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「想うものの欠片」第三話 21

21

「ちが、違います!ツクスさん!」
「ああー、帰って、来た」

ひどく汗臭い、そしてゴツゴツと痩せた胸に顔を押し付けられて、思わずタースは突き飛ばす。

「っ、あの、ツクスさん?でしょ?僕は違います!タースって言います!あの、…あの?」

ひっ、ひっ…。

タースは、黙った。
床に座り込んだまま、じっと、相手を見つめた。

「ひっ、ひっ、帰って、来た」
少しはなれたところに尻をついて座り込んだまま、ツクスは変な声を出していた。

泣いているのか、笑っているのか。それは、ちょうど昨夜、タースが通りで感じた気持ち悪さに似ていた。やせ細った体、落ち窪んだ目だけが、ぎょろぎょろと薄暗い室内に光る。

確かにツクスさんは、悲しすぎておかしくなってる。

また、ツクスがむくと起き上がった。
膝をついて、こちらに這ってくる。
「う、うわ」
タースは、逃げ出そうと背後に向かって駆け出した。
直ぐに、扉がある。
手探りで、取っ手を探す。

「おいで、父さんが悪かった、父さんが……」
押しても引いても、扉はびくともしなかった。
「何で!?女将さん!女将さん!開けて、開けて!!」

怒鳴っても、何も聞こえてこない。
扉を数回叩いたところで、再び背後から抱きしめられた。

「わ!嫌だ!こ、この、放せって!放せ!」

ひどく痩せた腕だった。
震えながらも異様な力強さで、つかんで放さない。

ユルギアよりたちが悪いぞ!
タースはぎゅっと目をつぶった。


「お帰り、お帰り、ノルド、お帰り」
タースが抵抗をやめると、ツクスの腕の力もなくなった。そっと、タースの頭を撫でる。まるで小さな子にするように、男は何度も何度も少年の頭を撫でた。
泣きながら、喜んでいる。

タースはため息を一つついた。
どうして扉が開かないのか、どうしてユルギアが作る異空間に閉じ込められたみたいになっているのか。どう見ても、このヒトは普通のヒトだ。石を持っていたレンドルさんやトントとは違った。
最初から、ユルギアの気配はタースには感じられなかった。

「会いたかった、会いたかった。許してくれ、許して、くれ」

嗚咽でたどたどしい謝罪を、うわごとのように繰り返していた。

許して……。
ぞくりと背を這う。

「父さんを許してくれ、許してくれ」
「ツクスさん…」

「ノルド、ノルド、許してくれ」

その言葉を聞く度にタースは泣きたい気持ちになる。
似ていた。

その思いは痛いほど分かる。家族を失った痛みは、昨日のことのように思い出せる。

ツクスさんの想いが、この想いがユルギアになったんだ。家族を想うあまり、謝罪の念がこの人を閉じ込めたんだ。


「…だめだろ、父さん、ちゃんと食べなきゃ。すごく痩せているよ」

タースの言葉に、ツクスさんはまた、ぎゅっと抱きしめた。
それが、いいことなのか分からないけれど、今はこうするしかないとタースは思っていた。

「泣かないで、僕は、父さんのこともうとっくに許してるよ」
「ノルド、ノルド…」
何があったのかは分からない。女将さんの話ではノルドは事故で死んだという。ツクスさんがこんな風になる必要なんかない。こんな風に自分を責める理由なんかない。

タースはじっとしていた。
締め切られた据えた匂いの室内は暗い。

相手の細かい表情まで見えないが、骨ばった手で必死に抱きしめるツクスが静かに泣いているのは肩に落ちる涙の感触で分かった。

「許すとか許さないとか、ないから。父さんには元気でいて欲しいよ」
「おお、ノルド、どうした、何を泣く」
撫でられる手の感触にふと父親の面影が浮かぶ。髪を洗うときの荒っぽい撫で方に似ていた。

「……泣いてないよ。ほら、キッチンに食べ物が届いているから、食べようよ」
「ノルド、ノルド、いいんだ、お前が食べなさい、お前が」
「泣いてちゃいやだよ、父さん。山桃、好きだったよね」

急にツクスが立ち上がった。薄暗くて顔は見えない。座り込んだままのタースを引っ張り起こした。

「だめだ!来なさい!山桃なんて!まだ早いのに、採りに行くなんてだめだ!許さんぞ!許さん!」
腕をつかまれて、さらに奥に連れて行こうとする。

「ちょっと、待って、あの、採りに行かないから、だから、落ち着いて」
「お前が、お前が私のために桃を、山桃を採りに行くなど許さん!山は危険だ、お前は落石で……」
言葉が途切れた。

思い出したのか、ツクスの瞳に光がさしたように見えた。


現実を受け入れられるだろうか。

「ツクスさん。そう、ノルドさんは落石で亡くなった。ツクスさんのせいなんかじゃない」
「ノルド!おお、死んだなど、なにを言ってる!?」
「だから、目の前の僕はノルドさんじゃないんだ!」
「ノルド?じゃあ、お前は偽者か?」
男の足が階段を昇りかけて止まった。

引いていた手を放すと今度はタースを突き飛ばした。
「お前偽者か?ノルド?ノルドはどこだ!」

階段の脇の窓に背を打ち付けて、タースは息が詰まる。


だめだ、混乱してる。

「んぐ…!」
首を締め付ける骨ばった手。異常な力強さに頭の奥が熱く重くしびれてくる。
タースは必死で背後を探った。窓の鎧戸の隙間から、かすかに外の光が漏れている。

男の腹に膝蹴りを入れると、うめいたツクスは数歩後ろによろめいた。


その隙に窓を開けようとした。
自分の荒い息を耳鳴りとともに感じながら、錆付きかかった留め金を外す。
硝子のはまった木枠の窓を手前に開いて、その向こうの鎧戸を押し開いた。

真っ白。

一瞬、外の明るさに視界がなくなる。
冷たい雨と眩しい光に腕をかざして顔を覆う。

「ノルド!」
肩をつかまれた。

振り向くとツクスは日の光に姿を晒していた。やせ細った男。瞳は黄色くぎらぎらとして振り乱した髪が涙で頬に張り付いている。髪も髭も白くなって老人のように見えた。

ひどく惨めな、醜い姿。

「うわ!」
思わず声を上げて、タースは掴みかかる手を振り払おうとする。
「だめだ!行ってはいかん!」
「ちが、行かない、行かないって、放して!」


次の瞬間。
バランスを崩して、二人一緒に、窓の外に落ちた。


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ぬこ&えふぃさん♪

はい、そうなんです~!
そういうものも、ある種のユルギアなわけです。
タース、どうするのか!
ふふ、次回をお楽しみに♪

悲しみのあまり記憶が囚われているんですな・・・
彼を救う道はあるのか?
タースは心を取り戻させる事ができるのか?

次回、またお邪魔します。

ユミさん♪
はい!
タース君、がんばってます!
おお、続きもですね!らんららもコメントを追いかけて…

あぁ、ツクスさん!!
彼の痛みは想像を超えますね。
家族を突然失う悲しみは、本当に言い表しようがないですよね><
それを考えると…タースくんって偉いというか、頑張っているなぁと
感心してしまいます。
次upされているので、読みにいきます~♪

かいりさん♪
ありがとうございます!
ツクスさんが、悲しみから逃れる方法…。
はい。
それは、次回…、タース君、活躍なるか!?

(…今日ね、お礼絵をがんばってます♪うまく行けば明日辺り公開♪)

今のツクスさん、哀し過ぎます…。
タースくんが息子のふりをして、うまく行くかなぁ?と思っていたらやっぱりダメでしたか><;
自分の息子が死んでしまうなんて、親からしたら本当に頭がおかしくなるくらい哀しいことです。
だから、どうか、ツクスさんがこの悲しみからとかれますようにと切に願います。
タースくん、頑張ってー!!!
って窓から落ち…!?ひぃ!!大丈夫!!?ドキドキ><;
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