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「想うものの欠片」第三話 ⑲

19


頭のどこかがぼんやりして、まだ少し胃が痛んだが、深呼吸すると体中に酸素がいきわたる気がした。
じわりと、安堵感が背に下りた。肩の力が抜けた。


いつの間にか流れていた涙をぬぐった。
タースは浴室の壁を背に座り込んだまま、眠ってしまったようだった。
すぐ隣に同じように寝込んでいるシーガの肩にもたれかかっていた。


部屋と浴室を仕切っているカーテンは開かれたままで、その向こうに揺れるランプの最後の明かりが、すぐそばで寝息を立てているシーガの銀の髪を照らしていた。
そして、その隣に、ミキー。
彼女もシーガの脇に寄り添うように眠っていた。


二人で、そばにいてくれたんだ。
素直にありがとうと心がつぶやく。


久しぶりに見たあのときの夢だった。


あの事件が当時どのように扱われたのかは、半年前にライト公領の図書館で新聞記事を読んで知った。三流のゴシップ記事の扱いで、シデイラの化け物と、ノクさまを面白おかしく書いていた。それを読んだ人たちはまるでおとぎ話の怖いお話のように感じただろう。


保護施設で暮らしながら、シデイラたちは世界に復讐するために、化け物を作ろうとした。それは、失敗だった。
キツネの本能的な思念を強めるために仔ギツネを殺したのだろう。憎しみの思念はそのまま同胞の恨みと同調しノクさまが生まれた。けれど、その憎しみはシデイラたちにも牙をむいた。


そういえば、あの時母さんが言っていた、青い石、あれはルリアイのことだったんだ。
そして、赤い怖い石、緋石と言っていた。
忘れてはいけないと想いながら、思い出すのが怖くて気付かなかった。


緋石。それはシーガに関係するのかな。
新聞記事にはどちらもなかった。
涙愛と緋石、シデイラたちの秘密になっているのだろうか。



シーガはぐっすり眠っているようだ。
タースをベッドに運べなかったのだろう。青年の力ない腕は予想以上に細く見えた。そして、その腕に乗せられた小さなミキーの手。そっと触れると、柔らかくて。
「…ですの」
なにか寝言を言った。









翌朝。
タースは一人、部屋を出た。
何かしてあげたい、その想いが少年を動かしていた。
まだ少しけだるいけれど、それ以上にシーガの意外な優しさとミキーの可愛い寝顔に感謝していた。


宿の女将さんは、タースの申し出にニコニコと笑って応えた。
「大丈夫かい?三人分も。結構重いんだよ?」
朝食の乗ったトレーを受け取りながら、タースはにっこり笑った。


「大丈夫だよ、僕、こう見えても元機械工なんだ。毎日機関車の修理や整備をしていたんだ。力には自信あるんだ」
「あれ、丁度よかった、ボウヤ、今ね、オーブンのふたが壊れて困ってるんだ、何とかなるかい」


女将さんが、太った体を動かして自分の背後に見えるキッチンを指差した。
薪を使うオーブンだが、扉の蝶番が壊れているのか、傾いたまま中から香ばしい煙が出ている。


「多分、大丈夫。後で見るよ」
「そうかいそうかい、助かるよ」


部屋に戻ると、二人はタースが眠るはずだったベッドで、まだ眠っていた。


陽が登って、軒下で巣を作っている鳥たちもとっくに餌を求めて畑に飛び立っていった。
宿屋の前の通りは馬や牛車のにぎやかな音が響く。


耳がいいはずなのに、よく平気で眠れるな、そんなことを思うほど、人々の生活の音が聞こえてくる。ここしばらく旧聖堂で静かな生活をしていたせいか、うきうきしてくる。


もう少し、そっと寝かしておいてやろう。


目覚めれば、きっと、シーガはいつもの毒舌を吐くだろうし、せっかく温かい気持ちでいるのに壊される気がした。目覚めたときに、傍に誰かがいる、その嬉しさにもう少し浸っていたかった。


テーブルがないので、食事の乗ったトレーをスーツケースの上に置いた。二人をベッドに運ぶと、自分の分のサンドウィッチを片手に、タースはそっと部屋を出た。
扉が閉まったのと、ミキーの鼻がくんくんと動いたのと同時だった。







「本当に助かるよ」
「ううん、これが外れていただけなんだ。蝶番のボルトを締めなおしておいたから。今度、本体のほうも修理したほうがいいよ。煉瓦と漆喰が傷んできているんだよ。これは僕じゃ直せないし大事だからね。当分はこれで大丈夫だよ。ついでに、中もきれいにしておくよ。すすが詰まって煙がうまく外に出ないんじゃないかな。ちょっと、あのハムは苦かった」
「あれ、そうかい?」
「うん、でも美味しかった。燻製みたいで」


少年はまっすぐオーブンの扉を見つめている。直したばかりのその場所をボロ布で丁寧に拭う。ふたの金具に詰まったすすの塊を小さなのみで丁寧に剥がして、綺麗にする。その丁寧な手さばきは少年の性格を良くあらわしていた。


女将さんは血色のいい丸いほっぺたでニコニコしながら少年を見つめている。
タースは朝ごはんにもらったハムを挟んだパンを思い出していた。香ばしいハムと酢漬けのオリーブ、手作りのオイルとパンがとても美味しかった。


「女将さんの料理は、親方の奥さんを思い出すよ」
「なんだい、てっきりお母さんかと思ったよ」
「そんな子供じゃないよ、僕」
「いくつになっても、母親の味ってのはいいもんさ。ボウヤ、いくつだい?」


カン、カンと釜の中に腕を突っ込んで作業をしながら、タースは応えた。
「え?十二?」
女将さんが聞き返す。
覗き込んでいた顔を上げて、少年は笑った。
「違うよ、十五」


「ふうん、まだまだ、家が恋しい頃だろうに。お貴族様相手じゃ、いろいろ大変だろ?昨日もひどくされていたしねぇ」
「え?」
「ほら、昨日」
女将さんが自分の手首をもう片方の手でひねる真似をして見せた。


「あ、ああ。いいんだ、あの人そういう人だから」
この宿に到着したときのことを言っているのだと気づいて、タースは笑った。
手に持った道具を、布キレで綺麗にふき取る。
「終わったのかい」
「うん」
「ろくなもんはないけど、ほら、山桃を採って来たんだ。ここいらじゃ、都会じゃ食べれないものが採れるから」
女将さんが先ほどから座っている膝の上に乗せていた籠を持ち上げて見せた。赤紫によく熟れた丸い実が見える。
タースは鼻にすすをつけたまま笑った。


「すごい、大きいね!ありがとう。もう少し、ここ片付けてからね」
「いいんだよ、いいんだよ、それはあたしがやるさ」


「だめだよ。使った道具は使った人が、感謝して大切にしまうんだ。親方が教えてくれた。人にも道具にも、そういう気持ちで接しなきゃ、いい機械工にはなれないってね」
タースは道具を元の道具入れに戻すと、キチンとふたをした。
顔を上げると、目の前に女将さんが白い布巾を差し出していた。


「いい子だねぇ」
鼻の頭をぎゅっと拭かれて、タースは目をぱちぱちさせた。
照れくさそうに、女将さんを見上げる。
「あたしゃ、あんたが一番好きだ」
「え?」


「お連れの二人もそりゃ、可愛らしいしきれいだしねぇ、めったにお目にかかれないお人たちだと思うさ。けど。あんたに会えて良かった」
「僕も、女将さんの料理、好きだよ」
「料理かい?」
「ははは、冗談だよ」
二人で見合わせて笑った。


女将さんが座るイスの隣に座る。二人で宿屋のカウンターに並んで、山桃の実をかじった。
「今日はあたしの番でね」
女将さんはそう言って、カウンターの上においてある籠を見つめた。中に果物とパン、ハムが入っているようだ。


「山桃、ツクスが好きだったんだ」
「仲良しだったの?」
「そうさ、この小さい街だからね、皆、仲間みたいなもんさ。あたしが連れ合いをなくしたときには随分慰めてくれたもんさ。ツクスにも、ノルドにもねえ。本当に、いい子だったんだ」


女将さんは戻ることのない思い出を寂しげに見つめている。


「さて、先に置いて来ちまおうかね。ツクスがお腹をすかせてもかわいそうだ」


「僕も行くよ」


どうして、そう思ったかは分からない。ただ、友達を心配しながらも、怖がっている表情が、気の毒に思えた。作業している間ずっと話していた女将さんの話は、タースを楽しい気持ちにしてくれた。ほんのお礼のつもりだ。
あれだけ苦しかったのに、今は少しけだるいだけだ。シーガの薬が効いたのだろう。


大丈夫、籠を置いてくるだけだ。


退治だなんて、とんでもない。


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ぬこ&えふぃさん♪

はい、タース君のお話だけだとかなり重い~ですよね♪
人とのふれあい♪タース君はおばさんに人気です♪

タースの少し悲しい話の後に、暖かい人達とのふれ合いがいい感じでした。

史間さん♪
ふふ、シーガさま♪優しいところも一応あります♪
赤い石、青い石♪これからどう使われるのか…。
鋭いとこ、来ますね(^^)
どきどきしちゃう♪
さて。山桃。
上手く表現できるかなぁ…。
むん!がんばります!

うわー、優しいシーガ様~*^^*
普段毒舌吐きさんが、こんな風に優しさ見せると、どきっとしちゃいます♪

これもすべてタースの初仕事へのやる気を出させるため、
ひいてはルリアイを手に入れるためです……
なんて、冗談でも言っちゃだめですよ、シーガ様~!!(どきどき)

ルリアイと緋石。
心と世界までも操って狂わせるもの。
そんな感じがして、すごく怖いなぁと初めて思いました><
その存在を、この世界の多くの人が知らないわけですよね…
シーガ様は、それを探してなにするつもりなんだろ…
ぐるぐる考えそうになったので、強制終了しました~へへ。

そんで、私もあんたが好きだ!
一家に一人、タース君ですよ~(決して便利な道具と思ってませんよ)
家の中が明るくなりそう♪
親方たち、今頃寂しがってるんだろうな……(←お前が落ち込むな

山桃!章タイトルがでましたね~
ツクスさんの好物だったんだー
届けにいくのですね?
よし、私も次話へ飛ぶぞ!

温かいお言葉、感謝してます♪

ユミさん♪
どんなユルギアなのか♪ふふ~成仏!できるかなぁ?にやり…
後ちょっとで第三話も終わり…がんばります~♪

chachaさん♪
うわ♪嬉しい~!!
陽気なおばさん、はい。好きです♪落ち着いていてどこか力強くて。宮崎駿作品のあのキャラクターは主人公を励ましてくれる大切な存在ですよね♪どこか、お母さんのような温かさがあって。
で、おばさんは(らんららもですが…笑)一生懸命な子供が大好きですから♪
物語に出てくるこの手のキャラはらんらら自身だと想ってください(笑)
タース君、一人で行きます!さて。
どうなるか…ご期待ください~♪
おお、コメント二個♪二倍みたいで嬉しいです!takagaっちが言ってたけど…どこか、ブログが変なのかな…。
続くようなら言ってくださいね!
テンプレ、少し重いのかもしれないです。(今、新しいのを検討中なんだけど、なかなか気に入ったのがなくて…)

もぉもぉ

らんららさんの描く人たちはみんな愛が溢れてて><
女将さん、すっごくほんわか☆あったかい人です~^^
楓さんも言ってますが、まさに、宮崎駿が描く「陽気なおばさん」に近いものがあって♪見る(読む)人が誰しも惹かれる存在ですね~^^うぅん!やっぱり尊敬します☆

タースも本当、いい子だぁ;;
シーガくんも、ミキーちゃんも^^ふふ☆添い寝してくれたの??(笑)なんだ、やっぱりいいとこあるじゃん♪とか思って私まで笑顔になっちゃいました^^

前話までが本当に、辛くて、冷たい過去で心が冷えちゃってたので・・・
今回のお話であったまりました^^
で、タースくん、一人で行っちゃうの??大丈夫かな・・・@@;どきどき。

もぉもぉ

らんららさんの描く人たちはみんな愛が溢れてて><
女将さん、すっごくほんわか☆あったかい人です~^^
楓さんも言ってますが、まさに、宮崎駿が描く「陽気なおばさん」に近いものがあって♪見る(読む)人が誰しも惹かれる存在ですね~^^うぅん!やっぱり尊敬します☆

タースも本当、いい子だぁ;;
シーガくんも、ミキーちゃんも^^ふふ☆添い寝してくれたの??(笑)なんだ、やっぱりいいとこあるじゃん♪とか思って私まで笑顔になっちゃいました^^

前話までが本当に、辛くて、冷たい過去で心が冷えちゃってたので・・・
今回のお話であったまりました^^
で、タースくん、一人で行っちゃうの??大丈夫かな・・・@@;どきどき。

おっ

いよいよタースくん、ツクスさんのところに!!
どんなユルギアが待ち受けているのやら。
一人で大丈夫かな?
タースくんの優しさで、成仏?させてあげるのかなー。

女将さんもタースくんに優しくしてもらって、自分の子供の
ように思ったでしょうね^^
優しい人には優しさが返ってくると信じてます。

楓さん♪

うぉ!楓さんに認められるとは!タース、良かったね♪
やはり、機械ヲタ、オトナの男に惚れられる?
さて、第三話もクライマックスです~!!
ツクスさんのユルギア。
どんなものか、どうぞ、お楽しみに♪

おおん

タース……
これ以上ないくらいいいやつだ。
そして、人に愛される人格を持っている。
のに、混血と言うだけで今までどれだけ虐げられ、また今もシーガに……あうぅ
おばさん、僕はあなたを全面的に支持します!
魔女宅のおばさんを思わず思い起こしました。
で……
タース……
行くの?一人で?ほほー
どうなるんでしょ???気になるる!
Secret

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