、転んだ。
「母さん…」


目の前に、母さんのきれいな髪が、黒くどろどろしたものに乗っていた。
「母さん?」
白い顔は、凍ったようになっていた。見開いた目。そこに流れる、血。


「母さん、あのね、母さん?」


「ぼうや、もう死んでいるよ」


「死んで……?」



少年は悲鳴をあげた。







僕のせいなんだ。


ノクさまを放した。
ノクさまはみんなを殺した。


たくさんの人が死んだと髭の人が言った。
僕がみんなを殺した。


父さんと母さんを殺した。



遺体を片付けると、男たちはタースを建物から追い出した。
硬く閉ざされた煉瓦の建物に、二度と入ることは出来なかった。



許さない…ユルサナイ。


小さく聞こえてくるノクさまの声。
まるで父さんと母さんが、僕に向かって言っているように聞こえた。


目をつぶるとそれが聞こえた。
ノクさまの声を聞きながら、僕は一人で小屋にいた。
ずっと泣いていた。


パン!


僕は顔を上げた。


父さんの猟銃の音だ。
「父さん、お父さん」


夢中で小屋の外に飛び出した。


真っ白な雪の中、金色の大きな獣が飛び跳ねるように近づいてきた。右に左に。何かから逃れるように。
キツネは背後から三人の人間に追われているようだった。彼らは猟銃を手にしている。
「子供が!」
「かまわん、撃て」


タースは近づいてくるキツネから目が離せなかった。
「ノクさま、どうして!」
精一杯、鼻声のままタースは怒鳴った。


飛び掛るほど近づいたキツネは、タースの目の前で飛び上がる。
パン!
空中でキツネが跳ねた。


見上げていたタースの顔に、温かいものがかかる。
パン!
次の音と同時に熱いものが腕を掠める。


タースの背後に降り立ったキツネ。


振り向いてそちらを向こうとした。
ずぷり。
雪に足が埋もれる。
動けなくなったタースの背を、キツネがくわえた。
声も出ないくらい、鋭い痛みが走る。


「逃げるぞ!」
「殺せ!」
タースをくわえたまま、キツネは走り出していた。


目の前に流れていく雪の白に、深い赤が混じる。
タースなのか、キツネ自身の血なのか。
ぐん、とキツネさんは高く跳んだ。
シモエ教区を囲う鉄条網を、飛び越えたのだ。


着地と同時にタースは投げ出された。
雪に半分埋もれて。
動けない。
背中が痛い。


「コゥー」


タースが雪の中から顔を上げると、キツネの顔が見えた。


「あそこだ!」
大人の声。
「よし、化け物は動けないぞ」


鉄条網の向こう。
大人たちは網越しに猟銃を構えた。


タースの鼻に頭をもたげたキツネの黒い鼻がぴと、と当てられた。
キツネの目が細くなった。


キツネの後ろ足は赤い雪に囲まれていて。
もう、立ち上がれない。


パン!


大きな金色の耳、尖った口。
何かに引かれるように僕の視界から消えた。ぽた、と涙みたいに僕の額に温かいしずくが散った。
パン、パン。
何度も、何度も男たちはキツネに向かって撃ちつづける。


タースはただ、呆然と座り込んでいた。
一人の弾がなくなり、男たちはやっと銃を下ろした。


「おい、子供はどうする。生きているぞ」
「どうせ、助からん、放っておけ」
男たちは鉄条網の向こうに戻って行った。


タースは、這うようにしてキツネさんのそばに行った。
「キツネさん?」


ひっそりと、キツネさんが横たわっていた。
口からはみ出していたあの牙はなくなっていた。濡れたような金色の大きな目が空を見ていた。凍った髭がきらりと日差しに輝いて揺れた。

あたりは赤く染まった雪で覆われていた。
怖かった。
怖かったけれど、目が離せなかった。
「キツネさん…死んじゃったの?」
僕は、膝をついた。
そばに、あの小さな仔キツネのユルギア。
可愛く僕に向かって首をかしげた。


「お前も、一人ぼっち?」
小さいキツネは体の雪を振り払うように全身をぶるぶるさせると、タースのほうを見た。
それから、横たわったノクさまの体の上に乗った。
そのままふわりと、消えてしまった。


目の前のノクさまは、空を見たまま冷たくなってる。
今は、仔ギツネと一緒のところにいるのかな。
僕だけが一人ぼっちだ。


涙をぬぐって立ち上がり小屋に戻ろうとした。

「あ、あれ…」
住み慣れた小屋は、鉄条網の向こう側になっていた。
冷たく凍りつく鉄にしがみ付いて、揺らしてみたけどびくともしなかった。
「帰れない、よ」


「ねえ!帰れないよ!」


叫んでも、誰も答えなかった。


許さない、ユルサナイ。
また、声が聞こえた。


僕は帰る小屋を、両親の思い出の家を失った。
僕のせいだ。


ユルサナイ。
僕は自分自身にそう、つぶやいていた。



僕はあの時、自分を許さないと心に誓った。
その想いは今も、僕の中に生きている。


――-ね、タース。お前はその言葉を使ってはダメよ。お前は、誰にでも優しい、素敵な男の子になってほしいの。


―――ふうん。そしたら僕、母さんに優しくする!


―――ええ、そうね。


優しく、するから……。



ジジ、と。ランプの芯が燃え尽きる音がした。


ああ、消える。
ふとそんなことを思って、タースは目を覚ました。


足元は冷たいレンガの床。暗い。
多分、洗面所の床に座り込んでいるんだ。
体を預けた壁が動いた。


「!」


静かに上下するそれに気付いて、タースはそっと体を起こした。シーガだった。
青年は静かに眠っている。


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松果さん♪

ユルサナイの呪縛。引っ張りますよ~(鬼?)
この回想シーン、ずっとどこに入れるか迷っていて。結局、ここに入れてみました。
早い段階なのだけど、タース君人気をアップさせるため(笑)
そう、心の中のお母さんの存在。大きいです。
シーガにしろ、スレイドさんにしろ、ひねくれたオトナが多いので。せめて、タース君は真っ直ぐ生きて欲しい~という願いです♪

泣いちゃいましたよ

あまりに過酷なタース君の過去話。
それでもこの10年の間、ひねくれもせず生きてこれたのは、心の中にお母さんの存在があったから?
タース君が「ユルサナイ」の呪縛から解放される日はいつなんでしょうか。

シーガさんの寝顔?んな、意味深な…

こめんと、ありがとうございます!!

皆様、タース君に温かいお言葉♪ありがとうございます!!コメント返し遅れてしまってごめんなさい(><)
いろいろと、色々とやりたいことがありまして…。


史間さん♪

ありがとうございます~♪
タース君の過去、こんな感じでした。ずっと隠しておくつもりが、この辺でいいや、出しちゃえ!!って感じです。

そ、添い寝!?v-407ぶ、ぶははは!そういえばそうですね(笑)
いやん、恥ずかしいこと描いちゃった(^。^=)←自覚ナシか?
そのうちミキーちゃんとも!?自覚ナシの勢いで!?
それも、楽しそう~♪

chachaさん♪
タース君、こんな過去でした。

苦労人です。タース…幸せに…、ウ、胸が痛いなぁ…(^^)chachaさん優しい~♪嬉しいです!
書きながららんららも、かなり泣きました(T_T)
タースはがんばりますよ!とっても、がんばります。これから!見ていてやってください(><)

シーガさまに?うを?どきっとですか!?させちゃいました?
添い寝…そうか、添い寝。(←やはり自覚ナシ?)


かいりさん♪
そうですね!素直にまっすぐ、よく成長したものです♪
よし、我が主人公、かいりさんのハートをわしっと(笑)いただきですね♪民族の深い確執。これから、どんどん、この世界全体がタース君たちに絡んでくる予定です。ウウ、描ききれるか!
がんばります~!!

シーガさまの添い寝、物議をかもしてますね~実は予想外でした(笑)
喜んでもらえて(?)嬉しいです!


ユミさん♪
うぉ!嬉しい!
お母さんの言葉。あれはずっと、タース君の中にあります。
だから、この性格を維持しています。もちろん、ちょっと苦しくなることも予想され…。
いずれ、この過去の傷はタース君の運命を左右することに…。
いえいえ、思わせぶりはこの辺にしておきます(><)まだまだ、そこまでたどり着くには描かなきゃいけないことがたくさんありますので!むんっ♪がんばります!
ぎゅっと?タース君をハグっ!
きっとめちゃくちゃ照れまくりますよ!!身長とか気にする子じゃありません♪成長期ですし。すぐにシーガ様と同じくらいに…逆にタース君が感激のあまりぎゅっと、ぎゅうぅっと!しちゃいますよ!


楓さん♪
そうなんです~!!彼の過去。シモエ教区に絶対に、行きたくない理由。分かっていただけました?
まっとうに、はい。自分に厳しく、人に優しい♪
この強迫観念に近い思いを抱えているからこそ。
そう。物語を左右しますから。
あ、でも。かなり先なので…。あと、数名、重要人物が出てないですし♪
まだまだ。
今回は本当に長い物語になりそうです♪よろしくお付き合いください~!!
ユルギア…怖いですが。でも一番怖いのは、それを生み出す人の心なんです♪




あまりにショッキングな展開に言葉が出てこない……
まじっすか……
お母さんのシーンがリアルで怖かった。
しかも自分のせいだとは……
あり得ないです。
精神崩壊の危機ですよ、これは。
よく頑張ったなぁタース。よくここまでまっとうに生きてこれた……
でも、このときの経験が、どこか彼の心をねじ曲げているような、そんな深層心理がこれから露呈されるときが来るのではないかと今からドキドキです。
ユルサナイ……
すごいリアルに怖かったぁ!!!

そんな過去が

タースくん、とっても辛いことを経験してしまったのですね。
タースくんの優しい気持ちが…時として、人は冷たくならなければ
ならないのかしら…お母さんの言うように、誰にでも優しくしたら、
また何かが起こってしまうのかしら。
ここまで生きてきただけでも、タースくんに拍手を送りたいです。
思いっきり抱きしめてあげたいー!!
(ミキーちゃんみたく小さくないけど、いいですか?!^^;)

つらいです…

タース君の過去。こんなにつらいものだったなんて…。
このあとずっと一人で生きてきたんですよね?
えらいよ!私なら絶対ひねくれて間違いなく不良になってるよ!
なのにタース君は今でもこんなに素直で可愛くて、だから尚更可愛そうです~~
(ノД`)・゜・。

「今更理解しあうなど無理な話だ」この言葉は重いですね。
そしてとっても寂しい言葉です…。

そそそ添い寝!?(笑)
シーガ様どーしちゃったんですかーーー!!?

ノクさまーーーー><

そして、タースーーーーー!!!;;
なんて、なんて辛い過去を背負って生きてきたんだおまぃは!!><
ずっと捕らえていたノクさまを、タースは助けてあげて。
でも、それによって沢山の人の命を奪ってしまった。
だから。
タース、自分をユルサナイと心に誓った。
辛く、悲しい<誓い>。
どうか、それが正しいものじゃないってことに、早く気が付いて欲しいです。
そんなこと、誰も、望んではいないってことに・・・。

ノクさま、自分を助けてくれたから?タースを助けてくれましたね。
その助かった命、尊いものだと思います。
だからどうか、タース。幸せになって欲しい。

シーガくん?添い寝??(笑)
ちょっとドキッとしちゃいました^^ふふ♪

お父さん、お母さん…

ノク様の末路、なんだか物寂しくて、胸が痛くなりました。
たくさんの人を殺した、殺してしまったのだけれど。
望んで恨みを背負ったわけではないし、
元々はお父さんもタースくんも大好きなキツネさんだったわけだし…
タースくんを助けたノク様。
それは、欠片ほどに残された、ノク様の優しさだったのか、
それとも混血のタースくんに反応しただけなのか。
前者であって欲しいな、と願います。

本当に独りぼっちになってしまったタースくんが、
ここに至るまでの苦労は、想像できません><

それでシーガ様!
…………添い寝?(←コラ
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