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9・11平和を書こう 「あさひ」 1

らんららです♪

「野いちご」で知り合った方の呼びかけで、平和をテーマに小説を描くことになりました。
そちらでは、9月11日一斉公開なのですが。

らんらら、ちょうど今週末は小旅行ですし、連載も切れ目なので。
少し早いけれど、こちらでは公開してしまいます♪

平和…難しいテーマで、結局。ちょっと、違う風になったかも?

珍しく、現代小説(純文学?)です。

短編ですので、6話連続でお送りします。よろしければお立ち寄りください♪

本文は続きからどうぞ!





『あさひ』


―――二〇〇七年九月。
あの忌まわしいテロ事件から、六年が経過しようとしていた。



木陰に入ると蝉が一旦泣き止む。八月の残暑にため息をついて見上げる。木漏れ日に遮られる青い空に目を細め、私はまた歩き出した。
古い保育園の建物を改修し、塗装だけは白く眩しいそこは、青く塗られたフェンスに囲まれている。建物の西側にある玄関の重いガラスの扉を押し開く。
商店とは違うのだ。冷房など効いていない。

右手側には園児の為だろう小さな背の低い下駄箱が並ぶ。使われているのは十分の一に過ぎず、後は黒い口をあけている。
革靴を脱ぐと靴箱の上に置かれた籠に無造作に積まれたスリッパを一つ取る。
毒々しい緑色の薄っぺらなそれを足にかけると、背後から足音がした。
「こんにちは」
振り向けば、小柄な三十代前半の女性が笑っていた。
「あ、こんにちは。あの、こちらに城戸旭がお世話になっているかと思いますが」
「旭くん、はい。ああ、センターから連絡はもらっています。どうぞ、こちらへ」

女性は日下部(くさかべ)と名乗り、私から書類を受け取ると、下駄箱の向かいにある事務室に案内してくれた。

「旭くんのお母様は市内の病院に入院されています。今年六十八歳の母方のお祖母さまが同居していましたが生活能力の乏しい方で。旭くんの健全な生育に適さないと判断されたのです。旭くんもこのお祖母さまを嫌っていましてね。児童相談センターで保護しようと申し出た時には本人も、お祖母さまも嬉しそうでしたよ」

ため息混じりに私の渡した書類を眺める。児童相談センターからの児童身元引受確認証だ。

「お父さんが、あのニューヨークであったテロ事件。あの時に亡くなったそうで、お母さんは女手一つで苦労されたようですよ」


そこまで話して、女性は言葉を切った。
一時保護所、現在、城戸 旭(きどあさひ)九歳を一時保護している児童相談センター付属の福祉施設だ。一時保護所はここと、センター隣接のもう一箇所の二つがある。

厚いガラス扉の玄関から入ってすぐ、受付窓口のある小さい事務室の片隅、灰色のデスクに二人で向き合っている。
子供たちは昼食を済ませ、今は課題の時間だという。
所内は静まり返っていた。

しばらく書類を眺めていた女性が、口を開いた。目も同じくらい大きく開かれている。

「ご親戚の方と思っていたのですが……お、お父さんですか?旭くんの?」

女性が眉をひそめて私を見た。
汗のにじんだ額に、私は小さく頷いた。

「どうも、別れた妻が私は死んだと、そう旭に言い聞かせていたようです」

そう、私は死んでなどいなかった。


妻、由香里(ゆかり)と別れたのは六年前。
生活能力のない由香里の母親を一人には出来ず、彼女と当時二歳の旭を置いて、私はニューヨークへ単身赴任となった。一年は我慢したのだが、私の会社の海外赴任は最低でも五年。長男の旭はまだ二歳だったし、二人目もほしかった。家族を形成するには大切な五年間だ。

私は義母を説得して由香里と旭を呼びたかったのだが、義母は頑として聞き入れなかった。
女手一つで由香里を育てたためだろうか、けっして、手放そうとしなかった。
由香里もなぜか母親には逆らえず。
それが離婚の原因になった。

義母は私のことを認めていないのだろう。由香里の時とは違い、孫である旭を手放すのは簡単なことだったらしい。
帰国早々、私の所に児童相談センターから打診があった。
旭を引き取ってもらえないかと。


「私も、まさか死んだことにされているとは思わなかったのですが。先月までニューヨークにいまして。離婚してから一度も帰国しませんでしたし、連絡も取れませんでした。正直、旭が私の顔を覚えているかどうか自信がなくて」

女性は気の毒そうに目を細めると、愛想笑いを浮かべた。

「角田(つのだ)さん、こんなこと申し上げてはなんですが。旭くんはすっかりお父さんは亡くなったと思い込んでいますし、顔も名前も教えてもらっていないと聞いています。あの、できればしばらく、他人の振りをしてもらえませんか」

愛想笑いの意味が違ったようだ。

「それは、どういうことですか」
「これ、旭くんの書いた作文なんです」

女性の取り出した、難解な大きな文字の並んだ一枚きりの原稿用紙を机の上に広げる。
そこには、書き直した形跡もない勢いのままの文章がつづられていた。

『ぼくのお父さんはテロリストのぎせいになりました。だから、ぼくは悪いことをするひとが大きらいです。テレビのアニメとかのヒーローは偽者だけど、テロリストのぎせいになったお父さんは本物のヒーローです。将来、ぼくはニューヨークで、消防士をします。しっかり勉強して、早く大人になりたいです。そうしたら、お母さんも元気になると思います。ぼくはヒーローの子供として、平和の意味を、みんなに伝えなきゃいけないです。』

「あの、お父様なら相談センターでお聞きになられたかと思いますが。旭くんはお祖母ちゃんに虐待されていました。悲しいことに、被虐児童は自分に落ち度があるために虐待されるのだと思い込んでしまう傾向にあります。親や家族を庇うのです。
けれど、旭くんはお父さんを亡くした体験から平和や正義に対する強い憧れがあります。
それを信じることでお祖母ちゃんに受けた虐待も、お母さんに会えない寂しさも耐えてきたのです。依存傾向もありますので、今すぐにその、お父さんが生きていたと知らせるのは……」

その時、廊下を走り抜ける足音が響いた。
静まり返っていた午後の時間、子供の怒鳴り声と泣き声が施設内にこだました。
「待ちなさい!殴っちゃダメでしょう!?」
指導している職員が声を大きくした。
「だって!たくまが悪いんだよ!奈菜香のハンカチを外に投げたんだ!オレが取ってくる!たくまは悪いことしたんだ、殴られて当然だ!」
子供の足音と声が近づいてきた。
「待ちなさい!」
事務室の開け放たれた扉の前に、捕まった子供の裸足だけが廊下の暗がりに揺れた。
そこにもう一人の子供が、泣きながら掴みかかろうとする。
「ひどいよぅ」
「お前が悪いことするからだ!奈菜香は泣いてるぞ!人を泣かせたのに、自分が泣くの嫌なんておかしいだろ!ばか!」
「止めなさい!」
「先生も先生だ!悪いことしたら許しちゃいけないんだ!悪い事だって教えなきゃダメだろ」
すりガラスの向こうで、また、掴み合いが始まりそうになる。
私の目の前にいた日下部さんは既に廊下に飛び出していた。

「止めなさい!こら!喧嘩はダメだって言ったでしょ!旭くん!たくまくんはまだ一年生なんだから」
日下部さんが背後から抱きつくようにして引き止めた子供。
旭?


怒りに顔を赤くして、まだ喧嘩相手を殴ろうとしている。
「悪いことに年齢なんか関係ないよ!たくまのばか!泣くな弱虫!」
「旭くん!」


九歳ともなるとあれほど身長があるものなのか。
小柄な日下部さんの胸くらいはある。細身の長い手足が目いっぱい暴れるのに耐え切れず、日下部さんがよろけた隙に彼は走り出した。
外へ。
「旭くん!」
日下部さんが私を見た。
すぐにそらされた視線に急かされるように、私も立ち上がった。
六年ぶりにみる我が子に、気持ちが追いついていない。
父親なら追いかけていくべきなのか。

「さ、たくまくん、教室に戻ろう。きちんと奈菜香ちゃんに謝るんだよ」
日下部さんは、喧嘩相手の男の子の肩に手を置いて、廊下を歩かせていく。
「角田さんもこちらにどうぞ、旭くんもすぐに教室に戻ると思いますから」
私は日下部さんの後に従った。
旭の走り去った廊下を、何回か振り返った。

廊下の奥、南側に面した一画に教室と呼ばれる部屋があった。
一面のフローリングに遊具やおもちゃ、隅には本棚。教室といっても小学校とは違う。明らかに人数分より少ない机とイスがランダムに置かれている。日差しを受けた明るい室内に思わず目を細めた。

「日下部先生」
隅に引かれたマットのようなものに座り込んでいた女の子が顔を上げる。
泣いていたのか目が赤い。
たくまくんはその子を見るとぷいと目をそらした。女の子に対する精一杯の愛情表現なのだろう。
ふてくされたように青いイスと机のある一画に向かう。
部屋には五歳くらいから十五歳くらいの子供が八人、思い思いのことをしていた。
本を小さい子に読み聞かせる女の子、たくまくんは同じくらいの歳の男の子と柔らかいスポンジのボールで遊び始めた。
皆、私に興味を抱きつつ、それでも視線を合わせないようにしているのが分かった。

「奈菜香、これ」

私たちの背後から教室に入ってきた彼は、ピンク色の縁取りの付いた小さなハンカチを座り込んでいた女の子に渡した。床に膝をついて、笑いかける横顔が由香里に似ている。

「少し汚れちゃったから、洗ってきたんだ。先生に干してもらえばきれいになるよ」
穏やかに笑う彼に、奈菜香ちゃんは笑い返して、頷いた。

「たくま、今度悪いことしたらもっとひどいからな!」
彼ににらまれて、びくりと縮こまるたくまくんの背後、中学生くらいの男の子が低い声で言った。

「旭、お前やりすぎだし。たくまはガキだし」
「オレ、悪い奴は許さないよ。ガキだろうがなんだろうが知らなきゃいけないだろ。していい事と悪い事をさ」
「正義のヒーローだな、お前」中学生が口笛を吹いた。
「オレのお父さんはテロリストに殺されたんだ、悪い奴は許さないよ」

「旭くん」
「……なんだよ、日下部先生。オレ達重要な話をしてるんだ」
彼は初めて私を見た。
上から下まで。しっかり眺めて。それから興味なさそうに自分の席に戻ろうとする。

「旭くんを、引き取ってくださる方よ」
彼は止まった。

「私は角田聡(つのださとし)。君の、…お父さん、」

彼が振り向いた。

「…の遠い親戚なんだ」

黒目がちの大きな目が私をじっと見つめる。少しそばかすの残る白い肌。やはり由香里に似ている。
私は、父親と言う自覚がないのかもしれない。
日下部さんと子供たちの視線。旭の黒い瞳に射すくめられたように、つい、そう話していた。

幸か不幸か、当時三歳だった彼は私のことを覚えてはいなかった。



⇒2へ続く
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要さん♪

ありがとうございます!
社会派!!おお!
らんららには似つかわしくない(笑)褒め言葉のような気がしてドキドキします。
声高に今の社会は…なんて、語るのは苦手なので。
こういう表現になりますね。
皆、理由があって今の社会を生きているので。誰かに何か言われて変えられるものでもないですよね♪

ユミさん♪

ありがとうございます!
すみません…怒涛の更新で…その間少し時間をもらって、茉莉さんに頼まれたイラストやら第四話の準備などしようかなと、企んでます(^^)
ちょうど、今日はステンドの教室で、少しだけ時間があるから♪

人が思う正義って難しいですよね。
大人だからといってそれを押し付けても、きっと子供には理解できない。子供の世界ではアニメでもなんでも、勧善懲悪ですから。
旭くん、これからどうなるのか。
見守ってやってください…非情に自信はないですが、伝わったらいいなぁ!(@@;)
お友達が…。
思わずぞくっとしました。
その時の、ユミさんの気持ちを想像する事しかできませんが。
いなくなってしまう、その喪失感は、誰にも埋めることの出来ないものですよね。
年齢を経ると、親族などで、だんだんと「失う場面」に出会うことが多くなります。最近は、ああ、こうして悲しみと喪失感を蓄えて、人は生き物としての自分の最後を考えるようになるんだろうなと、ひどく老人じみた考えなどしてしまいます…(^^;)

野いちごでの「平和を書こう」企画、素晴らしい作品が発表されると思いますので、また、のぞいてやってください。多分、楓さんも参加してます♪

社会派でリアル、かつドキュメンタリーチックな、なかなか素敵な文章であると思いました。
平和な争いのない世界を作る事の難しさが、この物語でよく表現されていますね。

正義感

うわ~、めっちゃびっくりしましたよ~♪
朝ブログ覗くのが日課になってて、見てみたら怒涛のup!!
あぁ、でももう時間がありませんので、今日は1話のみです~。

旭くん、9歳なのにめっちゃ正義感強い子供ですね。
大人でも言えないようなことを…。格好いいけど、心を思うと涙が出そうです。
お父さんが生きていたって分かったら、その正義感消えちゃうのかな。単に
嬉しいとは思えないのかな…。
とっても難しい問題ですね。
平和って概念が世界の人たちで統一されるといいのですが、難しいですよね。
そんな課題にチャレンジした小説、続きも楽しみです☆
わたしもあのテロで友人を亡くしました。メリーランドからNYに仕事のために
移り住んで、けっこうすぐの出来事でした。
悔しい気持ちってありますが、旭くんには絶対に復讐の気持ちだけは持たな
いで欲しいと願っています。
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